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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  F16F
管理番号 1299623
審判番号 無効2014-800062  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-04-22 
確定日 2015-04-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第5473933号発明「回転数適応型の動吸振器を備えた力伝達装置および減衰特性を改善するための方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5473933号に係る出願は,平成20年11月17日に特許出願され,平成26年2月14日にその発明について特許の設定登録(請求項の数12)がなされたものである。

以後の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。
1.平成26年 4月22日 本件無効審判の請求
2.平成26年 5月13日 補正書:甲1,2号証の訳文
3.平成26年 5月29日 補正書:甲3,6,8号証の訳文
4.平成26年 9月 1日 審判事件答弁書
5.平成26年11月10日 審理事項通知書
6.平成26年12月 2日 口頭審理陳述要領書(請求人)
7.平成26年12月 2日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
8.平成26年12月 9日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
9.平成26年12月16日 口頭審理

第2 当事者の主張
1.請求人
請求人は,審判請求書,口頭審理陳述要領書において,「特許第5473933号発明の特許請求の範囲の請求項1-12に記載された発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」ことを請求の趣旨とし,甲第1?9号証を提出して,次の無効理由を主張する。

無効理由の概要
(1)無効理由1
(a)本件特許の請求項1-6,10及び11に係る発明は,甲第1号証乃至甲第5号証に記載された発明に基いて,本出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。
(b)本件特許の請求項7及び8に係る発明は,甲第1号証乃至甲第7号証に記載された発明に基いて,本出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。
(c)本件特許の請求項9に係る発明は,甲第1号証乃至甲第8号証に記載された発明に基いて,本出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。
(d)本件特許の請求項12に係る発明は,甲第1号証乃至甲第5号証及び甲第7号証に記載された発明に基いて,本出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。

具体的には,独立請求項である請求項1に記載された発明(以下「本件発明1」という。)に対して,概略以下のように主張している。
甲第1号証には,
「1a 駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達するための力伝達装置であって,
1b 少なくとも1つの入力体(1)と,
1c 出力体(7)と,
1d’少なくとも部分的に運転媒体である圧力媒体で充填可能な室内に配置された振動減衰装置(41)とが設けられており,
1e 該振動減衰装置(41)が,回転数適応型の動吸振器(54)に連結されている形式」
が開示されている。
また,甲第3号証には,圧力媒体としての「潤滑油」が開示されている。
さらに,この甲第3号証には,潤滑油がデチューニングを引き起こすことが開示され,潤滑油72の量を減らすことで偏り質量38にもたらされる抵抗を小さくすることも開示されている。
また,甲第4号証でも,流動体に起因する抵抗が振動子やダンパの振動挙動に影響を及ぼすことが開示されている。
したがって,甲第1号証,甲第3号証及び甲第4号証を目の当たりにした当業者は,油影響に関連して,回転数適応型の動吸振器を,駆動装置の励振の次数qに対してオフセットさせることを当然に思いつく。
そして,甲第2号証では,以下の式が開示されており,
n^(?)=n(1+β) (審決注:「n^(?)」はnの上に波線を入れた記号)
オーバーチューンする際には,β>0となることが開示されている。
つまり,甲第2号証には,
「1f’回転数適応型の動吸振器を,環境効果等を考慮して,駆動装置の励振の次数nよりも所定の次数オフセット値nβだけ大きい有効次数n^(?)に設計すること」
が開示されている。
さらには,甲第5号証において,幾何学的な要素であるRを調整することで,励起振動次数xよりも大きくなる,有効な励起振動次数x_(eff)を得ることが開示されている。
このため,甲第1号証,甲第3号証及び甲第4号証を目の当たりにして,油影響に関連して,回転数適応型の動吸振器を,駆動装置の励振の次数qに対してオフセットさせることを思いついた当業者が,甲第2号証(や甲第5号証)を目の当たりにすることで,
「1f 回転数適応型の動吸振器を,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数nよりも所定の次数オフセット値nβだけ大きい有効次数nに設計すること」
を容易に思いつく。
ちなみに,甲第1号証には,トルクコンバータのクラッチにおいて,ねじり振動の吸収体を構築することを目的とする技術が開示されている。甲第2号証には,次数を調整された吸収器(Order-tuned absorbers)がねじれ振動(torsional vibrations)を減少させるために用いられること,また,自動車のエンジン(automotive engines)に利用されることが開示されている。
したがって,甲第1号証と甲第2号証とは技術分野が同一であり,ねじり振動を抑制するという課題も共通することから,仮に甲第3号証や甲第4号証を目の当たりにしなくても,当業者が甲第1号証に甲第2号証を適用することは容易である。
以上のことから,本件発明1は,甲第1号証乃至甲第5号証の開示からして,進歩性を有さず,無効とされるべきである。

