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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
管理番号 1297840
審判番号 不服2010-29571  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-28 
確定日 2015-02-17 
事件の表示 特願2000-606557「乳酸を産業規模で精製する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 9月28日国際公開、WO00/56693、平成14年11月26日国内公表、特表2002-540090〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2000年3月21日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理1999年3月22日(NL)オランダ〕を国際出願日とする出願であって、
平成13年9月25日付けで特許協力条約第34条補正の翻訳文(特許法第184条の8第1項の規定により提出された2001年1月19日付け補正書の翻訳文)の提出がなされ、
平成22年1月20日付けの拒絶理由通知に対して、平成22年4月27日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ、
平成22年8月19日付けの拒絶査定に対して、平成22年12月28日付けで審判請求がなされ、
平成24年9月6日付けの拒絶理由通知に対して、平成25年1月11日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ、
平成25年2月4日付けの拒絶理由通知(最後)に対して、平成25年8月2日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされるとともに、平成25年8月7日付けで手続補足書が提出され、
平成26年2月26日付けの審尋に対して、平成26年6月3日付けで回答書の提出がなされたものである。

第2 平成25年8月2日付けの手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成25年8月2日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1.補正の内容
平成25年8月2日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、次の(1)?(3)の補正を含むものである。

(1)明細書の段落0034についての補正
補正前の明細書の段落0034における「このような技術を用いる時には、溶媒(これは通常は水である)を蒸発させることで前記濃縮物または留出物を直接冷却(冷却結晶化)または濃縮(蒸発結晶化)する。」との記載部分を、
補正後の明細書の段落0034における「このような技術を用いる時には、前記濃縮物または留出物を直接冷却(冷却結晶化)するまたは溶媒(これは通常は水である)を蒸発させることで濃縮(蒸発結晶化)する。」との記載に改める補正(以下「第一の補正」という。)。

(2)明細書の段落0042についての補正
補正前の明細書の段落0042における「水に入っている乳酸溶液(乳酸が67.8重量%)に薄膜蒸留による濃縮を0.1バール下120℃で流量(flow)が10ml/分になるように受けさせることで、乳酸が97.1重量%入っている濃縮物を生じさせた。」との記載部分を、
補正後の明細書の段落0042における「水に入っている乳酸溶液(乳酸が67.8重量%)に薄膜蒸留による濃縮を0.1バール下120℃で流量(flow)が10ml/分になるように受けさせることで、総酸含有量が97.1重量%である濃乳酸溶液を生じさせた。」との記載に改める補正(以下「第二の補正」という。)

(3)請求項1についての補正
補正前の請求項1における「乳酸を産業規模で精製する方法であって、
(a)濃乳酸溶液を基準にして総酸含有量が少なくとも95重量%で単量体乳酸の含有量が少なくとも80重量%で濃乳酸溶液に入っている乳酸鏡像異性体と鏡像異性体の間の比率が1に等しくない濃乳酸溶液を減圧蒸留して乳酸濃厚物を得、そして
(b)この乳酸濃厚物に結晶化を受けさせることで高純度の乳酸を生じさせる、段階を含んで成り、結晶化を、1つ以上の溶融結晶化装置内での乳酸濃厚物の直接冷却によって行なう、ことを特徴とする方法。」との記載を、
補正後の請求項1における「乳酸を産業規模で精製する方法であって、
(a)濃乳酸溶液を基準にして総酸含有量が少なくとも95重量%でありかつ単量体乳酸の含有量が少なくとも80重量%であり、1の乳酸鏡像異性体と他の鏡像異性体の間の比率が1に等しくないところの濃乳酸溶液を減圧蒸留して、乳酸濃厚物を塔頂産物として得、そして
(b)この乳酸濃厚物に結晶化を受けさせることで高純度の乳酸を生じさせる、段階を含んで成り、結晶化を、1つ以上の溶融結晶化装置内での乳酸濃厚物の直接冷却によって行なう、ことを特徴とする方法。」との記載に改める補正。

