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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N |
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管理番号 | 1299054 |
審判番号 | 不服2012-11356 |
総通号数 | 185 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-06-18 |
確定日 | 2015-03-23 |
事件の表示 | 特願2007-522034「結合分子」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 1月26日国際公開、WO2006/008548、平成20年 5月 1日国内公表、特表2008-512987〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成17年7月22日(パリ条約による優先権主張2004年7月22日 英国、2005年6月10日 英国)の出願であって、その請求項1?6に係る発明は、平成26年10月8日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載されたとおりのものと認める。 そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。 「(a)異種のV_(H)重鎖遺伝子座を発現するヒトを除くトランスジェニック哺乳類に抗原を注射するステップと、ここで、 (i)V_(H)重鎖遺伝子座は、少なくとも一つの天然のV_(H)遺伝子セグメントと、少なくとも一つのD遺伝子セグメントと、少なくとも一つのJ遺伝子セグメントと、少なくとも一つの重鎖定常領域とを含む可変領域を含み、かつ、前記V_(H)、D及びJ遺伝子セグメントはヒト由来であり、 (ii)各定常領域は機能性C_(H)1ドメインをコードしておらず、 (iii)V遺伝子セグメント、D遺伝子セグメント及びJ遺伝子セグメントは、組み換えられてVDJコーディング配列を生成でき、 (iv)前記組み換えられたV_(H)重鎖遺伝子座は、発現されると、機能性C_(H)1ドメインを欠いた定常エフェクター領域と抗原特異的可溶性V_(H)ドメインとを含む可溶性の重鎖のみ抗体を生成でき、 (b1)目的とする抗原特異的重鎖のみ抗体を発現する細胞又は組織を単離するステップと、 (c1)ステップ(b1)の細胞又は組織からハイブリドーマを産生するステップと、 (d1)ステップ(c1)のハイブリドーマからクローニングされたmRNAから抗原特異的可溶性V_(H)ドメインを同定し単離するステップと、 又は、 (b2)目的とする抗原特異的重鎖のみ抗体を発現する細胞又は組織を単離するステップと、 (c2)前記単離された細胞又は組織由来のmRNAからV_(H)ドメインをコードする配列をクローニングするステップと、 (d2)ファージ又は類似のライブラリーを用いてコードされたタンパク質をディスプレイするステップと、 (e2)抗原特異的可溶性V_(H)ドメインを同定するステップと、 (f2)前記V_(H)ドメインを単独又は融合タンパク質として細菌、酵母又は代替の発現系中に発現させるステップと を含む、溶解状態のまま生理的溶媒中で活性である抗原特異的可溶性V_(H)ドメインを製造する方法。」 2.引用例 これに対して、当審において平成26年7月7日付けで通知した拒絶の理由で、引用文献2として引用した本願の優先日前の2004年6月17日に頒布された刊行物である国際公開第2004/049794号(以下、「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。)。 (1)「実施例6:マウスでラクダ型一本鎖抗体を発現することができるヒト重鎖遺伝子座の設計 V、D、J、C遺伝子を有するヒトIgH YACが開示されている(Nicholson et al.,1999,上記、図10参照)。そのヒトIgH YACは、C遺伝子(CμとCδ領域)の切断、除去によって、修飾される。そのために、制限酵素切断やPCRによって得られるCH1エキソンのないヒトCγ遺伝子(Flanagan and Rabbitts, 1982, Nature 300: 709-713; Bruggemann et al, 1987, J. Exp. Med. 166: 1351-1361)がYACアームベクター(Burke et al, 1987, Science 236: 806-812)にサブクローニングされる。