甲第2号証に対する相違点に関連して
例えば甲第2号証の第8頁のTable2に記載された各パラメータの定義に即してその後の式(例えば式(14),(45)など)を参照すれば,正確なチューニングは環境に関係の無いパラメータに基づいて実施されているように見受けられる。このことに加えて,Fig.1(a),(b)に記載されたモデルを見る限りにおいて,モデルに油の影響は入っていないものと考えられる。
なお,『甲第2号証には,デチューニングに際して油の影響を考慮することは,全く開示も示唆もされていない,』について,請求人は油の影響を考慮することが甲第2号証に開示されていると主張しているわけではないので,このことは議論の対象とはなり得ない。
また,「ブレードディスクアセンブリのモデルに対して,使用による摩耗,環境効果等を考慮して,正確なチューニングに対して,次数をオーバーチューニングすること」という技術的事項は,「回転数適応型の動吸振器を,環境効果等を考慮して,駆動装置の励振の次数nよりも所定の次数オフセット値nβだけ大きい有効次数に設計すること」という技術的事項の下位概念に該当する。なお,甲第2号証のFig.l(a),(b)にモデル化されて記載された動吸振器は,動作原理において本件特許発明でいうところの回転数適応型の動吸振器に相当することは明らかである,したがって,甲第2号証には,「回転数適応型の動吸振器を,環境効果等を考慮して,駆動装置の励振の次数nよりも所定の次数オフセット値nβだけ大きい有効次数に設計すること」が明らかに記載されている。

甲第2号証の記載における「環境効果」について
甲第2号証には,「環境効果」の具体例の明文の記載はない。しかしながら,技術常識に鑑みれば,「環境」というものには,bladed disc assemblyの周囲の環境ないし雰囲気が含まれ,そして「環境効果」には,bladed disc assemblyの周囲の流体(空気,ガス,液体等)の状態または状態変化に起因して生じるbladed disc assemblyへの影響が含まれるものと考えるのが相当であると請求人は思料する。以上の意見は,甲第2号証単独で見た場合のものである。
以下に,別の観点から意見を述べる。甲第3号証では,偏り質量3が潤滑油に浸漬されており,偏り質量体38の周囲にある潤滑油は偏り質量体38が置かれた「環境」に他ならない。そして,甲第3号証には,この「環境」である潤滑油が正確なチューニングを破壊するので,そのようなことを回避することが課題であることが記載されている。ここで,甲第3号証と第2号証とは実質的に同一の原理により吸振を行う装置である。甲第3号証を見た当業者が,甲第2号証の「However, any perturbation of the model or absorter parameters, due to in-service wear,environmental effects, and so on, will invariably destroy the exact tuning(環境効果等によるモデルないし吸収器パラメータの摂動により正確なチューニングを不変的に破壊する)」という記載を読めば,潤滑油による振動ダンピング手段のデチューニングとenvironmental effects (環境効果)に起因した正確なチューニングの破壊を結びつけ,振動ダンピング手段のデチューニングを回避する別のアプローチとして甲第2号証の教示を採用することは容易なことであると思料する。すなわち,甲第3号証を既に見ている当業者が甲第2号証を見れば,「環境効果」の一例として「潤滑油による影響」を想定することは極めて自然なことである。従って,仮に甲第2号証単独では「環境効果」の具体例として潤滑油を想定できなかったとしても,甲第3号証と組み合わせることにより,甲第2号証の「環境効果」の具体例として潤滑油を想定することは当業者にとって容易である。

また,独立請求項である請求項10に記載された発明(以下「本件発明10」という。)に対して,本件発明10は,本件発明1とカテゴリーが異なる発明に過ぎないことから,本件発明1で述べたのと同様の理由から,甲第1号証乃至甲第5号証の開示からして,進歩性を有さず,無効とされるべきである。

