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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A61G
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  A61G
管理番号 1298083
審判番号 無効2011-800069  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-04-22 
確定日 2013-06-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第3993996号「車椅子」の特許無効審判事件についてされた平成24年3月1日付け審決について、知的財産高等裁判所において審決の取消しの判決(平成24年(行ケ)第10132号、平成24年12月19日)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1 本件特許第3993996号(以下「本件特許」という。)は、平成13年10月23日に出願された特願2001-325007号に係り、平成19年8月3日にその請求項1ないし3に係る発明について特許権の設定登録されたものである。

2 本件無効審判は、請求人 日進医療器株式会社(以下「請求人」という。)が、平成23年4月22日に、上記本件特許の請求項1に係る発明についての特許を無効とするとの審決を求めたものであって、審判請求の後、以下の手続を経た後、平成24年3月1日に「訂正を認める。本件特許の請求項1に係る発明についての特許を無効とする」旨の審決(以下「一次審決」という。)がされた。
(1)答弁書(被請求人:平成23年6月29日)
(2)上申書(請求人:平成23年9月15日)
(3)無効理由通知書(審判体:平成23年9月30日付け)
(4)意見書及び訂正請求書(被請求人:平成23年11月24日)
(5)口頭審理陳述要領書(被請求人:平成23年12月7日付け)
(6)口頭審理陳述要領書(請求人:平成23年12月8日付け)
(7)口頭審理(平成23年12月15日)
(8)上申書(請求人:平成23年12月27日付け)
(9)上申書(被請求人:平成24年1月27日付け)

3 上記一次審決について、被請求人 株式会社ミキ(以下「被請求人」という。)は、その取消を求めて知的財産高等裁判所(以下「裁判所」という。)に訴えを提起(平成24年(行ケ)第10132号)するとともに、平成24年7月6日に、本件特許の願書に添付した明細書について、訂正審判を請求した(訂正2012-390089号)。

4 上記訂正審判請求について、平成24年11月9日に「本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。」旨の審決がされ、当該訂正は平成24年11月19日に確定登録された。

5 上記確定登録によって請求項1に係る発明が減縮訂正されたため、裁判所は、上記一次審決について、取消の判決(平成24年12月19日言渡し)をした。

6 その後、本件無効審判をさらに審理するため、平成25年1月16日付けで、請求人に、上記確定登録された訂正明細書等について意見を求める通知をしたところ、平成25年2月15日付けで審判事件弁駁書が提出された。

第2 本件特許発明について
1 本件特許の請求項1に係る発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、平成24年11月19日に確定登録された、本件特許の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面の記載からして、その特許請求の範囲の請求項1に記載されている、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
左右側枠を一個または二個以上のX枠で連結した構造であって、該X枠は中央で相互回動可能に結合され、下端部を該左右側枠下部に枢着した一対の回動杆からなり、該一対の回動杆の各上端には上側杆がそれぞれ取り付けられ、各下端には下側杆がそれぞれ取り付けられ、該上側杆は上記左右側枠に具備されている座梁部に取り付けられている杆受けにそれぞれ支持されるように設定されており、該回動杆の下側杆は左右側枠に沿った方向に配設されている枢軸を介して該左右側枠下部に枢着されており、該左右側枠下部には前後一対の下側杆取付部が取り付けられており、該下側杆取付部には、該左右側枠に沿う方向を向き、かつ該枢軸を支持するための軸穴がそれぞれ複数個上下に相対して配列して設けられており、該回動杆下端の下側杆を該前後一対の下側杆取付部間に位置させて、該車椅子の使用者の体形に応じて調節される巾に対応して該下側杆取付部の複数個の軸穴のうちの一つを選択して該軸穴に該枢軸を引き抜き可能に挿通支持させることによって、該X枠の上端部は該左右側枠に対して上下位置を変えることなく、かつ該X枠の長さを変えることなく該車椅子の巾を調節可能にしたことを特徴とする車椅子。」

2 請求人の主張と通知した無効理由の骨子と証拠方法
(1)本件特許発明について請求人が主張する無効の理由、及び、平成23年9月30日付け無効理由通知書で通知した無効理由の骨子は以下のとおりである。
ア 請求人が審判請求書で主張する無効理由
本件特許発明は甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないから、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、その特許は無効とされるべきである。
イ 平成23年9月30日付け無効理由通知書で通知した無効理由
本件特許発明は甲第1号証に記載された発明及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、その特許は無効とされるべきである。
ウ 請求人が平成25年2月15日付け審判事件弁駁書で主張する無効理由
本件特許発明は、甲第1号証、甲第3号証、甲第6号証、甲第7号証及び甲第8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、その特許は無効とされるべきである。