ホモロガスなインテグレーションとC遺伝子切断を起こすために、Cμの5’領域がヒトIgH YACコンストラクトに付加される。これによって、酵母トランスフェクションにおいて、μとδC遺伝子を含む領域が置換され、IgHγ^(Δ)YACコンストラクトが形成される(図11)。」(22ページ17行?28行) (2)「実施例7:再構成されていない遺伝子レパートリーのマウスへの導入 IgHγ^(Δ)YACコンストラクト(実施例6及び図11参照)のES細胞へのYACインテグレーションのためにプロトプラスト融合が使用される。キメラマウスが、胚盤胞移植により産生され、交配により生殖系列移行したマウスが樹立される。さらに、重鎖及び軽鎖ノックアウトマウスと交配することにより、B細胞の分化と、この修飾されたIgH YAC由来の(多様化された)一本鎖Igの発現についての解析が可能となる。 (…途中省略…) 必要であれば、IgHγ^(Δ)YACの発現は強化され得る。このために、このYACを保有するトランスジェニックマウスが、いかなるイムノグロブリン遺伝子も発現しない動物と交配される(上記実施例4におけるノックアウトマウスを参照)。そうすることで、ヒト重鎖のみ抗体のレパートリーを樹立し、免疫後、特異的な一本鎖抗体が得られる。」(23ページ3行?23行:下線は当審で付与した。) 上記記載事項(1)に記載のIgHγ^(Δ)YACコンストラクトは、図11によれば、IgH YACのヒトCμとCδの領域が、C_(H)1エキソンのないCγ遺伝子で置換されているから、Cγ重鎖定常領域は、C_(H)1エキソンをコードしないものである。そうすると、引用例には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「ヒトのV_(H)重鎖遺伝子座を発現するトランスジェニックマウスを免疫することにより、抗原特異的なヒト重鎖のみ抗体を製造する方法であって、ここで、 トランスジェニックマウスのV_(H)重鎖遺伝子座は、再構成されていない複数のヒトV_(H)遺伝子セグメントと、D遺伝子セグメントと、J遺伝子セグメントと、Cγ重鎖定常領域とを含む可変領域を含み、 定常領域は、C_(H)1エキソンをコードしていないものである、方法。」 3.対比 本願発明には、「(b1)?(d1)」及び「(b2)?(f2)」のステップが択一的に記載されており、以下「(b1)?(d1)」を選択した態様の下記の本願発明について検討する。 「(a)異種のV_(H)重鎖遺伝子座を発現するヒトを除くトランスジェニック哺乳類に抗原を注射するステップと、ここで、 (i)V_(H)重鎖遺伝子座は、少なくとも一つの天然のV_(H)遺伝子セグメントと、少なくとも一つのD遺伝子セグメントと、少なくとも一つのJ遺伝子セグメントと、少なくとも一つの重鎖定常領域とを含む可変領域を含み、かつ、前記V_(H)、D及びJ遺伝子セグメントはヒト由来であり、 (ii)各定常領域は機能性C_(H)1ドメインをコードしておらず、 (iii)V遺伝子セグメント、D遺伝子セグメント及びJ遺伝子セグメントは、組み換えられてVDJコーディング配列を生成でき、 (iv)前記組み換えられたV_(H)重鎖遺伝子座は、発現されると、機能性C_(H)1ドメインを欠いた定常エフェクター領域と抗原特異的可溶性V_(H)ドメインとを含む可溶性の重鎖のみ抗体を生成でき、 (b1)目的とする抗原特異的重鎖のみ抗体を発現する細胞又は組織を単離するステップと、 (c1)ステップ(b1)の細胞又は組織からハイブリドーマを産生するステップと、 (d1)ステップ(c1)のハイブリドーマからクローニングされたmRNAから抗原特異的可溶性V_(H)ドメインを同定し単離するステップと、 を含む、溶解状態のまま生理的溶媒中で活性である抗原特異的可溶性V_(H)ドメインを製造する方法。」 そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明におけるヒトV_(H)遺伝子セグメントも天然のものであり、さらに、ヒト抗体を発現するトランスジェニックマウスを免疫する際に、抗原を注射することは通常行うことであるから、両者は、 「ヒトのV_(H)重鎖遺伝子座を発現するトランスジェニックマウス抗原を注射するステップを含み、ここで、 V_(H)重鎖遺伝子座は、少なくとも1つの天然のヒトV_(H)遺伝子セグメントと、少なくとも一つのD遺伝子セグメントと、少なくとも一つのJ遺伝子セグメントと、一つの重鎖定常領域とを含む可変領域を含み、かつ、前記V_(H)、D及びJ遺伝子セグメントはヒト由来であり、 定常領域は機能性C_(H)1ドメインをコードしていないものである、 抗原特異的重鎖のみ抗体を製造する方法」に関するものである点で一致し、 以下の3点で相違する。 (相違点1)本願発明は、さらに「(b1)目的とする抗原特異的重鎖のみ抗体を発現する細胞又は組織を単離するステップと、(c1)ステップ(b1)の細胞又は組織から、ハイブリドーマを産生するステップと、(d1)ステップ(c1)のハイブリドーマからクローニングされたmRNAから抗原特異的可溶性V_(H)ドメインを同定し単離するステップ」とを含む、「抗原特異的V_(H)ドメインを製造する方法」であるのに対し、引用発明は、「抗原特異的重鎖のみ抗体を製造する方法」であって、さらに(b1)?(d1)のステップを付加することは特定されていない点。 (相違点2)本願発明は、V遺伝子セグメント、D遺伝子セグメント及びJ遺伝子セグメントは、組み換えられてVDJコーディング配列を生成でき、組み換えられたV_(H)重鎖遺伝子座は、発現されると、機能性C_(H)1ドメインを欠いた定常エフェクター領域と抗原特異的V_(H)ドメインとを含む重鎖のみ抗体を生成できるものであるのに対し、引用発明は、その点が明示されていない点。 (相違点3)本願発明は、抗原特異的重鎖のみ抗体、抗原特異的V_(H)ドメインが可溶性であり、抗原特異的V_(H)ドメインは、溶解状態のまま生理的溶媒中で活性であるのに対し、引用発明は、重鎖のみ抗体またはそれに含まれるV_(H)ドメインが可溶性であることについて明示されていない点。 4.当審の判断 (相違点1について) 動物を特定の抗原で免疫することにより、該抗原に対する抗体を得る方法において、目的の抗体を選別するために、抗体産生細胞からハイブリドーマを作製すること、及び、ハイブリドーマから、目的の抗体をコードする遺伝子を取得することは、本願優先日前既に周知慣用の手段である。 また、あるタンパク質において、その特定の活性を有する部分を同定し、低分子化されたその部分のみで、当該活性を担うようにすることは、当業者にとって周知の課題であり、抗体においても、抗体の抗原結合活性のみを利用する場合に、抗原結合活性を有する抗体の部分である可変領域を同定し単離することは、当業者に周知の技術である。そうすると、引用発明において、さらに、上記(b1)?(d1)のような工程を設けることにより、抗原特異的V_(H)ドメインを製造することは当業者が必要に応じて随時なし得ることである。 (相違点2について) 引用発明も、ヒト重鎖のみ抗体を製造する方法であるから、導入されたヒトのV_(H)重鎖遺伝子座における、V遺伝子セグメント、D遺伝子セグメント及びJ遺伝子セグメントが、組み換えられてVDJコーディング配列を生成し、発現されると、機能性C_(H)1ドメインを欠いた定常エフェクター領域と抗原特異的V_(H)ドメインとを含む重鎖のみ抗体を生成するものであることは、技術常識からみて明らかである。よって、この点は、実質的な相違点とはいえない。 (相違点3について) 引用発明における重鎖のみ抗体も、本願発明における重鎖のみ抗体と同様に、インビボにおいて、正常なVDJ遺伝子再構成と体細胞変異とB細胞成熟を経た成熟B細胞により産生されるものである。そして、可溶性で生理的溶媒中で活性である抗体を提示できないB細胞は、成熟過程で淘汰されるため、B細胞成熟を経て生き残る成熟B細胞は、可溶性で溶解状態のまま生理的溶媒中で活性である重鎖のみ抗体を産生できるもののみになっているはずであるから、引用発明における重鎖のみ抗体及びその一部であるV_(H)ドメインも、可溶性であるといえる。よって、この点は、実質的な相違点とはいえない。 (本願発明の効果について) 本願の明細書においては、二つのラマのV_(HH)遺伝子セグメント、ヒトのDセグメントとJセグメント及びC_(H)1を含まない定常領域からなる重鎖のみ抗体の遺伝子座を含有するトランスジェニックマウスを作製し、該トランスジェニックマウスを、特定の抗原で免疫することにより、該抗原に特異的な重鎖のみ抗体が得られたこと、及び、これらのトランスジェニックマウスでは、さまざまな組み合わせによるVDJ組換え、及び、体細胞変異が起こっており、多様な抗体のレパートリーに寄与していることが具体的に示されているのみであり(【0229】?【0239】)、ヒトV_(H)遺伝子セグメントを用いた重鎖のみ抗体の遺伝子座を含むトランスジェニックマウスを作製し、該トランスジェニックマウスを免疫することにより重鎖のみ抗体及びそのV_(H)ドメインを実際に得たことについては具体的に記載されていないから、本願発明において奏される効果が、引用例の記載から予測できない程の格別なものとはいえない。 