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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E02B
管理番号 1298891
審判番号 不服2013-12373  
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-28 
確定日 2015-03-19 
事件の表示 特願2012- 62311号「耐震抗土圧構造物」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月30日出願公開、特開2013-194418号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成24年3月19日の出願であって、平成25年3月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月28日付けで拒絶査定不服の審判請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされ、平成26年10月16日付けで当審により拒絶理由通知がなされ、これに対して、平成26年12月18日に手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1乃至7に係る発明は、平成26年12月18日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至7に記載された事項事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである。(以下、「本願発明」という。)

「【請求項1】
抗土圧構造体の背面側に硬化性材料を注入して地盤改良してなる抗土圧構造物において、前記抗土圧構造体の背面側への硬化性材料の注入を、抗土圧構造体の背面側の液状化地盤のうち比較的抗土圧構造体に近い範囲に限定することで地盤改良範囲を低減させた構成とし、地盤改良範囲を低減させたことで、地震時に前記抗土圧構造体に作用する抗土圧構造体を転倒させようとする土圧に対しては、前記硬化性材料の固結によって形成される前記地盤改良範囲の内側の改良体内部に、間隔をおいて複数の引張り抵抗を有する下向きの補強材を設けて、その補強材の周辺を硬化性材料の固結によって周囲の改良体と一体化することで、該補強材が前記地盤改良範囲の改良体内部に生じる引張り力による亀裂に対して抵抗する構成とし、前記抗土圧構造体と前記補強材を硬化性材料の固結により連結した抗土圧構造物であって、前記抗土圧構造体の背面側の地盤改良範囲の改良幅Bを改良地盤の高さHの60%以内に限定し、前記補強材は、引張材の周辺に硬化性材料を用いて地盤と一体化したものであり、地盤中に注入管を設置して注入管内に引張材を挿入して硬化性材料を注入しながら注入管を引き上げて形成するか、あるいは注入管内に硬化性材料を充填して引張材を硬化性材料中に挿入して注入管を引き上げて形成したものであることを特徴とする抗土圧構造物。」

3.引用刊行物
(1)刊行物1
本願出願前に頒布された刊行物である、特開平6-306854号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の記載がある。
(1a)「【請求項1】 土圧・水圧等の側圧を支持すべく構築される土留用壁体であって、側圧の負荷方向と交差して延長形成される所定幅の地盤改良体と、該地盤改良体の側圧負荷方向前方の側端部に沿って打設される前方杭体と、前記地盤改良体の側圧負荷方向後方の側端部に沿って打設される後方杭体と、該後方杭体及び前記前方杭体を連結する引張材とからなることを特徴とする土留用壁体。」

(1b)「【0005】そこで、この発明は上記問題点を解消するためになされたもので、地盤改良体による土留用壁体であって、改良幅を大きくとる必要がなく、合理的かつ経済的に設計・施工を行なうことができるとともに、土圧力を安定して支持することのできる土留用壁体を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】この発明は、上記目的を鑑みてなされたもので、その要旨は、土圧、水圧等の側圧を支持すべく構築される土留用壁体であって、側圧の負荷方向と交差して延長形成される所定幅の地盤改良体と、該地盤改良体の側圧負荷方向前方の側端部に沿って打設される前方杭体と、前記地盤改良体の側圧負荷方向後方の側端部に沿って打設される多数の後方杭体と、該後方杭体及び前記前方杭体を結合する引張材とからなることを特徴とする土留用壁体にある。」

(1c)「【0008】
【作用】以上の構成を有する土留用壁体によれば、地盤改良体は、当該地盤改良体の両側部に沿って打設される前方杭体及び後方杭体と、当該前方杭体及び後方杭体を結合する引張材の作用により一体化する。すなわち、引張材の作用により改良体と杭体とが一体となって側圧に抵抗するので、地盤の必要改良幅が低減するとともに、側圧を効率良くかつ安定して支持することができる。」

