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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1299273
審判番号 不服2012-17591  
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-10 
確定日 2015-04-01 
事件の表示 特願2007-553693「ヒト抗体及びタンパク質」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月10日国際公開、WO2006/082406、平成20年 7月31日国内公表、特表2008-528668〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成18(2006)年2月3日(パリ条約による優先権主張 2005年2月3日 英国、2005年2月16日 英国、2005年4月5日 英国)を国際出願日とする出願であって、平成24年3月6日付けで特許請求の範囲の補正がされ、同年4月27日付けで拒絶査定がされたところ、同年9月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたものである。


第2 補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成24年9月10日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成24年9月10日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)は、拒絶査定不服審判の請求と同時にしたものであって、補正前の請求項1?4を、それぞれ補正後の請求項1?4とするとともに、補正前の請求項5?25を削除するものである。そして、補正前の請求項1と補正後の請求項1の記載は次のとおりである。

補正前:
「抗体可変領域又はその抗原結合フラグメントであって、2ないし31のアミノ酸長であり、他の抗体又はその抗原結合フラグメントに由来する複数の配列を含み、当該配列が完全なCDRでも完全なフレームワーク領域でもないことを特徴とする抗体可変領域又はその抗原結合フラグメント。」

補正後:
「抗体可変領域又はその抗原結合フラグメントであって、2ないし31のアミノ酸長であり、他の抗体又はその抗原結合フラグメントに由来する複数の配列を含み、当該配列が完全なCDRでも完全なフレームワーク領域でもなく、前記抗体可変領域又はその抗原結合フラグメントにはヘルパーT細胞エピトープがないことを特徴とする抗体可変領域又はその抗原結合フラグメント。」

2.補正の適否
補正後の請求項1は、補正前の請求項1における「抗体可変領域又はその抗原結合フラグメント」を「ヘルパーT細胞エピトープがない」と限定するものであって、補正前の請求項1に係る発明と補正後の請求項1に係る発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という)第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そこで、補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という)が、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定を満たすものであるか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討する。

2-1.本願補正発明
補正後の請求項1に係る発明は、前記1.に「補正後」として記載したとおりのものである。

2-2.引用例の記載事項
(1)引用例1
原査定の拒絶理由で引用文献1として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物であるHybridoma and hybridomics. 2003, Vol.22, No.4, p.245-257(以下、「引用例1」という)には、以下の事項が記載されている。
なお、翻訳は当審によるものである。
また、図面の枠は強調のため当審で付与したものである。

ア.「本研究は、このT細胞エピトープのヒト化のアプローチの2つの新しい例を提供する:ヒトCD6分子を認識するior-t1Aマウスモノクローナル抗体(mMAb)と、悪性の結腸直腸細胞の表面に発現する新規の糖タンパク質を認識するior-C5 mMAb。最も高い相同性を有するヒトの配列からの対応する残基によって、ior-C5において7アミノ酸が置換され、ior-t1Aにおいて11残基が置換された。驚くべきことに、再形成されたキメラ抗体の可変領域のフレームワークとヒトの配列との相同性は80-90%であった。サルの実験では、T1AhT及びC5hT“デトープ”抗体は、キメラのアナログよりも小さな免疫原性であった一方、それらは抗原結合親和性の30-50%を保持していた。提案された手法は、治療可能性を有するキメラ抗体の免疫原性を低下させる点で一般に適用し得るものである。」(要約の6?14行目)
イ.「タンパク質表面の性質は、免疫システムによる認識、タンパク質の内在性及び抗原提示細胞(APC)によるプロセシングに重要であり、クラスII主要組織適合複合体(MHC)分子に関連して、プロセシングされたペプチドのTヘルパー細胞への提示もまた、タンパク質に対する免疫応答の進行に重要な事象である。それゆえに、T細胞に提示されることのできる線形エピトープを除去することで、タンパク質の免疫原性をかなり低下させることができるはずである。」(246頁左欄22?30行目)
ウ.「我々は、コンピュータアルゴリズムを用いて、マウスの可変領域において両親媒性の配列(潜在的にT細胞エピトープ)を予測し、そして最も高い相同性を有するヒトの配列から対応する残基によって、潜在的な免疫原性エピトープに位置する数個のアミノ酸残基を慎重に置き換えた。得られたヒト化抗体(“デトープ” T1AhT及びC5hT)は抗原結合親和性の30-50%を保持しており、対応するキメラ抗体よりもサルにおいて免疫原性が小さかった。」(246頁右欄5?13行目)」
エ.「


