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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G21F
管理番号 1298503
審判番号 不服2013-5254  
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-03-19 
確定日 2014-09-11 
事件の表示 特願2012-105192「放射能除染装置」拒絶査定不服審判事件〔〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年5月2日の出願であって、同年7月23日に手続補正がなされたが、同年12月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年3月19日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。
その後、平成25年4月25日付けで、当審により拒絶理由の通知がなされ、同年6月17日に請求人の要請により合議体との面接がなされ、同年7月1日に意見書が提出された。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年7月23日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものと認める。
「水素ガスを供給する水素供給手段と、
原料水に前記水素ガスを溶解させ、常温常圧下における溶存水素量1.2?1.6ppmの水素分子が溶け込んだ水素水を製造する水素水製造手段と、
製造した水素水を水流にして散布する散布手段と、
を備えることを特徴とする放射能除染装置。」

第3 引用例

1.引用例1
当審の拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2008-26023号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0001】
本発明は、放射性物質、生物剤、化学剤などにNBC災害時に、被災者や各種設備に対して除染処理を実施するための移動式除染装置に関するものである。」
(2)「【0037】
図1は、本発明の実施例1に係る移動式除染装置の全体構成を表すブロック図、図2は、実施例1の移動式除染装置における洗浄液処理装置の概略図、図3は、実施例1の移動式除染装置の概略図、図4は、実施例1の移動式除染装置による除染処理工程を表すブロック図、図5は、実施例1の移動式除染装置による洗浄液精製工程を表すブロック図、図6は、実施例1の移動式除染装置による洗浄液再処理工程を表すブロック図である。
【0038】
以下に説明する実施例1の移動式除染装置は、NBC(核-Nuclear、生物-Biological、化学-Chemical)災害が発生した場合に、放射性物質、生物剤、化学剤などの有害物質を浴びた被災者に対して除染処理を行うものである。
【0039】
この実施例1の移動式除染装置は、図3に示すように、自走可能な洗浄液処理車両11と、仮設可能な除染テント12とを有し、この洗浄液処理車両11に水タンク13と洗浄液処理装置14が搭載される一方、除染テント12内に除染装置15が配置され、洗浄液処理装置14と除染装置15が洗浄液供給ホース16及び洗浄液回収ホース17により連結されて構成されている。また、洗浄液処理装置14には廃液ホース18を介して廃液タンク19が連結されている。
【0040】
除染装置15は、図1に示すように、洗浄液により除染対象体としての被災者から汚染物質(放射性物質、生物剤、化学剤など)を除去するものである。この除染装置15は、外部と区画されて図示しない出入口が形成されたシャワー室21を有しており、このシャワー室21内の上部に、被災者に洗浄液処理装置12により製造された洗浄液を噴射するシャワー22が設けられる一方、シャワー室21内の下部に、被災者が乗るシャワー台23が載置され、このシャワー台23は、被災者が浴びて汚染物質を含んだ使用済洗浄液を回収する回収器能を有している。
【0041】
洗浄液処理装置14は、図1及び図2に示すように、洗浄液を製造する洗浄液製造装置24と使用済洗浄液をリサイクル処理する洗浄液再処理装置25とを有しており、洗浄液製造装置24は浄液供給ホース16及び洗浄液供給ポンプ16aにより除染装置15のシャワー22に連結され、洗浄液再処理装置25は洗浄液回収ホース17及び洗浄液回収ポンプ17aにより除染装置15のシャワー台23に連結されている。
【0042】
この洗浄液製造装置24は、上述した水を貯留する水タンク13と、この水タンク13から供給された水または洗浄液再処理装置25により再処理されたリサイクル水を加温する加温槽(加温手段)26と、加温された水に対して除染剤を添加して汚染物質を除染する洗浄液を精製する洗浄液精製装置27とから構成されている。この加温槽26は、電源部28に接続されたヒータ29を有しており、水タンク13からの水供給ポンプ30aを有する水供給配管30が連結されると共に、洗浄液再処理装置25からのリサイクル水供給配管31が連結されている。」
(3)「【図1】



これらの記載事項を含む引用例1全体の記載及び当業者の技術常識を総合すれば、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「自走可能な洗浄液処理車両(11)と、仮設可能な除染テント(12)とを有し、この洗浄液処理車両に水タンク(13)と洗浄液処理装置(14)が搭載される一方、除染テント内に除染装置(15)が配置され、洗浄液処理装置と除染装置が洗浄液供給ホース(16)及び洗浄液回収ホース(17)により連結されて構成されており、
この除染装置は、シャワー室(21)を有しており、このシャワー室内の上部に、被災者に洗浄液処理装置により製造された洗浄液を噴射するシャワー(22)が設けられ、
洗浄液処理装置は、洗浄液を製造する洗浄液製造装置(24)を有しており、洗浄液製造装置は洗浄液供給ホース及び洗浄液供給ポンプ(16a)により除染装置のシャワーに連結された、
移動式除染装置。」

