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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1299235
審判番号 不服2013-22733  
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-20 
確定日 2015-04-02 
事件の表示 特願2008-258483「超音波診断装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月22日出願公開、特開2010- 88486〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成20年10月3日の出願であって,平成25年2月8日付けで拒絶理由が通知され,同年4月15日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが,同年8月13日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年11月20日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ,同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成25年11月20日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成25年11月20日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲は次のとおり補正された。(下線部は,補正箇所である。)
「【請求項1】
第1方向に沿って配列される複数の振動子と,前記第1方向に直交する第2方向に沿って前記複数の振動子を揺動可能に支持する支持機構と,前記複数の振動子を前記第2方向に沿って揺動させる駆動部とを有する超音波探触子と,
3次元領域内における医用器具の位置を検出する検出部と,
前記検出された医用器具の位置に応じて前記複数の振動子の揺動範囲の大きさと位置との少なくとも一方を変化させるように前記駆動部を制御する揺動制御部と,
を具備する超音波診断装置であって,
前記揺動制御部は,前記検出された医用器具の位置が目標位置に近づくほど前記揺動範囲を狭める,
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記揺動制御部は,前記医用器具の位置を前記揺動範囲の角度範囲に関する中心に設定する,請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記揺動制御部は,前記変化の前における前記揺動範囲の大きさに比して前記変化の後における前記揺動範囲の大きさを狭くする,請求項2記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記複数の振動子を介して前記3次元領域を超音波で走査するために,前記複数の振動子に超音波を繰り返し送受信させる送受信部をさらに備え,
前記送受信部は,前記変化の前における走査線密度に比して前記変化の後における走査線密度を高くする,請求項1乃至3の何れか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記揺動制御部は,前記検出部により前記医用器具の位置が検出されなかった場合,前記揺動範囲の大きさと位置との少なくとも一方を初期状態に戻す,請求項1乃至4の何れか一項に記載の超音波診断装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,平成25年4月15日付けの手続補正による特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
第1方向に沿って配列される複数の振動子と,前記第1方向に直交する第2方向に沿って前記複数の振動子を揺動可能に支持する支持機構と,前記複数の振動子を前記第2方向に沿って揺動させる駆動部とを有する超音波探触子と,
前記複数の振動子を介して3次元領域を超音波で走査するために,前記複数の振動子に超音波を繰り返し送受信させる送受信部と,
前記送受信部からのエコー信号に基づいて前記3次元領域に関するボリュームデータを発生するボリュームデータ発生部と,
前記発生されたボリュームデータ内における医用器具の位置を輝度値に基づいて検出する検出部と,
前記検出された医用器具の位置に応じて前記複数の振動子の揺動範囲の大きさと位置との少なくとも一方を変化させるように前記駆動部を制御する揺動制御部と,
を具備する超音波診断装置。
【請求項2】
前記揺動制御部は,前記医用器具の位置を前記揺動範囲の角度範囲に関する中心に設定する,請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記揺動制御部は,前記変化の前における前記揺動範囲の大きさに比して前記変化の後における前記揺動範囲の大きさを狭くする,請求項2記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記送受信部は,前記変化の前における走査線密度に比して前記変化の後における走査線密度を高くする,請求項1乃至3の何れか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記揺動制御部は,前記検出部により前記医用器具の位置が検出されなかった場合,前記揺動範囲の大きさと位置との少なくとも一方を初期状態に戻す,請求項1乃至4の何れか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
第1方向に沿って配列される複数の振動子と,前記第1方向に直交する第2方向に沿って前記複数の振動子を揺動可能に支持する支持機構と,前記複数の振動子を前記第2方向に沿って揺動させる駆動部とを有する超音波探触子と,
前記3次元領域内における医用器具の位置を検出する検出部と,
前記検出された医用器具の位置に応じて前記複数の振動子の揺動範囲の大きさと位置との少なくとも一方を変化させるように前記駆動部を制御する揺動制御部と,
を具備する超音波診断装置。」

