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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23K
管理番号 1298183
審判番号 不服2013-16422  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-26 
確定日 2015-03-06 
事件の表示 特願2011-201104「A層とC層との間に挟まれたB層の一部除去方法、マーキング、及びA層とC層との間に挟まれたB層の一部除去装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月18日出願公開、特開2012-196710〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年9月14日(優先権主張 平成23年3月4日)の出願であって、平成25年1月10日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、同年2月22日に意見書及び手続補正書が提出され、同年3月15日付けで拒絶理由が通知され、同年4月15日に意見書が提出され、同年5月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正書が提出された。
その後、当審の平成25年10月25日付け審尋に対し、同年11月1日付けで回答書が提出され、当審から平成26年8月11日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、同年8月20日に意見書及び手続補正書が提出された。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明は、平成26年8月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1には、次のとおり記載されている。

「A層とB層とC層とベース層とが順に積層されてなる積層体に情報が形成される方法であって、前記方法はA層とC層との間に挟まれた状態のB層の一部が除去されることによって前記情報が形成される方法であり、
前記A層は、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、及びアクリル系樹脂の群の中から選ばれる何れかで構成されてなる無色透明な樹脂層であり、
前記B層は金属層であり、
前記C層は接着剤層であり、
YAGレーザ又はYVO4レーザが、前記無色透明な樹脂層であるA層表面側から前記金属層であるB層に向けて、照射される工程を具備し、
前記照射レーザの出力が2?6Wであり、
前記照射レーザのQスイッチ周波数が70?330kHzであり、
前記照射レーザに対する前記レーザ被照射物の相対移動速度が350?2500mm/sである
ことを特徴とする方法。」(以下請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

第3 引用文献とその記載事項

1. 引用文献1
当審が通知した平成26年8月11日付け拒絶理由に引用文献1として引用され、本件優先日前に頒布された刊行物である特開2005-158115号公報には、以下の事項が記載されている。

(ア)
「図1は本発明の情報記録体の基本的なものの断面の積層構造、および記録の状態を例示する模式図である。図1に示すように、本発明の情報記録体1は、基本的には透明である支持体2の一方の面に透明樹脂からなるホログラム形成層3、光反射層である金属反射層4、および拡散反射性を有する拡散反射層5の各層が順に積層された積層構造を有しており、これら各層のうち、ホログラム形成層3は、支持体2側とは反対側の面にレリーフホログラムの微細凹凸3aを有するもので、微細凹凸3aに沿って積層された金属反射層4と共に反射型ホログラムを構成する。なお、情報記録体1としては、支持体2を有する方が支持体2の一方の面に順に各層を積層して製造する上で便利であり、全体の強度を保持する上で好ましいが、支持体2は省き得る。
光反射層である金属反射層4は、金属反射層4の有無により構成された記録部4aを有しており、通常は、金属反射層4の無い開口部を線状に設けてパターンとすることが多いが、逆に、金属反射層4のある部分を残して、周囲を金属反射層4の無い部分としてパターンとすることもある。いずれにせよ、記録部4aは金属反射層4の有る部分と無い部分とで構成されるので、情報記録体1の内部にある記録部4aの記録を書き換えることの困難性は非常に高い。また、記録そのものは付加逆的に行なわれるので、記録を消去することも困難である。記録部4aは、必ずしも開口部で構成されたものとは限らないが、以降においては、記録部4aのパターンは、金属反射層4の無い部分、即ち、開口部が線状に設けられたものとして説明する。
このような記録部4aを形成するには、必要な解像度で金属反射層4を部分的に除去できる方法であれば、いずれの方法によって行なってもよく、例えば、サーマルプリンター等を用いた方法によっても行なえるが、図1中に例示するように、レーザー光源6からのレーザー光7を用い、必要に応じて対物用のレンズ8のような光学系により集光させ、情報記録体1の記録前の状態のものの金属反射層4に照射して、照射された部分の金属反射層4を除去することによって行なうことが、光接触方式であり、レーザー光を絞って利用することができる点で好ましい。
レーザー光としては、連続光(CW光)あるいはパルス光のいずれにも用いることができる。連続光のレーザー光は、一定時間の間、常に同じ出力を保持するものであり、パルス光のレーザー光は、ごくわずかな時間の間のみ高出力を有するものである。パルス光のレーザー光は、CW光のレーザー光(連続光)を外部変調器でその出力を制御する方法によって、もしくはQスイッチをレーザー共振器内に挿入し、Qスイッチのスイッチングによりレーザー媒質に蓄積されたエネルギーを瞬時に出力させる方法によって得ることができる。連続光のレーザー光の具体例としては、アルゴンレーザー、He-Neレーザー、YAGレーザー、もしくは半導体レーザー等を挙げることができ、外部変調器としてメカニカルシャッターを用いるか、またはQスイッチとして、A/O変調素子もしくはE/O変調素子等を挿入し、共振器のQ値をコントロールすることによって、数十ナノ秒?数百ナノ秒の時間幅のパルス光を発生させることができる。
・・・
上記のような反射光11’および12’が得られるとき、情報記録体1を図2中の上方から観察するか、もしくは機器を用いて反射光を受光すると、金属反射層4のある部分からの反射光は観察されない(もしくは受光されない)から、「オフ(OFF)状態」もしくは「黒色」と認識することができ、また、金属反射層4の無い部分からの拡散反射した反射光が観察される(もしくは受光される)から、「オン(ON)状態」もしくは「白色」と認識することができ、従って、記録部4aを目視によっても、機械読取りによっても読取ることができる。」(段落【0020】ないし【0025】)

