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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1298099
審判番号 不服2013-6891  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-15 
確定日 2015-03-05 
事件の表示 特願2007-141238「複合体」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月11日出願公開、特開2008-297203〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
この出願は、平成19年5月29日の出願であって、平成24年5月16日付けで拒絶理由が通知され、同年7月20日に意見書及び手続補正書が提出され、平成25年1月7日付けで拒絶査定がされ、同年4月15日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
この出願の発明は、平成24年7月20日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 配列番号1に示されるアミノ酸配列のアミノ末端から4番目のアミノ酸残基内に一つのシステインが導入されたアポ蛋白質を構成成分とする組換えカルシウム結合型発光蛋白質、または、配列番号2に示されるアミノ酸配列のアミノ末端から6番目のアミノ酸残基内に一つのシステインが導入されたアポ蛋白質を構成成分とする組換えカルシウム結合型発光蛋白質のいずれかと;マレイミド基を有する架橋試薬と抗体とをモル比で10:1の割合で20℃で30分反応させて得られたマレイミド基を有する抗体と;をモル比で5:1の割合で4℃で2時間反応させることを特徴とする、イクオリンと抗体との複合体の製造方法。」
ここで、配列番号2のアミノ酸配列は、以下のとおりである。



第3 原査定の理由
原査定の理由は、平成24年5月16日付けの拒絶理由通知における拒絶の理由3であり、この出願の請求項5、10?13に係る発明は、その出願日前に頒布された引用文献1?5に記載された発明に基づいて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、というものである。そして、拒絶査定の対象となった請求項1は、前記拒絶理由が通知された請求項11又は13が限定されたものに対応する。その引用文献1は、特開2004-143号公報(以下「刊行物1」という)であり、引用文献3は、特表平8-503854号公報(以下「刊行物2」という)であり、引用文献4は、特表平9-501147号公報(以下「刊行物3」という)であり、引用文献5は、特表2005-538738号公報(以下「刊行物4」という)である。