(3)本件補正の目的
本件補正後の請求項1ないし5においては,当該請求項に特定された「医用器具の位置を検出する」という事項について,本件補正前の請求項1ないし5に特定された「輝度値に基づいて検出する」点が特定されていない。
したがって,本件補正が補正前の請求項6を削除して請求項1ないし5を補正したものであるとみれば,本件補正は補正前の請求項6を削除するものの,同時に特許請求の範囲の拡張を伴うから,特許法第17条の2第5項の要件を満たすものではない。
また,本件補正を,請求項1ないし5を削除して請求項6を補正し,それを請求項1にしたものとみることもできるが,このとき本件補正は補正前の請求項1ないし5を削除するものの,同時に請求項2ないし5の増項を伴うものであるから,やはり特許法第17条の2第5項の要件を満たすものではない。

よって,本件補正は,特許法第17条の2第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(4)上記(3)のとおりであるが,仮に,本件補正が特許請求の範囲の減縮に該当するものとして,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か,すなわち,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否かについて,以下に検討する。

ア 補正発明
補正発明は,上記1(1)の【請求項1】に記載したとおりのものである。

イ 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用され,本願出願日前に頒布された刊行物である特開2006-314689号公報(以下「引用例」という。)には,次のことが記載されている。なお,後に引用発明の認定に直接的に利用する箇所に当審が下線を付した。

(ア)「【0003】
また、超音波診断装置は、画像診断のみばかりでなく、例えば肝細胞癌の局所治療法としてラジオ波焼灼療法(RFA)や肝細胞組織を検査する生検等においても用いられる。これらの治療、検査においては、穿刺針を用いて、腫瘍などの関心部位に正確に穿刺を行わなければならない。そのため、リアルタイムで関心領域及び穿刺針をモニタリング可能な超音波診断装置を利用し、超音波プローブに装着された穿刺針が通過する道筋(穿刺パス)等を超音波断面画像上に表示することで、穿刺針が生体内のどの場所まで侵入しているかを明確に把握することができる(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
また、近年の超音波撮像装置においては、実時間三次元表示機能(三次元リアルタイム表示機能)が実用化されている。その手法としては、電子走査式の一次元アレイ振動子を走査面に垂直な方向に機械的に走査することで三次元データ取込領域を走査するメカニカル3Dスキャナを用いるもの(メカ4D操作法)や、振動素子が二次元配列された二次元超音波プローブを用いた電子走査により、三次元データ取込領域の走査を実現するもの(以下、リアルタイム3D操作法)がある(例えば、特許文献3、特許文献4参照)。この様な三次元リアルタイム表示機能により、術者は、治療対象及び穿刺パス等を含む領域を三次元画像等によって観察することができ、穿刺針及び治療対象の位置を的確に認識しながら穿刺術治療を実行することができる。」

(イ)「【0005】
しかしながら、穿刺術治療に用いられる従来の超音波診断装置は、例えば次のような問題がある。
【0006】
すなわち、超音波診断装置においては、超音波を送信しそのエコー信号を受信するという超音波走査を走査線毎に順次実行するという特性上、画像生成に必要なエコー信号を取得するためには一定時間が必要とされる。従って、選択する撮影モードや画角(超音波を照射する範囲)によって実現可能な超音波収集レート(すなわち、超音波走査の繰り返し周期。「フレームレート」とも呼ばれる。)には上限があり、十分なリアルタイム表示を維持することができない場合がある。この問題は、三次元リアルタイム表示を行う場合に特に顕著である。なぜなら、三次元リアルタイム表示では、三次元ボリュームスキャンを行うための時間が必要であり、また、単位時間あたりのデータ転送量が大きくデータ処理のための時間が必要となるからである。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、例えば穿刺治療や組織採取等の穿刺術において、穿刺針及び診断対象を十分に視認可能なフレームレートを常に維持することができる超音波診断装置及び超音波診断装置制御プログラムを提供することを目的としている。」

(ウ)「【0013】
図1は、本実施形態に係る超音波診断装置1のブロック構成図を示している。同図に示すように、本超音波診断装置1は、超音波プローブ11、送信回路12、受信回路13、信号処理部14、画像データ生成部15、メモリ部16、画像構成部17、器具位置情報取得部18、中央制御回路21、器具位置情報処理部22、表示部24、操作部25、記憶部28を具備している。」