(1d)「【0009】
【実施例】以下、この発明の一実施例を図面を用いて詳細に説明する。この実施例における土留用壁体10は、図1に示すように、開削工法により地中に構造物を構築する際に、掘削の障害となる切梁等の山留支保部材を開削部に設けることなく、周囲の軟弱地盤Eからの土圧や水圧などの側圧を安定して支持すべく造成されたものである。
【0010】すなわち、この実施例の土留用壁体10は、各種の地盤改良工法により造成された所定幅の地盤改良体11と、この地盤改良体11の前面、すなわち地盤改良体11の開削部側の側面に沿って所定間隔をおいて打設設置された前方杭体としての前方H形鋼12と、地盤改良体11の背面、すなわち地盤改良体11の軟弱地盤E側の側面に沿って、前記前方H形鋼12と対応して所定間隔をおいて打設設置された後方杭体としての後方H形鋼13と、地盤改良体11内を横断して前方H形鋼12と後方H形鋼13とを結合する引張材14とによって構成される。
【0011】そして、かかる土留用壁体10を形成するには、まず、開削予定箇所を囲って地盤改良体11を造成する。この地盤改良体11は、一例として、図2に示される深層混合パイル工法により、地盤改良体11の造成領域内に縦横に多数の円柱状の地盤改良パイル17を打設することによって造成する。すなわち、この深層混合パイル工法は、パイル打設機械15によって回転ロッド16を所定深度まで打ち込んだ後に((イ)?(ハ)参照)、当該回転ロッド16の先端から固化材を供給しつつ引抜くことにより((ニ)参照)、地盤の土砂と固化材とを混合攪拌した地盤改良パイル17を順次造成して行くものである((ホ)参照)。
【0012】地盤改良体11を造成したら、前記前方H形鋼12、後方H形鋼13及び引張材14を取付けるべく、この地盤改良体11には、これの延長方向と垂直方向に、例えば図3に示す薄溝掘削機18を使用して、図4に示す掘削断面を有する取付溝19を掘削形成する。この薄溝掘削機18は、例えば特開平2-221519号公報に開示される既知のもので、円形断面の一対の削孔部20とこれらの間に設けられた一対のチェーンカッター21とを有し、クレーン等のベースマシーン(図示せず)から吊下げられて、その重量により地中鉛直方向に取付溝19を掘進して行くものである。すなわち、円形の掘削孔22は削孔部20により、縦長の溝孔23はチェーンカッター21により、各々掘削形成する。なお、この取付溝19は必ずしも地盤改良体11の鉛直方向の全長に亘って掘削形成する必要はなく(図6参照)、かかる掘削長さは、これに挿入される前方H形鋼12及び後方H形鋼13の支持力や大きさ等を鑑みて適宜設計されるものである。
【0013】そして、掘削形成した取付溝19には、図5及び図6に示すように、両端の掘削孔22に前方H形鋼12、後方H形鋼13を各々挿入する。また、前方H形鋼12、後方H形鋼13との間には、これらを結合するための引張材14を縦長溝孔23内に設置する。ここで、引張材14は、図7に示すように、その両端に固定した一対の嵌合部材24を前方H形鋼12及び後方H形鋼13のフランジ25に各々嵌合し、フランジ25をガイドとして沈下させてゆくことにより、所定の位置に容易に設置することができる。なお、かかる引張材14は、必ずしも予めテンションを負荷しておく必要はないが、少なくとも前方H形鋼12と後方H形鋼13との間の地盤改良体11に引張り力が作用しようとした場合にこれを支持する強度を備えることを必要とし、例えば鋼棒、鋼線、鋼矢板、ワイヤ等からなるものを使用する。また、かかる前方H形鋼12、後方H形鋼13及び引張材14の設置作業に際し、取付溝19内には例えばベントナイト泥水を充填して壁面の安定を維持する。
【0014】そして、これらの部材の設置作業が完了したら、例えば注入ロッド等(図示せず)を介して取付溝19の底部からセメントミルクを注入し、ベントナイト泥水と置換してこれを固結させることにより、地盤改良体11、前方H形鋼12、後方H形鋼13及び引張材14が一体となった土留用壁体10の造成が完了する。」

