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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1298790
審判番号 不服2013-18203  
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-20 
確定日 2015-03-18 
事件の表示 特願2007-549575「陽電子放出断層撮影-磁気共鳴断層撮影複合装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月 6日国際公開、WO2006/071922、平成20年 7月17日国内公表、特表2008-525161〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2005年(平成17年)12月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年12月29日、米国、2005年11月23日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成22年11月19日付けで拒絶理由が通知され、平成23年2月25日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、同年5月10日付けで拒絶理由が通知され、同年10月17日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、平成24年9月4日付けで拒絶理由が通知され、同年12月11日付けで意見書が提出されたが、平成25年5月8日付けで平成23年10月17日付け手続補正について補正の却下の決定がなされるとともに、同補正の却下の決定と同日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成25年9月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。


第2 平成25年9月20日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成25年9月20日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。


[理由]

1 本件補正について

本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成23年2月25日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載の、

「 陽電子放出断層撮影-磁気共鳴断層撮影複合装置において、
磁気共鳴スキャナの視野であってこの視野内で画像化される被検体の核から核磁気共鳴信号を誘導するための磁場を発生する磁石を含む磁気共鳴スキャナと、
シンチレータ及び前記シンチレータに光学的に結合された固体光検出器を含み前記磁気共鳴スキャナの前記磁場内に配置された陽電子放出断層撮影検出器モジュールとを備え、
前記磁気共鳴スキャナ内または前記磁気共鳴スキャナ上に取り付けられた前記陽電子放出断層撮影検出器モジュールは、前記磁気共鳴スキャナから取り外し可能である
ことを特徴とする陽電子放出断層撮影-磁気共鳴断層撮影複合装置。」


「 陽電子放出断層撮影-磁気共鳴断層撮影複合装置において、
磁気共鳴スキャナの視野であってこの視野内で画像化される被検体の核から核磁気共鳴信号を誘導するための磁場を発生する磁石を含む磁気共鳴スキャナと、
シンチレータ及び前記シンチレータに光学的に結合された固体光検出器を含み前記磁気共鳴スキャナの前記磁場内に配置された陽電子放出断層撮影検出器モジュールとを備え、
前記磁気共鳴スキャナ内に設けられた前記陽電子放出断層撮影検出器モジュールは、前記磁気共鳴スキャナから引っ込めることが可能である
ことを特徴とする陽電子放出断層撮影-磁気共鳴断層撮影複合装置。」
と補正された。(下線は補正箇所を示す。)

そして、この補正は、請求項1に記載された発明特定事項である「前記磁気共鳴スキャナ内」「に取り付けられた前記陽電子放出断層撮影検出器モジュールは、前記磁気共鳴スキャナから取り外し可能であること」を、「前記磁気共鳴スキャナ内に設けられた前記陽電子放出断層撮影検出器モジュールは、前記磁気共鳴スキャナから引っ込めることが可能であること」に変更する補正事項(以下「本件補正事項」という。)を含むものである。

2 補正の目的についての検討

そこで、本件補正事項の目的(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項の規定に違反しないか)について検討する。

