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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2013800235 審決 特許

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審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載  H04J
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  H04J
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H04J
審判 一部無効 2項進歩性  H04J
管理番号 1298989
審判番号 無効2014-800008  
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-01-16 
確定日 2015-01-19 
事件の表示 上記当事者間の特許第4201595号発明「適応サブキャリア-クラスタ構成及び選択的ローディングを備えたOFDMA」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件の特許第4201595号についての手続の経緯の概要は以下のとおりである。

出願日 平成13年12月13日
(パリ条約による優先権主張 平成12年12月15日 米国)
設定登録 平成20年10月17日
本件無効審判請求 平成26年 1月16日
答弁書 平成26年 5月27日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成26年 9月16日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成26年 9月17日
口頭審理 平成26年 9月30日



第2 本件特許発明
特許第4201595号の請求項1?16に係る発明のうち,請求項8及び15に係る発明(以下,各請求項の番号に対応して,「本件特許発明8」,「本件特許発明15」という。)は,特許請求の範囲の請求項8及び15に記載された次のとおりのものである。
「【請求項8】
(8A) 直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を採用しているシステムのためのサブキャリア選択の方法において,
(8B) 加入者が,基地局から受信したパイロット記号に基づいて,複数のサブキャリアについてチャネル及び干渉情報を測定する段階と,
(8C) 前記加入者が,候補サブキャリアのセットを選択する段階と,
(8D-1) 前記加入者が,前記候補サブキャリアのセットに関するフィードバック情報を前記基地局に提供する段階であって,(8D-2)該段階は,サブキャリアの候補のセットをサブキャリアのクラスタとして任意に順序付けることを有し,(8D-3)更に,前記フィードバック情報は,候補クラスタをSINR値と共に表示するインデクス表示を含んでいる,前記段階と,
(8E) 前記加入者が,前記加入者用として前記基地局により選択された前記サブキャリアのセットのサブキャリアの表示を受信する段階と,から成ることを特徴とする方法。」,

「【請求項15】
(15A) 複数の加入者が使用を望んでいるサブキャリアのクラスタを表示するフィードバック情報を生成する,第1セル内の複数の加入者と,
(15B) 前記複数の加入者に対して,クラスタ内のOFDMAサブキャリアを割り当てる,前記第1セル内の第1基地局と,を備えており,
(15C) 前記複数の加入者は,それぞれ,前記第1基地局から受信したパイロット記号に基づいて前記複数のサブキャリアに関するチャネル及び干渉情報を測定し,前記複数の加入者のうちの少なくとも1人は,前記複数のサブキャリアから候補サブキャリアのセットを選択し,(15D)前記1人の加入者は,前記候補サブキャリアのセットに関するフィードバック情報を前記基地局に提供して,前記1人の加入者が使用するように前記第1基地局が前記サブキャリアのセットから選択したサブキャリアの表示を受信するようになっており,(15E-1)前記複数の加入者は,サブキャリアのクラスタとして任意に順序付けられた候補サブキャリアのセットから成るフィードバック情報を提供するものであり,(15E-2)更に,前記フィードバック情報は,候補クラスタをSINR値と共に表示するインデクス表示を含んでいること特徴とする装置。」

上記「(8A)」?「(8E)」及び「(15A)」?「(15E-2)」は,当審が便宜上付した分説符号であり,分説については特に争いはないので,請求人が使用したものをそのまま採用する。



第3 請求人の主張
請求人は,本件特許発明8及び15についての特許を無効とする,との審決を求め,次のような無効理由を主張している。
以下の無効理由1?6は,請求人の主張する無効理由を,無効理由の具体的な説明の内容に基づいて,当審において特許法の条文にそってまとめたものである。


1 無効理由1
(1)甲第1号証に基づく新規性違反(特許法第29条第1項第3号)
(審判請求書33ページ1?4行)
本件特許発明8及び15は,甲第1号証に記載された発明と同一であるので,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。したがって,本件特許発明8及び15に係る特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。

(2)甲第1号証に基づく進歩性違反(特許法第29条第2項)
(審判請求書33ページ4?9行)
本件特許発明8及び15は,甲第1号証に記載された発明及び技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって,本件特許発明8及び15に係る特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。


2 無効理由2
甲第7号証に基づく進歩性違反(特許法第29条第2項)
(審判請求書33ページ10?15行)
本件特許発明8及び15は,甲第7号証に記載された発明及び技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって,本件特許発明8及び15に係る特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。


3 無効理由3
甲第8号証に基づく進歩性違反(特許法第29条第2項)
(審判請求書33ページ16?22行)
本件特許発明8及び15は,甲第8号証に記載された発明及び甲第2号証,甲第7号証,甲第11号証?甲第16号証の各々に示される周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって,本件特許発明8及び15に係る特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。


4 無効理由4
甲第9号証に基づく進歩性違反(特許法第29条第2項)
(審判請求書33ページ23行?34ページ1行)
本件特許発明8及び15は,甲第9号証に記載された発明及び甲第1号証,甲第2号証,甲第7号証,甲第8号証,甲第11号証?甲第13号証の各々に示される周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって,本件特許発明8及び15に係る特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。


5 無効理由5
明確性要件違反(特許法第36条第6項第2号)
(審判請求書34ページ2?6行)
本件特許発明8及び15は明確でないので,特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず,本件特許発明8及び15に係る特許は,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。


6 無効理由6
(1)実施可能要件違反(特許法第36条第4項)
(審判請求書34ページ7?12行)
本件特許の発明の詳細な説明は,本件特許発明8及び15を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないので,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず,特許を受けることができないものである。したがって,本件特許発明8及び15に係る特許は,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。

(2)サポート要件違反(特許法第36条第6項第1号)
(審判請求書34ページ12?16行)
本件特許発明8及び15は,発明の詳細な説明に記載されたものではないので,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず,特許を受けることができないものである。したがって,本件特許発明8及び15に係る特許は,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。


また,請求人は,証拠方法として甲第1号証?甲第21号証を提出している。
甲第1号証:Thomas Keller and Lajos Hanzo, Adaptive Multicarrier Modulation: A Convenient Framework for Time-Frequency Processing in Wireless Communications, IEEE Proceedings of the IEEE, Vol.88, No.5, May 2000, p.611-p.640
甲第1号証の抄訳
甲第2号証:特開2000-078111号公報
甲第3号証:特開2000-115073号公報
甲第4号証:特開2000-209124号公報
甲第5号証:特開平11-136179号公報
甲第6号証:平成25年7月29日付け特許権侵害差止請求事件の訴状
甲第7号証:特表平11-508417号公報
甲第8号証:特開平11-055210号公報
甲第9号証:特開平11-234230号公報
甲第10号証:電波・テレコム用語辞典,財団法人電気通信振興会,平成4年8月15日第5版第2刷発行,374ページ
甲第11号証:国際公開第98/24258号
甲第12号証:特開2000-183849号公報
甲第13号証:特開平11-346203号公報
甲第14号証:特開平07-250374号公報
甲第15号証:特開平07-038943号公報
甲第16号証:特開平11-313043号公報
甲第17号証:服部武編著,インプレス標準教科書シリーズ OFDM/OFDMA教科書,株式会社インプレスR&D,2008年9月21日初版第1刷発行,109ページ,110ページ,237ページ,238ページ
甲第18号証:特開2000-315975号公報
甲第19号証:特開2000-013842号公報
甲第20号証:特開平09-008770号公報
甲第21号証:特開2000-078062号公報

なお,甲第1,第10,第17号証の各表示名は,請求人の提出した書証に基づき,当審が修正した。



第4 被請求人の主張
これに対し,被請求人は,平成26年5月26日付け答弁書において,概略以下のとおり主張している。
以下は,被請求人の主張を,その具体的な説明の内容に基づいて,当審において特許法の条文にそってまとめたものである。

本件特許発明8及び15は,無効理由1によっては特許法第29条第1項第3号あるいは同条第2項に該当しない。
本件特許発明8及び15は,無効理由2,無効理由3あるいは無効理由4によっては特許法第29条第2項に該当しない。
請求項8及び15は,無効理由5によっては特許法第36条第6項第2号に該当しない。
請求項8及び15は,無効理由6によっては特許法第36条第6項第1号に該当せず,発明の詳細な説明は同条第4項に該当しない。
(答弁書9ページ2?9行)

また,請求人は,証拠方法として乙第1号証,乙第2号証を提出している。
乙第1号証:服部武編著,インプレス標準教科書シリーズ OFDM/OFDMA教科書,株式会社インプレスR&D,2008年9月21日初版第1刷発行,340ページ,341ページ
乙第2号証:服部武,諸橋知雄,藤岡雅宣,3G Evolutionのすべて -HSPAモバイルブロードバンド技術とLTE基本技術-,丸善出版株式会社,平成23年5月10日第2刷発行

なお,乙第1,第2号証の各表示名は,請求人の提出した書証に基づき,当審が修正した。



第5 当審の判断
無効理由5及び無効理由6は本件特許発明8及び15の認定に影響することから,無効理由5及び無効理由6を先に判断してから,無効理由1?無効理由4について判断を行う。

1 無効理由5(明確性要件)について
(1)当事者の主張
請求人は,以下ア?ウの点を主張している。
ア 「候補サブキャリアのセット」,「サブキャリアの候補のセット」,「サブキャリアのクラスタ」及び「候補クラスタ」は,いずれも学術用語ではなく,移動体通信分野において一般的に用いられる用語でもない。また,例えば「候補サブキャリア」には何が含まれ,「候補クラスタ」と技術的に何が異なるのか,「候補サブキャリアのセット」は「何と何から構成されたセット」を意味し,「サブキャリアの候補のセット」と技術的に何が異なるのか,候補サブキャリアの「セット」と「クラスタ」とは何がどう異なるのか,など,互いに似て非なる文言であって,技術的関連性を全く把握することができない。したがって,「候補サブキャリアのセット」,「サブキャリアの候補セット」,「サブキャリアのクラスタ」及び「候補クラスタ」という文言は不明確である。
(審判請求書134ページ11?21行,135ページ下から4行?136ページ7行)

イ 「チャネル」,「干渉」が技術的にどのように用いられる等が以降の構成要件に何ら規定されておらず,「SINR値」が特定されている構成要件との技術的関係が一切不明である。したがって,「・・・チャネル及び干渉情報を測定」と「・・・前記フィードバック情報は,候補クラスタをSINR値とともに表示するインデクス表示を含んでいる」(請求項8,15)という発明を特定するための事項は,不明確である。
(審判請求書134ページ下から5行?135ぺージ8行,136ページ8?18行)

ウ 基地局は,「前記サブキャリアのセット」を選択するのか,「前記サブキャリアのセットのサブキャリア」を選択するのか,「前記サブキャリアのセットのサブキャリアの表示」を選択するのか,が理解できない。また,「前記サブキャリアのセットのサブキャリア」が,前記サブキャリアのセットの中の全てのサブキャリアを意味するのか,前記サブキャリアのセットの中の一つのサブキャリアを意味するのか,理解できない。更に,「サブキャリアの表示」とは,一体何を指し示すのか,明細書中にも説明がなく,意味不明である。したがって,「・・・基地局により選択された前記サブキャリアのセットのサブキャリアの表示を受信する」(請求項8),「・・・前記第1基地局が前記サブキャリアのセットから選択したサブキャリアの表示を受信するようになっており」(請求項15)という発明を特定するための事項は,不明確である。
(審判請求書135ぺージ9?23行,136ページ19行?137ページ4行)


これに対し,被請求人は上記ア?ウの点に関して,それぞれ以下ア’?ウ’の主張をしている。
ア’ フィードバック用に構成した複数のクラスタを想定すると,選択された1つ又は複数のクラスタは,それぞれ複数のサブキャリアからなるから,本件明細書の【0026】にいう「候補クラスタ」を「候補サブキャリアのセット」と称することになんらの問題はない。「候補サブキャリアのセット」全体がクラスタとなるのではなく,個々の「候補サブキャリアのセット」をクラスタとするのであって,これを明確にするために,個々の「候補サブキャリアのセット」を「サブキャリアの候補のセット」と規定したのである。「サブキャリアのクラスタ」は,複数のサブキャリアから構成された論理ユニットとしてのクラスタの意味である。したがって,「候補サブキャリアのセット」,「サブキャリアの候補のセット」,「サブキャリアのクラスタ」及び「候補クラスタ」の技術的関連性は明確である。
(被請求人の口頭審理陳述要領書54ページ末行?56ページ9行)

イ’ 本件明細書の【0010】から,SINRがチャネル及び干渉情報であることは明確である。チャネル及び干渉情報には,例えばSN比,SI比,SINRを指標化したSINRインデクス(LTE規格におけるCQIなどが挙げられる。したがって,「チャネル及び干渉情報」と「SINR値」との技術的関連性は明確である。
(被請求人の口頭審理陳述要領書56ページ10行?57ページ7行)

ウ’ 基地局は,最終的なサブキャリアの割当を決定する。つまり,各加入者からの候補サブキャリアのセットに関するフィードバック情報を参考にするものの,実際のダウンリンクにおけるサブキャリアの割当は,基地局がこれに拘束されずに行う(本件明細書の【0065】)。このことは,【0007】に「加入者が使用するように基地局が選択したサブキャリアのセットの内のサブキャリアの表示を受信する段階」として記述されている。基地局がどのようなサブキャリアを割り当てたかは,加入者は予め知る由もないから,基地局がサブキャリアの割当情報を各加入者に通知する必要があり,基地局が選択したサブキャリアのセットのうちのどのサブキャリアを割り当てるのかを特定するための情報を,サブキャリアの表示と指称していることがわかる。サブキャリアのセットを基地局が改めて論理ユニットとして割り当てる場合は,このクラスタを特定する通知を加入者に対して行うのである。基地局がクラスタを割り当てる場合であっても,当該クラスタはサブキャリアのセットであるから,本件特許発明8との関係では同じことである。
(被請求人の口頭審理陳述要領書57ページ8行?59ページ6行)

(2)判断
(上記アについて)
「候補サブキャリアのセット」,「サブキャリアの候補のセット」,「サブキャリアのクラスタ」及び「候補クラスタ」は,似てはいるが異なる表記がなされていることから,同じことを意味するのか否かが不明確であり,その意味内容は特許請求の範囲の請求項8及び15の記載から一義的に明確であるとはいえず,本願出願時の技術常識を参酌しても,上記の各用語の意味内容が一義的に明確であるとはいえない。
そこで,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して,その意味内容について検討する。

a まず,「候補クラスタ」については,【0026】に「次に,各加入者は,継続的にパイロット記号の受信をモニターし,セル間干渉及びセル内トラフィックを含め,各クラスタのSINR及び/又は他のパラメータを測定する(処理ブロック102)。この情報に基づいて,各加入者は,相対的に性能が良好な(例えば,高SINR低トラフィックローディングの)1つ又は複数のクラスタを選択して,これらの候補クラスタに関する情報を所定のアップリンクアクセスチャネルを通して基地局にフィードバックする(処理ブロック103)。・・・各加入者は,他よりも相対的に性能が良好なクラスタを選択する。この選択により,各加入者は測定されたパラメータに基づいて使用が望ましいと思われるクラスタを選択することになる。」との記載があり,【0029】に「加入者からフィードバックを受信すると,基地局は,次に,候補の中から加入者用に1つ又は複数のクラスタを選択する(処理ブロック104)。」との記載からも明らかなように,「候補クラスタ」は,加入者が選択し基地局フィードバックする,割り当てを希望する相対的に性能が良好な(例えば,高SINR低トラフィックローディングの)1つ又は複数のクラスタを意味していることは明らかである。

b そして,「クラスタ」は,「少なくとも1つの物理的サブキャリアを保有している論理ユニットとして定義される」(【0023】)ものであり,その一般的な意味(クラスター【cluster】:「1 同種のものが集まってつくる一団・群れ。」(株式会社岩波書店広辞苑第六版))に照らしても,集合の意味も有する「セット」の概念に該当するものである。そして,「サブキャリアのクラスタ」は,サブキャリアのセットとしてのクラスタであることを意味していると解することができる。
ここで,「クラスタ」については,
【0023】の「クラスタとそのサブキャリアの間のマッピングは,固定されていても再構成可能であってもよい。後者の場合,基地局は,加入者に何時クラスタが再定義されるかを通知する。或る実施形態では,周波数スペクトルは512個のサブキャリアを含んでいて,各クラスタは4個の連続したサブキャリアを含んでおり,結果的に128個のクラスタとなる。」,
【0088】の「図9は,セルA-Cについてのコヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの代表的クラスタフォーマットを示す。・・・例えば,1-8のラベルが付いた周波数はダイバーシティクラスタであり,9-16のラベルが付いたクラスタはコヒーレンスクラスタである。例えば,セル内のラベル1が付いた全ての周波数は,或るダーバーシティクラスタの一部であり,セル内のラベル2が付いた全ての周波数は,別のダイバーシティクラスタの一部であるが,一方ラベル9が付いた周波数のグループは1つのコヒーレンスクラスタであり,ラベル10が付いた周波数のグループは別のコヒーレンスクラスタである,等となっている。」,
【0099】の「セル内のコヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの数の比率/割当は,移動加入者と静止加入者の人数の比によって異なる。システムの展開に伴い人数が変わると,コヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの割当は,新しいシステムの必要性を受け入れるため構成し直される。図12は,図9よりも,もっと多くの移動する加入者をサポートできるクラスタ分類の再構成を示す。」
との記載があり,これらの記載によれば,「クラスタ」は,例えば図9のクラスタフォーマットに示されるように,予めクラスタとそのサブキャリアの間のマッピングが定義されており,システムの展開に伴い人数が変わる場合には例えば図12に示されるものに再構成可能なものであるといえる。
そして,クラスタが予め定義されているからこそ,加入者は,クラスタ内の各サブキャリアのSINR値の平均等によりクラスタに関するSINRを生成することができ(【0027】),当該SINRに基づいて候補クラスタを選択することができ(【0026】),クラスタインデクスを用いる等して候補クラスタを基地局にフィードバックすることができ(【0028】),基地局は,加入者からフィードバックされた候補のクラスタの中から更に1つ又は複数のクラスタを選択することができ(【0029】),クラスタ割当てについて加入者に通知することができる(【0030】)ことは,当業者に明らかである。
また,【0006】の「これは,主に,加入者情報を更新するための帯域幅コストと統合最適化のための計算費用のせいで,実際の無線システムでは非実用的である場合が多い。」との発明が解決しようとする課題に鑑みても,サブキャリアの割り当てをサブキャリア単位ではなく予め定義されたクラスタとして行うことから,フィードバック及び割当通知の帯域幅コストが削減され得ることは当業者に自明である。

c ここで,本件明細書のうち【発明を実施するための最良の形態】には,「サブキャリアのセット」なる記載は,【0091】に「時間経過と共にサブキャリアホッピングを通してより多くの周波数ダイバーシティを得ることができ,加入者は,或るタイムスロットで或るサブキャリアのセットを占め,別のタイムスロットでは別の異なるサブキャリアのセットを占めることになる。」との記載があるのみである。
そして,【0092】の「図10は,サブキャリアホッピングを備えたダイバーシティクラスタを示す。図10に示すように,図示のセルAとセルBには,それぞれ4つのダイバーシティクラスタがあり,個々のダイバーシティクラスタ内の各サブキャリアは,同一のラベル(1,2,3又は4)を有している。別個のタイムスロットを4つ示しているが,各タイムスロットの間に,各ダイバーシティクラスタ用のサブキャリアは変化する。例えば,セルAでは,サブキャリア1は,タイムスロット1の間はダイバーシティクラスタ1の一部であり,タイムスロット2の間はダイバーシティクラスタ2の一部であり,タイムスロット3の間はダイバーシティクラスタ3の一部であり,タイムスロット4の間はダイバーシティクラスタ4の一部である。この様に,時間経過に伴うサブキャリアホッピングを通して,より多くの干渉ダイバーシティを得ることができ,図10に示すように,異なるセルに対し異なるホッピングパターンを使用することにより,更に多くの干渉ダイバーシティが実現できる。」の記載を考慮すれば,上記【0091】の「加入者は,或るタイムスロットで或るサブキャリアのセットを占め,別のタイムスロットでは別の異なるサブキャリアのセットを占めることになる。」は,同じラベルを有するサブキャリアがタイムスロット毎に変わる(ホッピングする)ことを述べていると解される。
ここで,図10に示されるものは各タイムスロットにおいてダイバーシティクラスタの数は不変であるから,【0023】,【0099】に述べられている「クラスタ分類の再構成」に当たるものではなく,クラスタとそのサブキャリアの間のマッピングがサブキャリアホッピングとして予め定義されていると解するのが自然である。
したがって,「サブキャリアのセット」は,ラベルによりサブキャリアとのマッピングが予め定義されていると「クラスタ」であると,整合的に解することができるものである。

d また,上記bに述べたとおり,発明の詳細な説明の実施例では一貫して,加入者も基地局も,クラスタを選択しているのであって,個々のサブキャリアを選択しているのではないから,個々のサブキャリアを選択した場合の結果としての選択された複数のサブキャリアからなるセットは「クラスタ」ではない。すなわち,「候補サブキャリアのセット」及び「サブキャリアの候補セット」は,サブキャリア単位に選択された結果としての『「候補サブキャリア」の「セット」』や『「サブキャリアの候補」の「セット」』ではなく,予め定義された「サブキャリアのセット」(クラスタ)単位の「候補」,すなわち,候補とされたクラスタである「候補クラスタ」であると認められる。
そして,本件特許発明8及び15における「候補サブキャリアのセット(サブキャリアの候補のセット)」は,その8D-1?2及び15E1?2並びに15Aの記載を参照すると,「候補クラスタとして」任意に順序付けされた,「候補クラスタ」であると解することは,整合的である。

e 以上のとおり,本件特許発明8及び15における「候補クラスタ」,「候補サブキャリアのセット」,「サブキャリアの候補セット」は,表記は異なるものの実質的に同じ内容を意味していることは明細書の記載からも明らかである。
したがって,本件特許発明8及び15は,上記アの点に関して不明確とはいえない。

