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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1299380
審判番号 不服2014-2509  
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-10 
確定日 2015-03-30 
事件の表示 特願2010- 86863「偏光板及び液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月24日出願公開、特開2010-211213〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成17年 5月19日(優先権主張平成16年 5月21日)に出願した特願2005-146928号の一部を平成22年 4月 5日に新たな特許出願としたものであって、平成24年11月15日付けで拒絶理由が通知され、平成25年 1月29日に意見書及び手続補正書が提出され、同年 5月17日付けで拒絶理由が通知され、同年 7月23日に意見書及び補正書が提出されたが、同年10月31日付けで拒絶査定され、これを不服として、平成26年 2月10日に審判請求がされるとともに手続補正書が提出されたものである。
なお、審判請求人は、平成26年12月17日に上申書を提出している。


第2 平成26年 2月10日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、平成25年 7月23日に提出された手続補正書によって補正された本件補正前(以下「本件補正前」という。)の特許請求の範囲及び明細書についてするものであって、そのうち特許請求の範囲の請求項1についての補正は、以下のとおりである。

本件補正前の請求項1
「ポリビニルアルコール及び2色性材料からなる偏光子の片面には、グリコール酸系可塑剤またはフタル酸系可塑剤を含有し、且つリン酸系可塑剤を0?1重量%含有してなるトリアセチルセルロースフィルムが積層され、
前記偏光子の他面にはノルボルネン系フィルムが積層されており、
前記トリアセチルセルロースフィルム面側に粘着層が備えられた、偏光板。」

本件補正により補正された請求項1
「ポリビニルアルコール及び2色性材料からなる偏光子の片面には、グリコール酸系可塑剤またはフタル酸系可塑剤を含有し、且つリン酸系可塑剤を0?1重量%含有してなるトリアセチルセルロースフィルムが積層され、
前記偏光子の他面にはノルボルネン系フィルムが積層されており、
前記トリアセチルセルロースフィルム面側に粘着層が備えられ、
前記粘着層はアクリル酸系粘着剤である偏光板。」
(下線部は本件補正に関連する箇所である。)

2 補正の目的の適否及び新規事項の有無
上記補正は、本件補正前の「前記トリアセチルセルロースフィルム面側に粘着層が備えられた、偏光板。」を、「前記トリアセチルセルロースフィルム面側に粘着層が備えられ、前記粘着層はアクリル酸系粘着剤である偏光板。」として粘着層を限定するものであって、本願の願書に最初に添付された明細書(以下、願書に最初に添付された明細書を「当初明細書」といい、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面をあわせて「当初明細書等」という。)の【0061】の「前記偏光板や前記光学部材には、液晶セル等の他部材と接着するため粘着層を設けることもできる。その形成には、例えばアクリル酸系、シリコーン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリエーテル系、フッ素系、ゴム系等の適宜なポリマーをベースポリマーとする粘着性物質や粘着剤を用いることができ、特に限定されない。
但し、アクリル酸系粘着剤の如く光学的透明性に優れ、適度なぬれ性と凝集性と接着性との粘着特性を示し、耐候性や耐熱性等に優れるものが好ましい。」(下線は当審で付した。以下同様)
との記載を根拠に、「粘着層」について「アクリル酸系粘着剤である」という限定を付加したものである。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第3項の要件を満たし、また平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、以下、本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定を満たすか)について、以下検討する。

3 独立特許要件の検討
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、上記第2[理由]1に記載したとおりである。

