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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1298892 |
審判番号 | 不服2013-14123 |
総通号数 | 185 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-07-23 |
確定日 | 2015-03-19 |
事件の表示 | 特願2007-185793「不妊症改善用素材」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 2月 5日出願公開、特開2009- 23919〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成19年7月17日の出願であって、平成24年12月17日付けで手続補正がなされ、平成25年4月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年7月23日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に、手続補正がなされたものである。 2.平成25年7月23日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成25年7月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] (1)本件補正の適否 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 補正前の 「ヒト子宮内膜上皮細胞における白血病阻害因子(LIF)の分泌、ヒト子宮内膜上皮細胞におけるトランスフォーミング成長因子β(TGF-β)の分泌およびグリコデリンの発現の少なくとも1つを調整することのできるダイゼインを除くアグリコン型イソフラボン(腸内細菌によってアグリコン型イソフラボンに分解される配糖体イソフラボンを含む)、ゲニスタイン、エコールの1種若しくは複数種からなるイソフラボンを有することを特徴とする不妊症改善用素材。」 から、 補正後の 「ヒト子宮内膜上皮細胞における白血病阻害因子(LIF)の分泌、ヒト子宮内膜上皮細胞におけるトランスフォーミング成長因子β(TGF-β)の分泌およびグリコデリンの発現の少なくとも1つを調整することのできる単独で存在するダイゼインおよびゲニスタインを除くアグリコン型イソフラボン(腸内細菌によってアグリコン型イソフラボンに分解される配糖体イソフラボンを含む)からなるイソフラボンを有することを特徴とする不妊症改善用素材。」 へ補正された。 そこで、本件補正前後の特許請求の範囲の請求項1を対比すると、本件補正は、本件補正前の請求項1について、「ダイゼインを除くアグリコン型イソフラボン(腸内細菌によってアグリコン型イソフラボンに分解される配糖体イソフラボンを含む)、ゲニスタイン、エコールの1種若しくは複数種からなるイソフラボン」を「単独で存在するダイゼインおよびゲニスタインを除くアグリコン型イソフラボン(腸内細菌によってアグリコン型イソフラボンに分解される配糖体イソフラボンを含む)からなるイソフラボン」に変更するものである。ここで、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という)には、用いられるイソフラボンについて、下記の記載がある。 (A)「アグリコン型イソフラボン、ゲニスタイン、ダイゼイン、エコールを含むイソフラボンが、ヒト子宮内膜ガン由来細胞(Ishikawa Cell)の白血病阻害因子(LIF)およびトランスフォーミング成長因子β(TGF-β)の分泌、ならびに、グリコデリンの発現を調整することができることを発見して本発明を完成させた。」(【0010】) (B)「発明の不妊症改善用素材は、イソフラボンが、アグリコン型イソフラボン(腸内細菌によってアグリコン型イソフラボンに分解される配糖体イソフラボンを含む)、ゲニスタイン、ダイゼイン、エコールの1種若しくは複数種からなることを特徴とする。」(【0016】) (C)「本発明の不妊症改善用素材は、アグリコン型イソフラボンは、抽出物の重量の70%がイソフラボンで、ダイゼイン:ゲニスタイン:グリシタインが7:1:2の重量割合とされていることを特徴とする。」(【0020】) (D)「アグリコン型イソフラボンには、AglyMax-70(ニチモウ商品名)を採用した。本出願人の提案している特開2000-281673号公報に開示されている製法によって生成されたものであり、麹菌(Aspergillus awamori)によって大豆胚珠を発酵させ、エタノール/水抽出して精製したものである。抽出物は重量の70%がイソフラボンで、ダイゼイン:ゲニスタイン:グリシタインが7:1:2の重量割合となっている。」(【0025】) (E)「AglyMax 0.5 μg/mLもしくはゲニスタイン0.1 μmol/Lを入れた場合と入れない場合で、37°Cで10分培養した。」(【0043】) (F)「培養液を、F-12ハムズ培養液に0.3% FBSを加え、ゲニスタインもしくはアグリコン型イソフラボンAglyMaxを含んだものに変え」(【0045】) (G)「同図AおよびBは、細胞を、所定の濃度のアグリコン型イソフラボンAglyMaxで、24時間処理し、同図CおよびDは、細胞を、ゲニスタイン、ダイゼイン、エコール0.1 μmol/Lで、24時間処理したものである。」(【0049】) (H)「Ishikawa Cellは、AglyMax0.5 μg/mL、もしくは、ゲニスタイン0.1 μmol/Lで、所定の期間、処理をした場合を示す。