(上記イについて)
「複数のサブキャリアに関するチャネル及び干渉情報を測定する」ことが,各サブキャリアに関するSINRを測定することを含んでいることは,技術常識に照らして自明である。そして,【0010】にも,「ダウンリンクチャネルに関しては,各加入者は最初に全てのサブキャリアについてチャネルと干渉の情報を測定し,性能の良い(例えば,信号対干渉+ノイズ比(signal-to-interference plus noise ratio)(SINR)が高い)複数のサブキャリアを選択して,それら候補サブキャリアに関する情報を基地局にフィードバックする。」と記載されているから,上記文言上の解釈と一致している。したがって,本件特許発明8及び15の「複数のサブキャリアについてチャネル及び干渉情報を測定する」は,各サブキャリアに関するSINRを測定することを包含していることは明らかである。
そして,SINR値はSINRの測定結果,すなわち,チャネルと干渉の情報の測定結果であることは明らかであるところ,本件特許発明8及び15の「フィードバック情報」は「候補クラスタをSINR値と共に表示するインデクス表示を含んでいる」のであるから,「チャネル及び干渉情報」と「SINR値」との技術的関連性は明らかである。
したがって,本件特許発明8及び15は,上記イの点に関して不明確とはいえない。

(上記ウについて)
「前記加入者が,前記加入者用として前記基地局により選択された前記サブキャリアのセットのサブキャリアの表示を受信する段階」(請求項8),「前記1人の加入者が使用するように前記第1基地局が前記サブキャリアのセットから選択したサブキャリアの表示を受信する」(請求項15)の記載は,かかり受けが一義的に特定できないため,その意味内容は特許請求の範囲の請求項8及び15の記載から一義的に明確であるとはいえない。そこで,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して,その意味内容について検討する。

基地局による選択及び選択結果の通知に関して,発明の詳細な説明には以下の記載がある。
「【0023】
図1Aは,サブキャリア101のような複数のサブキャリアとクラスタ102を示している。クラスタ102のようなクラスタは,図1Aに示すように,少なくとも1つの物理的サブキャリアを保有している論理ユニットとして定義される。クラスタは,連続した又はばらばらのサブキャリアを保有することができる。クラスタとそのサブキャリアの間のマッピングは,固定されていても再構成可能であってもよい。後者の場合,基地局は,加入者に何時クラスタが再定義されるかを通知する。或る実施形態では,周波数スペクトルは512個のサブキャリアを含んでいて,各クラスタは4個の連続したサブキャリアを含んでおり,結果的に128個のクラスタとなる。」,
「【0028】
各加入者から基地局への情報のフィードバックは,各クラスタのSINR値を含んでおり,加入者が使用を望む符号化/変調速度も示している。フィードバック内の情報の順序を基地局が知っている限り,フィードバック内のどのSINR値がどのクラスタに対応しているかを示すためにクラスタインデクスが必要になることはない。別の実施形態では,フィードバック内の情報は,加入者にとってどのクラスタが相対的に最高の性能を有しているかに従って順序付けられている。このような場合は,付帯するSINR値がどのクラスタに対応しているかを示すために,インデクスが必要である。
【0029】
加入者からフィードバックを受信すると,基地局は,次に,候補の中から加入者用に1つ又は複数のクラスタを選択する(処理ブロック104)。基地局は,基地局で入手可能な追加情報,例えば,各サブキャリアに関するトラフィックロード情報,各周波数帯域について基地局で待機中のトラフィックリクエストの量,周波数帯域が過剰使用されていないか,情報送信のためにどれほどの間加入者が待っているか,等の情報を利用する。隣接するセルのサブキャリアローディング情報も,基地局間で交換することができる。基地局は,この情報をサブキャリア割当に使用して,セル間干渉を低減する。
【0030】
クラスタ選択の後,基地局は,ダウンリンク共通制御チャネルを通して,又は加入者への接続が既に設定されている場合には専用のダウンリンクトラフィックチャネルを通して,クラスタ割当について加入者に通知する(処理ブロック105)。或る実施形態では,基地局は,適切な変調/符号化速度についても加入者に通知する。」,
「【0065】
図13は,基地局の或る実施形態のブロック図である。図13に示すように,クラスタ割当及びロードスケジューリング制御装置1301(クラスタアロケータ)は,各加入者に指定されたクラスタのダウンリンク/アップリンクSINR(例えば,OFDM受信機1305から受信するSINR/速度インデクス信号1313)と,ユーザーデータ,即ち待ち行列充満度/トラフィックロード(例えば,マルチユーザーデータバッファ1302からのユーザーデータバッファ情報1311を介して)とを含め,必要な全ての情報を収集する。この情報を使って,制御装置1301は,各ユーザー毎にクラスタ割当及びロードスケジューリングを決定し,決定情報をメモリ(図示せず)に記憶する。制御装置1301は,制御信号チャネル(例えばOFDM受信機1305を介した制御信号/クラスタ割当1312)を通して,決定について加入者に通知する。」,
「【0088】
図9は,セルA-Cについてのコヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの代表的クラスタフォーマットを示す。図9に示すように,セルA-Cに関し,周波数(サブキャリア)のラベリングは,周波数がコヒーレンスクラスタの一部であるかダイバーシティクラスタの一部であるかを示している。例えば,1-8のラベルが付いた周波数はダイバーシティクラスタであり,9-16のラベルが付いたクラスタはコヒーレンスクラスタである。例えば,セル内のラベル1が付いた全ての周波数は,或るダーバーシティクラスタの一部であり,セル内のラベル2が付いた全ての周波数は,別のダイバーシティクラスタの一部であるが,一方ラベル9が付いた周波数のグループは1つのコヒーレンスクラスタであり,ラベル10が付いた周波数のグループは別のコヒーレンスクラスタである,等となっている。ダイバーシティクラスタは,干渉平均化を介してセル間干渉の影響を低減するために,異なるセルに対し異なる構成とすることもできる。」

上記【0029】,【0030】,【0065】の記載によれば,基地局は,追加情報を利用して,加入者からフィードバックされた候補のクラスタの中から加入者用に1つ又は複数のクラスタを選択し,選択結果である加入者に割り当てるクラスタ(クラスタ割当)を通知することが理解できる。そして,当該クラスタ割当の通知を加入者が受信することは明らかである。
そして,上記「(上記アについて)」にて述べたとおり,「クラスタ」は「サブキャリアのセット」の概念に該当するものであり,上記【0023】,【0088】の記載及び図9並びに図12のクラスタフォーマットによれば,クラスタとそのサブキャリアの間はマッピングされており,「ラベル」によりクラスタを構成するサブキャリアを識別可能であることは明らかである。
してみれば,本件特許発明8の「前記加入者が,前記加入者用として前記基地局により選択された前記サブキャリアのセットのサブキャリアの表示を受信する」及び本件特許発明15の「前記1人の加入者が使用するように前記第1基地局が前記サブキャリアのセットから選択したサブキャリアの表示を受信する」は,「加入者が,加入者用として基地局により選択されたクラスタを構成するサブキャリアを識別可能とする表示(「前記サブキャリアのセットのサブキャリアの表示」,すなわち,「ラベル」。)を受信する」ことである理解することができる。
したがって,本件特許発明8及び15は,上記ウの点に関して不明確とはいえない。

(3)留意事項
なお,被請求人は,本件特許発明8の構成要件8E及び本件特許発明15の構成要件15Dについて,答弁書及び被請求人の口頭審理陳述要領者において以下の説明・主張しているので,当該説明・主張に対する当審の見解を以下に記す。

ア 被請求人の主張
被請求人は,答弁書(43ページ下から8行?46ページ14行)にて,【0023】の記載を根拠に,
「フィードバック用に構成したクラスタの説明図」及び当該説明図とはクラスタフォーマットが異なる「基地局が割り当てるサブキャリアの説明図」を例示して,「もっとも,本件特許発明8においては,基地局が加入者に対して割り当てるサブキャリアの集合のことを「基地局により選択された前記サブキャリアのセット」と規定しており,加入者が候補サブキャリアのセットをクラスタと規定しているのに対して「クラスタ」という用語を用いずに,両者を区別していることに注意されたい。(中略)なお,上手の白色の残余部分は,ダイバーシティクラスタとして,更に複数の加入者に対して割り当てることが可能である」(45ページ下から4行?46ページ5行),
「基地局は,加入者からフィードバック情報を受領するが,そのサブキャリアのセットの選択と割り当ては基地局が決定するのであって,当該サブキャリアのセットは,候補サブキャリアのセットである必要はない。つまり,基地局が選択するサブキャリアのセット(構成要件E)は,本件特許発明8が規定するクラスタ(フィードバック用に構成したクラスタ)ではない。」(46ページ9?14行)と主張している。
また,答弁書(71ページ3行?72ページ5行)にて,具体的な根拠を示さずに,
「しかし,その割り当てるサブキャリアは,候補サブキャリアのセットそのものではない。また,基地局の割当は,候補サブキャリアのセットに必ずしも拘束されない。つまり,加入者は,基地局が実際に割り当てるサブキャリアがどれであるかを知らないから,基地局が割り当てられたサブキャリアを特定する情報を受領する必要がある。」(71ページ12?16行)と主張している。
また,被請求人の口頭審理陳述要領書(48ページ下から2行?53ページ8行)にて,【0023】の記載を根拠に「臨機に論理ユニットとしてクラスタを定義することも可能である。」とした上で,【0007】,【0011】の記載を根拠に,
「フィードバック用に構成したクラスタの説明図」及び当該説明図とはクラスタフォーマットが異なる「基地局が割り当てるサブキャリアの説明図」にて,8個のサブキャリアからなるクラスタをフィードバックした場合に,フィードバック情報を基礎に基地局が各加入者に対して各6個のサブキャリアを割り当てる場合を例示して,「候補クラスタの中のサブキャリアを基地局が割り当てることがある」(50ページ下から9行?下から10行),
「(このことは,【0007】に「加入者が使用するように基地局が選択したサブキャリアのセットの内のサブキャリアの表示を受信する段階」として記述されている。ちなみに,この「サブキャリアのセット」とはこの記述に先立つ「加入者が候補サブキャリアのセットを選択する段階」との記述において加入者が選択した「候補サブキャリアのセット」のことであることは明らかである。)」(52ページ下から4行?53ページ2行),
「例えば,前記第6,1のような論理ユニットとしてのクラスタが定義されると,このクラスタに関するチャネル品質情報(SINR・SINRインデクス)は,当該クラスタに属するサブキャリアは連続しているから,そのチャネル品質は相互に似通っている。このため,候補クラスタの中の一部のサブキャリアを選択することは,フィードバック情報に基づくものである。」(53ページ3?8行)と主張している。
更に,【0007】の「加入者が使用するように基地局が選択したサブキャリアのセットの内のサブキャリアの表示を受信する段階」との記載を根拠に,
「つまり,基地局が選択した(割り当てる)サブキャリアのセットの内のどのサブキャリアを割り当てるのかを特定するための情報を,サブキャリアの表示と指称していることがわかる。」(58ページ15?17行)と主張している。

イ 当審の見解
(ア)検討の前提
被請求人の上記アの主張を総合すると,本件特許発明8の構成要件8E「基地局により選択された前記サブキャリアのセットのサブキャリアの表示」及び本件特許発明15の構成要件15Dの「前記第1基地局が前記サブキャリアのセットから選択したサブキャリアの表示」は,基地局がフィードバックされたクラスタ(候補サブキャリアのセット)を構成する複数のサブキャリアの中から更に選択したサブキャリアを加入者に実際に割り当てることから,当該基地局が選択したサブキャリアを特定するための情報であり,フィードバックされたクラスタ(候補サブキャリアのセット)と実際に割り当てるサブキャリアからなるセットとは異なるものであると主張していると解される。

(イ)被請求人の主張についての検討
しかしながら,被請求人が主張する上記(ア)の事項は,本件特許明細書に記載も示唆もされていなく,以下のとおり自明でもない。
a 被請求人が根拠とする【0023】の「クラスタとそのサブキャリアの間のマッピングは,固定されていても再構成可能であってもよい。」との記載は,【0099】の「セル内のコヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの数の比率/割当は,移動加入者と静止加入者の人数の比によって異なる。システムの展開に伴い人数が変わると,コヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの割当は,新しいシステムの必要性を受け入れるため構成し直される。図12は,図9よりも,もっと多くの移動する加入者をサポートできるクラスタ分類の再構成を示す。」の記載及び図12に照らせば,図9のクラスタフォーマットが唯一のものではなく,システムの展開に伴い人数が変わると図12のクラスタフォーマットに再構成することができることを述べたに過ぎない。
そして,再構成は「システムの展開に伴い人数が変わると新しいシステムの必要性を受け入れるため構成し直される」ものであり,基地局が追加の情報に基づいてクラスタを選択する際(【0029】,【0065】)に臨機にクラスタが再構成されることは,記載も示唆もされていない。
また,「後者の場合,基地局は,加入者に何時クラスタが再定義されるかを通知する。」(【0023】)のであるから,クラスタが再構成される場合は加入者は通知に基づいて再構成後のクラスタをフィードバックしていると解するのが自然である。

b そして,【0011】の「加入者からこの情報を受信すると,基地局は,基地局で入手可能な追加情報(中略)を利用して,候補の中からサブキャリアを更に選択する。」,【0029】の「加入者からフィードバックを受信すると,基地局は,次に,候補の中から加入者用に1つ又は複数のクラスタを選択する(処理ブロック104)。」の記載によれば,基地局はあくまでフィードバックされた複数のクラスタ(候補クラスタ,候補サブキャリアのセット)の中から1つ又は複数のクラスタを選択するのであって,候補に拘束されずに勝手にサブキャリアのセットを選択するものでないことは明らかである。【0065】をみても,「この情報を使って,制御装置1301は,各ユーザー毎にクラスタ割当及びロードスケジューリングを決定し,(中略)決定について加入者に通知する。」の「クラスタ割当」の「クラスタ」がフィードバックされた「クラスタ」とは異なるものであることは何ら記載されておらず,同じものであると解するのが自然である。

c また,被請求人は,被請求人の口頭審理陳述要領書にて「このクラスタに関するチャネル品質情報(SINR・SINRインデクス)は,当該クラスタに属するサブキャリアは連続しているから,そのチャネル品質は相互に似通っている。このため,候補クラスタの中の一部のサブキャリアを選択することは,フィードバック情報に基づくものである。」とも主張する。しかし,例えば図9をみてもサブキャリアの大半はダイバーシティクラスタとされているところ,ダイバーシティクラスタに属するサブキャリアは非連続でありチャネル品質は相互に似通ってはいない。そして,【0027】によれば,ダイバーシティクラスタ/コヒーレンスクラスタの別なく,クラスタ内の各サブキャリアのSINR値の平均(ダイバーシティクラスタでは加重平均が有用),クラスタ内のサブキャリアのSINR値中最悪のSINRを,クラスタのSINR値としてフィードバックしているから,当該主張は本件特許発明8の内容に基づかない主張であり,失当である。
そして,上述のとおり,フィードバックされるSINR値はクラスタ内の各サブキャリアのSINR値の平均又はクラスタ内のサブキャリアのSINR値中最悪のSINRであるところ,ダイバーシティクラスタではクラスタ内の各サブキャリアのSINR値は大きく異なると解するのが自然である。このため,基地局がフィードバックされたクラスタを構成する複数のサブキャリアから更にサブキャリアを選択するのであれば,基地局により最終的に選択されたサブキャリアの集合についてSINR値である,当該選択されたサブキャリアのSINR値の平均値や最悪値は,フィードバックされたSINR値とは全く異なるものとなることは自明である。なお,フィードバックがコヒーレンスクラスタに対してのみなされることは記載も示唆もされていなく,上記【0027】の記載とも整合せず,自明でもない。したがって,基地局がフィードバックされたクラスタを構成する複数のサブキャリアから更にサブキャリアを選択することは,明らかに不自然である。

d 更に,被請求人が,臨機に論理ユニットとしてクラスタを定義することも可能であること(すなわち,フィードバックされたクラスタと実際に割り当てるサブキャリアからなるセットとは異なるものであること。)の根拠としている【0007】の「加入者が使用するように基地局が選択したサブキャリアのセットの内のサブキャリアの表示を受信する段階」の記載は,構成要件8Eと同様にかかり受けが不明確であるが,国際出願日における国際出願の明細書の「receiving an indication of subcarriers of the set of subcarriers selected by the base station for use by the subscriber」(国際公開第2002/049305号の「SUMMARY OF THE INVENTION」(2ページ26?27行)参照。)の記載に照らせば,基地局により選択されるのは「the set of subcarriers」であり,当該「the set of subcarriers」を構成する「subcarriers」を表す「indication」が受信されると理解され,基地局により「the set of subcarriers」から「subcarriers」が選択されることは国際出願日における国際出願の明細書には記載されていない。そして,国際出願日における国際出願の明細書における上記記載は,上記「(2)(上記ウについて)」における解釈と整合するものである。なお【0007】には,そもそもクラスタ自体について言及がない。
また,被請求人が同じく根拠としている【0011】の「候補の中からサブキャリアを更に選択する。」については,【0010】?【0015】にはクラスタなる記載はないが,【0009】の「例としてOFDMA(クラスタ)を使って説明する。」,「例えは,キャリアは,OFDMAのクラスタ,CDMAの拡散コード,SDMA(空間分割多重アクセス)のアンテナビームなどとなる。」の記載を考慮すれば,【0011】の上記記載は「候補の中からクラスタを更に選択する。」に読み替えられることは明らかである。したがって,【0011】の記載を根拠として,被請求人の主張を直ちに導き出せるものではない。

e そして,上記「(2)判断(上記アについて)」の項で述べたように,「サブキャリアのセット」としては「クラスタ」以外のものは発明の詳細な説明に裏付けられておらず,「サブキャリアのセット」は「クラスタ」であると整合的に解することができる。したがって,「前記加入者用として前記基地局により選択された前記サブキャリアのセットのサブキャリアの表示」とは,「前記加入者用として前記基地局により選択されたクラスタ」にマッピングされているサブキャリアを示すラベル(クラスタインデクス)であると整合的に解することができる。

f 以上のとおりであるから,構成要件8E及び15Dの「サブキャリアの表示」は,「基地局が選択した(割り当てる)サブキャリアのセットの内のどのサブキャリアを割り当てるのかを特定するための情報」であるとする被請求人の主張は失当である。そして,構成要件8E,15Dの「サブキャリアのセットのサブキャリアの表示」は,フィードバックされたクラスタのうち選択したクラスタを示すラベル(クラスタインデックス)であると認められる。

(4)まとめ
上記(3)のとおり,請求項8及び15の記載に関する被請求人の説明及び主張に採用できないものはあるが,上記(2)のとおり,請求項8及び15の記載は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
したがって,無効理由5に理由はない。


2 無効理由6(実施可能要件,サポート要件)について
(1)当事者の主張
請求人は,以下ア,イの点を主張し,それを根拠に,本件特許発明8及び15は,発明の詳細な説明に記載したものではない,発明の詳細な説明には,当業者が本件特許発明8及び15を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないと主張している。

ア 特許権侵害差止請求事件の訴状(甲6)における被請求人の主張に基づく被請求人の解釈によれば,本件特許発明8,15の「前記フィードバック情報は,候補クラスタをSINR値と共に表示するインデクス表示を含んでいる」なる構成(8D-3,15E-2)は,「前記フィードバック情報は,候補クラスタを測定したSINR値と受信機の受信能力に応じたものとして指標化された値と共に表示するインデクス表示を含んでいる」ことも包含している。しかし,本件明細書の【0028】,【0041】,【0063】には,8D-3,15E-2を文言通りに解釈した場合の態様のみが開示されており,上記被請求人の解釈に係る事項は発明の詳細な説明には開示されていない。(審判請求書137ぺージ8行?138ページ18行,139ページ14?23行)
また,答弁書71ページの被請求人の主張によれば,SINR値にSINRインデクスが包含されると解釈しているようであるが,本件明細書の【0040】,【0041】の記載によれば,SINR値はSINRそのものであり,クラスタの評価に用いられるものであるから,評価の結果得られたクラスタインデクスとは,利用される段階やその目的,情報の性質が大きく異なる。したがって,「SINR値」に「SINRインデクス」が包含されると解釈するのであれば,当該解釈に基づく本件特許発明8及び15は発明の詳細な説明に記載したものではない。(請求人の口頭審理陳述要領書57ページ末行?59ページ26行,60ページ14?20行)

イ 構成要件8E,15Dについて,本件明細書の【0011】,【0012】の記載からすると,単に「基地局が選択したサブキャリアを通知する」ことのみが記載されているだけで,選択したサブキャリアに対して「表示」を対応付けるために基地局が行う処理や,サブキャリアに対応付けられた「表示」を基地局が加入者に対して送信することについては一切開示されていない。(審判請求書138ぺージ19行?139ページ13行,請求人の口頭審理陳述要領書59ページ27行?60ページ13行)

これに対し,被請求人は上記ア,イの点に関して,それぞれ以下ア’,イ’の主張をしている。
ア’ 「候補クラスタをSINR値と共に表示するインデクス表示」の「インデクス表示」は,候補クラスタのインデクス表示,すなわち,明細書中のクラスタインデクスを指称している。(答弁書71ページ下から4行?下から2行)
例えば本件明細書の【0062】,図5には,クラスタIDというクラスタを特定するインデクス表示及びSINRをフィードバック情報として基地局に提供することが記載されている。よって,構成要件8D-3,15E-2は明細書及び図面に記載されており,明細書及び図面から十分に実施可能である。(被請求人の口頭審理陳述要領書59ページ8行?末行)

イ’ 基地局が割り当てるサブキャリアのセットのサブキャリアを特定するための表示,あるいは割り当てるクラスタを特定する表示を加入者に通知することが明細書及び図面に記載されている。この通知によりサブキャリアをどのように特定するかは,単なる設計事項であり,その具体的な開示がないと実施できないというような技術内容ではない。したがって,構成要件8E,15Dは明細書及び図面に記載されているとともに,明細書及び図面から十分に実施可能である。
(答弁書71ページ3?20行,被請求人の口頭審理陳述要領書60ページ1行?末行)

(2)判断
(上記アについて)
請求人も自認しているように,本件明細書の【0028】,【0041】,【0063】には,8D-3,15E-2を文言通りに解釈した場合の態様が開示されているのであるから,本件特許発明8及び15が発明の詳細な説明に記載されていないということはできない。したがって,当業者が実施することができないとはいえない。
なお,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定められるものであり,被請求人の主張によって定められるものではないから,被請求人の主張が発明の詳細な説明の記載に整合しているかどうかは,本件特許発明8及び15が発明の詳細な説明に記載したものか否かとは無関係である。したがって,請求人の主張は,その前提からして不適切であり,採用できない。