第4 当審の判断
当審は、原査定の拒絶の理由のとおり、本願発明は、刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 刊行物の記載事項
ア 刊行物1
(1a)「【請求項10】 天然型アポ蛋白質のアミノ末端から4番目のアミノ酸残基内に一つのシステインが導入された天然型または変異型のアポ蛋白質を構成成分とする組換えカルシウム結合型発光蛋白質に、該システインを介して、検出すべき物質に特異的なリガンドが1:1の比率で結合する複合体。
【請求項11】 検出すべき物質に特異的なリガンドがビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、酵素、基質、抗体、抗原、核酸、多糖類、レセプター、またはこれらに結合能を有する化合物である請求項10記載の複合体。
【請求項12】 カルシウム結合型発光蛋白質が、イクオリン、オベリン、クライチン、マイトロコミン、ミネオプシンおよびベルボインからなる群から選択される請求項10または11記載の複合体。
【請求項13】 発光基質としてセレンテラジンまたは発光活性を有するそのアナログ化合物を含む、請求項10?12のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項14】 配列番号:1に示されるアミノ酸配列のアミノ末端から4番目のアミノ酸残基内に一つのシステインが導入された天然型または変異型のアポ蛋白質を構成成分とする組換えカルシウム結合型発光蛋白質に、導入されたシステインを介して、検出すべき物質に特異的なリガンドが1:1の比率で結合する請求項10?13のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項15】 配列番号:2に示されるアミノ酸配列を有するアポ蛋白質、または配列番号:2に示されるアミノ酸配列の6番目のシステインを維持し発光活性を維持する範囲で1?5個のアミノ酸を失欠、置換、付加することによって改変したアポ蛋白質を構成成分とする組換えカルシウム結合型発光蛋白質に、6番目のシステインを介して、検出すべき物質に特異的なリガンドが1:1の比率で結合する請求項14記載の複合体。
【請求項16】 検出すべき物質に特異的なリガンドがビオチンである請求項15記載の複合体。
【請求項17】 配列番号:1に示されるアミノ酸配列のアミノ末端から4番目のアミノ酸残基内に一つのシステインが導入された天然型または変異型のアポ蛋白質を遺伝子工学的に生産し、これを酸素の存在下でセレンテラジンで処理して組換えカルシウム結合型発光蛋白質とし、導入されたシステインを介して、検出すべき物質に特異的なリガンドを1:1の比率で結合させることよりなる複合体の製造方法。
【請求項18】 配列番号:2に示されるアミノ酸配列を有するアポ蛋白質、または配列番号:2に示されるアミノ酸配列の6番目のシステインを維持し発光活性を維持する範囲で1?5個のアミノ酸を失欠、置換、付加することによって改変したアポ蛋白質を遺伝子工学的に生産し、これを酸素の存在下でセレンテラジンで処理して組換えカルシウム結合型発光蛋白質とし、その6番目のシステインを介して、検出すべき物質に特異的なリガンドを1:1の比率で結合させることよりなる請求項17に記載の複合体の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項10?18)
(1b)「【0017】 天然型アポイクオリンのアミノ酸配列は、配列番号:1に示される。システインは、アミノ末端のValから4番目のThrまで領域に導入される。したがって、本発明のカルシウム結合型発光蛋白質の1態様は、配列番号:1に示されるアミノ酸配列のアミノ末端から4番目のアミノ酸残基内に一つのシステインが導入された天然型または変異型のアポ蛋白質を構成成分とする組換えカルシウム結合型発光蛋白質である。配列番号:1のアミノ酸配列のN-末端のValとN-末端から2番目のLysの間、2番目のLysと3番目のLeuの間、3番目のLeuと4番目のThrの間にシステインを挿入することができる。また、N-末端のVal、N-末端から2番目のLys、3番目のLeu、4番目のThrのいずれかをシステインで置換することができる。特に好ましくは、3番目のLeuと4番目のThrの間にシステインを挿入する。
【0018】 アポイクオリンは、遺伝子組換え法によって生産される。アポイクオリンを遺伝子組換え法で製造するに当たって、大腸菌(E. coli)の外膜タンパクA(ompA)遺伝子をアポイクオリン遺伝子と融合させてそれを大腸菌で発現させると高効率でアポイクオリンが生産される。その生産物は、天然型アポイクオリンのN-末端のValがAla-Asn-Ser-で置換されているが、カルシウム結合活性、発光活性において天然型アポイクオリンと同等である(例えば、非特許文献8および非特許文献9参照)。このN-末端にAla-Asn-Ser-を有する変異型アポイクオリンをセランテラジンおよび酸素と結合させたイクオリンが市販されている。この変異型イクオリンにおいては、N-末端から6番目(天然型N-末端から4番目)のThrまでの領域のどこにでもシステインを導入することができる。すなわち、この変異型イクオリンのN-末端のAlaから6番目のThrまでの領域にどこかにシステインを導入することができる。好ましい例は、5番目のLeuと6番目のThrの間にシステインを導入した変異型イクオリンであり、そのアミノ酸配列は配列番号:2に示されている。また、このシステイン導入変異型イクオリンは、6番目のシステインを維持し発光活性を維持する範囲で1?5個のアミノ酸を失欠、置換、付加することによって改変することができる。したがって、本発明の好ましい他の態様は、配列番号:2に示されるアミノ酸配列を有するアポ蛋白質、または配列番号:2に示されるアミノ酸配列の6番目のシステインを維持し発光活性を維持する範囲で1?5個のアミノ酸を失欠、置換、付加することによって改変したアポ蛋白質を構成成分とする組換えカルシウム結合型発光蛋白質である。」
(1c)「【0019】 本発明のカルシウム結合型発光蛋白質は、検出すべき物質に特異的なリガンドと結合し複合体を形成する。本発明は上記の組換えカルシウム結合型発光蛋白質に、該システインを介して、検出すべき物質に特異的なリガンドが1:1の比率で結合する複合体に関する。この発光蛋白質とリガンドの結合比率1:1は、1:1またはその近い比率を意味しており、厳格に解釈されるものではない。
【0020】 本発明に言う、リガンドとは 、検出すべき物質に直接的に結合する物質、または、検出すべき物質に間接的に結合する物質である。例えば、イムノアッセイで抗原部位や抗原量を検出する場合の1次抗体である。イクオリンが結合した1次抗体は、検出すべき抗原に結合するので、イクオリンの発光を測定することにより抗原の部位や量が検出できる。この場合は1次抗体がリガンドとなる。」
(1d)「【0024】 上記の複合体は、システインを導入したアポ蛋白質を遺伝子工学的に生産し、これを酸素の存在下において、セレンテラジンで処理してカルシウム結合型発光蛋白質に再生し、ついで導入されたシステインを介して検出すべき物質に特異的なリガンドを1:1、またはその近くの比率で結合させて製造することができる。このようにアポ蛋白質カルシウム結合型蛋白質として再生した後にリガンドと結合することによって、如何なるリガンドとも結合させることができる。」
(1e)「【0028】 【発明の実施の態様】
発光蛋白質のN-末端へのシステインの導入は、天然型のN-末端から1?4番目のアミノ酸のいずれかをシステインで置換する方法、1?4番目のアミノ酸の間にシステインを挿入する方法のいずれかによって導入することができる。アミノ酸を挿入する方法が好ましい。システインの導入は、当該技術分野において周知の技術、例えばPCR法を用いて発光蛋白質をコードする遺伝子にシステインのコドンを導入することにより実施することができる。次いで、得られたシステイン導入型アポ蛋白質遺伝子を含む組換え発現ベクターを調製し、これを用いて適する宿主細胞内でシステイン導入型アポ蛋白質を発現させる。
【0029】 好ましいアポ蛋白質は、アポイクオリンである。アポイクオリンは配列番号:1で表される天然型アポイクオリンであっても、その変異体であっても良い。その変異体としては、天然型アポイクオリンのN-末端のValがAla-Asn-Ser-で置換されているものが好ましい。システインは、天然型アポイクオリンの4番目のアミノ酸であるThrまでの領域に導入することができる。N-末端がAla-Asn-Ser-で置換されている変異体の場合は、N-末端のAlaから6番目のThrまでの間のどこかにシステインを導入することができる。本発明の最も好ましいシステイン導入型アポイクオリンは、該変異体の5番目のLeuと6番目のThrの間にシステインが導入されたものであり、そのアミノ酸配列は配列番号:2に示される。」
