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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1298853
審判番号 不服2013-14474  
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-26 
確定日 2015-03-20 
事件の表示 特願2012-137356「動植物の生理活性を促す腐植液の製造方法及びその腐植液の使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月 9日出願公開、特開2014- 1160〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年6月18日の出願であって、平成25年4月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

第2 平成25年7月26日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年7月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲及び明細書の記載を補正するものであって、特許請求の範囲については、平成25年3月29日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲を以下のように補正するものである。

○補正前(平成25年3月29日付け手続補正書の特許請求の範囲)
「【請求項1】
野菜の屑である残滓からなる未分解の有機物を炭の製造過程で産出される極強酸性で自然由来の酢液に適量漬け込み,長時間にわたって養生をすることを特徴とする動植物の生理活性を促す腐植液の製造方法。
【請求項2】
酢液を漬け込む有機物に対して容量換算で50%以上混合することによって,漬け込む有機物全体に酢液を浸透,接触できるようにした請求項1記載の動植物の生理活性を促す腐植液の製造方法。
【請求項3】
自然由来の酢液には水分が80%以上,有機酸含有量が1.0%以上の資材を用いるようにした請求項1記載の動植物の生理活性を促す腐植液の製造方法。
【請求項4】
自然由来の酢液をpH(H_(2)O)5.0以下で電気伝導度が1.0mS/cm以上のものを用いるようにした請求項1記載の動植物の生理活性を促す腐植液の製造方法。
【請求項5】
自然由来の酢液に粒径がφ=1.0mm以下の固形物しか含まれていないものを用いるようにした請求項1記載の動植物の生理活性を促す腐植液の製造方法。
【請求項6】
自然由来の酢液が木質系の有機質資材のみならず,魚介類から抽出した酸性溶液である請求項1記載の動植物の生理活性を促す腐植液の製造方法。
【請求項7】
野菜の屑である残滓の未分解の有機物を炭の製造する過程で産出される極強酸性の酢液に適量漬け込み,長期間養生することで製造した腐植液を吸水性のある炭またはゼオライト,ピートモス,バーク堆肥,バーミキュライト,パーライトの固体資材に染み込ませることで腐植液の成分の溶出をコントロールし,動植物の生理活性を促す効果を持続させることができるようにしたことを特徴とする動植物の生理活用を促す腐植液の使用方法。
【請求項8】
製造した腐植液(フューミン,フルボ酸,フミン酸)は,フリーズドライにすることで粉末化し,その粉末をマイクロカプセルに内包することもできるようにした請求項7記載における動植物の生理活性を促す腐植液の使用方法。
【請求項9】
製造した腐植液は,アルギン酸類と混ぜ合わせることでゲル状にし,腐植液の成分の溶出をコントロールし,動植物の生理活性を促す効果を持続させながら使用することもできるようにした請求項7記載における動植物の生理活性を促す腐植液の使用方法。
【請求項10】
製造した腐植液は,酢液単独時よりもキレート作用が高いことから,糞尿や残滓や汚れた水域に対して混合及び散布することで消臭及び凝集が進み環境改善する効果を発揮することもできるようにした請求項7記載における動植物の生理活性を促す腐植液の使用方法。
【請求項11】
製造した腐植液は,植物に対しては希釈して散布し,その植物が生長している土壌に対しては液体や固体に染み込ませた状態で散布混合することで生長促進作用を有するのみならず,発芽の促進または耐病性の向上及び耐乾燥性の向上及び光合成の促進及び代謝の促進及び植物性酵素の活性化及び殺菌作用を有する請求項7記載における動植物の生理活性を促す腐植液の使用方法。
【請求項12】
製造した腐植液は,液体で頭皮に散布するとキレート効果によって,汚れが凝集することから毛上損傷を軽減し,縮毛矯正またはパーマ液に使用することもできるようにした請求項7記載における動植物の生理活性を促す腐植液の使用方法。」