(上記イについて)
本件特許明細書【0030】には,「クラスタ選択の後,基地局は,(中略)クラスタ割当について加入者に通知する(処理ブロック105)。」,【0033】には「或る実施形態では,各加入者は,基地局に,その更新されたクラスタの選択及び付帯するSINRを報告する。すると,基地局は,再度選択し直して,加入者に新しいクラスタ割当を通知する。」,【0064】には「この情報を使って,制御装置1301は,各ユーザー毎にクラスタ割当及びロードスケジューリングを決定し,決定情報をメモリ(図示せず)に記憶する。制御装置1301は,(中略)決定について加入者に通知する。」との記載がある。これらの記載によれば,加入者は,クラスタ割当,すなわち,基地局が最終決定した,加入者に割り当てられるクラスタを,基地局から受信するものと理解できる。
発明の詳細な説明には,通知において具体的にどのようにクラスタ割当を表現するのか明らかにされていないが,本件特許明細書【0030】,【0062】,図5には,加入者から基地局にフィードバックする際に候補のクラスタをインデクス(クラスタインデクス(ID))により示すことが記載されており,【0029】によれば基地局は候補の中から加入者用に1つ又は複数のクラスタを選択するのであるから,基地局から選択結果を加入者に通知する際にも,フィードバックする際に用いたクラスタインデクスをそのまま用いることは理にかなっており,そのように解することは自然である。
また,構成要件8E及び15Dの「前記基地局により選択された前記サブキャリアのセットのサブキャリアの表示」は,上記1(2)のとおり,基地局により選択された「サブキャリアのセット」であるクラスタに含まれるサブキャリアを識別可能とするものと理解できる。そして,【0088】の記載及び図9によれば,クラスタフォーマットにおいて各クラスタは当該クラスタを構成する各サブキャリアがラベルにより識別可能とされており,当該ラベルはクラスタインデクスとして機能し得ることは自明であるから,クラスタインデクスにより基地局により最終的に割り当てられたクラスタに含まれるサブキャリアが識別可能であることは明らかである。
したがって,構成要件8E及び15Dは,発明の詳細な説明には直接記載されていないが,発明の詳細な説明から当然に理解できることであるから,発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。また,当業者が実施することができないともいえない。

(3)まとめ
上記(2)のとおり,請求項8及び15の記載は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。また,本件特許の発明の詳細な説明は,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないとはいえない。
したがって,無効理由6に理由はない。


3 無効理由1(甲第1号証に基づく新規性違反,進歩性違反)について
(1)本件特許発明1
上記「第2」の項で本件特許発明8として認めたものにおいて,発明の構成を特定する用語の意味内容を上記1(2)及び(3)のとおりに解したものである。

(2)引用発明
以下の各甲号証に係る発明には,無効理由1に用いられていないものもあるが,無効理由1?4において複数の甲号証が重複して用いられているため,当節において各甲号証に係る発明を纏めて認定する。

ア 甲第1号証に記載された発明について
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証(Thomas Keller and Lajos Hanzo, Adaptive Multicarrier Modulation: A Convenient Framework for Time-Frequency Processing in Wireless Communications(仮訳)「適応マルチキャリア変調 無線通信における時間・周波数処理のための好適な構造について」([当審注]:「(仮訳)」は,請求人が提出した甲第1号証の抄訳に基づく。以下の「(仮訳)」も同様である。), IEEE Proceedings of the IEEE, Vol.88, No.5, May 2000, p.611-p.640には,図面と共に,以下の事項が記載されている。

(ア)「More explicitly, clustered OFDM allows a number of users to share a given bandwidth amongst a number of users on a demand basis, potentially supporting a peak data rate identical to that of a single-user OFDM system. 」(613ページ左欄10?14行)
(仮訳)
「具体的には,クラスタOFDMは,需要に応じて特定の帯域を複数のユーザーで共有することにより,ピーク時のデータレートをシングルユーザーOFDMシステムと同じレベルで維持しようとするものである。」

(イ)「Combining adaptive antenna techniques with OFDM transmissions was shown to be advantageous in suppressing cochannel interference in cellular communications systems. 」(613ページ左欄50?53行)
(仮訳)
「適応アンテナ技術をOFDM伝送と組み合わせることにより,セルラー通信システムにおける同一チャネル干渉を抑制するという利点が得られることが証明された。」

(ウ)「In a time-division multiple access (TDMA)-based OFDM system, the frame synchronization between a master station - in cellular systems generally the base station - and the portable stations has to be also maintained. For these systems, a so-called reference symbol marking the beginning of a new time frame is commonly used. This added redundancy can be exploited for both frequency synchronization and FFT-window alignment, if the reference symbol is correctly chosen. 」(623ページ左欄5?13行)
(仮訳)
「時分割多元接続(TDMA)を用いるOFDMシステムでは,主局(セルラー方式では一般的に基地局)と移動局との間で,フレーム同期を維持する必要もある。同システムでは,新しいタイムフレームの先頭を示す,いわゆる基準信号を用いるのが通常である。この冗長性の追加は,基準信号が正しく選択された場合,周波数同期,FFT窓のずれの両方のために利用することができる。」

(エ)「VI. ADAPTIVE OFDM
A. Survey and Motivation
(中略)
Based on the philosophy of the above contributions, below we summarize the ideas behind adaptive modulation. We have seen in Section III that the bit-error probability of different OFDM subcarriers transmitted in time-dispersive channels depends on the frequency-domain channel transfer function. The occurrence of bit errors is normally concentrated in a set of severely faded subcarriers, while in the rest of the OFDM spectrum, often no bit errors are observed. If the subcarriers that will exhibit high bit-error probabilities in the OFDM symbol to be transmitted can be identified and excluded from data transmission, the overall BER can be improved in exchange for a slight loss of system throughput. Since the frequency-domain fading deteriorates the SNR of certain subcarriers, but improves others' above the average SNR value, the potential loss of throughput due to the exclusion of faded subcarriers can be mitigated by employing higher order modulation modes on the subcarriers exhibiting high SNR values.
As a further conceptual augmentation of the above ideas, let us consider the following example. The associated channel SNR of an adaptive OFDM modem is shown in a three-dimensional form in Fig. 15, which was generated with the aid of the FFT of the Rayleigh-faded CIR of Fig. 3. Observe that the instantaneous channel SNR is a function of both time and frequency. An example of the associated time and frequency-dependent modulation scheme allocation for an adaptive OFDM modem carrying 578 data bits per OFDM symbol at an average channel SNR of 5 dB is given in Fig. 16(a) for 100 consecutive OFDM symbols. The unused subbands with indexes 15 and 16 contain the virtual carriers, and therefore do not transmit any useful data. It can be seen that the adaptation algorithm allocates data to the better quality subcarriers on a symbol-by-symbol basis, while keeping the total number of bits per OFDM symbol constant. As a comparison, Fig. 16(b) shows the equivalent overview of the modulation schemes employed for the substantially higher - nearly tripled - fixed bit rate of 1458 bits per OFDM symbol. It can be seen that in order to achieve the throughput target, hardly any subbands are in “no transmission” mode, and overall predominantly higher order modulation schemes, such as QPSK and 16-QAM, have to be employed.
In addition to excluding sets of faded subcarriers and varying the modulation modes employed, other parameters such as the coding rate of error correction coding schemes can also be adapted at the transmitter according to the perceived channel transfer function.
Adaptation of the transmission parameters may be based on the transmitter's perception of the channel conditions in the forthcoming TDMA/time-division duplex (TDD) duplex timeslot. Clearly, this estimation of future channel parameters can only be obtained by extrapolation of previous channel estimations, which are acquired upon detecting each received OFDM symbol. The channel characteristics therefore have to be varying sufficiently slowly compared to the channel estimation interval.
Adapting the transmission technique to the channel conditions on a timeslot-by-timeslot basis for serial modems in narrow-band fading channels has been shown to considerably improve the BER performance [106] for TDD systems assuming duplex reciprocal channels. However, the Doppler fading rate of the narrow-band channel has a strong effect on the achievable system performance. If the fading is rapid, then the prediction of the channel conditions for the next transmit timeslot is inaccurate, and therefore the wrong set of transmission parameters may be chosen. If, however, the channel varies slowly, then the data throughput of the system is varying dramatically over time, and large data buffers are required at the transmitters in order to smoothen the bit rate fluctuation. For time-critical applications, such as interactive speech transmission, the potential delays can become problematic. A given single-carrier adaptive system in narrow-band channels will therefore operate efficiently only in a limited range of channel conditions.
Adaptive OFDM modems channels can ease the problem of slowly time-varying channels, since the variation of the signal quality can be exploited in both the time and the frequency domain. The channel conditions still have to be monitored based on the received OFDM symbols, and relatively slowly varying channels have to be assumed, since we have seen in Section III-C2 that OFDM transmissions are not well suited to rapidly varying channel conditions. 」(626ページ右欄4行?628ページ左欄21行)
(仮訳)
「VI.適応OFDM
A. 概観及び動機
(中略)
これらの貢献の理念を踏まえて,適応変調の背景にある考え方を以下に要約する。第III節では,時間分散チャネルで送信された異なるOFDMサブキャリアのビット誤り率は,周波数領域のチャネル伝達関数に依拠することを述べた。ビット誤りの発生は通常,激しくフェージングしたサブキャリアのセットに集中するものであるが,他のOFDMスペクトルでは,ビット誤りは観測されないことが多い。送信されるOFDMシンボルにおいて高いビット誤り率を示すサブキャリアを特定し,データ伝送から除外することができれば,システム容量のわずかな損失と引き換えに,全体のBERを改善することが可能になる。周波数領域におけるフェージングは特定のサブキャリアのSNRを悪化させるものの,他のサブキャリアのSNRを平均値を上回る水準に改善するため,フェージングしたサブキャリアを除外することで生じる可能性のある容量損失は,高SNR値を示すサブキャリアについて,より高次の変調方式を採用することにより,軽減することができる。
上記の発想を概念としてさらに補うため,一例を挙げる。図15は,適応OFDMモデムにおける関係チャネルのSNRを三次元で示しており,図3のレイリーフェージング・チャネルのインパルス応答をFFTにより変換して作成したものである。瞬時チャネルSNRは,時間と周波数の両方によって決まることがわかる。OFDMシンボル当たりのデータビット数が578,平均チャネルSNRが5dbの適応OFDMモデムのための,時間・周波数依存の変調方式割当の一例(100個の連続的OFDMシンボルを対象とするもの)を図16(a)に示す。インデックスが15及び16の未使用のサブバンドは,仮想キャリアを含むため,有用データは一切伝送しない。適応アルゴリズムは,OFDMシンボル当たりのビット総数を一定に保ちつつ,シンホルごとに,データをより質の高いサブキャリアに割り当てていることがわかる。比較として,図16(b)は,変調方式の固定ビットレートが大幅に高い(OFDMシンボル当たり1458ビットで,ほぼ3倍)場合を示すものである。目標容量を達成するには,「非伝送」モードのサブバンドはほとんど存在せず,かつ,全体として圧倒的に高次の変調方式(QPSK,16-QAM等)を採用する必要があることがわかる。
フェージングしたサブキャリアのセットの除外及び採用する変調方式の多様化に加えて,誤り訂正符号化方式をはじめとする他のパラメータも,認識されたチャネル伝達関数に基づき,送信機において適応させることができる。
伝送パラメータの適応は,次のTDMA/時分割二重(TDD)二重タイムスロットにおいて送信機が認識するチャネル状態に基づき,行うことができる。このように将来のチャネル・パラメータを推定するには,過去のチャネル推定(受信した各OFDMシンボルを検出することによって入手されるもの)から推定する方法しかないことは明らかである。したがって,チャネル特性は,チャネル推定間隔に対して十分ゆっくりと変化するものである必要がある。
狭帯域フェージングチャネルでは,シリアルモデムのために伝送技術をタイムスロットごとにチャネル状態に適応させることにより,可逆二重チャネルを想定したTDDシステムのBER性能[106]が著しく改善されることが証明されている。しかしながら,狭帯域チャネルのドップラー・フェージング速度は,実現可能なシステム性能に大いに影響する。フェージングが急速であれば,次の送信タイムスロットのチャネル状態の予測は不正確になるため,誤った伝送パラメータのセットが選択される可能性がある。他方で,チャネルがゆっくりと変化する場合,システムのデータ容量は時間の経過とともに大きく変化し,ビットレートのばらつきを減らすには,送信機において大容量のデータバッファが必要になる。スピードが重視される相互音声伝送等のアプリケーションにとって,遅延の可能性は問題となり得る。このため,狭帯域チャネルにおけるシングルキャリア適応システムが有効に機能するのは,限られた範囲のチャネル状態に限定されるであろう。
適応OFDMモデムのチャネルは,チャネルがゆっくりと時間変化する問題を軽減することができる。これは,時間領域,周波数領域の両方でシグナル品質の変化を活用できるためである。第III節C2で述べたとおり,OFDM伝送は急速に変化するチャネル状態には適していないことから,チャネル状態については,受信したOFDMシンボルに基づいて依然としてモニターする必要があり,比較的ゆっくりと変化するチャネルを前提とする必要がある。」

(オ)


図16は,OFDMモデムのためのモデムモード割当の一例を記載し,特に,各サブキャリアを構成する各チャネルに対して,モデムモードとして,「伝送なし(非伝送)」,BPSK,QPSK,及び16-QAMのいずれかを割り当てることを示している。

(カ)「・Choice of the appropriate parameters for the next transmission: Based on the prediction of the channel conditions for the next timeslot, the transmitter has to select the appropriate modulation modes for the subcarriers.
・ Signaling or blind detection of the employed parameters: The receiver has to be informed, as to which demodulator parameters to employ for the received packet. This information can either be conveyed within the OFDM symbol itself, at the cost of a loss of effective data throughput, or the receiver can attempt to estimate the parameters employed by the remote transmitter by means of blind detection mechanisms. These issues will be made more explicit in the context of Fig. 17. 」(628ページ左欄38?52行)
(仮訳)
「次の伝送のための適切なパラメータの選択: 次のタイムスロットのためのチャネル状態の予測に基づき,送信機は,サブキャリアの適切な変調方式を選択する必要がある。
採用されたパラメータのシグナリング又はブラインド検出: 受信したパケットのためにどの復調パラメータを使用するかについて,受信機は情報を得る必要がある。この情報は,有効データ容量の損失と引き換えにOFDMシンボル自体の一部として伝達するか,あるいは受信機がブラインド検出の仕組みを用いて,遠隔の送信機が採用したパラメータの推定を試みることができる。これらの論点は,図17を参照するとより明確に理解される。」

(キ)


図17(b)は,適応OFDMモデムを採用したシステムの構成図が記載され,移動局において認識されたチャネル品質を評価し,要求する送信モードを基地局の送信機に伝送することを示している。

(ク)「The channel quality estimation can be acquired from a range of different sources. If the communication between the two stations is bidirectional and the channel can be considered reciprocal, then each station can estimate the channel quality on the basis of the received OFDM symbols and adapt the parameters of the local transmitter to this estimation. 」(628ページ右欄3?8行)
(仮訳)
「チャネル品質の推定は,様々な情報源から得ることができる。2局間の通信が双方向であり,かつ,チャネルに可逆性が認められる場合,各局は,受信したOFDMシンボルに基づいてチャネル品質を推定し,この推定にローカル送信機のパラメータを適応させることができる。」

(ケ)「If the channel is not reciprocal, as far as the up- and down-link are concerned, as in a frequency-division duplex (FDD) system, then the stations cannot determine the parameters for the next OFDM symbol's transmission from the received symbols. In this case, the receiver has to estimate the channel quality and explicitly signal this perceived channel quality information to the transmitter in the reverse link. Since in this case the receiver explicitly instructs the remote transmitter as to which modem modes to invoke, this regime is referred to as closed-loop adaptation. The adaptation algorithms can - with the aid of this technique - take into account effects such as interference as well as nonreciprocal channels. If the communication between the stations is essentially unidirectional, then a low-rate signaling channel must be implemented from the receiver to the transmitter. If such a channel exists, then the same technique as for nonreciprocal channels can be employed.
Different techniques can be employed to estimate the channel quality. For OFDM modems, the bit-error probability in each subcarrier is determined by the fluctuations of the channel's current frequency-domain channel transfer function H_(n) with the aid of the channel transfer function estimates provided by the pilot symbols, provided that no interference is present. The estimate of the channel transfer function H^(^)_(n) can be acquired by means of pilot-tone based channel estimation. More accurate measures of the channel transfer function can be gained by means of decision-directed or time-domain training sequence based techniques. The estimate of the channel transfer function H^(^)_(n) does not take into account effects, such as cochannel or intersubcarrier interference. Alternative channel quality measures including interference effects can be devised on the basis of the error correction decoder's soft output information or by means of decision-feedback local SNR estimations. 」(628ページ右欄16行?629ページ左欄12行)
(仮訳)
「周波数分割双方向(FDD)システムのように,アップリンク及びダウンリンクに関する限りにおいてチャネルに可逆性がない場合,局は受信したシンボルから,次のOFDMシンボルを送信するためのパラメータを決定することができない。この場合には,受信機がチャネル品質を推定し,認識されたチャネル品質情報を逆方向リンクで送信機に明確にシグナリングしなければならない。この場合,どのモデムモードで呼び出すかについて,受信機は遠隔の送信機に明確に指示することから,この方式は「閉ループ適応」と呼ばれる。この技術を用いることにより,適応アルゴリズムは,非可逆チャネルだけでなく,干渉等の影響も考慮することができる。局間の通信が本質的に一方向性であれば,受信機から送信機に対して,チャネルのシグナリングを低速で行わなければならない。そのようなチャネルが存在する場合,非可逆チャネルに関して同様の技術を利用することができる。
チャネル品質の推定には,他の技術を利用することもできる。OFDMモデルの場合,各サブキャリアのビット誤り率は,干渉が存在しないことを条件として,パイロットシンボルが提供したチャネル伝達関数の推定を利用することにより,チャネルのその時点における周波数領域のチャネル伝達関数H_(n)の変動によって決定される。チャネル伝達関数の推定値H^(^)nは,パイロットトーンを用いたチャネル推定により求めることができる。チャネル伝達関数のより正確な評価基準は,判定検出又は時間領域のトレーニング系列に基づく技術を用いて得ることができる。チャネル伝達関数の推定値H^(^)nは,同一チャネル干渉,サブキャリア間干渉等の影響を考慮しない。干渉の影響をはじめとする他のチャネル品質評価基準は,誤り訂正復号器の軟出力情報に基づき,又は判定帰還されるローカルSNR推定値を用いて,考案することが可能である。」

(コ)「2) Parameter Adaptation: Different transmission parameters - such as the modulation and coding modes - can be adapted to the anticipated channel conditions. Adapting the number of modulation levels in response to the anticipated local SNR encountered in each subcarrier can be employed, in order to achieve a wide range of different tradeoffs between the received data integrity and throughput.
(中略)
The adaptive channel coding parameters include code rate, adaptive interleaving and puncturing for convolutional and turbo codes, or varying block lengths for block codes [1]. These techniques can be combined with adaptive modulation mode selection. 」(629ページ左欄24?30行,36?40行)
(仮訳)
「2)パラメータの適応: 変調方式,符号化方式等の異なる伝送パラメータを,予測されるチャネル状態に適応させることができる。受信データの整合性と容量との間で多様なトレードオフを実現するためには,各サブキャリアにおいて予測されるローカルSNRに応じて,変調レベルの数を適応させる方法を採用することができる。
(中略)
適応チャネル符号化パラメータには,符号化率,畳み込み符号及びターボ符号の適応インターリーブ及びパンクチャリング,又はブロック符号のブロック長の変更が含まれる[1]。これらの技術は,適応変調方式の選択と組み合わせることができる。」

(サ)「If the channel quality estimation and parameter adaptation have been performed at the transmitter of a particular link, based on open-loop adaptation, then the resulting set of parameters has to be communicated to the receiver in order to successfully demodulate and decode the OFDM symbol. If the receiver itself determines the requested parameter set to be used by the remote transmitter - the closed-loop scenario - then the same amount of information has to be transported to the remote transmitter in the reverse link. 」(629ページ右欄22?31行)
(仮訳)
「チャネル品質の推定及びパラメータの適応が開ループ適応に基づき,特定リンクの送信機で行われた場合,結果的に生じたパラメータのセットについては,OFDMシンボルの復調と復号を無事に行うために受信機に伝える必要がある。遠隔の送信機が使用するものとして要求されたパラメータのセットを受信機自体が決定した場合(すなわち閉ループのシナリオ),遠隔の送信機に対し,逆方向リンクで同量の情報を送信する必要がある。」

(シ)「Unlike adaptive serial systems, which employ the same set of parameters for all data symbols in a transmission packet [102], [103], adaptive OFDM systems have to react to the frequency-selective nature of the channel, by adapting the modem parameters across the subcarriers. The resulting signaling overhead could become significantly higher than that for serial modems, and can be prohibitive, for example, for subcarrier-by-subcarrier modulation mode adaptation. In order to overcome these limitations, efficient and reliable signaling techniques have to be employed for practical implementation of adaptive OFDM modems. 」(629ページ右欄35?45行)
(仮訳)
「送信パケットの全データシンボルで同じパラメータのセットを採用する適応シリアルシステム[102],[103]とは異なり,適応OFDMシステムは,全サブキャリアでモデムのパラメータを適応させることにより,チャネルの周波数選択に対応しなければならない。結果的に生じるシグナリング・オーバーヘッドは,シリアルシステムを大幅に上回る可能性があり,例えば,サブキャリアごとの変調方式適応ができなくなることもあり得る。こうした制約を克服するため,適応OFDMモデムを実用的に実装するために有効かつ信頼性の高いシグナリング技術を採用する必要がある。」

(ス)「The modulation modes were chosen from the set of BPSK, QPSK, 16-QAM, as well as “No Transmission,” for which no signal was transmitted. These modulation modes are denoted by M_(n), where n∈(0,1,2,4) is the number of data bits associated with one data symbol of each mode.
In order to keep the system complexity low, the modulation mode was not varied on a subcarrier-by-subcarrier basis, but instead the total OFDM bandwidth of 512 subcarriers was split into blocks of adjacent subcarriers, referred to as subbands, and the same modulation scheme was employed for all subcarriers of the same subband. This substantially simplified the task of signaling the modem mode and rendered the employment of alternative blind detection mechanisms feasible, which will be discussed in Section VI-D. 」(630ページ左欄7?20行)
(仮訳)
「変調方式は,BPSK,QPSK,16-QAM,及びシグナリングが行われなかったことを示す「伝送なし」のセットから選択された。これらの変調方式はM_(n)で表され,n∈(0,1,2,4)は,各方式の1データシンボル当たりのデータビット数である。
システムの複雑度を低い状態で維持するため,変調方式はサブキャリアごとに変更されず,その代わりに,512のサブキャリアの全OFDM帯域幅を隣接するサブキャリアからなる複数のブロック(これをサブバンドと呼ぶ)に分割し,同一サブバンド内の全サブキャリアについて,同一変調方式を採用した。その結果,モデムモードのシグナリングの作業が大幅に簡易化され,代替的なブラインド検出方法の採用が可能となった。この点については,第VI節Dで触れる。」