(1f)「【0031】 システイン導入型アポイクオリン遺伝子を含む組換え発現ベクターを用いて適する宿主細胞を形質転換し、当該宿主細胞を培養し、次いで発現した所望のアポ蛋白質を単離する。得られたシステイン導入型アポイクオリンを、酸素の存在下においてセレンテラジンと処理して、システイン導入型イクオリンへ再生する。さらに、発光基質であるセレンテラジンの代わりに、セレンテラジン誘導体(アナログ化合物)を用いることにより、発光活性を有する半合成イクオリンを製造することも可能である。半合成イクオリンは、天然イクオリンに比べて、カルシウムに対するレスポンスの異なるもの、S/N比が改善された性質をもつものが報告されている(例えば、非特許文献10参照)。再生されたイクオリンを例えば疎水性クロマトグラフによって精製することにより、未精製アポイクオリンを含まない、高純度システイン導入型イクオリンとすることができる。
【0032】 システイン導入型イクオリンは、導入したシステイン残基の-SH基を介して、特異的リガンドと結合させることができる。特異的リガンドとの結合手段は、リガンドの物理化学的特性等により異なるが、イクオリン分子サイズおよびリガンドとの立体障害を考慮して、直接的にまたはリンカーもしくはスペーサーを介して結合させる。
【0033】 本発明において用いるリンカーもしくはスペーサーは、-SH基と特異的に反応しうるものであれば特に限定されないが、20オングストローム以上の長さを有するものが好ましい。リンカーもしくはスペーサーとして使用しうる種々の-SH基修飾試薬は市販されており、これらを適宜利用することができる。システイン導入型イクオリンにリガンドを結合させる反応は、30℃以下、好ましくは25℃以下、pH6?8、好ましくはpH6?7.5で行うのが望ましい。」
(1g)「【0035】 【実施例】
実施例1 システイン挿入アポイクオリン発現ベクターの構築
天然型アポイクオリンのN-末端のValがAla-Asn-Serで置換された変異型アポイクオリンの発現ベクターpiP-HE(例えば、非特許文献8参照)から、アポイクオリン遺伝子のN-末端近傍にある制限酵素部位EcoRIをPCR法で欠失したpiP-HEΔEを構築した。変異型アポイクオリンのN-末端より6番目)(天然型アポイクオリンのN-末端より4番目)にシステイン残基をPCR法で導入することにより、システイン挿入イクオリン遺伝子発現ベクターpiP-HE-Cys4を構築した。
【0036】
・・・
Cys4-アポイクオリンのアミノ酸配列は配列番号:2で示される。
【0037】 実施例2 システイン挿入型アポイクオリン生産株の分離
・・・
【0038】 実施例3 システイン挿入型アポイクオリン産生菌株の培養
・・・ 」
(1h)「【0039】 実施例4 菌体からのシステイン挿入型イクオリンの再生および精製
集菌した菌体は、還元剤のジチオスレイトール(和光純薬社製)200mgを含む400mLの緩衝液(50mM Tris-HCl、10mM EDTA、pH7.6)に懸濁した。菌体を氷冷下で2分間超音波破砕処理して破砕した後、20分間遠心分離(12000×g)して上澄み液を集めた。少量のメタノールに溶解した化学合成セレンテラジンを、Cys4-アポイクオリンの1.2倍のモル濃度になるように、上記の上澄み液に添加し、4℃で5時間以上放置した。得られた上澄み液を直ちに、カラム緩衝液(20mM Tris-HCl、10mM EDTA、pH7.6)で平衡化したQ-セファロースカラム(ファルマシア製、直径2cm×10cm)に吸着させ、280nmでの溶出液の吸光度が0.05以下になるまで0.1M NaClを含有する緩衝液でカラムを洗浄した。次いで、カラムに吸着した未再生Cys4-アポイクオリンと再生Cys4-イクオリンの両者を含む画分を0.1M?0.4M-NaClの直線濃度勾配により溶出した。
【0040】 再生Cys4-イクオリンと未再生Cys4-アポイクオリンとの分離は、ブチルセファロース4ファーストフローゲルクロマトグラフィーによって、次のように実施した。
Q-セファロースカラムから溶出したオレンジ色の溶出液に、最終濃度が2Mになるように硫酸アンモニウムを添加した。添加後、不溶性画分を遠心分離により除去した。次いで、2M 硫酸アンモニウムを含む上述のカラム緩衝液で平衡化したブチルセファロース4ファーストフロー(ファルマシア社、カラムサイズ:直径2cm×8cm)にその上澄み液を加え、硫酸アンモニウムの2M?1Mの直線濃度勾配により溶出し、発光活性を有する、即ち再生Cys4-イクオリンを含むオレンジ色画分を収集した。一方、未再生のCys4-アポイクオリンはカラム緩衝液でのみ溶出された。
【0041】 精製画分の純度検定は、12%SDS-PAGEにより実施した。その結果、精製画分について分子量25kDa蛋白質に相当する単一バンドが検出され、その純度はデンシトメーターで測定した結果、98%以上であった(図2)。精製蛋白質濃度をウシ血清アルブミンを標品としてBradford法(バイオラッド社製)により決定したところ、2Lの培養菌体からの高純度Cys4-イクオリン収量は44.6mgであった。
【0042】 実施例5 培養液からのシステイン挿入型イクオリンの再生および精製
培養液から純度98%以上のアポイクオリンを取得し、実施例4に従ってイクオリンに再生し、精製した。精製されたイクオリンを12%SDS-PAGEにより分析したところ、実施例4で得られたものと同じであった。培養液2Lから高純度Cys4-イクオリン10.4mgが得られた。」
(1j)「【0043】 実施例6 マレイミド活性化ビオチンによるビオチン化Cys4-イクオリンの調製
精製Cys4-イクオリンのモル数の1.2から3倍当量のマレイミド活性化ビオチンとをPBS溶液(10mM リン酸緩衝液、2.7mM KCl、137mM NaCl、pH7.4)中において、反応温度0?20℃にて2時間インキュベートすることにより、N-末端に挿入したシステイン残基を特異的にビオチン化した。具体的には次のように実施した。
1.5mlのポリプロピレン製チューブに、800μlのPBS溶液に、PBS溶液に溶解したマレイミド活性化ビオチン(EZ-Link PEO-Maleimide-activated Biotin,Pierce社:スペーサーの長さ:29.1オングストローム)4μl(30nmol)を加え、次いでCys4-イクオリン200μl(10nmol)を添加して、修飾反応を開始させ、暗所で20℃にて2時間反応を行った。修飾反応の経過は、30分ごとに反応液を1μl取り出し、ニトロセルロース膜(バイオラッド社製)にてドットブロットを行い、抗ビオチンウサギ抗体-アルカリフォスファターゼ(シグマ社製)を用いたドットブロット発色法で、ビオチン化を確認した。その結果、0分から1時間で急速にビオチン化が起こるが、2時間以上において顕著なビオチン化の増加は検出されなかった。コントロールとして、システインを挿入していないイクオリンについて、同一の条件でビオチン化を行ったが、ビオチン化はほとんど検出されず、新規に挿入されたシステイン残基のみでビオチン化反応が起こっていることが明らかとなった。
20オングストローム以上のスペーサーを持つマレイミド型の修飾法により、ビオチン以外のリガンド、例えば抗体、抗原、低分子有機化合物等を直接結合させることが可能であることが示された。
【0044】 また、上述のようにして得られたビオチン化Cys4-イクオリンと未反応のCys4-イクオリンの発光活性を比較したところ、ビオチン化により発光活性の低下はほとんど観察されず、ビオチン化Cys4-イクオリンは96%の発光活性を保持していた。また、上記反応系で、反応温度を30℃以上に上げた場合、発光活性は反応時間2時間で50%以下に低下した。さらに、上記反応系をpH8以上で実施すると、発光活性は2時間で、50%以下に低下することも明らかとなった。
したがって、システイン挿入イクオリンのビオチン化反応は、温度30℃以下、好ましくは25℃以下、pH6?8、好ましくはpH6?7.5で行うのが望ましい。
反応後、未反応試薬の除去、ビオチン化Cys4-イクオリンの単離および緩衝液交換は、4℃でのセントリコン10(アミコン社製)を用いた遠心型濾過法の単一工程で行った。この工程は、使用目的の反応系に応じて、緩衝液を交換できる利点がある。発光活性の低下を防ぐため、蛋白質濃度を100ng/mL以上で、-80℃以下の温度で保存する。この場合と6ヶ月以上、著しい活性低下は観察されない。」
(1k)「




