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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2014800048 審決 特許
無効2013800084 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C12G
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C12G
管理番号 1299212
審判番号 無効2014-800125  
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-07-22 
確定日 2015-03-30 
事件の表示 上記当事者間の特許第4143992号発明「アルコール発酵を伴う酒類の仕込方法及び装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4143992号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件無効審判の請求に係る特許第4143992号(以下「本件特許」という。)は、平成12年8月2日に出願され、平成20年6月27日に設定登録がされたものである。
これに対し、平成26年7月22日に請求人より本件無効審判が請求され、平成26年8月18日付けで請求書の副本を被請求人に送達し、期間を指定して、答弁書を提出する機会を与えたが、上記期間内に被請求人から答弁書の提出はなかった。
そして、平成26年11月11日付けで審決の予告をしたが、被請求人から訂正の請求はなされなかった。
以下、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含まず、「・・・」は記載の省略を意味し、丸付き数字は「○1」のように表記する。また、証拠は、例えば甲第1号証を甲1のように略記する。

第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
仕込み用の汲水の一部又は全部を使用して固形原料と混合しながら輸送する混合輸送工程を構成し、この混合輸送工程による発酵タンクへの固形原料と汲水との投入後に発酵を行うに当たって、前記発酵タンクまで固形原料と混合されて輸送される汲水を固形原料から分離し、分離した汲水を前記混合輸送工程へ返水することにより、この混合輸送工程において輸送用の汲水として再使用する、アルコール発酵を伴う酒類の仕込方法。
【請求項2】
一次仕込みに使用する前記固形原料が麹だけである、請求項1に記載のアルコール発酵を伴う酒類の仕込方法。
【請求項3】
汲水と仕込原料を混合する混合装置に輸送ポンプを接続し、この輸送ポンプから発酵タンクまでを輸送配管で接続すると共に、発酵タンクまで搬送された汲水を固形原料と分離する分離装置を設け、分離装置と分離した汲水を前記混合装置へ返水する返水ポンプを返水配管で接続し、この返水ポンプと前記混合装置を接続するアルコール発酵を伴う酒類の仕込み装置。」

第3 請求人の主張
請求人は、本件発明1ないし3についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として甲1ないし甲9を提出し、以下の無効理由を主張する。

無効理由1:(29条1項3号)
本件発明1及び本件発明3は、甲1に記載された発明である。
無効理由2:(29条2項)
本件発明1は、甲1ないし甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明3は、甲1ないし甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
無効理由3:(29条2項)
本件発明2は、甲1ないし甲9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

<証拠方法>
甲1:実藤久光、「37BYにおける仕込方法の合理化について」、日本醸造協会雑誌、財団法人日本醸造協会、昭和38年11月15日、第58巻、第11号
甲2:特開昭48-10295号公報
甲3:実願昭50-75436号(実開昭51-153799号)のマイクロフィルム
甲4:特公昭43-8701号公報
甲5:西谷尚道、他28名、「本格焼酎製造技術」、財団法人日本醸造協会、平成3年12月10日
甲6:岩野君夫、他3名、「麦焼酎醪の並行複発酵の解析について」、日本醸造協会雑誌、財団法人日本醸造協会・日本醸造学会、昭和63年7月15日、第83巻、第7号
甲7:特開平11-178519号公報
甲8:特開2000-125840号公報
甲9:三枝維彦、他1名、「全麹仕込み焼酎の香気生成制御」、日本醸造協会誌、財団法人日本醸造協会・日本醸造学会、平成6年6月15日、第89巻、第6号

上記甲3について、審判請求書の「8.証拠方法 (4)証拠の表示」の欄には、実開昭51-153799号公報と記載されているが、添付された写しはマイクロフィルムのものであるから、上記のとおり、甲3は、実願昭50-75436号(実開昭51-153799号)のマイクロフィルムであると認める。

第4 当審の判断
1.無効理由1について
(1)甲1の記載
甲1には、以下の記載がある。

「* 冨安本家酒造株式会社」(29ページ左下脚注欄)

「3.むし米ポンプ輸送
○1 放冷迄の原料処理を階下でやり仕込操作は階上でやるため,放冷機から出たむし米は,ホイストで吊り上げて仕込タンクまで台車運搬をしていたが,ポンプ水輸送が簡便と思い一部のもろみでポンプ輸送仕込みを試みた。
・・・
○3 装置の大略は第3図のとおりである。


