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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01N
管理番号 1298894
審判番号 不服2013-19616  
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-09 
確定日 2015-03-19 
事件の表示 特願2010-537320「要件に従ってNO2を供給する温度制御プレ触媒を用いるディーゼルエンジン排気ガスの酸化窒素除去」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 6月25日国際公開、WO2009/077126、平成23年 3月 3日国内公表、特表2011-506818〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2008年12月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年12月15日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成22年6月14日に国内書面が提出され、平成22年7月15日に明細書、請求の範囲、要約書及び図面の翻訳文が提出され、平成25年1月15日付けで拒絶理由が通知され、平成25年3月28日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年8月9日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年10月9日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後、当審において平成26年7月9日付けで拒絶理由が通知され(以下、「当審拒絶理由」という。)、平成26年9月30日に意見書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし14に係る発明は、平成25年10月9日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び平成25年3月28日に提出された手続補正書により補正された明細書並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
アンモニアによる選択式触媒還元によって、内燃エンジンからの希薄排気ガス中に存在する酸化窒素の量を低減するプロセスであって、
該排気ガス中に存在する一酸化窒素の一部は、プレ触媒上で二酸化窒素に酸化され、該プレ触媒は、少なくとも1つの酸化活性触媒成分を含有し、かつ、還元触媒の上流に設置されることにより、該排気ガスは、アンモニアとともに該還元触媒上を通過する前において、0.3乃至0.7のNO_(2)/NO_(x)比を有し、
該プレ触媒の温度は、所望のNO_(2)/NO_(x)比が達成されるように、温度制御デバイスを使用して該エンジンの動作状態とは無関係に設定され、
該プレ触媒は、支持体と、触媒活性被膜とを含み、該温度の設定は、該支持体を加熱または冷却することによって達成されることを特徴とする、プロセス。」

3 引用文献
(1)引用文献の記載
本願の優先日前に頒布され、当審拒絶理由において引用した刊行物である特開2002-1067号公報(以下、「引用文献」という。)には図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、内燃機関の希薄排ガス中に含有されている窒素酸化物を還元触媒での選択的接触還元によってアンモニアを用いて還元し、その際排ガス中に含有されている一酸化窒素の一部を二酸化窒素に酸化し、その後に排ガスをアンモニアと一緒に還元触媒上に導く方法に関する。」(段落【0001】)

イ 「【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、高い排ガス温度でバナジウム化合物の放出を全く示さないかまたはバナジウム化合物の公知技術水準に対して本質的に減少された放出を示しかつSCR触媒の卓越した活性および長時間安定性を示す、希薄排ガス中に含有されている窒素酸化物を還元触媒での選択的接触還元によってアンモニアを用いて還元するための方法を記載することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】この課題は、排ガス中に含有されている一酸化窒素の一部を二酸化窒素に酸化し、その後に排ガスをアンモニアと一緒に還元触媒上に導くことによる、アンモニアを用いての選択的接触還元方法によって解決される。この方法は、還元触媒が遷移金属と交換されたゼオライトを含有し、一酸化窒素の酸化が、排ガスが還元触媒との接触前に二酸化窒素を30?70体積%含有するように実施されることによって特徴付けられる。 」(段落【0009】及び【0010】)