」(配列番号2)

イ 刊行物2
(2a)「発明の概要
本発明は、非放射性ターゲッティング免疫試薬であって、腫瘍抗原認識部位、非自己会合性オリゴヌクレオチド配列、および1以上の結合基より成る1以上のオリゴヌクレオチドを具備したものに向けられる。」(15頁10?13行)
(2b)「好ましい、有用な結合基は、Pierce Chemical Compa-ny Immunotechnology Catalog - Protein Modifi-cation Section,(1991および1992)に示されているような種々のヘテロ二感応性交差結合反応剤から誘導される。
有効なこのような反応剤の例には、以下のようなものが含まれるが、これに限定されない。
スルホ-SMCC スルホスクシンイミジル 4-(N-マレイミドメチ ル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート
スルホ-SIAB スルホスクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミ ノベンゾエート
スルホ-SMPB スルホスクシンイミジル 4-(p-マレイミドフェ ニル)ブチレート
2-IT 2-イミノチオラン
SATA N-スクシンイミジル S-アセチルチオアセテート」(25頁13?28行)
(2c)「スキーム1
ヘテロ二感応性結合基SMCC、2-IT、またはSATAを用いた抗体アミン基の派生(derivatization)


スキーム1において、タンパク(抗体、酵素、受容体)は、チオール化されたオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを含有するマレイミド基と共有結合的なカップリングで化学的に修飾される。化学修飾は、二感応性の交差結合剤、好ましくはタンパク官能基(例えばアミン)と反応しうる基を両方に有し得、更にチオール基と反応しうる基も有しうるヘテロ二感応性交差結合剤を用いて行われる。後者は、ハロアセチル、ハロ-アセトアミジル、マレイミド、および活性ジスルフィド機能性基から選択される。
マレイミドおよびチオアルキル基は、ヘテロ二感応性リンカー、即ちスルホスクシンイミド-4-(M-マレイミドメチル)-シクロヘキサン-1-カルボキシレート(スルホ-SMCC)、2-イミノチオラン(2 IT)、またはスクシンイミジル-S-アセチルチオアセテ一ト(SATA)を用いて抗体に結合される。抗体と結合基との反応は、抗体分子一つ当たり約0.5?3の結合剤分子を導入するのに十分な時間行われる。誘導された抗体は、ゲル濾過カラム、より好ましくはSehadex-G-25を用いて精製される。
調製される好ましいタンパク複合体の例(これに限定されない)を以下に示す。
ING-1-NH-CO-シクロヘキサン-CH_(2)-マレイミド
ING-1-NH-C(=NH)-(CH_(2))_(3)-SH
ING-1-NH-CO-CH_(2)-SH」(43頁3行から44頁1行)
(2d)「例10
(10a)スルホ-SMCCをもつ抗体マレイミド(InG
-1-マレイミド)の調製
PBS中のスルホ-SMCC溶液(108nモル)を、リン酸緩衝液(pH7)中のキメラ抗体(InG-1;18nモル)の溶液の試料に加えた。得られた混合物を時折混合しながら室温にて30分間放置した。反応を60nモルの塩基性トリス緩衝液を用いて停止した。反応混合物を、リン酸で緩衝された生理食塩水を用いて希釈し、前洗浄したPD-10カラムに加え、PBSを用いてInG-1-マレイミドが得られるまで溶出した。材料を使用するまで氷上に保存した。」(64頁24行から65頁5行)
(2e)「例11
(11a)2-イミノチオレンを用いたメルカプトアルキル
-I-QI-I、5’-Teg-I-Q_(I)-I-3’
-SHの調製
水中の5’-Teg-I-Q_(I)-I-3’-NH_(2)(30nモル)溶液の試料をIM炭酸塩緩衝液(pH9)と混合し、890mMの最終緩衝液濃度を得た。12μモルの2-イミノチオレンの水溶液を緩衝されたDNAに添加し、これらの反応物をボルテックス混合し、37℃に30分間維持した。
反応混合物は、12μモルのエタノールアミンを添加することにより停止され、リン酸で緩衝された生理食塩水で希釈し、前洗浄したNAP-25カラム(pharmacia)に加え、PBSを用いて5’Teg-I-Q_(I)-I-3’NHC(NH_(2)^(+))CH_(2)CH_(2)CH_(2)SHが得られるまで溶出させた。マレイミドの導入された抗体との複合化に使用するため、生成物をカラムから直接抗体溶液へ溶出させた。
一方、メルカプトアルキル-I-Q_(I)-Iを使用するまで氷上に保存した。
(11b)2-イミノチオランを用いたメルカプトアルキル
-I-Q_(I)-I、5’-HS-I-Q_(I)-I-3’
-Tegの調製
5’-H_(2)N-I-Q_(I)-I-3’-Teg(30nモル)を例11aのように処理し、5’-HSCH_(2)CH_(2)CH_(2)(NH_(2)^(+))CHN-I-Q_(I)-I-Tegを得た。」(65頁14行から66頁5行)
(2f)「例12
(12a)抗体マレイミドと5’Teg-I-Q_(I)-I-3’
NHC(NH_(2)^(+))CH_(2)CH_(2)CH_(2)SHの複合体形
成;ING-1-マレイミド-3’-S-I-Q_(I)
-I-5’-T
5’Teg-I-Q_(I)-I-3’NHC(NH_(2)^(+))CH_(2)CH_(2)CH_(2)SH(例11aに従って調製された)の試料(108nモル)を、例10aに従って調製されたマレイミドの導人されたING-1(18nモル)の溶液中にNAP-25カラムから直接溶出した。混合後、反応を4℃にて20時間進行させた。その後、反応混合物をセントリコン-100分離した。試料を新しいPBS中に再懸濁し、260nmと280nmでの吸光度の比率が一定になるまで遠心分離による濃縮をさらに3度繰り返した。最終生成物はInG-1-マレイミド-S-(CH_(2))3-C(NH_(2)^(+))NH-3’I-Q_(I)-I-5’Tegである。
(12b)抗体マレイミドと5’-HSCH_(2)CH_(2)(NH
_(2)^(+))CNH-I-Q_(I)-I-Teg-3’の複合体
形成、ING-1-マレイミド-5’-S-I-Q
_(I)-I-Teg 5’-HSCH_(2)CH_(2)CH_(2)(NH_(2)^(+))CNH-I-Q_(I)-I-Teg(例11bに従って調製された)の試料(108nモル)を、例12aのようにしてマレイミドの導入された18nモルのING-1と複合体を形成させ、ING-1-マレイミド-5’S-(CH_(2))_(3)-C(NH_(2)^(+))NH-I-Q_(I)-I-3’Tegを得た。
(12c)ING-1-マレイミド-S-I-Q_(I)-I複合
体の分析
2つのING-1-マレイミド-S-(CH_(2))_(3)-C(=NH)NH-I-QI-I試料の光学密度を260nmと280nmにおいて分光光度計で測定した。これらの2つの波長での光学密度の比を計算し、これらの波長のそれぞれにおける抗体およびオリゴヌクレオチド(分子量約16500)に対する既知の消光係数(extinction coefficients)を用いることにより、オリゴヌクレチド分子の数を、抗体あたり1から2のI-Q_(I)-Iであると見積った。
複合体溶液内でのING-1の濃度を、バイオラドタンパク質分析(BioRad protein assay)により、標準タンパクとしてウシ免疫グロブリンを用いて決定した。複合体を形成させたI-Q_(I)-Iに起因する吸光度に対して複合体の光学密度を補正すると、これらのデータは、280nmでの複合体の吸光度を測定することにより決定された抗体濃度とよく一致した。抗体-I-Q_(I)-I複合体を酸消化とアミノ酸分析にかけることにより、これらの2組のデータをさらに確認した。
抗体-I-Q_(I)-I複合体を、ヒト腫瘍細胞系(この細胞系に対して抗体を生じさせる。)の表面上の抗原に結合する能力を試験した。複合体の免疫反応性を、フローサイトメトリー(flow cytometry)により、修飾及びI-Q_(I)-Iへの複合体形成を受ける前の抗体の標準調製物と比較した。標的のHT29細胞(ヒト腺癌細胞系:ATTC)を、組織培養フラスコ内で10%胎児ウシ血清を添加したMcCoyの培地を用いて群集的に(confluency)に培養した。細胞を、細胞スクレイパー(cell scraper)を用いてフラスコ壁からかき落として回収した。多くの別個のフラスコから細胞を集め、ペレットになるまで遠心分離し、0.1%ウシ血清アルブミン(Sigma)と0.02%アジ化ナトリウムを添加した150mM塩化ナトリウム緩衝液pH7.4(PBS)(フロー緩衝液)を有する氷冷50mMリン酸ナトリウム溶液内で5x10^(5)/mLで再懸濁した。細胞を、同じ緩衝液中で洗浄し、次いで計数した。抗体の標準曲線を、関連性のない(非結合性の)アイソタイプに適合した対照抗体(ヒトIgG1)を用いてING-1の保存溶液を希釈することによって構築し、ING-1の含量が10%から100%までの範囲にある多くの試料を得た。標準曲線を、それぞれの試料が1mLあたり1.0μgの抗体タンパク質を含むようにフロー緩衝液中で作製した。その後、標準曲線より得た試料および未知試料を5×10^(5)のHT29細胞を用いて4℃で1時間インキュベートした。未結合の抗体を除くための入念に洗浄した後、細胞を100μlのフロー緩衝液に再懸濁し、蛍光性イソチオシアネート(FITC)を用いて標識されたヤギ-抗-ヒト抗体と4℃で1時間インキュベートした。フロー緩衝液でさらに洗浄した後、試料をコオルターEPICS753フローサイトメーター(Coulter EPICS 753 flowcytometer)でフローサイトメトリーにより分析した。FITCとヨウ化プロピジウム(PI)からの蛍光をアルゴンレーザーの488nmの発光線(emission Iine)を用いて励起した。出力を光調節モードにおいて500mWにセットした。単一の細胞を90゜及び前方の角度の光散乱により同定した。集合体や細胞残骸から単一の細胞を分離するために分析ウインドウ(analysis windows)をこれらのパラメーターに適用した。FITCとプロピジウム(propidium)に起因する蛍光を、550nmロングパス二色性フイルター(long pass dichroic filter)を用いて分離し、530nmバンドパスフイルター(band pass filter)(FITCに対して)と635nmバンドパスフィルター(PIに対して)を通して集めた。光散乱パラメーターは積算されたパルス(integrated pulses)として集められ、蛍光は対数積算されたパルス(log integrated pulses)として集められた。死細胞はPIの取り込みに対して陰性の細胞に分析ウインドウを据えることにより分析から除外された。試料あたりの平均蛍光(2500細胞からの加重平均)を、それぞれのヒストグラムに対して算出した。FITCの目盛り用ビーズ(calibration beads)を分析し、それぞれの実験における蛍光標準曲線を確立した。次いで、それぞれの試料に対する平均蛍光強度を細胞あたりの平均FITC等量として示した。免疫反応性を、未知の試料の平均蛍光強度と標準曲線からの値とを比較することにより算出した。免疫反応性分析から、ING-1-マレイミド-S-(CH_(2))_(3)-C(NH_(2)^(+))NH-3’I-Q_(I)-I5’TegはING-1標準と同程度の67.8%の免疫反応性があり、ING-1-マレイミド-S-(CH_(2))_(3)-C(NH_(2)^(+))NH-5’I-Q_(I)-I3’Tegは81.5%の免疫反応性を示した。別の一連の実験において、ING-1-I-Q_(I)-I(3’複合体)とING-1-Q_(I)-I(5’複合体)の免疫反応性は、それぞれ68%と59%であると決定された。
・・・・・
これらの複合体の試料はまた、それらの見かけの分子量及び調製物の不均一性を評価するために、SDS緩衝液を用いてノベクス(Novex)6%ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動にかけられた。同じゲル上で泳動された既知の分子量をもつ標準を用いて、移動した距離(Rf)と分子量の対数との間で標準曲線を作製した。この標準曲線から、それぞれの複合体調製物に関連したバンドの相対分子量を決定した(表1参照)。ING1-I-Q_(I)-I及びING-1抗体のSDS PAGEゲルにより、ING-1-I-Q_(I)-I複合体の分子量は抗体のみのそれよりも大きいことが示された。」(67頁10行から71頁5行)

ウ 刊行物3
(3a)「本発明の概要
一態様において、本発明は、モノアミンオキシダーゼの残基、連結基(linkinggroup)、及び免疫反応性物質の残基を具備する非放射性ターゲッティング免疫試薬(これ以後、しばしばNRTITRと称する。)であって、該免疫反応性物質が注目の組織の細胞上の部位に結合しうるものに向けられる。
本発明はまた、前記モノアミンオキシダーゼに特異的なリガンド、連結基、及び放射活性試薬を具備する放射性輸送試薬(これ以後、しばしばRDAと称する。)であって前記組織の周辺領域に投与されるものに向けられる。前記RDAのリガンドは、注目の組織の細胞に結合する前記NRTIRの受容体に結合し、これによって効果的な量の放射能を前記組織に提供するであろう。結合していないRDAは前記組織の周辺領域から速やかに除去されうる。
特に、一つの側面(これ以後、しばしばシステムAと称する。)では、本発明は、受容体部分の残基であって、該受容体部分がモノアミンオキシダーゼ酵素のタンパク様活性部位の残基(これ以後、しばしばMAOと称する。)を含有するもの、連結基、及び免疫反応性物質の残基を具備したNRTIR、並びに、前記MAO受容体部分に特異的なリガンド、連結基、及び放射性試薬を具備するRDAを包含する。他の側面(これ以後、しばしばシステムBと称する。)において、本発明は、MAO受容体部位に特異的なリガンドの残基、連結基、及び免疫反応性物質の残基を具備したNRTIR、並びに、MAO受容体部位の残基、連結基、及び放射性試薬を具備したRDAを包含する。
好ましくは、システムAにおいて、本発明は、モノアミンオキシダーゼ酵素のタンパク様活性部位、連結基、及び腫瘍を標的とする抗体の様な免疫反応性物質の残基と供に、前記MAOに特異的なリガンド、連結基、及びキレート剤及び放射性核種を含有する放射性試薬を具備するRDAに向けられる。
好ましくは、システムBにおいて、本発明は、MAO受容体部分に特異的なリガンドの残基、連結基、及び腫瘍を標的とする抗体のような免疫反応性物質の残基を具備するNRTIRと供に、MAO受容体部分の残基、連結基、及びキレート剤及び放射性核種を含有する放射活性試薬を具備するRDAに向けられる。」(10頁21行から11頁20行)
(3b)「