○4 仕込水タンク(A)より予定量の仕込水の一部をむし米投入タンク(B)へ入れ渦巻ポンプ(P_(1))環流水ポンプ(P_(2))を作動し,分離機(D)とホース(C及びE)に水を満して後,投入タンク(B)へ放冷機よりのむし米を投入する。むし米は仕込水と共に輸送されて分離機に至り,ここのステンレス網コンベア上でむし米と水とに分離され,むし米のみ仕込タンク(T)に流下し,仕込水は再び投入タンク(B)に還流する。むし米がタンクに流下している時にこうじ車(F)よりこうじを徐々に落す。むし米輸送が終って予定残量の仕込水を輸送すれば仕込みは終了となる。
・・・
○11 仕込後の経過は特に普通仕込法のもろみと違った点はなかった。」(29ページ右欄下から3行ないし30ページ右欄13行)

「第2表 酒造操作時刻表」(31ページの第2表の見出し)

第3図より把握される装置各部の接続関係も考慮すると、上記記載より、甲1には、以下の各発明が記載されていると認められる。

「仕込水タンク(A)より予定量の仕込水の一部をむし米投入タンク(B)へ入れ、渦巻ポンプ(P_(1))及び環流水ポンプ(P_(2))を作動し、分離機(D)とホース(C及びE)に水を満して後、投入タンク(B)へ放冷機よりのむし米を投入し、
むし米は仕込水と共に輸送されて分離機(D)に至り、ここのステンレス網コンベア上でむし米と水とに分離され、むし米のみ仕込タンク(T)に流下し、仕込水は再び投入タンク(B)に還流し、
むし米が仕込タンク(T)に流下している時にこうじ車(F)よりこうじを徐々に落とし、
むし米輸送が終って予定残量の仕込水を輸送すれば仕込みは終了となる
仕込み方法。」(以下「甲1発明1」という。)

「仕込水とむし米が投入される投入タンク(B)に渦巻ポンプ(P_(1))を接続し、
渦巻ポンプ(P_(1))と仕込タンク(T)直上の分離機(D)を輸送ホース(C)で接続し、
分離機(D)は、むし米と水とに分離するものであり、
分離機(D)と分離された仕込水を投入タンク(B)に還流する環流水ポンプ(P_(2))をホースで接続し、環流水ポンプ(P_(2))と投入タンク(B)を環流水ホース(E)で接続する
仕込み装置。」(以下「甲1発明2」という。)

(2)本件発明1について
本件発明1と甲1発明1を対比する。
甲1発明1の「仕込水」、「むし米」は、それぞれ、本件発明1の「仕込み用の汲水」、「固形原料」に相当する。
甲1発明1は、「仕込水タンク(A)より予定量の仕込水の一部をむし米投入タンク(B)へ入れ、渦巻ポンプ(P_(1))及び環流水ポンプ(P_(2))を作動し、分離機(D)とホース(C及びE)に水を満して後、投入タンク(B)へ放冷機よりのむし米を投入」するから、投入タンク(B)において、仕込水の一部とむし米が混合されることは明らかであり、更に、「むし米は仕込水と共に輸送されて分離機(D)に至」ることから、その輸送過程でも両者が混合されることが明らかである。そうすると、甲1発明1の「仕込水タンク(A)より予定量の仕込水の一部をむし米投入タンク(B)へ入れ、渦巻ポンプ(P_(1))及び環流水ポンプ(P_(2))を作動し、分離機(D)とホース(C及びE)に水を満して後、投入タンク(B)へ放冷機よりのむし米を投入し、むし米は仕込水と共に輸送されて分離機(D)に至り」との工程は、本件発明1の「仕込み用の汲水の一部を使用して固形原料と混合しながら輸送する混合輸送工程」に相当する。
甲1発明1が、「むし米が仕込タンク(T)に流下している時にこうじ車(F)よりこうじを徐々に落と」すものであって、甲1に、「○11 仕込後の経過は特に普通仕込法のもろみと違った点はなかった。」と記載されていることも参酌すると、甲1発明1の仕込後に「仕込タンク(T)」で発酵を行うことは明らかである。そして、甲1の29ページ左下脚注欄に、著者についての注釈として「* 冨安本家酒造株式会社」と記載され、31ページの第2表の見出しとして「酒造操作時刻表」と記載されていることを参酌すれば、甲1発明1が、アルコール発酵を伴う酒の仕込方法であることも明らかである。よって、甲1発明1の「仕込タンク(T)」は、本件発明1の「発酵タンク」に相当し、甲1発明1の「むし米が仕込タンク(T)に流下している時にこうじ車(F)よりこうじを徐々に落とし、むし米輸送が終って予定残量の仕込水を輸送すれば仕込みは終了となる仕込み方法」は、本件発明1の「混合輸送工程による発酵タンクへの固形原料と汲水との投入後に発酵を行うに当たって」なされる「アルコール発酵を伴う酒類の仕込方法」に相当する。
甲1発明1の「むし米は仕込水と共に輸送されて分離機(D)に至り、ここのステンレス網コンベア上でむし米と水とに分離され」は、本件発明1の「前記発酵タンクまで固形原料と混合されて輸送される汲水を固形原料から分離し」に相当し、甲1発明1の「むし米のみ仕込タンク(T)に流下し、仕込水は再び投入タンク(B)に還流し」は、本件発明1の「分離した汲水を前記混合輸送工程へ返水することにより、この混合輸送工程において輸送用の汲水として再使用する」に相当する。