(1e)「【0017】また、上記実施例では地盤改良体11の開削面側に、前方杭体としてH形鋼を打設する場合について記載したが、前方杭体として鋼矢板を連続打設することにより土留用壁体10を造成することもできる。すなわち、この場合には、地盤改良体11を鋼矢板の打設線上から50?100cm程度離して造成するとともに、取付溝19の一方の掘削孔22が鋼矢板の打設線上に位置するように取付溝19を掘削する。そして、打設線上に沿って鋼矢板を打設する際に、当該掘削孔22には、予め背面に溶接等によってH形鋼32を固接した鋼矢板31(図9参照)を打設するとともに、該H形鋼32と後方H形鋼13とをガイドとして所定の位置に引張材14を取り付け、さらに地盤改良体11と鋼矢板との隙間を例えば高圧噴射パイル工法等の地盤改良工法によって固化し、両者の一体化を図ようにする。 なお、上記実施例は、この発明の土留用壁体を開削工法における山留用の壁体として用いる場合について記載したが、この発明の土留用壁体はかかる壁体に限定されるものではなく、その他にも例えば地盤の崩壊や移動等を防止するべく地中に形成される壁体等として用いることもできる。」

(1f)「【0018】
【発明の効果】以上詳細に説明したように、この発明の土留用壁体は、所定幅に造成された地盤改良体と、この地盤改良体の側端部に沿って打設形成された前方杭体及び後方杭体と、後方杭体及び前方杭体を結合する引張材とからなり、これらが一体となって土圧、水圧等の側圧に抵抗するので、かかる側圧を効率的かつ安定して支持することができるとともに、地盤の必要改良幅を低減して安価に造成することができるという格別の効果を奏するものである。」

(1g)図1には土留用壁体の全体の外観が開示されており、地盤改良体の改良幅は地盤改良体の高さの略半分であることが示されている。

(1h)上記記載事項(1d)の前方杭体としてH形鋼を打設する実施例を参照して、記載事項(1e)の前方杭体として鋼矢板を連続打設する実施例をみると、該実施例においても、両端の掘削孔とその間の縦長溝孔からなる取付溝19には、鋼矢板31の背面に固接したH形鋼32と後方H形鋼13と引張材14が設置され、設置作業が完了したら、【0014】のとおり、取付溝の底部からセメントミルクを注入しこれを固結させることにより、地盤改良体11、H形鋼32、後方H形鋼13及び引張材14を一体とすることが明らかである。

これら記載事項及び図示内容から、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認められる。
「各種の地盤改良工法により造成された必要な改良幅を低減した所定幅の地盤改良体11と、この地盤改良体11の前面、すなわち地盤改良体11の開削部側の側面に沿って所定間隔をおいて打設設置された前方杭体としてのH形鋼32を固接した鋼矢板31と、地盤改良体11の背面に沿って、前記前方H形鋼32と対応して所定間隔をおいて打設設置された後方杭体としての後方H形鋼13と、地盤改良体11内を横断して前方H形鋼32と後方H形鋼13とを結合する引張材14を連続打設した土留用壁体において、
地盤改良体11を鋼矢板31の打設線上から離して造成するとともに、両端の掘削孔22とその間の縦長溝孔23からなる取付溝19の一方の掘削孔22が鋼矢板の打設線上に位置するように取付溝19を掘削して、当該掘削孔12にはH形鋼32を固接した鋼矢板31を連続打設し、H形鋼32、後方H形鋼13、引張材14を取り付けてこれらの部材の設置作業が完了したら、取付溝19の底部からセメントミルクを注入しこれを固結させることにより、地盤改良体11、H形鋼32、後方H形鋼13及び引張材14を一体とし、さらに地盤改良体11と鋼矢板31との隙間を高圧噴射パイル工法等の地盤改良工法によって固化し、両者の一体化を図ることにより造成した土留用壁体。」(以下、「引用発明1」という。)