同図CおよびDは、細胞を、ゲニスタインのみ0.1 μmol/L 、・・・加えて、24時間処理をした場合を示す。」(【0052】) (I)「細胞を、AglyMax 0.5 μg/mL有り/無し、あるいは、ゲニスタインもしくはゲニスタイン+ICI 182 780を0.1 μmol/Lで処理し、・・培養した。」(【0055】) (J)「卵胞期の初代細胞を、ペトリディッシュにとり、アグリコン型イソフラボンAglyMax 0.5 μg/mLで処理し、0.3% FBSで補足したF-12 ハムズ培養液で24時間培養した。」(【0061】) 上記(A)?(J)から、本願当初明細書等には、アグリコン型イソフラボン、ゲニスタイン、ダイゼイン、エコール、AglyMax(ダイゼイン:ゲニスタイン:グリシタインが7:1:2の重量割合)は記載されていると認められるが、「単独で存在するゲニスタインを除くアグリコン型イソフラボン(腸内細菌によってアグリコン型イソフラボンに分解される配糖体イソフラボンを含む)からなるイソフラボン」は記載されておらず、「単独で存在するゲニスタインを除くアグリコン型イソフラボン(腸内細菌によってアグリコン型イソフラボンに分解される配糖体イソフラボンを含む)からなるイソフラボン」が本願当初明細書の記載から自明の事項ともいえない。 また、本件補正前に送付された拒絶査定において、中国特許出願公開第1843463号公報および国際公開第03/75686号が引用例として用いられているが、中国特許出願公開第1843463号公報には黒大豆由来の「大豆イソフラボン」を用いることが、国際公開第03/75686号には「大豆イソフラボン」を用いることが記載されている。黒大豆由来のイソフラボンには腸内細菌によってアグリコン型イソフラボンであるダイゼイン、ゲニスタイン(ゲニステイン)にそれぞれ分解されるダイズイン、ゲニスチンや、アグリコン型イソフラボンであるゲニスタインが含有されることが知られているし(必要であれば、下記記載事項(イ)、中薬大事典、1985年、株式会社小学館、806頁左欄[成分]、[薬理]等参照)、大豆イソフラボンとは大豆から抽出されたイソフラボン混合物のことである。そうすると、本件補正は、請求項1?4に係る発明が、拒絶査定において引用された中国特許出願公開第1843463号公報あるいは国際公開第03/75686号記載の発明と重複する部分を有することにより新規性を失う恐れがある場合に、補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、その重複部分のみを除く補正であって、新たな技術的事項を導入しないものということもできない。 そうすると、本願当初明細書等のすべての記載を総合しても、「単独で存在するダイゼインおよびゲニスタインを除くアグリコン型イソフラボン(腸内細菌によってアグリコン型イソフラボンに分解される配糖体イソフラボンを含む)からなるイソフラボン」を導き出し得るとはいえず、本件補正は、新たな技術的事項を導入するものであって、本願当初明細書等に記載した範囲内においてするものではない。 したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成24年12月17日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「【請求項1】 ヒト子宮内膜上皮細胞における白血病阻害因子(LIF)の分泌、ヒト子宮内膜上皮細胞におけるトランスフォーミング成長因子β(TGF-β)の分泌およびグリコデリンの発現の少なくとも1つを調整することのできるダイゼインを除くアグリコン型イソフラボン(腸内細菌によってアグリコン型イソフラボンに分解される配糖体イソフラボンを含む)、ゲニスタイン、エコールの1種若しくは複数種からなるイソフラボンを有することを特徴とする不妊症改善用素材。」 4.引用例に記載された事項 (1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である中国特許出願公開第1843463号公報(以下「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。(なお、引用例は中国語で記載されているので、以下、訳文で示す) (ア)「不妊症、月経不順、月経痛及び内分泌障害の治療薬であって下記の重量部の原料薬からなるもの: 当帰80-120 ネナシカズラ80-120 枸杞子80-120 ツルドクダミ80-120 女貞子70-100 黄精70-100 黄耆55-85 大豆イソフラボン10-30 VE10-20 Zn3-10」(請求項1) (イ)「大豆イソフラボンは、黒大豆中に含有するダイジン、ゲニスチンなどの成分である。現代の薬理学的研究は、黒大豆中に存在する微少なダイゼインとゲニスタインにエストロゲン様作用があることを証明する。そのため、我々の選んだ大豆イソフラボンは当帰の活血、養血を助ける。」(明細書4頁10-13行) (ウ)「不妊症治療の50例の観察報告 臨床資料 1.1 診断基準 50例全員、1998年の国家中国医学管理局医政司が提案した“結婚して2年以上妊娠しない又は以前の妊娠から2年以上妊娠していない”という診断基準に一致する者、ただし、不妊症診断における通常の検査により、男性に要因が有る者、卵管不通の女性を除く。 ・・・ 2.治療方法 朝食前、睡眠前にぬるいお湯で服用。1回4?6粒、1日2回。3カ月を一治療のコースとする。 3.治療効果標準 治療後(1?3の治療のコース)を経過して、全快する:出産又は妊娠;顕効する:血熱は平らであり、症状はあるいは明らかに軽減が消失し、ただ依然として妊娠しない;有効:症状は治療前軽減よりあるいは改善がある;無効:治療後症状は改善しない。 