(2)請求人の提出した証拠方法
請求人は、証拠方法として以下の甲第1ないし10号証を提出している。
甲第1号証:独国実用新案第29721699号明細書
甲第2号証:特開平9-572号公報
甲第3号証:特開2001-245935号公報
甲第4号証:特開平5-262102号公報
甲第5号証:特開平11-164852号公報
甲第6号証:特開平11-318988号公報
甲第7号証:特開平11-192266号公報
甲第8号証:米国特許第6227559号明細書
甲第9号証:平成23年(ワ)第12196号 平成24年11月30日付け準備書面
甲第10号証:平成23年(ワ)第12196号 平成24年4月12日付け訴状
また、請求人は、周知例として以下の刊行物を提示(平成23年9月15日付け上申書)している。
周知例1:実願昭51-52819号(実開昭52-144560号)のマクロフィルム
周知例2:実願昭50-41068号(実開昭51-120804号)のマクロフィルム
周知例3:特開昭59-108550号公報

3 被請求人の主張の骨子と証拠方法
(1)被請求人の主張の骨子
本件特許発明は、特許法第29条第1項第3号、及び、同法同条第2項に規定される発明のいずれにも該当しないから、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当せず、その特許は無効とされるべきでない。

(2)被請求人の提出した証拠方法
被請求人は、証拠方法として以下の乙第1ないし28号証の2を提出している。
乙第1号証:岩波独和辞典増補版第186頁
乙第2号証:日進医療器(株)の総合カタログ(VOL.9 2007年7月)
乙第3号証:平成21年(ワ)第14726号事件 被告準備書面(平成22年11月8日)
乙第4号証:判例時報2063号(知財高裁平成20年(行ケ)第10096号事件 判例時報社 平成22年3月1日)
乙第5号証:判例時報1463号(知財高裁平成2年(行ケ)第242号事件 判例時報社 平成22年3月1日)
乙第6号証:特許訴訟の実務(抜粋)(新日本法規出版(株),平成3年12月13日)
乙第7-1号証:特許・実用新案審査基準 目次
乙第7-2号証:特許・実用新案審査基準 新規性進歩性(抜粋)
乙第8号証:特許第3844354号公報
乙第9号証:無効2010-800223号 審判請求書
乙第10号証:特開2003-126168号公報
乙第11号証:特開平10-108882号公報
乙第12号証:特開2001-321404号公報
乙第13号証:特開2002-126008号公報
乙第14号証:特開平9-168566号公報
乙第15号証:特開平7-39562号公報
乙第16号証:特開2003-19959号公報
乙第17号証:実願昭47-93730号(実開昭49-51529号)のマイクロフィルム
乙第18号証:特開平8-333976号公報
乙第19号証:特開平9-224791号公報
乙第20号証:特開平10-14722号公報
乙第21号証:米国特許第4,082,348号明細書
乙第22号証:無効2010-800223号 審決謄本
乙第23号証:(株)ミキのカタログ(「Wheel Chair MiKi 2002 BEST SELECTION Vol.2 2002年6月)
乙第24号証:株式会社ミキ作成の平成23年11月28日付け上申書
乙第25号証:介護・福祉用具用品の市場実態と将来展望 1999年版(株式会社矢野経済研究所,1999年1月27日)
乙第26号証:カタログ「車いす総合カタログ Vol.10」(株式会社カワムラサイクル,平成15年2月)
乙第27号証:カタログ「NISSIN ORIGINAL WHEELCHAIR CATALOG Vol.7」(日進医療器株式会社,平成16年9月(推定))
乙第28号証の1:米国特許第4,082,348号明細書
乙第28号証の2:米国特許第4,082,348号明細書の部分訳