(2)引用刊行物とその記載事項

ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2003-315551号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】偏光膜と、前記偏光膜の一方の面上にレターデーションが105nm以上300nm以下の延伸フィルムと、前記偏光膜の他方の面上に飽和ノルボルネン系樹脂フィルムとを有する偏光板。」
(イ)「【0003】・・(略)・・最近の液晶表示装置では、ほとんどの場合、透明な高分子フィルムを一定方向に分子配列し、ミセルの間隙に2色性物質を吸着させた偏光膜が使用されている。このような偏光膜の代表例としては、ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記)・ヨウ素系、PVA・染料系、PVA・ポリビニレン系などのPVC系偏光膜、あるいはポリエン系偏光膜などが挙げられる。・・(略)・・」
(ウ)「【0004】しかし、TACフィルムは水蒸気透過性が高く、これを保護層とする偏光板は、高温高湿での耐久性に乏しいという問題があった。これを解決する手法として、特開2001-324616号公報に偏光膜の両側に保護フィルムとして防湿性の高い飽和ノルボルネン系フィルムを貼合せた偏光板が提案されている。しかし、この偏光板を実際に液晶表示装置に用いたところ、長期経時中および高温経時中に密着不良や表示むらが発現することが判明し、改良が望まれていた。」
(エ)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は前記諸問題に鑑みなされたものであって、長期経時中および高温経時中に生じる密着不良および偏光度の低下が軽減された偏光板を提供することを課題とする。また、本発明は、画像表示装置、特に液晶表示装置に適用した場合に、長期経時または高温経時によって偏光板に起因して生じる表示むらを軽減し得る偏光板を提供することを課題とする。さらに本発明は、長期経時または高温経時によって偏光板に起因して生じる表示むらが軽減された画像表示装置を提供することを課題とする。」
(オ)「【0037】前記延伸フィルムとしては、セルロースアセテートからなるフィルムを用いるのが好ましい。前記セルロースアセテートとしては、トリアセチルセルロースおよびジアセチルセルロースが好ましい。特に、酢化度が57.0?62.5%が好ましく、58.0?62%がより好ましく、59.0?61.5%がさらに好ましい。酢化度が前記範囲であると、十分な透湿量を確保することができる。なお、酢化度とは、セルロース単位質量当たりの結合酢酸量を意味する。」
(カ)「【0069】前記延伸フィルムには、機械的物性を改良するため、または乾燥速度を向上するために、可塑剤を添加することができる。前記可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルフォスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。・・(略)・・」
(キ)「【0095】前記粘着剤としては、透明性に優れ、複屈折などが小さく、薄い層として用いても充分に粘着力を発揮できるものが好ましい。そのような粘着剤としては、例えば、天然ゴム、合成ゴム・エラストマー(スチレン・ブタジエンゴム等)、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルキルエーテル、ポリアクリレート、変性ポリオレフィン系樹脂系粘着剤等や、これらにイソシアネート等の硬化剤を添加した硬化型粘着剤が挙げられ、特に、ポリオレフィンフォームやポリエステルフィルムの接着等に用いられる粘着剤の内で硬化型粘着剤が好ましい。・・(略)・・」
(ク)「【0102】このようにして積層して作製した偏光板は、液晶表示装置等の画像表示装置内の他の部材に貼り合せることによって、画像表示装置内に組み込むことができる。画像表示装置に組み込む際には、透湿性の大きなセルロースアセテートフィルムをガラス基板等の他の部材に接着させるのが好ましい。この様に組み込むことで、透湿性の大きなセルロースアセテートフィルムの透湿をより抑制することができ、セルロースアセテートフィルムの様な透湿性の大きなフィルムを使用しても、十分な耐湿性を達成できる。また、画像表示装置内の他の部材(例えば、液晶基板)等との貼合せ作業を容易にすることを目的として、片面に粘着剤層を付与しておくことが好ましい。粘着剤としては、前述した粘着剤を用いることができる。この場合、画像表示装置内部に組み込む前、保管時等に、周囲の物と粘着してしまわないように離型膜等を積層しておくことが好ましい。」
(ケ)「【0118】(2)セルロースアセテートフィルムの調製
(2-1)ドープの調製
下記組成のMC系およびMA系のセルロースアセテートドープ(高濃度溶液)を調製した。なお、レターデーション調整剤として用いた芳香族化合物としては、下記構造式の化合物をそれぞれ用いた。表2に記載した。
【0119】・・(略)・・
【化10】
【0120】
(イ)メチレンクロリド(MC)系
セルロースアセテート(酢化度は表2に記載) 100質量部
トリフェニルホスフェート 10.0質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート 5.0質量部
メチレンクロリド 565.6質量部
メタノール 49.2質量部
芳香族化合物(レターデーション調整剤) 表2に記載
シリカ微粒子(粒径20nm) 0.05質量部
【0121】
(ロ)酢酸メチル(MA)系
セルロースアセテート(酢化度は表2に記載) 118質量部
トリフェニルホスフェート 9.19質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート 4.60質量部
トリベンジルアミン 2.36質量部
酢酸メチル 530質量部
エタノール 99.4質量部
ブタノール 33.1質量部
芳香族化合物(レターデーション調整剤) 表2に記載
シリカ微粒子(粒径20nm) 0.05質量部
【0122】MC系のドープは以下の常温溶解法により、MA系のドープは以下の冷却溶解法により調製した。・・(略)・・
【0123】(2-2)溶液流延製膜
下記2方式のいずれかの方式により製膜し、流延膜を作製した(表2に記載)。・・(略)・・
【0124】次に、残留溶剤が20質量%となったところで、流延膜を支持体から剥取った。剥ぎ取った流延膜を、120℃の乾燥ゾーンを通し、残留溶剤が1質量%以下になるまで乾燥した。この後、両端をトリミングした後、両端に高さ50μm幅1cmのナーリング(厚みだし加工)を行い、長さ3000m、幅1.5mの未延伸フィルムを得た。
【0125】(2-3)延伸
延伸に先立ち、セルロースアセテートフィルムを水蒸気に曝し、表2に記載の含水率とした。これを表2に記載の条件(温度、湿度、延伸倍率、延伸前のフィルムの幅Wと延伸間距離Lの比(L/W))で延伸した。
【0126】
【表2】