よって、本願発明は、引用例の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 5.審判請求人の主張 審判請求人は、平成26年10月8日付けの意見書において、以下のとおり主張している。 「引用文献2の実施例6及び7は、複数のヒトVHセグメント、Dセグメント、Jセグメントと、CH1エキソンのないCγ重鎖定常領域を含むヒト重鎖遺伝子座導入したトランスジェニックマウスを免疫することにより、特異的なヒト重鎖のみ抗体が得られるという予見的な仮説を記載しています。 しかし、上記記載は具体的根拠を伴わない単なる仮説であり、実際の実験データにより裏付けられたものではありません。引用文献2は、実施例6及び7の方法によって実際にヒト重鎖のみ抗体を得ることができるかどうかについて検証していません。」 「本願出願時、トランスジェニック哺乳動物に導入した異種の重鎖のみの遺伝子座が、抗原刺激に応じて正常な組換えプロセスを経て、重鎖のみ抗体を生成できるとは考えられていませんでした。引用文献2も、ラクダVHH重鎖のみ抗体を生成するB細胞がどのように成熟するかは十分に理解されていなかったことが記載されています(第2頁第24行参照)。さらに、引用文献2は、ラクダにおいては、独特のリンパ球細胞のサブ集団が重鎖のみ抗体を生成するための免疫応答に関与している可能性もあると記載しており(第2頁第26?27行参照)、この記載からも、トランスジェニック哺乳動物に異種の重鎖のみの遺伝子座を導入しても、重鎖のみ抗体を生成させることはできないと考えられていたことがわかります。」 「さらに、本願出願時の技術常識では、ラクダVHH遺伝子セグメントに特有の4つの親水性アミノ酸を含まない、非ラクダ科動物のVH遺伝子セグメントを使用して可溶性のVH重鎖のみ抗体を生成することはできないと考えられていました(本願明細書の段落[0015]?[0016]参照)。天然のヒトVH遺伝子セグメントを含むVH重鎖遺伝子座が、正常なVDJ遺伝子再構成と体細胞変異とB細胞成熟を経て、VH重鎖のみ抗体を発現できることは、本願出願前にはまったく予想されていなかったことです。 したがって、天然のヒトVH、D及びJ遺伝子セグメントを含むVH重鎖遺伝子座が、正常な組換えプロセスを経て重鎖のみ抗体を生成することを特徴とする補正後の請求項1に係る発明は、引用文献2の記載に基づいて当業者が容易になし得たものではなく、当業者の予想し得ない優れた効果を有するものであり、十分な進歩性を有するものです。」 しかしながら、引用文献2の記載が実際の実験データにより裏付けられたものでなく、トランスジェニック哺乳動物に導入した異種の重鎖のみの遺伝子座が抗原刺激に応じて正常な組換えプロセスを経て重鎖のみ抗体を生成できるか否か不明であり、溶解性の低い非ラクダ科動物のV_(H)遺伝子セグメントを使用して可溶性のV_(H)重鎖のみ抗体を生成できるか否かが不明であったとしても、引用文献2には、ヒトV_(H)遺伝子セグメントを含む重鎖遺伝子座を有するトランスジェニック動物を用いて、重鎖のみ抗体を生成させることについて、一応記載されているのであるから、引用文献2の開示と、周知技術に基づいて、ヒト重鎖のみ抗体及びヒトV_(H)ドメインが得られるものと予想することは、当業者が容易になし得ることである。 一方、上記4.(本願発明の効果について)でも述べたとおり、本願明細書にも、ヒトV_(H)遺伝子セグメントを用いた具体的な実験データは存在しないから、本願発明において奏される効果が、引用文献2と比較して格別なものであるとは認められない。 よって、上記審判請求人の主張は採用できない。 6.むすび 以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-10-30 |
結審通知日 | 2014-10-31 |
審決日 | 2014-11-11 |
出願番号 | 特願2007-522034(P2007-522034) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C12N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 千葉 直紀、清水 晋治 |
特許庁審判長 |
鈴木 恵理子 |
特許庁審判官 |
飯室 里美 高堀 栄二 |
発明の名称 | 結合分子 |
代理人 | 河村 英文 |
代理人 | 奥山 尚一 |
代理人 | 有原 幸一 |
代理人 | 有原 幸一 |
代理人 | 松島 鉄男 |
代理人 | 松島 鉄男 |
代理人 | 奥山 尚一 |
代理人 | 河村 英文 |
代理人 | 水島 亜希子 |
代理人 | 水島 亜希子 |