(1)請求人が、平成23年10月17日付け意見書において、
「 PET検出器モジュールをMRIスキャナから引っ込めることの具体的な構成は本願明細書には詳細に説明されていません。例えば、MRIスキャナに伸縮可能なガイドレールを配置し、このガイドレールにPETモジュールを取付け、ガイドレールを介してPET検出器モジュールをMRIスキャナから引っ込めることができます。このとき、PET検出器モジュールはMRIスキャナに取り付けられたままの状態であります。
このように、「PET検出器モジュールをMRIスキャナから引っ込める」ことは、「MRIスキャナから取り外す(つまり切り離すまたは分離する)」こととは異なります。」
と主張しているように、陽電子放出断層撮影検出器モジュールが磁気共鳴スキャナから引っ込めることが可能であることと、陽電子放出断層撮影検出器モジュールが磁気共鳴スキャナから取り外し可能であることとは、それらが意味する技術的事項が異なるものである。
そして、本願明細書の段落番号【0009】(平成23年2月25日付けで誤記の補正がなされている。)に、
「(発明の要約)
本発明は、MRスキャナを備えたAPD(アバランシェフォトダイオード)ベースのPET検出器を提供することによって、従来技術における問題を克服する。APDは極めて小さく磁気的に鈍感なので、頭部及び四肢の撮像用の取り外し可能な挿入物としてMRスキャナのトンネル内に取り付けることができるか、または、MRスキャナ自体に完全に一体化することができる検出器を設計することが可能になる。」
と記載されているように、本願明細書には、PET検出器(陽電子放出断層撮影検出器モジュール)をMRスキャナから取り外し可能とする旨の記載もあることから、「取り外し可能」が、明らかに「引っ込めることが可能」の誤記であったということはできない。
よって、本件補正事項は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第3号に規定される誤記の訂正を目的とするものとは認められない。

(2)上記(1)で指摘したように、「取り外し可能」であることと、「引っ込めることが可能」であることとは、それらが意味する技術的事項が異なるものである。
そして、「引っ込めることが可能」であることが、「取り外し可能」であることの下位概念であるともいえない。
よって、本件補正事項は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められない。

(3)補正前の請求項1に記載された「前記磁気共鳴スキャナ内」「に取り付けられた前記陽電子放出断層撮影検出器モジュールは、前記磁気共鳴スキャナから取り外し可能であること」は、その意味する内容が明確である。
よって、本件補正事項は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第4号に規定される明りょうでない記載の釈明を目的とするものとは認められない。

(4)また、本件補正事項が平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号に規定される請求項の削除を目的とするものではないことは、明らかである。

(5)補正の却下の決定のむすび

したがって、本件補正事項は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、本件補正は、同法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明

平成25年9月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年2月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記第2[理由]1の記載参照。)

2 引用例

(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である米国特許出願公開第2003/0090267号明細書(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである。)。

ア 「[0026] In one aspect, the present invention relates to a combined MR-nuclear imaging system wherein the nuclear imaging device is positioned within the magnetic field of the MRI device. The nuclear imaging device may have a fixed position within the magnetic field of the MRI device, or alternatively, the nuclear imaging device may be allowed a range of motion within the magnetic field. 」
(当審仮訳:[0026]一態様において、本発明は、核撮像装置がMRI装置の磁場内に配置される、MR-核撮像複合システムに関する。核撮像装置は、MRI装置の磁場内で固定位置を有していてもよく、又は代替的に、核撮像装置は、磁場内で動ける範囲が与えられてもよい。)

