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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03H
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03H
管理番号 1298899
審判番号 不服2013-23665  
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-02 
確定日 2015-03-19 
事件の表示 特願2012-101889「弾性波フィルタ」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月26日出願公開、特開2012-143008〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成19年12月14日の出願である特願2007-323892号の一部を平成24年4月26日に特願2012-101889号として新たな特許出願としたものであって、平成25年6月6日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成25年7月30日付けで手続補正がなされ、平成25年8月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成25年12月2日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされ、平成26年10月27日付けで当審から拒絶理由が通知され、これに対して平成26年12月12日付けで意見書が提出されるとともに、手続補正がなされたものである。


第2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年12月12日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるものである。

「【請求項1】
複数の多重モードフィルタが接続され、第1不平衡入力ノードと2つの第1平衡出力ノードとが設けられ、前記複数の多重モードフィルタのうち、第1多重モードフィルタが前記2つの第1平衡出力ノードと接続されている第1弾性波フィルタと、
複数の多重モードフィルタが接続され、第2不平衡入力ノードと2つの第2平衡出力ノードとが設けられ、前記複数の多重モードフィルタのうち、前記第1多重モードフィルタの通過周波数帯域において前記第1多重モードフィルタよりも高いインピーダンスとなるように前記第1多重モードフィルタとは異なる開口長を有した第2多重モードフィルタが前記2つの第2平衡出力ノードと接続されており、前記第1弾性波フィルタとは通過周波数帯域が異なる第2弾性波フィルタと、を具備し、
前記2つの第1平衡出力ノードのうち一方の第1平衡出力ノードと、前記2つの第2平衡出力ノードのうち一方の第2平衡出力ノードとがインピーダンス整合回路を介さず共通化され、第3平衡出力ノードを形成し、
前記2つの第1平衡出力ノードのうち他方の第1平衡出力ノードと、前記2つの第2平衡出力ノードのうち他方の第2平衡出力ノードとがインピーダンス整合回路を介さず共通化され、第4平衡出力ノードを形成し、
前記第1多重モードフィルタに含まれる複数のIDTの開口長はほぼ同一であり、
前記第2多重モードフィルタに含まれる複数のIDTの開口長はほぼ同一であり、
前記第1弾性波フィルタと前記第2弾性波フィルタとは、同一の圧電基板上に形成され、かつ隣接していることを特徴とする弾性波フィルタ。」


第3.当審拒理の概要
「(A)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



(1)請求項1の「前記第1多重モードフィルタの通過周波数帯域において前記第1多重モードフィルタよりも高いインピーダンスとなるように前記第1多重モードフィルタとは異なる開口長を有した第2多重モードフィルタが前記2つの第2平衡出力ノードと接続されており、」という記載における「となるように」は、「有した」に係っていると認められる。
請求項1の「前記第1多重モードフィルタの通過周波数帯域において前記第1多重モードフィルタよりも高いインピーダンスとなるように前記第1多重モードフィルタとは異なる開口長を有した第2多重モードフィルタ」は、「第2多重モードフィルタの開口長が第1多重モードフィルタの開口長と異なれば、必ず、第1多重モードフィルタの通過周波数帯域において、第2多重モードフィルタのインピーダンスが、第1多重モードフィルタのインピーダンスより高くなる。」という意味なのか、それとも「第2多重モードフィルタの開口長が第1多重モードフィルタの開口長と異なり、且つ何かある限定を加えれば、第1多重モードフィルタの通過周波数帯域において、第2多重モードフィルタのインピーダンスが、第1多重モードフィルタのインピーダンスより高くなる。」という意味なのか、不明確である。

(2)(省略)

よって、請求項1-7に係る発明は明確でない。


(B)この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



(1)段落番号【0037】の「高インピーダンス」とは、何より高いインピーダンスであるのか、高い低いを比較する際の基準が不明である。

(2)発明の詳細な説明の段落番号【0037】に、「すなわち、第1弾性波フィルタ100の通過周波数帯域においては第2弾性波フィルタ200が高インピーダンスとなり、第2弾性波フィルタの通過周波数帯域においては第1弾性波フィルタ100が高インピーダンスになるように、開口長L1及び開口長L2を調整することができる。」と記載されている。
また、発明の詳細な説明の段落番号【0051】に、「図5(b)に示すように、実施例1の方が、比較例よりも通過周波数帯域での挿入損失が最大1dB程度小さい。」と記載されている。
実施例1において、開口長L1及び開口長L2をどのように調整したから、実施例1の通過周波数帯域での挿入損失が、比較例の通過周波数帯域での挿入損失より小さくなったのか、不明である。