よって、本件発明1と甲1発明1とは、
「仕込み用の汲水の一部を使用して固形原料と混合しながら輸送する混合輸送工程を構成し、この混合輸送工程による発酵タンクへの固形原料と汲水との投入後に発酵を行うに当たって、前記発酵タンクまで固形原料と混合されて輸送される汲水を固形原料から分離し、分離した汲水を前記混合輸送工程へ返水することにより、この混合輸送工程において輸送用の汲水として再使用する、アルコール発酵を伴う酒類の仕込方法。」
の点で一致し、相違点はない。
したがって、本件発明1は、甲1発明1であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。

(3)本件発明3について
本件発明3と甲1発明2を対比する。
上記(2)で述べたのと同じく、甲1発明2の「仕込タンク(T)」は、本件発明3の「発酵タンク」に相当し、甲1発明2の「仕込み装置」は、本件発明3の「アルコール発酵を伴う酒類の仕込み装置」に相当する。
甲1発明2の「仕込水」、「むし米」は、それぞれ、本件発明3の「汲水」、「仕込原料(固形原料)」に相当する。
甲1発明2の「投入タンク(B)」は、仕込水とむし米が投入されるものであって、該投入タンク(B)内で仕込水とむし米は混合されることとなるから、本件発明3の「汲水と仕込原料を混合する混合装置」に相当する。
甲1発明2の「渦巻ポンプ(P_(1))」は、本件発明3の「輸送ポンプ」に相当し、甲1発明2の「投入タンク(B)に渦巻ポンプ(P_(1))を接続し」は、本件発明3の「混合装置に輸送ポンプを接続し」に相当する。
甲1発明2の「渦巻ポンプ(P_(1))と仕込タンク(T)直上の分離機(D)を輸送ホース(C)で接続し」は、分離機(D)が、むし米を水と分離して仕込タンク(T)に供給するものであることを考慮すると、本件発明3の「輸送ポンプから発酵タンクまでを輸送配管で接続する」に相当する。
甲1発明2の「分離機(D)」は、仕込タンク(T)直上でむし米と水とに分離するものであるから、本件発明3の「発酵タンクまで搬送された汲水を固形原料と分離する分離装置」に相当する。
甲1発明2の「分離された仕込水を投入タンク(B)に還流する環流水ポンプ(P_(2))」は、本件発明3の「分離した汲水を前記混合装置へ返水する返水ポンプ」に相当する。
甲1発明2の「分離機(D)と分離された仕込水を投入タンク(B)に還流する環流水ポンプ(P_(2))をホースで接続し」は、本件発明3の「分離装置と分離した汲水を前記混合装置へ返水する返水ポンプを返水配管で接続し」に相当し、甲1発明2の「環流水ポンプ(P_(2))と投入タンク(B)を環流水ホース(E)で接続する」は、本件発明3の「この返水ポンプと前記混合装置を接続する」に相当する。