イ 「[0044] FIG. 4 is a schematic representation of an embodiment of the nuclear detector module (NDM) 16 of the present invention. NDM 16 includes a scintillator module 10 which converts each gamma quantum received into a plurality of photons, a light guide module 11 which channels the photons to a hybrid photodetector (HPD) 17. The HPD comprises a photocathode 12, a vacuum electron tube 13, and an avalanche photocathode (APD) 14. the HPD also comprises accelerating electrodes (not shown). The photons exiting the light guide are received by photocathode 12 which outputs photoelectrons. The photoelectrons are accelerated in the vacuum tube 13 by a high-intensity electric field to directly strike the APD 14 where the electrons are multiplied and an electrical current is generated.・・・
[0045] Under certain conditions, HPDs have the property of being immune to magnetic fields. Specifically, HPDs are immune to magnetic fields that have a direction nearly parallel to the direction in which photoelectrons travel within the HPD. Further, when the intensity of the magnetic field is small (but not zero), the HPD is immune to magnetic fields regardless of the direction of the fields.
[0046] From this property of the HPDs, one can imagine at least two configurations for a combined MR-nuclear imaging device. One in which NDMs 16 are disposed within the magnetic field of the MRI device, and are further disposed such that the direction of the field is approximately parallel to the direction of travel of the photoelectrons in the HPD. And one configuration where the NDMs 16 are positioned outside the main field of the MRI device where the magnetic field falls below a certain intensity. In the latter case, the NDMs may have any orientation since they are immune to the influence of the magnetic field.
[0047] In the first configuration, NDMs such as the one shown in FIG. 5 are preferably used. Since the gamma quantums 15 to be measured travel in a generally horizontal direction (within a few degrees), the plane of the scintillator 10 which receives the gamma quantums 15 is preferably generally vertical. However, the magnetic field 19 of the MRI device has a vertical direction. Therefore, in order to align the field 19 with the travel direction of photoelectrons within HPD 17, a 90[deg.]-turn light guide 110 is preferably used. With such a light guide 110, the HPD 17 may be positioned such that the photoelectrons travel direction in nearly aligned with the field 19, and the NDM 18 is immune from the influence of the magnetic field. 」
(当審仮訳:[0044] 図4は、本発明の核検出器モジュール(NDM)16の実施形態の概略図である。NDM16は、受信された各ガンマ量子を複数の光子に変換するシンチレータモジュール10、光子をハイブリッド光検出器(HPD)17に送る光ガイドモジュール11を含む。HPDは、光電陰極12、真空電子管13及びアバランシェフォトカソード(APD)14を備える。HPDは、加速電極(図示せず)も備える。光ガイドを出る光子は、光電子を出力する光電陰極12により受信される。光電子は、高強度の電界により真空管13中で加速され、APD14を直撃し、電子が増倍されて電流が生成される。・・・
[0045]特定の条件下では、HPDsは磁場に影響されないという特性を持っている。具体的には、HPDsは、HPD内を移動する光電子の方向に対して平行方向の磁場には影響されない。さらに、磁場の強度が小さい(しかし、ゼロではない)とき、HPDは、方向に関係なく磁場に影響されない。
[0046]HPDsのこの特性から、MR-核複合撮像装置のために少なくとも二つの構成を想像することができる。一つは、NDMs16がMRI装置の磁場内に配置され、さらに、HPD内における光電子の移動方向に対して磁場の方向がほぼ平行となるように配置される構成。もう一つの構成は、NDMs16がMRI装置の主磁場の外側に配置されるものであり、そこでは磁場は特定の強度を下回る。後者の場合、NDMsは磁場の勢力に影響されないので、任意の配向を有することができる。
[0047]第一の構成では、図5に示すようなNDMsが好ましく用いられる。測定すべきガンマ量子15は、一般に水平方向(数度の範囲内)に移動するので、ガンマ量子15を受信するシンチレータ10の平面は、好ましくはほぼ垂直である。しかしながら、MRI装置の磁場19は垂直方向を有している。したがって、磁場19をHPD17内の光電子の移動方向に整列させるため、90°に曲がった光ガイド110が好ましく用いられる。このような光ガイド110を用い、光電子の移動方向がほぼ磁場19に整列されるようにHPD17を配置することができ、NDM18は磁場の勢力に影響されない。)

