• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1297899
審判番号 不服2012-7183  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-19 
確定日 2015-02-25 
事件の表示 特願2009-533423「甲状腺眼症の治療のための方法、組成物及び製剤」拒絶査定不服審判事件〔平成20年4月24日国際公開、WO2008/048770、平成22年3月4日国内公表、特表2010-506941〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年9月27日(パリ条約による優先権主張 2006年10月17日、2007年1月29日、2007年3月20日、いずれも(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成23年12月9日付けで拒絶査定がされ、平成24年4月19日に手続補正書が提出されると共に拒絶査定不服審判が請求され、平成26年5月30日付けで拒絶理由が通知され、同年9月2日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成26年9月2日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項11に係る発明は、以下のとおりである。
「治療上有効量の、サルメテロール及びフォルモテロール、並びにそれらの塩又はそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストを含む製剤を含む、眼球突出の治療剤。」(以下、この発明を「本願発明」という。)

第3 当審の判断
1 本願の発明の詳細な説明の記載
(1) 技術分野
「本発明は、甲状腺眼症の治療のための方法、組成物及び製剤の提供に関する。」(段落【0001】)
(2) 背景技術
「グレーブス病は、・・・女性において発症する公知の疾患である。グレーブス病の患者のうち25?50%は、・・・眼の臨床病変(すなわち甲状腺眼症)が進行する。グレーブス眼症(GO)は、甲状腺眼症の典型的な形態である。・・・
GOの臨床症状及び徴候の機構は、眼窩内の組織容積が顕著に増加することによって説明できる。眼窩組織の膨張により、眼球の前方への移動、・・・が生じる。これらの変化は、サイトカイン及び他の炎症調節因子の局所的産生と相まって、眼球突出、・・・を生じさせる。」(段落【0003】?【0004】)
(3) 発明が解決しようとする課題
「本発明は、甲状腺眼症の治療のための方法、組成物及び製剤の提供に関する。
本発明では、長時間作用型β2アドレナリン受容体アゴニストと、標的組織において前記長時間作用型β2アドレナリン受容体アゴニストに対するβアドレナリン受容体脱感作を減少させる化合物とを含んでなる組成物を、眼内の標的の脂肪蓄積と接触させることによって、甲状腺眼症を治療するための、組成物、製剤、方法及びシステムを開示する。」(段落【0005】)
(4) 課題を解決するための手段
「したがって、本願明細書で提供される一態様は、患者(例えば甲状腺眼症に罹患する患者)の眼窩脂肪の蓄積を、患者に治療上有効量の少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストと、治療上有効量のβ受容体脱感作を減少させるための少なくとも1つの化合物とを投与することによって減少させる方法に関する。・・・幾つかの実施形態では、上記患者は、眼球突出に罹患する。」(段落【0006】)
(5) 発明を実施するための形態
ア 「CTスキャンの結果によると、GOに罹患する大多数の患者は、眼窩脂肪及び外眼筋がともに肥大しており、それ以外の患者は、脂肪組織又は外眼筋の病変のみが存在している。・・・
眼窩内の脂肪/結合組織量の増加により、外眼筋拡大の場合よりも、全体的な眼窩組織体積の顕著な肥大を生じさせると考えられる。CTによる分析により、これらの患者の眼球突出測定値が、脂肪のコンパートメント量と非常に密接に相関することが示される。・・・
GOの治療では、肥大した眼窩脂肪組織量の減少を標的にする必要がある。ゆえに、脂肪細胞体積を脂肪分解により減少させる製剤は、この症状において有用であると考えられる。」(段落【0025】、【0026】、【0031】)
イ 「皮下組織へのアドレナリン作用活性成分(βアゴニスト及びα2アンタゴニスト)の輸送が提案されており、それにより、局所的な脂肪の減少、及び局所的な脂肪蓄積による外観悪化の改善が示されている。・・・これらの脂肪分解物質(特にβアゴニスト)は活性を示す期間が短く、脂肪組織から急速に除去されうるため、上記脂肪分解は注入後のごく短い時間においてのみ生じ、それにより、複数回注入にもかかわらず、潜在的な効果が低いものとなりうる。更に、脂肪細胞のβアゴニストに対する長期の曝露により、受容体の脱感作及び下方制御が生じ、また脂肪分解活性が損なわれる。受容体に対するこれらの効果を減少又は防止する手段により、治療効果が改善されうる。それにもかかわらず、アドレナリン作動薬及びグルココルチコステロイドを使用してGOにおける脂肪細胞を処理して、脂肪分解を誘導し、脂肪生成を阻害するストラテジーにより、臨床徴候及び症状に関与する組織塊を顕著に減少させることができると考えられる。」(段落【0032】)