(2)無効理由2
(a)本件特許の請求項1-6,10及び11に係る発明は,甲第1号証及び甲第5号証,又は,甲第1号証及び甲第3号証乃至甲第5号証に記載された発明に基いて,本出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。
(b)本件特許の請求項7及び8に係る発明は,甲第1号証,甲第4号証,甲第5号証及び甲第7号証,又は,甲第1号証,甲第3号証乃至甲第5号証及び甲第7号証に記載された発明に基いて,本出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。
(c)本件特許の請求項9に係る発明は,甲第1号証及び甲第4号証乃至甲第8号証,又は,甲第1号証及び甲第3号証乃至甲第8号証に記載された発明に基いて,本出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。
(d)本件特許の請求項12に係る発明は,甲第1号証,甲第4号証,甲第5号証及び甲第7号証,又は,甲第1号証,甲第3号証乃至甲第5号証及び甲第7号証に記載された発明に基いて,本出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。

具体的には,本件発明1に対して,概略以下のように主張している。
甲第1号証には,無効理由1で述べたとおりの発明が開示されている。
甲第5号証では,請求項1等で「前記中央位置での前記運動軌道(B)の曲率半径(R)が,Lを曲率中心(M)の軸(1)からの距離,xを励起振動次数,kを0.8から1.2の範囲の係数とすると,式:R=kL/x^(2)により画定される」ことが開示されている。
すなわち,
x_(eff)=x*1/√k=√(L/R)
が開示されており,幾何学的な要素であるRを調整することで,有効な励起振動次数x_(eff)を得ることが開示されている。
そして,x=2,k=0.8のときには,x_(eff)=2.236となり,励起振動次数2よりも0.236だけオーバーチューンされることとなる。
したがって,甲第5号証では,x_(eff)を2?2.236の間で変化させることが開示されている。
また,甲第5号証の段落【0027】では「空洞17のわずかな部分に,空洞17の一部分に潤滑剤が満たされる。潤滑剤としては特に,潤滑液,例えば潤滑油又はグリースを挙げることができる。」とされ,潤滑油を利用することも開示されている。
したがって,甲第5号証には,
「1f 回転数適応型の動吸振器が,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセット値q_(F)だけ大きい有効次数q_(eff)に設計されていること」
が開示されている。
したがって,甲第1号証に,甲第5号証を組み合わせることで,当業者は本件発明1に到達することができる。なお,甲第1号証と甲第5号証はともに振動吸収装置の技術分野に属する文献であり,両者を組み合わせることに何らの困難性もない。
甲第3号証のカラム1の上から35行目?44行目では,潤滑油を満たすことでダンピング寄与を与え,その結果,振動ダンピング手段のデチューニングを引き起こすことが開示されている。そして,甲第3号証のカラム1の上から45行目?48行目では,潤滑油による不調を実質的に回避する振動ダンピング装置を提供することを目的としていることが開示されている。
また,甲第3号証のカラム6の上から32行目?39行目では,潤滑油72がガイド軌道列44,56に届かないレベルまでしか入れられず,そのことによって,潤滑油72の移動によって偏り質量38の動きにもたらされる振動吸収を小さくすることができ,全体の振動システムの抑制が大きく避けられうることが開示されている。
すなわち,甲第3号証には,潤滑油72の量を減らすことで偏り質量38にもたらされる抵抗を小さくし,その結果,全体の振動システムが抑制されることが開示されており,本件特許と同様,「遠心力に抵抗する油影響から結果的に生じる作用を考慮している。」(本件特許の段落【0039】参照)。
甲第4号証の段落【0015】では「軌道に沿って動く偏位質量体が前記媒体中において運動しなければならない,従って高められた抵抗に抗して動かねばならないという事実によって,そのようにつくられた振動子の固有振動数に影響が及ぼされ得る。」とされ,段落【0016】では「当該各減衰媒体室の間で流動体が往復移動させられ得る。その際,この往復移動も決められた固有振動数をもち,それによってダンパの振動挙動に影響を与える。」とされ,段落【0017】では「前記少なくとも一つの偏位質量体に減衰媒体の流入ないし貫流のための通路装置(ダクト装置)が設けられていることによって,各振動子の振動挙動に影響が及ぼされてもよい。」ともされている。
したがって,甲第4号証においても,流動体が振動子やダンパの振動挙動に影響を及ぼすことが開示されている。
以上のことから,本件発明1は,甲第1号証及び甲第5号証の開示,又は,甲第1号証及び甲第3号証乃至甲第5号証の開示からして,進歩性を有さず,無効とされるべきである。