」(19頁)
(3c)「システムAにおいて、MAOは、免疫反応性基、好ましくは抗体若しくは抗体フラグメント、最も好ましくはING-1と共有結合的にカップリング、即ち複合体を形成し、システムのNRTIR(即ち、Z-L1-Rec)を形成する。
・・・
システムAにおいて、化学的な複合体形成は、例えば連結基(L1)の使用を具備した技術であって、例えば免疫反応性基上の所定の部位の修飾を介して導入されるものによって達成されうる。活性化されたエチレン基(例えばマレイミド基)のような活性化された基を、タンパクのリジンイプシロン-アミンのようなアミンに導入することが、スキーム1に示されている。他の技術には、例えば米国特許第4,719,182に開示されているような異種二官能性(heterobifun-ctional)結合部分及び化学的修飾の使用が含まれる。加えて、SMCC、即ちスクシンイミジル 4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(これは一般に、例えばPierce Chemical Companyから商業的に入手可能である。)のようなこれらの化学品が制限されないレイとして含まれる。
システムA及びシステムBの両方において、一つの側面では、化学的な複合体形成は、他の方法では、MAO(又は、ジスルフィド結合を含んだ試薬(この制限されない例の1つには、Pierce Chemical Companyから入手可能なスクシンイミジル 3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート、SPDPがある。)によって修飾されたMAO)のジスルフィド結合の穏和な還元を介して導入される連結基(それぞれL1及びL2)を用いて達成される。該還元ではジチオトレートールのような還元現在を使用し、還元されたMAOタンパク部分でスルフヒドリル(sulfhydryl)(SH)部位を生じる。システムAでは、このように還元されたMAOタンパク部分(HS-MAOタンパク)を、上記のマレイミドで修飾された抗体(Ab-M)に付加し、1以上のチオエーテル結合によってお互いに連結される抗体/受容体複合体(Ab-M-S-MAOタンパク)を生じる。加えて、2つのタンパクの共有結合に使用しうる、例えばPierce Chemical Company等から一般に商業的に入手可能なこれらの化学品が、システムAの抗体にMAOをカップリングする場合の非制限的な例として含まれる。」(20頁1行から21頁10行)
(3d)「例11
(11a)
スルホ-SMCCに対する抗体の反応;
ING-1-マレイミドの調製
(Z-(L_(1))の形成)
リン酸緩衝生理的食塩水(PBS)によるスルホ-SMCC溶液(36ナノモル;ピアスケミカル社(Pierce Chemical Co.))を、キメラ抗体(ING-1;6ナノモル)を含有するリン酸緩衝溶液(pH7)に加える。得られた反応混合物を、時々混合操作しながら室温で30分間放置した後、この反応を60ナノモルのトリス塩基緩衝液により停止させる。その反応混合物をリン酸緩衝生理的食塩水で希釈し、前洗浄されたPD-10カラムに加え、PBSにより溶出してING-1-マレイミドを得る。この物質を使用時まで氷上で保存する。」(59頁7?19行)
(3e)「例12
(12a)
SATAを用いたMAOの反応;
メルカプト-MAOの調製
((L_(1)-Rec)の形成)
50ナノモルのMAOを含有するPBS溶液を、DMSO中の500ナノモルのSATAを加えると同時にボルテックスミキサーにかける。混合し、室温中で60分間放置した後に、反応混合物をPBSにより希釈し、PD-10カラムからPBSにより溶出して、S-アセチルチオアセチル化MAOであるMAO(NH)-CO-CH_(2)-S-CO-CH_(3)を得る。このS-アセチルチオアセチル化MAOを、100mMのリン酸ナトリウム,25mMのEDTAおよび100mMのNH_(2)OHを含有するpH7.5の溶液25mLを加えることにより脱アシル化する。この反応を室温で2時間進行させ、その後、該物質をPBSで溶出することによりPD-10カラムを通す。最終生成物のMAO(NH)-CO-CH_(2)-SHはそのまま用いられる。
(12b)
2-イミノチオランに対するMAOの反応;
メルカプトアルキル-MAO、MAO(NH)C
(=NH_(2)^(+))CH_(2)CH_(2)CH_(2)SHの調製
((L_(1)-Rec)の形成)
MAO試料(50ナノモル)を、0.1M炭酸緩衝液(pH9.0)に溶解し、2-イミノチオラン(ピアスケミカル社)の4ミリモル水溶液を加える。反応物をボルテックスで混合し、室温で120分間反応を継続させる。この反応混合物に、リン酸緩衝生理的食塩水で希釈した4ミリモルのエタノールアミンを加えることにより反応を停止させる。次いで、この反応混合物を前洗浄されたPD-10カラムに加え、PBSにより溶出してMAO(NH)C(=NH_(2)^(+))CH_(2)CH_(2)CH_(2)SHを得る。ING-1-マレイミドへの結合に用いる際には、該生成物をカラムから溶出して、これを直接ING-1溶液に加える。」(61頁2行から62頁1行)
(3f)「例13
スルフヒドリル含有種とマレイミド含有種との反応を
用いた、MAOを抗体に結合させるための一般的方法
(Z-(L_(1)-Rec)_(n)の形成)
下記の手順は、スルフヒドリル含有種抗体とマレイミド含有種MAOとの結合と同様、スルフヒドリル含有MAOとマレイミド含有抗体との結合にも一般的に適用可能である。特に、下記の手順は、例11aのING-1-マレイミドと例12aのメルカプト-MAOとの結合;例11aのING-1-マレイミドと例12bのMAO(NH)C(=NH_(2)^(+))CH_(2)CH_(2)CH_(2)SHとの結合;例11bのING-1-(NH)C(=NH_(2)^(+))CH_(2)CH_(2)CH_(2)SHと例12cのMAO-マレイミドとの結合;例11cのING-1-(NH)-CO-CH_(2)-SHと例12cのMAO-マレイミドとの結合について適用可能である。
この一般的手順において、タンパク質間の過剰結合(over-conjugation)を最小化するために、結合に際しては、スルフヒドリル含有反応種(例えば、例12aのメルカプト-MAO;例12bのMAO(NH)C(=NH_(2)^(+))CH_(2)CH_(2)CH_(2)SH;例11bのING-1-(NH)C(=NH_(2)^(+))CH_(2)CH_(2)CH_(2)SH;および例11cのING-1-(NH)-CO-CH_(2)-SH)とマレイミド含有反応種(例えば、例11aのING-1-マレイミドおよび例12cのMAO-マレイミド)とのモル比を一定値に維持する。
上記に記載されたスルフヒドリル含有反応物種の新たに調製された試料(50ナノモル)を、PD-10カラムから溶出して、上記に記載されたマレイミド含有反応物種の溶液(5ナノモル)に直接加える。簡単な混合操作の後、該溶液を、セントリコン(Centricon)30TM装置での遠心分離により、約3.0mg/mLタンパク質の濃度まで速やかに濃縮する。次いで、反応を室温で4時間進行させる。このように調製された抗体-MAO複合体を、YM-100メンブレンフィルターが装着されたアミコン(Amicon)攪拌セルに移し、このサンプルをPBSにより10mLに希釈し、次いで、5kg/cm^(2)の窒素圧の下で約500マイクロリッターの量まで濃縮する。残留した(retentate)物質を再びPBSにより10mLに希釈し、1.0mLに再濃縮する。この手順、即ち、保持されている抗体-MAO複合体および非複合抗体から非複合MAOおよびその他の低分子量物質種を分離する手順を、4回繰り返すか、または280nmでの分光光度計による透過濾液(diafiltrate)のモニタリングにおいて該濾液中にもはやタンパク質が存在しないことが示されるまで反復する。次いで、該残留(retentate)物質を、ミリリットル溶液当りの抗体-MAO複合体が約1.0mgとなるまで濃縮する。次いで、この溶液を、150mM塩化ナトリウムを補充したpH7.2の50mMリン酸ナトリウム緩衝溶液で平衡化された2.6×60cmのセファクリル(Sephacryl)S-200(ファーマシア(Pharmacia))サイズ排除カラムに加え、同じ緩衝溶液で溶出させる。このカラムによって、抗体-MAO複合体から非複合抗体が分離される。複合体を含む溶出液の画分をプールし、次いで、ミリリットル溶液当りの抗体-MAO複合体が約1.0mgの濃度となるまで、セントリコン(Centricon)30装置において遠心分離する。この複合体の溶液を0.22mフィルターにより濾過滅菌(sterile filtered)し、使用時まで4℃で保存する。
この反応混合物に対して、^(125)IによりラベルされたMAOまたは^(125)IによりラベルされたING-1のいずれかの既知トレース量を添加することにより、結合後における一方のタンパク質の他方に対する比を、MAO活性およびING-1アッセイ法のそれぞれにより定量することが可能になる。」(62頁24行から64頁16行)