(コ)「【0129】(3)偏光板の作製
(3-1)偏光膜の作製
以下の方法により、(イ)45度配向偏光膜および(ロ)MD配向偏光膜を各々作製した。
(イ)45度配向偏光膜
PVAフィルムをヨウ素2.0g/L、ヨウ化カリウム4.0g/Lの水溶液に25℃にて240秒間浸漬し、さらにホウ酸10g/Lの水溶液に25℃にて60秒間浸漬後、図1の形態のテンター延伸機に導入し、温度60℃、相対湿度90%中で5.3倍に延伸し、テンターを延伸方向に対し図1の如く屈曲させ、以降、幅を一定に保った。80℃雰囲気で乾燥させた後、テンターから離脱した。・・(略)・・
【0130】(ロ)MD配向偏光膜
PVAフィルムをヨウ素2.0g/L、ヨウ化カリウム4.0g/Lの水溶液に25℃にて240秒浸漬し、さらにホウ酸10g/Lの水溶液に25℃にて60秒浸漬後、2対のニップロールを用いMD方向(長手方向)に60℃90%rh中で5.3倍に延伸し、80℃で乾燥させた。これが中心線(MD方向)に対し、透過軸は0度であった。
【0131】(3-2)フィルムの表面処理・・(略)・・
【0132】(3-3)貼合せ
各層間にPVA((株)クラレ製PVA-117H)3%水溶液を接着剤として塗布しながら、表4に記載の層構成になるように積層した。このとき各フィルムは積層界面が上記表面処理がなされているようにした。この後、60℃で15分間乾燥させた。なお、延伸セルロースアセテートフィルムの延伸軸と偏光膜の吸収軸が表4に記載の角度となるよう、ロールtoロールで積層して、貼り合わせた。
【0133】
【表4】

【0134】(4)評価
(4-1)密着性の評価
上記のように積層した偏光板の片面(表4に層構成の最も右側の層)に、厚さ約8μmの粘着剤(ダイアボンドDA 753、ノガワケミカル製)を介して、厚さ1.2mmのガラス基板に積層した。湿度90%温度80℃で1時間と、温度-20℃で1時間のヒートサイクルテストを2000サイクル繰り返した。その後、密着不良に由来するトンネルと呼ばれる気泡が発生した面積を表5に記載した。」
(サ)上記摘記事項(ケ)の【表2】において、酢化度61%のセルロースアセテートは、トリアセチルセルロースである。(例えば特開平9-96722号【0012】参照。)
(シ)上記摘記事項(コ)において、【表4】の欄外の記載及び【0134】から、【0134】の「(表4に層構成の最も右側の層)」は、延伸セルロースアセテートフィルムである。