甲第5号証に対する相違点に関連して
甲第5号証の段落【0015】には「さらに・・・とすることができる。」とあり。また段落【0016】には,発明の概念のさらなる形態に従えば,・・・とすることができる。」とある。すなわち,甲第5号証の段落【0015】,【0016】に記載されている事項(すなわち1つの運動軌道の片側で1.0<k<1.2反対側で0.8<k<0.99となっている形態)は,任意採択可能な好適な一実施形態に過ぎず,甲第5号証の開示は,係数kが1つの運動軌道において0.8?1.2の間で変化するものに限定されるものではない。例えば,甲第5号証の段落【0012】には「本願においては,特にkが0.8?0.99又は1.001から1.2の範囲にあることが好ましい。」とあり,k値として,0.8?0.99の範囲または1.001から1.2の範囲のいずれか一方のみを採択することは否定していない。そして,kが0.8?0.99の範囲内にあれば,本件特許発明の構成に該当することは明らかである。
また,式R=k*L/x^(2)を変形するとx/k^(1/2)=(L/R)^(1/2)となる,ここでxは励振次数であり,kは無次元数と見なすのが相当であるから,(L/R)^(1/2)はxと同じディメンションの値,すなわち(振動吸収装置の)次数であると解釈せざるを得ない。したがって,仮にkの若干の変動が許容されるにしても,その変動範囲が0.8?0.99ならば,本件特許発明の構成に該当することは明らかである。

甲第5号証の記載において「油影響に関連して」という構成を導き出せる理由について
甲第5号証の段落【0027】には,「保持部4を持つハブ部2の一部は,ハブ部2に対して密閉したキャップ16により囲まれているため,空洞17が生じる。すなわち,ハブ部2,慣性質量部材3,キャップ16で囲まれた空洞17が形成される。空洞17のわずかな部分に,空洞17の一部分に潤滑剤が満たされる。潤滑剤としては特に,澗滑液,例えば潤滑油またはグリースを挙げることができる。」と記載されている。図4に示す慣性質量体3の形状及び図1に示す慣性質量体3の配置より,空洞17の一部分に潤滑剤が満たされれば,慣性質量体3の少なくとも一部(おそらくは少なくとも半径方向外側部分)に潤滑剤が触れ,慣性質量体3の運動に影響を及ぼすことは自明である。従って,甲第5号証の装置は,油影響を何らかの形で考慮した設計がなされていなければならないものと考えるのが相当である。また,このことは甲第3号証を既に見ている当業者であれば,よりはっきりと認識できるはずである。
被請求人の説明によれば,本件特許発明とは,「油影響のある環境で使用される動吸振器を,油の影響が無い場合の動吸振器の次数(寸法のみにより決まる)が駆動装置の励振の次数よりもいくらか高くなるように設計する」ものに他ならない。
このことを踏まえて甲第5号証を見る。甲第5号証には,R=kL/x^(2)とすることが記載され,この式を変形すると,x/k^(1/2)=(L/R)^(1/2)となる,この変形式の右辺は,上記被請求人の説明にもあるように,予め油の影響が無い場合の動吸振器の次数に相当する。従ってkが0.8?0.99に設定されている場合の動吸振器の次数は,駆動装置の励振の次数xよりも約1.01?1.25倍大きくなる。よって,潤滑剤が慣性質量体3の運動にある程度の影響を及ぼすであろう環境下で使用され,かつ,kが0.8?0.99となるように設計された動吸振器は,本件特許発明における動吸振器と実質的に同一であると言える。すなわち,甲第5号証には本件特許発明の「振動減衰装置が・・・油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセット値q_(F)だけ大きい有効次数q_(eff)に設計されている」と実質的に同一の技術的事項が記載されていると言える。

また,本件発明10に対して,本件発明10は,本件発明1とカテゴリーが異なる発明に過ぎないことから,本件発明1で述べたのと同様の理由から,第1号証及び甲第5号証の開示,又は,甲第1号証及び甲第3号証乃至甲第5号証の開示からして,進歩性を有さず,無効とされるべきである。