(3)段落番号【0037】に「すなわち、第1弾性波フィルタ100の通過周波数帯域においては第2弾性波フィルタ200が高インピーダンスとなり、第2弾性波フィルタの通過周波数帯域においては第1弾性波フィルタ100が高インピーダンスになるように、開口長L1及び開口長L2を調整することができる。」と記載されている。しかし、開口長L1及び開口長L2をどのように調整すれば、第1弾性波フィルタ100の通過周波数帯域において第2弾性波フィルタ200が高インピーダンスとなり、第2弾性波フィルタの通過周波数帯域において第1弾性波フィルタ100が高インピーダンスになるのか、不明である。

(4)発明の詳細な説明の段落番号【0046】、【0047】に記載されている比較例では、第1弾性表面波フィルタ100の第1多重モードフィルタ10の開口長L1=48.4λであり、第2弾性表面波フィルタ200の第2多重モードフィルタ20の開口長L2=47.6λである。したがって、λで正規化した値で比較して、L1≠L2である。
第1弾性表面波フィルタ100の波長が2.16μm、第2弾性表面波フィルタ200の波長が2.02μmであることを考慮して、μm単位で表現しても、L1=105μm、L2=96.2μmであるから、やはりL1≠L2である。
このように、第1多重モードフィルタ10の開口長L1と、第2多重モードフィルタ20の開口長L2が異なる場合を比較例としていては、L2がL1と異なるようにすることにより性能が良くなることを示すことはできない。
したがって、発明の詳細な説明は、請求項1の「前記第1多重モードフィルタの通過周波数帯域において前記第1多重モードフィルタよりも高いインピーダンスとなるように前記第1多重モードフィルタとは異なる開口長を有した第2多重モードフィルタ」を実施できる程度に記載されていない。

(5)発明の詳細な説明の段落番号【0037】に「すなわち、第1弾性波フィルタ100の通過周波数帯域においては第2弾性波フィルタ200が高インピーダンスとなり、第2弾性波フィルタの通過周波数帯域においては第1弾性波フィルタ100が高インピーダンスになるように、開口長L1及び開口長L2を調整することができる。」と記載されている。 しかし、開口長L2が、開口長L1とどのように異なるようにすれば、第1弾性波フィルタ100の通過周波数帯域において、第2弾性波フィルタ200の方が、第1弾性波フィルタ100もよりも高いインピーダンスとなるのか記載されていない。
したがって、発明の詳細な説明は、請求項1の「前記第1多重モードフィルタの通過周波数帯域において前記第1多重モードフィルタよりも高いインピーダンスとなるように前記第1多重モードフィルタとは異なる開口長を有した第2多重モードフィルタが前記2つの第2平衡出力ノードと接続されており、」を実施できる程度に記載されていない。

(6)前記拒絶理由(A)の(1)の回答が後者である場合に、「何かある限定」とはどういうことであるのか、理解できる程度に、発明の詳細な説明が記載されていない。

(7)(省略)

よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-7に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。


(C) この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



(1)(省略)

(2)発明の詳細な説明の段落番号【0037】には、「すなわち、第1弾性波フィルタ100の通過周波数帯域においては第2弾性波フィルタ200が高インピーダンスとなり、第2弾性波フィルタの通過周波数帯域においては第1弾性波フィルタ100が高インピーダンスになるように、開口長L1及び開口長L2を調整することができる。」と記載されており、単に「高インピーダンス」と記載されているだけであって、インピーダンスが何より高いかは記載されていない。
したがって、請求項1の「前記第1多重モードフィルタの通過周波数帯域において前記第1多重モードフィルタよりも高いインピーダンスとなるように」は、発明の詳細な説明に記載された事項でない。

(3)発明の詳細な説明の段落番号【0037】には、「すなわち、第1弾性波フィルタ100の通過周波数帯域においては第2弾性波フィルタ200が高インピーダンスとなり、第2弾性波フィルタの通過周波数帯域においては第1弾性波フィルタ100が高インピーダンスになるように、開口長L1及び開口長L2を調整することができる。これにより、低損失の信号を出力することができる。」と記載されている。
したがって、発明の詳細な説明の段落番号【0037】には、「開口長L1及び開口長L2を調整する」と記載されているのであって、必ずしも開口長L2が開口長L1と異なるようにするわけではない。段落番号【0037】の記載は、開口長L1及び開口長L2を調整した結果、L1=L2である時に、第1弾性波フィルタ100の通過周波数帯域において、第2弾性波フィルタ200が高インピーダンスになる可能性を否定しているわけではない。
よって、請求項1の「前記第1多重モードフィルタの通過周波数帯域において前記第1多重モードフィルタよりも高いインピーダンスとなるように前記第1多重モードフィルタとは異なる開口長を有した第2多重モードフィルタ」は、発明の詳細な説明に記載された事項でない。