4.治療成績 37例(74%)を治癒させ、8例(16%)顕効し、有効2例(4%)、無効3例(6%)、総有効率94%。」(明細書6頁1行?下から4行) (2)記載事項(ア)によれば、引用例1には、大豆イソフラボンを含有する不妊症の治療薬が記載されている。記載事項(イ)によれば、黒大豆にはダイジン、ゲニスチン、ダイゼイン、ゲニスタインが含有され、ダイゼインやゲニスタインが、当帰の活血作用、養血作用を助けることが記載されており、大豆イソフラボンが不妊症治療薬の有効成分であることが記載されている。なお、ダイジン、ゲニスチンは配糖体であり、腸内で分解されてアグリコンであるダイゼイン、ゲニスタインとなるものである。記載事項(ウ)によれば、大豆イソフラボンを含有する薬により不妊症を治療した実施例が記載されており、大豆イソフラボンを含有する治療薬によって不妊症が治療されたという薬理結果が示されているといえる。そうすると、記載事項(ア)?(ウ)によれば、薬理結果が記載された上で、有効成分として大豆イソフラボンを含有する不妊症の治療薬が記載されているといえる。 したがって、引用例1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「大豆イソフラボンを含有する不妊症治療薬」 5.対比 不妊症を治療することは、不妊症を改善することと実質的に同義であるので、引用発明の「不妊症治療薬」は本願発明の「不妊症改善用素材」に相当する。 してみると、両者は 「イソフラボンを有することを特徴とする不妊症改善用素材」 である点で一致し、以下の点で一見相違する。 ・本願発明では、不妊症改善用素材が、ヒト子宮内膜上皮細胞における白血病阻害因子(LIF)の分泌、ヒト子宮内膜上皮細胞におけるトランスフォーミング成長因子β(TGF-β)の分泌およびグリコデリンの発現の少なくとも1つを調整することのできるイソフラボンを有することが規定されているのに対し、引用発明にはそのような規定がない点(以下、「相違点1」という) ・本願発明ではダイゼインを除くアグリコン型イソフラボン、ゲニスタイン、エコールの一種若しくは複数種からなるイソフラボン(腸内細菌によってアグリコン型イソフラボンに分解される配糖体イソフラボンを含む)を有することが規定されているのに対し、引用発明ではそのような規定がない点(以下、「相違点2」という) 6.判断 上記相違点について検討する。 <相違点1について> 本願明細書中には、ゲニスタインによりLIF分泌、TGF-β分泌、グリコデリン発現が誘発されることが具体的実施例によって記載されており(LIF:図1C、図2C、TGF-β:図1D、図2D、グリコデリン:図3、図4)、ゲニスタインはLIFを分泌させ、TGF-βを分泌させ、グリコデリン発現させる性質を有していると認められる。そうすると、引用例中に明記されてはいないものの、引用例において用いられている、黒大豆のアグリコン型イソフラボンであるゲニスタインも、本願発明同様に、LIFを分泌させ、TGF-βを分泌させ、グリコデリンを発現させる性質を有していると認められる。したがって両者は「ヒト子宮内膜上皮細胞における白血病阻害因子(LIF)の分泌、ヒト子宮内膜上皮細胞におけるトランスフォーミング成長因子β(TGF-β)の分泌およびグリコデリンの発現の少なくとも1つを調整することのできるイソフラボンを有する」点において相違せず、相違点1は相違点とならない。 <相違点2について> 「ダイゼインを除くアグリコン型イソフラボン、ゲニスタイン、エコールの一種若しくは複数種からなるイソフラボンを有する(腸内細菌によってアグリコン型イソフラボンに分解される配糖体イソフラボンを含む)」という記載は、「ダイゼインはLIF、TGF-β分泌を促進作用を有さないことが記載されている」との拒絶理由通知に対する応答として追加されたものであり、出願人は意見書において、該記載の追加により上記拒絶理由が解消された旨主張している。また、請求項1を引用する請求項4においてはアグリコン型イソフラボンにダイゼインが含有されることが記載されており、「ダイゼインを除くアグリコン型イソフラボン」との記載がダイゼインを含有することを除くものであるとも解されない。そうすると、「ダイゼインを除くアグリコン型イソフラボン」との規定は本願発明の「不妊症改善素材」が有するアグリコン型イソフラボンが、ダイゼインのみである場合を除く規定であると認められる。ここで、引用例に記載されているのは、ゲニスタイン、ダイゼインを含有する大豆イソフラボンであるから、「ダイゼインを除くアグリコン型イソフラボン、ゲニスタイン、エコールの一種若しくは複数種からなるイソフラボンを有する」ものであるといえる。よって、この点でも両者は相違せず、相違点2は相違点とならない。 したがって、相違点1、相違点2はともに相違点ではなく、本願発明と引用発明との間に差異はない。 7.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-01-16 |
結審通知日 | 2015-01-20 |
審決日 | 2015-02-02 |
出願番号 | 特願2007-185793(P2007-185793) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(A61K)
P 1 8・ 561- Z (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 池上 京子 |
特許庁審判長 |
村上 騎見高 |
特許庁審判官 |
前田 佳与子 増山 淳子 |
発明の名称 | 不妊症改善用素材 |
代理人 | 大倉 奈緒子 |
代理人 | 伊藤 高英 |
代理人 | 中尾 俊輔 |
代理人 | 玉利 房枝 |