4 甲各号証の記載事項
甲第1ないし8号証は本件特許出願前に頒布された刊行物であって、それぞれ、以下の事項が記載されている。
(1)甲第1号証(独国実用新案第29721699号明細書)(当審注:請求人が提示した邦訳を記した。)
(1a)右下表示頁番号「-2-」下から7行?右上表示頁番号「-3-」第8行
「本考案は、車台フレームを備え、該車台フレームが下側フレームパイプと上側フレームパイプとをそれぞれ有する2つのサイドフレーム部材を具備し、該フレーム部材には走行方向に隔離して駆動輪とキャスタとが1つずつ支承されており、フレーム部材は、該フレーム部材に枢着され角度をなして互いに調整可能な支柱によって、離隔した使用位置と近接した折りたたみ位置との間で互いに向かって移動可能であり、かつ少なくとも使用位置において固定可能になっており、フレーム部材と接続された側方部材とバックレストとによって画成される座部をさらに備えた、折りたたみ式車椅子に関する。
…(中略)…
互いに溶接されたパイプからなるサイドフレーム部材には、一方の側に、通常、後側駆動輪が1つずつと、他方の側に、垂直軸を中心に回動可能な前側キャスタが1つずつ支承されている。この車椅子では、クロスバーが、互いに交差するパイプまたはリンクからなり、これらのパイプまたはリンクは、交差点に関節状に互いに接続されており、下端部がサイドフレーム部材の下側フレームパイプにそれぞれ枢着されている。クロスバーをなすパイプまたはリンクのそれぞれの他端とシートパイプとが固く接続されており、このシートパイプには、通常、丈夫な帆布からなる座部の長手方向縁部が固定されており、使用位置において、サイドフレーム部材の上側フレームパイプと係止可能である。
この車椅子では、例えば潜在的ユーザの体格の違いといった種々の要求に適応できないか、または少なくとも非常に適応し難いため不十分である。したがって、本考案の基礎となる課題は、種々の要求に対する適応性を改善した折りたたみ式車椅子を提供することである。
上記課題は、車台フレームを異なった幅の少なくとも2つの使用位置に調整するために、サイドフレーム部材がそれらの間隔に関して互いに調節可能であり、それぞれ1つの使用位置に対応する調整ポジションでロック可能であることによって解決される。
したがって、本考案は、車台フレームの両サイドフレーム部材の間隔を変更することによって車椅子の使用位置をユーザのそれぞれの要求に適応させることであり、その場合に、フレーム部材を少なくとも2つの異なった間隔に調整することができる。」
(1b)右上表示頁番号「-3-」下から10行?右上表示頁番号「-5-」第8行
「サイドフレーム部材をクロスバーによって互いに接続した車台フレームでは、本考案の一展開形態により、リンクの下端部とサイドフレーム部材との枢着点の高さが変更可能であるように形成することが合目的的であることが明らかになった。車台フレームの幅調節は、クロスバーリンクの下端部をどの高さポジションで車台フレームのサイドフレーム部材に枢着するかに依存して行われる。この場合、それぞれの使用位置での係止は、例えば、使用位置において、サイドフレーム部材の上側フレームパイプから突出する係止部が形状結合的に係合する、リンクの上端部と接続されたシートパイプによってそのまま変わらない。
車台フレームの幅の調整と、ひいては座幅調整は、この展開形態では、それぞれの使用位置において、互いに交差するクロスバーのリンクがなす角度が変更されることによって行われる。その場合、座部の高さは変わらない。
他の有意義な展開形態では、リンクの下端部が、異なった高さ位置でサイドフレーム部材に固定可能な軸受ブロックによってサイドフレーム部材に枢着されている。この軸受ブロックは、サイドフレーム部材の上側フレームパイプと下側フレームパイプとの間に延在する保持コンソールに収容され、かつ垂直方向に互いに離隔した所定の調整ポジションで保持コンソールに固定可能であり得る。
この展開形態では、リンクの下端部に、軸受パイプがそれぞれ固く接続されており、該軸受パイプは、サイドフレーム部材の上側フレームパイプおよび下側フレームパイプに対して平行位置に延在し、かつそれぞれのリンクから両側に突出するならば、そしてリンクの両側で、サイドフレーム部材の上側フレームパイプおよび下側フレームパイプと接続されたそれぞれ1つの保持コンソールが設けられ、該保持コンソールには軸受パイプの一端をそれぞれ支承するための軸受ブロックが収容されているならば合目的的であることも判明した。
さらに、保持コンソールが所定の垂直方向の間隔を離間させて配置された、リンクを枢着するために利用される軸受ブロックを固定するための孔を備えているならば、保持コンソールでの軸受ブロックの特に簡単な高さ調整が可能である。」
(1c)右上表示頁番号「-7-」第7行?右上表示頁番号「-9-」第18行
「図2?図4に示された本考案に係る車台フレーム20は、図1に示された車台フレーム1と全く類似に、2つのサイドフレーム部材21を有し、これらのサイドフレーム部材は、それぞれ1つの上側フレームパイプおよび下側フレームパイプ22、23と、これらを互いに接続する前側フレームパイプおよび後側フレームパイプとからなる。
サイドフレーム部材21はクロスバー28によって互いに接続されており、クロスバーは、交差点で回転ジョイントによって互いに接続された2つのリンクと、ダブルのリンク29、29’と、これらと交差するシングルのリンク30とからなる。クロスバーリンクは、それぞれの上端部に、上側フレームパイプ22に固く取り付けられた係止部33と形状結合的に係合するためのシートパイプ32を備えている。
先行技術の車台フレーム1とは異なり、車台フレーム20は、車椅子のそれぞれの使用位置において両フレーム部材21間の間隔と、ひいては座幅を調節するための装置を備えている。
この目的で、両サイドフレーム部材21には、クロスバー28の両側に、ダブルリンク29、29’およびシングルリンク30のそれぞれの下端部を枢着するためのそれぞれ同様に形成された保持コンソール36が2つずつ、走行方向に離隔して配置されている。金属形材として形成された保持コンソール36は、垂直方向に延在し、それぞれの両端部で止め輪37により、それぞれのサイドフレーム部材21の上側フレームパイプ22と下側フレームパイプ23とに固定されている。保持コンソール36の各々は、同じ数の穴38を備えており、これらの穴は、保持コンソール36の取付け位置において垂直方向に離隔して配置されており、車台フレーム20に配置された全保持コンソール36のそれぞれ対応する穴38が水平面上に延びる。
ダブルリンク29、29’およびシングルリンク30は、それらの下端部に軸受パイプ41をそれぞれ備えており、この軸受パイプは、それぞれのリンクの長手方向に対して垂直に、かつ取り付けられた状態で、上側もしくは下側フレームパイプ22、23に対して平行に延びる。軸受パイプ41の端部は、軸受ブロック42に軸が固定されているが、回動可能に支承されている。軸受ブロック42は、保持コンソール36から車椅子内側に突出し、かつこれらの保持コンソールと公知の態様で固く、しかし、例えば穴38を貫通し軸受ブロック42のねじ孔に螺入されるねじによって着脱可能に接続されている。
図3および図4に示されるように、それぞれの軸受ブロック42を固定するために設けられた穴38は、それぞれの使用位置においてサイドフレーム部材21間の間隔を決定する。図3において、軸受ブロック42は、下側フレームパイプ23の領域に直接配置された穴38に固定されている。このことにより、使用位置において、ダブルリンク29、29’およびシングルリンク30と水平線との角度が略30°になり、したがって比較的狭い座幅になる。
これに対して図4に示された調整位置では、ダブルリンク29、29’およびシングルリンク30を保持コンソール36の穴38に枢着するために軸受ブロック42が固定されており、穴は、それぞれの上側フレームパイプ22と下側フレームパイプ23との間の略中央に配置されている。使用位置においてリンク29および29’もしくは30と水平線とがなす角度は、図3に示される例よりもはるかに平坦であり、略15°である。したがって、この調整位置では、両サイドフレーム部材21間の間隔と、ひいては座幅が図3の調整位置での場合よりも大きい。」
(1d)Fig.2a、Fig.3、Fig.4