(セ)「This adaptation algorithm originally assumed a constant instantaneous SNR over all of the transmission burst's symbols, but in the case of an OFDM system in a frequency-selective channel the channel quality varies across the different subcarriers. For subband adaptive OFDM transmission, this implies that if the subband width is wider than the channel's coherence bandwidth [1], then the original switching algorithm cannot be employed. In the performance evaluations, the lowest quality subcarrier in the subband was employed for the adaptation algorithm based on the thresholds given in Table 3. The performance of the 16-subband adaptive system over the WATM Rayleigh fading channel of Fig. 3 is shown in Fig. 18. 」(630ページ左欄44?56行)
(仮訳)
「この適応アルゴリズムは元来,バースト伝送されるすべてのシンボルにおいて,瞬時SNRが一定であることを前提としていたが,周波数選択チャネルにおけるOFDMシステムの場合,チャネル品質は,サブキャリアによって異なる。サブバンド適応OFDM伝送にとって,このことは,サブバンド幅がチャネルのコヒーレント帯域幅より大きい場合[1],当初の切替アルゴリズムが採用できなくなることを意味する。性能評価においては,表3に示した閾値に基づき,サブバンド内で最も質の低いサブキャリアを適応アルゴリズムのために採用した。表3のWATMレイリーフェージング・チャネルにおける16サブバンド適応システムの性能を図18に示す。」

(ソ)「It can be seen from the figure that the adaptive system performs better than its target BER's of 10^(-2) and 10^(-4) for the “speech” and “data” system, respectively, resulting in measured BER's lower than the targets. This can be explained by the adaptation regime, which was based on the conservative principle of using the lowest quality subcarrier in each subband for channel quality estimation, leading to a pessimistic channel quality estimate for the entire subband. For low values of SNR, the throughput in bits per data symbol is low and exceeds the fixed BPSK throughput of 1 bit/symbol only for SNR values in excess of 9.5 and 14 dB for the “speech” and “data” systems, respectively. 」(630ページ右欄17?28行)
(仮訳)
「同図が示すとおり,適応システムは,その目標BER(「音声」システム及び「データ」システムで,それぞれ10^(-2)及び10^(-4))より優れた性能を有し,測定されたBERは目標値を下回った。これは,チャネル品質の推定においては各サブバンド内で最も質の低いサブキャリアを使用するという保守的な原則に基づく適応方式が採用され,その結果,サブバンド全体で悲観的なチャネル品質推定がなされたということで説明がつく。低SNR値では,容量(1データシンボル当たりのビット数)は少なく,容量がBPSKの固定容量(1シンボル当たり1ビット)を上回ったのは,SNR値が「音声」システムについては9.5db,「データ」システムについては14db上回った場合に限られる。」

(タ)「D. Signaling and Blind Detection
The adaptive OFDM receiver has to be informed of the modulation modes used for the different subbands. This information can either be conveyed using signaling subcarriers in the OFDM symbol itself, or the receiver can employ blind detection techniques in order to estimate the transmitted symbols' modulation modes, as seen in Fig. 17 [109], [110].
1) Signaling: The simplest way of signaling the modulation mode employed in a subband is to replace one data symbol by an MPSK symbol, where M is the number of possible modulation modes. 」(632ページ右欄4?14行)
(仮訳)
「D.シグナリング及びブラインド検出
適応OFDM受信機は,異なるサブバンドで採用される変調方式について,情報を得る必要がある。この情報は,図17に示すとおり,OFDMシンボル自体のシグナリング・サブキャリアを使用して伝達する方法,又は送信されたシンボルの変調方式を推定するために受信機がブラインド検出技術を使用する方法のいずれかにより,伝達される[109],[110]。
1)シグナリング: サブバンドで採用された変調方式をシグナリングするための最も単純な方法は,1個のデータシンボルを1個のMPSKシンボル(Mとは,採用可能な変調方式の数である)で置き換える方法である。」

上記各記載及び図面並びにこの技術分野の技術常識を考慮すると,
a 上記(エ),(オ),(ケ),(ス)の記載及び図16によれば,甲第1号証には,OFDMシステムのためのモデムモード割当方法について記載されているといえる。

b 上記(ケ)の記載によれば,パイロットトーンのパイロットシンボルに基づくチャネル推定により,チャネルのその時点における周波数領域のチャネル伝達関数H_(n)を推定することが記載されていると認められる。
そして,上記(エ)には,「OFDMサブキャリアのビット誤り率は,周波数領域のチャネル伝達関数に依拠すること」,「ビット誤りの発生は通常,激しくフェージングしたサブキャリアのセットに集中するものであるが,他のOFDMスペクトルでは,ビット誤りは観測されないことが多い。」こと,「送信されるOFDMシンボルにおいて高いビット誤り率を示すサブキャリアを特定し,データ伝送から除外することができれば,システム容量のわずかな損失と引き換えに,全体のBERを改善することが可能になる。」こと,「周波数領域におけるフェージングは特定のサブキャリアのSNRを悪化させるものの,他のサブキャリアのSNRを平均値を上回る水準に改善するため,フェージングしたサブキャリアを除外することで生じる可能性のある容量損失は,高SNR値を示すサブキャリアについて,より高次の変調方式を採用することにより,軽減することができる。」こと,「フェージングしたサブキャリアのセットの除外及び採用する変調方式の多様化に加えて,誤り訂正符号化方式をはじめとする他のパラメータも,認識されたチャネル伝達関数に基づき,送信機において適応させることができる。」ことが記載されており,これらの記載及び図16によれば,推定したチャネル伝達関数に基づき,送信されるOFDMシンボルにおいて高いビット誤り率を示すサブキャリアを特定し,当該サブキャリアをデータ伝送から除外し,高SNR値を示すサブキャリアにより高次の変調方式を採用することにより,システム容量の損失を軽減しつつ,全体のBERを改善することが記載されているといえる。

c 上記(ケ)には,他のチャネル品質評価基準として,判定帰還されるローカルSNR推定値を用いることが示唆され,上記(コ)には,各サブキャリアにおいて予測されるローカルSNRに応じて変調レベルの数を適応させる方法を採用することができることが記載されている。そして,上記bのとおり,フェージングしたサブキャリアの除外及び高次の変調方式の採用はSNR値によりなされることが上記(エ)に示されていることに鑑みれば,甲第1号証には,受信機において,各サブキャリアのチャネル伝達関数H_(n)を推定する代わりに,各サブキャリアのSNRを予測すること,予測したSNRに基づいてSNRが悪化しているサブキャリアをデータ伝送から除外し,高SNR値を示すサブキャリアにより高次の変調方式を採用することにより,システム容量の損失を軽減しつつ,全体のBERを改善することが示唆されていると認められる。

d 上記(ケ)には,受信機がチャネル品質を推定し,認識されたチャネル品質情報を逆方向リンクで送信機に明確にシグナリングすることが記載されており,上記(カ)?(ケ),(タ)の記載及び図17(b)によれば,当該チャネル品質情報は,送信機が使用すべきサブキャリアの変調方式,すなわち,モデムモードであると認められる。

e 上記(エ),(ス)の記載及び図16によれば,変調方式をサブキャリアごとに変更する代わりに,全OFDM帯域幅を隣接するサブキャリアからなる複数のブロック(サブバンド)に分割し,同一サブバンド内の全サブキャリアについて,同一変調方式を採用することにより,モデムモードのシグナリングの作業が大幅に簡易化することが記載されていると認められる。
そして,上記(セ),(ソ)の記載によれば,サブバンドごとに変調方式を変更する場合に,チャネル品質の推定においては各サブバンド内で最も質の低いサブキャリアを使用すること記載されていると認められる。

以上を総合すると,甲第1号証には以下の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「OFDMシステムのためのモデムモード割当方法において,
受信機が各サブキャリアのチャネル品質としてSNRを予測し,
受信機が,各サブバンド内で予測したSNRが最も低いサブキャリアを使用したチャネル品質に基づいて,送信されるOFDMシンボルにおいて悪化したSNRを示すサブバンドを特定し,当該サブバンドをデータ伝送から除外し,高SNR値を示すサブバンドにより高次の変調方式を採用するよう,送信機が使用すべきモデムモードを決定し,
決定したモデムモードを送信機にシグナリングすること。」

イ 甲第7号証に記載された発明について
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第7号証(特表平11-508417号公報)には,「周波数分割多重システムにおけるアダプティブチャネル割当て」として,図面と共に,以下の事項が記載されている。

(ア)「発明の分野
本発明はセルラー電気通信システムに関し,特に,周波数分割多重システムにおけるアダプティブチャネル割当てに関する。
従来技術の説明
セルラー電気通信システムでは,移動局のユーザはシステムの地理的カバレッジエリアの周りを移動しながら無線インターフェイスを介してシステムと通信する。移動局とシステム間の無線インターフェイスは,各々がシステム内で作動する移動局と無線通信することができる,システムのカバレッジエリアにわたって分散された基地局を設けることにより実施される。典型的なセルラー電気通信システムでは,システムの各基地局はセルと呼ばれるある地理的カバレッジエリア内の通信を制御し,特定のセル内に位置する移動局はそのセルを制御する基地局と通信する。」(9ページ4?15行)

(イ)「周波数分割多重化(FDM)はセルラーシステムに応用されるデータ通信方法である。直交周波数分割多重化(OFDM)はセルラーシステムに特に適したFDMの特別な方法である。OFDM信号は多重化されたいくつかの副搬送波により構成され,各副搬送波は異なる周波数で連続的ではなく離散的に変動する信号により変調される。」(10ページ6?10行)

(ウ)「移動機は下りの信号品質を測定し,チャネルは最高搬送波対干渉比(C/Iレベル)を有するチャネルの選択に基づいて割り当てられる。」(13ページ10?11行)

(エ)「本発明により,直交周波数分割多重(OFDM)システムにおけるアダプティブチャネル割当て(ACA)方法およびシステムが提供される。この方法およびシステムにより,システムのセル間の同一チャネル干渉を緩和するようにOFDMシステムの各リンクへの副搬送波の割当てが行われる。」(13ページ28行?14ページ2行)

(オ)「図1を参照して,本発明が一般的に関連する周波数分割多重(FDM)セルラー電気通信システムを示す。図1において,任意の地理的エリアは複数の隣接無線カバレッジエリア,すなわちセルC1-C10,へ分割することができる。図1のシステムには10セルしか図示されていないが,セル数は遥かに多くすることができる。
各セルC1-C10内にそれに関連して基地局があり,複数の基地局B1-B10の対応する1つとして示されている。各基地局B1-B10は,従来技術で周知のように,送信機,受信機および基地局コントローラを含んでいる。図1では,基地局B1-B10はそれぞれ各セルC1-C10の中心に配置されており,全指向性アンテナを備えている。しかしながら,別の構成のセルラー無線システムでは,基地局B1-B10は周辺付近,すなわちセルC1-C10の中心から離れて配置することができ,セルC1-C10に全指向性もしくは指向性で無線信号を照射することができる。したがって,図1に示すセルラー無線システムは単なる説明用にすぎず,本発明が実施されるセルラー電気通信システムの考えられる実施例を制限するものではない。
引き続き図1を参照して,セルC1-C10内には複数の移動局M1-M10がある。」(16ページ1?18行)

(カ)「各移動局M1-M10は1つもしくはいくつかの基地局B1-B10および移動局交換局MSCを介して電話呼を開始もしくは受信することができる。移動局交換局MSCは通信リンク,例えば,ケーブルを介して図示する各基地局B1-B10および,図示せぬ,固定公衆交換電話網PSTNもしくは統合システムデジタルネットワーク(ISDN)施設を含むことができる同様な固定網に接続することができる。」(16ページ26?17ページ2行)

(キ)「本システムは,切替制御情報,長期チャネル割当情報,長期電力制御情報および測定メッセージおよび測定結果を伝送する上りおよび下りの両チャネルである専用制御チャネル(DCCH)を含んでいる。本システムは,また,短期チャネル割当情報,短期電力制御情報,測定メッセージおよび測定結果を伝送する上りおよび下りの両チャネルである物理的制御チャネル(PCCH)も含んでいる。
本発明のACAでは,移動局と基地局間の各上り/下りリンクに対して,システムはいくつか(N)の副搬送波のセットからいくつか(M)の副搬送波のサブセットを選択する。N副搬送波のセットは各リンクに対してシステム内で利用可能な副搬送波のセットであり,N>Mである。」(18ページ9?18行)

(ク)「次に,図2を参照して,OFDMシステムにおける本発明に従った副搬送波の割当てを示す。基地局200は下りリンク206および上りリンク208を介して移動局202と通信する。基地局200は下りリンク210および上りリンク212を介して移動局204とも通信する。」(18ページ22?25行)

(ケ)「図示する実施例では,ACA処理部360はMSC内に配置されている。ACA処理部360はシステムの基地局内に配置することもできる。」(21ページ1?3行)

(コ)「移動局,基地局およびシステムのMSC間の必要なデータ転送は周知の方法により達成することができる。ここに記載する実施例では,DCCHおよびPCCHチャネルを上りおよび下りの両方で使用して,移動局とシステムの間で測定結果や副搬送波割当てメッセージを転送することができる。」(21ページ22?25行)

(サ)「再び図4Aを参照して,ステップ402においてリンク受信機はシステムから測定順メッセージを受信して,リンクに利用可能な一群のN副搬送波の各々の干渉(I)を測定する。」(22ページ8?11行)

(シ)「ステップ424からプロセスはステップ426へ移り,リンク受信機はM搬送波のサブセットの各々についてC/Iを測定する。C/I測定値も前の最後のnのC/I測定値により平均化される。次に,ステップ428において,リンク受信機はIおよびC/I測定結果をシステムのACA処理部へ送る。」(24ページ1?5行)

(ス)「次に,図6Aを参照して,本発明の別の実施例のACAプロセス中にリンク受信機としての移動局により実行されるステップを示すフロー図を示す。ACAプロセスは移動局がステップ602において測定順メッセージを受信する時に開始される。次に,ステップ604において,リンクにとって利用可能なN副搬送波群の各々について干渉(I)が移動局で測定される。次に,プロセスはステップ606へ移り,そこで最少干渉M副搬送波が決定される。ステップ606から,プロセスはステップ608へ移り,サブセット要求メッセージが移動局によりシステムへ送られる。サブセット要求メッセージは,移動局が要求したサブセット内の各副搬送波の使用を要求することをシステムへ示す。次に,プロセスはステップ610へ移り,移動局はシステムからの返答を待機する。」(27ページ11?21行)

(セ)「ステップ702において,ACA処理部はサブセット要求メッセージを受信する。次に,ステップ704において,システムは移動機が要求したサブセット内のM副搬送波の全てを使用できるかどうかを確認する。例えば,他の移動局が使用中であったり,特殊用途のためにシステム内に保存されている場合,ある副搬送波はセル内で利用できないことがある。M副搬送波の可用性はその使用が近隣セルの通信に及ぼす影響として決定することもできる。ACAはシステムオペレータがこれらの判断を行う際に柔軟性を与えるように設計される。移動局が要求したサブセット内のM副搬送波を全て使用できることが確認されれば,システムはサブセット受諾メッセージをリンク受信機へ送信する。しかしながら,ステップ704において,提示されるサブセットの副搬送波は移動局により使用されないことが確認されると,プロセスはステップ720へ移りシステムは利用不能な副搬送波を拒絶する副搬送波拒絶メッセージをM副搬送波のサブセットの一部として送信する。次に,プロセスフローはステップ722へ移り移動局からの返答を待機する。
次に,図6Aを参照して,ステップ612において,移動局はシステムから送信されるサブセット受諾メッセージもしくは副搬送波拒絶メッセージを受信する。サブセット受諾メッセージが受信されると,プロセスはステップ620へ移りそこでリンク受信機は割り当てられたサブセットを使用して受信を開始する。しかしながら,ステップ614において,副搬送波拒絶メッセージが受信されていることが確認されると,プロセスはステップ616へ移る。ステップ616において,リンク受信機は拒絶された要求副搬送波と置換する次の候補を決定する。これらの候補はMの提示されたセット内には無い利用可能なN副搬送波のセットの次に干渉の少ない副搬送波である。
ステップ616から,プロセスはステップ618へ移りそこで次の候補副搬送波を要求する副搬送波要求メッセージがシステムへ送信される。」(27ページ25行?28ページ23行)

(ソ)「リンク受信機はステップ624において呼終了もしくは測定タイマメッセージを受信してステップ626へ移り,そこで呼終了が受信されているかどうかが確認される。呼終了が受信されておれば,プロセスは終了する。しかしながら,測定タイマメッセージが受信されておれば,プロセスはステップ628へ移る。ステップ628において,移動局は利用可能なN副搬送波の全てについてIを測定し,各副搬送波について結果を平均化する。次に,ステップ630において,リンク受信機はM副搬送波のサブセットについてC/Iを測定し,各副搬送波について結果を平均化する。次に,プロセスは図6Bのステップ632へ移る。次に,プロセスは図6Bのステップ632へ移る。
ステップ632において,リンク受信機は最低C/Iを有するMのサブセットの副搬送波を決定する。次に,ステップ634において,最低C/Iがしきい値よりも小さいかどうかが確認される。しきい値よりも小さくなければ,プロセスはステップ622へ戻りそこでリンク受信機は別の呼終了もしくは測定タイマメッセージを待機する。しかしながら,最低C/Iがしきい値C/Iよりも小さいことが確認されると,プロセスはステップ636へ移る。ステップ636において,Nのセットのより干渉の少ない副搬送波がMのセット内に存在しないかどうかが確認される。より干渉の少ない副搬送波が存在しなければ,プロセスはステップ622へ戻る。しかしながら,より干渉の少ない副搬送波が存在すれば,より好ましい副搬送波が存在しプロセスはステップ638へ移る。ステップ638において,移動局は副搬送波要求メッセージをシステムへ送信して,M副搬送波のサブセット内に無い最少干渉副搬送波を最低C/I副搬送波に置換する副搬送波として要求する。次に,移動局内のプロセスはステップ640の待機状態へ移りプロセスフローは図7のステップ708へ移る。システムのACA処理部はステップ710において要求した副搬送波メッセージを受信する。ステップ632-638で略述した手順は,サブセットの最低C/Iを有する複数の使用副搬送波を決定し,次に複数のより干渉の少ない未使用副搬送波を要求した置換副搬送波と決定して実行することもできる。副搬送波要求メッセージの受信後,ステップ716において,要求した副搬送波が別の移動局のあるリンクを介してセル内で使用されるかどうかが確認される。要求した副搬送波がセル内で使用される場合,システムはステップ718へ移って要求した副搬送波拒絶メッセージを移動局へ送信し,プロセスはステップ708へ戻る。しかしながら,提示された置換副搬送波がセル内で使用されない場合には,システムは要求した副搬送波受諾メッセージを移動局へ送信し,プロセスはステップ708へ戻る。要求した副搬送波がセルにより使用されるかどうかを確認する替わりに,他の基準を使用して可用性を決定することができる。例えば,要求した副搬送波が近隣セル内で使用される場合には,システムは副搬送波要求を拒絶することができる。次に,プロセスはステップ640の待機状態からステップ642へ移り,移動局は受諾もしくは拒絶メッセージを受信する。次に,ステップ644において,要求した副搬送波が受諾されたかどうかが確認される。要求した副搬送波が受諾されておれば,プロセスはステップ646へ移り移動局はそれを介して受信しているM副搬送波のサブセットを,要求した副搬送波を含み最低C/I副搬送波を削除するように再構成する。次に,プロセスはステップ622の待機状態へ移る。しかしながら,要求した副搬送波が受諾されなければ,プロセスはステップ648へ移る。ステップ648において,移動局は,この測定期間内で要求した副搬送波としてまだ拒絶されていない,最低C/IのM副搬送波の搬送波よりも干渉が少ない新しい副搬送波が存在するかどうかを確認する。新しい候補副搬送波が存在しなければ,プロセスはステップ622の待機状態へ移る。しかしながら,新しい候補副搬送波が存在すれば,プロセスはステップ638へ移りそこで移動局は副搬送波要求メッセージをシステムへ送信する。メッセージはステップ648で見つけた新しい候補副搬送波を新しい置換副搬送波として要求する。次に,プロセスはステップ640へ移りシステムからの返答を待つ。要求した副搬送波が受諾されるかあるいは新しい候補が存在しなくなるまで,プロセスはステップ642,644,648,650および638および710,712,714および716もしくは718により形成されるループを継続する。次に,プロセスはステップ622の待機状態へ移る。ACAプロセスは呼全体を通して継続され,測定タイマメッセージが受信される度に呼び出される。呼が終了すると,プロセスはステップ624および626を通って終了する。」(29ページ3?31ページ3行)

(タ)「アダブティブチャネル割当ては,システム上りリンクを介して測定結果を運ぶのに必要なシグナリング資源を最小限に抑え,しかもアダブティブチャネル割当ての利点を提供するように設計されている。」(31ページ6?9行)

上記各記載及び図面並びにこの技術分野の技術常識を考慮すると,
a 上記(ア),(イ),(エ)の記載によれば,甲第7号証には,直交周波数分割多重化(OFDM)セルラーシステムにおける副搬送波の割当方法について記載されているといえる。

b 上記(ウ),(サ)?(ス)の記載によれば,リンク受信機である移動機は,下りの信号品質として,リンクに利用可能な一群のN副搬送波の各々の干渉(I)及びM副搬送波のサブセットの各々についてC/Iを測定するものである。なお,上記(ソ)の第1段落の記載によれば,C/IはサブセットのM副搬送波の平均と解するのが自然である。したがって,甲第7号証には,「移動機が,N副搬送波の各々の干渉(I)及びM副搬送波のサブセットの各々についてC/Iを測定する」ことが記載されていると認められる。

c 上記(ウ),(サ)?(ソ)の記載によれば,リンク受信機は最低C/Iを有するMのサブセットの副搬送波を決定し,移動局が要求したサブセット内の各副搬送波の使用を要求することをシステムへ示すサブセット要求メッセージが移動局によりシステムへ送られ,システムは要求された副搬送波が利用可能か否か判断して副搬送波受諾メッセージもしくは利用不要な副搬送波をM副搬送波のサブセットの一部として拒絶する副搬送波拒絶メッセージを送信し,副搬送波拒絶メッセージが送られると,リンク受信機は拒絶された要求副搬送波と置換する次の候補を決定し,新しい候補副搬送波を要求する副搬送波要求メッセージを送信するものである。ここで,サブセット要求メッセージにて要求された副搬送波は,そのまま使用されるのではなく,基地局により利用可能か否かが判断されるのであるから,「候補」であるといえる。
したがって,甲第7号証には,「前記移動機が,M副搬送波の候補を選択する」こと,「前記移動機が,サブセット要求メッセージをシステムに送る」こと,「システムが移動機に副搬送波受諾もしくは副搬送波拒絶メッセージを送る」ことが記載されていると認められる。

