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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A62B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A62B
管理番号 1298126
審判番号 不服2014-6584  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-09 
確定日 2015-03-05 
事件の表示 特願2009-226090「マスク」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月14日出願公開、特開2011- 72479〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成21年9月30日の出願であって、平成25年6月20日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成25年8月30日に意見書及び補正書が提出されたが、平成26年1月8日付けで拒絶査定がされ、平成26年4月9日に拒絶査定に対する審判請求がされると同時に、明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2.平成26年4月9日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年4月9日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
(1)本件補正の内容
平成26年4月9日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関しては、本件補正前の(すなわち、平成25年8月30日提出の手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1及び2の下記(ア)の記載を、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の下記(イ)の記載へと補正するものである。

(ア)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及び2
「 【請求項1】
着用者の顔面の対象部位を覆うマスク本体部と、このマスク本体部を前記着用者の耳に係止するための左右一対の耳掛け部と、を備えるマスクであって、
前記マスク本体部は、
前記着用者の顔面に接触する層であるとともに前記着用者の顔面に接触する側の表面が撥水・撥油加工剤により撥水・撥油処理された内側層と、
前記内側層の前記着用者側とは反対となる側に、吸湿性素材を20重量%以上含有する吸湿層と、
前記着用者側とは反対となる最も外側に位置する層である外側層と、
を含む複数層構造を有しており、
前記内側層と前記外側層とは、
JIS Z 0208試験法に基づく透湿度が3500g/m^(2)/24hr以上である透湿性素材で構成されている
ことを特徴とするマスク。
【請求項2】
前記マスク本体部は、
前記吸湿層の前記着用者側とは反対となる側に、フィルタ機能を有するフィルタ層を有している
ことを特徴とする請求項1記載のマスク。」

(イ)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
着用者の顔面の対象部位を覆うマスク本体部と、このマスク本体部を前記着用者の耳に係止するための左右一対の耳掛け部と、を備えるマスクであって、
前記マスク本体部は、
前記着用者の顔面に接触する層であるとともに前記着用者の顔面に接触する側の表面が撥水・撥油加工剤により撥水・撥油処理された内側層と、
前記内側層の前記着用者側とは反対となる側に、吸湿性素材を20重量%以上含有する吸湿層と、
前記着用者側とは反対となる最も外側に位置する層である外側層と、
前記吸湿層の前記着用者側とは反対となる側に、フィルタ機能を有するフィルタ層と、を含む複数層構造を有しており、
前記内側層と前記外側層とは、
JIS Z 0208試験法に基づく透湿度が3500g/m^(2)/24hr以上である透湿性素材で構成し、前記内側層を透過して前記吸湿層で吸収した水分を、さらに前記外側層を透過させて前記マスク本体部の外部に排出する
ことを特徴とするマスク。」(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

(2)本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1を削除するとともに、本件補正前の特許請求の範囲の請求項2について、その発明特定事項である「内側層」と「外側層」に関し、「前記内側層を透過して前記吸湿層で吸収した水分を、さらに前記外側層を透過させて前記マスク本体部の外部に排出する」ものである旨を限定し、新たな請求項1としたものであって、本件補正前の請求項2に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2.本件補正の適否についての判断
本件補正における特許請求の範囲の補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2.-1 引用文献
(1)引用文献の記載
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2006-325688号公報(以下、「引用文献」という。)には、例えば、次のような記載がある。

(ア)「【0005】
本発明の目的は、息や汗等の湿気を吸いとってマスク内部の濡れやべとつきを防止し、長時間の使用でも快適さを損なわないマスクを提供することにある。
…(後略)…」(段落【0005】)

(イ)「【0035】
本発明によれば、息や汗による湿気を接触的に外部に放出または吸収させて、顔面側におけるべた付き感やムレ感を防止してドライ感を着用者に与えることができ、使用感が良好なマスクを提供することが可能となる。
…(後略)…」(段落【0035】)