2.引用例2
当審の拒絶理由に引用され、本願の出願前に日本国内において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献:「臆病者のempathy!,「【土壌除染】除去系・吸着系実証データ 」,[online],2011年10月26日,[平成24年5月15日検索]、インターネット」(以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1)「【土壌除染】除去系・吸着系実証データ
2011年10月26日21時19分23秒
テーマ:原発事故関連
土壌の除染が少しずつ進められている、と最近もTVでは報道されるようになりました。」
(2)「さて、除染には「吸着」と「除去」の二つの手法があります。
ネットでも割りと有名になっているものを実際に専門機関に検体を送ったデータがあったので、張っておきます。
*放射性セシウムについてのデータです。
【メモ】
◆アイテムと方法
▽除染系
・創生水
・EM菌
・水素水
⇒検体土壌に、アイテム500mlを注ぎ、屋外日陰に10日安置したのち、布で検体の水分を抜き、土壌のみを採取する。」
(3)「一回だけでは、大した量は除染できなかったようです。
ただ、この結果によって汚染水をろ過すると、放射性セシウムが20%ほど減ることは見てとれますし吸着系も、同じ程度は効果が期待できるようです。」

第4 対比
本願発明と引用発明を対比する。
1.引用発明の「洗浄液製造装置」と本願発明の「水素水製造手段」は、ともに「洗浄液製造手段」である点で共通する。
2.同様に、「製造された洗浄液を噴射するシャワー」と「製造した水素水を水流にして散布する散布手段」は、ともに「製造した洗浄液を水流にして散布する散布手段」である点で共通する。
3.また、引用発明の「移動式除染装置」は本願発明の「放射能除染装置」に相当する。

したがって両者は、
「洗浄液を製造する洗浄液製造手段と、
製造した洗浄液を水流にして散布する散布手段と、
を備える放射能除染装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本願発明では、洗浄液が「常温常圧下における溶存水素量1.2?1.6ppmの水素分子が溶け込んだ水素水」であって、洗浄液製造手段が「水素ガスを供給する水素供給手段」で「原料水に前記水素ガスを溶解させ水素水を製造する水素水製造手段」であるのに対して、引用発明はそのような構成を有さない点。

第5 相違点に関する判断
上記相違点について検討する。
引用例2には、「除染用の洗浄液として水素水を用いること」(以下「引用2発明」という。)が記載されている。
引用発明に引用2発明を適用し、引用発明の洗浄液として水素水を用いることに格別の技術的困難性も阻害要因もない。
また、原料水に水素ガスを供給して溶解させることにより水素水を製造することは、よく知られた周知技術である。
同様に、水素水として常温常圧下における溶存水素量1.2?1.6ppmの水素分が溶け込んだものは広く知られた周知のものである。
そして、常温常圧下における溶存水素量1.6ppmの水素分子が溶け込んだものが飽和濃度であることは、当業者の技術常識(原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された文献参照)であり、除染機能を高めるためになるべく高濃度の水素水を用いようとすることは、当業者であれば当然試みるであろうから、水素水として高濃度のものを用い、上記相違点に係る構成を採用することは、当業者が容易になしうる事項である。
なお、請求人は上記意見書(「第1 手続の経緯」参照)において、「引用例2には、水素水は水道水よりも除染効果が劣ることが記載されているから、引用例1に引用例2を組み合わせるには阻害要因がある」旨主張する。
しかしながら、引用例2には「一回だけでは、大した量は除染できなかったようです。ただ、この結果によって汚染水をろ過すると、放射性セシウムが20%ほど減ることは見てとれます」(上記摘記事項(3)参照)と記載されていることから明らかなとおり、除染の条件や方法によっては、さらなる効果が期待できることが示唆されており、当業者であれば、引用2発明を改良すべくその実施を試みることは、当然想定しうることである。
したがって、請求人の上記主張には理由がない。
また、請求人は上記意見書において、「引用例2の「水素水」が実は水素水ではないことが強く推認されるから、拒絶理由には承伏できない」旨主張する。
しかしながら、本願の出願時点で、本願発明に係る水素水はすでに広く知られたものであるから、引用例2の「水素水」が実際の水素水であるかどうかにかかわらず、当業者が実際の水素水を用いて引用2発明を実施することを妨げるものではない。
したがって、請求人の上記主張にも理由がない。

そして、本願発明の効果は、実際の水素水を除染に用いることによって得られる効果であるから、引用発明及び実際の水素水を用いて実施した引用2発明並びに周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用2発明並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-18 
結審通知日 2013-07-31 
審決日 2013-08-19 
出願番号 特願2012-105192(P2012-105192)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G21F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村川 雄一  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 北川 清伸
土屋 知久
発明の名称 放射能除染装置  
代理人 中村 和男  

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