以上を総合すると,甲第7号証には以下の発明(以下,「甲7発明」という。)が記載されていると認める。
「直交周波数分割多重化(OFDM)セルラーシステムにおける副搬送波の割当方法において,
移動機が,N副搬送波の各々の干渉(I)及びM副搬送波のサブセットの各々についてC/Iを測定し,
前記移動機が,M副搬送波の候補を選択し,
前記移動機が,サブセット要求メッセージをシステムに送り,
システムが移動機に副搬送波受諾もしくは副搬送波拒絶メッセージを送る,方法。」

ウ 甲第8号証に記載された発明について
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第8号証(特開平11-55210号公報)には,「マルチキャリア信号伝送方法および装置」として,図面と共に,以下の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,複数のサブキャリアを用い,狭帯域化した信号に変換して伝送するものであり,特に複数のサブキャリアの中から伝送状態の良好な複数のサブキャリアを選択して用いるサブキャリア信号伝送方法および装置に関する。なお,本発明のサブキャリア信号伝送方法および装置は,特に大容量の多値変調方式に対して有効である。」(2ページ右欄)

(イ)「【0005】ここで,サブキャリア信号合成・送信手段30は,例えばシリアル・パラレル変換回路と,直交周波数分割多重(OFDM:Orthogonal Frequency DivisionMultiplexing) を適用した逆離散フーリエ変換(IDFT:Inverse discrete Fourier Transform) 回路により実現される(参考文献:S.B.Weinstein et al.,"Data transmission by frequency-division multiplexing using the discreteFourier transform", IEEE Trans.Commun.Technol., vol.COM-19, pp.628-634,Oct. 1971)。
【0006】受信側装置では,送信信号D2をマルチキャリア信号受信・分離手段40に入力し,各サブキャリア信号E2に分離する。マルチキャリア信号受信・分離手段40は,OFDMを適用したDFT(discrete Fourier Transform)回路により実現できる。
【0007】サブキャリア信号E2は,受信側指定サブキャリア選択手段50およびサブキャリア信号品質測定手段80に入力される。受信側指定サブキャリア選択手段50は,使用サブキャリア指定手段90から送信側に送出した指定サブキャリア情報信号K2に基づき,サブキャリア信号E2から受信するサブキャリア信号を選択する。また,サブキャリア信号品質測定手段80は各サブキャリアの品質を測定し,その測定結果情報J2を使用サブキャリア指定手段90に与える。使用サブキャリア指定手段90は,測定結果情報J2に基づいて予め指定された本数のサブキャリアを信号伝送用として指定し,その指定サブキャリア情報信号K2を送信側指定サブキャリア選択手段20および受信側指定サブキャリア選択手段50に送出する。」(3ページ左欄)

(ウ)「【0009】
【発明が解決しようとする課題】ところで,従来のマルチキャリア信号伝送装置におけるサブキャリア選択方式では,受信したすべてのサブキャリア信号の品質を測定し,その中から使用するサブキャリアを選択している。そのため,サブキャリア数の増加に伴い,サブキャリア選択のための回路規模が増大し,実現が困難になる場合があった。一方,消費電力の観点からは回路規模の低減が要請されている。
【0010】本発明は,サブキャリア数が増加した場合でもサブキャリア選択に関わる回路規模の増大を最小限に抑えることができるマルチキャリア信号伝送方法および装置を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明のマルチキャリア信号伝送方法および装置は,選択可能な全サブキャリアをサブキャリア間周波数間隔が最大になるように複数のグループに分割する。そして,使用するサブキャリアを選択する際に,グループごとに使用するサブキャリアを指定する。このようにグループ化することにより,一度に比較するサブキャリア数を減少させることができる。また,全サブキャリア数が増加した場合でも,グループ数を増加させることにより対応できる。
【0012】
【発明の実施の形態】図1は,本発明のマルチキャリア信号伝送装置の実施形態を示す。図において,送信側装置のシリアル・パラレル変換手段10およびサブキャリア信号合成・送信手段30,受信側装置のマルチキャリア信号受信・分離手段40,検波手段60,パラレル・シリアル変換手段70およびサブキャリア信号品質測定手段80は,図6に示す従来のものと同じである。」(3ページ左欄?右欄)

(エ)「【0014】送信側グループ毎サブキャリア選択手段21は,受信側のグループ毎使用サブキャリア指定手段91からフィードバックされるグループ毎指定サブキャリア情報信号K1に基づき,シリアル・パラレル変換手段10から出力されるパラレル信号B1の送信に用いるサブキャリアを,N/M個のグループごとにL波ずつ選択する。
(中略)
【0016】受信側グループ毎指定サブキャリア選択手段51は,グループ毎使用サブキャリア指定手段91から送信側に送出したグループ毎指定サブキャリア情報信号K1に基づき,サブキャリア信号E1からN/M個のグループごとにL波ずつ受信するサブキャリア信号を選択する。
【0017】グループ毎使用サブキャリア指定手段91は,サブキャリア信号品質測定手段80の測定結果情報J1に基づいて,M波のサブキャリアからなる各グループごとにL波のサブキャリアを信号伝送用として指定し,そのグループ毎指定サブキャリア情報信号K1を送信側グループ毎指定サブキャリア選択手段21および受信側グループ毎指定サブキャリア選択手段51に送出する。
【0018】図3は,グループ毎使用サブキャリア指定手段91および送信側グループ毎サブキャリア選択手段21の動作例を示す。ここでは,全サブキャリア数Nが12,各グループ内のサブキャリア数Mが4,グループ数N/Mが3,グループごとに選択するサブキャリア数Lが2の場合を示す。図中,カッコ内の表記は(グループ番号,グループ内サブキャリア番号)であり,(1,1)?(3,4)の12のサブキャリアがあり,サブキャリア信号品質測定手段80でそれぞれの受信電力が測定される。
【0019】グループ毎使用サブキャリア指定手段91は,各グループごとにサブキャリアの受信電力の大きい方から2つのサブキャリアを指定する。ここでは,(1,1),(1,2),(2,2),(2,3),(3,1),(3,3)のサブキャリアが指定される。送信側グループ毎指定サブキャリア選択手段21では,この指定されたサブキャリアを選択してパラレル信号B1の送信に用いる。受信側グループ毎指定サブキャリア選択手段51でも同様に,サブキャリア信号E1から指定されたサブキャリア信号を選択する。
【0020】図5は,本発明のマルチキャリア信号伝送装置におけるセル誤り率のシミュレーション結果の一例を示す。ここでは,全サブキャリア数Nが32,各グループ内のサブキャリア数Mが4,グループ数N/Mが8,グループごとに選択するサブキャリア数Lが2の場合とし,レイリーフェージング通信路におけるセル誤り率を遅延検波を適用した場合について求めたものである。なお,サブキャリア信号品質測定手段では,各サブキャリアの受信電力を測定している。」(3ページ右欄?4ページ左欄)

(オ)「【0022】
【発明の効果】以上説明したように,本発明のマルチキャリア信号伝送方法および装置は,使用するサブキャリアを選択する際にグループ化することにより,一度に比較するサブキャリア数を減少させることができ,サブキャリア選択に関わる回路規模を抑制することができる。」(4ページ右欄)

上記各記載及び図面並びにこの技術分野の技術常識を考慮すると,
a 上記(ア),(イ)の記載によれば,甲第8号証には,OFDMを適用したマルチキャリア信号伝送装置におけるサブキャリアの選択方法について記載されていると認められる。

b 上記(イ)の【0007】の記載によれば,受信側において,サブキャリア信号品質測定手段80は各サブキャリアの品質を測定し,その測定結果情報J2を使用サブキャリア指定手段90に与え,使用サブキャリア指定手段90は,測定結果情報J2に基づいて予め指定された本数のサブキャリアを信号伝送用として指定するものである。そして,上記(エ)の【0018】には,サブキャリア信号品質測定手段が,サブキャリアの品質として,受信電力を測定することが記載されている。

c 上記(ウ),(オ)の記載によれば,使用サブキャリア指定手段90は,サブキャリア数が増加した場合でもサブキャリア選択に関わる回路規模の増大を最小限に抑えるために,サブキャリアをグループ化してグループごとに所定数のサブキャリア数を選択することにより,一度に比較するサブキャリア数を減少させてサブキャリア選択に関わる回路規模を抑制するものである。
そして,上記(エ),図1には,受信側のグループ毎使用サブキャリア指定手段91は,サブキャリア信号品質測定手段80の測定結果情報J1に基づいて,M波のサブキャリアからなる各グループごとに受信電力の大きい方からL波のサブキャリアを信号伝送用として指定し,そのグループ毎指定サブキャリア情報信号K1を送信側グループ毎指定サブキャリア選択手段21および受信側グループ毎指定サブキャリア選択手段51に送出することが記載されている。
したがって,甲第8号証には,受信側で,サブキャリアをグループ化し,当該測定の測定結果情報に基づいて各グループごとに予め指定された本数のサブキャリアを信号伝送用として指定し,グループ毎指定サブキャリア情報信号を送信側及び受信側のグループ毎指定サブキャリア選択手段に送出することが記載されていると認められる。

以上を総合すると,甲第8号証には以下の発明(以下,「甲8発明」という。)が記載されていると認める。
「OFDMを適用したマルチキャリア信号伝送装置におけるサブキャリアの選択方法において,
受信側でサブキャリアの受信電力を測定し,
受信側で,サブキャリアをグループ化し,当該測定の測定結果情報に基づいて各グループごとに予め指定された本数のサブキャリアを信号伝送用として指定し,
グループ毎指定サブキャリア情報信号を送信側及び受信側のグループ毎指定サブキャリア選択手段に送出する,方法。」

エ 甲第9号証に記載された発明について
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第9号証(特開平11-234230号公報)には,「マルチキャリア通信システム用送信局装置,受信局装置,及びマルチキャリア通信システム」として,図面と共に,以下の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,マルチキャリア通信システム用送信局装置,受信局装置,及びマルチキャリア通信システムに係り,特に,自動車電話,携帯電話等のディジタル無線通信に好適なマルチキャリア通信システム用送信局装置,受信局装置,及びマルチキャリア通信システムに関する。
【0002】
【従来の技術】マルチキャリア伝送は,高ビットレートのデータを複数の低ビットレートのデータに並列化して,周波数が異なる複数の搬送波( キャリア) を用いて変調し,同時に伝送する,すなわち通信する方式である。マルチキャリア伝送の長所は,伝搬路の周波数特性に起因する周波数選択性フェージングによる伝送品質の劣化を軽減できることである。
(中略)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】上記従来の移動通信装置では,ダイバーシティ効果を得るためには基地局の複数のアンテナ素子で受信する信号間の相関が低いことが必要である。しかしながら,アンテナ素子の相互の位置関係により必ずしも相関の低い受信信号が得られるとは限らず,この従来技術で期待するような伝送品質を得ることができない場合がある。また,この従来技術で期待する伝送品質をより向上させようとすれば,相関の低い信号が受信できるように配置したアンテナ素子の数を増加させることが必要であり,限られた空間に設置するような基地局では対応が困難となる。
【0007】本発明は,上記問題を解決するためになされたもので,アンテナ素子数を増加させることなく伝送品質を改善できるマルチキャリア通信システム用送信局装置,受信局装置,及びマルチキャリア通信システムを提供することを目的とする。」(2ページ左?右欄)

(イ)「【0029】信号割り当て器16の出力端は,低ビットレートのデータの各々に割り当てられたキャリアの各々を低ビットレートのデータの各々で変調するマルチキャリア変調器18に接続されている。なお,選択されなかったキャリアは,低ビットレートのデータが割り当てられていないので,マルチキャリア変調器18では変調されない。このマルチキャリア変調器18の出力端には,送信アンテナが接続されており,選択されかつ低ビットレートのデータで変調されたN個のキャリアと(M-N)個(本実施の形態では2)の無変調のキャリアとがマルチキャリア信号として同時に送信される。
【0030】受信局装置20は,受信アンテナに接続されると共に,送信局装置10から送信された,(M-N)個の無変調のキャリアとN個の変調されたキャリアとを含むマルチキャリア信号を受信して,各キャリア毎に復調処理を行うマルチキャリア復調器22を備えている。マルチキャリア復調器22は,M個の出力端を備えており,マルチキャリア復調器22での復調によって,低ビットレートのデータで変調されたキャリアから低ビットレートのデータが復調される。
【0031】マルチキャリア復調器22の出力端は,信号選択器26に接続されている。信号選択器26は,前回の受信によって選択データ送信器30で選択されたキャリアを示すキャリア情報を記憶するメモリを備えると共に,メモリに記憶された前回のキャリア情報に基づいて,今回受信したマルチキャリア信号から復調された低ビットレートのデータを選択してパラレルに出力するN個の出力端を備えている。
(中略)
【0033】また,受信アンテナには,送信局装置10から送信されたマルチキャリア信号に含まれるM個の各キャリア(変調されたキャリア及び無変調のキャリア)毎の受信電力を測定して受信電力値を出力する受信電力測定器24が接続されている。
【0034】受信電力測定器24は,今回の受信による受信電力の測定結果に基づいて受信電力値が大きい順にN個のキャリアを選択し,選択したN個のキャリアを示すキャリア情報を送信アンテナから送信局装置10へ伝送すると共に,信号選択器26のメモリにキャリア情報を記憶する選択データ送信器30に接続されている。」(4ページ左?右欄)

(ウ)「【0037】マルチキャリア変調器18から送信されたマルチキャリア信号は,周波数選択性フェージングが発生している伝搬路を経て受信されると,図4(b)に示すように周波数特性が歪んだ信号となる。
【0038】送信局装置10から送信されたマルチキャリア信号は,受信局装置20で受信され,受信電力測定器24に入力される。そして,受信電力測定器24でマルチキャリア信号の各キャリア毎の受信信号電力が測定され,その受信電力値が選択データ送信器30に入力される。
【0039】選択データ送信器30では,受信電力測定器24から入力された各キャリア毎の受信電力値の大小を比較し,受信電力値が大きい順にN個のキャリアを選択して,選択したキャリアを示すキャリア情報を無線で送信局装置10へ送信する。また,選択データ送信器30は,信号選択器26のメモリに選択したキャリアを示すキャリア情報を記憶する。」(4ページ右欄?5ページ左欄)

(エ)「【0041】図4(c)では各々異なる周波数f1 ?f8 の8つのキャリア,すなわちキャリア数8のマルチキャリア伝送において,受信電力値が大きい方から6つのキャリア(周波数f1 ,f2 ,f5 ?f8 )を選択した例が示されている。
【0042】一方,送信局装置10においては,伝送する高ビットレートのデータを直並列変換器12によって並列化したN個の低ビットレートのデータに変換すると共に,受信局装置20の選択データ送信器30から伝送されたキャリア情報を受信アンテナを介して選択データ受信器14で受信する。
【0043】キャリア信号割り当て器16は,受信されたキャリア情報に基づいて,M個のキャリアからキャリア情報で示されるN個のキャリアを選択し,選択したN個のキャリアに対して並列変換器12によって並列化されたN個の低ビットレートのデータの各々を割り当てる。上記の図4(c)の例では,周波数f1 ,f2 ,f5 ?f8 のキャリアが選択されたことがキャリア情報として選択データ受信器14に伝送されるので,キャリア信号割り当て器16において,周波数f1 ,f2,f5 ?f8 のキャリアに伝送すべき低ビットレートのデータの各々が割り当てられる。
(中略)
【0045】送信局装置10から送信されたマルチキャリア信号は,受信局装置20で受信され,受信電力測定器24,及びマルチキャリア復調器22に入力される。
【0046】マルチキャリア復調器22では,変調されたN個のキャリアからN個の低ビットレートのデータが復調され,復調されたデータは信号選択器26へ入力される。なお,マルチキャリア復調器22では,無変調のキャリアに対する復調処理も実行するが,無変調のキャリアはデータで変調されていないので,無変調のキャリアからは低ビットレートのデータは復調されない。」(5ページ左欄?右欄)

(オ)「【0051】図5は,周波数f1 ?f8 の8つのキャリアを使用して伝送する場合に,6つのキャリアが選択され,選択されたキャリアによって6つの低ビットレートのデータA?Fを伝送した場合の送信局装置から受信局装置へのマルチキャリア伝送を,時間経過に従って示している。時刻t1 において送信局装置から低ビットレートのデータA?Fの各々で変調された周波数f1 ?f3 ,f5 ?f7 のキャリア,及び無変調の周波数f4 ,f8 のキャリアを含むマルチキャリア信号が送信される。このマルチキャリア信号は,受信局装置で受信されて復調され,メモリに記憶されている前回のキャリア情報(周波数f1 ?f3 ,f5 ?f7 )に基づいて,周波数f1 ?f3 ,f5 ?f7 のキャリアから復調された低ビットレートのデータA?Fが選択されて高ビットレートのデータに変換される。また,このとき,受信電力が測定され,選択データ送信器で受信電力値が大きい順に周波数f1 ,f3 ?f7 のキャリアが選択され,これらの選択されたキャリアを示すキャリア情報が送信局装置に送信され,時刻t2 において低ビットレートのデータA?Fの各々で変調された周波数f1 ,f3 ?f7 のキャリア,及び無変調の周波数f2 ,f8 のキャリアを含むマルチキャリア信号が送信され,以後上記と同様の処理を繰り返して時刻tn まで送信が行われる。
【0052】上記のように本実施の形態では,帯域内の全てのキャリアを使用せずに,受信電力が小さく伝送品質が劣化していると予想されるキャリアにはデータを割り当てず,受信電力が大きく伝送品質が良好であると予想されるキャリアのみにデータを割り当てて伝送しているので,マルチキャリア伝送の伝送品質を改善することができる。
【0053】図6に上記実施の形態のマルチキャリア通信システムを移動通信環境において使用した場合の伝送効率の計算例の計算結果を示す。この計算例では,周波数選択性フェージングが発生している伝搬路において,全キャリア数を64,変調方式をDQPSK,復調方式を遅延検波,としたマルチキャリア通信システムにおける伝送効率を計算している。ここで,伝送効率は,
伝送効率=2×選択キャリア数×パケット成功確率
=2×( 全キャリア数-使用しないキャリア数) ×パケット成功確率
で定義され,1パケット当たりの実効的なビット数を表している。なお,1パケットとは,並列化されて同時に伝送される1組の低ビットレートのデータを示し,パケット中のすべてのデータが誤りなく送られた場合をパケットの伝送が成功したと判断する。図6は,使用しないキャリアの数に対する伝送効率の変化を,平均搬送波電力対雑音電力(CNR)をパラメータとして示している。この図から,例えばCNR=20dBの時において,伝送効率が最大となるのは,受信レベルの低い方から順番に18番目までのキャリアを使用しないで伝送する場合(使用しないキャリア数が18)であることが理解できる。このことは,全てのキャリアを使用して伝送する従来の場合に比較し,本実施の形態を用いた方が伝送効率が向上することを表している。CNR=20dB以外のCNRにおいても,伝送効率が向上することから,本実施の形態のマルチキャリア伝送システムを用いることによって,マルチキャリア伝送の伝送品質を改善できるばかりか,伝送効率も向上させることができるので,本実施の形態のマルチキャリア伝送システムがマルチキャリア伝送に有効であることが理解できる。」(5ページ右欄?6ページ右欄)

(カ)「【0061】さらに,上記各実施の形態では,選択データ送信器30で受信電力値の大きい方から予め定められた個数のキャリアを選択する例について説明したが,受信電力測定器24から入力された各キャリア毎の受信電力値を予め設定したしきい値と比較し,しきい値より受信電力値が大きいキャリアを選択してもよい。
【0062】この場合には,選択されるキャリアの個数が常にN個になるとは限らない。このため,送信局装置の直並列変換器で変換された低ビットレートのデータをバッファメモリに一旦記憶しておき,選択されたキャリアの個数が低ビットレートのデータの個数より少ない場合は,バッファメモリに記憶された低ビットレートのデータから選択されたキャリアの個数と同数の低ビットレートのデータを選択し,選択されたキャリアに選択された低ビットレートのデータを割り当てて変調して送信するようにする。一方,選択されたキャリアの個数が低ビットレートのデータの個数より多い場合は,選択されたキャリアから受信電力値が大きい順に低ビットレートのデータの個数と同数のキャリアを再度選択し,選択されたキャリアに低ビットレートのデータを割り当てて変調して送信するようにする。なお,選択されたキャリアの個数が低ビットレートのデータの個数より多い場合に,バッファメモリに記憶する低ビットレートのデータの個数を多くしておいて,選択されたキャリアの個数と同数の低ビットレートのデータを選択して送信するようにしてもよい。
【0063】また,上記では選択データ送信器で伝送に使用するキャリアを選択する例について説明したが,受信局装置から各キャリアの受信電力値を送信し,送信局装置側で,上記で説明した選択データ送信器の選択処理と同様の方法で伝送に使用するキャリアを選択するようにしてもよい。」(6ページ右欄?7ページ左欄)

上記各記載及び図面並びにこの技術分野の技術常識を考慮すると,
a 上記(ア),(イ)の【0034】,(ウ)の【0039】の記載によれば,甲第9号証には,マルチキャリア通信システムのためのキャリア選択の方法について記載されていると認められる。

b 上記(ア),(イ)の【0033】,【0034】,(ウ)の【0038】,【0039】の記載及び図3,図7によれば,受信局装置が各キャリアの受信電力を測定すること,受信電力の測定結果に基づいて受信電力値が大きい順にN個のキャリアを選択すること,選択したキャリアを示すキャリア情報を無線で送信局装置へ送信することが記載されている。