(エ)「【0021】
器具位置情報取得部18は、超音波プローブ11に設けられた穿刺針アダプタに設けられており、被検体に刺入される器具(穿刺針)の位置情報を取得する。器具位置情報取得部18は、針刺入角度検出機能および針刺入長検出機能が備わっており、これから針の位置情報(すなわち、針刺入角度、針刺入長)を求めることができる。なお、本実施形態では、穿刺針の位置情報を取得するために当該器具位置情報取得部18を用いているが、これに拘泥されず、穿刺針アダプタ等に装着することなく磁気や光などを用いて位置情報を検出可能な位置センサ等を使用するようにしてもよい。
【0022】
中央制御回路21は、情報処理装置(計算機)としての機能を持ち、本超音波診断装置本体の動作を制御する制御手段であり、記憶部28から画像生成・表示等を実行するための制御プログラムを読み出して自身が有するメモリ上に展開し、各種処理に関する演算・制御等を実行する。特に、中央制御回路21は、器具位置情報処理部22において得られた計算結果(後述)に基づいて、データ収集範囲(エコー信号を収集する範囲)、画像データ生成範囲(信号処理及びボリュームデータ生成の対象とする範囲)、表示範囲(超音波画像として表示する範囲)、パルス繰り返し周波数(PRF:Pulse Repetition Frequency)を制御する。
【0023】
器具位置情報処理部22は、器具位置算出部220、データ収集範囲算出部221、表示範囲算出部222を有している。器具位置算出部220は、器具位置情報取得部18から得られた器具の位置情報をもとに、超音波画像中における穿刺針の位置(特に、先端の位置)を算出する。データ収集範囲算出部221は、算出された穿刺針の位置と予め設定される治療対象の位置とに基づいて、データ収集範囲を算出する。表示範囲算出部222は、算出された穿刺針の位置と予め設定される治療対象の位置とに基づいて、超音波画像による表示範囲を算出する。なお、データ収集範囲算出部221、表示範囲算出部222が行う計算は、例えば所定の計算式や、記憶部28に予め記憶されている位置情報-データ収集範囲テーブル、位置情報-表示範囲テーブルを用いて実行される。」

(オ)「【0030】
図2は、本フレームレート維持制御機能を説明するための概念図である。例えば同図に示す四角錐状の三次元領域が超音波照射(走査)可能範囲である場合、穿刺針Nと診断対象Oとの相対的位置(例えば、穿刺針先端NTと診断対象Oの目的部位OPとの間の距離)に応じて、データ収集範囲を同図に示す円筒領域TRに限縮することで装置における動作負荷を軽減させるものである。このデータ収集範囲の限縮は、器具位置情報処理部22によって算出されたデータ収集範囲を実現するように、例えば送信回路12において超音波送信の画角及び奥行き方向の距離(深さ)を制御し、且つ受信回路13における遅延時間を制御することでエコー信号受信範囲の奥行き方向の距離(深さ)を制御すればよい。
【0031】
なお、図2の例では、穿刺針NTと診断対象Oの目的部位OPとの間の距離に応じて、穿刺パスPSを軸とする円筒領域TRをデータ収集範囲とする例を示している。しかしながら、これに拘泥されず、穿刺針先端NT、目的部位OP、穿刺パスPSを含み超音波照射可能範囲より狭い領域であれば、どの様なものであってもよい。
【0032】
上記穿刺針Nと診断対象Oとの相対的位置に基づくデータ収集範囲の限縮により、一定以上深い領域や一定以上広い領域からの超音波反射を待つ必要がなくなり、超音波送走査に要する時間を短縮することができる。また、通常の超音波走査に比して、信号処理の対象となるデータサイズを小さくすることができる。従って、データ収集範囲の限縮前に比して装置における負荷を軽減させることができ、フレームレートを向上させることができる。」

(カ)「図2



この図2から,超音波照射可能範囲の形状が,超音波プローブ11の体表面位置(図の上部)において超音波プローブ11程度の幅を有し,深さが増すにしたがい幅が広くなる様子が読み取れる。