よって、本件発明3と甲1発明2とは、
「汲水と仕込原料を混合する混合装置に輸送ポンプを接続し、この輸送ポンプから発酵タンクまでを輸送配管で接続すると共に、発酵タンクまで搬送された汲水を固形原料と分離する分離装置を設け、分離装置と分離した汲水を前記混合装置へ返水する返水ポンプを返水配管で接続し、この返水ポンプと前記混合装置を接続するアルコール発酵を伴う酒類の仕込み装置。」
の点で一致し、相違点はない。
したがって、本件発明3は、甲1発明2であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。

2.無効理由2について
(1)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、両者の一致点は、前記1.(2)のとおりであって、相違点はない。しかし、本件特許の明細書に「一次仕込では、汲水と麹を、連続的に混合装置1に投入する。汲水と麹は、定量的に供給するほうが安定した混合と搬送を行うことができる。」(【0011】)と記載されていることを参酌し、以下の点が相違点であるとして、更に検討する(下線は当審による。以下同じ。)。
[相違点1]
混合輸送工程で輸送される固形原料が、本件発明1は、麹を含むものであるのに対し、甲1発明1はむし米である点。

イ.判断
(ア)甲2には、「酒造原料の連続仕込方法」(発明の名称)に関し、「放冷機(A)のコンベアで運ばれきた蒸米は、順次混和タンク(B)中に落下し、前記仕込水の流動により粒ごとに分離してバラバラになる。この混合タンク(B)中にホッパー(E)からパイプ(2)を通じて麹を、また任意の方法で酒母、乳酸などを所定の比率にしたがつて投入する。ために必要な諸原料は混和タンク(B)中で水流により自動的に撹枠され各所均斉になる。そこで適当なポンプを用い、パイプ(1)を経て混和タンク(B)中の混和原料液を分離器に送液すると、原料中の固形物は水分を含んだ状態で分離器からマンホールを通じ、仕込タンク(c)中に落下し、残余の汲水は該固形物と分離して分離器の下底に入り、パイプ(3)を経て混和タンク(B)に帰流する。」(2ページ左上欄18行ないし右上欄12行)と記載されている。
(イ)甲3には、「清酒、味淋等の仕込装置」(考案の名称)に関し、「この考案の清酒、味淋等の仕込装置を使用するには、材料ホツパー(1)に蒸米と麹とを適当に入れ、ホツパー(1)に備えた注水ノズル(10)から適量ずつの仕込水(清酒の場合)又は焼ちゆう(味淋の場合)を流入させながら、ホツパー(1)の下端を受けて取付けた円筒(2)の内部で回転軸(3)の外周に螺旋状の押出板(4)を取付けた撹拌押出装置を電動機(11)で回転させて、蒸米と麹と仕込水又は焼ちゆうを混合させて・・・混合された原料を仕込タンクに送り込む様にしてある・・・輸送液分離器(9)に於て混入された液体の1部を分離して原料ホツパー(1)に還流させる様になつているのである。」(3ページ16行ないし4ページ15行)と記載されている。
(ウ)上記(ア)、(イ)のとおり、甲2、甲3には、酒類を仕込む際、仕込水と共に「麹」を原料として輸送する技術事項が記載され、また、甲2、甲3に記載された仕込み方法は、固形原料と混合されて輸送される汲水を固形原料から分離して還流させる点で甲1発明1と共通するものである。
そうすると、甲1発明1と共通の仕込み方法を開示する上記甲2、甲3に記載された技術事項を勘案し、甲1発明1において、こうじ車(F)よりこうじを供給することに代えて、仕込水と共に麹を輸送することは、当業者が容易に想到し得たことである。
よって、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1発明1及び甲2、甲3に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものである。
(エ)そして、本件発明1が、甲1発明1及び甲2、甲3に記載された技術事項から予測できない格別の効果を奏するとも認められない。
したがって、本件発明1は、甲1発明1及び甲2、甲3に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(2)本件発明3について
ア.対比
本件発明3と甲1発明2とを対比すると、両者の一致点は、前記1.(3)のとおりであって、相違点はない。しかし、本件特許の明細書に「一次仕込では、汲水と麹を、連続的に混合装置1に投入する。汲水と麹は、定量的に供給するほうが安定した混合と搬送を行うことができる。」(【0011】)、「混合装置1に投入された汲水と麹は、少量づつ連続的に混合装置1の攪拌操作により混合される。」(【0013】)、「発酵タンク4に仕込まれた汲水は、返水装置5aを透過し返水配管6を通して返水ポンプ7により返水され、切替バルブ8からノズル12、撹拌羽根13を経て混合装置1に供給される。」(【0019】)と記載されていることを参酌し、以下の点が相違点であるとして、更に検討する。
[相違点1’]
仕込原料が、本件発明3は、麹を含むものであるのに対し、甲1発明2はむし米である点。
[相違点2]
混合装置が、本件発明3は、撹拌手段を備えたものであるのに対し、甲1発明2は投入タンク(B)である点。