2.補正の適否
(1)新規事項について
ア.第一の補正について
上記「第一の補正」について、平成26年6月3日付けの回答書においては『(イ)段落0034における補正前の文「このような技術を用いる時には、溶媒(これは通常は水である)を蒸発させることで前記濃縮物または留出物を直接冷却(冷却結晶化)または濃縮(蒸発結晶化)する。」を「このような技術を用いる時には、前記濃縮物または留出物を直接冷却(冷却結晶化)するまたは溶媒(これは通常は水である)を蒸発させることで濃縮(蒸発結晶化)する。」と補正したことにより、溶媒を蒸発させることで前記濃縮物または留出物を直接冷却(冷却結晶化)する、と言う態様が削除されたので、該補正は新規事項を導入するものではないと考えます。溶媒を蒸発させることにより冷却をするのは、明らかな誤記です。』との釈明がなされている。
しかしながら、溶媒を蒸発させることによって気化熱が奪われ、その濃縮物または留出物が冷却されることに技術的な矛盾はなく、明らかな誤記とはいえない。そして、補正前の『溶媒を蒸発させることで直接冷却または濃縮する』という内容を補正後の『直接冷却するまたは溶媒を蒸発させることで濃縮する』という内容に改める補正は、その「溶媒を蒸発させる」という技術事項の意味する内容が、冷却のため以外の意味を含むことになる点で補正前と補正後で異なっている。なお、上記「第一の補正」が仮に補正前の「誤訳」を訂正するものであるとしても、本件補正は「誤訳訂正書を提出してする場合」のものではない。
してみると、当該補正は『当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである』とはいえない。
したがって、上記「第一の補正」は、当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものとはいえないので、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

イ.第二の補正について
上記「第二の補正」について、平成26年6月3日付けの回答書においては『表1において、「酸の総量 97.1」は、塩基による鹸化を受けさせた後の酸含有量ですので(表1の脚注)、請求項の表現での「総酸含有量」と統一すべく、「乳酸が97.1重量%」を「総酸含有量が97.1重量%」と補正しました(審尋の対象ではありません)。従来、単に「乳酸の濃度」と言う時に、鹸化処理後の乳酸の総重量を言うことがあり、「水に入っている乳酸溶液(乳酸が67.8重量%)」における「乳酸が67.8重量%」も表1記載の様に総酸含有量67.8重量%ですので、「総乳酸含有量が67.8重量%」として統一した方が明瞭であったと思います。』との釈明がなされている。
しかしながら、本願明細書の段落0014の記載を参酌するに、総酸含有量(TA)は「乳酸の単量体と二量体の重合体の量を表す」というものであって、単量体乳酸含有量(ML)と同じものではないから、補正前の「乳酸が97.1重量%入っている濃縮物」との記載部分を補正後の「総酸含有量が97.1重量%である濃乳酸溶液」との記載に改める補正は単なる「語句の統一」に相当するものではない。また、仮に『従来、単に「乳酸の濃度」と言う時に、鹸化処理後の乳酸の総重量を言うことがある』としても、補正前の「乳酸が97.1重量%入っている濃縮物」との記載部分における「乳酸の濃度」が「鹸化処理後の乳酸の総重量」を一義的に意味していたと解すべき合理的な理由は見当たらない。
してみると、当該補正は『当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである』とはいえない。
したがって、上記「第二の補正」は、当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものとはいえないので、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(2)目的要件について
ア.補正後の「でありかつ…1の…他の…ところの」にする補正について
上記「請求項1についての補正」のうち、補正前の「総酸含有量が少なくとも95重量%で単量体乳酸の含有量が少なくとも80重量%で濃乳酸溶液に入っている乳酸鏡像異性体と鏡像異性体の間の比率が1に等しくない濃乳酸溶液」との記載部分を補正後の「総酸含有量が少なくとも95重量%でありかつ単量体乳酸の含有量が少なくとも80重量%であり、1の乳酸鏡像異性体と他の鏡像異性体の間の比率が1に等しくないところの濃乳酸溶液」との記載に改める補正(以下「第三の補正」という。)について、平成26年6月3日付けの回答書においては、補正前の記載に誤記があったので、その誤記を訂正した旨の釈明がなされている。
しかしながら、補正前の「総酸含有量が少なくとも95重量%で単量体乳酸の含有量が少なくとも80重量%」との記載における「で」との記載部分に特段の「誤記」があるとは認められず、当該「で」との記載部分を「でありかつ」との記載に改めることによって、上記回答書の釈明における『動詞が欠如しているという誤記』が訂正されているとも認められない。
同様に、補正前の「濃乳酸溶液に入っている乳酸鏡像異性体と鏡像異性体の間の比率が1に等しくない濃乳酸溶液」との記載部分を補正後の「1の乳酸鏡像異性体と他の鏡像異性体の間の比率が1に等しくないところの濃乳酸溶液」との記載に改める補正が、補正前の「誤記」を訂正するものであるとは認められない。
また、補正前の当該「で」という記載、及び「濃乳酸溶液に入っている乳酸鏡像異性体と鏡像異性体の間の比率が1に等しくない濃乳酸溶液」という記載について、これらの記載が「明りようでない記載」に当たるとした拒絶の理由は示されておらず、これらの記載が「明りようでない記載」に当たるとすべき特段の事情も認められない。
してみると、上記「第三の補正」は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第1号に掲げる「第三十6条第5項に規定する請求項の削除」、同2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」、同3号に掲げる「誤記の訂正」ないし同4号に掲げる「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とするものに該当せず、本件補正は、改正前特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていない。