以上を総合すると,甲第9号証には以下の発明(以下,「甲9発明」という。)が記載されていると認める。
「マルチキャリア通信システムのためのキャリア選択の方法において,
受信局装置が,各キャリアの受信電力を測定し,
受信局装置が,受信電力の測定結果に基づいて受信電力値が大きい順にN個のキャリアを選択し,
受信局装置が,選択したキャリアを示すキャリア情報を無線で送信局装置へ送信する,方法。」

オ 甲第2?5号証に記載された周知技術について
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開2000-78111号公報)には,「CDMA同期検波用チャネル推定装置」として,図面と共に,以下の事項が記載されている。
(ア)「【0027】ここで,相関推定部8は,遅延素子3及び加算器4によってシンボル毎に平均化された後のパイロット信号(以下,単に「パイロットという」)からパイロット間もしくはパイロットブロック(複数のパイロットから成るブロック:図15の斜線部参照)間の相関値(以下,相関データということもある)を求めるものであり,SIR推定部9は,受信信号(逆拡散信号)から信号対干渉・雑音電力比(SIR:Signal to Interference and noise power Ratio) を推定して求めるものである。
(中略)
【0029】まず,各パイロット(又はパイロットブロック)のチャネル推定値を,
vm(k) =αm(k) +nm(k) ・・・(1)
と表す。ただし,mはパイロット(又はパイロットブロック)の番号,kはフィンガ(又はダイバーシチ)の番号(=i),αm(k) はチャネルの複素振幅,nm(k) は雑音・干渉成分を表す。」(5ページ右欄)

本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第3号証(特開2000-115073号公報)には,「ペ?ジングチャネル電力と初期トラヒックチャネル電力のためのCDMA電力制御」として,図面と共に,以下の事項が記載されている。
(イ)「【0016】より詳細には,移動局のから報告されるパイロット信号の強度は,以下のように表される:

ここで,I_inと,I_outは,それぞれ,熱ノイズを含む,内部干渉と,外部干渉を表す。」(6ページ右欄?7ページ右欄)

本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第4号証(特開2000-209124号公報)には,「スペクトラム拡散通信用相関回路」として,図面と共に,以下の事項が記載されている。
(ウ)「【0101】RAKE合成部59は,フィンガメモリ62に取り込まれた第1の高速コリレータ55からの相関出力を,パイロットシンボルを用いた位相補正を実施し,その後,複数パスの合成(RAKE合成)を行うものである。また,RAKE合成部59には,この他,受信信号と周波数を合わせる為のAFC,受信信号と雑音(他信号からの干渉を含む)の割合か現在どうなっているかを測定するSIR測定部などか含まれる。」(11ページ右欄?12ページ左欄)

本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第5号証(特開平11-136179号公報)には,「通信端末装置及びセルラー無線通信システム並びに情報通信方法」として,図面と共に,以下の事項が記載されている。
(エ)「【0010】ところが図12に示すように,TDMA方式のセルラー無線通信システムにおいて各基地局のコントロールチヤネルCCHのタイムスロツトの送信時間及び周波数が各基地局毎に専用に割り当てられていない場合,例えば受信を選択した基地局のコントロールチヤネルCCH1と同じ周波数チヤネルに他の基地局のトラフイツクチヤネル(いわゆるユーザ情報チヤネル)TCHの信号波(例えばトラフイツクチヤネルTCH1)がコントロールチヤネルCCH1に対する強い干渉波となつて現れる。このような場合,選択したコントロールチヤネルCCH1の受信電力を測定しても受信電力は干渉波によつて雑音成分を含んでいるために基地局からのコントロールチヤネル信号の正確な受信電力を測定することはできず,パスロスの測定が困難となる問題がある。」(5ページ右欄)

上記(ア)?(エ)の記載及び当業者の技術常識によれば,「チャネル品質を示す指標としては,C/I,SNR,SINR,受信電力等々,種々のものがあること。」は周知であるといえる(以下,「周知事項1」という。)。

カ 甲第10号証に記載された事項について
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第10号証(電波・テレコム用語辞典,財団法人電気通信振興会,平成4年8月15日第5版第2刷発行,374ページ)には,以下の事項が記載されている。
「フェージング(Fading) 電波が伝播する通路上の媒質の変動により,受信強度が急速に変動する現象をフェージングという.その変動周期は普通数分の1秒ないし数分程度のものが多い。それ以上の周期の長い変動はレベル変動と呼ぶことが多い。
一般にフェージングは同一通路では周波数が高いほどその周期も速くなる。フェージングはその種類によって大別すると (1)干渉性フェージング,(2)シンチレーションフェージング,(3)散乱性フェージング,(4)偏波性フェージング,(5)吸収性フェージング及び(6)跳躍性フェージング等に分けることができる。また,振幅の変動を生じるフェージングのほかに,音声又は信号波形にひずみを起こさす選択性フェージングと呼ばれるものがある。」

上記記載にもあるように,「干渉がフェージングの原因となり得る」ことはよく知られていることである。

キ 甲第11,12号証に記載された事項について
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第11号証(国際公開第98/24258号)には,「ADAPTIVE CHANNEL ALLOCATION METHOD AND APPARATUS FOR MULTI-SLOT, MULTI-CARRIER COMMUNICATION SYSTEM」(仮訳)「多スロット,多搬送波通信システム用適応チャネル分配方法及び装置」として,図面と共に,以下の事項が記載されている。
(ア)「If, however, a measurement timer message was received, the process moves to Step 628 At Step 628 the mobile station measures I on all N available channels and averages the results for each channel Next, at Step 630, the link receiver measures C/I on the subset of M channels and averages the results for each channel. 」(23ページ2?6行)
(仮訳)
「しかしながら,もし測定タイマ・メッセージが受信されたならば,プロセスはステップ628へ移動する。ステップ628で,移動局はNの利用可能チャネル上でIを測定しかつそれらの結果を各チャネル毎に平均する。次に,ステップ630で,リンク受信機は,Mのチャネルの部分集合上でC/Iを測定しかつそれらの結果を各チャネル毎に平均する。」

本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第12号証(特開2000-183849号公報)には,「スペクトル拡散変調可変多重伝送装置」として,図面と共に,以下の事項が記載されている。
(イ)「【0026】このように構成された受信部では,受信復調部310の複数チャネルにそれぞれ受信多重信号321が入力され,スペクトル逆拡散多値復調器319において,拡散符号器320からの符号出力とを設定された変調多値数に対応させて乗算することにより逆拡散が行われ,デ-タ変調された信号に戻される。 (中略)
【0027】また,上記のデ-タ変調された信号は,信号対干渉雑音電力比算出回路322にも供給され,変調可変を行うパケットの全体あるいは一部の受信信号により信号対干渉雑音電力比を算出し,折返し送信チャネル多値多重数判定回路323でこの算出値に基づいて,伝搬路変動やトラヒック変動に対応する,相手局の折返し送信チャネルの最適なチャネル多重数とデ-タ変調および拡散変調の変調多値数を判定し,折返し送信チャネル多値多重数指定情報324を送信部と受信チャネル多値多重数情報メモリ325に出力する。」(7ページ左欄?右欄)

上記(ア),(イ)に記載されているように,「チャネルの干渉情報を測定すること。」は普通に行われていることである。

ク 甲第13号証に記載された周知技術について
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第13号証(特開平11-346203号公報)には,「OFDMA信号伝送装置及び方法」として,図面と共に,以下の事項が記載されている。
(ア)「【0003】OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)は,マルチキャリア伝送方式の一つで,サブキャリア同士が直交するように,サブキャリア同士の間隔をシンボルレート分の1に設定する方式であり,マルチキャリア伝送において最もサブキャリア間隔を狭めることができる方式である。」(4ページ左欄)

(イ)「【0073】(実施の形態1)図1は,本発明の実施の形態1に係るOFDMA信号伝送装置における送信部のブロック図を示す。但し,図1に示す送信部100は,4ユーザ(4つの移動局)が多元接続される場合の基地局における構成例である。」(9ページ左欄)

上記(ア),(イ)にも記載されているように,当業者の技術常識によれば「直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)」は周知であるといえる(以下,「周知事項2」という。)。

ケ 甲第14?16号証に記載された事項について
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第14号証(特開平7-250374号公報)には,「無線通信方式」として,図面と共に,以下の事項が記載されている。
(ア)「【0032】2.回線確立後の監視
丸1 すべての搬送波をモニタする
(a)子局でモニタする(TDD)
親局はすべての搬送波を送信する。親局は使用している搬送波にはそれぞれの情報信号を送信し,使用されていない搬送波にはダミー信号などを送信する。子局側では各搬送波での受信を行ないそれぞれの特性をモニタする。その結果で子局ごとに各搬送波の使用の可否についてのテーブルを作成する。これを親局に転送する。親局は各子局のテーブルから各子局に割り当てる搬送波を決定する。」(4ページ左欄)
([当審注]:表記上の理由で,丸囲いの「1」を「丸1」と表記する)

本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第15号証(特開平7-38943号公報)には,「移動通信のゾーン切替制御方法」として,図面と共に,以下の事項が記載されている。
(イ)「【0009】更に図5と同様構成の移動通信システムに,この発明を適用した場合を図2を参照して具体的に説明する。いま,移動局15が無線ゾーン2に在圏していて,無線ゾーン4に移行しようとしていると仮定すると,移動局15と通信中の無線ゾーン2の基地局9は移動局15に無線ゾーン2の周辺無線ゾーン1,3,4,5,1′?5′の各監視チャネルN1,N3,N4,N5,N1′?N5′を通知して移動局に測定を行わせるが,このとき通知する信号「周辺ゾーン通知信号」の通知の仕方として,この例では図2Bに示すように先ず,周波数帯Aの監視チャネルN1,N3,N4,N5を,次に,補正値αを,最後に周波数帯Bの監視チャネルN1′?N5′を1つの信号として移動局に通知する。この通知信号を受信した移動局15は,それぞれの監視チャネルの受信レベルを測定し,その結果図3Aに示すように,無線ゾーン1の監視チャネルN1の受信レベルがE1として測定され,以下各監視チャネルN3?N5,N1′?N5′の受信レベルがそれぞれ図3Aに示すようにE3?E5,E1′?E5′として測定されたと仮定する。移動局15は周波数帯Bの監視チャネルN1′?N5′の受信レベルE1′?E5′に補正値αをそれぞれ加算して補正し,その補正結果の値ME1′?ME5′と,周波数帯Aの監視チャネルの受信レベルE1,E3,E4,E5とをレベル順に図3Bに示すようにソートする。その結果を図4に示すように,受信レベルの高いものから順番にその監視チャネルと受信レベルとを「報告信号」として基地局9に報告する。以上の操作により,移動局は移行先の無線ゾーンを正確に判定することが可能となる。」(3ページ左欄?右欄)

本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第16号証(特開平11-313043号公報)には,「マルチキャリア伝送システム及び伝送装置並びに伝送方法」として,図面と共に,以下の事項が記載されている。
(ウ)「【0038】下り方向のDMT各キャリアのパワー配分とビット配分とを求めるために,XTU-C1の送信部3における疑似ランダム信号発生部20からの疑似ランダム信号を送出する(ステップA2)。この疑似ランダム信号はDMT全キャリアの成分を有するものとし,ANSI(American National Standards Institute )標準では256キャリアである。
【0039】この疑似ランダム信号はXTU-R2の受信部4で受信され,ステップB1にて検出されている周期毎に,SNR測定部34でSNRが測定される(ステップB2)。この測定SNRより各キャリアのビット数と送信パワーとが,パワー/ビット数配分計算部35にて算出され,その算出情報はデマッピング部26に記憶されると共に,IFFT部30を介してXTU-C1へ送信される(ステップB3)。XTU-C1では,この送信されてきたビット配分及び送信パワー配分とを,下りキャリア用情報としてマッピング部12にて記憶しておく(ステップA3)。」(7ページ右欄)

上記(ア)?(ウ)の記載及び当業者の技術常識によれば,「チャネルと当該チャネルに関する信号をフィードバックすること。」は普通に行われていることであるといえる。

コ 甲第18?20号証に記載された周知技術について
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第18号証(特開2000-315975号公報)には,「移動局装置」として,図面と共に,以下の事項が記載されている。
(ア)「【0044】この待ち受け受信状態では,その受信期間に,計測部10が復調部4でシンボル毎に復調されたパイロットチャネル(PiCH)とページングチャネル(PaCH)とを計測し,シンボル毎にこれらの信号対雑音比を更新する。また,通話状態にあるときには,計測部10は,復調部4で復調されたパイロットチャネル(PiCH)とトラフィックチャネル(TCH)を計測するが,この場合,予め設定された所定の測定期間τ毎にこれらパイロットチャネル(PiCH)とトラフィックチャネル(TCH)の信号対雑音比を計測して更新する。」(6ページ右欄)

本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第19号証(特開2000-13842号公報)には,「無線通信システムにおける周波数間ハンドオフのための方法および装置」として,図面と共に,以下の事項が記載されている。
(イ)「【0019】ステップ48あるいはステップ50のチェックのいずれかにパスできず,ステップ52において移動局が潜在的なハンドオフの機会を得るために新たな周波数に同調した場合は,次に,移動局は,ステップ54において,新たな周波数における受信電力が閾値MIN_RX_PWR_NEWFより大きいかチェックする。移動局は,さらに,ステップ56において,新たな周波数における受信電力と現周波数における受信電力との間の差が,閾値HYSTERESYS_RX_PWRより大きいかチェックする。このチェックにより,不要な同調およびサーチ動作が遂行される可能性がさらに低減され,同時に,現周波数と新たな周波数との間のピンポン現象も低減される。ステップ54あるいはステップ56のいずれかにパスしない場合は,移動局は,次に,ステップ55において,同調を現周波数に戻し,他周波数報告メッセージ(Other Frequency Report Message,OFRM)を送信し,これによって:(1)現周波数における受信電力(RX_PWR_CURR);(2)新たな周波数における受信電力(RX_PWR_NEWF);および(3)新たな周波数において測定される全てのアクティブなパイロット信号のEc/Io値を報告する。ここで,この実施例においては,ある与えられたパイロット信号に対するEc/Io値は,そのパイロット周波数におけるそのパイロット信号の信号エネルギー対雑音プラス干渉比の測度とされるが,ただし,他のタイプの信号対雑音比の測度を用いることもできる。」(7ページ右欄)

本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第20号証(特開平9-8770号公報)には,「CDMA無線多重送信装置およびCDMA無線多重伝送装置」として,図面と共に,以下の事項が記載されている。
(ウ)「【0028】アンテナ801で受信した信号は,無線受信部802でダウンコンバートされ復調された後,逆拡散回路803で各拡散符号を用いて逆拡散される。パイロットシンボル(PL信号)805は,スイッチ804を介して拡散符号0によって逆拡散された信号から抽出され,その情報を基に回線の伝達関数を回線状態推定回路806において推定する。このとき,回線状態推定回路806において,受信電力やSINR(Signal to Interference-plus-Noise Ratio )を求めることにより,送信パワ制御演算部810で送信パワを計算して,送信部に出力される。一方,各チャネルの逆拡散信号は,回線状態推定回路806で推定された各シンボルの位相を用いて,同期検波回路807で検波される。さらに,2値判定回路808で2値化され,合成回路809で1つのデータ系列に合成されて受信データ811として出力される。」(5ページ左欄)

上記(ア)?(ウ)の記載及び当業者の技術常識によれば,「加入者が,基地局から受信したパイロット記号を用いて,チャネル及び干渉情報を測定すること」は周知であるといえる(以下,「周知事項3」という。)。

サ 甲第21号証に記載された事項について
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第21号証(特開2000-78062号公報)には,「低および中電圧電力線上での双方向デ?タ交換の方法と装置」として,図面と共に,以下の事項が記載されている。
(ア)「【0042】したがって,上記のマルチキャリアの技術を使用する主な利点は,時間ではなく周波数で,また非常に遠方からのエコーの遅延に対しても,チャネル等化を行うことにある。他の利点は,静的な外乱でも動的な外乱でも,決定理論的な外乱でもランダムな外乱でも,いかなる外乱の影響を受けるチャネル上で,情報を送信することができ,乱れていないキャリアから,または保護機構のおかげで,送信された情報を再生することができることにある。また,OFDM技術を使用する他の利点は,OFDMAアクセス技術を使用できることである。」(6ページ右欄)

(イ)「【0050】本発明によるシステムによって,利用できる全体の帯域BWは,2つの別個の帯域,すなわちアップリンクのためのBW1とダウンリンクのためのBW2,の結合と考えられるべきであり,その時OFDMA(直交周波数分割多重アクセス)技術がアップリンクのために使用され,従来のOFDMまたはさらにOFDMA技術がアップリンクのために使用されることを可能にする。OFDMA技術は,OFDM法から得られる性質と一体化されたFDMA(周波数分割多重アクセス)技術の発展したものである。OFDMマルチキャリア信号の様々な成分,すなわちサブキャリア,が物理的に別個の互いに間隔を開けて離れた様々な供給源で生成されるが,それらは中央の受信機と同期がとれている。各顧客が,OFDMマルチキャリア技術で,割り当てられたサブキャリアの組だけを送信し,受信機は,全ての顧客から入ってくる成分を整列し同期をとることに気を配り,サブキャリア間の直交性とこの信号を復調するために必要な全てのものを維持する。」(7ページ左欄?右欄)

上記(ア),(イ)の記載によれば,「OFDM技術によりOFDMAアクセス技術を使用できること。」は公知であるといえる。


なお,甲第17号証は,本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物ではないので,本件特許出願の優先日時点の技術水準を示す証拠として採用しない。

(3)対比・判断
ア 甲第1号証に基づく新規性違反の有無について
本件特許発明8と甲1発明とを対比すると,
(ア)本件特許発明8の「直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)」は,直交周波数分割多重(OFDM)に基づく多重アクセスであるから,本件特許発明8も甲1発明も,「直交周波数分割多重(OFDM)を採用しているシステムのための方法」であるといえる。
ここで,直交周波数分割多重(OFDM)に基づく多重アクセスとして,OFDMの全帯域のサブキャリアを同時に複数の加入者に割り当てるOFDMAの他,OFDMの全帯域のサブキャリアを時分割で1加入者に割り当てるOFDM-TDMA,拡散符号を用いるOFDM-CDMA等も当業者に知られている。
一方,甲第1号証の図16及び上記「(2)ア(エ)」の記載によれば,甲1発明のモデムモードの決定は,全体のBER(ビット誤り率)を改善するために,フェージングした高いビット誤り率のサブキャリアを伝送から除外し,当該除外により生じた容量損失を補うために高SNR値を示すサブキャリアに高次の変調方式を採用するものである。すなわち,好適なサブキャリアを選択するのではなく,不都合なサブキャリアを除外するものである。そして,特に図16(b)及びその説明によれば,「非伝送モード」のサブバンドは殆ど存在せず,かつ全体として圧倒的に高次の変調方式が採用されるのであるから,OFDMの全帯域のサブキャリアを同時に複数の加入者に割り当てるという思想が存在しないことは明らかである。

(イ)甲第1号証の図17及び上記「(2)ア(キ)?(ケ)」の記載によれば,甲1発明の「受信機」,「送信機」は,それぞれ本件特許発明8の「加入者」,「基地局」に相当するものである。

(ウ)本件特許発明8の「チャネル及び干渉情報」は,本件特許明細書の【0025】?【0028】の記載を参酌すれば,明らかに「SINR値」を含むものであり,「チャネル品質情報」といえる。したがって,両者は「加入者が複数のサブキャリアについてチャネル品質情報を測定する」点では一致している。

(エ)甲1発明の受信機が「送信機にシグナリングする」ことは,加入者が基地局に情報を提供することに他ならない。そして,本件特許発明8の加入者が基地局に提供する「前記候補サブキャリアのセットに関するフィードバック情報」も,甲1発明の受信機が送信機にシグナリングする「送信機が使用すべきモデムモード」も,「基地局が送信のために必要なフィードバック情報」ということができる。したがって,両者は「加入者が基地局が送信のために必要なフィードバック情報を基地局に提供する」点では一致しているということができる。

したがって,両者は以下の点で一致し,また,相違する。
(一致点)
「直交周波数分割多重(OFDM)を採用しているシステムのための方法において,
加入者が複数のサブキャリアについてチャネル品質情報を測定し,
加入者が基地局が送信のために必要なフィードバック情報を基地局に提供する,方法。」

(相違点1)
「直交周波数分割多重(OFDM)を採用しているシステムのための方法」に関して,本件特許発明8は,「直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を採用しているシステムのためのサブキャリア選択の方法」に係る発明であるのに対し,甲1発明はOFDMの全帯域を1加入者に使用させることを前提とするものであって,直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を採用しているシステムではなく,同時に複数の加入者にサブキャリアを割り当てるものではない点。

(相違点2)
「加入者が複数のサブキャリアについてチャネル品質情報を測定し」に関して,本件特許発明8は,「加入者が,基地局から受信したパイロット記号に基づいて,複数のサブキャリアについてチャネル及び干渉情報を測定する段階」であるのに対して,甲1発明はSNRを予測するものであって,その予測がパイロット信号に基づくことが明らかにされていない点。

(相違点3)
本件特許発明8は,「前記加入者が,候補サブキャリアのセットを選択する段階」なる構成を有しているのに対して,甲1発明は「伝送なし」を含む「モデムモード」を決定するものであって,候補の中から基地局が更に選択するものでもないから,「候補」の概念が存在しない点。

(相違点4)
「加入者が基地局が送信のために必要なフィードバック情報を基地局に提供する」に関して,本件特許発明8のフィードバック情報は,「サブキャリアの候補のセットをサブキャリアのクラスタとして任意に順序付け」,「候補クラスタをSINR値と共に表示するインデクス表示を含んでいる」のに対して,甲1発明は「決定したモデムモード」である点。

(相違点5)
本件特許発明8は,「前記加入者が,前記加入者用として前記基地局により選択された前記サブキャリアのセットのサブキャリアの表示を受信する段階」なる構成を有しているのに対して,甲1発明は当該構成を有していない点。

以上のとおり,本件特許発明8と甲1発明との間には,相違点1?5が存在するから,本件特許発明8は甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
本件特許発明15は,OFDMA方式のサブキャリア選択(8A,15B)において,加入者がパイロット信号で複数サブキャリアのチャネル及び干渉情報を測定して,候補サブキャリアのセットを選択し(8B及び8C,15C),候補クラスタをSINR値と共に表示するインデクス表示を含むフィードバック情報を基地局に提供し(8D1?3,15A及び15D?15E-1?2),基地局により選択されたサブキャリアの表示を受信する(8E,15D)点で,本件特許発明8と共通する構成を備えることから,同様の理由で,本件特許発明15は甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