ウ 「【0015】エンジンの排ガス中での二酸化窒素の形成もしくは二酸化窒素量の上昇のために、酸化触媒は、固有のSCR触媒の前方で接続されることができる。こうして、殊にFe-ZSM-5の場合には、老化後であってもSCR反応での高い変換率をなお達成することができる。また、酸化触媒とともに、二酸化窒素を含有する別の装置、例えばガス放電部を使用することもできる。
【0016】二酸化窒素への酸化触媒を用いての一酸化窒素の完全な変換は、望ましいことではなく、還元触媒と比較して酸化触媒の相応する負荷および/または寸法決定によって回避させることができる。酸化触媒としては、例えば場合によっては安定された、活性の酸化アルミニウムからなる担持材料上の白金触媒を使用することができる。担持材料上での白金の濃度は、触媒の全質量に対して0.1?5質量%であることができる。触媒は、被膜の形で通常のハネカム体上に塗布される。被膜濃度は、排ガスが酸化触媒の後方で二酸化窒素約30?70体積%を含有することを保証するために、ハネカム体に対して50?200g/lを選択することができる。使用されるハネカム体の体積に関連して、二酸化窒素の必要とされる生産に適合させるが可能である。
【0017】更に、酸化触媒の課題は、排ガス中に含有されている一酸化窒素および殊に炭化水素をできるだけ完全に二酸化炭素および水に変換することにある。それというのも、いずれにせよ炭化水素は、次のゼオライト触媒によって貯蔵されるからである。それには、ゼオライト触媒の炭化および失活の危険が結び付くであろう。
【0018】本発明による方法における使用に適した酸化触媒は、触媒活性成分として広く表面積の担体酸化物、有利にγ-酸化アルミニウム上の白金を有するものである。特に好ましいのは、二酸化珪素約5質量%で安定化された酸化アルミニウムである。
【0019】選択的接触還元に必要とされるアンモニアは、還元触媒との接触前に排ガスに直接に添加されることができる。しかし、好ましくは、アンモニアは、車両の端部に接してアンモニアから加水分解可能な化合物から取得される。この目的のために、排ガスには、一酸化窒素の部分的酸化後および還元触媒との接触前に加水分解可能な化合物が供給され、引続き排ガスは、加水分解触媒上に導かれる。加水分解可能な化合物としては、尿素またはアンモニウムカルバメートが適している。」(段落【0015】ないし【0019】)

エ 「【0025】図1には、本発明による方法に適した排ガス浄化系の構造が略示されている。この排ガス浄化系は、酸化触媒(1)および後接続された還元触媒(2)からなる。酸化触媒中には、内燃機関から来る排ガスが侵入し、この場合この排ガスは、なかんずく一酸化窒素および酸素を含有する。酸化触媒中で一酸化窒素の一部は、二酸化窒素に酸化され、したがって一酸化窒素と二酸化窒素とからなる混合物は、酸化触媒を去る。このガス混合物には、還元触媒中への侵入前にアンモニアが還元剤として0.6?1.6のモル比NH_(3)/NO_(X)で供給される。還元触媒中で、このガス混合物は、窒素対水に変換される。モル比NH_(3)/NO_(X)は、以下α-値(α)とも呼称される。
【0026】図2は、図1の排ガス浄化系の1つの変法である。アンモニアの代わりに、排ガスには、酸化触媒系の後方でアンモニアに分解可能な化合物、例えば尿素が添加される。アンモニアの放出のために、還元触媒の前方には尿素-加水分解触媒(3)が排ガス流中に配置されており、この尿素-加水分解触媒は、尿素をアンモニア、二酸化炭素および水に分解する。」(段落【0025】及び【0026】)

オ 「【0029】
【実施例】本発明による方法における試験のために、直径2.54cmおよび長さ7.62cmを有する前記触媒の中空芯材に30000h^(-1)の空間速度で次の合成ガス混合物を反応作用させた:
1:1;3:1および1:3のNO:NO_(2)の比の窒素酸化物500体積%、
アンモニア450体積%、
酸素5体積%、
水蒸気1.3体積%、
窒素 残分。
【0030】合成ガスの温度を数工程で150℃から525℃へ上昇させた。全ての温度工程のために、ガス組成を還元触媒の後方で分析した。
【0031】図3には、新しい触媒についての結果が示されている。この場合、体積比NO/NO_(2)は、1:1であった。
【0032】図4?6は、老化された触媒についての結果を示す。老化のために、触媒を熱水条件下で650℃の温度で48時間貯蔵した。
【0033】図4は、3:1のNO/NO_(2)の体積比についての結果を示し、図5は、1:1のNO/NO_(2)の体積比についての結果を示し、かつ図6は、1:3のNO/NO_(2)の体積比についての結果を示す。この測定から明らかなように、老化された触媒は、1:1の体積比NO/NO_(2)の際に新しい触媒よりも良好な深部温度活性(150?250℃)を示す。触媒活性の依存性および体積比NO/NO_(2)の窒素への変換の選択性に関連して、約1:1の値は最適である。
【0034】要求される体積比は、反応触媒の前方で排ガス流中に供給される酸化触媒(図1および2)によって調節されることができる。
【0035】図7?9は、次の組成:
一酸化窒素NO 500体積%、
酸素 5体積%、
水蒸気 1.3体積%、
窒素 残分
の合成ガスを用いての負荷の際に白金酸化触媒の後方で測定された二酸化窒素濃度を示す。
【0036】白金触媒は、62cm^(-2)のセル密度を有する菫青石からなるハネカム体上で120g/lの濃度で施こされた。触媒の白金含量は、ハネカム体の体積1リットル当たりPt3.2gであった。
【0037】前記図は、要求されるNO/NO_(2)体積比が60000?180000h^(-1)の空間速度RGの幅広い範囲に亘って維持されることができることを示す。この場合には、空間速度が増加するにつれて、即ち負荷が増加するにつれて、エンジンの排ガス温度が上昇されることを考慮することができる。」(段落【0029】及び【0037】)