ウ 「眼窩組織塊を減少させて、甲状腺眼症(例えばグレーブス眼症又は「GO」)を治療するための医薬組成物、製剤、方法及びシステムに関する実施形態が、本願明細書において記載されている。眼窩組織塊を減少させることにより、眼球突出を減少させ、視力喪失及び複視を回復させ又は防止し、痛みを緩和することが可能となる。」(段落【0033】)
エ 「長時間作用型の選択的なβ2アゴニスト(例えばサルメテロール・・・、及びフォルモテロール・・・)が、幾つかの実施形態において好ましい。」(段落【0041】)
(6) 実施例
ア 実施例1:βアゴニスト及びグルココルチコステロイドによる、ラット脂肪細胞のin vitro脂肪分解アッセイ
(ア) 「in vitro脂肪分解アッセイにおいて、細胞培地中のグリセロールを、過酸化水素による化学的な酸化の後、分光光度計による測定により検出した。3時間にわたり、グリセロールを測定した。後で詳述するように、βアゴニスト単独、グルココルチコステロイド単独又はそれらの2つの組合せへの、1時間以上のプレインキュベート時間にわたる曝露後の、培養されたヒト脂肪細胞における脂肪分解のレベルを試験した。」(段落【0102】)
(イ) 「図2に示すように、3時間の培養後、長期作用型β2アドレナリン受容体アゴニストのフォルモテロールは、投与量依存的に脂肪分解を誘導し、6倍増加させた。10^(-6)M以上の濃度では、イソプロテレノールで観察された場合より大きかった。同様に、長期作用型β2アドレナリン受容体アゴニストのサルメテロールも、3時間の培養後、脂肪分解の投与量依存的な増加を誘導したが、その効果(僅かに2倍を超える脂肪分解の増加)は、フォルモテロールの場合に観察されたものほど強くなかった。サルメテロールにより誘導された脂肪分解は、イソプロテレノールで観察されたものと同等若しくはそれ以下であった。
図3に示すように、グルココルチコステロイドであるブデソニドは、3時間、脂肪分解のわずかな増加(最高約1.5倍)を誘導したが、イソプロテレノール(約2.5倍)で観察された場合より低かった。対照的に、ブデソニドのみによる18時間の培養により、実際にin vitroで脂肪分解のわずかな抑制が生じた。
サルメテロール(10^(-6)M)を用いた脂肪細胞の18時間にわたる培養により、脂肪分解(図4)が減少した。同様に、18時間のイソプロテレノールによる処理により、脂肪分解が減少した。しかしながら、18時間のインキュベートの間、サルメテロールとブデソニドとを組み合わせたとき、脂肪分解の増加が観察された(図4)。
これらのデータに基づいて、フォルモテロール及びサルメテロールを用いて、3時間にわたり脂肪細胞を培養することにより、脂肪分解を効果的に誘導すると結論づけた。しかしながらサルメテロールは、18時間用いたとき、実際に脂肪分解を減少させ、受容体脱感作又は下方制御すると考えられる。更に、サルメテロールはグルココルチコステロイドであるブデソニドの存在下で、18時間後においても、脂肪分解を誘導することができる。すなわち、ブデソニドを用いることにより、脂肪分解を誘導するβ2アドレナリン作用アゴニストの能力を、おそらくβ2アドレナリン受容体の下方制御を防止することにより長時間維持又は回復させることができる。」(段落【0108】?【0111】)
イ 実施例3:グルココルチコステロイドとβ2アゴニストとの組み合わせによる、精巣上体の脂肪パッドの重量の減少
(ア) 「グルココルチコステロイドが、実施例1にて説明した上記のin vitro脂肪分解データと整合した態様で、in vivoで脂肪を減少できるか否かの解析を試みた。そこで、長期作用型β2アドレナリン作用アゴニストのフォルモテロール単独で、及びブデソニドとの組み合わせで処理したラットの精巣上体の脂肪パッド重量を測定した。」(段落【0120】)
(イ) 「表4に示すように、群1の動物(フォルモテロール単独で処理)は、通常の未処理コントロールと整合した相違及び可変性を示した。フォルモテロール単独による平均処理効果は、+0.028g±0.140gであった。統計分析では0.63のp値であり、治療効果に向かう傾向と整合していなかった。一方、群2の動物(フォルモテロール+ブデソニドで治療される)では、治療効果が示された。平均治療効果は、p値=0.079で、-0.353±0.270であった。
・・・
フォローアップ試験として、上記のアッセイにおいて、フォルモテロール+ブデソニドの、脂肪パッド質量を減少させる能力を解析した。図7に示すように、1.4μg/日フォルモテロール+4.0μg/日ブデソニドの併用による投与により、処理群 対 無処理群での、精巣上体の平均重量に関して有意差が見られた(p=0.01)。同様に、低用量の組合せ(0.7μg/日フォルモテロール+2.0μg/日ブデソニド、1日おきで投与した)においても、併用投与群と無処理の対照動物との有意差がみられた(p=0.04)。