(ス)上記(ア)?(シ)から、引用文献1には、以下の発明が記載されている。(以下「引用発明1」という。)

「偏光膜と、前記偏光膜の一方の面上にレターデーションが105nm以上300nm以下の延伸フィルムと、前記偏光膜の他方の面上に飽和ノルボルネン系樹脂フィルムとを有する偏光板であって、
延伸フィルムとして、セルロースアセテートフィルムの延伸フィルムを有し、
具体的には、セルロースアセテートフィルムは、トリアセチルセルロース100質量部に対し、トリフェニルホスフェートを10.0質量部及びビフェニルジフェニルホスフェートを5.0質量部添加して調製されたトリアセチルセルロースフィルムであり、
偏光膜は、PVA(ポリビニルアルコール)フィルムをヨウ素及びヨウ化カリウムの水溶液に浸漬し、さらにホウ酸水溶液に浸漬後、延伸、乾燥して作製されたものであり、
積層した偏光板の片面(延伸セルロースアセテートフィルム)に、厚さ約8μmの粘着剤(ダイアボンドDA 753、ノガワケミカル製)が付与された、偏光板。」

イ 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平9-96722号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項2】セルロースの低級脂肪酸エステルを主成分とするフイルムからなる偏光板保護膜であって、上記フイルムが、実質的にリン酸エステル系可塑剤を含まず、かつフタル酸エステル系可塑剤をセルロースの低級脂肪酸エステルに対して8乃至25重量%の範囲で含むことを特徴とする偏光板保護膜。」
(イ)「【0010】本発明者がさらに研究を進めたころ、セルロース系フイルムの劣化の原因となっていたのはリン酸エステル系可塑剤であって、フタル酸エステル系可塑剤は、驚くべきことに、ほとんど劣化の原因にならないことが判明した。本発明の目的は、耐湿熱性と加工性が優れたセルロースの低級脂肪酸エステルを主成分とするフイルムからなる偏光板保護膜を提供することである。」
(ウ)「【0012】【発明の実施の形態】本発明に用いるセルロースの低級脂肪酸エステルを主成分とするフイルムは、温度85℃、相対湿度90%の雰囲気下で500時間放置後の面積収縮率が10%未満である。面積収縮率は、8%未満であることが好ましく、7%未満であることがさらに好ましく、6%未満であることが最も好ましい。さらに、温度25℃、相対湿度65%におけるセルロースの低級脂肪酸エステルを主成分とするフイルム平衡含水率は、2.5重量%未満である。平衡含水率は、2.2重量%未満であることが好ましく、2.0重量%未満であることがさらに好ましい。なお、平衡含水率は、上記条件下でフイルムを3時間調湿後に測定した値とする。セルロースの低級脂肪酸エステルの低級脂肪酸とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味する。炭素原子数は、2(セルロースアセテート)、3(セルロースプロピオネート)または4(セルロースブチレート)であることが好ましい。セルロースアセテートがさらに好ましく、セルローストリアセテート(酢化度:59?62%)が特に好ましい。セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートのようなセルロースの混合脂肪酸エステルを用いてもよい。
【0013】セルロースの低級脂肪酸エステルを主成分とするフイルムが上記の耐湿熱性を有するためには、フイルムは実質的にリン酸エステル系可塑剤を含まないことが好ましい。実質的にリン酸エステル系可塑剤を含まないとは、セルロースの低級脂肪酸エステルに対するリン酸エステル系可塑剤の量が、2.0重量%未満であることを意味する。リン酸エステル系可塑剤の量は、1.5重量%未満であることが好ましく、1.0重量%未満であることがさらに好ましく、0重量%(全く検出されない値)であることが最も好ましい。セルロースの低級脂肪酸エステルを主成分とするフイルムが上記の平衡含水率を有するためには、フイルムはフタル酸エステル系可塑剤をセルロースの低級脂肪酸エステルに対して8乃至25重量%の範囲で含むことが好ましい。フタル酸エステル系可塑剤の量は、10乃至20重量%であることが好ましく、13乃至19重量%であることがさらに好ましく、15乃至18重量%であることが最も好ましい。・・(略)・・」