(3)証拠方法
甲第1号証:米国特許第6026940号明細書,2000年(平成12年)2月22日発行
甲第2号証:Order-Tuned Vibration Absorbers for a Rotating Flexible Structure with Cyclic Symmetry Brian J. Olson et al.,2006年(平成18年)5月17日公開 Elsevier Science
甲第3号証:独国特許出願公開DE10005544A1号明細書,2001年(平成13年)8月16日公開
甲第4号証:特開2000-283235号公報 平成12年10月13日公開
甲第5号証:特許第3221866号公報 平成13年8月17日公開
甲第6号証:独国特許公開第102006028556号明細書 2007年(平成19年)1月18日公開
甲第7号証:特開2000-283233号公報 平成12年10月13日公開
甲第8号証:PCT国際公開第2004/018897号 2004年(平成16年)3月4日公開
甲第9号証:http://www.egr.msu.edu/dvrl/pubs/でアクセスしたウェブページの一部を加工してプリントアウトした書面

2.被請求人
被請求人は,審判事件答弁書,平成26年12月2日付け及び平成26年12月9日付け口頭審理陳述要領書において,「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」ことを答弁の趣旨とし,次のように反論する。

答弁の概要
(1)無効理由1について
(a)甲第1号証の開示及び対比
甲第1号証に記載の発明(以下「甲1発明」という。)は,ねじれ振動ダンパを備えた流体力学式トルクコンバー夕のためのロックアップクラッチに関するものである。甲第1号証には,流体力学式のトルクコンバータ(hydrodynamic torque converter)100が開示されており,このトルクコンバータ100は,ベアリングジャーナル(bearing journal)1と,タービンハブ(turbine hub)15が接続された駆動シャフト(driven shaft)と,弾性要素(elastic elements)41と,補償フライホイール質量体(compensation flywheel mass)54を備えている。
しかしながら,甲第1号証には,補償フライホイール質量体54を,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数よりも所定の次数オフセット値だけ大きい有効次数に設計することについては,全く開示されていない。
よって,本件発明1は,「回転数適応型の動吸振器(5)が,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセット値q_(F)だけ大きい有効次数q_(eff)に設計されている」構成を有するのに対し,甲1発明はそうでない点で相違する(相違点)。

(b)相違点について
(b-1)甲第2号証
甲第2号証には,周期的対称性を有する回転可撓性構造物における振動を軽減するための,次数がチューニングされた吸振器の使用に関する研究が開示されている。
そして,甲第2号証には,モデルの振動又は吸振パラメータが,使用による磨耗,環境効果等によって正確なチューニングを不変的に破壊することが記載されている。
しかし,ここでいう「環境効果」とは,モデルに対する外的影響に他ならず,モデル自体の構造に起因するものではない。それゆえ,使用による磨耗にせよ,環境効果にせよ,それらはモデルを構成する要素としての油の影響とは全く無関係である。したがって,甲第2号証には,デチューニングに際して油の影響を考慮することは,全く開示も示唆もされていない。
また,そもそも甲第2号証に記載の研究は,ジェットエンジンに見られるような,タービンブレード,ブレードを有するディスクアセンブリ,及びブリスク(一体型ディスク-ブレードシステム)への適用を意図したものである。特に,自動車のエンジンのようなロータに作用する変動トルクに起因するねじれ振動を軽減する吸振器ではなく,これとは対照的に,ロータが定速で作動するが荷重がかかるために可撓性の部品が振動を受けるケースを考察している。つまり,甲第2号証の研究における上記「デチューニング」は,甲第2号証の第2部(第4頁?第10頁)で説明されているようなブレードディスクアセンブリのモデルに対するデチューニングを指すものであって,少なくとも部分的に運転媒体である油で充填可能な室内に配置された振動減衰装置が,回転数適応型の動吸振器に連結されている力伝達装置におけるデチューニングを指していないことは明らかである。さらに云えば,前記研究は,正確なチューニングに対して,次数を大きく設定すること(オーバーチューニング)のみならず,小さく設定すること(アンダーチューニング)も示しており,決して,オーバーチューニングだけに限定していない。
そうすると,甲第2号証の開示は,ブレードディスクアセンブリのモデルに対して,使用による磨耗,環境効果等を考慮して,正確なチューニングに対して,次数をオーバーチューニング若しくはアンダーチューニングすること,にとどまる。
したがって,審判請求人の主張「したがって,甲第2号証には,1f’回転数適用型の動吸振器を,環境効果等を考慮して,駆動装置の励振の次数nよりも所定の次数オフセット値nβだけ大きい有効次数n^(?)に設計すること,が開示されている。」は,明らかに誤りである。