イ.判断
(ア)相違点1’についての判断は、相違点1についての判断と同様であり(前記(1)イ.参照。)、相違点1’に係る本件発明3の構成は、甲1発明2及び甲2、甲3に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものである。
(イ)甲2には、前記(1)イ.(ア)で指摘した事項に加え、「本発明においては仕込タンクのほかに、これより小さい別個の混和タンクを設け、これに仕込用の冷水を張り、この中に冷却した蒸米を順次落し入れ、仕込水を水中ポンプなどにより絶えず撹拌する。」(1ページ右下欄15ないし19行)と記載されている。また、甲3には、前記(1)イ.(イ)で指摘した事項が記載されている。
(ウ)甲4には、「今、米蒸し装置イから送られる蒸米をホツパ-16から槽1中に投入するとともに定量給水装置18’を開栓して給水ノズル18から蒸米に対して定められた適量の水を供給したうえモーター9を駆動させて噛合する歯車8,8’を介し回動軸5,5’を相反する方向に回動させれば、蒸米は並設した2本の該回動軸5,5’に相互に食い違いに取付けた羽根7,7’の回動に伴いよく水と混和撹拌されつつ底板部2の傾斜によつて基方に向け逐次移動して」(1ページ右欄13ないし22行)、「このようにして槽1の底板部2の基方に移動した蒸米と水の均質に混和した流動物は槽1の基方内にその吸込口を該昇降装置11により流動物量に応じた適当位置に臨むよう調節されるポンプ10がモーター12の駆動により働くことによつて導管13、水分離還流装置14を経て仕込槽15に矢示のように送られるものである。なお、槽1中の水が流動物をポンプ10で円滑に吸込むのに不足する場合には、水分離還流装置14のコック19,19を開栓しておけば、水分離還流装置14から仕込槽15に送られる流動物から一部の水を分離してこの水を導管20,20から給水ノズル21を経て槽1に還流することができるものである。」(1ページ右欄28ないし41行)と記載されている。
(エ)上記(イ)、(ウ)のとおり、甲2ないし甲4には、固形原料と汲水を、撹拌手段を備えた混合装置により混合させる技術事項が記載され、また、甲2ないし甲4に記載された仕込み装置は、固形原料と混合されて輸送される汲水を固形原料から分離して還流させる点で甲1発明2と共通するものである。
そうすると、甲1発明2と共通の仕込み装置を開示する上記甲2ないし甲4に記載された技術事項を勘案し、甲1発明2の投入タンク(B)を、撹拌手段を備えた混合装置とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
よって、相違点2に係る本件発明3の構成は、甲1発明2及び甲2ないし甲4に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものである。
(オ)そして、本件発明3が、甲1発明2及び甲2ないし甲4に記載された技術事項から予測できない格別の効果を奏するとも認められない。
したがって、本件発明3は、相違点1’及び相違点2について総合判断しても、甲1発明2及び甲2ないし甲4に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3.無効理由3について
(1)対比
本件発明2と甲1発明1とを対比すると、両者の一致点は、前記1.(2)のとおりであり、以下の点で相違する。
[相違点3]
固形原料に関し、本件発明2は、「一次仕込みに使用する前記固形原料が麹だけである」と特定しているのに対し、甲1発明1は、固形原料が「むし米」である点。