ウ 「[0049] Description of the Combined Nuclear-MR Imaging Device and Method Thereof
[0050] The combined Nuclear-MR imaging device is described below in the particular case where the nuclear imaging system is a PET and the overall purpose of the combined system is for mammalian breast imaging. However, the ideas and principles herein disclosed are applicable to other types of nuclear devices and to imaging of body parts other than breasts as well as imaging of the whole body. Other applications that utilize these ideas and principles are within the spirit of this invention and fall within its scope.
[0051] 1. Embodiment Where the Nuclear Imaging Device is Positioned Within the MRI Magnetic Field: Configuration #1
[0052] FIG. 1 is a schematic representation of an embodiment of the combined MRI-PET system for breast imaging. For ease of understanding only the relevant elements of the combined system are shown. The combined MRI-PET system includes a regular MRI device which includes an MRI magnet 1, and a coil 2 (such as a phase array coil). During an examination, the patient lies on her stomach on table 4 and inserts the breast to be imaged within the walls of the coil 2. In accordance with the present invention, a PET ring 3 is positioned within the walls of the coil 2 and surrounds the breast. FIG. 2 is a schematic representation showing a side view of the combined MRI-PET shown in FIG. 1. The PET ring 3 is electrically connected to a nuclear front-end stage (not shown). The coil 2 is electrically connected to an MRI front-end stage (not shown).
[0053] All other elements and connections between elements comprised in each of the MRI device and the PET device will be apparent to the skilled person and are not shown or described herein.
[0054] In the MRI-PET configuration of FIGS. 1 and 2, the MRI examination may be conducted simultaneously or quasi-simultaneously (in a biological time scale) without moving the patient. Thus, the MR image and the Nuclear image are taken in the same coordinate system, which greatly simplifies the combination of the images.
[0055] A similar configuration to the configuration shown in FIGS. 1 and 2 can be used for brain imaging. This configuration will be apparent to a person skilled in the art. Similarly, an architecture for imaging of the entire body may be designed using the same ideas and principles, and thus falls within the scope of this invention. 」
(当審仮訳:[0049]核-MR撮像複合装置及び方法の説明
[0050]以下で説明する核-MR撮像複合装置は、核撮像システムがPETであり、複合システムの全体的な目的が哺乳類の乳房の撮像である特定の場合に関するものである。しかしながら、ここで開示されたアイデアや原理は、他のタイプの核デバイスや、全身の撮像だけではなく乳房以外の体の部分の撮像に適用可能である。これらのアイデアや原理を利用する他の応用は、この発明の精神の範囲内であり、その範囲に包含される。
[0051]1.核撮像装置がMRIの磁場内に配置されている実施形態:構成#1
[0052]図1は、乳房撮像のためのMRI-PET複合システムの実施形態の概略図である。理解を容易にするために、複合システムに関連する要素のみが示されている。MRI-PET複合システムは、MRI磁石1及びコイル2(例えば、位相アレイコイルのような)を含む通常のMRI装置を含む。検査中、患者はテーブル4上でうつ伏せになり、撮像される胸がコイル2の壁内に挿入される。本発明によれば、PETリング3は、コイル2の壁内に配置され、乳房を包囲する。図2は、図1に示した複合MRI-PETの側面図を示す概略図である。PETリング3は、核フロントエンドステージ(図示せず)に電気的に接続されている。コイル2は、MRIフロントエンドステージ(図示せず)に電気的に接続されている。
[0053]MRI装置及びPET装置それぞれに含まれるその他のすべての要素及び要素間の接続は、当業者には明らかであろう。ここでは、図示又は説明をしない。
[0054]図1及び2のMRI-PETの構成において、MRI検査は、患者を移動させることなく、同時に又は準同時(生物学的時間スケールで)に行うことができる。したがって、MR画像及び核画像は同じ座標系で取り込まれ、画像の組み合わせを大幅に簡素化する。
[0055]図1及び2に示された構成と同様の構成を、脳の撮像に使用することができる。この構成は、当業者には明らかであろう。同様に、全身の撮像のためのアーキテクチャは、同じアイデア及び原理を用いて設計されるであろう。したがって、本発明の範囲に包含される。)