(イ)
「図3(a)に示すように、本発明の情報記録体1Aは、図1および図2を引用して説明した拡散反射層5が拡散反射性を付与された接着剤層(以降、縮めて拡散反射性接着剤層という。)5Aであってもよい。この場合、剥離層9、または支持体2および剥離層9は省くこともできる。このように拡散反射性接着剤層5Aを有する情報記録体1Aは、図示しない他の物品に適用する際に、拡散反射性接着剤層5Aの接着性を利用して貼り付けることが可能となる上、拡散反射性接着剤層5Aの持つ拡散反射性により、既に述べたような作用により、記録部4aの読み取りを可能にする。」(段落【0032】)

(ウ)
「ホログラム形成層3は、透明樹脂からなる層にホログラムの微細凹凸が形成されたもので、透明樹脂としては、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリスチレン、もしくはポリカーボネート等の熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル、メラミン、エポキシ、もしくはアクリレート等の熱硬化性樹脂をそれぞれ単独、あるいは上記熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とを混合して使用することができる。透明樹脂としてはまた、電離放射線硬化性の樹脂、オリゴマー、もしくはモノマー等を単独、もしくは任意に混合して得られる電離放射線硬化性樹脂組成物を使用することができる。・・・」(段落【0038】)

(エ)
「金属反射層4は、ホログラム形成層3の微細凹凸による回折効率を高めるための層であり、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、金(Au)、銀(Ag)、コバルト(Co)、スズ(Sn)、セレン(Se)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、テルル(Te)、銅(Cu)、鉛(Pb)、ニッケル(Ni)、もしくはパラジウム(Pd)などの金属の単独、もしくはそれらの合金により構成することができる。」(段落【0040】)

(オ)
「・・・なお、粘着剤を用いて拡散反射性接着剤層5Aを構成するときは、粘着層の上に、粘着剤層の保護用として剥離シートを積層することが好ましく、剥離シートとしては、紙やプラスチックフィルムに離型処理を施したものを使用することができる。このように粘着剤を用いて構成した情報記録体5Aは、ラベルの形態を有するために、種々の物品に貼り付けるのに適している。」(段落【0047】)

(カ)
上記摘記事項(イ)の「本発明の情報記録体1Aは、・・・拡散反射層5が拡散反射性を付与された接着剤層(以降、縮めて拡散反射性接着剤層という。)5Aであってもよい。この場合、剥離層9、または支持体2および剥離層9は省くこともできる。」との記載から、引用文献1の図3(a)には、「反射性接着剤層5A」を有し、かつ、「支持体2」および「剥離層9」が省かれた「情報記録体1A」が記載されているといえる。