カ 「【図面の簡単な説明】
【図1】排ガスへのアンモニアの直接的な添加の際に本方法を実施するための排ガス清浄化系を示す略図。
【図2】アンモニアを供給する化合物からの加水分解によってアンモニアを取得する際の本方法を実施するための排ガス清浄化系を示す略図。
【図3】30000h^(-1)の空間速度および1:1のNO/NO_(2)体積比で新鮮なFe-ZSM-5触媒についての排ガス温度に依存する窒素酸化物の変換率Xを示す線図。
【図4】30000h^(-1)の空間速度および3:1のNO/NO_(2)体積比で老化したFe-ZSM-5触媒についての排ガス温度に依存する窒素酸化物の変換率Xを示す線図。
【図5】30000h^(-1)の空間速度および1:1のNO/NO_(2)体積比で老化したFe-ZSM-5触媒についての排ガス温度に依存する窒素酸化物の変換率Xを示す線図。
【図6】30000h^(-1)の空間速度および1:3のNO/NO_(2)体積比で老化したFe-ZSM-5触媒についての排ガス温度に依存する窒素酸化物の変換率Xを示す線図。
【図7】60000h^(-1)の空間速度および異なる排ガス温度で酸化触媒による排ガス中でのNO_(2)含量を示す線図。
【図8】120000h^(-1)の空間速度および異なる排ガス温度で酸化触媒による排ガス中でのNO_(2)含量を示す線図。
【図9】180000h^(-1)の空間速度および異なる排ガス温度で酸化触媒による排ガス中でのNO_(2)含量を示す線図。」(【図面の簡単な説明】)

キ 「【請求項1】 内燃機関の希薄排ガス中に含有されている窒素酸化物を還元触媒での選択的接触還元によってアンモニアを用いて還元し、その際排ガス中に含有されている一酸化窒素の一部を二酸化窒素に酸化し、その後に排ガスをアンモニアと一緒に還元触媒上に導く方法において、還元触媒が遷移金属と交換されたゼオライトを含有し、一酸化窒素の酸化が、排ガスが還元触媒との接触前に二酸化窒素を30?70体積%含有するように実施されることを特徴とする、内燃機関の希薄排ガス中に含有されている窒素酸化物を還元するための方法。」(【請求項1】)

(2)引用文献に記載された発明
上記(1)及び図面の記載から、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「アンモニアによる選択的接触還元によって、内燃機関からの希薄排ガス中に存在する窒素酸化物を還元するための方法であって、
希薄排ガス中に存在する一酸化窒素の一部は、酸化触媒上で二酸化窒素に酸化され、酸化触媒は、触媒活性成分としてγ-酸化アルミニウム上の白金を有し、かつ、還元触媒の上流に設置されることにより、希薄排ガスは、アンモニアとともに還元触媒上を通過する前において、一酸化窒素の酸化が二酸化窒素を30?70体積%含有するように実施され、
酸化触媒は、ハネカム体と、被膜とを含む、方法。」