エ「[0056] 2. Embodiment Where the Nuclear Imaging Device is Positioned a Short Distance away from the Main Magnetic Field Configuration #2
[0057] FIG. 3 is a schematic representation of an embodiment of the invention in configuration #2. The patient's breast is placed within the walls of the MRI coil 2, as is done during a regular MRI breast examination. The MRI system is activated and the MRI breast examination is conducted. The duration of a conventional MRI examination depends on the pulse frequency used. A standard breast examination in turbo regime typically takes about 7 minutes.
[0058] Once the MRI examination is completed, the breast is released from the coil 2 and the table is translated toward the PET ring 3 and the breast is inserted within the PET ring 3. This is preferably done without moving the patient with respect to the table. Since there is a known relationship between the coordinate system of the MRI coil and the coordinate system of the PET ring (inherent to the geometry of the combined device), and the position of the table is known with respect to either coordinate system, images acquired with either technique can easily be combined into a common coordinate system.
[0059] Preferably while still in the lying position the patient is injected with a radio active substance (typically ^(99)Ts). Radioactive isotopes inside the breasts emit gamma quantums, which are detected by the NDMs of the PET ring 3, and a Nuclear image is acquired.
[0060] The MR image and Nuclear image acquired may then be combined. This combination is greatly facilitated by the fact that both images can be represented in a common coordinate system. Additionally, in a biological time scale, the two images can be considered to have been acquired at the same time.」
(当審仮訳:[0056]2.核撮像装置が主磁場から少し離れて位置付けられる実施形態:構成#2
[0057]図3は、構成#2における本発明の実施形態の概略図である。普通のMRI乳房検査の際に行われているように、患者の乳房は、MRIコイル2の壁内に配置される。MRIシステムが起動され、MRI乳房検査が行われる。従来のMRI検査の持続時間は、使用されるパルス周波数に依存する。ターボ領域における標準乳房検査は、典型的には、約7分を要する。
[0058]MRI検査が完了すると、乳房はコイル2から解放され、テーブルがPETリング3に向かって移送され、乳房はPETリング3内に挿入される。これは、好ましくは、テーブルに対して患者を移動させずに行われる。MRIコイルの座標系とPETリングの座標系との間には、既知の関係(複合装置の形状に固有)があり、テーブルの位置はいずれかの座標系との関係において既知であるので、いずれの技法により取得された画像も容易に共通の座標系に組み合わせることができる。
[0059]好ましくは、うつ伏せ状態で静止している間に、患者は放射性物質(一般的には ^(99)Ts)を注射される。乳房内の放射性同位体はガンマ量子を放出し、PETリング3のNDMsによって検出され、核画像が取得される。
[0060]そして、取得されたMR画像及び核画像は、組み合わされる。この組み合わせは、両方の画像を共通座標系で表現することができるという事実によって大幅に促進される。さらに、生物学的な時間スケールで、2つの画像は同時に取得されたと考えることができる。)

オ Fig.1




カ Fig.2




キ Fig.3




ク Fig.4




ケ Fig.5




コ 摘記事項ウに記載された構成#1において、PETリング3の構造については明記されていないが、PETリング3が検出器を有することは技術常識である。そして、構成#1はMRIの磁場内に核撮像装置を配置するものであるから、PETリング3の検出器として磁場の影響を考慮した検出器を用いることは明らかであり、摘記事項イ及びケに記載されたMR-核複合撮像装置のために磁場の影響を受けないように構成された核検出器モジュールNDM18が、PETリング3の検出器として想定されていることは明らかである。

(2) 引用例1に記載された発明の認定

よって、上記記載から、引用例1には、以下の発明が記載されている。

「 核-MR撮像複合装置であって、核撮像システムがPETであり、MRI磁石1及びコイル2を含む通常のMRI装置を含み、核撮像システムがMRIの磁場内に配置され、PETリング3がコイル2の壁内に配置されており、
PETリング3が有する検出器が、
受信された各ガンマ量子を複数の光子に変換するシンチレータモジュール10、ハイブリッド光検出器(HPD)17、及び、光子をHPD17に送る光ガイドモジュールを含み、
HPD17は、光電陰極12、真空電子管13及びアバランシェフォトカソード(APD)14を備え、
MRI装置の磁場19をHPD17内の光電子の移動方向に整列させるため、光ガイドモジュールとして90°に曲がった光ガイド110を用い、磁場の勢力に影響されないようにした核検出器モジュールNDM18である、
核-MR撮像複合装置。」(以下「引用発明」という。)