(キ)
上記摘記事項(ア)の「パルス光のレーザー光は、ごくわずかな時間の間のみ高出力を有するものである。パルス光のレーザー光は、CW光のレーザー光(連続光)を外部変調器でその出力を制御する方法によって、もしくはQスイッチをレーザー共振器内に挿入し、Qスイッチのスイッチングによりレーザー媒質に蓄積されたエネルギーを瞬時に出力させる方法によって得ることができる。連続光のレーザー光の具体例としては、アルゴンレーザー、He-Neレーザー、YAGレーザー、もしくは半導体レーザー等を挙げることができ、外部変調器としてメカニカルシャッターを用いるか、またはQスイッチとして、A/O変調素子もしくはE/O変調素子等を挿入し、共振器のQ値をコントロールすることによって、数十ナノ秒?数百ナノ秒の時間幅のパルス光を発生させることができる。」(段落【0024】)との記載から、引用文献1には、連続光であるYAGレーザーを、Qスイッチによりパルス光としたものをレーザー光として用いるものが、記載されているといえる。

(ク)
上記摘記事項(ウ)には、「ホログラム形成層3は、透明樹脂からなる層にホログラムの微細凹凸が形成されたもので、透明樹脂としては、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリスチレン、もしくはポリカーボネート等の熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル、メラミン、エポキシ、もしくはアクリレート等の熱硬化性樹脂をそれぞれ単独、あるいは上記熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とを混合して使用することができる。」と記載されている。ここでホログラム形成層として、アクリル樹脂を用いることは、例えば、特開平8-216577号公報(特に、段落【0043】ないし【0050】に記載された、実施例1ないし3のそれぞれの「ホログラム形成層 アクリル樹脂」との記載を参照されたい。)及び特開2010-256381号公報(特に段落【0031】に記載された「(実施例2)透明基材1として、25μmのPETフィルムの表面に、アクリル樹脂を塗布し、・・・・レリーフホログラムの形成を行ない、」との記載を参照されたい。)との記載から、技術常識であるといえるから、引用文献1には、「ホログラム形成層3」としてアクリル樹脂を用いたものが記載されているといえる。

(ケ)
【図1】には、「レーザ光源6」からの「レーザー光7」が、「レンズ8」により集光されて「金属反射層4」が除去されることが看取でき、さらに当該「レーザー光7」が照査されている位置の図上右側に「記録部4a」と指示されている箇所も「金属反射層4」が除去されていることが看取できるから、引用文献1に記載されたものは、「金属反射層4」上に位置が異なる複数の「記録部4a」を形成するために、「レーザー光7」に対して、被照射物である「金属反射層4」を相対的に移動させるものであることが理解できる。



(コ)
上記摘記事項(ア)ないし(オ)及び上記認定事項(カ)ないし(ケ)から、引用文献1に記載された事項を技術常識を考慮しながら、本願発明に照らして整理すると、引用文献1には以下の発明(以下「引用文献1記載発明」という。)が記載されていると認められる。

「ホログラム形成層3と金属反射層4と拡散反射性接着剤層5Aと剥離シートとが順に積層されてなる積層体に情報が形成される方法であって、前記方法は、ホログラム形成層3と拡散反射性接着剤層5Aとの間に挟まれた状態の金属反射層4の一部が除去されることによって前記情報が形成される方法であり、
前記ホログラム形成層3は、アクリル樹脂で構成されてなる透明な樹脂層であり、
前記金属反射層4は金属層であり、
前記拡散反射性接着剤層5Aは接着剤層であり、
YAGレーザーが、前記透明な樹脂層であるホログラム形成層3表面側から前記金属層である金属反射層4に向けて、照射される工程を具備し、
前記照射レーザーの出力が制御され、
前記照射レーザーはQスイッチを用いてパルス光とされ、
前記照射レーザーに対して前記レーザ被照射物が相対的に移動する方法。」