図1.mMAbs(a,b)ior-t1A及び(c,d)ior-C5、相同性を有するヒト配列、並びに“デトープ”抗体の可変領域のアミノ酸配列。mMAbの対応する残基と一致する、相同性を有するヒトのVL及びVH配列及びヒト化バージョンのアミノ酸は、ドットとして示している。ヒト配列のCDRは示されていない。mMAbのVH及びVLにおいて決定された両親媒性セグメントには下線を引いている。」(図1)

引用例1の摘記事項ア.及びウ.より、マウスモノクローナル抗体であるior-t1A及びior-C5の可変領域について、最も高い相同性を有するヒトの配列から対応する残基によって、潜在的な免疫原性エピトープの位置する数個のアミノ酸残基を置き換えて免疫原性を低下させた(デトープした)ことが記載されているといえる。ここで、免疫原性の低下は、引用例1の摘記事項イ.より、Tヘルパー細胞に提示されることのできる線形エピトープを除去することにより行われたものと認められる。
さらに、引用例1の摘記事項エ.の図1には、a),b)として、マウスモノクローナル抗体(ior-t1A抗体)の軽鎖と重鎖とに対して、相同性のあるヒト抗体の軽鎖(human VK)と重鎖(human VH)とをそれぞれアライメントすることで、マウス抗体とヒト抗体とで相違するアミノ酸残基のいくつかについてヒト抗体由来のアミノ酸残基を採用するアミノ酸置換を行って、デトープされた重鎖及び軽鎖を有する抗体(T1AhT抗体)を取得したことが記載されている。具体的には、引用例1の摘記事項エ.の枠で囲んだ部分について、マウスモノクローナル抗体における軽鎖の11-12番目のアミノ酸「MY」及び重鎖の114-115番目のアミノ酸「TL」について(アライメントの一段目)、対応するヒト抗体由来のアミノ酸残基は「LS」及び「LV」であり(アライメントの二段目)、上記「MY」及び「TL」をそれぞれ上記「LS」及び「LV」に置換している(アライメントの三段目)ことから、2アミノ酸長で構成された2つの配列が置換されているといえる。
以上のことから、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認められる。

「マウスモノクローナル抗体であるior-t1A及びior-C5の抗体可変領域であって、2アミノ酸長であり、ヒトに由来する2つの配列を含み、Tヘルパー細胞に提示されることのできる線形エピトープを除去した抗体可変領域。」

(2)引用例2
原査定の拒絶理由で引用文献2として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2003/042247号(以下、「引用例2」という)には、以下の事項が記載されている。
なお、翻訳は対応する国内公表公報である特表2005-510216号公報によるものである。
また、下線は強調のため当審で付与したものである。以下、同様である。

オ.「本発明は、インビボで使用した時に、非修飾の相当物に比べ免疫原性が低いまたは実質的に非免疫原性である抗TNFα抗体をもたらすヒト腫瘍壊死因子α(TNFα)に対する反応性を有する抗体の修飾に関する。本発明は、当該T細胞エピトープを減少または削除するために、アミノ酸を変化させることにより改変される元の抗体のV領域のT細胞エピトープを含むペプチド分子にも関する。」(要約)

(3)引用例3
原査定の拒絶理由で引用文献4として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である欧州特許出願公開第0699755号明細書(以下、「引用例3」という)には、以下の事項が記載されている。
なお、翻訳は引用例3と同一のパテントファミリーに属する国内公開公報である特開平08-280387号公報によるものである。

カ.「本発明は、囓歯類モノクローナル抗体の免疫原性を減弱させながら一方では、そのリガンド結合性を完全に保存する操作に関する。免疫グロブリンの抗原性はそれらの配列上におけるT-細胞抗原性ペプチドの存在に依存することから、異種または同種抗体の免疫原性は、T-細胞抗原性配列に含まれる他の哺乳動物種抗体に通常見出される残基とは異なる残基を置換することによって減弱することが可能であった。」(4頁31?35行目)

キ.「最初の工程においては、第一の動物種すなわちマウスのHまたはL鎖いずれかの可変部ドメインが第二の動物種すなわちヒトの相当する可変部ドメインと比較される。本発明は任意の動物種の抗体の抗原性の変化を可能にすることを意図するものである。」(4頁46?48行目)

(4)引用例4
原査定の拒絶理由で引用文献5として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第98/52976号(以下、「引用例4」という)には、以下の事項が記載されている。
なお、翻訳は対応する国内公表公報である特表2002-512624号公報によるものである。