イ.新たに「塔頂産物として」という事項を追加する補正について
上記「請求項1についての補正」のうち、補正前の「減圧蒸留して乳酸濃厚物を得」との記載部分を補正後の「減圧蒸留して、乳酸濃厚物を塔頂産物として得」との記載に改める補正(以下「第四の補正」という。)について、平成26年6月3日付けの回答書においては『意見書で述べた様に、刊行物1?3における蒸留は、乳酸が蒸留釜に残る方式である(意見書第8頁第29?30行、第12ページ第11?19行、および第14頁第7?18行)。にもかかわらず、拒絶理由通知書が上記の様に述べたのは、補正前の請求項の記載「濃乳酸溶液を減圧蒸留して乳酸濃厚物を得」では、乳酸が釜に残るのか留出物であるのかが不明瞭であり、従ってこの点で刊行物1?3と区別できなない、との指摘であると理解される。従って、指摘の明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る)として、「塔頂産物として」を加入する補正をいたしました。あるいは、該補正は、特許請求の範囲の減縮であって、「減圧蒸留」を限定するものであり、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更しません。』との釈明がなされている。
しかしながら、補正前の「減圧蒸留して乳酸濃厚物を得」との記載が「明りよう」でないといえる事情は見当たらないので、補正後の発明特定事項として「塔頂産物として」という事項を外的に付加する補正が、平成18年改正前特許法第17条の2第4号に掲げる「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とするものに該当しないことは明らかである。また、当該「発明特定事項を外的に付加する補正」が、同2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当しないことも明らかである。
してみると、上記「第四の補正」は、平成18年改正前特許法第4号各号に掲げる事項を目的とするものに該当せず、本件補正は、改正前特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていない。

(3)独立特許要件について
ア.はじめに
上記「請求項1についての補正」が、仮に上記回答書の『該補正は、特許請求の範囲の減縮であって、「減圧蒸留」を限定するもの』との釈明のとおり、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるとした場合に、補正後の請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)及び/又は補正後の請求項1を引用する請求項4に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受け得ることができるものであるか否か(同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)について検討する。

イ.新たに追加した「塔頂産物として」という事項について
補正後の請求項4に記載された発明は「濃乳酸溶液の減圧蒸留を、短路蒸留装置を用いて行なう請求項1、2または3記載の方法。」に関するものである。
また、補正後の明細書の段落0042の「実施例1…次に、この濃縮物に短路蒸留装置(UIC、KDL-4)を用いた蒸留を1ミリバールの圧力下130℃の温度で流量が15ml/分になるように受けさせた。」との記載にあるように、発明の詳細な説明の具体例においては「短路蒸留装置」を用いて減圧蒸留がなされている。
しかしながら、例えば、特表2003-514885号公報(参考例F)の段落0009の「落下フィルム蒸発装置、拭き取りフィルム蒸発装置及び/もしくは薄膜蒸発装置を使用して達成することができる。…実質的に水を含んで成り、…好ましくは0.1重量%以下の有機酸を含む第1の上方画分、及び、…好ましくは99?99.9重量%の総有機酸(TOA)を含む第1の下方画分(生成物)を得る。」との記載、同段落0025の「短路蒸発装置の略図は図4に示す。…蒸発される液体は流入口[46]を経て蒸発装置に供給される。最も揮発性の高い成分は真空ライン[47]を経て排出され、生成物は流出ライン[48]を経て排出される。」との記載、並びに【図4】の


」との記載にあるように、一般的な「短路蒸留装置」並びに「落下フィルム蒸発装置、拭き取りフィルム蒸発装置及び/もしくは薄膜蒸発装置」においては、有機酸は塔底産物(下方画分)として得られ、塔頂産物(上方画分)として得られないのが普通である。このため、補正後の明細書の段落0042の「短路蒸留装置(UIC、KDL-4)を用いた蒸留」において、乳酸濃厚物が「塔頂産物」として得られているとは認められない。
してみると、補正後の請求項1の「減圧蒸留して、乳酸濃厚物を塔頂産物として得」という発明特定事項の技術的な内容が不明確であるから、補正後の請求項1及びその従属項である請求項4の記載は、その特許を受けようとする発明が明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
また、補正後の発明の詳細な説明の記載は、補正発明及び補正後の請求項1を引用する請求項4に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
なお、この点に関して、平成26年6月3日付けの回答書においては『補正では段落0018での言葉「塔頂産物」を用いて表現しましたが、ご指摘の様に、請求項4の短路蒸留装置においては「塔頂」と言う表現は厳密には正確性に欠けるとも言えます(当業者には、言わんとしている意味は分かると思いますが)。』と釈明しているが、補正発明の請求項に「減圧蒸留して、乳酸濃厚物を塔頂産物として得」という記載がある以上、補正発明の進歩性要件の当否を判断できる程度に発明が明確であるとはいえない。
したがって、補正発明及び/又は補正後の請求項1を引用する請求項4に記載された発明は、補正後の特許出願が特許法第36条第4項第1号若しくは第6項に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