これらのデータ及びそれらの分析に基づき、長時間作用型β2アゴニスト(例えばフォルモテロール)とグルココルチコステロイド(例えばブデソニド)との組合せが、in vivoで脂肪分解及び脂肪減少を誘導するのに効果的であると結論づけた。」(段落【0127】、【0131】、【0132】)

2 特許法第36条第6項第1号について
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満足するか否か、すなわち、本願発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるか否かについて検討する。
本願発明は、「サルメテロール及びフォルモテロール、並びにそれらの塩又はそれらの任意の組み合わせ」が「眼球突出の治療」に有効であるという発見に基づく医薬用途発明であり、また、本願の発明の詳細な説明における前記1(1)及び(3)の記載より、本願発明が解決しようとする課題は、眼球突出の治療のための組成物の提供ということができる。
そして、この眼球突出の治療は眼窩内の脂肪を減少させることにより達成される旨が、本願の発明の詳細な説明に記載され(前記1(3)、(4)、並びに(5)ア及びウ参照)、また、サルメテロールやフォルモテロールは、βアドレナリン作用アゴニストという範疇に属する物質である旨も記載されている(前記1(5)エ参照)。
一方、本願の実施例では、βアドレナリン作用アゴニストによって脂肪を分解させる際に、βアドレナリン受容体の脱感作や下方制御が生じると考えられ、また、その際に、グルココルチコステロイドの1種であるブデソニドを併用すると、アゴニストによる受容体の脱感作や下方制御を防止し、アゴニストの能力を長時間維持又は回復させる旨が記載されている(前記1(6)ア、特に段落【0111】参照)。具体的には、実施例1として、皮下脂肪細胞を使用する試験管内(in vitro)試験において、脂肪細胞をサルメテロールやフォルモテロールと共に3時間培養した場合に脂肪が分解されるものの、18時間培養した場合にはこの脂肪分解が減少したこと、サルメテロールにグルココルチコステロイドの1種であるブデソニドを併用して脂肪細胞を18時間培養した場合には、脂肪の分解は減少することはなかったことが記載されており、この結果を受けて、本願の発明の詳細な説明には「これらのデータに基づいて、フォルモテロール及びサルメテロールを用いて、3時間にわたり脂肪細胞を培養することにより、脂肪分解を効果的に誘導すると結論づけた。しかしながらサルメテロールは、18時間用いたとき、実際に脂肪分解を減少させ、受容体脱感作又は下方制御すると考えられる。更に、サルメテロールはグルココルチコステロイドであるブデソニドの存在下で、18時間後においても、脂肪分解を誘導することができる。すなわち、ブデソニドを用いることにより、脂肪分解を誘導するβ2アドレナリン作用アゴニストの能力を、おそらくβ2アドレナリン受容体の下方制御を防止することにより長時間維持又は回復させることができる。」(段落【0111】、下線は当審で付与。)と記載されている。
また、脂肪細胞のβアゴニストに対する長期の曝露により、受容体の脱感作及び下方制御が生じ、また脂肪分解活性が損なわれることは、発明の詳細な説明にも記載されている。(前記1(5)イ参照)
加えて、本願の発明の詳細な説明には、ラットによる生体内(in vivo)試験の実施例も記載されているところ、これは、ラットにフォルモテロールとブデソニドを共に投与した場合には、精巣上体の脂肪パッド重量は減少した(-0.353±0.270g)ものの、フォルモテロールを単独で投与した場合には、脂肪パッド重量は減少しなかった(+0.028±0.140g)というものであり、この実験結果を受けて、「これらのデータ及びそれらの分析に基づき、長時間作用型β2アゴニスト(例えばフォルモテロール)とグルココルチコステロイド(例えばブデソニド)との組合せが、in vivoで脂肪分解及び脂肪減少を誘導するのに効果的であると結論づけた。」(段落【0132】)と記載されている。(前記1(6)イ参照)

以上に述べた本願の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、βアドレナリン作用アゴニストを使用して脂肪を減少させる場合に、サルメテロールやフォルモテロール等のβアドレナリン作用アゴニストを単独で使用した場合には、当該薬剤による受容体の脱感作等によって、当該薬剤の効果が減少し、やがて効かなくなるものと理解し、これに対して、βアドレナリン作用アゴニストにグルココルチコステロイドの1種であるブデソニドを併用した場合には、βアドレナリン作用アゴニストによる受容体の脱感作が減少し、βアドレナリン作用アゴニストによる脂肪減少効果が維持されると理解するものである。
そうしてみると、眼球突出の治療に有効な組成物の提供という本願発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように発明の詳細な説明に記載された範囲は、有効成分として、サルメテロール又はフォルモテロールにブデソニド等のグルココルチコステロイドを併用した場合であって、ブデソニド等のグルココルチコステロイドを併用しない「サルメテロール及びフォルモテロール、並びにそれらの塩又はそれらの任意の組み合わせ」のみを有効成分とする場合については、本願の発明の詳細な説明の記載からは、当業者は、眼球突出の治療が可能なものと認識しない。