4 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「選択的接触還元」は、その機能又は技術的意義から、本願発明における「選択式触媒還元」に相当し、以下同様に、「内燃機関」は「内燃エンジン」に、「希薄排ガス」は「希薄排気ガス」に、「窒素酸化物を還元するための方法」は「酸化窒素の量を低減するプロセス」に、「酸化触媒」は「プレ触媒」に、「触媒活性成分としてγ-酸化アルミニウム上の白金を有し」は「少なくとも1つの酸化活性触媒成分を含有し」に、「還元触媒」は「還元触媒」に、「一酸化窒素の酸化が二酸化窒素を30?70体積%含有するように実施され」は「0.3乃至0.7のNO_(2)/NO_(x)比を有し」に、「ハネカム体」は「支持体」に、「被膜」は「触媒活性被膜」に、「方法」は「プロセス」に、それぞれ相当する。
よって、本願発明と引用発明とは、
「アンモニアによる選択式触媒還元によって、内燃エンジンからの希薄排気ガス中に存在する酸化窒素の量を低減するプロセスであって、
該排気ガス中に存在する一酸化窒素の一部は、プレ触媒上で二酸化窒素に酸化され、該プレ触媒は、少なくとも1つの酸化活性触媒成分を含有し、かつ、還元触媒の上流に設置されることにより、該排気ガスは、アンモニアとともに該還元触媒上を通過する前において、0.3乃至0.7のNO_(2)/NO_(x)比を有し、
該プレ触媒は、支持体と、触媒活性被膜とを含む、プロセス。」の点で一致し、次の点で相違する。
(相違点)
本願発明においては、プレ触媒の温度は、所望のNO_(2)/NO_(x)比が達成されるように、温度制御デバイスを使用してエンジンの動作状態とは無関係に設定され、プレ触媒は、支持体と、触媒活性被膜とを含み、該温度の設定は、該支持体を加熱または冷却することによって達成されるのに対し、引用発明においては、酸化触媒(本願発明の「プレ触媒」に相当。)は、ハネカム体(本願発明の「支持体」に相当。)と、被膜(本願発明の「触媒活性被膜」に相当。)とを含むものではあるものの、温度制御デバイスによる支持体の加熱または冷却について不明である点(以下、「相違点」という。)。