(キ)技術常識を勘案して以上の記載事項を総合すると,引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「超音波診断装置(1)は,超音波プローブ(11),送信回路(12),受信回路(13),信号処理部(14),画像データ生成部(15),メモリ部(16),画像構成部(17),器具位置情報取得部(18),中央制御回路(21),器具位置情報処理部(22),表示部(24),操作部(25),記憶部(28)を具備し,
超音波プローブ(11)として,電子走査式の一次元アレイ振動子を走査面に垂直な方向に機械的に走査することで三次元データ取込領域を走査するメカニカル3Dスキャナを用い,
超音波プローブ(11)による超音波照射可能範囲が,体表面位置において超音波プローブ(11)程度の幅を有し,深さが増すにしたがい幅が広くなる形状を有し,
器具位置情報取得部(18)は,被検体に刺入される穿刺針の位置情報を取得し,
器具位置情報処理部(22)は,器具位置情報取得部(18)から得られた器具の位置情報をもとに,超音波画像中における穿刺針の先端の位置を算出し,
中央制御回路(21)は,器具位置情報処理部(22)において得られた算出結果に基づいて,データ収集範囲を制御し,
穿刺針先端NTと診断対象Oの目的部位OPとの間の距離に応じて,データ収集範囲を,穿刺針先端NT,目的部位OP,穿刺パスPSを含み超音波照射可能範囲より狭い領域に限縮することにより,一定以上深い領域や一定以上広い領域からの超音波反射を待つ必要がなくなり,超音波走査に要する時間を短縮する超音波診断装置(1)。」

ウ 対比
補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「超音波プローブ」は,補正発明の「超音波探触子」に相当する。
そして,引用発明の「電子走査式の一次元アレイ振動子」が,ある一つの方向に沿って複数の振動子が配列されたものであることは,技術常識から明らかである。したがって,引用発明の「電子走査式の一次元アレイ振動子」は,補正発明の「第1方向に沿って配列される複数の振動子」に相当する。
また,引用発明の「走査面に垂直な方向」の「走査面」は「電子走査」される面であるから,引用発明の「走査面に垂直な方向」は,補正発明の「前記第1方向に直交する第2方向」に相当する。
したがって,引用発明の「電子走査式の一次元アレイ振動子を走査面に垂直な方向に機械的に走査する」「メカニカル3Dスキャナ」と,補正発明の「第1方向に沿って配列される複数の振動子と,前記第1方向に直交する第2方向に沿って前記複数の振動子を揺動可能に支持する支持機構と,前記複数の振動子を前記第2方向に沿って揺動させる駆動部とを有する超音波探触子」とは,「第1方向に沿って配列される複数の振動子と,前記第1方向に直交する第2方向に沿って前記複数の振動子を機械的に走査する超音波探触子」である点で共通する。

(イ)引用発明における「超音波画像」は「三次元データ取込領域を走査する」ことにより得られるから,引用発明における「超音波画像中における穿刺針の先端の位置を算出」することは,「三次元データ取込領域」における「穿刺針の先端の位置を算出」することであると解される。
そして,引用発明の「穿刺針」は,補正発明の「医用器具」に相当する。
さらに,引用発明において,「位置情報を取得し」その「位置情報をもとに」「位置を算出」することは,補正発明において「位置を検出する」ことに相当する。
したがって,引用発明において「被検体に刺入される穿刺針の位置情報を取得」する「器具位置情報取得部」及び「超音波画像中における穿刺針の先端の位置を算出」する「器具位置情報処理部」は,補正発明の「3次元領域内における医用器具の位置を検出する検出部」に相当する。

(ウ)引用発明の「器具位置情報処理部において得られた算出結果に基づいて,データ収集範囲を制御」する「中央制御回路」と,補正発明の「前記検出された医用器具の位置に応じて前記複数の振動子の揺動範囲の大きさと位置との少なくとも一方を変化させるように前記駆動部を制御する揺動制御部」とは,「前記検出された医用器具の位置に応じて,走査範囲を制御する手段」である点で共通する。

(エ)引用発明の「目的部位OP」は,補正発明の「目標位置」に相当する。
そして,引用発明は,「穿刺針先端NTと診断対象Oの目的部位OPとの間の距離に応じて,データ収集範囲を」「超音波照射可能範囲より狭い領域に限縮することにより」「一定以上広い領域からの超音波反射を待つ必要がなくなり,超音波走査に要する時間を短縮する」のであるから,「穿刺針先端NTと診断対象Oの目的部位OPとの間の距離」が短くなるほど「データ収集範囲」,すなわち走査範囲を狭めるのは明らかである。
したがって,引用発明の「穿刺針先端NTと診断対象Oの目的部位OPとの間の距離に応じて,データ収集範囲を,穿刺針先端NT,目的部位OP,穿刺パスPSを含み超音波照射可能範囲より狭い領域に限縮する」ことと,補正発明の「前記検出された医用器具の位置が目標位置に近づくほど前記揺動範囲を狭める」こととは,「前記検出された医用器具の位置が目標位置に近づくほど走査範囲を狭める」点で共通する。