(b-2)甲第3号証
甲第3号証に記載の発明(以下「甲3発明」という。)は,潤滑油によって振動ダンピング手段のデチューニングが引き起こされることを解決すべき課題としており(第1欄),解決課題のために単に密室66内への潤滑油72の充填量を減らすことによって,潤滑油72によって偏り質量体38にもたらされる影響をほとんどなくして,振動ダンピング手段のデチューニングを十分に回避している(第6欄)。つまり,甲3発明は,デチューニングが回避されるように潤滑油72の充填量を所定量以下に減らすだけのものであるから,偏り質量体38自体の寸法,構成を変更して,動吸振器を,駆動装置の励振の次数よりも所定の次数オフセットだけ大きい有効次数に設定することは全く意図していない。

(b-3)甲第4号証
甲第4号証に記載の発明(以下「甲4発明」という。)は,甲第4号証の段落【0002】?【0004】の記載によれば,内燃機関式駆動装置の非一様回転に起因する振動励起だけではなく,例えば,内燃機関のクランクシャフトとトランスミッション入力軸との間の動力車のパワートレーンでの使用において発生する軸ずれないし軸傾斜という,別の振動数あるいは別の種類の振動励起に関して改善された減衰機能を与えるように,振動減衰装置を構成することを課題としている。そして,甲4発明では,甲第4号証の段落【0015】?【0017】の記載によると,きわめてさまざまな振動数状況への適応のために,偏位軌道を粘性のある減衰媒体内に延在させて,偏位軌道上の偏位質量体に減衰媒体による抵抗を作用させて,振動子の固有振動数若しくは振動挙動に意図的に影響を及ぼすようにしている。つまり,甲4発明は,減衰媒体の作用によって振動子の振動挙動に所望の影響を与えるために,減衰媒体が所定の作用を奏するように振動減衰装置を構成するものであるから,減衰媒体が作用しない場合の振動子の固有振動数を変更することは全く意図していない。
当業者が,甲第4号証を目の当たりにしたとしても,当業者は,さまざまな振動数状況への適応のために,減衰媒体が所定の作用を奏するように振動減衰装置を構成することしか思いつくことはない。
以上の通りであるから,甲第3,4号証には,油影響に関連して,回転数適応型の動吸振器を,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセットq_(F)だけ大きい有効次数q_(eff)に設定することは全く記載されておらず,示唆もされていない。
したがって,本件審判請求人の「このため,甲第1号証,甲第3号証及び甲第4号証を目の当たりにして,油影響に関連して,回転数適応型の動吸振器を,駆動装置の励振の次数qに対してオフセットさせることを思いついた当業者」(本件審判請求書第47頁)は,全く根拠のないもの,若しくは著しい論理の飛躍であって明らかに誤りである。

(b-4)甲第5号証
甲第5号証の請求項1及び段落【0011】?【0016】の記載によると,回転数適用式振動吸収装置の慣性質量部材3の運動軌道Bは,その曲率半径Rが,慣性質量部材3の中央位置からの変位に応じて段階的に変化する。即ち,曲率半径Rは,慣性質量部材3の運動軌道Bに沿って変化しており,一定ではない。また,中央位置での運動軌道Bの曲率半径Rは,Lを曲率中心Mの軸1からの距離,xを励起振動次数,kを0.8?1.2の範囲の係数として,
式 R=k*L/x^(2)
により与えられる。そして,特に「本発明では振動吸収装置の同調性は,運動軌道が,その曲率半径が一方でk=1.2における式:R=k L/x^(2)により画定される円と,他方で中心位置での曲率半径がk=0.8における式:R=kL/x^(2)により画定されるサイクロイドとの間に限定される区域にあることによりさらに改良される。」(段落【0014】)によれば,係数kは,1つの運動軌道において0.8?1.2の間で変化するものと解される。
しかし,係数kの数値を実際に如何なる条件に基づいて決定するのかは,甲第5号証には何ら記載されていない。そして,甲第5号証の段落【0014】の記載「このような慣性質量部材の非直線性の往復運動の他に,例えば潤滑剤に起因する流体静力学上,及び流体動力学上の効果からもさらに大幅に回転振動を相殺可能である。」を考慮すると,少なくとも潤滑剤による影響は,前記式並びに係数kの数値の決定には何ら考慮されていないと解される。それゆえ,前記式から,潤滑剤の影響を考慮に入れた回転数適応式振動吸収装置の有効次数を導き出すことは全く不可能である。
また,前記式において,Rは中央位置での運動軌道Bの曲率半径Rにすぎなく,しかも,運動軌道Bの曲率半径Rは運動軌道Bに沿って変化するものであること,そして,係数kは,1つの運動軌道において0.8?1.2の間で変化するものであることを考慮すると,
(L/R)^(1/2)
が回転数適応式振動吸収装置の次数を表していると解することはできず,さらには回転数適応式振動吸収装置の次数が励起振動次数xよりも大きいと断定することもできない。
そもそも,第5号証には,回転数適応式振動吸収装置の次数についての概念すら開示されていない。
また,本件発明において,「有効次数q_(eff)」とは,回転数適応型の動吸振器(5)の次数(幾何学的な調和次数)であり,そして励振の次数qは,駆動装置に属するものであって,駆動装置(内燃機関)の気筒数が変わらない限り一定である。
したがって,本件審判請求人の前記主張は全くの失当であると云わざるを得ない。