○補正後(本件補正に係る手続補正書の特許請求の範囲)
「【請求項1】
野菜の屑である残滓からなる未分解の有機物を炭の製造過程で産出される極強酸性で自然由来の酢液に適量漬け込み,長時間にわたって養生をすることを特徴とする動植物の生理活性を促す腐植液の製造方法。
【請求項2】
酢液を漬け込む有機物に対して容量換算で50%以上混合することによって,漬け込む有機物全体に酢液を浸透,接触できるようにした請求項1記載の動植物の生理活性を促す腐植液の製造方法。
【請求項3】
自然由来の酢液には水分が80%以上,有機酸含有量が1.0%以上の資材を用いるようにした請求項1記載の動植物の生理活性を促す腐植液の製造方法。
【請求項4】
自然由来の酢液をpH(H_(2)O)5.0以下で電気伝導度が1.0mS/cm以上のものを用いるようにした請求項1記載の動植物の生理活性を促す腐植液の製造方法。
【請求項5】
自然由来の酢液に粒径φが1.0mm以下の固形物しか含まれていないものを用いるようにした請求項1記載の動植物の生理活性を促す腐植液の製造方法。
【請求項6】
野菜の屑である残滓の未分解の有機物を炭の製造する過程で産出される極強酸性の酢液に適量漬け込み,長期間養生することで製造した腐植液を吸水性のある炭またはゼオライト,ピートモス,バーク堆肥,バーミキュライト,パーライトの固体資材に染み込ませることで腐植液の成分の溶出をコントロールし,動植物の生理活性を促す効果を持続させることができるようにしたことを特徴とする動植物の生理活用を促す腐植液の使用方法。
【請求項7】
製造したフルボ酸の腐植液は,野菜の屑である残滓からなる未分解の有機物を炭の製造過程で産出される極強酸性で自然由来の酢液に適量漬け込み,長時間にわたって養生をすることで製造したものであり、これをフリーズドライにすることで粉末化でき,その粉末をマイクロカプセルに内包することもできるようにしたことを特徴とする動植物の生理活性を促す腐植液の使用方法。
【請求項8】
製造したフルボ酸の腐植液は,野菜の屑である残滓からなる未分解の有機物を炭の製造過程で産出される極強酸性で自然由来の酢液に適量漬け込み,長時間にわたって養生をすることで製造したものであり、これをアルギン酸類と混ぜ合わせることでゲル状にし,腐植液の成分の溶出をコントロールし,動植物の生理活性を促す効果を持続させながら使用することもできるようにしたことを特徴とする動植物の生理活性を促す腐植液の使用方法。
【請求項9】
製造したフルボ酸の腐植液は,野菜の屑である残滓からなる未分解の有機物を炭の製造過程で産出される極強酸性で自然由来の酢液に適量漬け込み,長時間にわたって養生をすることで製造したものであり、これを酢液単独時よりもキレート作用が高いことから,糞尿や残滓や汚れた水域に対して混合及び散布することで消臭及び凝集が進み環境改善する効果を発揮することもできるようにしたことを特徴とする動植物の生理活性を促す腐植液の使用方法。
【請求項10】
製造したフルボ酸の腐植液は,植物に対して希釈して散布し,その植物が生長している土壌に対しては液体や固体に染み込ませた状態で散布混合することで生長促進作用を有するのみならず,発芽の促進または耐病性の向上及び耐乾燥性の向上及び光合成の促進及び代謝の促進及び植物性酵素の活性化及び殺菌作用を有することを特徴とする動植物の生理活性を促す腐植液の使用方法。
【請求項11】
製造しフルボ酸のた腐植液は,野菜の屑である残滓からなる未分解の有機物を炭の製造過程で産出される極強酸性で自然由来の酢液に適量漬け込み,長時間にわたって養生をすることで製造したものであり、これを液体で頭皮に散布するとキレート効果によって,汚れが凝集することから毛上損傷を軽減し,縮毛矯正またはパーマ液に使用することもできるようにしたことを特徴とする動植物の生理活性を促す腐植液の使用方法。」

本件補正は,特許法第17条の2第1項第4号に係る手続補正であって、特許請求の範囲の補正については、同条第5項各号に規定する何れかの事項を目的とするものでなければならないので、以下検討する。
(2)本件補正の目的の検討
補正前の請求項8?12は請求項7を引用していたが、本件補正では、補正前の請求項6を削除して補正前の請求項7を補正後の請求項6とする一方、補正後の請求項7?11は請求項6を引用しない補正がされた。
ここで、補正前の請求項11は請求項7を引用していたのであるから、補正前の請求項11の発明を特定するために必要な事項である「製造した腐植液」は、請求項7の「野菜の屑である残滓の未分解の有機物を炭の製造する過程で産出される極強酸性の酢液に適量漬け込み,長期間養生することで製造した腐植液」に限定されていた。しかしながら、補正後の請求項10は上記したように請求項6を引用しておらず、他の補正後の請求項のような補正前に引用形式で記載されていた部分を書き下す形とした補正もされていない。そうすると、本件補正の請求項10についての補正は、発明を特定するために必要な事項である「製造した腐植液」を、任意の原料から任意の手法で製造された腐植液に拡張するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものではないことは明らかであるし、また、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的としたものともいえない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たすものとすることができないものである。
(3)むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件出願について
(1)本願発明
平成25年7月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年3月29日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
野菜の屑である残滓からなる未分解の有機物を炭の製造過程で産出される極強酸性で自然由来の酢液に適量漬け込み,長時間にわたって養生をすることを特徴とする動植物の生理活性を促す腐植液の製造方法。」