ク.「タンパク質または、タンパク質の一部は、そのアミノ酸配列において目的とする種のT細胞に対する一またはそれ以上の潜在的なエピトープを同定し、さらにT細胞のエピトープの少なくとも一を排除するようにアミノ酸配列を修飾することによって、目的とする種に対して非免疫原性に、またはより低い免疫原性にされる。これは、目的とする種の免疫反応に接する際のタンパク質の免疫原性を排除または抑制するものである。モノクローナル抗体及び他の免疫グロブリン様分子が特にこのような脱免疫されるのに恩恵を受ける:例えば、マウス由来の免疫グロブリンがヒトの治療に使用するために脱免疫されうる。」(要約)

ケ.「本発明は、全抗体に適用できるのみでなく、以下に制限されないが、全Ig軽鎖(κ及びλ)及び重鎖(γ、α、μ、δ及びε)、軽/重鎖ダイマー、SCAs(1本鎖抗体)(single-chain antibodies)、ならびにFab、F(ab’)2、Fab’、Fd及びFv等の抗体または免疫グロブリン断片などの、免疫グロブリンのV領域を含む特異的な結合分子にも適用できる。」(7頁5?9行目)

2-3.対比
本願補正発明(以下、「前者」という)と引用発明(以下、「後者」という)を対比する。

後者の「2アミノ酸長」は、前者の「2ないし31のアミノ酸長」に、後者の「2つの配列」は、前者の「複数の配列」に、後者の「Tヘルパー細胞に提示されることのできる線形エピトープを除去された」は、前者における「ヘルパーT細胞エピトープがない」に、それぞれ相当する。
また、後者の「ヒトに由来する」について、ヒトがマウスに対して「他の」種であることは明らかであるから、前者の「他の抗体又はその抗原結合フラグメントに由来する」に相当する。
そうすると、前者と後者の一致点、相違点は以下のようになる。

一致点:「抗体可変領域であって、2ないし31のアミノ酸長であり、他の抗体又はその抗原結合フラグメントに由来する複数の配列を含み、前記抗体可変領域にはヘルパーT細胞エピトープがないことを特徴とする抗体可変領域。」

相違点1:複数の配列が、前者では「完全なCDRでも完全なフレームワーク領域でもない」と特定されているのに対し、後者では上記特定を有しない点。

相違点2:可変領域の由来が、前者では任意の抗体であるのに対し、後者ではマウスモノクローナル抗体であるior-t1A及びior-C5である点。

2-4.相違点についての検討
(1)相違点1について
完全長のCDR及びフレームワークが2アミノ酸より長いことは本願優先日前当業者の技術常識であるから、引用発明の「2アミノ酸長であり、ヒトに由来する2つの配列」が「完全なCDRでも完全なフレームワーク領域でもない」ことは自明のことである。よって、上記相違点1は実質的な相違点ではない。

(2)相違点2について
引用例1の摘記事項ア.には「提案された手法は、治療可能性を有するキメラ抗体の免疫原性を低下させる点で一般に適用し得るものである。」と記載されており、免疫原性を低下させるために任意の抗体に適用できることが示唆されているといえる。
さらに引用例2の摘記事項オ.、引用例3の摘記事項カ.?キ.及び引用例4の摘記事項ク.?ケ.に記載されているように、様々な抗体についてT細胞エピトープに変異を導入し、当該T細胞エピトープの機能を除去することで免疫原性を低下させることは、本願優先日前当業者の周知技術であったものと認められる。
そうすると、引用例1に記載された手法を任意の抗体について適用することは当業者であれば容易になし得るものである。
また、その効果についても当業者の予想し得るものであって、格別なものとは認められない。

2-5.小括
以上検討したところによれば、本願補正発明は、引用例1?4に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反してなされたものである。

3.結論
前記2.のとおりであるから、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1.本願発明
平成24年9月10日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1?25に係る発明は、平成24年3月6日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?25に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、上記第2 1.に「補正前」として記載したとおりのものである。

2.本願発明の進歩性について
上記第2 2.で述べたとおり、本願補正発明は本願発明を限定したものであるから、本願発明は本願補正発明を包含するものであることが明らかである。

そして、上記第2 2.で述べたとおり、本願補正発明は引用例1?4に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明を包含する本願発明も、同様に、引用例1?4に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 まとめ

以上のとおり、本願請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-10-30 
結審通知日 2014-11-04 
審決日 2014-11-18 
出願番号 特願2007-553693(P2007-553693)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 晋治  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 高堀 栄二
三原 健治
発明の名称 ヒト抗体及びタンパク質  
代理人 柏原 三枝子  

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