(ウ)「【0036】
以下、本発明のマスクを添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明のマスクの第1実施形態を示す平面図であり、図2は、図1に示すマスクの断面図である。
【0037】
マスク10は、図1に示すように、マスク本体40と、このマスク本体40を顔面の所望の箇所に固定する紐(固定手段)12とを備えている。本発明のマスク10は、マスク本体40の少なくとも顔面に触れる面に疎水性を有する布帛を備えることを特徴とするものである。
【0038】
以下、マスク10の構成を順次説明する。
マスク本体40は、マスク使用者の口と鼻を覆える程度の大きさを有するものである。
【0039】
本実施形態では、マスク本体40は、顔面側に疎水性を有し、顔面と反対側の面に親水性を有している。
【0040】
具体的には、図2に示すように、マスク本体40は、疎水性のシート材(布帛)11と親水性のシート材(布帛)21とを貼り合わせることにより構成されている。そして、顔面側に、疎水性のシート材11を位置するようにして使用される。
【0041】
このように疎水性のシート材11を顔面側とし、反対側の面に親水性のシート材11を配することで、顔面側では、シート材11が息や汗等の湿気を保留しないのでサラッとした感触を有し、しかも湿気が積極的に反対側に抜けてマスクの外部に放出される。これにより、顔面側では体液が残ることによるべた付き感やムレ感を防止し、ドライ感を着用者に与えることができ、使用感が良好なものとなる。
【0042】
疎水性のシート材11としては、その透湿度が200g/m^(2)・h以上であることが好ましく、250g/m^(2)・h以上であることがより好ましく、350g/m^(2)・h以上であることがさらに好ましい。これにより、マスク10と顔面との間に生じた空間の湿度が高くなることによるマスク着用者の不快感を防止することができる。」(段落【0036】ないし【0042】)

(エ)「【0053】
また、疎水性のシート材11としては、シート材に対して撥水処理を施したものでもよい。これにより、疎水性を有しない布帛も疎水性のシート材11として使用可能になる。
【0054】
撥水処理としては、例えば、親水性のシート材に撥水剤を付与する方法、疎水性のシート材に撥水剤を付与して疎水性(撥水性)をさらに高める方法等が挙げられる。
【0055】
この撥水剤としては、一般に繊維撥水加工に用いられるシリコーン系撥水剤やフッ素系撥水剤、パラフィン金属系撥水剤、アルキルクロミッククロイド系撥水剤あるいはアクリル系撥水剤等が挙げられる。
【0056】
使用する撥水剤の量は、特に限定されるものではないが、シート材100重量部に対して、0.5?10質量部程度であるのが好ましく、0.5?5重量部程度であるのがより好ましい。これにより、より良好な撥水性が得られる。また、撥水処理方法については、公知の方法を用いることができ、スプレーやコーティングにより行うことができる。」(段落【0053】ないし【0056】)

(オ)「【0069】
また、マスクに特定の付加価値を与える付加価値部材を、このマスク本体40に設けてもよい。この付加価値部材としては、例えば呼吸中の空気をろ過するろ過部材、ハーブ等の心地よい香りを放つ芳香部材等が挙げられる。なお、付加価値部材によりマスクに与えられる付加価値は、特に限定されない。
【0070】
紐(固定手段)12は、マスク本体40の左右方向の両端部にそれぞれ取り付けられている。
【0071】
紐12は、環状をなしており、この環状の紐12を耳にかけることにより、マスク本体40を顔面の所望の箇所に固定するものである。」(段落【0069】ないし【0071】)

(カ)「【0073】
以上のようなマスク10では、顔面側が疎水性を有し、反対側の面が親水性を有しているため、顔面側では、繊維が息や汗等の湿気を保留しないのでサラッとした感触を有し、しかも湿気が積極的に反対側に抜けてマスクの外部に放出される。これにより、顔面側では体液が残ることによるべた付き感やムレ感を防止し、ドライ感を着用者に与えることができ、使用感が良好なものとなる。」(段落【0073】)

(キ)「【0074】
<第2実施形態>
図3は、本発明のマスクの第2実施形態を示す断面図である。
【0075】
以下、第2実施形態について説明するが、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0076】
第2実施形態では、前記第1実施形態の疎水性のシート材に代えて、顔面側に疎水性を有し、顔面と反対側に親水性を有する部分11bを備えたシート材11aを用いたこと以外は、前記第1実施形態と同様である。
【0077】
すなわち、シート材11aは、疎水性のシート材の顔面と反対側の面に親水性を付与する処理を施して、親水性を有する部分11bを形成してなるものである。そして、図3に示すように、親水性を有する部分11bと親水性を有するシート材21とを接触させるように貼り合わせることにより、マスク本体40を得ることができる。」(段落【0074】ないし【0077】)

(ク)「【0088】
なお、シート材11aは、親水性を有するシート材の一方の面に疎水性を付与する処理を施してなるものでもよい。この場合、疎水性を付与する処理としては、前述の撥水処理等を用いることができる。
また、シート材21は、省略してもよい。」(段落【0088】)