ウ.請求項1の「単量体乳酸の含有量」という事項について
(ア)拒絶理由通知書において指摘した記載不備の内容
平成24年9月6日付けの拒絶理由通知書(以下「最初の拒絶理由通知書」という。)においては『1.…(1)…本願請求項1の「単量体乳酸の含有量」は「ML=TA-2x(TA-FA) 但しTA-FA<10%であることを条件とする。」として定義されているものと解されるが、当該「単量体乳酸含有量(ML)」を算出するためには「遊離酸含有量(FA)」の値を測定しなければならないのに、本願明細書の発明の詳細な説明には、当該「遊離酸含有量(FA)」を測定する方法の具体的な手順や条件の詳細が開示されていない。そして、本願請求項1の「濃乳酸溶液」又は「乳酸濃厚物」という組成物の中には、本願明細書の段落0014の「総酸含有量は乳酸の単量体と二量体と重合体の量を表す」との記載からみて、単量体(乳酸)と二量体(ラクチド)と重合体(ポリ乳酸)が含まれているものと解されるところ、同段落0014の「単量体でない乳酸はラクトイル乳酸(二量体)の形態で存在すると仮定する」との記載における「仮定」は、科学的な根拠ないし整合性を欠くものであり、当該「遊離酸含有量(FA)」の測定値には単量体(乳酸)以外の重合体(ポリ乳酸)などの存在も影響するため、本願請求項1の「単量体乳酸の含有量」を理論的に導き出す方法の具体的な内容が明確ではない。…したがって、本願請求項1及びその従属項の記載は、その…「単量体乳酸の含有量」という発明特定事項の意味するところが明確ではなく、…特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。また、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願請求項1の…「単量体乳酸の含有量」という発明特定事項の技術的な内容を明確かつ十分に説明しているものではないことから、当業者といえども本願請求項1及びその従属項に記載された発明を実施し得るとはいえず、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。』との記載不備を指摘した。
また、平成25年2月4日付けの拒絶理由通知書(以下「最後の拒絶理由通知書」という。)においては『2.…(1)…先の意見書においては『乳酸の線状高重合体の量は、二量体に比べて、統計学的にみて遙かに低いものである。』等の釈明がなされているが、これらの釈明は科学的な文献などによって裏付けられているものではないから、依然として、本願明細書の段落0014に記載された「単量体でない乳酸はラクトイル乳酸(二量体)の形態で存在すると仮定する。」との「仮定」及び当該「仮定」に基づいて作成された上記MLの定義式に、科学的な合理性があるとは認められない。そして、本願明細書の段落0043の「表1」の「濃縮後の乳酸」の『酸の総量(TA)及び遊離酸(FA)』は『97.1%』及び『95.1%』とされているところ、この場合の単量体乳酸の含量(ML)を上記数式に従って計算してみると、97.1-2×(97.1-95.1)=93.1%になるので、本願明細書の段落0042の「乳酸が97.1重量%入っている濃縮物を生じさせた。」との記載における「97.1重量%」という数値と整合性がない。…したがって、本願請求項1?15の記載は、その「単量体乳酸の含有量」という発明特定事項が、発明の詳細な説明の記載と矛盾し、その内容が著しく不明確なので、特許法第36条第6項第1号及び第2号に適合するものではなく、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願請求項1?3の「単量体乳酸の含有量」という発明特定事項の技術的な内容を明確かつ十分に説明しているものではないので、当業者といえども本願請求項1?15に係る発明を実施し得るとはいえず、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。』との記載不備を指摘した。