(2)引用刊行物及び記載事項
原審で引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開2008-237083号公報(原審の引用文献1)(以下、「刊行物1」という。)には、以下のことが記載されている。(下線は、当審で付した。)
[1a]「【特許請求の範囲】
【請求項1】
生ごみ(1A)を破砕して生ごみ破砕物とする第1工程と、
前記生ごみ破砕物(1B)を木酢液と混合し該木酢液に浸漬する第2工程と、
前記木酢液に浸漬した生ごみ破砕物を第1熟成期間の間放置することにより生ごみペースト物(1C)とする第3工程と、
第1の粉炭(4A)に前記生ごみペースト物(1C)を混ぜ込む第4工程と、
前記生ごみペースト物と混合した第1の粉炭を、通気性を確保しつつ第2熟成期間の間放置することにより粉炭熟成物(4B)とする第5工程と、
第2の粉炭(5A)に前記粉炭熟成物を混ぜ込むことにより植物栽培用土壌(5B)とする第6工程とを有することを特徴とする植物栽培用土壌の製造方法。
・・・
【請求項4】
前記第1熟成期間が48時間であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の植物栽培用土壌の製造方法。」

[2a]「【背景技術】
【0002】
従来、専業農家での野菜栽培、家庭菜園、園芸等に利用される多様な構成の土壌が提供されている。このような植物栽培用土壌は、植物生育に必要な栄養分やバクテリアを含み、有害菌を含まず、適度なpHであり、根茎の成長を促進する適度な粒度等を備え、その他、適度な通気性や保水性を備えていること等が要件となっている。」

[3a]「【発明の効果】
【0012】
上記のように構成された本発明は、下記の効果を奏する。
(a)本発明により製造される植物栽培用土壌は、通気性、排水性及び保水性のある粉炭と、木酢液とを使用することによって保肥性のあるものとなる。
(b)粉炭は、粉状であるために隙間を形成することがなく、植物根系全体を満遍なく覆い、その特性を行渡らせることができる。
(c)木酢液の特性である防虫効果で、害虫から植物を保護することができる。
(d)本発明による植物栽培用土壌のみで、土壌と堆肥の代用となり、基本的にこれ以外の肥料は不要である。
(e)本発明による植物栽培用土壌は、冷害、干ばつ、病気、細菌などに有効に対応でき、収穫、味、栄養素に優れた食物等が無農薬で製造できる。
(f)本発明による植物栽培用土壌は、化学的な合成物質を使用せず自然の材料のみから製造でき、生ごみを有効に活用できると同時に、炭と木酢液の特性を生かした環境により土壌が得られる。生ごみがバクテリアにより分解され極めて栄養豊富な土壌となる。」

[4a]「【0014】
図1に示す第1工程では、材料となる生ごみ1Aを破砕する。本発明に使用する生ごみ1Aは、一般家庭、八百屋や魚屋等の店舗、または水産加工場等の食品加工施設などから排出される食物廃棄物であればいずれも利用できる。図1の例では、生ごみの破砕に破砕機11を用いている。破砕機11は、数mm程度のメッシュの切断刃11aを備えており、投入された生ごみ1Aをこの切断刃11aに通すことによりミンチ状態(細かく刻んだ状態)に破砕する。この状態の生ごみを、「生ごみ破砕物(符号1Bで示す)」と称することとする。ミンチ状態にされた生ごみ破砕物1Bは、適宜の容器21に収容する。容器21は、その内側に笊状の内駕籠22を備えており、生ごみ破砕物1Bを内駕籠22で受け堆積させるとともに、内駕籠22の孔から余剰水2が落下する(生ごみの内容によっては、余剰水2がほとんどない場合もある)。余剰水2は廃棄する。余剰水2は、自然落下するもののみでよく、生ごみ破砕物1Bを絞る必要はない。」