エ 刊行物4
(4a)「【0002】 1. 発明の分野
本発明は、そのそれぞれが抗原分子に結合する1つ以上の抗原結合性抗体フラグメントに架橋されたC3b様受容体に結合する抗体を含む二重特異性分子に関する。本発明はまた、このような二重特異性分子を製造する方法、およびこのような二重特異性分子の治療的使用にも関する。」
(4b)「【0075】 5.2.3.二重特異性分子の作製
本発明の二重特異性分子は、1つ以上の抗原結合性抗体フラグメントと、抗CR1モノクローナル抗体(例えば、米国特許第5,879,679号に記載の7G9抗体)との共有結合コンジュゲート体であり得る。任意の標準的な化学架橋方法が本発明において使用できる。二方向性架橋体を用いる架橋方法を用いることが好ましい。二方向性ポリエチレングリコール架橋体を用いる架橋法を用いることが好ましい。例えば、プロテインA、グルタルアルデヒド、カルボジイミド、N-スクシンイミジル-S-アセチル-チオアセテート(SATA)、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、スルホスクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(sSMCC)およびポリエチレングリコール-マレイミド、例えば、モノメトキシポリエチレングリコール-マレイミド(mPEG-MAL)、NHS-ポリエチレングリコール-マレイミド(PEG-MAL)、スクシンイミジル6-ヒドラジノニコチネートアセトンヒドラゾン(SANH)、またはスクシンイミジル4-ホルミルベンゾエート(SFB)等(ただし、これらに限定されない)の架橋剤が使用できる。
【0076】 好適な実施形態では、SATAを使用して、抗原結合性抗体フラグメントを誘導体化する。当業者は、抗原結合性抗体フラグメントおよびSATAの濃度を決定することができる。一実施形態では、限定しない例として、以下のプロトコールを使用する。SATA含有DMSOの溶液を調製する。抗原結合性抗体フラグメントをPBSE緩衝液に対して透析する。約1:6のモル比で抗原結合性抗体フラグメントとSATAを混ぜることにより結合反応を開始させる。反応物を上下反転により混合し、室温にて混合しながら所望の時間にわたりインキュベートする。ヒドロキシルアミンおよびEDTAをMESに添加して、ヒドロキシルアミンHCl溶液を調製する。ヒドロキシルアミンHCl溶液を、SATA結合ステップで得た反応混合液に適切なモル比(例えば、約2000:1のモル比)で添加し、室温にてアルゴン雰囲気下で所望の時間にわたりインキュベートする。次いで、反応混合液を、Amersham Hi-Prep脱塩カラムを使用したMES緩衝液中でのクロマトグラフィーにより脱塩する。その後、SATA誘導体化抗原結合性抗体フラグメントを、適切に誘導体化した抗CR1抗体(例えば、マレイミド誘導体化抗CR1抗体)とともに使用して、本発明の二重特異性分子を作製する。
【0077】 別の好適な実施形態では、システイン残基を含む抗原結合性抗体フラグメントを、宿主細胞により、遊離チオールが維持されるように作製する(例えば、Carter, 米国特許第5,648,237号(参照により本明細書にその全体を援用する)を参照)。遊離チオールを含む抗原結合性抗体フラグメントは、宿主細胞により分泌されることが好ましい。その後、遊離チオールを含む抗原結合性抗体フラグメントを回収し、適切に誘導体化された抗CR1抗体(例えば、マレイミド誘導体化抗CR1抗体)と共に使用して、本発明の二重特異性分子を作製できる。
【0078】 一実施形態では、当該分野で公知の任意の方法を用いて抗CR1抗体をマレイミドで誘導体化する。当業者は、抗CR1抗体上で所望の数の架橋部位を得るための抗CR1抗体およびマレイミドの濃度を決定できる。好適な実施形態では、抗体は、以下のようにマレイミドで誘導体化される。すなわち、sSMCCコンジュゲーション溶液の新鮮なストック溶液をPBSE緩衝液中に調製する。PBSE緩衝液に対して抗体を完全に透析する。抗体およびsSMCCを約1:6のモル比で混ぜることにより結合反応を開始させる。反応物を上下反転により混合し、室温にて混合しながら60分間インキュベートする。2つのPharmacia 26/10脱塩カラム(カタログ番号No. 17-5087-01)を連続して用いてFPLCを使用したサイズ排除クロマトグラフィーを行うことによりsSMCC抗体を回収する。カラムは、反応混合液を充填する前に、製造元の指示書に従って、蒸留水でおよびそれに続いてPBSE緩衝液で予め洗浄することが好ましい。マレイミドで修飾された抗体をPBSE緩衝液で空隙容量にて溶出させるが、これは15分以内に使用しなければならない。その後、マレイミド誘導体化抗CR1抗体を、適切な抗原結合性抗体フラグメント(例えば、SATA誘導体化抗CR1抗体)と共に使用して、本発明の二重特異性分子を作製できる。」
(4c)「【0141】 6.1.二重特異性分子:7G9-SMCC-14B7Fab
高親和性抗CR1モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ細胞系を使用して、7G9(マウスIgG2a、κ)抗CR1 モノクローナル抗体(mAb)を生成した。この細胞系からマスター・セル・バンク(master cell bank; MCB)を作製し、マウス抗体産生、マイコプラズマおよび無菌についてテストした(Charles River Tektagen)。二重特異性分子の作製において使用する7G9抗体を産生させて、腹水から精製した。
【0142】 炭疽菌PA結合性抗体フラグメントは、炭疽菌PA結合性mAb 14B7のFabフラグメントであった。パパインを使用して14B7 モノクローナル抗体(mAb)を消化することによりFabフラグメントを作製した。
【0143】 作製工程を示すフローチャートを、図1Aおよび1Bに示す。
【0144】 14B7 Fab抗原結合性抗体フラグメントを、以下のとおりにSATAで誘導体化した。SATAのDMSO溶液を調製した。14B7 FabをPBSE緩衝液に対して一晩冷蔵庫内で透析した。7.2μlのSATA溶液(0.025 mg、108 nmol)を、18 nmolの透析した14B7 Fabに(約6:1のモル比で)添加した。反応物を、室温にて、15?30分毎に緩やかに上下反転しながら約2時間インキュベートした。0.76 gヒドロキシルアミンおよび1.0 ml 0.5 M EDTAを、25 ml MES (pH 7.5)に添加することにより、ヒドロキシルアミンHCl溶液を調製した。72μlのヒドロキシルアミンHCl溶液(2.79mg、36μmol)を、SATA結合ステップで得た反応混合液に添加し(14B7 Fabに対して約2000:1のモル比)、室温にてアルゴン雰囲気下で約2時間インキュベートした。次いで、反応混合液を、MES緩衝液中でAmersham Hi-Prep脱塩カラム(26/10)を使用したクロマトグラフィーにより脱塩する。プールしたサンプルを3.8 ml回収した。回収したサンプルは2.2 mgであり、0.57 mg/ml(A280)のタンパク質濃度を有しており、これは約81.4%の回収率であった。SATAで修飾された抗原結合性抗体フラグメント14B7fab-SHを、PBSE緩衝液で空隙容量にて溶出した。
【0145】 7G9抗体を、以下に記載するようにsSMCCで誘導体化した。6×sSMCCコンジュゲーション溶液の新鮮なストック溶液をPBSE緩衝液中に調製した。PBSE緩衝液に対して抗体を完全に透析した。抗体とsSMCCを約1:6のモル比で混ぜることにより結合反応を開始させた。反応物を上下反転することにより混合し、室温にて混合しながら2時間インキュベートした。2つのPharmacia 26/10脱塩カラム(カタログ番号17-5087-01)を連続して用いてFPLCを使用したサイズ排除クロマトグラフィーによりsSMCC-抗体を回収した。カラムは、反応混合液を充填する前に、製造元の指示書に従って、蒸留水で、そしてその後PBSE緩衝液で、予め洗浄した。マレイミドで修飾された抗体7G9-MALを、PBSE緩衝液で空隙容量にて溶出した。
【0146】 2つの異なる14B7Fab-SHおよび7G9-MALコンジュゲーション反応混合液(それぞれET140-90およびET140-91と称する)を調製した。ET140-90では14B7Fab-SHと7G9-MALとを1:1(14B7Fab-SH:7G9-MAL)のモル比で組み合わせ、ET140-91ではそれらを2:1のモル比で組み合わせた。反応混合液を4時間インキュベートした。ET140-90およびET140-91をそれぞれ6日間および7日間静置した。ET140-90およびET140-91をN-エチルマレイミド(NEM, Pierce, No 23030, CAS 128-53-0)中で反応停止し、S300 SECクロマトグラフィーを使用して分画した。
【0147】 サンプルET140-54Dは、反応混合液ET140-90のS300カラム通過由来のプール画分であった。5mlの反応混合液を充填したS300カラム通過(ET140-90)から108の2 ml画分が生成された。画分24?57からの68 mlのプールをET140-54Dと名付けた。限外濾過によりサンプルDをさらに処理して、その調製物を最終容量0.5 mlにまで濃縮させた。SDS-PAGE分析は、サンプルDが、遊離抗体、およびより高分子量(MW)の二重特異性分子を含むことを示す。
【0148】 サンプルET140-54Jは、反応混合液ET140-91のS300カラム通過由来のプール画分であった。5mlの反応混合液を充填したS300カラムの通過(ET140-91)から108の2 ml画分が生成された。画分25?57からのプールをET140-54Jと名付けた。プールした容量は記録しなかった。限外濾過によりサンプルJをさらに処理して、その調製物を最終容量1.0 mlにまで濃縮させた。SDS-PAGE分析は、サンプルJが遊離抗体およびより高分子量(MW)の二重特異性分子を含むことを示す。図1Cは、サンプルET140-54Jを含むTris-グリシンSDS PAGEの写真を示す。
【0149】 サンプルET140-54JおよびET140-54DについてのSDS-PAGE、機能的CR1結合(CAA)、機能的PA結合(PAA)、二価結合(HPCA)およびタンパク質含量(ローリー)のデータを表Iにまとめた。
【0150】 ローリーのデータは、二重特異性分子画分140-54Dにおいて0.125 mgのタンパク質が回収されたことを示す。これは、開始時の合計抗体投入量(2.1 mg)の6%に当たる。SDS-PAGE分析は、サンプルDが多重結合した種および約50%の無反応抗体を含んでいたことを示す。
【0151】 ローリーのデータは、二重特異性分子画分140-54Jにおいて0.247 mgのタンパク質が回収されたことを示す。これは、開始時の合計抗体投入量(3.2 mg)の8%に当たる。SDS-PAGE分析は、サンプルJが多重結合した種および約50%の無反応抗体を含んでいたことを示す。
【0152】 140-54Jおよび140-54Dの両方の画分が、CAAアッセイで示されたのと同様のCR1結合活性を示した。140-54Jおよび140-54Dの両方の画分が、PAAアッセイで示されたのと同様の炭疽菌PA結合活性を示した。140-54Jおよび140-54Dの両方の画分が、HPCAアッセイで示されたのと同様に、2つの機能成分が成功裏に架橋したことを示す二価結合活性を示した。
【表1】