(2)刊行物2
本願出願前に頒布された刊行物である、特公昭58-9207号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の記載がある。

(2a)「1 水平又は鉛直ボーリングにより適宜の間隔を以て複数本の削孔パルプを略平行して所定の位置まで掘進せしめた後、該削孔パルプ内にパイプ、H鋼等の補強材を挿入し、次いで削孔パイプを回転しながら又は回転しないで該削孔パイプの先端部に設けた噴射ノズルから地盤硬化材を含む薬液を100?400mm/secの高速噴流として噴射しつつ地盤を切削しながら薬液と土とを強制撹拌混合しつつもしくは切削部を薬液で充?しつつ削孔パイプのみを引き戻し、補強材の周囲に薬液と土とが混入して凝固した硬化物体又は高速噴流の移動軌跡に沿つた薬液の硬化物体を形成し、以て補強材を中心に有する連続壁を造成することを特徴とする地中硬化物体の造成方法。」(特許請求の範囲)

(2b)「本発明は、たとえば遮水シールド等の防護に利用される連続壁面の造成工法に係り、注入硬化材の中心部に補強材を有する連続壁面を地中に造成することを目的とする。」(1欄最下行?2欄3行)

(2c)「第1図?第3図は、水平ボーリングにより連続壁を造成する工程を示す断面図で、まず、第1図の如く従来の削孔パイプの管径よりも大きく最大600φ程度の管径を有する削孔パイプ2を、横穴掘り機1により地盤10中を出発坑6より到達坑7へ通した後、第2図の如く削孔パイプ2内にパイプ、H鋼等の補強材4を必要とする長さだけ挿入する。次いで、第3図の如く、削孔パイプ2の先端部に設けた噴射ノズル3から地盤硬化材を含む薬液を高速噴流として噴射しつつ地盤10を切削しながら薬液と土とを混入しつつ又は切削部を薬液で充填しつつ削孔パイプ2を出発坑6の方へ引き戻す。かくして、補強材4の周囲には、薬液と土とが混入して凝固した硬化物体5〔第5図ロ及び第6図ロ〕又は高速噴流の移動跡に沿つた薬液の硬化物体5〔第5図イ及び第6図イ〕が形成される。」(2欄37行?3欄16行)

(2d)「尚、上記各実施例では、水平方向の連続壁造成について説明したが、鉛直方向も同様に造成できる。」(3欄24?26行)

(2e)「また、補強材を被う削孔パイプを引き戻しながら薬液を噴射するので、補強材の周囲には確実に硬化物体が形成できる。また、削孔パイプを引き戻しながら補強材を残すので、削孔パイプに挿入できるものであればパイプ、H鋼に限らず任意形状のものを補強材として利用できる。」(4欄30?35行)

以上の記載事項から、刊行物2には、次の発明が記載されているものと認められる。
「削孔パイプを鉛直方向に地盤中の所定の位置まで掘進せしめた後、削孔パイプにH鋼等の補強材を挿入し、削孔パイプの先端部に設けた噴射ノズルから地盤硬化材を含む薬液を噴射しつつ薬液と土を混入しつつ又は掘削部を薬液で充填しつつ削孔パイプのみを引き戻して、H鋼等の補強材の周囲に薬液と土とが混入して凝固した硬化物体」(以下、「引用発明2」という。)

4.対比
本願発明と引用発明1を対比する。

(a)引用発明1の「鋼矢板31」は本願発明1の「抗土圧構造体」に相当する。以下、同様にして、「後方H型鋼13からなる後方杭体」は「補強体」及び「引張材」に、「地盤改良体11」は、「地盤改良範囲」の「改良体」及び「地盤」に、「土留用壁体」は「抗土圧構造物」にそれぞれ相当する。