5 判断
相違点に係る本願発明の発明特定事項について、以下に整理する。
最初に、「温度制御デバイスを使用して該エンジンの動作状態とは無関係に設定され」という発明特定事項について整理すると、本願の出願当初の明細書(明細書の翻訳文)には、「・・・プレ触媒の温度が、温度制御デバイスを使用して、エンジンの動作状態から独立して設定される」(段落【0025】)と記載され、本願の出願当初の特許請求の範囲においても同様に「温度制御デバイスを使用して該エンジンの動作状態から独立して設定される」(【請求項1】)と記載されていたものを、平成25年3月28日に提出された手続補正書により、請求項1を「エンジンの動作状態とは無関係に設定され」と補正したものである(段落【0025】については、補正していない。)。そして、上記発明特定事項の「温度制御デバイス」については、他の発明特定事項として、「該温度の設定は、該支持体を加熱または冷却することによって達成される」とされ、当該「支持体」の「加熱」は本願明細書(平成25年3月28日に提出された手続補正書により補正された明細書。以下、当該補正後の明細書を「本願明細書」という。)において、「プレ触媒の温度制御は、好ましくは、触媒活性被膜のための支持体としての、電気的に加熱される金属ハニカム体を使用することによって達成される。」(段落【0028】)と記載されている。そうすると、上記発明特定事項は、(例えば、エンジンの燃焼制御による排気ガス温度の上昇等によらない、又は、エンジンの運転状態とは無関係に温度を上昇させることのできる)電気加熱手段等の付加加熱手段からなる温度制御デバイスを使用した温度の設定であることが理解できる。
次に、上記検討した発明特定事項を含めた「プレ触媒の温度は、所望のNO_(2)/NO_(x)比が達成されるように、温度制御デバイスを使用して該エンジンの動作状態とは無関係に設定され」という発明特定事項について整理すると、本願明細書において、「【0026】プレ触媒の温度調整のための基準は、一例として、図2に示されるように、新しく産生された状態および熱劣化状態において使用される、触媒の活性測定特性である。これらのデータは、エンジン制御システム内で記録される。本基準に基づいて、必要なNO_(2)/NO_(x)比を産生するために触媒が有する必要がある、要求温度が規定される。」(下線は当審にて記載。段落【0026】)、及び、「【0030】特に、プレ触媒支持体の加熱は、車両の低温始動段階の間での急速加熱を保証することにより、最適なNO_(x)変換のために必要とされる還元触媒の上流でのNO_(2)量が、車両の低温始動段階においても提供される。さらに、低温始動段階の間であっても、COおよびHCの作用開始が達成されるために十分な温度が、プレ触媒上で到達されることを保証することが可能である。したがって、本発明のプロセスが採用される場合、あらゆる有意のガス状放出物は、自動車の低温始動段階の間であっても、効果的に低減され得る。
【0031】温度制御デバイスによるプレ触媒の加熱は、エンジンの低温始動段階の間だけではなく、エンジンによって提供される排気ガス温度が、プレ触媒の最適動作に対して十分ではない、全動作点において使用することが可能であるため、本発明のプロセスは、従来技術のシステムと異なり、都市バス、都市清掃車両等の「低温」用途にも好適である。」(下線は当審にて記載。段落【0030】及び【0031】)と記載されている。そうすると、上記発明特定事項は、プレ触媒には所望のNO_(2)/NO_(x)比を達成するための要求温度があり、低温始動段階及びその他の低温におけるプレ触媒の最適動作に対して十分でない排気ガス温度のときに、付加加熱手段を用いて触媒を加熱するものであることが理解できる。
これに対し、引用文献の図3ないし図6における150℃以上の試験結果及び図7ないし9における200℃以上の線図からも理解できるように、触媒には適した使用温度範囲があることは技術常識であり、引用発明の「酸化触媒」(本願発明の「プレ触媒」に相当。)においても、低温状態における問題が存在すること、すなわち低温状態に対応するように触媒を構成することは、引用発明においても当然に内在する技術課題である。
一方、当審拒絶理由において、周知技術の例として提示した特開2007-132202号公報には次の事項が記載されている。
・「【0026】
また、このプレ酸化触媒13の前段には、図3に拡大して示す如く、通電による電気抵抗で発熱する帯状の金属薄膜を電気ヒータ15aとし且つ該電気ヒータ15aを絶縁性の波形シート15bと共に渦巻状に巻いたメタル担体15が配設されており、この電気ヒータ15a付きのメタル担体15にもPtやPd等を活性種とする酸化触媒原料(特に図示せず)が担持されている。
【0027】
そして、このメタル担体15の電気ヒータ15aに対しコントロールユニット16を介してバッテリ17が接続されており、エンジン始動直後や、渋滞路等で低速走行が長く続いた場合のような排気温度の低い運転状態で適宜に前記メタル担体15の電気ヒータ15aに通電が成されるようにしてある。
・・・
【0030】
而して、このように構成すれば、ディーゼルエンジン1の始動直後や、渋滞路等で低速走行が長く続いた場合のような排気温度の低い運転状態であっても、電気ヒータ15aに通電して発熱させることにより熱容量の小さなメタル担体15の全域を直ちに加熱すると、ここを通過する排気ガス7が加熱されて昇温され、これにより直後のプレ酸化触媒13が短時間のうちに暖められて活性が高められるので、該プレ酸化触媒13にて排気ガス7中のHCガスの酸化反応が開始されて反応熱による排気温度の昇温効果が得られ、パティキュレートフィルタ11の強制再生を開始することが可能な温度条件(パティキュレートフィルタ11の前段の酸化触媒12がHCガスを酸化反応させるに十分な触媒床温度まで暖まる)が早期に整うことになる。
・・・
【0032】
また、特に本形態例にあっては、メタル担体15にも酸化触媒原料が担持されていて、電気ヒータ15aに通電して発熱させた際に、熱容量の小さなメタル担体15の全域が直ちに加熱し、ここに担持されている酸化触媒原料が極めて短時間のうちに活性状態となる」(段落【0026】ないし【0032】。)
上記記載から、当審拒絶理由で述べたとおり、触媒の支持体を加熱することは周知技術であるし(以下、「周知技術1」という。)、周知技術1は、エンジン始動直後や、始動時以外の低速走行により排気温度が低い運転状態に対応すべく用いられる技術であることが理解できる。
以上によれば、引用発明に周知技術1を適用することは、当業者であれば格別の創意工夫を要することなくなし得ることである。
また、触媒には適した使用温度範囲があることが技術常識であることは上記述べたとおりであるし、その使用温度範囲には下限温度ともに上限温度が存在することは明らかである。そして、触媒を冷却する手段を設けることは当審拒絶理由で述べたとおり周知技術(以下「周知技術2」という。例として、特開2001-227330号公報の段落【0009】及び【0010】を参照。)である。
そうすると、低温状態における加熱手段に加え、高温状態における冷却手段をも採用することは、当業者の当然の発意である。
したがって、引用発明及び周知技術1に基づき、又は、引用発明並びに周知技術1及び周知技術2に基づき、相違点に係る本願発明の発明特定事項に想到することは、当業者であれば容易になし得ることである。