(イ)判断
上記記載不備に関して、平成25年8月2日付けの意見書の第2頁第28?41行では『乳酸-水系の平衡反応の速度は遅く、平衡に達するには相当の時間がかかる。…本願発明の実施例1の濃乳酸溶液において酸含有量が97.1%と多く、遊離酸(乳酸や2量体などの末端カルボキシ基を定量して測定)も95.1%と多く、その差は小さいので、単量体乳酸が圧倒的に多く、2量体は少なく、従って3量体が多く生成する状態を経ていない。従って、少ない3量体を2量体と看做して、遊離酸滴定の結果から単量体乳酸の量を計算しても、妥当である。3量体が存在しないと仮定するのではない。』との釈明がなされている。
しかしながら、本願明細書の段落0014の「ML=TA-2x(TA-FA)」という定義式は、同段落0014の「総酸含有量(TA)は…乳酸の単量体と二量体と重合体の量を表す。」との記載にあるように、測定対処の試料に三量体などの重合体が存在することを前提にした定義式なので、厳密に成り立つ式であるとはいえず、上記意見書の「少ない3量体を2量体と看做して、遊離酸滴定の結果から単量体乳酸の量を計算」することの妥当性について、その妥当性は実験的に確認されていない。
そして、そもそも当該定義式は、滴定される酸基(-COOH)のモル比として成り立つ式であって、乳酸の分子量(90)及びラクトイル乳酸の分子量(162)を反映した式になっていないので、補正後の請求項1の「単量体乳酸の含有量が少なくとも80重量%」との記載(及び本願明細書の段落0044の「a.酸の総量:分子間エステル結合に塩基による鹸化を受けさせた後の酸含有量(乳酸の重量%)。b.遊離酸:酸基を直接滴定(乳酸の重量%)。」との記載)にある「重量%」の単位で成り立つ式ではない。
また、遊離酸含有量(FA)の測定方法について、上記「b.遊離酸:酸基を直接滴定(乳酸の重量%)。」との記載における「直接滴定」は、試料に塩基を加えて行われるものであって、エステル結合の加水分解が生じている蓋然性が高いので、その測定方法の具体的な条件(例えば、使用する「塩基」の種類や温度などの測定条件)を明確に規定しなければ、鹸化を受けさせる前の酸の量を正確に測定することは困難である。
このため、補正後の請求項1の「単量体乳酸の含有量が少なくとも80重量%であり」との記載における「単量体乳酸の含有量」の技術的な内容が不明確であるから、補正後の請求項1の記載は、その特許を受けようとする発明が明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
また、補正後の発明の詳細な説明の記載は、遊離酸含有量(FA)の測定方法を具体的に説明するものではなく、上記「ML=TA-2x(TA-FA)」という定義式で定義される『単量体乳酸(ML)の含有量』を計算できない(重量%の単位で計算できない)という点において、補正発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
したがって、補正発明は、補正後の特許出願が特許法第36条第4項第1号若しくは第6項に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

エ.小括
以上のとおりであるから、補正発明及び/又は補正後の請求項4に記載された発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしていない。

3.まとめ
以上総括するに、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないという点において特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、本件補正は、目的要件違反があるという点において平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
そして、仮に本件補正が目的要件を満たすとしても、本件補正は、独立特許要件違反があるという点において平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、〔補正の却下の決定の結論〕のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1?15に係る発明は、平成25年1月11日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
そして、本願請求項1に係る発明(以下「本1発明」という。)は、次のとおりのものである。
「乳酸を産業規模で精製する方法であって、
(a)濃乳酸溶液を基準にして総酸含有量が少なくとも95重量%で単量体乳酸の含有量が少なくとも80重量%で濃乳酸溶液に入っている乳酸鏡像異性体と鏡像異性体の間の比率が1に等しくない濃乳酸溶液を減圧蒸留して乳酸濃厚物を得、そして
(b)この乳酸濃厚物に結晶化を受けさせることで高純度の乳酸を生じさせる、段階を含んで成り、結晶化を、1つ以上の溶融結晶化装置内での乳酸濃厚物の直接冷却によって行なう、ことを特徴とする方法。」

2.審判合議体による拒絶理由通知書の概要
上記「最後の拒絶理由通知書」には、その理由1として「この出願の請求項1?15に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?9及び周知例A?Dに記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」との理由、並びにその理由2として「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号及び第2号に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。」との理由が示されており、その『下記の点の不備』として、上記『第2 2.(3)ウ.(ア)』の項に示したとおりの記載不備が指摘されている。

3.明確性要件及び実施可能要件について
本願請求項1の「単量体乳酸の含有量が少なくとも80重量%であり」との記載における「単量体乳酸の含有量」という発明特定事項については、上記『第2 2.(3)ウ.』の項において示した理由と同様の理由により、その技術的な内容が不明確であるから、本願請求項1の記載は、その特許を受けようとする発明が明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
したがって、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができるものではない。

4.進歩性について
(1)本1発明の発明特定事項について
本1発明の「単量体乳酸の含有量」という発明特定事項については、上記『第3 3.』の項において示したように、その技術的な内容が不明確であるから、本1発明と刊2発明とを対比を厳密にはなし得ない。
そこで、平成26年6月3日付けの回答書の『(オ)単量体乳酸の含有量とは、乳酸単量体(モノマー)として現実に存在する乳酸の含有量です。…総酸含有量とは、乳酸の形態(単量体あるいは二量体など)を問わず、乳酸の合計含有量です。』との釈明に基づき、
本1発明の「単量体乳酸の含有量」という発明特定事項は『乳酸単量体(モノマー)として現実に存在する乳酸の含有量』を意味するものとして、その進歩性要件についての判断を行う。

(2)引用刊行物及びその記載事項
ア.刊行物2(特開昭56-65841号公報)
最後の拒絶理由通知書において「刊行物2」として引用した本願優先日前に頒布された刊行物である「特開昭56-65841号公報」には、次の記載がある。