2. 引用文献2
当審が通知した平成26年8月11日付け拒絶理由に引用文献2として引用され、本件優先日前に頒布された刊行物である特開2010-64144号公報には、以下の事項が記載されている。

(ア)
「パルス光源のパルス光によるレーザマーキングにおいて、マーキング速度(単位時間中にマーキング対象物に形成されるマーキングパターンの長さで規定、以下、加工速度という)を上げる方法としては、マーキング対象物に対するパルス光の相対移動速度を上昇させる方法や、パルス発振周波数を高くする方法等が挙げられる。しかしながら、マーキング対象物に対するパルス光の相対移動速度を上昇させた場合、パルス発振周波数が十分に高くないと、マーキング対象物に対して点状にマーキングされてしまう。一方、パルス発振周波数を高くすると平均出力が低下してしまい、パルスエネルギーやピーク値が低下してしまう。そして、ピーク値の上昇を目的に平均出力を向上させることもできるが、熱影響による発色不良等の懸念が生じる。このように、レーザマーキングの加工速度が大きい状態でピーク値を制御するのは困難であり、マーキングの濃淡レベルを変化させることは困難であった」(段落【0006】)

(イ)
「具体的に、図12は、図1のレーザ加工装置を用いてマーキング対象物にパルス光を照射するレーザマーキングの際のマーキング対象物の加工表面を示す図である(パルス幅:9?12ns、繰り返し周波数:1MHz)。図13は、図1のレーザ加工装置を用いてマーキング対象物にパルス光を照射するレーザマーキングの際のマーキング対象物の加工表面を示す図である(パルス幅:9?12ns、繰り返し周波数:500kHz)。図14は、図1のレーザ加工装置を用いてマーキング対象物にパルス光を照射するレーザマーキングの際のマーキング対象物の加工表面を示す図である(パルス幅:9?12ns、繰り返し周波数:250kHz)。図15は、図1のレーザ加工装置を用いてマーキング対象物にパルス光を照射するレーザマーキングの際のマーキング対象物の加工表面を示す図である(パルス幅:9?12ns、繰り返し周波数:100kHz)。図16は、図1のレーザ加工装置を用いてマーキング対象物にパルス光を照射するレーザマーキングの際のマーキング対象物の加工表面を示す図である(パルス幅:0.4?0.6ns、繰り返し周波数:1MHz)。図17は、図1のレーザ加工装置を用いてマーキング対象物にパルス光を照射するレーザマーキングの際のマーキング対象物の加工表面を示す図である(パルス幅:0.4?0.6ns、繰り返し周波数:500kHz)。図18は、図1のレーザ加工装置を用いてマーキング対象物にパルス光を照射するレーザマーキングの際のマーキング対象物の加工表面を示す図である(パルス幅:0.4?0.6ns、繰り返し周波数:250kHz)。図19は、図1のレーザ加工装置を用いてマーキング対象物にパルス光を照射するレーザマーキングの際のマーキング対象物の加工表面を示す図である(パルス幅:0.4?0.6ns、繰り返し周波数:100kHz)。
また、図12?図19の各図に示す(a)において、照射されるパルス光の平均出力は10Wである。図12?図19の各図に示す(b)において、照射されるパルス光の平均出力は5.0Wである。図12?図19の各図に示す(c)において、照射されるパルス光の平均出力は2.5Wである。」(段落【0037】及び【0038】)

(ウ)
「また、MOPA構造のパルス光源を用いることで、従来のQスイッチ手段を用いたパルス光源と比較して高速なレーザマーキングを実現することができる。具体的には、従来のQスイッチ手段を用いたパルス光源では、周波数の上限が250kHz程度であると共に周波数を上昇させることにより平均出力が下がりパルス幅が長くなるという課題があった。また、繰り返し周波数を一定値よりも高くするとパルス光のピークパワーの低下によりマーキング加工を行うことができないという課題もあった。したがって、繰り返し周波数と平均出力に依存して決定されるレーザマーキングの速度の上限は、Qスイッチ手段を用いた場合、2000mm/s程度であった。一方、MOPA構造のパルス光源を有する図1のレーザ加工装置100は、パルス光源の周波数の上限が1MHz程度と高くなったことで、加工速度が2000mm/s以上の場合であってもマーキング加工を行うことができる(図12?図19)。したがって、従来のQスイッチ手段を用いたパルス光源と比較して高速なレーザマーキングを行うことができる。」(段落【0047】)