以上の記載事項及び図面の図示内容からみて、甲第1号証には 次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「2つのサイドフレーム部材21はクロスバー28によって互いに接続されており、
クロスバー28は、交差点で回転ジョイントによって互いに接続された2つのリンクである、ダブルリンク29、29’と、シングルリンク30とからなり、
それら2つのリンクは、それぞれの上端部に、上側フレームパイプ22に固く取り付けられた係止部33と形状結合的に係合するためのシートパイプ32を備えており、また、それら2つのリンクは、それぞれの下端部に、サイドフレーム部材21の下側フレームパイプ23に沿った方向に、固く接続された軸受パイプ41を備えており、
当該各軸受パイプ41の端部は、軸受ブロック42に枢着され、さらにサイドフレーム部材21に支持されており、
当該軸受ブロック42は、サイドフレーム部材21の上側フレームパイプ22と下側フレームパイプ23との間に延在する保持コンソール36に上下に配列して設けられた複数の穴38の一つに、例えば前記穴38を貫通し軸受ブロック42のねじ孔に螺入されるねじによって固く着脱可能に接続して用いられて、各リンクの下端部に接続された軸受パイプ41を異なった高さ位置でサイドフレーム部材に枢着せしめることにより、
座部の高さを変えることなく、かつ、クロスバー28の長さを変えることなく、車台フレームの幅を調整してユーザの体格に適応可能とした、車椅子。」

(2)甲第2号証(特開平9-572号公報)
(2a)「【0017】主車輪支持フレーム40には軸穴41が複数個(本実施例においては5個)穿設されていて、主車輪2と支持部材42が軸穴41に支持ボルト43を介して取り付けられるようになっている。主車輪2と支持部材42を複数個の軸穴41のいずれかに取り付けるかによって、車椅子1の全体の高さ調整ができるようになっている。」
(2b)「【図1】


(3)甲第3号証(特開2001-245935号公報)
(3a)「【0015】前記支持手段40は、円筒部材41と、この円筒部材41の両端部に嵌合される前蓋42と後蓋44とにより構成されており、かかる円筒部材41の両端部が車椅子200の前後方向となるようにサイドフレーム10の下側後端部に一体形成されている。図示するように、前蓋42には、支持ロッド30の前端部が挿入される調整孔43が縦方向に3箇所穿設されている。図3に示すように、前記調整孔43のうち、下部調整孔43cは、略水平方向に設けられており、中間部調整孔43bは、前記下部調整孔43cよりも車椅子の前方向に向かって上向きになるように設けられており、上部調整孔43aは、中間部調整孔43bよりもさらに車椅子の前方向に向かって上向きになるように形成されている。
【0016】また、図4に示すように、後蓋44には、支持ロッド30の後端部を支持する支持孔45が一つ穿設されている。かかる支持孔45は、後蓋44の外壁端部44aから前蓋方向に徐々に縦方向に広がる楕円形状に形成されている。このように支持孔45を縦方向に長い楕円形状に形成したことにより、支持ロッド30の後端を支点として支持ロッド30の前端を前蓋42に穿設された上部調整孔43a乃至下部調整孔43cのいずれかの調整孔43に挿入させることができる。以上にように構成された支持手段40においては、図1に示すように、支持ロッド30を後蓋44の支持孔45から前蓋42の任意の調整孔43にわたって挿通させるとともに、前蓋42及び後蓋44から突出する支持ロッド30の前後端をワッシャを介してナットによって締付け固定させる。このように構成された支持手段においては、例えば、支持ロッド30の前端を前蓋42に形成された下部調整孔43cに挿入されることにより、側端フレームを水平に固定することができる。また、支持ロッド30の前端を中間部調整孔に挿入させることにより、側端フレームの前端を後端よりも高く位置に固定することができる。このように支持ロッドを前蓋42に穿設された任意の調整孔43に挿通させることによって、座部20の高さを調整することが可能となる。」
(3b)「【図1】 【図2】