[5a]「【0015】
図2に示す第2工程では、上記第1工程で得られた生ごみ破砕物1Bの上から木酢液3を流し入れ、生ごみ破砕物1Bとよく混合する。混合した後、生ごみ破砕物1Bの全体が浸る程度の木酢液3の量とし、生ごみ破砕物1Bを木酢液3に浸漬する。木酢液は、炭焼き過程で排出される煙を冷却液化して得られる液体である。木酢液は、水を除く主成分である酢酸の他に、木材由来の有機酸、フェノール、タールなどを含むことで弱酸性を示し、強い殺菌作用がある。本発明においては、針葉樹を用いた木酢液が好ましい。針葉樹は、炭にした場合に広葉樹に比べて気泡面積が大きいためバクテリアが繁殖し易いからである。」

[6a]「【0016】
図3に示す第3工程では、上記第2工程で木酢液に浸漬した生ごみ破砕物1Bを所定の期間(「第1熟成期間」と称する)放置する。放置する際は、通気性のある蓋23で容器21の開口部を覆う。蓋23は、通気性があれば材質は任意でよい。これは虫や不純物の混入を防ぐためである。第1熟成期間は、生ごみ破砕物1Bの量にほぼ無関係に48時間程度が好適である。温度は、15℃?25℃がバクテリアの繁殖に好適である。第1熟成期間の間に、生ごみ破砕物1Bに含まれるタンパク質、糖分、油分等がバクテリアによって分解され、また、塩分が中和されて、ペースト状態となる。ペースト状態とは、多少の固形分は残留していても、その大部分がどろりとした流動性の小さい液体状態であることをいう。この状態となった生ごみを、「生ごみペースト物(符号1Cで示す)」と称することとする。さらに、生ごみペースト物1Cは、木酢液の作用により殺菌滅菌状態となっている。」

[7a]「【0017】
なお、内駕籠22の孔を通して、生ごみペースト物1Cから自然に落下した余剰液3’は別の容器に取り出す。この余剰液3’には、栄養分が豊富に残留しているので廃棄せず、次回バッチの第3工程における木酢液3と合わせて使用することが好ましい。」

(3)引用発明
刊行物1には、第1?6工程を有する植物栽培用土壌の製造方法が記載されており(摘示[1a])、第1?3工程において、「生ごみペースト物(1C)」が製造されていることから、以下の発明が記載されているものといえる。

「生ごみ(1A)を破砕して生ごみ破砕物とする第1工程と、前記生ごみ破砕物(1B)を木酢液と混合し該木酢液に浸漬する第2工程と、前記木酢液に浸漬した生ごみ破砕物を第1熟成期間である48時間の間放置することにより生ごみペースト物(1C)とする第3工程とを有する生ごみペースト物(1C)の製造方法」(以下、「引用発明」という。)