(エ)上記(ア)?(ウ)から、引用文献2には、以下の事項が記載されている。
「偏光板保護膜用のセルロースの低級脂肪酸エステルを主成分とするフィルム、好ましくはセルローストリアセテートフィルムにおいて、リン酸エステル系可塑剤を用いると、セルロース系フィルムを劣化させ、フタル酸エステル系可塑剤を用いるとほとんど劣化させないことから、フィルムの耐湿熱性を有するために、フィルムが、実質的にリン酸エステル系可塑剤を含まず、かつフタル酸エステル系可塑剤をセルロースの低級脂肪酸エステルに対して8乃至25重量%の範囲で含ませること。」(以下「技術事項」という。)

(3)周知の技術を示すための刊行物とその記載事項
ア 本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平5-45517号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0002】
【従来の技術】従来より、偏光性フイルム、例えば偏光性が付与されたポリビニルアルコールフイルム等の両面がセルロース系フイルム例えば三酢酸セルロースフイルムの保護層で被覆された偏光板を液晶セル面に適用して液晶表示板とすることが行われており、この液晶セル面への適用は、偏光板表面に設けた粘着剤層を該セル面に当接し、押し付けることにより行われるのが通常である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記粘着剤としては、その優れた接着性、透明性等のためにアクリル系樹脂からなるものが多用されているが、熱が加わった時に偏光板が貼付されたガラス板にソリをおこしたり粘着剤層中の発泡や剥離現象がおきたりする等の問題を生じる。」
(イ)「【0025】・・・(略)・・・実施例1
アクリル系樹脂(A)(樹脂成分:2-エチルヘキシルアクリレート/n-ブチルアクリレート/アクリル酸/ヒドロキシエチルメタクリレート/酢酸ビニル=45重量%/46重量%/3.9重量%/0.1重量%/5重量%)100重量部と重合ロジンのペンタエリスリトールエステル15重量部に流動パラフィン(比重0.86、粘度11cps/25℃)を0.5重増部添加した45重量%溶液にトリレンジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物の75重量%酢酸エチル溶液2.0重量部を添加して粘着剤を得た。該粘着剤を厚さ1.1mmのガラス板上にアプリケーターを用いて乾燥塗布量が25g/m^(2)となる割合で塗布し、100℃で1分間乾燥して粘着性板を得た。」

イ 本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平7-294731号公報(以下「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0002】
【従来の技術】偏光性フィルム、例えば偏光性が付与されたポリビニルアルコ-ルフィルム等、の両面にセルロ-ス系フィルム、例えば三酢酸セルロ-スフィルム、の保護層で被覆された偏光板を液晶セル面へ適用する場合、該保護層の表面に粘着剤層を設けた偏光板を使用することが通常である。この偏光板の粘着剤層を2層にすることは知られていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記粘着剤としては、その優れた接着性、透明性等のためにアクリル系樹脂からなるものが多用されているが、高温または高温高湿条件下にさらされると偏光板を貼付したガラス板にソリが生じたり、偏光板を2枚使用した(特に直交)時、光漏れをおこす等の問題を生じる。このような問題は粘着剤層の保持力を低下させると低減されるが、粘着剤層に発泡や剥離現象がおきたりする等の問題が生じてくる。
(イ)「【0014】配合例1
重量平均分子量70万のアクリル樹脂(樹脂成分:n-ブチルアクリレ-ト/メチルアクリレ-ト/2-ヒドロキシエチルアクリレ-ト=80重量%/18重量%/2重量%の共重合物)100重量部にトリレンジイソシアネ-ト(3モル)のトリメチロ-ルプロパン(1モル)付加物0.3重量部を添加して粘着剤組成物を得た。該粘着剤組成物を剥離フィルムにコ-タ-で乾燥後の厚さが25μとなるように塗布し、100℃で3分間乾燥させて粘着剤(A)を得た。粘着剤(A)のゲル分率は30重量%であった。」