(4d)「【図1A】



(4e)「【図1B】



(4f)「【図1C】




2 刊行物に記載された発明
刊行物1の請求項18には「配列番号:2に示されるアミノ酸配列を有するアポ蛋白質を遺伝子工学的に生産し、これを酸素の存在下でセレンテラジンで処理して組換えカルシウム結合型発光蛋白質とし、その6番目のシステインを介して、検出すべき物質に特異的なリガンドを1:1の比率で結合させる複合体の製造方法」が記載されている(摘示(1a))。そして、具体例として、まず、配列番号:2(以下、本願発明の配列番号と区別するために「配列番号2’」という。)に示されるアミノ酸配列を有するCys4-アポイクオリンを発現するpiP-HE-Cys4プラスミドを、天然型アポイクオリンのN-末端のValがAla-Asn-Serで置換された変異型アポイクオリンの発現ベクターを出発物質として単離し(摘示(1g)の実施例1)、前記組換えプラスミドpiP-HE-Cys4を発現ベクターとし、大腸菌WA802株を宿主として使用して形質転換を実施し、形質転換体20株を培養し、最も高いCys4-アポイクオリン産生菌株を種株として選択し(摘示(1g)の実施例2)、前記種株を培養してCys4-アポイクオリン精製の出発材料を得て(摘示(1g)の実施例3)、集菌した菌体を還元剤のジチオスレイトール200mgを含む400mLの緩衝液(50mM Tris-HCl、10mM EDTA、pH7.6)に懸濁し、2分間超音波破砕処理して破砕した後、20分間遠心分離(12000×g)して上澄み液を集め、少量のメタノールに溶解した化学合成セレンテラジンを、Cys4-アポイクオリンの1.2倍のモル濃度になるように、前記上澄み液に添加し、4℃で5時間以上放置した後、前記上澄み液を直ちに、カラム緩衝液(20mM Tris-HCl、10mM EDTA、pH7.6)で平衡化したQ-セファロースカラム(ファルマシア製、直径2cm×10cm)に吸着させ、280nmでの溶出液の吸光度が0.05以下になるまで0.1M NaClを含有する緩衝液でカラムを洗浄し、カラムに吸着した未再生Cys4-アポイクオリンと再生Cys4-イクオリンの両者を含む画分を0.1M?0.4M-NaClの直線濃度勾配により溶出し、溶出液に最終濃度が2Mになるように硫酸アンモニウムを添加した後、不溶性画分を遠心分離により除去し、2M硫酸アンモニウムを含む上述のカラム緩衝液で平衡化したブチルセファロース4ファーストフロー(ファルマシア社、カラムサイズ:直径2cm×8cm)にその上澄み液を加え、硫酸アンモニウムの2M?1Mの直線濃度勾配により溶出し、発光活性を有する、即ち再生Cys4-イクオリンを含むオレンジ色画分を収集し、精製画分の純度検定を12%SDS-PAGEにより実施した結果、分子量25kDa蛋白質に相当する単一バンドが検出され、その純度はデンシトメーターで測定した結果、98%以上であることを確認した(摘示(1h)の実施例4)。次に、800μlのPBS溶液(10mM リン酸緩衝液、2.7mM KCl、137mM NaCl、pH7.4)に、PBS溶液に溶解したマレイミド活性化ビオチン(EZ-Link PEO-Maleimide-activated Biotin,Pierce社:スペーサーの長さ:29.1オングストローム)4μl(30nmol)を加え、次いでCys4-イクオリン200μl(10nmol)を添加して、修飾反応を開始させ、暗所で20℃にて2時間反応を行い、ビオチン化Cys4-イクオリンを調整し、未反応試薬の除去、ビオチン化Cys4-イクオリンの単離および緩衝液交換を、4℃でのセントリコン10(アミコン社製)を用いた遠心型濾過法の単一工程で行い、ビオチン化Cys4-イクオリンが96%の発光活性を保持していることが確認されている。
そうすると、刊行物1には「配列番号2’に示されるアミノ酸配列を有するCys4-アポイクオリンを遺伝子工学的に生産し、これを酸素の存在下でセレンテラジンで処理してCys4-イクオリンとし、その6番目のシステインを介して、マレイミド活性化ビオチンをモル比で1:3の割合で20℃にて2時間反応させる、イクオリンとビオチンとの複合体の製造方法」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
ここで、配列番号2’のアミノ酸配列は、以下のとおりである。





3 対比
引用発明における「Cys4-アポイクオリン」及び「Cys4-イクオリン」は、それぞれ本願発明の「システインが導入されたアポ蛋白質」及び「組換えカルシウム結合型発光蛋白質」に相当し、上記「Cys4-イクオリン」は、「Cys4-アポイクオリン」を酸素の存在下でセレンテラジンで処理して得られたものであって、「Cys4-アポイクオリン」を構成成分とするものである。
本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、「システインが導入されたアポ蛋白質を構成成分とする組換えカルシウム結合型発光蛋白質と、マレイミド基を有する物質とを反応させるイクオリンと物質との複合体の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)アポ蛋白質のアミノ酸配列が、本願発明は、配列番号2に示されるものであるのに対し、引用発明は、配列番号2’で示されるものである点
(相違点2)本願発明は、マレイミド基を有する物質として「マレイミド基を有する抗体」を用いているのに対し、引用発明は「マレイミド活性化ビオチン」を用いている点
(相違点3)本願発明は、マレイミド基を有する架橋試薬と抗体とをモル比10:1の割合で20℃で30分反応させてマレイミド基を有する物質を得ているのに対し、引用発明では、マレイミド基を有する物質の製造方法が特定されていない点
(相違点4)本願発明は、組換えカルシウム結合型発光蛋白質と、マレイミド基を有する物質との反応をモル比で5:1の割合で4℃で2時間行うのに対し、引用発明は、モル比で1:3の割合で20℃で2時間行っている点

4 検討
(1)相違点1について
この出願の明細書(以下「本願明細書」という。補正はされていない。)の発明の詳細な説明の【0019】及び【0020】の記載からみて、配列番号4に示されるアミノ酸配列は、配列番号2で示されるアミノ酸配列のアミノ末端の5番目のLeuと6番目のThrの間にシステイン残基が挿入されたものであり、本願発明の「配列番号2に示されるアミノ酸配列のアミノ末端から6番目のアミノ酸残基内に一つのシステインが導入された」ものに相当するので、以下では、配列番号4を配列番号2’と対比する。
上記配列番号4のアミノ酸配列は、次のとおりである。