(4)対比・検討
本願発明における各特定事項が、引用発明においても具備しているといえるかについて、以下順次検討する。
ア 「野菜の屑である残滓からなる未分解の有機物」について
引用発明の「生ごみ(1A)」は、一般家庭、八百屋の店舗などから排出される食物廃棄物であるから(摘示[4a])、第1工程で破砕されて得られた「生ごみ破砕物(1B)」は本願発明の「野菜の屑である残滓からなる未分解の有機物」といえる。
イ 「炭の製造過程で産出される極強酸性で自然由来の酢液」について
本願発明は「炭の製造過程で産出される極強酸性で自然由来の酢液」とするものであるが、例えば、刊行物1には、引用発明の「木酢液」に関して「木酢液は、炭焼き過程で排出される煙を冷却液化して得られる液体である。」(摘示[5a])と記載されていることからも理解されるように、本願発明でいう「炭の製造過程で産出される…自然由来の酢液」には、通常「木酢液」と呼ばれているものが該当することは明らかである。
そして、本願発明でいう『極強酸性』に関して、本願明細書【0023】には「…極強酸性とはpH4.4以下のことを意味し、…」と記載されているが、この点に関しても、木酢液は、通常pH3前後のものが使用されている(例えば、以下の参考文献1?3参照。)ことから、引用発明の木酢液もこの程度のpH値を有するものと解され、本願発明にいう『極強酸性』に該当するものといえる。
したがって、引用発明の「木酢液」は、本願発明の「炭の製造過程で産出される極強酸性の自然由来の酢液」に相当するものといえる。
参考文献1:特開2010-180069号公報(特に【0020】など)
参考文献2:特開2009-242180号公報(特に【0053】など)
参考文献3:特開2007-38115号公報(特に【0003】など)
ウ 「・・・を・・・に適量漬け込み」 について
引用発明は、第2工程で生ごみ破砕物(1B)を木酢液と混合し木酢液に浸漬しているのであるから、「・・・を・・・に適量漬け込み」という要件を具備するといえる。
エ 「長時間にわたって養生をする」について
本願発明において「長時間」は具体的な時間で特定されていないが、本願明細書の【0020】には、「…少なくとも5時間以上,長い場合は25日(600時間)という長時間浸漬することで,…」といった記載がなされていることから、本願発明における『長時間にわたって養生する』とは5時間?25日程度の時間浸漬することを意味するものと解される。
これに対して、引用発明では、第1熟成期間が48時間であるから、本願発明でいう『長時間』に該当する時間といえる。
したがって、引用発明も「長時間にわたって養生する」との事項を具備しているものといえる。
オ 「動植物の生理活性を促す腐植液の製造方法」について
本願発明でいう『生理活性』に関して,本願明細書には、
「本発明において,生理活性とは化学物質が生体の特定の生理的調整機能に対して作用する性質のことを意味するものである。」(【0001】)及び
「腐植液は,植物に対しては希釈して散布し,その植物が生長している土壌に対して液体や固体に染み込ませた状態で散布,混合することで生長促進作用を有するのみならず,発芽の促進,耐病性の向上,耐乾燥性の向上,光合成の促進,代謝の促進,植物性酵素の活性化などの効果や,殺菌作用を有する。」(【0030】)
などと記載されていることから、少なくとも植物の生長を促進させる作用をも意味するものと解される。
さらに、本願発明の『腐植液』には、その製造工程を考慮すると使用した『酢液』(「木酢液」に相当することは上記イで記載したとおり)も一体となっており、例えば殺菌作用など木酢液に由来する生理活性も、本願発明の『腐植液』が有する生理活性の一部として含まれているものと解される。
これに対して、刊行物1では、
「【発明の効果】
【0012】
上記のように構成された本発明は、下記の効果を奏する。
(a)本発明により製造される植物栽培用土壌は、通気性、排水性及び保水性のある粉炭と、木酢液とを使用することによって保肥性のあるものとなる。
(b)粉炭は、粉状であるために隙間を形成することがなく、植物根系全体を満遍なく覆い、その特性を行渡らせることができる。
(c)木酢液の特性である防虫効果で、害虫から植物を保護することができる。
(d)本発明による植物栽培用土壌のみで、土壌と堆肥の代用となり、基本的にこれ以外の肥料は不要である。
(e)本発明による植物栽培用土壌は、冷害、干ばつ、病気、細菌などに有効に対応でき、収穫、味、栄養素に優れた食物等が無農薬で製造できる。
(f)本発明による植物栽培用土壌は、化学的な合成物質を使用せず自然の材料のみから製造でき、生ごみを有効に活用できると同時に、炭と木酢液の特性を生かした環境により土壌が得られる。生ごみがバクテリアにより分解され極めて栄養豊富な土壌となる。」
と記載(摘示[3a])されていて、木酢液に由来する作用を含めて、植物に対する生長を促進させる作用を奏するものとされている。
もっとも、引用発明は、第2熟成期間前のものであるが、その段階でも木酢液に由来する作用は元より、生ごみ粉砕物の腐植(摘示[6a])に伴って植物に対する生長を促進させる成分(摘示[2a]、[7a])も部分的にせよ当然に生じているものと解される上、さらに加えて本願発明の養生期間は、上記エで記載したように、極めて幅の広い期間を意味するものと解され、本願発明の『腐植液』又は『腐植』が有するとされる生理活性も、それらの期間に応じた差があるものといえるし、しかも、本願発明の一具体例である実施例において「腐植含有量が5.0%」(本願明細書【0032】)との記載がなされているものの、この含有量について、本願発明でいう『生理活性』に関して、例えば、どのような効果の差に帰結するものかについての具体的な記載はなされていないものである。
そうすると、引用発明でも、刊行物1に記載の植物に対する作用を部分的にせよ有すると解される上、本願発明でいう「動植物の生理活性を促す腐植液」については、その生理活性に関して本願明細書にはどの程度顕在的な作用を意味するのかが明らかにされていないのみならず、非常に幅の広い程度の差があるものが含まれると解されることから、引用発明でも、本願発明の「動植物の生理活性を促す腐植液」に相当する液が生成していると解釈することができるものである。
よって、引用発明は、「動植物の生理活性を促す腐植液の製造方法」に該当するといえる。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1に記載の発明と実質的に相違するものとすることができないので、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-21 
結審通知日 2015-01-22 
審決日 2015-02-06 
出願番号 特願2012-137356(P2012-137356)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (A61K)
P 1 8・ 113- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大島 彰公  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 小川 慶子
小久保 勝伊
発明の名称 動植物の生理活性を促す腐植液の製造方法及びその腐植液の使用方法  
代理人 磯野 政雄  
代理人 磯野 政雄  

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