3. 引用文献4
当審が通知した平成26年8月11日付け拒絶の理由に引用文献4として引用され、本件優先日前に頒布された刊行物である特開2007-306944号公報には、以下の事項が記載されている。

(ア)
「設定部9からコントローラ8には、マーキング条件として、例えばパルスレーザ光2のスポット径rが5?100μm、パルスレーザ光2のハッチング間隔hが1?80μm、パルスレーザ光2のQスイッチ周波数が0.1?100kHz、パルスレーザ光2のスキャンスピードが1?3000mm/secの各範囲でマーキング条件が設定される。特に、パルスレーザ光2のスポット径rが40μm以下、パルスレーザ光2のハッチング間隔hが30μm、パルスレーザ光2のQスイッチ周波数が30kHz、パルスレーザ光2のスキャンスピードが2?3000mm/sec程度のマーキング条件が設定される。」(段落【0040】)

(イ)
「本発明は、前記スキャンスピードは、2000mm/secとすることを特徴とすることを特徴とする請求項26記載の内視鏡及び内視鏡用医療器具の表示方法である。」(段落【0076】)

(ウ)
段落【0050】の【表1】に記載された「実施例3」が用いるレーザーは、「YAGレーザー」で「平均出力」が「6W」のものである。
【表1】


第4 対比・検討

1. 対比
本願発明と引用文献1記載発明とを対比すると、その機能及び作用からみて、引用文献1記載発明の「ホログラム形成層3」、「金属反射層4」、「拡散反射性接着剤層5A」、「剥離シート」は、それぞれ本願発明の「A層」、「B層」、「C層」、「ベース層」にそれぞれ相当する。
また、引用文献1記載発明の「レーザー」が本願発明の「レーザ」に相当することは明らかである。
引用文献1記載発明の「前記照射レーザーの出力が制御され、」は、「照射レーザ」の「出力」を定めるために「制御する」のであるから、本願発明の「照射レーザの出力が2?6Wである」と、「照射レーザの出力を定める」点で共通する。
そうすると、本願発明と引用文献1記載発明は以下の点で一致しかつ相違する。

[一致点]
「A層とB層とC層とベース層とが順に積層されてなる積層体に情報が形成される方法であって、前記方法はA層とC層との間に挟まれた状態のB層の一部が除去されることによって前記情報が形成される方法であり、
前記A層は、アクリル系樹脂で構成されてなる透明な樹脂層であり、
前記B層は金属層であり、
前記C層は接着剤層であり、
YAGレーザが、前記透明な樹脂層であるA層表面側から前記金属層であるB層に向けて、照射される工程を具備し、
前記照射レーザの出力が定められ、
前記照射レーザのQスイッチを用いてパルス光とされ、
前記照射レーザに対して前記レーザ被照射物が相対的に移動する方法」である点。

[相違点]

(1) 相違点1
本願発明の「A層」は「無色透明な樹脂層」であるのに対し、引用文献1記載発明の「ホログラム形成層3」は透明なアクリル樹脂ではあるものの、無色であるかについて不明である点。

(2) 相違点2
本願発明のYAGレーザーは、「前記照射レーザの出力が2?6Wであり、前記照射レーザのQスイッチ周波数が70?330kHzであり、前記照射レーザに対する前記レーザ被照射物の相対移動速度が350?2500mm/s」であるのに対し、引用文献1記載発明のYAGレーザーは、出力が制御され、Qスイッチによりパルス光とされ、被照射物に対して相対移動するものではあるものの、具体的な出力値やQスイッチの周波数、そして被照射物に対する相対移動速度が不明である点。