イ 甲第1号証に基づく進歩性違反の有無について
まず,上記(相違点1)について検討する。
上記「ア(ア)」でも触れたように「直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)」自体は周知であり,甲第1号証にもOFDMAに関する記載が存在する(上記「(2)ア(ア)参照。)([当審注]:甲第1号証の仮訳3頁の「OFDMA」の記載は原文は「OFDM」であり誤記であるが,技術内容から見てOFDMAに関するものと認められる記載が存在する。)。しかしながら,甲第1号証は,直交周波数分割多重(OFDM)の歴史について,関係する100件以上の文献を参照して説明したものであり,OFDMに関する種々の技術事項が記載されており,OFDM-TDMAに関する記載もある(上記「(2)ア(ウ),(エ)参照。)。そして,このうち甲1発明の認定に関連する甲第1号証の図16には,未使用なサブキャリアが存在するものの,当該サブキャリアを他の加入者に割り当てることは記載も示唆もされておらず,むしろ図16は不都合なサブキャリアは「伝送なし」として利用しないことを例示する説明図である以上,少なくとも図16に関する技術事項にはOFDMの全帯域のサブキャリアを同時に複数の加入者に割り当てるという思想が存在しない。
そして,甲1発明は不適切なサブキャリアを除外するものであり,除外した分の容量を高次の変調方式により補うものであるから,容量的に伝送に適する全サブキャリアを利用することを前提としたものと解するのが自然であり,図16(b)に関する記載(上記「(2)ア(エ)」,上記「ア(ア)」上記参照。)に鑑みれば,「直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)」が周知である([当審注]:請求人は,甲第21号証をあげて,OFDM技術がOFDMAを採用するシステムの利用において好都合な技術であることは周知であるとしている。)からといって,図16の技術事項に「直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)」を適用する動機付けはなく,阻害要因があると言うべきである。
したがって,OFDMA自体は周知であるが,甲1発明において相違点1を容易になし得るとすることはできない。

次に,上記(相違点2)について検討する。
甲第1号証の上記「(2)ア(ケ)」の記載によれば,パイロットシンボルを用いてチャネル伝達関数の推定を行うことが記載されていると認められ,判定帰還されるローカルSNR推定値は干渉の影響を考慮したものと解される。そして,SINRはSNRと同様にチャネル品質情報として周知のものであり,周知事項3のとおり,SINRをパイロットシンボルに基づいて測定することも普通に行われていることであるから,相違点2は容易になし得ることである。
なお,請求人は,甲第2?5号証をあげて,「「ノイズ」と「干渉」は互いに区別することなく一体的に用いられてきた」と述べているが,甲第2?5号証から認定できるのは周知事項1である。また,請求人は甲第17号証をあげて,「OFDMシンボル」はパイロット記号をも含むものである旨主張しているが,甲第17号証は本件特許出願の優先日時点の技術水準を示す証拠として採用できない。

次に,上記(相違点3)?(相違点5)について纏めて検討する。
上記「ア(ア)」のとおり,甲1発明は,全体のBER(ビット誤り率)を改善することを目的として不都合なサブキャリアを除外するものであり,OFDMの全帯域のサブキャリアを同時に複数の加入者に割り当てるという思想が存在しない。このため,甲1発明は,加入者が選択した候補(候補クラスタ)の中から基地局が更に選択するものでもないから,「候補」の概念が存在せず,また,基地局による最終的な選択結果を通知する必然性も存在しない。したがって,甲1発明において相違点3及び相違点5を想起することは不可能である。
また,同様の理由で,甲1発明には,「候補」を「順序付ける」ことはないから,相違点4の「サブキャリアの候補のセットをサブキャリアのクラスタとして任意に順序付け」ることはない。
更に,本件特許明細書の【0065】の記載によれば,本件特許発明8のフィードバック情報が含むSINR値は,基地局が候補クラスタの中から更にクラスタを選択する際に用いたり,また,【0012】の記載によれば,基地局が符号化/変調速度を選択する際に用いられ得るものと解されるが,甲1発明には「候補」の概念は無く,変調方式を示すモデムモード自体を送信機にシグナリングするため基地局がSNRを用いてモデムモードを選択する必要はないから,フィードバック情報を「候補クラスタをSINR値と共に表示するインデクス表示を含んでいる」ものとする動機付けは存在しない。したがって,相違点4を容易になし得るとすることもできない。
なお,甲第1号証の上記(2)ア(ア)には,OFDMに関する種々の技術事項のうち「ピーク対平均電力値を低減する方法」として「クラスタOFDM」の記載箇所があるが,上記のとおり甲1発明には「候補」の概念はない以上,「候補クラスタ」とする動機付けは存在しない。

ここで,請求人は,相違点5に関して,請求人の口頭審理陳述要領書(16ページ3?22行)にて,甲1の和訳31ページ9?13行にシグナリング情報が破損した場合があり,当該問題を解決するために送信機側で実際に割り当てたモデムモードを通知する必要がある旨主張している。しかしながら,上記のとおりそもそも甲1発明は候補の中から基地局が更に選択するものではなく,また,請求人が指摘する箇所の直後(甲1の和訳31ページ18?20行)には,「こうした制約を克服するため,適応OFDMモデムを実用的に実装するために有効かつ信頼性の高いシグナリング技術を採用する必要がある。」と記載されており(上記(2)ア(シ)参照。),これがシグナリング情報の破損の問題の解決手段と理解でき,必ずしも送信機側からモデムモードを通知する必要性は認められないから,請求人の主張は採用できない。

以上のとおり,本件特許発明8は,各周知技術を考慮しても甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。同様の理由で,本件特許発明15は,甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから,本件特許発明8及び15についての特許は,特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものではない。また,本件特許発明8及び15についての特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。
したがって,無効理由1に理由はない。


4 無効理由2(甲第7号証に基づく進歩性違反)について
(1)本件特許発明8
上記「第2」の項で本件特許発明8として認めたものにおいて,発明の構成を特定する用語の意味内容を上記1(2)及び(3)のとおりに解したものである。

(2)引用発明
甲第7号証に記載された発明は,上記「3.無効理由1(甲第1号証に基づく新規性違反,進歩性違反)について」の項の「(2)引用発明」の項の「イ 甲第7号証に記載された発明について」の項にて甲7発明として認定したとおりである。

(3)対比・判断
本件特許発明8と甲7発明とを対比すると,
ア 本件特許発明8の「サブキャリア」と甲7発明の「副搬送波」とは,表現が異なるのみであって実質的な差異は無い。したがって,両者は「直交周波数分割多重(OFDM)を採用しているシステムのためのサブキャリア選択の方法」である点で差異は無い。

イ 甲7発明のセルラーシステムにおける「移動機」は,本件特許発明8の「加入者」に相当する。また,甲7発明の「システム」はACA処理部であるところ,甲第7号証の記載(上記2(2)イ(ケ)参照。)によれば,ACA処理部は基地局内に配置することもできるから,「システム」は「基地局」を含むことは明らかである。

ウ 甲7発明の「C/I」は「チャネル及び干渉情報」に含まれるから,両者は「加入者が,複数のサブキャリアについてチャネル及び干渉情報を測定する」点で一致している。

エ 上記「1(2),(3)」のとおり,本件特許発明8の「前記加入者が,候補サブキャリアのセットを選択する段階」は,予め定義されたクラスタから候補クラスタを選択することである。そして,クラスタとのそのサブキャリアとの間はマッピングされているのであり(本件特許明細書の【0023】参照。),サブキャリアの選択を「クラスタ」を介して行っているのであるから,候補クラスタを選択することは候補のサブキャリアを選択していることになる。したがって,両者は「前記加入者が,複数のサブキャリアの候補を選択する」点では差異は無い。
しかしながら,本件特許発明8は,「サブキャリアの候補のセットをサブキャリアのクラスタとして任意に順序付けることを有」するのであるから,選択された候補のクラスタは複数存在することは明らかであるところ,甲7発明はサブキャリアの候補が複数存在するだけであり,クラスタとしてサブキャリアを選択する概念は存在しない。

オ 甲7発明の「サブセット要求メッセージ」は,移動局が使用を要求するサブセット内の各副搬送波,すなわち,選択したM副搬送波の候補をシステムに示すものであるから,選択した複数のサブキャリアの候補に関する情報といえる。したがって,両者は「前記加入者が,前記複数のサブキャリアの候補に関する情報を基地局に提供する」点で差異は無い。

カ 甲7発明の「副搬送波受諾もしくは副搬送波拒絶メッセージ」は,システムが各副搬送波に対して受諾/許諾を選択した結果を示すことになるから,「基地局により選択されたサブキャリアに関する情報」といえる。そして,システムが移動局にメッセージを送ることは,移動局からみれば,システムからメッセージを受信することになることは明らかである。したがって,本件特許発明8の「前記加入者が,前記加入者用として前記基地局により選択された前記サブキャリアのセットのサブキャリアの表示を受信する段階」と,甲7発明の「システムが移動機に副搬送波受諾もしくは副搬送波拒絶メッセージを送る」とは,「前記加入者が,前記加入者用として前記基地局により選択されたサブキャリアに関する情報を受信する」点で差異は無い。

したがって,両者は以下の点で一致し,また,相違する。
(一致点)
「直交周波数分割多重(OFDM)を採用しているシステムのためのサブキャリア選択の方法において,
加入者が,複数のサブキャリアについてチャネル及び干渉情報を測定し,
前記加入者が,複数のサブキャリアの候補を選択し,
前記加入者が,前記複数のサブキャリアの候補に関する情報を基地局に提供し,
前記加入者が,前記加入者用として前記基地局により選択されたサブキャリアに関する情報を受信する,方法。」

(相違点1)
「直交周波数分割多重(OFDM)を採用しているシステムのためのサブキャリア選択の方法」に関して,本件特許発明8は,「直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を採用しているシステムのためのサブキャリア選択の方法」に係る発明であるのに対し,甲8発明はOFDMAであることが明らかでない点。

(相違点2)
「加入者が,複数のサブキャリアについてチャネル及び干渉情報を測定し」に関して,本件特許発明8は,「加入者が,基地局から受信したパイロット記号に基づいて,複数のサブキャリアについてチャネル及び干渉情報を測定する段階」であるのに対して,甲8発明は基地局から受信したパイロット記号に基づいて測定することが明らかでない点。

(相違点3)
「前記加入者が,複数のサブキャリアの候補を選択し」に関して,本件特許発明8は,「前記加入者が,候補サブキャリアのセットを選択する段階」であり,「候補サブキャリアのセット」は「候補クラスタ」を意味し,サブキャリアを「クラスタ」として選択するのに対して,甲8発明は「クラスタ」の概念が存在しない点。

(相違点4)
「前記加入者が,前記複数のサブキャリアの候補に関する情報を基地局に提供し」に関して,本件特許発明8のフィードバック情報は,「サブキャリアの候補のセットをサブキャリアのクラスタとして任意に順序付け」,「候補クラスタをSINR値と共に表示するインデクス表示を含んでいる」のに対して,甲8発明は複数のクラスタの候補を選択するものでないから「順序付け」及び「インデクス」の概念は無く,「SINR値と共に表示する」ものでもない点。

(相違点5)
「前記加入者が,前記加入者用として前記基地局により選択されたサブキャリアに関する情報を受信する」に関して,本件特許発明8は,「前記加入者が,前記加入者用として前記基地局により選択された前記サブキャリアのセットのサブキャリアの表示を受信する段階」であるのに対して,甲8発明は移動機がシステムから受信する情報は「副搬送波受諾もしくは副搬送波拒絶メッセージ」であり,受信する情報の内容が異なる点。

まず,上記(相違点1)について検討する。
甲第7号証は,セルラー電気通信システムに関するものである(上記3(2)イ(ア)参照。)から,多重アクセスを前提としたものであることは明らかである。そして,甲第7号証には,システムが移動機が要求したサブセット内のM副搬送波の全てを使用できるかどうかを,例えば,他の移動局が使用中であるか否かで確認することが例示されており(上記3(2)イ(セ)参照。),これは複数のサブキャリアを同時に複数の移動機が使用する直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を前提としていることは当業者に明らかである。また,これらの記載に基づいて,甲7発明を直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)にて適用することは容易になし得ることに過ぎない。
なお,請求人は甲第17号証をあげて,「OFDM/TDMA」について述べているが,甲第17号証は本件特許出願の優先日時点の技術水準を示す証拠として採用できない。

被請求人は,被請求人の口頭審理陳述要領書(23ページ11行?27ページ3行)にて,甲第7号証に図3B及びその説明の記載を根拠に,図3Bが移動局向けのM個のシンボルをM個の副搬送波にマッピングして変調し,(N-M)個の副搬送波には0がマッピングされてN個のOFDMシンボルが得られることを示しているから,他の移動局へ伝送するべきシンボルをOFDM変調し得ないことが明らかである旨主張している。
しかしながら,甲第7号証には,(N-M)個の副搬送波に0をマッピングしてN個のOFDMシンボルを得ることは記載も示唆もされていない。そして,図3Bの送信機が基地局の送信機である場合,「シリアルデジタルデータストリーム312」は,個々の移動局に対して独立に存在すると理解するのが自然であるから,図3Bは簡略的に1つの移動局に対する「シリアルデジタルデータストリーム312」のみを例示的に示していると解することができ,複数の移動局に同時に送信する場合は,各移動局用の複数の「シリアルデジタルデータストリーム312」をMAP回路304に入力して,複数のMシンボルをNシンボルにマッピングすればよいことは当業者に明らかである。したがって,図3Bから直ちに阻害要因があるとはいえないので,被請求人の主張は採用できない。

次に,上記(相違点2)について検討する。
周知事項1のとおり,チャネル品質を示す指標としては,C/I,SNR,SINR,受信電力等々,種々のものが知られており,周知事項3のとおり,パイロット信号に基づいてC/IやSINR等を測定することも周知である。したがって,相違点2は適宜なし得ることに過ぎない。
なお,請求人は,甲第2?5号証をあげて,「「ノイズ」と「干渉」は互いに区別することなく一体的に用いられてきた」と述べているが,甲第2?5号証から認定できるのは周知事項1である。

次に,上記(相違点3)?(相違点5)について纏めて検討する。
上記「1(2),(3)」のとおり,本件特許発明8の「候補サブキャリアのセットに関するフィードバック情報」は,選択段階が選択した「候補クラスタ」を「任意に順序付けることを有」するものであり,本件特許明細書の【0024】?【0030】,【0062】の記載及び図3,図5に照らせば,選択された複数の候補クラスタに関する情報を有するものである。なお,各クラスタはそれぞれそのサブキャリアとマッピングされているから,同じサブキャリアが複数のクラスタに含まれることはない。そして,基地局は複数の候補クラスタから1又は複数のクラスタを選択してその選択結果を加入者にクラスタ割当てとして通知するものである。
一方,甲7発明には,予め定義された論理ユニットである「クラスタ」の概念は無く,「M副搬送波」はM個のサブキャリアからなるセットではあるが,副搬送波拒絶メッセージによりM個の内の一部のサブキャリアが新たなサブキャリアの置換されるのであるから,要求単位及び割当単位となる予め定義された論理ユニットである「クラスタ」ではない。したがって,「候補クラスタ」を「インデクス表示」することはない。
また,割当単位となる予め定義された論理ユニットである「クラスタ」を複数選択して順序付けてフィードバックすることを教示する証拠は示されていないし,仮にそのようなものが公知ないし周知であるとしても,甲7発明は副搬送波拒絶メッセージによりM個の内の一部のサブキャリアが新たなサブキャリアに置換されるのであるから,サブキャリアとのマッピングが予め定義される「クラスタ」の概念に馴染まないものであり,阻害要因があると言うべきである。なお,甲第7号証のおける「測定順メッセージ」(国際出願日における国際出願の明細書では「measurement order message」。)は,甲第7号証全体の記載を参酌すれば,測定を命じるメッセージと解するのが自然である。
更に,甲7発明では,システムは,サブセット要求メッセージのM副搬送波の候補の各々の副搬送波が使用可能であるか否かを判断するだけであるから,複数の候補のクラスタをそのSINR値とともにフィードバックする必然性も存在しない。
したがって,当業者といえども甲第7号証から相違点3及び相違点4を容易になし得るということはできない。

また,本件特許発明8の「前記加入者用として前記基地局により選択された前記サブキャリアのセットのサブキャリアの表示」は,複数のクラスタの候補の内から基地局が更に最終的に選択したクラスタを示すものであり,上記「1(2)」及び上記「2(2)」のとおり,「クラスタインデクス」が含まれるから,単に副搬送波の受諾/拒否を表す甲7発明の「副搬送波受諾もしくは副搬送波拒絶メッセージ」とは全く異なるものである。そして,フィードバックされた,異なるサブキャリアから構成される複数の候補クラスタの内から,基地局が最終的に割り当てるクラスタを選択することは,いずれの証拠にも示されておらず,上述のように甲7発明はクラスタの概念に馴染まないものであるから,相違点5を容易になし得たということはできない。

以上のとおり,本件特許発明8は,甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。同様の理由で,本件特許発明15は,甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから,本件特許発明8及び15についての特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。
したがって,無効理由2に理由はない。


5 無効理由3(甲第8号証に基づく進歩性違反)について
(1)本件特許発明8
上記「第2」の項で本件特許発明8として認めたものにおいて,発明の構成を特定する用語の意味内容を上記1(2)及び(3)のとおりに解したものである。

(2)引用発明
甲第8号証に記載された発明は,上記「3.無効理由1(甲第1号証に基づく新規性違反,進歩性違反)について」の項の「(2)引用発明」の項の「ウ 甲第8号証に記載された発明について」の項にて甲8発明として認定したとおりである。

(3)対比・判断
本件特許発明8と甲8発明とを対比すると,
ア 本件特許発明8も甲8発明も,直交周波数分割多重(OFDM)を採用しているシステムにおけるものであるから,「直交周波数分割多重(OFDM)を採用しているシステムにおけるサブキャリアの選択の方法」であるといえる。
しかしながら,甲第8号証には,複数のサブキャリアを同時に複数の者が利用することは記載も示唆もされていない。

イ 甲8発明の「受信側」は,サブキャリアの品質である受信電力を測定し,使用するサブキャリアを選択し,選択したサブキャリアを指定するグループ毎指定サブキャリア情報信号を送信側に送出するから,本件特許発明8の「加入者」に対応する。また,甲8発明の「送信側」は本件特許発明8の「基地局」に対応する。そして,本件特許発明8はダウンリンクサブキャリア割当に関する発明であり,ダウンリンクにおいては基地局は送信側であり,加入者は受信側である。したがって,両者は「受信側でサブキャリアの品質を測定する」点で一致している。
しかしながら,甲8発明が測定するサブキャリアの品質は受信電力であり,基地局から受信したパイロット記号に基づいて,複数のサブキャリアについてチャネル及び干渉情報を測定するものではない。

ウ 上記「1(2),(3)」のとおり,本件特許発明8の「前記加入者が,候補サブキャリアのセットを選択する段階」は,予め定義されたクラスタから候補クラスタを選択することであるが,甲8発明は予めグループ化された各グループから予め指定された本数のサブキャリアを選択することにより,選択されたサブキャリアからなるセットが生成されるものの,クラスタを選択するとの概念は存在しない。また,甲8発明は,基地局が候補の中から選択するものではないから,「候補」の概念も存在しない。したがって,受信側の選択に関して,両者は「受信側がサブキャリアを選択する」点でのみ一致している。

エ 上記「1(2)」及び上記「2(2)」のとおり,本件特許発明8の「候補サブキャリアのセットに関するフィードバック情報」は,「候補クラスタ」の「インデクス表示」,すなわち,クラスタインデクスが含まれ,これは本件特許明細書の【0088】,図9の「ラベル」に相当するものであり,当該ラベルに基づいてクラスタにマッピングされたサブキャリアが特定できることは明らかである。したがって,甲8発明の「グループ毎指定サブキャリア情報信号」は,「選択したサブキャリアを特定し得る情報」である点で,本件特許発明8の「候補サブキャリアのセットに関するフィードバック情報」と共通する。したがって,両者は「受信側が選択したサブキャリアを特定し得る情報を送信側に提供する」点で一致している。

したがって,両者は以下の点で一致し,また,相違する。
(一致点)
「直交周波数分割多重(OFDM)を採用しているシステムにおけるサブキャリアの選択の方法において,
受信側でサブキャリアの品質を測定し,
受信側がサブキャリアを選択し,
受信側が選択したサブキャリアを特定し得る情報を送信側に提供する,方法。」

(相違点1)
「直交周波数分割多重(OFDM)を採用しているシステムのための方法」に関して,本件特許発明8は,「直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を採用しているシステムのためのサブキャリア選択の方法」に係る発明であるのに対し,甲8発明はOFDMAであることが明らかでない点。

(相違点2)
「受信側でサブキャリアの品質を測定し」に関して,本件特許発明8は,「加入者が,基地局から受信したパイロット記号に基づいて,複数のサブキャリアについてチャネル及び干渉情報を測定する段階」であるのに対して,甲8発明は受信電力を測定するものである点。

(相違点3)
「受信側がサブキャリアを選択し」に関して,本件特許発明8は,「前記加入者が,候補サブキャリアのセットを選択する段階」であるのに対して,甲8発明は各グループごとに予め指定された本数のサブキャリアを指定するものであって,予め定義された「クラスタ」を選択するという概念も受信側が選択する「候補」の概念も存在しないから,「候補サブキャリアのセット」を選択するものではない点。

(相違点4)
「受信側が選択したサブキャリアを特定し得る情報を送信側に提供する」に関して,本件特許発明8のフィードバック情報は,「サブキャリアの候補のセットをサブキャリアのクラスタとして任意に順序付け」,「候補クラスタをSINR値と共に表示するインデクス表示を含んでいる」のに対して,甲8発明は受信側が選択する「候補」の概念も「クラスタ」の概念も無いから,これらの構成を有しない点。

(相違点5)
本件特許発明8は,「前記加入者が,前記加入者用として前記基地局により選択された前記サブキャリアのセットのサブキャリアの表示を受信する段階」なる構成を有しているのに対して,甲8発明は当該構成を有していない点。