(オ)以上より,補正発明と引用発明との一致点,相違点は次のとおりである。
「一致点」
「第1方向に沿って配列される複数の振動子と,前記第1方向に直交する第2方向に沿って前記複数の振動子を機械的に走査する超音波探触子と,
3次元領域内における医用器具の位置を検出する検出部と,
前記検出された医用器具の位置に応じて,走査範囲を制御する手段と,
を具備する超音波診断装置であって,
前記走査範囲を制御する手段は,前記検出された医用器具の位置が目標位置に近づくほど前記走査範囲を狭める,
超音波診断装置。」

「相違点1」
超音波探触子の「第2の方向」の走査形態について,補正発明では「揺動」であるのに対し,引用発明ではその走査形態が明らかでない。
それ故,引用発明の「超音波プローブ」は「走査面に垂直な方向に機械的に走査する」ものの,「第2方向に沿って前記複数の振動子を揺動可能に支持する支持機構と,前記複数の振動子を前記第2方向に沿って揺動させる駆動部とを有する」点も明らかでない。

「相違点2」
検出された医用器具の位置が目標位置に近づくほど走査範囲を狭める制御について,補正発明では「前記複数の振動子の揺動範囲の大きさと位置との少なくとも一方を変化させるように前記駆動部を制御する揺動制御部」により「揺動範囲を狭める」。
それに対し,引用発明では「穿刺針先端NTと診断対象Oの目的部位OPとの間の距離に応じて、データ収集範囲を,穿刺針先端NT、目的部位OP、穿刺パスPSを含み超音波照射可能範囲より狭い領域に限縮することにより,一定以上深い領域や一定以上広い領域からの超音波反射を待つ必要がなくなり、超音波走査に要する時間を短縮する」から,「電子走査」の方向と,「機械的」な「走査」の方向との,いずれか又は両方で「データ収集範囲」が狭められる,すなわち走査範囲を狭めることは明らかなものの,少なくともその走査手段として機械的な走査である「揺動」走査を含む点が明らかでない。
したがって,検出された医用器具の位置が目標位置に近づくほど走査範囲を狭める制御について,引用発明では,機械的な走査が制御対象であることが明らかでない。
また,検出された医用器具の位置が目標位置に近づくほど狭められる走査範囲が,補正発明では揺動範囲であるのに対し,引用発明ではそれが明らかでない。

エ 相違点についての検討
(ア)引用発明においては,「超音波プローブとして,電子走査式の一次元アレイ振動子を走査面に垂直な方向に機械的に走査することで三次元データ取込領域を走査するメカニカル3Dスキャナを用い」,「超音波プローブによる超音波照射可能範囲が,体表面位置において超音波プローブ程度の幅を有し,深さが増すにしたがい幅が広くなる形状を有する」。
この条件を満たす機械的な走査形態として,駆動部とその駆動部の回転中心から振動子をオフセットする支持機構を備えた超音波プローブを用いた揺動走査が挙げられることは,技術常識から明らかなことであるから,相違点1は実質的な相違点ではない。
よって,以下では,引用発明における機械的な走査を揺動走査とみなして検討を続ける。

なお,駆動部と支持機構を設けた超音波プローブの一例として,特開平4-122358号公報の2頁右下欄6行目?3頁右上欄9行目に,「三次元データ取り込み用超音波探触子・・・振動子ユニット18の先端部には、アレイ振動子20が内設され・・・振動子ユニット18には、その両側端部にアーム27の一方端が固定されており、また、アーム27の他方端は、支軸24に固定され・・・支軸24の近傍には、振動子ユニット18を支軸24を軸心として揺動させるための駆動源であるモータ28が基台22に設けられ・・・」と記載され,その様子が,第1図に,