なお、請求人は、平成26年9月30日に提出した意見書において、「引用文献1は、その開示の核心部から、NO_(2)/NO比を制御するための触媒体積、負荷、触媒の種類等の受動的手段を用いることを提案しています。その実施例は、用いられる酸化触媒の温度の能動的管理の異なる目的に関しています。従って、引用文献のみに基づいた場合、本願の優先日の時点における当業者は、SCR反応に好適にNO_(2)/NO比を操作するために酸化触媒の支持体を直接的に加熱または冷却する本願発明に想到することは容易ではなかったというべきです。」と主張している。
しかしながら、本願発明の温度制御は上記整理したとおりのものであり、また、相違点に係る本願発明の発明特定事項は、上記述べたとおり、当業者であれば容易になし得ることである。
また、引用文献には、「要求される体積比は、反応触媒の前方で排ガス流中に供給される酸化触媒(図1および2)によって調節されることができる。」(上記3(1)オ段落【0034】)、及び「触媒活性の依存性および体積比NO/NO_(2)の窒素への変換の選択性に関連して、約1:1の値は最適である。」(上記3(1)オ段落【0033】)と記載されていることから、例えば、引用文献の図7ないし図9における酸化触媒の後方で測定される二酸化窒素濃度を、「50%」を含む「30-35%」ないし「60-65%」とする程度の温度に設定して、加熱または冷却を行うように構成すること、更には、「50%」近傍の「45-50%」及び「50-55%」とする程度の温度に設定して、加熱または冷却を行うように構成することは、当業者の通常の創作能力の発揮であるといえる。
以上によれば、請求人の上記主張は採用できない。

そして、本願発明を全体として検討しても、その奏する効果は、引用発明及び周知技術1から、又は、引用発明並びに周知技術1及び周知技術2から、当業者が予測することができる以上の格別顕著なものではない。

よって、本願発明は、引用発明及び周知技術1に基づき、又は、引用発明並びに周知技術1及び周知技術2に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術1に基づき、又は、引用発明並びに周知技術1及び周知技術2に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-10-24 
結審通知日 2014-10-27 
審決日 2014-11-07 
出願番号 特願2010-537320(P2010-537320)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩▲崎▼ 則昌今関 雅子  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 藤原 直欣
金澤 俊郎
発明の名称 要件に従ってNO2を供給する温度制御プレ触媒を用いるディーゼルエンジン排気ガスの酸化窒素除去  
代理人 山本 秀策  
代理人 飯田 貴敏  
代理人 石川 大輔  
代理人 山本 健策  
代理人 森下 夏樹  

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