(4)甲第4号証(特開平5-262102号公報)
(4a)「【0014】図2には、本発明に係る軽車両200のキャスター100の一実施例が示してある。ブラケット20は、鋼板等からプレス加工等により形成、或いは鋳鉄、樹脂等から一体成形したものであり、車椅子本体10に支持される部分には、車椅子本体10に対してより回転が円滑になるようベアリング(図示しない)等が備えてある。そして、このブラケット20に車輪軸30を介して車輪40が回転自在に支持されているのであるが、ブラケット20には、車輪軸30を取り付ける車輪軸取付部21としての複数の貫通孔がブラケット20の回転軸方向に等間隔で連設してあり、これらの貫通孔の一つに車輪軸30が挿通されているのである。
【0015】ところで、車椅子200の前輪にこのキャスター100を採用した場合、例えば使用者の体型等にあわせて車椅子200の座席の角度等を調節する際には、図3に示すように、車輪40の取付位置を変更してキャスター100全体の高さ(図示H寸法)を変えれば、車椅子本体10の寸法を変えなくても座席の角度等を調整することができる。また、使用者の熟練度等にあわせて車輪40の大きさを変更する際には、図4に示すように、キャスター100全体の高さを変えないように車輪40の大きさ(図示φD寸法)とその取付位置を変えればよいのである。」
(4b)「【図2】 【図3】


(5)甲第5号証(特開平11-164852号公報)
(5a)「【0012】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明を実施の形態を説明しよう。図1は図示しない折り畳み式車椅子用のクロスブレースを示している。このクロスブレースは正面図で示されており、折り畳み式車椅子の縦軸に対し横方向に位置しており、実質的には、クロスブレースジョイント1を介して交差するように互いに結合された2つのブレース2により構成されている。
【0013】各ブレース2は、管状に形成された上方のブレース部分2aと、同様に管として形成された下方のブレース部分2bとにより構成される。このブレース部分2bは上方のブレース部分2a内で入れ子式に段階的に移動可能に案内される。両ブレース部分2a,2bは、互いに対応する穴の列3,4を夫々有する。クロスブレースジョイント1を形成するねじ等は、第1のブレース2の上方のブレース部分2aの穴の列3のうちの1つの穴3aと、この穴3aと整列する3つの穴、つまり、第1のブレース2の上方のブレース部分2aに対応する第1のブレース2の下方のブレース部分2bの穴の列4のうちの穴4a及び第2のブレース2の上方並びに下方のブレース部2a,2bの穴3a,4aと、の中を差し込まれている。ここでは、穴の列3,4は、クロスブレースジョイント1を、常に、2つのブレース2の下方の回動点5に対する高さhにあって垂直の縦中心面Mにある交差箇所の中心に入れることができるように、設けられている。このことによって、折り畳み式車椅子の側方フレームがシートの幅の調節の際にも常に互いに平行にあることが保証される。」
(5b)「【図1】


(6)甲第6号証(特開平11-318988号公報)
(6a)「【0022】座受板28は両側片に通孔30,31を形成し、該通孔30,31に前記枢軸12,14を回動自在に挿入し、これらにピンボルト32,33を差し込み、その螺軸端にナット34,35をねじ込んでいる。」
(6b)「【図3】



(7)甲第7号証(特開平11-192266号公報)
(7a)「【0013】該座部支持杆(19,19) は図8に示すように前後一対のXリンクフレーム(23,24) の上端に固着されている。各XリンクフレームはX状にクロスしている一対のリンク杆(23A,23B,24A,24B) からなり、その交点の軸(25,26) を中心として相互回動自在に結合されており、該リンク杆(23A,23B,24A,24B) の下端は左右側枠(2,2) の下側杆部(4,4) の回動部(4A,4A) に固着されている。図9に示すように該下側杆部(4,4) の回動部(4A,4A) は、該回動部(4A,4A) の前後両側の下側杆部(4,4) 間に差渡されねじ(27)によって固定されている軸枠(28)に回動自在に外嵌されているパイプである。」
(7b)「【図8】