摘記2a:請求項1
「総酸含量85%以上の乳酸に対して、水を加えて(濃縮)蒸留することを特徴とする乳酸の精製方法。」

摘記2b:第1頁左下欄第16行?右下欄第1行
「乳酸は良質な酸味を有し、さらに殺菌性もあるといわれており、食品工業、医薬品工業等に広く用いられている。乳酸はある濃度以上になると無水乳酸(ラクチル乳酸等)となり、濃度に比例して増大するので、通常総酸含量約90%以下の水溶液で市販されている。」

摘記2c:第2頁左上欄第6行?左下欄第6行
「本発明を実施すれば、通常市販されているJIS K-8726(試薬)に合格する純良な乳酸に適用して、その中に存在する数10ppm相当のアルデヒド分を完全に除去することが出来、しかも、微量に混在する不純物、例えば、メタノール、酢酸等も消滅し、且つ臭いも改善されるのである。斯様にして、乳酸は加熱により経時変化し、アルデヒド分等が増加する傾向を有し、熱安定性が悪いことから、出来るだけ低温で取扱われるのが常であるが、本発明の如き水との共蒸留あるいは加熱処理と言った加温にもかゝわらず、アルデヒド分等に対する品質改良に優れた効果があるという事実は意外なことであって、本発明の工業的価値は非常に大きい。
この事実を説明する機構は明らかではないが、乳酸中のアルデヒド分等は添加された水及び加熱によって、分解あるいは重縮合等を受け、より揮発しやすい物質に変わり、又、予め混在した揮発性不純物も合わせ、水と共に系外へ留去されるものと思われる。
本発明に用いられる乳酸としては食品添加物公定書記載規格、JISK-8726及びJISK-1353に合格する総酸含量85%以上のものに適用され、又、いずれの製法、例えば、醗酵法、合成法等によった乳酸にも適用できる。
水の添加量は約90%乳酸水溶液に対し、約0.25?2倍量(重量)から選ばれる。多い方が好ましい傾向にあるが、あまり多量に加えると濃縮蒸留に費用がかゝり、効果がそれ程大きくならないので、実用上は約1倍量(重量)とするのが適合である。…
(濃縮)蒸留条件としては、通常操作圧力は約20?100mmHgから選ばれ、操作温度は液組成及びその蒸気圧から自づと決まるが、約40?120℃程度である。」

摘記2d:第3頁左欄第1行?表-2
「実施例-4?6
90%乳撒水溶液に対し、表-2に示した如き水の添加比及びそれに見合う蒸留の濃縮比を用いた以外、実施例-1と同様に処理した。その実験結果は表-2に示した。
表-2
┌─────┬────────────┬───────────┬─┐
│ │90%乳酸水溶液に対する│ 蒸 留 条 件 │…│
│ │水の添加比 (重量倍)│温度(℃)│圧力(mmHg)│…│
├─────┼────────────┼─────┼─────┼─┤
│実施例-4│ 0.25 │ 約45 │ 20 │…│
│ … │ … │ … │ … │…│
└─────┴────────────┴─────┴─────┴─┘


イ.周知例A(特開平6-256340号公報)
最後の拒絶理由通知書において「周知例A」として提示した本願優先日前に頒布された刊行物である「特開平6-256340号公報」には、次の記載がある。

摘記A1:段落0012及び0019
「上述の溶融結晶化段階の各々は溶融ラクチド混合物をラクチドの凝固点又はわずかに下に冷却し、溶融物を一部分結晶化させそして低い不純物含量の固相及び高い不純物含量の液相を形成させ、次いで固相を液相から分離することからなる。…
本発明は望ましくない水準の水、乳酸及びそのオリゴマー、並びに前反応段階からの溶媒及び触媒を含む組成物からのラクチドの分離と回収に適用することができる。特に、乳酸のオリゴマーの解重合及びその後の蒸留による精製により得られる組成物に適用することができる。」

摘記A2:段落0050
「これらの結果に示されているように、酸性不純物及び異性体不純物は単一溶融結晶化段階により大部分が除かれるのみならず、金属不純物もほとんどすべてが同様に除かれる。メチルイソブチルケトン溶媒を含むラクチドの試料においては、臭気比較により明らかなように大部分の溶媒も同様に除かれた。」

ウ.刊行物4(特開平10-279577号公報)
最後の拒絶理由通知書において「刊行物4」として引用した本願優先日前に頒布された刊行物である「特開平10-279577号公報」には、次の記載がある。

摘記4a:段落0009
「特開平6-256340号公報記載の溶融結晶化法により精製されたラクチドは有機溶媒を含まないので、品質的には食品添加物として用いることができる。」