ウ 本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2002-212526号公報(以下「引用文献5」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】光学フィルムの一方の面に光学フィルムを液晶パネルのガラス基板に貼着するための粘着層が積層されている粘着型光学フィルムにおいて、前記粘着層が、アクリル系ポリマーを主成分とする樹脂層と微粒子により形成されていることを特徴とする粘着型光学フィルム。」
(イ)「【0046】実施例1
(粘着剤組成物の調製)攪拌羽根、冷却管、窒素導入管、温度計を備えた4つ口フラスコに、ブチルアクリレート94.5部、アクリル酸5部、2-ヒドロキシエチルアクリレート0.5部を酢酸エチル溶液で希釈してモノマー濃度50%溶液とし、この溶液にベンゾイルパーオキサイドをモノマー(固形分)100部に対して0.3部を加えたものを仕込んだ後、窒素置換を行った。その後、攪拌しながら60℃で7時間反応を行い、アクリル系ポリマー(A)溶液を得た。上記アクリル系ポリマー(A)溶液100部(固形分)に対して、トリメチロールプロパントリレンジイソシアネートを0 .8 部、γ-グリシジルプロパントリメトキシシラン0.1部およびシリカ微粒子(サンスフエアH31:平均粒径3μm,旭硝子株式会社製)10部を加えて粘着剤組成物(溶液)を調製した。
【0047】(粘着型光学フィルムの作製)上記により作製された粘着剤組成物(溶液)を、乾燥後の厚みが25μmとなるようにポリエチレンテレフタレート系セパレータ上に塗布し、乾燥して微粒子含有粘着剤層を形成した。この微粒子含有粘着剤層を厚さ180μmの偏光フィルム(ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を含浸、延伸した後、両側にトリアセチルセルロースフィルムを接着剤を介して接着したもの)に転写して粘着型偏光フィルムを作製した。」

エ 上記ア?ウの摘記事項において、「アクリル系樹脂」、「アクリル樹脂」及び「アクリル系ポリマー」は、いずれも、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルの共重合体であり、「粘着剤」又は「粘着層」は、本願補正発明の「アクリル酸系粘着剤」に相当する。

オ 上記ア?エから、
「偏光フィルムの両面をトリアセチルセルロースフィルムで保護し、さらに粘着層を設けた偏光板において、粘着層がアクリル酸系粘着剤であること」は、本願の優先権主張日前に周知(以下「周知技術」という。)である。

(4)対比
ア 引用発明1の「ヨウ素」は、上記(2)ア(イ)の記載事項から、「2色性物質」である。また、「トリフェニルホスフェート」及び「ビフェニルジフェニルホスフェート」は、いずれもリン酸エステルであり、上記(2)ア(カ)の記載事項から「可塑剤」として機能するものである。
イ したがって、引用発明1の「PVA(ポリビニルアルコール)」、「ヨウ素」、「偏光膜」、「『トリフェニルホスフェート』及び『ビフェニルジフェニルホスフェート』」、「トリアセチルセルロースフィルム」、「飽和ノルボルネン系樹脂フィルム」、「積層した偏光板の片面(延伸セルロースアセテートフィルム)に、厚さ約8μmの粘着剤(ダイアボンドDA 753、ノガワケミカル製)が付与され」及び「偏光板」は、
それぞれ本願補正発明の「ポリビニルアルコール」、「2色性材料」、「偏光子」、「リン酸系可塑剤」、「トリアセチルセルロースフィルム」、「ノルボルネン系フィルム」、「トリアセチルセルロースフィルム面側に粘着層が備えられ」及び「偏光板」に相当する。