(3) 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である実願平5-62988号(実開平7-29489号)のCD-ROM(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである。)。

ア 「 【0004】
この考案は、このような事情に鑑みてなされたものであって、装置の外周部に検出器の取り外すための空間を必要とせず、かつ、検出器の着脱を容易に行うことができるポジトロンECT装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この考案は、このような目的を達成するため、次のような構成をとる。
すなわち、この考案は、一対のシールドの間に多数個の検出器がリング状に配列された多層検出器を備えたポジトロンエミッションCT装置において、前記多層検出器の軸線方向へ開閉可能な支持部材に前記シールドの一方を取り付けたものである。
【0006】
【作用】
この考案の装置によれば、一対のシールドの間に多数個の検出器がリング状に配列された多層検出器を備えたポジトロンエミッションCT装置において、前記多層検出器の軸線方向へ開閉可能な支持部材に前記シールドの一方を取り付けたので、シールドを取り付けた支持部材を多層検出器の軸線方向へ開くことにより、装置内部に支持されていた検出器を軸線方向に取り出すことができ、また、取り付けることができる。」

イ 「 【0012】
支持部材4の開口部の内側に第1シールド3と同様のリング状の第2シールド5が取り付けられている。支持部材4を閉じた状態では、各検出器6のシンチレータ部分が第1,第2シールド3,5によって挟み込まれるので、検出器6への外乱の侵入が阻止される。一方、メンテナンスなどのために支持部材4を開放すると、第2シールド5を保持した状態で、a軸を中心に支持部材4を検出器に対して前部が全面オープン状態にできるので、検出器6を取り外す際、作業者がガントリ1の前部から検出器6を収納した収納ケース10を取り付けていたネジ部材を外すことにより、どの部分に位置する収納ケース10であっても前方向に引き出すことができ、容易に作業を行うことができる。」

3 本願発明と引用発明との対比

(1)対比

本願発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「核-MR撮像複合装置」における「核撮像システム」は「PET」であり、PET及びMR撮像装置が、それぞれ陽電子放出断層撮影装置及び磁気共鳴断層撮影装置であることは明らかであるから、引用発明の「核撮像システムがPETであ」る「核-MR撮像複合装置」が、本願発明の「陽電子放出断層撮影-磁気共鳴断層撮影複合装置」に相当する。

イ 通常のMRI装置が、スキャンを行うこと、及び、磁気共鳴スキャナの視野内で画像化される被検体の核から核磁気共鳴信号を誘導するための磁場を発生する磁石を含むことは技術常識であるから、引用発明の「MRI磁石1及びコイル2を含む通常のMRI装置」が、本願発明の「磁気共鳴スキャナの視野であってこの視野内で画像化される被検体の核から核磁気共鳴信号を誘導するための磁場を発生する磁石を含む磁気共鳴スキャナ」に相当する。

ウ 引用発明の「シンチレータモジュール10」が、本願発明の「シンチレータ」に相当する。

エ アバランシェフォトカソードが固体光検出器であることは技術常識であるから、引用発明の「アバランシェフォトカソード(APD)14」が、本願発明の「固体光検出器」に相当する。

オ 引用発明において、シンチレータモジュール10で変換された光子は、光ガイドモジュールである光ガイド110によりアバランシェフォトカソード(APD)14を備えるハイブリッド光検出器(HPD)17に送られることから、引用発明のアバランシェフォトカソード(APD)14はシンチレータモジュール10に光学的に結合されているといえる。

カ 引用発明の「MRIの磁場内」及び「PETリング3」が、それぞれ本願発明の「前記磁気共鳴スキャナの前記磁場内」及び「陽電子放出断層撮影検出器モジュール」に相当する。