エ.刊行物8(特開平7-138253号公報)
最後の拒絶理由通知書において「刊行物8」として引用した本願優先日前に頒布された刊行物である「特開平7-138253号公報」には、次の記載がある。

摘記8a:段落0006
「用いられる乳酸はL-乳酸、D-乳酸のいずれであってもよい。このような乳酸は従来公知の方法により製造されたものがいずれも用いられるが、特に発酵法により製造した純度80%以上、光学純度99%以上のものであるのが好ましい。このような乳酸を常圧下、温度130?140℃にて加熱して単蒸留を行い、ガスが発生しなくなるまで水を留去する。」

(3)刊行物2に記載された発明
摘記2aの「総酸含量85%以上の乳酸に対して、水を加えて(濃縮)蒸留することを特徴とする乳酸の精製方法。」との記載、
摘記2cの「純良な乳酸に適用して、その中に存在する数10ppm相当のアルデヒド分を完全に除去することが出来、しかも、微量に混在する不純物…も消滅し、且つ臭いも改善されるのである。…本発明の工業的価値は非常に大きい。…乳酸中のアルデヒド分等は…予め混在した揮発性不純物も合わせ、水と共に系外へ留去されるものと思われる。…本発明に用いられる乳酸としては…醗酵法…によった乳酸にも適用できる。水の添加量は約90%乳酸水溶液に対し、約0.25?2倍量(重量)から選ばれる。…(濃縮)蒸留条件としては、通常操作圧力は約20?100mmHgから選ばれ…る。」との記載、及び
摘記2dの「実施例-4」における「90%乳酸水溶液に対する水の添加比」が0.25重量倍であり、その「蒸留条件」の圧力が20mmHgであることからみて、刊行物2には、
『総酸含量85%以上の醗酵法によった乳酸に対して、0.25重量倍の水を加えて、20mmHgの圧力条件で(濃縮)蒸留する工業的価値が非常に大きい乳酸の精製方法。』についての発明(以下「刊2発明」という。)が記載されている。

(4)対比
本1発明と刊2発明とを対比するに、
刊2発明の「工業的価値が非常に大きい乳酸の精製方法」は、産業規模での実施を想定したものであることから、本1発明の「乳酸を産業規模で精製する方法」に相当し、
刊2発明の「総酸含量85%以上の醗酵法によった乳酸に対して、0.25重量倍の水を加えて」なる高濃度の乳酸溶液は、摘記8aの「乳酸は…特に発酵法により製造した…光学純度99%以上のものである」との記載にあるように、一般に「醗酵法によった乳酸」はラセミ体(鏡像異性体が等量存在するもの)ではないのが普通であることから、本1発明の「濃乳酸溶液に入っている乳酸鏡像異性体と鏡像異性体の間の比率が1に等しくない濃乳酸溶液」に相当し、
刊2発明の「20mmHgの圧力条件で(濃縮)蒸留する」は、大気圧(760mmHg)よりも低い圧力にまで減圧して蒸留による濃縮を行うものであるから、本1発明の「減圧蒸留して乳酸濃厚物を得」に相当する。

してみると、本1発明と刊2発明の両者は『乳酸を産業規模で精製する方法であって、(a)濃乳酸溶液に入っている乳酸鏡像異性体と鏡像異性体の間の比率が1に等しくない濃乳酸溶液を減圧蒸留して乳酸濃厚物を得る方法。』に関するものである点において一致し、
(α)減圧蒸留される「濃乳酸溶液」の酸含有量が、本1発明においては「濃乳酸溶液を基準にして総酸含有量が少なくとも95重量%で単量体乳酸の含有量が少なくとも80重量%」とされているのに対して、刊2発明においては、アルデヒド分等の不純物を水と共に系外に留去するために「総酸含量85%以上」の乳酸に対して「0.25重量倍の水」を加えた場合の酸含有量である点、及び
(β)減圧蒸留後に、本1発明においては「(b)この乳酸濃厚物に結晶化を受けさせることで高純度の乳酸を生じさせる、段階を含んで成り、結晶化を、1つ以上の溶融結晶化装置内での乳酸濃厚物の直接冷却によって行なう」という(b)の結晶化段階を更に含んでいるのに対して、刊2発明においては当該(b)の結晶化段階を更に含んでいない点、
の2つの点において一応相違する。