2. 検討

(1) 相違点1について
上記第3の1.引用文献1の摘記事項(ア)には「ホログラム形成層3」の下側に積層された「金属反射層4」に形成された「記録部4a」について、「従って、記録部4aを目視によっても、機械読取りによっても読取ることができる。」と記載されているから、引用文献1記載発明は、「金属反射層4」の「記録部4a」を「ホログラム形成層3」を介して目視あるいは、機械読み取りによって読み取るものである。ここで、透明な物質が有色であるよりは無色の方がより物質背後にあるものをより視認しやすいことは当業者にとって技術常識であるから、引用文献1記載発明の透明な「ホログラム形成層3」を無色とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。

(2) 相違点2について
レーザマーキングに用いるレーザの出力について、上記第3の3.引用文献4の摘記事項(ウ)の「実施例3」の「平均出力」を「6W」とするとの記載から、レーザの「出力」を「6W」程度としたものが引用文献4には記載されている。
また、Qスイッチ周波数について、上記第3の2.引用文献2の摘記事項(ウ)の「従来のQスイッチ手段を用いたパルス光源では、周波数の上限が250kHz程度である」との記載及び同3.引用文献4の摘記事項(ア)の「特に、パルスレーザ光2のスポット径rが40μm以下、パルスレーザ光2のハッチング間隔hが30μm、パルスレーザ光2のQスイッチ周波数が30kHz、パルスレーザ光2のスキャンスピードが2?3000mm/sec程度のマーキング条件が設定される。」との記載から、レーザーの「Qスイッチ周波数」を「30kHzないし250kHz」程度としたものが、引用文献2及び4に記載されている。
そして、照射レーザに対するレーザ被照射物の相対移動速度について検討する。上記第3の2.引用文献2の摘記事項(ウ)には「・・・レーザマーキングの速度の上限は、Qスイッチ手段を用いた場合、2000mm/s程度であった。」及び同3.引用文献4の摘記事項(イ)には「スキャンスピードは、2000mm/secとする」とそれぞれ記載されている。ここで、「レーザマーキングの速度」や「スキャンスピード」は、レーザーが被照射物に対して当たる位置が移動する際の速度(スピード)であるから、照射レーザに対するレーザ被照射物の相対的な速度(スピード)であるといえる。そうすると、照射レーザーに対する被照射物の相対移動速度を「2000mm/s」程度としたものが引用文献2及び4に記載されている。

そうすると、従来周知のパラメータを参考にし、その範囲を最適化することは、通常行われることであるから、引用文献1記載発明の「照射レーザ」を、相違点2に係る構成を備えたものとすることは、「レーザー」のパラメーターである「照射レーザの出力」、「Qスイッチ周波数」及び「照射レーザに対する被照射物の相対移動速度」を上記引用文献2及び4にも記載された具体的数値を参考にして、当業者の通常の試行錯誤によって容易になし得る範囲内のものである。

(3) 作用及び効果について
本願発明が奏する作用及び効果について、本願明細書段落【0033】の「表-1」並びに【0034】の「表-2」及び「表-3」には、「レーザ照射による美観の優劣が○,△,×」で示されているが、引用文献1記載発明も上記第3の1.引用文献1の摘記事項(ア)の「記録部4aを目視によっても、機械読取りによっても読取ることができる。」との記載から、引用文献1記載発明の「方法」により製造されたものも、ある程度の美観を備えることが必要であることが示唆されているといえるから、本願発明の、上記作用及び効果は、当業者が予測し得る範囲以上のものであるとは認められない。

第5 まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は引用文献1記載発明並びに引用文献2及び4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでも無く、本願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-25 
結審通知日 2015-01-07 
審決日 2015-01-20 
出願番号 特願2011-201104(P2011-201104)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田合 弘幸  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 刈間 宏信
久保 克彦
発明の名称 A層とC層との間に挟まれたB層の一部除去方法、マーキング、及びA層とC層との間に挟まれたB層の一部除去装置  
代理人 宇高 克己  

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