(4)(省略)

よって、請求項1-7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。」


第4.検討
1.理由(A)の(1)について
ア.平成26年12月12日付けの意見書では、次のように説明している。
「開口長を変化させれば、第1平衡出力ノード、第2平衡出力ノードからみた容量値等の入出力インピーダンスを変化させることができることは当業者の技術常識です。そこで、第1および第2多重モードフィルタの開口長を異ならせることにより第1多重モードフィルタの通過周波数帯域において前記第1多重モードフィルタよりも高いインピーダンスとなるようにインピーダンス整合できることは、請求項1の記載から明確です。」

イ.当審の判断
以下の記載において、第1多重モードフィルタの通過周波数を「f_(1)」、第2多重モードフィルタの通過周波数を「f_(2)」で表すことにする。また、周波数fにおける第1多重モードフィルタのインピーダンス及び周波数fにおける第2多重モードフィルタのインピーダンスを、それぞれ「Z_(1)(f)」、「Z_(2)(f)」で表すことにする。また、以下の記載における下線は当審が付加したものである。

審査段階で審査官が提示した特開平10-163803号公報の図7には電極交叉幅(当審注:本願発明の「開口長」と同じ意味である。)を30λから80λに変えることにより、インピーダンスが70Ωから40Ωに変化することが開示されている。したがって、審判請求人の「開口長を変化させれば、第1平衡出力ノード、第2平衡出力ノードからみた容量値等の入出力インピーダンスを変化させることができること」が、当業者の技術常識であるという認識は、適切な認識であると認められる。
しかし、第1多重モードフィルタの開口長L1と第2多重モードフィルタの開口長L2を変化させることには、L1とL2を等しくすることも含まれる。よって、前記技術常識によれば、L1=L2とすることにより、Z_(1)(f_(1))<Z_(2)(f_(1))となる可能性もあるわけであり、前記技術常識からL1=L2は避けるべきであるということは導けない。したがって、前記技術常識から、第1および第2多重モードフィルタの開口長を異ならせることにより第1多重モードフィルタの通過周波数帯域において前記第1多重モードフィルタよりも高いインピーダンスとなることが、明らかではない。よって、審判請求人の説明には論理の飛躍があり、受け入れられるものではない。

次に、当審拒理では、「請求項1の「前記第1多重モードフィルタの通過周波数帯域において前記第1多重モードフィルタよりも高いインピーダンスとなるように前記第1多重モードフィルタとは異なる開口長を有した第2多重モードフィルタ」は、「第2多重モードフィルタの開口長が第1多重モードフィルタの開口長と異なれば、必ず、第1多重モードフィルタの通過周波数帯域において、第2多重モードフィルタのインピーダンスが、第1多重モードフィルタのインピーダンスより高くなる。」という意味なのか、それとも「第2多重モードフィルタの開口長が第1多重モードフィルタの開口長と異なり、且つ何かある限定を加えれば、第1多重モードフィルタの通過周波数帯域において、第2多重モードフィルタのインピーダンスが、第1多重モードフィルタのインピーダンスより高くなる。」という意味なのか、不明確である。」としている。しかし、意見書では、この点に対する明確な回答が無く、この点は依然として不明確である。


2.理由(B)の(1)及び理由(C)の(2)について
ア.平成26年12月12日付けの意見書では、次のように説明している。
「0004段落に「1つの入力に対し並列に接続された2つの弾性波フィルタにおいて、それぞれの弾性波フィルタがそれぞれの通過周波数帯域の信号を通過させる。通過周波数帯域外の信号を遮断するためには、一方の弾性波フィルタが通過周波数帯域となる周波数において、他方の弾性波フィルタは高インピーダンスとなることが求められる。」と記載されています。この記載は、一方の弾性波フィルタが通過周波数帯域(すなわち低インピーダンス)となる周波数において、他方の弾性波フィルタは高インピーダンス(すなわち、一方の弾性波フィルタより高インピーダンス)となることを示しています。
この記載から0037段落の「すなわち、第1弾性波フィルタ100の通過周波数帯域においては第2弾性波フィルタ200が高インピーダンスとなり、第2弾性波フィルタの通過周波数帯域においては第1弾性波フィルタ100が高インピーダンスになるように、開口長L1及び開口長L2を調整することができる。これにより、低損失の信号を出力することができる。」は、「すなわち、第1弾性波フィルタ100の通過周波数帯域においては第1弾性波フィルタ100に比べ第2弾性波フィルタ200が高インピーダンスとなり、第2弾性波フィルタの通過周波数帯域においては第2弾性波フィルタ200に比べ第1弾性波フィルタ100が高インピーダンスになるように、開口長L1及び開口長L2を調整することができる。これにより、低損失の信号を出力することができる。」の意味であることは、当業者には自明であります。」