(2)判断
ア.甲5には、「本格焼酎製造技術」に関し、以下の記載がある。
「焼酎醪は基本的には酒母に相当する一次醪と,一次醪に主原料と水を加えた主醪の二次醪から成る二段仕込みが一般的である。」(114ページ6ないし7行)
「一次醪は麹と水のみを原料に酵母を加えて3?8日開発酵させたもので、二次醪を順調な発酵に導く酒母的要素を持った醪である。」(117ページ下から6ないし5行)
「泡盛は,他の焼酎の一次醪に相当するものを蒸留するので,原料は米麹と水だけの全麹仕込みである。」(129ページ1ないし3行)
イ.甲6には、「麦焼酎醪の並行複発酵の解析について」と題して、以下の記載がある。
「2.仕込み
一次仕込みには焼酎白麹25g,くみ水30mlとして,酵母は協会焼酎2号酵母(SH-4)をYM培地で前培養したものを1仕込み当たり1.l×10^(9)ヶ添加した。発酵は25℃で6日間行った。
二次仕込みは掛原料100g,くみ水170mlとし,くみ水の一部に濃縮酵素液を使用し,全ての酵素の原料1g当りの仕込活性を2,4,6,8,12倍まで高めた仕込みを行った。発酵は25℃で14日間とした。」(491ページ右欄10ないし18行)
ウ.甲7には、以下の記載がある。
「【0026】イモ焼酎の製造
原料米1000kgを水洗した後、水中に2時間浸漬し、30分間水切りしついで50分間蒸煮した。かく得られた蒸煮米に焼酎用種麹の河内菌白麹(Aspergillsawamori mut.kawachii)(1000g)を接種し、約35℃前後の温度で約40時間、菌を培養して、製麹した。かく製造された麹に水(一次仕込み水)1200L を加え、更に、酵母菌100gを加えて一次醪(酒母)を製造し、約7日間発酵させた(一次仕込み)。」
エ.甲8には、以下の記載がある。
「【0014】こうして得られた酵母培養液の適量を、麹に水を仕込に際して添加し、18?30℃で5?10日間糖化発酵させて、通常のもろみ管理を行なう。こうして一次もろみを得る。
【0015】次に、前記一次もろみに、常法により加熱変性(蒸煮、蒸きょうなど)処理をした掛け原料、および必要により水を添加し、混合した後常法により18?30℃で10?20日間さらに糖化発酵させて熟成もろみを得る。・・・このことから、醗酵が終了した一次もろみへ掛け原料を仕込む際に用いる仕込水は、総汲水歩合が前記した範囲に収まるように調整して添加するのが好ましい。このようにして得られた前記熟成もろみを、常法により蒸留することにより、焼酎を得ることができる。」
オ.甲9には、「全麹仕込焼酎の香気生成制御」と題して、以下の記載がある。
「全麹仕込みと言えば黒麹菌を用いた沖縄の泡盛が有名であるが,ここでは九州で焼酎製造に常用されている白麹菌を使用した。すなわち,河内菌白麹の種麹を用いて,製麹時間の異なる米麹を造り,鹿児島焼酎酵母の培養菌体と水および米麹を混合して全麹仕込みを行った。」(435ページ左欄1 7行ないし右欄4行)
カ.上記甲5ないし甲9の記載によれば、焼酎製造において、水と麹だけを原料とした一次仕込みを行うことが周知技術であると認められる。
甲1発明1の仕込み方法において、仕込水と共に麹を輸送することは、2.(1)イ.に示すとおり、当業者が容易に想到し得たことであるから、上記甲5ないし甲9に示される周知技術を勘案すれば、甲1発明1の仕込み方法を、焼酎製造の一次仕込みに適用すべく、仕込水と共に麹だけを輸送するものとすること、すなわち相違点3に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
キ.そして、本件発明2が、甲1発明1及び甲2、甲3に記載された技術事項、甲5ないし甲9に示される周知技術から予測できない格別の効果を奏するとも認められない。
したがって、本件発明2は、甲1発明1及び甲2、甲3に記載された技術事項、甲5ないし甲9に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 結び
本件発明1及び本件発明3についての特許は、請求人が主張する無効理由1及び無効理由2により、無効とすべきものである。
本件発明2についての特許は、請求人が主張する無効理由3により、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-04 
結審通知日 2015-02-06 
審決日 2015-02-17 
出願番号 特願2000-233962(P2000-233962)
審決分類 P 1 113・ 121- Z (C12G)
P 1 113・ 113- Z (C12G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田村 明照  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 紀本 孝
山崎 勝司
登録日 2008-06-27 
登録番号 特許第4143992号(P4143992)
発明の名称 アルコール発酵を伴う酒類の仕込方法及び装置  
代理人 木村 厚  
代理人 森 寿夫  
代理人 森 廣三郎  

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