(5)判断
上記(α)及び(β)の相違点について検討する。

ア.相違点(α)について
刊行物2に記載された「実施例-4」の具体例は、90%乳酸水溶液に対して0.25重量倍の水を加えているので、その減圧蒸留前の時点における乳酸濃度は72%(=90%÷1.25)と換算され、同様に刊2発明の『総酸含量85%以上の乳酸に対して、0.25重量倍の水を加えて』なる減圧蒸留前の乳酸濃度は『総酸含量68%以上』と換算される。
しかしながら、本願明細書の段落0042の「実施例1 水に入っている乳酸溶液(乳酸が67.8重量%)に薄膜蒸留による濃縮を…受けされることで、乳酸が97.1重量%入っている濃縮物を生じさせた。次に、この濃縮物に短路蒸留装置…を用いた蒸留を…受けさせた。」との記載にあるように、本1発明の「濃乳酸溶液を基準にして総酸含有量が少なくとも95重量%で単量体乳酸の含有量が少なくとも80重量%」という酸含有量の数値規定は、具体的には、当初「67.8重量%」であったものを「97.1重量%」にまで減圧蒸留した上で更に減圧蒸留するというものであって、刊行物2に記載された「実施例-4」の当初「72重量%」のものから『水を系外に留去』して乳酸濃度を漸次高めながら減圧蒸留するというもの(及び刊2発明で『総酸含量68%以上』と換算されるもの)と軌を一にするものであるから、相違点(α)について両者に実質的な差異は認められない。
そして、刊2発明は「総酸含量85%以上の乳酸」という高濃度の乳酸に少量の水を加えて不純物を水と共に系外に留去するための減圧蒸留を行って再度濃縮する乳酸の精製方法に関するものであるから、その濃縮の程度を「濃乳酸溶液を基準にして総酸含有量が少なくとも95重量%で単量体乳酸の含有量が少なくとも80重量%」にまで減圧蒸留した上で更に減圧蒸留するようにしてみることは、必要とされる品質に応じて当業者が適宜設定し得る設計事項にすぎず、格別の創意工夫を要したとは認められない。
また、本1発明の「総酸含有量が少なくとも95重量%」及び「単量体乳酸の含有量が少なくとも80重量%」という数値限定の下限値に、格別の臨界的意義があるとも認められない。

イ.相違点(β)について
周知例Aの『溶融結晶化は溶融物を冷却し、結晶化させ、低い不純物含量の固相を、高い不純物含量の液相から分離することからなる。本発明は乳酸オリゴマーの解重合後の蒸留による精製により得られた組成物に適用することができる。』という旨の記載(摘記A1)、及び刊行物4の『溶融結晶化法により精製された乳酸二量体は有機溶媒を含まないので食品添加物として用いることができる』という旨の記載(摘記4a)にあるように、化学物質の精製方法として『溶融結晶化装置内の直接冷却によって結晶化を受けさせる精製方法』は、本願優先日前の技術水準において刊行物公知にして周知慣用の手段になっていたものと認められる。
また、周知例Aの『溶融結晶化により不純物の大部分が除かれ、臭気比較で良好な結果が得られる』という旨の記載(摘記A2)にあるように、上記『溶融結晶化装置内の直接冷却によって結晶化を受けさせる精製方法』によって、精製対象の化学物質の純度や臭気が改善されるという効果が得られることも、普通に知られているものと認められる。
してみると、総酸含量85%以上の純良な乳酸からアルデヒド分等の不純物を完全に除去して、臭いなどの品質改良に優れた食品工業、医薬品工業等の分野に使用できる改良された乳酸の提供を目的ないし課題とした刊2発明において(摘記2b及び2c)、乳酸の品質(純度や臭気)の改良ないし精製をより確実にするために、上記『溶融結晶化装置内での直接冷却によって結晶化を受けさせる精製方法』という刊行物公知にして周知慣用の手段を更に適用してみることは、必要とされる品質に応じて当業者が適宜設定し得る設計事項にすぎず、格別の創意工夫を要したとは認められない。
また、本1発明の効果について検討するに、本願明細書の段落0047?0050には、本1発明に従う産物の味覚および嗅覚試験の結果が市販製品に比べて良好であることが示されているところ、刊行物2には、純良な乳酸の中に存在する数10ppm相当のアルデヒド分等を完全に除去することによって臭いなどの品質改良に優れた乳酸が得られるという効果が記載されているので(摘記2c)、本1発明の効果が当業者にとって格別予想外の顕著なものであるとは認められない。

(6)進歩性についてのまとめ
以上総括するに、本1発明は、刊行物2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本願は特許法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、また、本1発明は特許法第29条第2項の規定により特許をすることができないものであるから、その余の理由及びその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-16 
結審通知日 2014-09-22 
審決日 2014-10-08 
出願番号 特願2000-606557(P2000-606557)
審決分類 P 1 8・ 561- WZ (C07C)
P 1 8・ 537- WZ (C07C)
P 1 8・ 121- WZ (C07C)
P 1 8・ 57- WZ (C07C)
P 1 8・ 536- WZ (C07C)
P 1 8・ 575- WZ (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神野 将志  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 木村 敏康
氏原 康宏
発明の名称 乳酸を産業規模で精製する方法  
代理人 松井 光夫  
代理人 村上 博司  

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