(8)甲第8号証(米国特許第6227559号明細書)(当審注:当審による邦訳を記した。)
(8a)第3欄第13?39行
「図3に示すようにクロスブレイス14は、一般に、ピボット40によって接続されている、38で示される2つの部材を含む折りたたみ機構である。各クロスブレイス部材38の上下端52,46は、対応する上下のサイドレール28,30に、対応する上部および下部グロウタブ72,58によって接続されている。
一対の下部グロウタブ58(図4)のそれぞれは、下側レール30に接続されている第1端64を有する。相互に整列した開口部68は、各下部グロウタブ58の第2端66に至るまで、多数存在している。3つの開口部のみが示されているが、任意の適切な数の開口部を提供することができる。下部グロウタブ58の開口部68は、整列するように適合されている。下部グロウタブ58は、その間に、前後方向に空間を空けて、縦チャネル62を提供するように配置されている。チャネル62は、クロスブレイス部材38の下端46を受け入れるように適合される。クロスブレイス部材38の下端46に設けられている開口部69は、下部グロウタブ58の相互に整列した開口部68の1つと相互整列するように適合されている。相互に整列する開口部68,69のペアは、クロスブレイス部材38の下端46を枢支するために、留め具70を受容するように適合されている。下側レール30間の間隔は、図6,7に示すように、各クロスブレイス部材38の下端46の、下部グロウタブ58に対する相対位置を変えることにより、変化させることができる。タブの開口部68は、下側レール30間の間隔を均等に増分調整できるように、均等に離間させることができる。」

(8b)「FIG.3 FIG.4



第3 当審の判断
上記第2の1で述べた本件特許発明について、上記第2の2で述べた各無効理由について検討するため、本件特許発明と甲1発明を対比の上、検討する。
1 本件特許発明と甲1発明の対比
本件特許発明と甲1発明を対比すると、甲1発明の「上側フレームパイプ22と下側フレームパイプ23との間に延在する保持コンソール36」からなる「2つのサイドフレーム部材21」は、本件特許発明の「左右側枠」に相当し、以下同様に、「クロスバー28」は「X枠」に、「交差点」は「中央」に、「回転ジョイントによって互いに接続され」は「相互回動可能に結合され」に、「シートパイプ32」は「上側杆」に、「上側フレームパイプ22」は「座梁部」に、「係止部33」は「杆受け」に、「軸受パイプ41」は「下側杆」に、それぞれ相当する。
さらに、甲1発明のクロスバー28を構成する「ダブルリンク29、29’」と「シングルリンク30」は、対として2つのリンクを構成するものであって、「交差点で回転ジョイントによって互いに接続され」るのであるから、本件特許発明の「一対の回動杆」に相当するといえる。
そして、甲1発明の「(クロスバー28の)2つのリンク」は、下端部に、サイドフレーム部材21の下側フレームパイプ23に沿った方向、すなわち、サイドフレーム部材21に沿った方向に設けられた軸受パイプ41を備えており、当該軸受パイプ41の端部は、「軸受ブロック42に枢着され、さらにサイドフレーム部材21に支持され」るものであることからして、甲1発明の「軸受ブロック42」は軸受パイプ41を枢支するものであって、軸受パイプ41を枢支し得る構造とするには、サイドフレーム部材21に沿った方向の取付け穴を具備することは明らかであるといえるから、本件特許発明と甲1発明は、「下側杆取付部には、該左右側枠に沿う方向を向き」、かつ「下側杆を支持するための軸穴が」「相対して」「設けられて」いる点で共通し、さらに、両者は、回動杆の下側杆が、「左右側枠に沿った方向に」「該左右側枠下部に枢着されており、該左右側枠下部には前後一対の下側杆取付部が取り付けられて」いる点でも共通しているといえる。
ここで、甲1発明の「サイドフレーム部材21の上側フレームパイプ22と下側フレームパイプ23との間に延在する保持コンソール36に上下に配列して設けられた複数の穴38の一つに、例えば前記穴38を貫通し軸受ブロック42のねじ孔に螺入されるねじによって固く着脱可能に接続して用いられて、各リンクの下端部に接続された軸受パイプ41を異なった高さ位置でサイドフレーム部材に枢着せしめることにより、
座部の高さを変えることなく、かつ、クロスバー28の長さを変えることなく、車台フレームの幅を調整してユーザの体格に適応可能とした」という事項と、本件特許発明の「車椅子の使用者の体形に応じて調節される巾に対応して該下側杆取付部の複数個の軸穴のうちの一つを選択して該軸穴に該枢軸を引き抜き可能に挿通支持させることによって、該X枠の上端部は該左右側枠に対して上下位置を変えることなく、かつ該X枠の長さを変えることなく該車椅子の巾を調節可能にした」という事項を対比すると、両者は、「車椅子の使用者の体形に応じて調節される巾に対応して、左右側枠に複数個上下に配列した下側杆の支持部のうちの一つを選択する」点で共通しているといえ、また、甲1発明の「座部の高さを変えることなく、かつ、クロスバー28の長さを変えることなく、車台フレームの幅を調整してユーザの体格に適応可能とした」という事項が、本件特許発明の「X枠の上端部は該左右側枠に対して上下位置を変えることなく、かつ該X枠の長さを変えることなく該車椅子の巾を調節可能にした」という事項に相当することは明らかである。