(2)引用文献記載の事項
上記(1)並びに図1ないし図3の記載から、引用文献には次の事項が記載されていることが分かる。

(ケ)上記(1)(キ)の【0076】には、「第2実施形態では、前記第1実施形態の疎水性のシート材に代えて、顔面側に疎水性を有し、顔面と反対側に親水性を有する部分11bを備えたシート材11aを用いたこと以外は、前記第1実施形態と同様である。」と記載されているところ、上記(1)(ウ)及び(オ)並びに図1ないし図3の記載から、引用文献には、第2実施形態として、顔面の所望の箇所に固定されるマスク本体40と、耳にかけるようにマスク本体40の左右方向の両端部に取り付けられた紐12とを備えるマスクが記載されていることが分かる。

(コ)上記(1)(エ)、(キ)及び(ク)並びに図3の記載から、引用文献に第2実施形態として記載されたマスクにおいて、マスク本体40は、顔面に触れる面にシリコーン系撥水剤やフッ素系撥水剤等の撥水剤を付与して撥水処理を施したシート材11aと、シート材11aの顔面と反対側に位置する親水性のシート材21とから構成されていることが分かる。

(サ)上記(1)(オ)の記載から、引用文献に第2実施形態として記載されたマスクにおいて、マスク本体40は、呼吸中の空気をろ過するろ過部材を設けてもよいものであることが分かる。

(シ)上記(1)(ウ)の記載から、引用文献に第2実施形態として記載されたマスクにおいて、シート材11aは、その透湿度が200g/m^(2)・h以上であることが好ましいことが分かる。

(ス)上記(1)(カ)には、引用文献に第1実施形態として記載されたマスクに関して「顔面側が疎水性を有し、反対側の面が親水性を有しているため、顔面側では、繊維が息や汗等の湿気を保留しないのでサラッとした感触を有し、しかも湿気が積極的に反対側に抜けてマスクの外部に放出される」と記載されているところ、引用文献に第2実施形態として記載されたマスクも、同様に顔面側が疎水性を有し、反対側の面が親水性を有するものであるから、引用文献に第2実施形態として記載されたマスクは、顔面側では、繊維が息や汗等の湿気を保留しないのでサラッとした感触を有し、しかも湿気が積極的に反対側に抜けてマスクの外部に放出されるものであることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図1ないし図3の記載から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「顔面の所望の箇所に固定されるマスク本体40と、耳にかけるようにマスク本体40の左右方向の両端部に取り付けられた紐12とを備えるマスクであって、
マスク本体40は、
顔面に触れる面にシリコーン系撥水剤やフッ素系撥水剤等の撥水剤を付与して撥水処理を施したシート材11aと、シート材11aの顔面と反対側に位置する親水性のシート材21と
呼吸中の空気をろ過するろ過部材
から構成され、
シート材11aは、その透湿度が200g/m^(2)・h以上であり、顔面側では、繊維が息や汗等の湿気を保留しないのでサラッとした感触を有し、しかも湿気が積極的に反対側に抜けてマスクの外部に放出されるマスク。」