(b)引用発明1の「鋼矢板31」は「地盤改良体11」の前面にあるから、「鋼矢板31」(「抗土圧構造体」)の背面側には、硬化性材料を注入して地盤改良していることになる。そして、引用発明1の「必要な改良幅を低減した所定幅の地盤改良体」は、本願発明と同様に「硬化性材料の注入を、抗土圧構造体の背面側の液状化地盤のうち比較的抗土圧構造体に近い範囲に限定することで地盤改良範囲を低減させた構成」といえる。

(c)引用発明1の「後方H型鋼13からなる後方杭体」(「補強体」)はH型鋼である故、引張材でもあることは明らかであり、セメントミルクの固結により地盤改良体11と一体化すれば地盤改良体11の内部に生じる引張り力による亀裂に対して抵抗することも技術的に明らかであるから、引用発明1の「所定間隔をおいて打設設置された」「後方H形鋼13」と「地盤改良体11」がセメントミルクで固結され一体とした構成は、本願発明の「地震時に前記抗土圧構造体に作用する抗土圧構造体を転倒させようとする土圧に対しては、前記硬化性材料の固結によって形成される前記地盤改良範囲の内側の改良体内部に、間隔をおいて複数の引張り抵抗を有する下向きの補強材を設けて、その補強材の周辺を硬化性材料の固結によって周囲の改良体と一体化することで、該補強材が前記地盤改良範囲の改良体内部に生じる引張り力による亀裂に対して抵抗する構成」、「補強材は、引張材の周辺に硬化性材料を用いて地盤と一体化した」構成を備えているといえる。

(d)引用発明1の「鋼矢板31」(抗土圧構造体)と「後方H型鋼13」(「補強材」)は「引張材14」により連結されたものでもあるが、「セメントミルクを注入しこれを固結させることにより、地盤改良体11、H形鋼32、後方H形鋼13及び引張材14を一体と」することは、周囲の地盤改良体11やセメントミルクも「鋼矢板31」と「後方H型鋼13」の連結に寄与することから、引用発明1の「土留用壁体」(「抗土圧構造物」)は本願発明と同様に「抗土圧構造体」と「補強材」を硬化性材料の固結により連結されているともいえる。

そうすると、両者は次の点で一致する。
「抗土圧構造体の背面側に硬化性材料を注入して地盤改良してなる抗土圧構造物において、前記抗土圧構造体の背面側への硬化性材料の注入を、抗土圧構造体の背面側の液状化地盤のうち比較的抗土圧構造体に近い範囲に限定することで地盤改良範囲を低減させた構成とし、地盤改良範囲を低減させたことで、地震時に前記抗土圧構造体に作用する抗土圧構造体を転倒させようとする土圧に対しては、前記硬化性材料の固結によって形成される前記地盤改良範囲の内側の改良体内部に、間隔をおいて複数の引張り抵抗を有する下向きの補強材を設けて、その補強材の周辺を硬化性材料の固結によって周囲の改良体と一体化することで、該補強材が前記地盤改良範囲の改良体内部に生じる引張り力による亀裂に対して抵抗する構成とし、前記抗土圧構造体と前記補強材を硬化性材料の固結により連結した抗土圧構造物であって、前記補強材は、引張材の周辺に硬化性材料を用いて地盤と一体化したものである抗土圧構造物。」

そして、両者は次の点で相違する。
(相違点1)
本願発明は抗土圧構造体の背面側の地盤改良範囲の改良幅Bを改良地盤の高さHの60%以内に限定したのに対し、引用発明1はそのような特定がない点。

(相違点2)
補強材を、引張材の周辺に硬化性材料を用いて地盤と一体化するに際し、本願発明は、地盤中に注入管を設置して注入管内に引張材を挿入して硬化性材料を注入しながら注入管を引き上げて形成するか、あるいは注入管内に硬化性材料を充填して引張材を硬化性材料中に挿入して注入管を引き上げて形成したものであるのに対し、引用発明1は取付溝19の底部からセメントミルクを注入しこれを固結させ、注入管を用いていない点。