」と示されている。

(イ)引用発明は,「電子走査式の一次元アレイ振動子を走査面に垂直な方向に機械的に揺動走査することで三次元データ取込領域を走査するメカニカル3Dスキャナを用い」た「超音波診断装置」において,「穿刺針先端NTと診断対象Oの目的部位OPとの間の距離に応じて,データ収集範囲を,穿刺針先端NT,目的部位OP,穿刺パスPSを含み超音波照射可能範囲より狭い領域に限縮することにより,一定以上深い領域や一定以上広い領域からの超音波反射を待つ必要がなくなり,超音波走査に要する時間を短縮する」。
その引用発明においては,「狭い領域に限縮する」対象として,「深い領域」と「広い領域」が並列に挙げられていることから,「限縮する」方向として,深度方向とともに,電子走査又は揺動走査の方向が想定されるのは自明である。
その電子走査と揺動走査の方向の,いずれを狭くするかは,状況に応じて適宜選定し得た事項であるといえ,そのうち揺動走査の方向を選定することにより格別な効果を奏するわけでもない。

また,引用発明のように「電子走査式の一次元アレイ振動子を走査面に垂直な方向に機械的に走査することで三次元データ取込領域を走査するメカニカル3Dスキャナを用い」た「超音波診断装置」において,「超音波走査に要する時間を短縮する」ために,機械的な走査範囲を狭めること自体,周知技術に過ぎない。
(その一例として,特開平10-277030号公報に,
「【0045】図6(A)に示される通常モードにおいては、アレイ振動子22を電子走査することによって超音波ビーム102が全走査範囲において走査される。」
「【0047】一方、図6(C)に示されるフレームレート優先モードにおいては、設定されたROIの中でのみ超音波ビーム102の電子走査が行われるのは解像度優先モードと同様であるが、このモードでは超音波ビーム間のピッチが通常モードと同様に維持され、その代わりに超音波ビームの本数が削減されている。この場合、超音波ビーム間におけるピッチが維持されるため分解能は向上されないが、送受信回数が削減されるためフレームレートを向上できる。
【0048】・・・なお、上述したように、図6には電子走査についてのみ示されているが、これは機械走査においても同様である。なお、場合によっては、電子走査と機械走査とで異なる動作モードを選択させてもよい。一般に、電子走査に比べて機械走査は遅いため、機械走査方向についてはフレームレート優先モードを選択し、電子走査に関しては解像度優先モードを選択することなども可能である。」
と記載されている。)

以上を勘案するに,引用発明において,「データ収集範囲を」「狭い領域に限縮する」方向として,「機械的に揺動走査」する方向を選定し,振動子の揺動範囲の大きさを変化させるように駆動部を制御する揺動制御部を設け,相違点2に係る補正発明の構成を付加することは,当業者が容易に想到し得たことである。

(ウ)補正発明の奏する作用効果は,引用発明及び上記周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

(エ)したがって,補正発明は,引用例に記載された発明及び上記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。

オ むすび
以上のとおり,仮に,本件補正が特許請求の範囲の減縮に該当するものとしても,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成25年11月20日付けでなされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?6に係る発明は,同年4月15日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項6に係る発明(以下「本願発明」という。)は,明細書及び図面の記載からみて,その請求項6に記載された事項により特定される,上記第2[理由]1(2)の【請求項6】に記載のとおりのものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は,上記第2[理由]1(4)イに記載したとおりである。

3 対比・判断
補正発明は,上記第2[理由]1(3)ア(ア)に記載したとおり,本願発明にさらに「前記揺動制御部は,前記検出された医用器具の位置が目標位置に近づくほど前記揺動範囲を狭める」という事項を追加したものであるから,本願発明は,補正発明からその事項を省いた発明といえる。その補正発明が,上記第2[理由]1(4)に記載したとおり,引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上,本願発明も同様に引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論の通り審決する。
 
審理終結日 2015-01-30 
結審通知日 2015-02-03 
審決日 2015-02-16 
出願番号 特願2008-258483(P2008-258483)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 572- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮川 哲伸  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 渡戸 正義
右▲高▼ 孝幸
発明の名称 超音波診断装置  
代理人 福原 淑弘  
代理人 福原 淑弘  
代理人 岡田 貴志  
代理人 野河 信久  
代理人 峰 隆司  
代理人 佐藤 立志  
代理人 砂川 克  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 堀内 美保子  
代理人 野河 信久  
代理人 河野 直樹  
代理人 岡田 貴志  
代理人 河野 直樹  
代理人 佐藤 立志  
代理人 堀内 美保子  
代理人 砂川 克  
代理人 峰 隆司  
代理人 蔵田 昌俊  

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