キ 上記ウないしカから、引用発明の「シンチレータモジュール10」で変換された光子が、光ガイドモジュールである光ガイド110により「アバランシェフォトカソード(APD)14を備え」る「ハイブリッド光検出器(HPD)17」に送られる「核検出器モジュールNDM18」を有し、「MRIの磁場内に配置されて」いる「核撮像システム」の「PETリング3」が、本願発明の「シンチレータ及び前記シンチレータに光学的に結合された固体光検出器を含み前記磁気共鳴スキャナの前記磁場内に配置された陽電子放出断層撮影検出器モジュール」に相当する。

ク 引用発明において、「PETリング3が」MRI装置の「コイル2の壁内に配置されている」ことから、引用発明の「PETリング3」が「MRI装置」の内部に配置されていることは明らかである。
そして、陽電子放出断層撮影装置(PET)において、PETリングを何らかの手段により固定支持することは技術常識であるから、引用発明の「PETリング3」は「MRI装置」内に取り付けられているといえる。
よって、引用発明において、「PETリング3がコイル2の壁内に配置されている」ことと、本願発明において「前記陽電子放出断層撮影検出器モジュール」が「前記磁気共鳴スキャナ内または前記磁気共鳴スキャナ上に取り付けられた」こととは、「前記陽電子放出断層撮影検出器モジュールが前記磁気共鳴スキャナ内に取り付けられている」点において共通する。

(2)一致点

よって、本願発明と引用発明とは、

「 陽電子放出断層撮影-磁気共鳴断層撮影複合装置において、
磁気共鳴スキャナの視野であってこの視野内で画像化される被検体の核から核磁気共鳴信号を誘導するための磁場を発生する磁石を含む磁気共鳴スキャナと、
シンチレータ及び前記シンチレータに光学的に結合された固体光検出器を含み前記磁気共鳴スキャナの前記磁場内に配置された陽電子放出断層撮影検出器モジュールとを備え、
前記陽電子放出断層撮影検出器モジュールが前記磁気共鳴スキャナ内に取り付けられている、
陽電子放出断層撮影-磁気共鳴断層撮影複合装置。」

の発明である点で一致し、次の点で相違する。

(3)相違点

<相違点>
前記磁気共鳴スキャナ内に取り付けられた前記陽電子放出断層撮影検出器モジュールが、本願発明においては、前記磁気共鳴スキャナから取り外し可能であるのに対し、引用発明においては、前記磁気共鳴スキャナから取り外し可能であるのかが不明である点。

4 当審の判断

(1)上記相違点について検討する。

ア (ア)引用例1の摘記事項ウに「[0054]図1及び2のMRI-PETの構成において、MRI検査は、患者を移動させることなく、同時に又は準同時(生物学的時間スケールで)に行うことができる。MR画像及び核画像は同じ座標系で取り込まれ、画像の組み合わせを大幅に簡素化する。」とあるように、引用発明が、MR画像及び核画像取得の同時性、両画像の座標系に対するズレ抑制に優れていることは明らかである。
一方、引用例1の摘記事項エ及びキには、「核撮像装置が主磁場から少し離れて位置付けられる」実施形態も記載されており、当該実施形態においては、引用発明よりも磁場の影響を抑制し、PET画像の正確性に優れていることは明らかである。

(イ)引用発明が核-MR撮像複合装置であるように、装置一般において汎用性を拡大することは周知の課題であり、引用例1に接した当業者であれば、MR画像及び核画像取得の同時性、両画像の座標系に対するズレ抑制に優れた引用発明と、PET画像の正確性に優れた実施形態とを兼用できるようにするために、引用発明において、PETリング3をMRI装置の磁場の影響を受けない場所にも配置できるように、PETリング3をMRI装置から取り外し可能として、上記相違点における本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得ることである。

イ また、引用例2の摘記事項アには「検出器の着脱を容易に行うことができるポジトロンECT装置」が記載され、摘記事項イには「メンテナンスなどのために・・・検出器6を取り外す」ことが記載されている。
装置一般においてメンテナンスが必要であることは技術常識であり、引用例2の記載からメンテナンスのために検出器を取り外し可能とすることが有効な手段であることは明らかであるから、引用発明において、メンテナンスのためにPETリング3をMRI装置から取り外し可能として、上記相違点における本願発明の発明特定事項を得ることも、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)本願発明の奏する作用効果