2.-2 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明において、マスク本体40が「顔面の所望の箇所に固定される」ということは、マスクは通常、着用者の鼻や口を覆うように装着して使用されることを考えれば、「着用者の顔面の対象部位を覆う」ということと同義であるほか、引用発明における「マスク本体40」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願補正発明における「マスク本体部」に相当する。
また、引用発明において、着用者が紐12を耳にかけたとき、マスク本体40が着用者の耳に係止されることは明らかであるから、引用発明における「耳にかけるようにマスク本体40の左右方向の両端部に取り付けられた紐12」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願補正発明における「マスク本体部を着用者の耳に係止するための左右一対の耳掛け部」に相当し、引用発明における「マスク」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願補正発明における「マスク」に相当する。
そして、内側層に関し、「着用者の顔面に接触する層であるとともに着用者の顔面に接触する側の表面が撥水加工剤により撥水処理され」るという限りにおいて、引用発明において「顔面に触れる面にシリコーン系撥水剤やフッ素系撥水剤等の撥水剤を付与して撥水処理を施」すことは、本願補正発明において「前記着用者の顔面に接触する層であるとともに前記着用者の顔面に接触する側の表面が撥水・撥油加工剤により撥水・撥油処理され」ることに相当し、引用発明における「シート材11a」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願補正発明における「内側層」に相当する。
また、引用発明における「シート材11aの顔面と反対側」は、その位置関係からみて、本願補正発明における「内側層の着用者側とは反対となる側」に相当し、引用発明における「親水性のシート材21」は、その機能からみて、本願補正発明における「吸湿層」に相当するから、「内側層の着用者側とは反対となる側に位置する吸湿層」という限りにおいて、引用発明における「シート材11aの顔面と反対側に位置する親水性のシート材21」は、本願補正発明における「内側層の着用者側とは反対となる側に」位置する「吸湿性素材を20重量%以上含有する吸湿層」に相当する。
さらに、引用発明において「呼吸中の空気をろ過する」ことはフィルタの機能を果たすことと同義であるから、引用発明において「呼吸中の空気をろ過する」ことは、その機能又は技術的意義からみて、本願補正発明において「フィルタ機能を有する」ことに相当し、引用発明における「ろ過部材」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願補正発明における「フィルタ層」に相当する。
そして、引用発明において、マスク本体40がシート材11aとシート材21とろ過部材から構成されるということは、その構成からみて、本願補正発明においてマスク本体部が「複数層構造を有して」いることに相当する。
また、引用発明において「顔面側では、繊維が息や汗等の湿気を保留しないのでサラッとした感触を有し、しかも湿気が積極的に反対側に抜けてマスクの外部に放出される」ということは、水分がシート材11aを透過してシート材21で吸収した後、さらにマスク本体40の外部に排出することを意味するから、「内側層は、透湿度が一定値以上である透湿性素材で構成し、内側層を透過して吸湿層で吸収した水分を、さらにマスク本体部の外部に排出する」という限りにおいて、引用発明において「シート材11aは、その透湿度が200g/m^(2)・h以上であり、顔面側では、繊維が息や汗等の湿気を保留しないのでサラッとした感触を有し、しかも湿気が積極的に反対側に抜けてマスクの外部に放出される」ことは、本願補正発明において「内側層と外側層とは、JIS Z 0208試験法に基づく透湿度が3500g/m^(2)/24hr以上である透湿性素材で構成し、内側層を透過して吸湿層で吸収した水分を、さらに外側層を透過させてマスク本体部の外部に排出する」ことに相当する。

以上から、本願補正発明と引用発明は、
「 着用者の顔面の対象部位を覆うマスク本体部と、このマスク本体部を前記着用者の耳に係止するための左右一対の耳掛け部と、を備えるマスクであって、
マスク本体部は、
着用者の顔面に接触する層であるとともに着用者の顔面に接触する側の表面が撥水加工剤により撥水処理された内側層と、
内側層の着用者側とは反対となる側に位置する吸湿層と、
フィルタ機能を有するフィルタ層と、を含む複数層構造を有しており、
内側層は、透湿度が一定値以上である透湿性素材で構成し、内側層を透過して吸湿層で吸収した水分を、さらにマスク本体部の外部に排出するマスク。」
である点で一致し、次の点で相違する。

〈相違点〉
(a)内側層の「着用者の顔面に接触する層であるとともに着用者の顔面に接触する側の表面」について、本願補正発明においては「撥水・撥油加工剤により撥水・撥油処理され」たものであるのに対し、引用発明においては「シリコーン系撥水剤やフッ素系撥水剤等の撥水剤を付与して撥水処理を施」したものである点(以下、「相違点1」という。)。
(b)「吸湿層」に関し、本願補正発明においては「吸湿性素材を20重量%以上含有する」のに対し、引用発明におけるシート材21は単に親水性である点(以下、「相違点2」という。)。
(c)本願補正発明においては、着用者側とは反対となる最も外側に位置する層である外側層を有し、内側層と外側層とは、JIS Z 0208試験法に基づく透湿度が3500g/m^(2)/24hr以上である透湿性素材で構成し、内側層を透過して吸湿層で吸収した水分を、さらに外側層を透過させてマスク本体部の外部に排出するものであるのに対し、引用発明においては、外側層に相当するものがなく、シート材11aは、その透湿度が200g/m^(2)・h以上であり、顔面側では、繊維が息や汗等の湿気を保留しないのでサラッとした感触を有し、しかも湿気が積極的に反対側に抜けてマスクの外部に放出されるものである点(以下、「相違点3」という。)。
(d)本願補正発明においては、吸湿層の着用者側とは反対となる側に、フィルタ機能を有するフィルタ層を位置させるのに対し、引用発明においては、呼吸中の空気をろ過するろ過部材の配置位置が不明である点(以下、「相違点4」という。)。