このように、本願発明の課題を解決するためには、課題を解決するための手段としてサルメテロールやフォルモテロールに加えて、ブデソニド等のグルココルチコステロイドを併用する必要があることが発明の詳細な説明の記載から理解されるにもかかわらず、本願発明には、ブデソニド等のグルココルチコステロイドを併用するという点が明記されていないことから、本願発明は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであって、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

3 審判請求人の主張について
(1) 請求人は、発明の詳細な説明の段落【0108】に記載された試験管内(in vitro)試験の結果と、この結果に基づく「これらのデータに基づいて、フォルモテロール及びサルメテロールを用いて、3時間にわたり脂肪細胞を培養することにより、脂肪分解を効果的に誘導すると結論づけた。」との記載(段落【0111】)から、本願の発明の詳細な説明には、サルメテロール又はフォルモテロールが単独で脂肪の分解・減少作用を示したことが明確に記載されている旨を主張する。
しかし、段落【0111】には、請求人が指摘する記載に続いて、「しかしながらサルメテロールは、18時間用いたとき、実際に脂肪分解を減少させ、受容体脱感作又は下方制御すると考えられる。更に、サルメテロールはグルココルチコステロイドであるブデソニドの存在下で、18時間後においても、脂肪分解を誘導することができる。すなわち、ブデソニドを用いることにより、脂肪分解を誘導するβ2アドレナリン作用アゴニストの能力を、おそらくβ2アドレナリン受容体の下方制御を防止することにより長時間維持又は回復させることができる。」と記載されているところ、この記載や、本願の発明の詳細な説明のその他の記載に接した当業者であれば、サルメテロールやフォルモテロールを単独で使用した場合には、当該薬剤の効果が減少し、やがて効かなくなるものと理解することは前記2で述べたとおりである。
請求人の主張は、発明の詳細な説明の記載の一部分の記載に基づくものであり、これを採用することはできない。
(2) 請求人は、段落【0108】?【0111】の記載は、サルメテロール又はフォルモテロールを18時間投与することにより、3時間投与と比べて脂肪の分解・減少作用が減弱したことを示しているに過ぎず、この記載は、サルメテロール又はフォルモテロール単独で脂肪の分解・減少作用を否定する結果ではないし、発明の詳細な説明のその他の箇所においても、サルメテロール又はフォルモテロール単独では脂肪の分解・減少作用がないことを示す記載は存在しない旨も主張する。
しかし、ラットを使用した試験では、フォルモテロール単独では脂肪の分解・減少作用がなく、フォルモテロールにブデソニドを併用した場合に、脂肪の分解・減少作用があったという結果が示されている(前記1(6)イ参照)ので、請求人の主張には理由がない。そして、段落【0108】に記載されたサルメテロール又はフォルモテロールの3時間投与で脂肪が分解されたという試験は、in vitroの試験、すなわち生体から単離された細胞による試験であるのに対し、上述したラットを使用する試験は、in vivoの試験、すなわちラットという生体に薬剤を投与する試験であって、前者の単離細胞による試験と比較すると、実際の生体を使用する点において、より実際の眼球突出の治療に近い試験であることから、これらの記載に接した当業者であれば、前者の試験結果よりも後者の試験結果の方が、眼球突出治療についての医薬用途を裏付ける薬理試験としてより合理性が高いと理解するものである。そうしてみると、たとえ、本願の発明の詳細な説明に、フォルモテロール又はサルメテロールと共に3時間脂肪細胞を培養することにより、脂肪分解を誘導することが記載されていても、本願の発明の詳細な説明の他の開示に接した当業者は、フォルモテロール又はサルメテロールが単独で眼球突出の治療に有効であるものとは理解せず、請求人の主張を採用することはできない。

第4 まとめ
以上検討したところによれば、特許請求の範囲の請求項11の記載が特許法第36条第6項第1号の規定に適合していないので、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-26 
結審通知日 2014-09-30 
審決日 2014-10-15 
出願番号 特願2009-533423(P2009-533423)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川嵜 洋祐  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 大宅 郁治
岩下 直人
発明の名称 甲状腺眼症の治療のための方法、組成物及び製剤  
代理人 特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