まず,上記(相違点1)について検討する。
甲第8号証の【0020】の(上記3(2)ウ(エ)参照。)には,32個の全サブキャリアが8個のグループにグループ化され,受信側では各グループごとに4個のサブキャリアから2個のサブキャリアを選択することが例示されている。そして,仮にサブキャリアを同時に複数の者に割り当てるものであれば,各受信側がそれぞれサブキャリアの品質を測定してサブキャリアを選択し,選択したサブキャリアを示すグループ毎指定サブキャリア情報信号が複数の受信側から送信側に送信されることになる。このため,各受信側により選択されたサブキャリアが重複することは当然に予測され,調停が必要になることは明らかであるところ,甲第8号証には重複した場合の調停について記載も示唆もされていない。そして,調停がなされると,受信側の選択したサブキャリアが割り当てられない可能性があることは自明であるところ,甲8発明は,グループ毎指定サブキャリア情報信号K1を送信側グループ毎指定サブキャリア選択手段21および受信側グループ毎指定サブキャリア選択手段51に送出するのであり,送信側からのサブキャリア選択に係る情報は存在しないから,調停を行うことを想定していないことは明らかである。すなわち,周知事項2のとおりOFDMAが周知であるとしても([当審注]:請求人は,甲第13号証をあげて,OFDMAはOFDMを用いた通信方式であることは周知であるとしている。),甲8発明を直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)とすることには阻害要因があると言うべきである。したがって,甲8発明において相違点1を容易になし得るとはいえない。

請求人は請求人の口頭審理陳述要領書(38ページ20?26行)にて,OFDM技術に代表される無線信号伝送技術は1対1の通信で用いることを前提としたものでははなく,1つの基地局と複数の移動局間とで信号伝送することを前提したものであることは周知であるから,甲8発明においても明示的な記載は無くとも当然1対多の通信で用いることを前提とした技術であると考えるのが適切である旨主張している。しかし,OFDM技術自体は,1対1か1対多かとは無関係である。また,甲第8号証には,単に「送信側」,「受信側」との記載があるのみであり,それが基地局であったり複数の移動局であることがうかがえる記載は一切存在しない。したがって,請求人の上記主張は採用できない。なお,1対多であるとしても,例えばOFDM-TDMAのように時分割で全サブキャリアを1加入者に割り当てることもあり得ることに鑑みれば,甲8発明がOFDMAであるとする根拠は認められない。

次に,上記(相違点2)について検討する。
周知事項1のとおり,チャネル品質を示す指標としては,SNR,SINR,受信電力等々,種々のものが知られており,周知事項3のとおり,パイロット信号に基づいてSINR等を測定することも周知であり,いずれの指標を採用するかは当業者が適宜選択し得ることである。したがって,相違点2は適宜選択し得ることに過ぎない。
なお,請求人は,甲第9号証をあげて,基地局から送信されるサブキャリアはフェージングの影響を受けることは周知であるとし,甲第10号証をあげて,干渉がその一つの原因として挙げられていると述べている。また,請求人は,甲第2?5号証をあげて,「「ノイズ」と「干渉」は互いに区別することなく一体的に用いられてきた」と述べているが,甲第2?5号証から認定できるのは周知事項1である。また,甲第2,11,12号証をあげて,チャネル情報に加えて「干渉情報」を測定することは周知であるとしているが,甲第2号証から認定できることは上記「3(2)オ」の項で述べた事項であり,甲第11,12号証から認定できることは上記「3(2)キ」の項で述べた事項である。

次に,上記(相違点3)?(相違点5)について纏めて検討する。
本件特許発明8は,基地局が候補クラスタの中から更に最終的に割り当てるクラスタを選択するからこそ,候補を順序付けたり,加入者が基地局により選択された結果を受信する必然性が存在するものである。
一方,甲8発明は,上記「3(2)ウb」のとおり,甲8発明は,サブキャリア数が増加した場合でもサブキャリア選択に関わる回路規模の増大を最小限に抑えるために,サブキャリアをグループ化してグループごとに所定数のサブキャリア数を選択することにより,一度に比較するサブキャリア数を減少させてサブキャリア選択に関わる回路規模を抑制するものであり,予め定義された「クラスタ」を選択するとの概念は存在しない。そして,グループ毎に所定数のサブキャリアを選択することは,任意のサブキャリアのセットが構成されることになるから,予めサブキャリアとのマッピングが定義される「クラスタ」の概念に馴染まないものであり,仮に予め定義される「クラスタ」が周知であるとしても,甲8発明に「クラスタ」の概念を導入することにことには阻害要因があると言うべきである。
また,甲8発明は,候補の中から送信側が更に選択するものでもないから受信側が選択する「候補」の概念も存在しない。そして,相違点1についての検討で述べたように,甲8発明は,グループ毎指定サブキャリア情報信号K1を送信側グループ毎指定サブキャリア選択手段21および受信側グループ毎指定サブキャリア選択手段51に送出するのであり,送信側からのサブキャリア選択に係る情報は存在しないから,仮に移動局がサブキャリアの候補を選択して基地局が最終的に決定するという技術事項が周知であるとしても,甲8発明に当該技術事項を適用することに阻害要因があると言うべきである。したがって,甲8発明には,送信側による最終的な選択結果を通知する必然性も存在しない。
したがって,当業者といえども,甲8発明からは,相違点3及び相違点5を想起することは不可能であり,相違点4の「サブキャリアの候補のセットをサブキャリアのクラスタとして任意に順序付け」ることを想起することも不可能である。
また,本件特許明細書の【0065】の記載によれば,本件特許発明8のフィードバック情報が含むSINR値は,基地局が候補クラスタの中から更にクラスタを選択する際に用いたり,また,【0012】の記載によれば,基地局が符号化/変調速度を選択する際に用いられ得るものと解されるが,甲8発明には受信側が選択する「候補」の概念は無く,変調方式を適応的に選択するものでもないから,チャネル品質の情報を送信側に提供する必然性は存在しない。したがって,甲8発明には,送信側に「候補クラスタをSINR値と共に表示するインデクス表示を含んでいる」情報を提供する動機付けは存在しないから,仮に「フィードバック情報に「SINR値等の受信品質の関連する情報」を共に表示すること」が周知であるとしても([当審注]:請求人は,甲第14?16号証をあげて,フィードバック情報にSINR値などの受信品質に関連する情報をともに表示することは周知であるとしている。),相違点4の当該事項を容易になし得るとすることもできない。
なお,請求人は,甲第1,7,11号証をあげて,「サブキャリアの候補のセットに対して任意に順序付ける」ことは周知であるとしているが,上記「3(3)イ」,「4(3)」の項で述べたとおり,甲第1,7号証からはそのようなことは認められない。また,甲第11号証から認定できることは,上記「3(2)キ」の項で述べた事項である。

請求人は請求人の口頭審理陳述要領書(36ページ9行?38ページ13行)にて,構成要件8Eに関して,甲第8号証の【0019】の記載(上記3(2)ウ(エ)参照。)を根拠に,受信側の受信側グループ毎指定サブキャリア選択手段51はサブキャリア信号E1を受信することで指定されたサブキャリア信号を選択することが明確に記載されているから,当該サブキャリア信号E1にはサブキャリアを特定する情報が含まれていると解するのは当然である旨,また,予備的主張として甲第14号証の【0032】の記載(上記3(2)カ(カ)参照。)を根拠に,移動局側で候補の選択を行い,基地局で最終的に選択することは技術常識であるから,甲8発明においても送信側からグループことの指定されたサブキャリアを特定する情報を受信側に送信する必要があると解すべきである旨主張している。
しかしながら,サブキャリア信号E1はマルチキャリア信号受信・分離手段40であるDFTの出力であり,【0019】の「サブキャリア信号E1から指定されたサブキャリア信号を選択する。」との記載は,サブキャリア信号E1がサブキャリアを指定しているのではなく,受信側グループ毎指定サブキャリア選択手段51がサブキャリア信号E1の中からグループ毎指定サブキャリア情報信号K1により指定されたサブキャリアを選択することが述べられているに過ぎない。
また,甲第14号証の記載のみで技術常識と言い得るのか定かではないが,相違点1についての検討で述べたとおり,甲8発明は調停を想定したものではないから,たとい移動局側で候補の選択を行い基地局で最終的に選択することが技術常識であろうと,甲8発明において当該技術常識を適用する動機付けはないし,阻害要因があると言うべきである。
したがって,請求人の上記主張はいずれも採用できない。

以上のとおり,本件特許発明8は,甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。同様の理由で,本件特許発明15は,甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから,本件特許発明8及び15についての特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。
したがって,無効理由3に理由はない。


6 無効理由4(甲第9号証に基づく進歩性違反)について
(1)本件特許発明8
上記「第2」の項で本件特許発明8として認めたものにおいて,発明の構成を特定する用語の意味内容を上記1(2)及び(3)のとおりに解したものである。

(2)引用発明
甲第9号証に記載された発明は,上記「3.無効理由1(甲第1号証に基づく新規性違反,進歩性違反)について」の項の「(2)引用発明」の項の「エ 甲第9号証に記載された発明について」の項にて甲9発明として認定したとおりである。

(3)対比・判断
本件特許発明8と甲9発明とを対比すると,

ア 本件特許発明8の直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を採用しているシステムは,マルチキャリア通信システムの一種であり,サブキャリアを選択することはキャリアを選択することに対応する。したがって,両者は「マルチキャリア通信システムにおけるキャリア選択の方法」に関する発明であるといえる。

イ 甲9発明の「受信局装置」は,各キャリアの受信電力を測定し,受信電力の測定結果に基づいて受信電力値が大きい順にN個のキャリアを選択し,選択したキャリアを示すキャリア情報を無線で送信局装置へ送信するから,本件特許発明8の「加入者」に対応するものであり,甲第9号証の【0001】,【0006】(上記3(2)エ(ア)参照。)の記載に照らせば,甲9発明の「受信局装置」,「送信局装置」は,それぞれ本件特許発明8の「加入者」,「基地局」に相当するといえる。そして,甲第9号証の【0052】(上記3(2)エ(オ)参照。)の記載に照らせば,甲9発明の各キャリアの受信電力は伝送品質に対応するものであるから,「キャリアの品質に関する情報」である点で本件特許発明8の「チャネル及び干渉情報」に対応している。
したがって,両者は「加入者が,キャリアの品質に関する情報を測定する」点で一致している。
しかしながら,甲9発明が測定するサブキャリアの品質は受信電力であり,基地局から受信したパイロット記号に基づいて,複数のサブキャリアについてチャネル及び干渉情報を測定するものではない。

ウ 上記「1(2),(3)」のとおり,本件特許発明8の「前記加入者が,候補サブキャリアのセットを選択する段階」は,予め定義されたクラスタから候補クラスタを選択することであるが,甲9発明のマルチキャリアはOFDMのサブキャリアではなく,「サブキャリアのセット」との概念は存在しない。また,甲9発明は,基地局が候補の中から選択するものではないから,「候補」の概念も存在しない。しかしながら,両者は「加入者が,キャリアを選択する」点では一致しているといえる。

エ 上記「1(2)」及び上記「2(2)」のとおり,本件特許発明8の「候補サブキャリアのセットに関するフィードバック情報」は,「候補クラスタ」の「インデクス表示」,すなわち,クラスタインデクスが含まれ,これは本件特許明細書の【0088】,図9の「ラベル」に相当するものであり,当該ラベルに基づいてクラスタにマッピングされたサブキャリアが特定できることは明らかである。したがって,両者は「加入者が,加入者が選択したキャリアを特定し得る情報を基地局に提供する」点で一致している。

したがって,両者は以下の点で一致し,また,相違する。
(一致点)
「マルチキャリア通信システムにおけるキャリア選択の方法において,
加入者が,キャリアの品質に関する情報を測定し,
加入者が,キャリアを選択し,
加入者が,加入者が選択したキャリアを特定し得る情報を基地局に提供する,方法。」

(相違点1)
「マルチキャリア通信システムにおけるキャリア選択の方法」に関して,本件特許発明8は,「直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を採用しているシステムのためのサブキャリア選択の方法」に係る発明であるのに対し,甲9発明は直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を採用しているシステムでない点。

(相違点2)
「加入者が,キャリアの品質に関する情報を測定し」に関して,本件特許発明8は,「加入者が,基地局から受信したパイロット記号に基づいて,複数のサブキャリアについてチャネル及び干渉情報を測定する段階」であるのに対して,甲9発明は受信電力を測定するものである点。

(相違点3)
「加入者が,キャリアを選択し」に関して,本件特許発明8は,「前記加入者が,候補サブキャリアのセットを選択する段階」であるのに対して,甲9発明はキャリアを選択するものであって,予め定義された「クラスタ」を選択するという概念も「候補」の概念も存在しないから,「候補サブキャリアのセット」を選択するものではない点。

(相違点4)
「加入者が,加入者が選択したキャリアを特定し得る情報を基地局に提供する」に関して,本件特許発明8のフィードバック情報は,「サブキャリアの候補のセットをサブキャリアのクラスタとして任意に順序付け」,「候補クラスタをSINR値と共に表示するインデクス表示を含んでいる」のに対して,甲9発明は「候補」の概念も「クラスタの概念も無いから,これらの構成を有しない点。

(相違点5)
本件特許発明8は,「前記加入者が,前記加入者用として前記基地局により選択された前記サブキャリアのセットのサブキャリアの表示を受信する段階」なる構成を有しているのに対して,甲9発明は当該構成を有していない点。

まず,上記(相違点1)について検討する。
甲第9号証の【0041】,【0051】,図4,図5(上記3(2)エ(エ),(オ)参照。)には,8個のキャリアから6個のキャリアを選択することが例示されている。そして,仮にキャリアを同時に複数の者に割り当てるものであれば,各受信局装置がそれぞれ各キャリアの受信電力を測定して受信電力の測定結果に基づいて受信電力値が大きい順にN個のキャリアを選択し,選択したキャリアを示すキャリア情報が各受信局装置から無線で送信局装置へ送信されることになる。このため,各受信局装置により選択されたキャリアが重複することは当然に予測され,調停が必要になることは明らかであるところ,甲第9号証には重複した場合の調停について記載も示唆もされていない。そして,調停がなされると,受信局装置の選択したキャリアが割り当てられない可能性があることは自明であるところ,甲9発明は,選択データ送信機30で選択されたキャリアを示すキャリア情報は,受信局装置のメモリ及び送信局装置の選択データ受信器14に送信され,送信局装置からのキャリア選択に係る情報は存在しないから,調停を行うことを想定していないことは明らかである。すなわち,周知事項2のとおりOFDMAが周知であるとしても([当審注]:請求人は,甲第13号証をあげて,OFDMAはOFDMを用いた通信方式であることは周知であるとしている。),甲9発明を直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)とすることには阻害要因があると言うべきである。したがって,甲9発明において相違点1を容易になし得るとはいえない。

請求人は請求人の口頭審理陳述要領書(48ページ2?8行)にて,マルチキャリア伝送方式に代表される無線信号伝送技術は1対1の通信で用いることを前提としたものでははなく,1つの基地局と複数の移動局間とで信号伝送することを前提したものであることは周知であるから,甲9発明においても明示的な記載は無くとも当然1対多の通信で用いることを前提とした技術であると考えるのが適切である旨主張している。しかし,甲9発明におけるマルチキャリア伝送方式は,フェージングにより劣化したキャリアを用いずに好適なキャリアのみにより伝送しようとするものであることは甲第9号証の記載(上記3(2)エ(ア),(エ),(オ)参照。)から明らかであり,必ずしも1対多が前提であるものではなく,甲9発明が直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)であるとする根拠は存在しない。したがって,請求人の主張は採用できない。

次に,上記(相違点2)について検討する。
周知事項1のとおり,伝送品質を示す指標としては,SNR,SINR,受信電力等々,種々のものが知られており,周知事項3のとおり,パイロット信号に基づいてSINR等を測定することも周知であり,いずれを採用するかは当業者が適宜選択し得ることである。したがって,相違点2は適宜選択し得ることに過ぎない。
なお,請求人は,甲第9号証には基地局から送信されるサブキャリアはフェージングの影響を受けることが記載されているとし,甲第10号証をあげて,干渉がフェージングの一つの原因として挙げられていると述べているが,上記判断に特に影響しないことは明らかである。

次に,上記(相違点3)?(相違点5)について纏めて検討する。
本件特許発明8は,基地局が候補クラスタの中から更に最終的に割り当てるクラスタを選択するからこそ,候補を順序付けたり,加入者が基地局により選択された結果を受信する必然性が存在するものである。
一方,上記ウのとおり,甲9発明のマルチキャリアはOFDMのサブキャリアではなく,「サブキャリアのセット」との概念は存在しない。また,甲9発明は,予め定義された「クラスタ」を選択するとの概念は存在せず,仮にチャネルの帯域幅緩和のために「サブキャリアのクラスタ」を形成することが周知であるとしても([当審注]:請求人は,甲第1,7,8,11号証をあげて,チャネルの帯域幅緩和のために「サブキャリアのクラスタ」を形成することは周知であるとしている。),甲9発明はOFDMのサブキャリアを有するものではないから予めサブキャリアとのマッピングが定義されたクラスタを選択するようにすることには阻害要因があるというべきである。
また,甲9発明は,候補の中から送信側が更に選択するものでもないから「候補」の概念も存在せず,また,相違点1についての検討で述べたように調停するものでもないから,送信側による最終的な選択結果を通知する必然性も存在しない。
したがって,当業者といえども,甲9発明からは,相違点3及び相違点5を想起することは不可能であり,相違点4の「サブキャリアの候補のセットをサブキャリアのクラスタとして任意に順序付け」ることを想起することも不可能である。
また,本件特許明細書の【0065】の記載によれば,本件特許発明8のフィードバック情報が含むSINR値は,基地局が候補クラスタの中から更にクラスタを選択する際に用いたり,また,【0012】の記載によれば,基地局が符号化/変調速度を選択する際に用いられ得るものと解されるが,甲9発明には「候補」の概念は無く,変調方式を適応的に選択するものでもないから,SINR値を算出することが周知であるとしても([当審注]:請求人は,甲第2,7,11,12号証をあげて,受信品質を表す情報として「SINR値」を算出することは周知であるとしている。),チャネル品質の情報を送信側に提供する必然性は存在しない。したがって,甲9発明には,送信側に「候補クラスタをSINR値と共に表示するインデクス表示を含んでいる」情報を提供する動機付けは存在しないから,相違点4の当該事項を容易になし得るとすることもできない。

請求人は請求人の口頭審理陳述要領書(45ページ下から9行?46ページ下から12行)にて,甲第9号証の【0062】の「選択されたキャリアから受信電力値が大きい順に低ビットレートのデータの個数と同数のキャリアを再度選択し」との記載を根拠に,送信局装置において選択されたキャリア(すなわち,受信局装置から候補として受信したN個のキャリア)は,受信電力値の大きい順に順序付けられている旨主張し,口頭審理陳述要領書(47ページ9?30行)にて,送信局装置において受信電力値の大きい順にN個のサブキャリアを順序付けて再度選択した場合には,送信局装置において最終的に選択したキャリアと受信局装置において選択した候補となるN個のキャリアとは完全に一致しない場合が生じるから,当然に受信局装置は送信局装置で最終的に選択されたキャリアを知る必要がある旨主張している。
しかし,甲第9号証の【0034】,【0039】,【0051】,【0062】の記載(上記3(2)エ(イ),(ウ),(オ),(カ)参照。)をみても,N個のキャリアを選択する際には大きい順に選んでいるが,選ばれたN個のキャリアが順序付けられるものでなく,選択したキャリアを示すキャリア情報は,N個のキャリアが示されるだけであって,当該N個のキャリアの順序に係る情報が含まれることは記載も示唆もされていない。そして,同【0043】,【0051】の記載(上記3(2)エ(エ),(オ)参照。)によれば,キャリア情報に示されたキャリアがそのままデータ伝送に使用されるのであるから,選択したキャリアの順序に係る情報を受信局装置から送信局装置に送る必然性も,使用するキャリアを示す情報を送信局装置から受信局装置に送る必然性も存在しないから,自明でもない。
ここで,請求人は,甲第9号証の【0062】の記載を根拠に,送信局装置において受信電力値の大きい順にN個のサブキャリアを順序付けて再度選択した場合を想定しているが,甲第9号証にはそのような場合は記載も示唆もされていない。同【0063】の「また,上記では選択データ送信器で伝送に使用するキャリアを選択する例について説明したが,」との記載(上記3(2)エ(オ)参照。)からも明らかなように,同【0062】に記載された事項は受信局装置の選択データ送信器30に関する事項であり,しきい値より受信電力値が大きいキャリアを選択することも,選択されたキャリアの個数がデータの個数より多い場合には選択されたキャリアから受信電力値が大きい順に低ビットレートのデータの個数と同数のキャリアを再度選択することも,いずれも受信局装置の選択データ送信器30が行うことである。そして,同【0063】には「受信局装置から各キャリアの受信電力値を送信し,送信局装置側で,上記で説明した選択データ送信器の選択処理と同様の方法で伝送に使用するキャリアを選択するようにしてもよい。」とも記載されているが,これは受信局装置の選択データ送信器30では選択を行わずに全キャリアの受信電力値を送信し,送信局装置の選択データ受信器14において初めてキャリアの選択を行うことを述べているに過ぎない。すなわち,受信局装置で候補を選択し,送信局装置で候補を更に選択することは,甲第9号証には記載も示唆もされておらず,自明でもない。
したがって,請求人の主張は,甲第9号証の記載に基づかない,当を得ないものであり,採用できない。

以上のとおり,本件特許発明8は,甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。同様の理由で,本件特許発明15は,甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから,本件特許発明8及び15についての特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。
したがって,無効理由4に理由はない。



第6 むすび
以上のとおり,請求人が主張する無効理由1ないし6によっては,本件特許発明8及び15についての特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-11-20 
結審通知日 2014-11-25 
審決日 2014-12-09 
出願番号 特願2002-550683(P2002-550683)
審決分類 P 1 123・ 537- Y (H04J)
P 1 123・ 121- Y (H04J)
P 1 123・ 536- Y (H04J)
P 1 123・ 113- Y (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高野 洋  
特許庁審判長 田中 庸介
特許庁審判官 菅原 道晴
河口 雅英
登録日 2008-10-17 
登録番号 特許第4201595号(P4201595)
発明の名称 適応サブキャリア-クラスタ構成及び選択的ローディングを備えたOFDMA  
代理人 城山 康文  
復代理人 後藤 未来  
代理人 森山 航洋  
代理人 隈部 泰正  
代理人 青木 孝博  
復代理人 岡 浩喜  
代理人 北口 智英  
代理人 金山 賢教  
代理人 ▲崎▼地 康文  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 市川 英彦  
代理人 黒田 博道  
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