ウ よって、本願補正発明と引用発明1とは、
「ポリビニルアルコール及び2色性材料からなる偏光子の片面には、可塑剤を含有してなるトリアセチルセルロースフィルムが積層され、前記偏光子の他面には、ノルボルネン系フィルムが積層されており、前記トリアセチルセルロースフィルム面側に粘着層が備えられた、偏光板。」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1:トリアセチルセルロースフィルムが、本願補正発明では「グリコール酸系可塑剤またはフタル酸系可塑剤を含有し、且つリン酸系可塑剤を0?1重量%含有」しているのに対し、引用発明1では「グリコール酸系可塑剤またはフタル酸系可塑剤を含有せず、セルローストリアセテート100質量部に対し、リン酸系可塑剤を15.0質量部添加して調製」されたものである点。

相違点2:本願補正発明では、粘着層は「アクリル酸系粘着剤」であるのに対し、引用発明1では、粘着層はアクリル酸系粘着剤に限定されない点。

(5)判断
ア 相違点1について
(ア)上記(2)ア(エ)で摘記した記載事項に記載されているように、引用発明1は、長期経時中および高温経時中に生じる密着不良および偏光度の低下が軽減された偏光板を提供することを課題としており、(2)ア(ウ)で摘記した記載事項に記載されているのように、TAC(トリアセチルセルロース)フィルムが高温高湿での耐久性に乏しいという問題も、引用発明1において認識されている。
(イ)そして、引用文献2には、セルロース系フィルムを用いる場合に、リン酸エステル系可塑剤を用いるとセルロース系フィルムを劣化させることから、耐湿熱性を有させるために、リン酸エステル系可塑剤を含有させずフタル酸エステル系可塑剤を用いる技術事項が記載されている。
(ウ)したがって、高温経時中の偏光板の安定性を向上させるという引用発明1の課題に基づいて、引用発明1の構成要素のひとつであるトリアセチルセルロースフィルムの耐湿熱性を向上させるため、引用文献2の技術事項を適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
(ア)上記引用文献1の摘記事項(2)ア(キ)及び(ク)には、粘着層に、アクリル系の粘着剤を用いることが記載されており、特定の粘着剤に限定すべき旨の記載もなされていない。
(イ)そして、上記(3)で摘記したように、トリアセチルセルロースである保護層へ適用する粘着層に、アクリル酸系の粘着剤を用いることは、周知技術である。
(ウ)したがって、引用発明1において、引用文献1の記載事項及び引用文献3?5に記載の周知技術を適用し、粘着層をアクリル酸系粘着剤とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明1、引用文献2の技術事項及び周知技術から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ したがって、本願補正発明は、当業者が引用発明1、引用文献2の技術事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)まとめ
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
上記「第2」での検討のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、本件補正前の平成25年 7月23日に提出された手続補正書により補正された請求項1?8に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
ポリビニルアルコール及び2色性材料からなる偏光子の片面には、グリコール酸系可塑剤またはフタル酸系可塑剤を含有し、且つリン酸系可塑剤を0?1重量%含有してなるトリアセチルセルロースフィルムが積層され、
前記偏光子の他面にはノルボルネン系フィルムが積層されており、
前記トリアセチルセルロースフィルム面側に粘着層が備えられた、偏光板。」

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び引用文献2の記載事項は、上記第2の[理由]3(2)ア及びイに記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記第2[理由]1及び2で検討した本願補正発明から、「粘着層」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明と、引用発明1とは、上記第2[理由]3(4)ウに記載した相違点1の点で、相違している。
そして、相違点1は、上記第2[理由]3(5)アに記載したとおり、引用文献2の技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるから、本願発明は、引用発明1及び引用文献2の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。


第4 結語
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用文献2の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-05 
結審通知日 2015-02-06 
審決日 2015-02-17 
出願番号 特願2010-86863(P2010-86863)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井海田 隆  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 大瀧 真理
鉄 豊郎
発明の名称 偏光板及び液晶表示装置  
代理人 藤本 昇  
代理人 中谷 寛昭  

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