5.判断
(1)相違点1について
引用発明1は地盤改良体の改良幅を低減する目的を有しており、また、上記3.の(1g)においても、地盤改良範囲の改良幅が改良地盤の高さの略半分であることが示されているから、抗土圧構造体の背面側の地盤改良範囲の改良幅を改良地盤の高さの60%以内とし、前記相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得ることである。

(2)相違点2について
上記3.(2)のとおり、引用発明2は、削孔パイプを鉛直方向に地盤中の所定の位置まで掘進せしめた後、削孔パイプにH鋼等の補強材を挿入し、削孔パイプの先端部に設けた噴射ノズルから地盤硬化材を含む薬液を噴射しつつ薬液と土を混入しつつ又は掘削部を薬液で充填しつつ削孔パイプのみを引き戻して、H鋼等の補強材の周囲に薬液と土とが混入して凝固した硬化物体に関する発明であり、注入管内に補強材を挿入し、硬化性材料を充填しつつ注入管を引き上げて補強材と地盤を一体化する構成を備えている。そして、引用発明2は連続壁面の造成に用いているから、引用発明1において引用発明2を採用し、前記相違点2に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得ることである。

また、本願発明の作用効果は、引用発明1及び引用発明2からみて格別なものではない。

(3)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成26年12月18日に提出の意見書において、次の主張をしている。
「拒絶理由通知書の6頁14行?25行では、・・・しかしながら、刊行物1の段落〔0008〕で言っている「必要改良幅を低減」、「一体化」というのは、「前方杭体及び後方杭体を結合する引張材の作用により一体化する。すなわち、引張材の作用により改良体と杭体とが一体となって側圧に抵抗するので、地盤の必要改良幅が低減するとともに、側圧を効率良くかつ安定して支持することができる。」というものであり、本願発明1で言っている「前記補強材は、引張材の周辺に硬化性材料を用いて地盤と一体化したものであり、」における「一体化」とは意味が異なります。」(第3頁第21行?第38行)
しかしながら、引用発明1の「セメントミルクを注入しこれを固結させることにより、地盤改良体11、前方H形鋼32、後方H形鋼13及び引張材14を一体とし」は、「セメントミルクを注入しこれを固結させることにより・・地盤改良体11・・後方H形鋼13・・を一体と」するものであって、結果的に後方H形鋼13(本願発明の「補強材」に相当するもの)は、後方H形鋼13(本願発明の「引張材」にも相当するもの)の周辺にセメントミルク(本願発明の「硬化性材料」に相当するもの)を注入しこれを固結させる(本願発明の「用いて」に相当)ことにより、地盤改良体11(本願発明の「地盤」に相当するもの)等と一体とされた(本願発明の「一体化した」に相当)ものであって、引用発明の当該構成が、本願発明の「補強材は、引張材の周辺に硬化性材料を用いて地盤と一体化したもの」である構成に相当することに誤りはない。
よって、請求人の「一体化」は「前方杭体及び後方杭体を結合する引張材の作用により一体化」に限定される旨の主張は採用できない。
なお、引用発明1は引張材14を備えているが、本願明細書【0048】に「その地盤改良体内部に複数の補強材2を間隔をおいて打設し、矢板1と補強材2をダイロッド3でつなぐ。なお。改良体の強度が比較的大きい場合にはタイロッド3を省略することもできる。」と記載されているように、本願発明が矢板1と補強材2とをつなぐ部材を排除するものでもない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は引用発明1及引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2015-01-16 
結審通知日 2015-01-20 
審決日 2015-02-04 
出願番号 特願2012-62311(P2012-62311)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西田 秀彦  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 住田 秀弘
本郷 徹
発明の名称 耐震抗土圧構造物  
代理人 久門 享  
代理人 久門 保子  
代理人 久門 享  
代理人 久門 保子  
代理人 久門 保子  
代理人 久門 享  

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