そうすると、本件特許発明と甲1発明は、
「左右側枠を一個または二個以上のX枠で連結した構造であって、該X枠は中央で相互回動可能に結合され、下端部を該左右側枠下部に枢着した一対の回動杆からなり、該一対の回動杆の各上端には上側杆がそれぞれ取り付けられ、各下端には下側杆がそれぞれ取り付けられ、該上側杆は上記左右側枠に具備されている座梁部に取り付けられている杆受けにそれぞれ支持されるように設定されており、該回動杆の下側杆は左右側枠に沿った方向に該左右側枠下部に枢着されており、該左右側枠下部には前後一対の下側杆取付部が取り付けられており、該下側杆取付部には、該左右側枠に沿う方向を向き、かつ下側杆を支持するための軸穴が相対して設けられており、該車椅子の使用者の体形に応じて調節される巾に対応して、左右側枠に複数個上下に配列した下側杆の支持部のうちの一つを選択して該X枠の上端部は該左右側枠に対して上下位置を変えることなく、かつ該X枠の長さを変えることなく該車椅子の巾を調節可能にした車椅子。」である点で一致し、次の点で相違するといえる。
〈相違点〉
本件特許発明は、下側杆の枢支態様が、「左右側枠に沿った方向に配設されている枢軸を介して」なされるものであり、下側杆の支持態様が、「枢軸を支持するため」の「軸穴」を、「下側杆取付部」に「複数個上下に相対して配列して」設け、「下側杆を該前後一対の下側杆取付部間に位置させて」、「該軸穴に該枢軸を引き抜き可能に挿通支持させる」ものであるのに対し、
甲1発明は、軸受パイプ41(下側杆に相当)の枢支態様が、軸受パイプ41の端部が2つの軸受ブロック42に枢着されるものであることからして、軸受パイプ41を2つの軸受ブロック42に掛け渡して枢支するものであって、「引き抜き可能に挿通支持」する「枢軸を介して」枢支を行うものでなく、また、軸受パイプ41の支持態様が、それを枢支する軸受ブロック42を、サイドフレーム部材間に延在する保持コンソール36に上下に配列して設けられた複数の穴38の一つに、例えばねじによって固く着脱可能に接続するものである点。

2 検討と判断
(1)無効理由アについて
上述のとおり、本件特許発明と甲1発明は上記の相違点で相違するから、本件特許発明は甲1発明でない。したがって、上記第2の2(1)アの無効理由には理由がない。

(2)無効理由イ及びウについて
無効理由イ及びウは、いずれも甲1発明を主引用例とし、当該発明及び周知の技術事項に基いて、あるいは、当該発明と他の甲各号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたというものであるから、その容易想到性について、併せて検討する。
ア 下側杆の枢支態様についての検討
杆状体のごとき棒体を回動可能に枢支する際、棒体そのものの外周を枢動可能に支持すること、ならびに、棒体内に枢軸を設け、当該枢軸を支持して棒体を枢動可能とすることは、いずれも当業者に周知の慣用手段にすぎないし、車椅子に関する技術分野においても、下側杆内部に軸棒を挿通して下側杆を回動可能に支持することは、甲第7号証に記載されているように(上記第2の4(7)参照)、従来からよく知られている事項である。
そうすると、甲1発明において、軸受パイプ41の端部を、2つの軸受ブロック42に枢着する態様に代えて、軸受パイプ内部に軸棒を挿通し、軸受パイプを枢動可能に支持する、すなわち、下側杆の左右側枠下部への枢支態様を、本件特許発明のごとく「左右側枠に沿った方向に配設されている枢軸を介して」なされる態様に変更することは、当業者が適宜なし得る事項であるといえる。
イ 下側杆の支持構造についての検討
次いで、上記相違点のうち、下側杆を車椅子の下側杆取付け部に取り付けるための支持構造について検討する。
本件特許発明の前記支持構造の要部は、
“下側杆を、左右側枠下部に取り付けられている前後一対の下側杆取付部間に位置させ、前記下側杆に挿通せしめられる枢軸を支持するため、前記下側杆取付部に設けられている軸穴に、該枢軸を引き抜き可能に挿通して支持する”(以下「本件特許発明支持構造」という。)というものである。
一方、甲1発明の軸受パイプ41(下側杆)を車椅子に支持するための構造は、「各軸受パイプ41の端部は、軸受ブロック42に枢着され、さらにサイドフレーム部材21に支持され」る、という構造、すなわち、“軸受パイプ(下側杆)の支持部材である軸受ブロックを介して支持される構造”であって、「当該軸受ブロック42は、サイドフレーム部材21の上側フレームパイプ22と下側フレームパイプ23との間に延在する保持コンソール36に上下に配列して設けられた複数の穴38の一つに、例えば前記穴38を貫通し軸受ブロック42のねじ孔に螺入されるねじによって固く着脱可能に接続して用いられ」るもの、すなわち、“当該軸受ブロックはサイドフレーム部材に着脱可能に固く接続される構造”である。したがって、甲1発明の軸受パイプ(下側杆)を車椅子に支持するための構造は、“軸受パイプ(下側杆)の支持部材である軸受ブロックを介して支持されるものであって、当該軸受ブロックはサイドフレーム部材(左右側枠)に着脱可能に固く接続される構造”(以下「甲1発明支持構造」という。)である。
この甲1発明支持構造に対して上記「ア」で述べた事項に係る変更を行うならば、前記の甲1発明支持構造は、軸受パイプ(下側杆)内に、当該軸受パイプを枢動自在に支持する枢軸を設けるように変更されるものの、その枢軸は、左右側枠に沿った方向に配設され、前記枢軸の支持部材となる何らかのブロックを介して支持され、当該ブロックはサイドフレーム部材に着脱可能に固く接続される構造に変更されるにすぎない。
そうすると、前記甲1発明支持構造を変更して本件特許発明支持構造とするためには、枢軸の支持部材となる何らかのブロックを廃し、軸受パイプをサイドフレーム部材の保持コンソール間に位置せしめられるようにして、枢軸を直接支持するための穴を、サイドフレーム部材の保持コンソールに対向して設ける、というさらなる改変を行う必要があるといえる。
しかしながら、甲第1号証にはこのような改変を行うことについて何ら記載ないし示唆はない。
また、車椅子のサイドフレームを構成する支持手段40に、交差フレーム21の下端を、その支持高さを調整回動可能に取り付ける構造について記載した甲第3号証(上記第2の4(3)参照)、あるいは、甲第6ないし8号証(上記第2の4(6)ないし(8)参照)にも、上述のごときさらなる改変を行うことについての記載や示唆はなく、請求人の提示した他の甲号証、や周知例、あるいは、平成23年9月30日付け無効理由通知書で示した他の周知例(実公昭43-3460号公報)のいずれにも、そのような記載や示唆はない。加えて、上述のさらなる改変を行うことが、本件特許出願前に公知であったとする他の証拠を見いだすこともできない。
してみると、甲1発明の軸受パイプ(下側杆)を支持するための構造に、上述のさらなる改変を加えて上記の本件特許発明支持構造を採用することが、当業者にとって容易であるとはいえない。
ウ 小括
以上検討したとおりであるから、本件特許発明と甲1発明が、X枠の上端部の左右側枠に対する上下位置を変えることなく、かつ該X枠の長さを変えることなく車椅子の巾を調節可能にするために、左右側枠に下側杆の支持部を複数個上下に配列して設け、その支持部のうちの一つを選択して下側杆を支持する点で一致しているとしても、請求人が提示した証拠方法や周知例のいずれの記載からも、上記の本件特許発明支持構造を得ることが容易であるといえない以上、当業者は、甲1発明を前提発明として、本件特許発明に容易に到達することができるとはいえない。
したがって、上記第2の2(1)イ及びウの無効理由にも理由がない。