イ.当審の判断
本願明細書の段落番号【0004】には「通過周波数帯域外の信号を遮断するためには、一方の弾性波フィルタが通過周波数帯域となる周波数において、他方の弾性波フィルタは高インピーダンスとなることが求められる。」と記載されているのであって、インピーダンスの高い低いの基準については何ら記載がない。したがって、「高インピーダンス(すなわち、一方の弾性波フィルタより高インピーダンス)」は、審判請求人の根拠のない解釈に過ぎない。
なお、念のために、本願明細書の段落番号【0004】において言及されている特許文献1(特開平11-68512号公報)の内容について確認しておく。
特許文献1の段落番号【0012】に「周波数f1におけるSAWフィルタFil2の入力インピーダンスZin2cと周波数f2におけるSAWフィルタFil1の入力インピーダンスZin1cとを互いに一致させる」と記載されている。つまり、特許文献1の段落番号【0012】には、「Z_(1)(f_(2))=Z_(2)(f_(1))」とすることが記載されているのであって、「Z_(1)(f_(1 ))<Z_(2)(f_(1))」とすることが記載されているわけではない。したがって、「高インピーダンス(すなわち、一方の弾性波フィルタより高インピーダンス)」は、審判請求人の根拠のない解釈に過ぎない。


3.理由(B)の(2)(3)(5)(6)について
ア.平成26年12月12日付けの意見書では、次のように説明している。
「(A)(1)と同様に、開口長L1及び開口長L2をどのように調整すれば、「第1弾性波フィルタ100の通過周波数帯域においては第2弾性波フィルタ200が高インピーダンスとなり、第2弾性波フィルタの通過周波数帯域においては第1弾性波フィルタ100が高インピーダンスになる」か、は当業者には自明です。
このように、インピーダンスを調整すれば、0051段落のように、「実施例1の方が、比較例よりも通過周波数帯域での挿入損失」を小さくできることは当業者には自明です。」

イ.当審の判断
前記ア.の意見書の説明の第1文で、「当業者には自明です。」と説明しているが、何が自明なのか、自明の対象の内容が明らかにされていない。
本来、たとえば、「L1対L2の比率を7対8に設定すれば、Z_(1)(f_(1))<Z_(2)(f_(1))且つZ_(2)(f_(2))<Z_(1)(f_(2))となることは当業者には自明です。」とか、「L1/L2の値を0.8乃至1.2に設定すれば、Z_(1)(f_(1))<Z_(2)(f_(1))且つZ_(2)(f_(2))<Z_(1)(f_(2))となることは当業者には自明です。」とか、「L1≠L2とするだけで、Z_(1)(f_(1))<Z_(2)(f_(1))且つZ_(2)(f_(2))<Z_(1)(f_(2))となることは当業者には自明です。」といった説明ぶりになるべきところと認められる。何が自明なのかが審判請求人自身にも不明である状況では、とても、当業者に自明とは認められない。
また、L1≠L2に設定されていることに関しては、実施例1及び比較例ともに同じである。そして、どういう方針で実施例1の開口長L1及びL2を調整したのか全く開示されていない。したがって、理由(B)の(2)(3)(5)(6)が解消していない。


4.理由(B)の(4)について
ア.平成26年12月12日付けの意見書では、次のように説明している。
「比較例は、0044段落に記載されているように、第1多重モードフィルタの開口長L1と、第2多重モードフィルタの開口長L2と、をそれぞれ独立に、低損失かつ振幅バランス特性及び位相バランス特性を保持した信号が出力されるように最適化しています。よって、開口長L1とL2は若干異なるもののほぼ同じです。
一方、実施例1では、「第1弾性波フィルタ100の通過周波数帯域においては第2弾性波フィルタ200が高インピーダンスとなり、第2弾性波フィルタ200の通過周波数帯域においては第1弾性波フィルタ100が高インピーダンスとなるように、」開口長L1及び開口長L2を最適化しています。このように調整すると開口長L1とL2は大きく異なります。
よって、比較例は適切です。」