2.-3 判断
まず、相違点1について検討すると、マスクにおいて化粧の付着を防止するために、使用者の顔面に接触する面にシリコーン樹脂を用いたり、フッ素系加工材を使用して撥水撥油処理を行うことは、周知の技術(以下、「周知技術」という。例えば、特開2009-118960号公報(平成21年6月4日出願公開)の段落【0019】ないし【0022】、実用新案登録第3134019号公報の段落【0024】及び特開平10-165527号公報の段落【0008】等参照。)であり、一般にシリコーン系撥水剤やフッ素系加工材は撥水のみならず撥油効果があることも広く知られているから、引用発明においてシート材11aに施したシリコーン系撥水剤やフッ素系撥水剤等の撥水剤を、撥水・撥油加工剤として用いることにより、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。

次に、相違点2について検討すると、引用発明は「顔面側では、繊維が息や汗等の湿気を保留しないのでサラッとした感触を有し、しかも湿気が積極的に反対側に抜けてマスクの外部に放出される」ものであるから、親水性のシート材21が、シート材11aから湿気を吸収するものであることは明らかであるところ、親水性のシート材21にどの程度の吸湿素材を含有させることによって必要な吸湿性を確保するかということは、マスクを設計する際に、実験等により適宜定められる程度の事項である。したがって、引用発明において、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。

さらに、相違点3に関し、引用発明においてシート材11aの透湿度は200g/m^(2)・h以上とされているところ、単位を24時間あたりに換算すれば、4800g/m^(2)/24hr以上となり、本願補正発明における発明特定事項である3500g/m^(2)/24hr以上と重なる。また、本願の明細書の段落【0025】には、「なお、内側層5のJIS Z 0208試験法に基づく透湿度は、上述したように少なくとも3500g/m^(2)/24hr以上であることが必要であるが、好ましくは4000g/m^(2)/24hr以上、より好ましくは5000?7000g/m^(2)/24hrである。」と記載されており、この記載からすれば、透湿度の値が大きくなるほど、呼気に含まれる水蒸気や汗を透過させることができるという自明のことを意味しているにすぎず、3500g/m^(2)/24hrという値に格別な技術的意義を見出すことはできない。したがって、本願補正発明において内側層5のJIS Z 0208試験法に基づく透湿度を、3500g/m^(2)/24hr以上とするとの発明特定事項について、臨界的な意義を見出すことはできない。
そして、一般に、複数層構造を有するマスクにおいて、最も内側に位置する層と最も外側に位置する層とを、同一の生地で構成することは普通に行われており、また、引用発明は「顔面側では、繊維が息や汗等の湿気を保留しないのでサラッとした感触を有し、しかも湿気が積極的に反対側に抜けてマスクの外部に放出されるマスク」であるから、引用発明において、外側層を設け、内側層と外側層とを一定以上の透湿度を有する透湿性素材で構成することにより、上記相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。

最後に、相違点4に関し、引用発明は「顔面側では、繊維が息や汗等の湿気を保留しないのでサラッとした感触を有し、しかも湿気が積極的に反対側に抜けてマスクの外部に放出されるマスク」であるから、湿気を通しにくいフィルタを親水性のシート材21よりも外側に設けることは、設計上、当然に採用される事項である。したがって、引用発明において、上記相違点4に係る本願補正発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願補正発明を全体として検討しても、引用発明及び周知技術から予測される以上の格別の効果を奏すると認めることはできない。

以上から、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
前記のとおり、平成26年4月9日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成25年8月30日提出の手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものであり、請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2.の[理由]1.(1)(ア)【請求項2】のとおりのものである。

2.引用発明
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献(特開2006-325688号公報)記載の発明(引用発明)は、前記第2.の[理由]2.-1の(3)に記載したとおりである。

3.対比・判断
前記第2.の[理由]1.(2)で検討したとおり、本件補正は、該補正前の特許請求の範囲の請求項2に係る発明、すなわち本願発明について、その発明特定事項をさらに限定したものである。したがって、本願発明は、本願補正発明における発明特定事項の一部を省いたものに相当するといえる。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記第2の[理由]2.-2及び2.-3に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4.むすび
上記第3.のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-26 
結審通知日 2015-01-08 
審決日 2015-01-20 
出願番号 特願2009-226090(P2009-226090)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A62B)
P 1 8・ 575- Z (A62B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 水野 治彦大山 健  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 金澤 俊郎
中村 達之
発明の名称 マスク  
代理人 益田 博文  

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