一方、刊行物1に記載された配列番号2’は、上記2に示したとおりである。
刊行物1に記載された配列番号2’は、186番目以降など、その一部が欠落しているものの、欠落していない部分において配列番号4のアミノ酸配列と異なるのは、184番目のアミノ酸残基のみである。そして、本願発明と引用発明とでは、本願出願時の技術常識からみて、欠落している部分においても同一のアミノ酸配列を有しているものと認められる(なお、刊行物1の対応する特許公報に「配列番号2」として記載されたアミノ酸配列(刊行物1の「配列番号2’」に対応する。)は、以下のとおりであり、184番目のアミノ酸残基を除き、本願発明の「配列番号4」のアミノ酸配列と同一である。)。





そして、配列番号4のアミノ酸配列における184番目のアミノ酸残基はグリシンであるのに対し、配列番号2’のアミノ酸配列における184番目のアミノ酸残基は、グルタミン酸である。
刊行物1の請求項18には、配列番号2’に示されるアミノ酸配列の6番目のシステインを維持し発光活性を維持する範囲で1?5個のアミノ酸を失欠、置換、付加することによって改変したアポ蛋白質を用いることも記載されているので、引用発明において配列番号2’のアミノ酸配列の一部を改変することは当業者が充分に動機付けられているといえる。そして、本願発明において配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するアポ蛋白質を得る方法は特別な方法ではなく、天然型アポイクオリンのN-末端のValがAla-Asn-Serで置換されたものであるから(本願明細書の【0021】、【0034】)、その184番目のアミノ酸残基がグリシンに置換された天然型アポイクオリンを使用して配列番号4のアミノ酸配列を有するアポ蛋白質を製造し、配列番号2’のアミノ酸配列を有するシステインが導入されたアポ蛋白質に代えてこれを使用することが当業者にとって格別困難であると解することはできない。

(2)相違点2について
刊行物1には、マレイミド型の修飾法により、組換えカルシウム結合型発光蛋白質にビオチン以外のリガンドを直接結合させることが可能であると記載されており(摘示(1j))、前記リガンドとして、「抗体」が具体的に例示されているので(摘示(1a)、(1c)、(1j))、「マレイミド基を有する物質」として「マレイミド基を有する抗体」を用いることは、当業者が強く動機付けられているといえる。
そして、マレイミド基を有する架橋試薬と抗体とを反応させてマレイミド基を有する抗体を作成することは、刊行物2?4に記載されているとおり、本願出願時において当業者に周知の技術であると認められるので(摘示(2b)、(2c)、(2d)、(3c)、(3d)、(4b)、(4c))、引用発明において、マレイミド活性化ビオチンに代えて、マレイミド基を有する抗体を用い、イクオリンと抗体との複合体を製造することは、当業者であれば容易になしえることである。

(3)相違点3について
引用発明の方法でマレイミド基を有する抗体を使用するとすれば、それに適した反応条件を選択することは当業者が当然行うべきところ、刊行物2?4には、架橋試薬と抗体との反応において、両者のモル比6:1の割合にすること、反応を室温で行うこと及び反応時間を30分乃至2時間とすることが記載されているので(摘示(2d)、(3d)、(4b)、(4c))、本願発明におけるマレイミド基を有する架橋試薬と抗体とのモル比、反応温度及び反応時間は通常のものであるといえる。そして、マレイミド基を有する架橋試薬と抗体とを反応させる際に、架橋試薬と抗体との化学反応の種類、架橋試薬の反応性や抗体の種類を考慮して両者のモル比や反応温度、反応時間を適切に定めることは、当業者が通常の創作能力を発揮することにより容易に想到しえるものであり、本願発明にこれが当てはまらないとする特段の事情も見当たらない。したがって、マレイミド基を有する架橋試薬と抗体とを反応させてマレイミド基を有する抗体を得る際に、前記架橋試薬と抗体とのモル比10:1の割合とし、20℃で30分反応させることは、当業者であれば容易になしえることである。

(4)相違点4について
刊行物1には、精製Cys4-イクオリンとマレイミド活性化ビオチンとを、反応温度0?20℃にて2時間インキュベートすることが記載されており(摘示(1j))、前記精製Cys4-イクオリンは、組換えカルシウム結合型発光蛋白質に相当するので、刊行物1には、組換えカルシウム結合型発光蛋白質とマレイミド基を有する物質とを反応させる際に4℃で2時間反応させるという条件を採用することが十分に示唆されているといえる。したがって、組換えカルシウム結合型発光蛋白質とマレイミド基を有する物質とを反応させる際に本願発明の反応温度及び反応時間を採用することは、当業者であれば容易に想到しえることといえる。さらに、抗体の種類等に応じて、反応に用いる組換えカルシウム結合型発光蛋白質とマレイミド基を有する抗体のモル比を適切に定めることは当業者であれば容易になしえることである。

(5)発明の効果について
ア A-A複合体の簡便且つ効率的な製造について
本願明細書の【0015】には、本願発明の効果として「高い発光活性を有するA-A複合体を簡便且つ効率よく製造することが可能である」と記載されており、同【0067】には「本発明のA-A複合体の製造方法であれば、従来のイクオリンにスルフヒドリル基を導入する工程がなくとも、A-A複合体が作製でき、工程や時間を軽減できるだけではなく、イクオリンや抗体のロスも軽減できる。」ことが記載されているが、引用発明においても本願発明と同様にシステインが予め導入されたカルシウム結合型発光蛋白質を用いているので、「工程や時間を軽減できるだけではなく、イクオリンや抗体のロスも軽減できる」という効果において差異は認められない。

イ 生物発光イムノアッセイにおけるS/N比の改善について
本願明細書には、実験例3として、マレイミド基を有する架橋試薬としてスルホSMCCを、抗体として抗AFP抗体をそれぞれ用いて、本願発明の製造方法により複合体を製造したことが記載されており、この複合体を用いると、反応温度及び反応時間のみが異なる製造方法により得られた複合体を用いた場合と比して、生物発光イムノアッセイにおいてS/N比が改善されることが記載されている。
本願発明は、用いるマレイミド基を有する架橋試薬や抗体を何ら限定するものではないので、任意のマレイミド基を有する架橋試薬及び任意の抗体を用いる方法を包含するものである。一般に、化学反応において最適な反応条件は、化学反応の種類や試薬の反応性により異なるのは明らかであるから、マレイミド基を有する架橋試薬と抗体との反応及び組換えカルシウム結合型発光蛋白質とマレイミド基を有する抗体との反応においても、最もS/N比が優れた複合体を得るための反応条件は、架橋試薬と抗体との反応の種類や、使用する架橋試薬の反応性、抗体の種類によって異なるものと解するのが相当である。そうすると、発明の詳細な説明において具体的に示された、マレイミド基を有する架橋試薬としてスルホSMCCを、抗体として抗AFP抗体をそれぞれ用いた場合に、優れたS/N比が得られるモル比の割合、反応温度及び反応時間を採用すれば、任意の他のマレイミド基を有する架橋試薬や抗体を用いた場合にも優れたS/N比が得られる複合体を製造できると解することはできない。したがって、本願発明が、そのすべての範囲において当業者の予測を超える格別顕著な効果を奏するということはできない。

ウ 生物発光イムノアッセイにおける検出限界及びダイナミックレンジについて
本願明細書の実験例4及び図3には、実験例3で本願発明の製造方法により得られた複合体を生物発光イムノアッセイによるAFPの定量に用いたことが記載されており、その結果、AFPの検出限界は10^(-2)ng/ml、ダイナミックレンジは10^(-2)?10^(2)ng/mlを示したことが記載されている。
しかし、上記したAFPの検出限界及びダイナミックレンジは、実験例5に示された従来の方法により得られたスルフヒドリル基導入イクオリンを用いた複合体と同程度のものであることから、これらの効果が当業者の予測を超える格別顕著なものであるとすることはできない。

5 まとめ
以上のとおり、本願発明は、刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第5 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-26 
結審通知日 2015-01-06 
審決日 2015-01-19 
出願番号 特願2007-141238(P2007-141238)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹内 祐樹  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 齊藤 真由美
柴田 昌弘
発明の名称 複合体  
代理人 星川 亮  
代理人 小林 浩  
代理人 鈴木 康仁  

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