イ.当審の判断
意見書では、比較例について、「開口長L1とL2は若干異なるもののほぼ同じです。」と説明している。
比較例について、本願明細書の表1、表2によれば、第1多重モードフィルタ10のL1=48.4λに対して、第2多重モードフィルタ20のL2=47.6λであるから、L1≠L2である。また、第1多重モードフィルタ12のL1=38.7λに対して、第2多重モードフィルタ20のL2=40.3λであるから、L1≠L2である。したがって、実施例1だけでなく比較例も、本願発明の「前記第1多重モードフィルタとは異なる開口長を有した第2多重モードフィルタ」という要件を満たしている。
他方、比較例及び実施例1それぞれについて、Z_(1)(f_(1))が幾らで、Z_(2)(f_(1))が幾らというデータの開示はない。したがって、本願発明の、第2多重モードフィルタについての「前記第1多重モードフィルタの通過周波数帯域において前記第1多重モードフィルタよりも高いインピーダンスとなる」という要件を実施例1が満たしているということは、確認されていない。その意味で、本願明細書において「実施例1」と称されているものは、本当に本願発明の実施例としての要件を満たしているのか甚だ疑わしい。同様に、本願発明の、第2多重モードフィルタについての「前記第1多重モードフィルタの通過周波数帯域において前記第1多重モードフィルタよりも高いインピーダンスとなる」という要件を比較例が満たしていないということも、確認されていない。
なお、挿入損失に関しては、本願図面の図5(b)、図6(b)により、実施例1の方が比較例よりも、挿入損失が最大で1dB小さいことが示されている。しかし、この結果は、比較例に対する実施例1の相対的なものであって、この結果から、実施例1は、本願発明の、第2多重モードフィルタについての「前記第1多重モードフィルタの通過周波数帯域において前記第1多重モードフィルタよりも高いインピーダンスとなる」という要件を満たしており、比較例は、本願発明の、第2多重モードフィルタについての「前記第1多重モードフィルタの通過周波数帯域において前記第1多重モードフィルタよりも高いインピーダンスとなる」という要件を満たしていないと結論付けることができないことはもちろんである。
したがって、実施例1と比較例とを比較しても、どのようにL1とL2を調整すれば、Z_(1)(f_(1))とZ_(2)(f_(1))がどのように変わるのかが把握できないから、発明の詳細な説明は、本願発明の「前記第1多重モードフィルタの通過周波数帯域において前記第1多重モードフィルタよりも高いインピーダンスとなるように前記第1多重モードフィルタとは異なる開口長を有した第2多重モードフィルタ」を実施できる程度に記載されていない。


5.理由(C)の(3)について
ア.平成26年12月12日付けの意見書では、次のように説明している。
「原出願の0008段落および分割出願の0009段落には、「前記第1多重モードフィルタとは異なる開口長を有した第2多重モードフィルタ」と記載され、さらに「本発明によれば、第1多重モードフィルタの開口長と第2多重モードフィルタの開口長とを調整することで、第1弾性波フィルタのインピーダンス及び第2弾性波フィルタのインピーダンスの調整を、容易に行うことができる」と記載されております。これらの記載および(A)(1)(B)(2)(3)(5)(6)での主張のように、0008段落、0037段落の記載から、「前記第1多重モードフィルタの通過周波数帯域において前記第1多重モードフィルタよりも高いインピーダンスとなるように前記第1多重モードフィルタとは異なる開口長を有した第2多重モードフィルタ」は発明の詳細な説明に記載されております。

イ.当審の判断
本願明細書の段落番号【0009】に「複数の多重モードフィルタが接続され、第2不平衡入力ノードと2つの第2平衡出力ノードとが設けられ、前記複数の多重モードフィルタのうち、前記第1多重モードフィルタとは異なる開口長を有した第2多重モードフィルタが前記2つの第2平衡出力ノードと接続されており、前記第1弾性波フィルタとは通過周波数帯域が異なる第2弾性波フィルタ」と記載されている。
しかし、この記載は、特許請求の範囲のコピーとして記載されたものであって、L1≠L2とするのはどういう目的のためであって、L1≠L2とすることによりどういう効果がもたらされるかついては全く記載がない。このような記載状況では、発明をサポートしている記載とはいえない。
なお、段落番号【0009】には、L1とL2とを調整することについて、その目的、効果とともに記載されている。しかし、L1≠L2とすることと、L1とL2とを調整することは、別である。
したがって、理由(C)の(3)が依然として解消していない。


第5.むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号、第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-16 
結審通知日 2015-01-20 
審決日 2015-02-02 
出願番号 特願2012-101889(P2012-101889)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H03H)
P 1 8・ 536- WZ (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 和志  
特許庁審判長 近藤 聡
特許庁審判官 江口 能弘
寺谷 大亮
発明の名称 弾性波フィルタ  
代理人 片山 修平  

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