3 請求人のその他の主張についての検討
請求人は、本件特許発明の下側杆の枢支態様について、平成25年2月15日付け審判事件弁駁書で、「したがって、引用発明1の「軸受パイプ41」が、「「軸受ブロック42」に固定された「軸」を中心に回動可能に支承されている構成は、本件特許発明の構成要件Cにおける「該回動杆(11A,11A,12A,12A)の下側杆(18,18)は・・・該左右側枠(3,3)に枢着されており、」に相当する。」(第14頁第4?8行)としつつ、「軸受ブロック42」の使用は、引用発明1の展開形態を実施する際の一例にすぎない。そして、甲第1号証及び甲第8号証に接した当業者が、引用発明1の接続構造を簡略化するために、「軸受ブロック42」及び「保持コンソール36」を排除し、甲第8号証に記載された下側グロータブ(58,58)を採用することは極めて容易である(別紙2参照)。」(第19頁下から4行?第20頁第1行)旨、主張している。
上記請求人の主張は、実質的に、甲1発明の「軸受パイプ41」を本件特許発明の「下側杆18」と対応付けつつ、前記軸受パイプ41を支持する「軸受ブロック42」及び「保持コンソール36」を排除して、甲第8号証に
記載された下側グロータブを採用するというものである。そうすると、当該主張は、本件特許発明の特定事項である「下側杆18」に対応付けた甲1発明の「軸受パイプ41」を枢支する構造そのものを排除することを主張するものであって、結局、枢支対象である「軸受パイプ41」自体を否定するものであるから、「てこ。さお。ぼう。」を意味する「杆」を「枢着する」という本件特許発明の構成が意図しない発明特定事項への到達を主張するものである。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

4 むすび
以上のとおり、本件特許発明が甲1発明であるとも、また、本件特許発明は、甲1発明及び請求人が提示した各甲号証及び周知例のいずれに記載された発明に基いても、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
したがって、本件特許発明は、特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項のいずれの規定に違反して特許されたものでもないから、同法第123条第1項第2号に該当して無効とすべきものであるということはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-19 
結審通知日 2013-04-01 
審決日 2013-04-26 
出願番号 特願2001-325007(P2001-325007)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (A61G)
P 1 123・ 113- Y (A61G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 洋昭  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 高木 彰
松下 聡
登録日 2007-08-03 
登録番号 特許第3993996号(P3993996)
発明の名称 車椅子  
代理人 宇佐見 忠男  
代理人 関根 由布  
代理人 柳橋 泰雄  
代理人 乾 てい子  
代理人 津国 肇  
代理人 山本 文夫  
代理人 綿貫 達雄  
代理人 生川 芳徳  

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