本願発明によってもたらされる効果は、引用発明並びに引用例1及び2に記載された技術から当業者が予測し得る程度のものである。

(3)まとめ

したがって、本願発明は、引用発明並びに引用例1及び2に記載された技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


なお、審判請求書において、請求人が、本願発明は「前記磁気共鳴スキャナ内に設けられた前記陽電子放出断層撮影検出器モジュールは、前記磁気共鳴スキャナから引っ込めることが可能である」点において進歩性を有する旨の主張をしていることから、この点に関して言及しておく。
本願明細書には、「前記磁気共鳴スキャナ内に設けられた前記陽電子放出断層撮影検出器モジュールは、前記磁気共鳴スキャナから引っ込めることが可能である」ことに関連する可能性がある記載として、その段落【0020】に、「PETモジュールをMRスキャナ内及びMRスキャナ外に配置して、ベースラインMR画像を得た。」との記載がある。しかしながら、この記載の前後には、「PETモジュールがMRの性能に及ぼす影響、並びに、磁場、RF(高周波)、及び、傾斜パルスがPETの性能に及ぼす影響を決定するために、測定が実施された。PETモジュールがデータを収集している間、PETモジュールがMR画像に及ぼす影響を定量化するために、MRシーケンスが実施された。」、「PETモジュールがMRトンネル内にある場合には、MRのS/N比は15%低下した。従って、この影響は、PETモジュール及びケーブルの改良された遮蔽を利用することによって軽減することが可能である。」との記載があることから、当該段落に記載された「PETモジュールをMRスキャナ内及びMRスキャナ外に配置」することは、陽電子放出断層撮影-磁気共鳴断層撮影複合装置を製造する段階において行うこととも解釈でき、完成した陽電子放出断層撮影-磁気共鳴断層撮影複合装置において、磁気共鳴スキャナ内に設けられた陽電子放出断層撮影検出器モジュールを、前記磁気共鳴スキャナから引っ込めることにより、陽電子放出断層撮影検出器モジュールを磁気共鳴スキャナ内及び磁気共鳴スキャナ外に配置して、ベースラインMR画像を得ることを意味するものと断定することはできない。
そして、本願明細書の他の部分び図面の記載を参酌しても、「前記磁気共鳴スキャナ内に設けられた前記陽電子放出断層撮影検出器モジュールは、前記磁気共鳴スキャナから引っ込めることが可能である」ことの目的及び効果、並びにそのための構成に関する記載を見いだすことはできず、「前記磁気共鳴スキャナ内に設けられた前記陽電子放出断層撮影検出器モジュールは、前記磁気共鳴スキャナから引っ込めることが可能である」ことの技術的意義が不明瞭である。
引用例1には、PETリング3をMRI装置の内部に配置する実施形態と、PETリング3をMRI装置の外部に配置する実施形態とが記載されており、上記「4 当審の判断」に記載したように、両実施形態を兼用するためにPETリング3を移動させることは当業者が容易に想到し得ることであり、そのためにPETリング3をMRI装置から引っ込める手段を設けることは、設計事項に過ぎない。
よって、本願発明が「前記磁気共鳴スキャナ内に設けられた前記陽電子放出断層撮影検出器モジュールは、前記磁気共鳴スキャナから引っ込めることが可能である」ことを発明特定事項として含むものであったとしても、進歩性を見いだすことはできない。


第4 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-10-14 
結審通知日 2014-10-21 
審決日 2014-11-04 
出願番号 特願2007-549575(P2007-549575)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 57- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 豊田 直樹大▲瀬▼ 裕久  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 三崎 仁
渡戸 正義
発明の名称 陽電子放出断層撮影-磁気共鳴断層撮影複合装置  
代理人 山口 巖  

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