甲第5号証の発明は,「油影響」を考慮しているのではなく,広範な回転数域において振動吸収を可能とするため,運動軌道Bの曲率半径Rを変化させたものにすぎません(段落【0034】)。審判請求人が主張するように,たしかに,甲第5号証の段落【0027】には,「空洞17のわずかな部分に,空洞17の一部分に潤滑剤が満たされる。潤滑剤としては特に,潤滑液,例えば潤滑油又はグリースを挙げることができる。」と記載されているが,甲5発明が,油影響を考慮して請求項1の構成を採用したとは書いてありません。これは,甲第5号証の段落【0014】の記載「このような慣性質量部材の非直線性の往復運動の他に,例えば潤滑剤に起因する流体静力学上,及び流体動力学上の効果からもさらに大幅に回転振動を相殺可能である。」から見ても明らかなことです。
したがって,甲第5号証には,本件特許発明の「回転数適応型の動吸振器(5)が,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセット値q_(F)だけ大きい有効次数q_(eff)に設計されている」構成は,開示も示唆もされていません。

(c)請求項1に対する無効理由1のまとめ
以上の事情を総合すれば,当業者が,甲第1号証,甲第2号証,甲第3号証,甲第4号証,甲第5号証を目の当たりにしたところで,「1f 回転数適応型の動吸振器を,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数nよりも所定のオフセット値nβだけ大きい有効次数n^(?)に設計すること,を容易に思いつく。」(本件審判請求書第47?第48頁)は全く根拠のないものであって,明らかに誤りである。
したがって,本件発明1は,甲第1号証?甲第5号証に記載された発明に基いて,本出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(d)請求項10に対する無効理由1について
本件発明10は,本件発明1とカテゴリーが異なる発明である。したがって,本件発明1で述べたのと同様の理由から,本件発明10は,甲第1号証?甲第5号に記載された発明に基いて,本出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)無効理由2について
(a)甲第1号証との対比
本件発明1は,「回転数適応型の動吸振器(5)が,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセット値q_(F)だけ大きい有効次数q_(eff)に設計されている」構成を有するのに対し,甲1発明はそうではない点で相違する(相違点)。

(b)相違点について
(b-1)甲第5号証
無効理由1の(b-4)のとおりであり,甲5発明において,式R=k*L/x^(2)並びに係数kの数値の決定に潤滑剤による影響は何ら考慮されておらず,甲第5号証の上記段落の記載は,潤滑が必要な箇所に潤滑油又はグリースを提供するというごく一般的な事項を単に開示するにすぎない。つまり,前記段落の記載は,明らかに,本件発明の技術思想「発明者は,運転の間,それを介した出力伝達が行われようと行われまいと,運転媒体,特に油によって遠心的にまたは求心的に通流されるハイドロダイナミック式の構成要素を備えた力伝達装置において,回転する油質量体の油が動吸振器5,特に遠心振り子の機能に著しく作用することを認識した。この場合,特に慣性質量体と,回転する油との間に相対運動が生ぜしめられる。次数オフセット値q_(F)だけの抑制次数のオフセットに相当する,より高い次数値への幾何学的な調和次数の次数オフセットは,遠心力に抵抗する油影響から結果的に生じる作用を考慮している。」(段落【0039】)を示唆していない。
したがって,甲第5号証には,本件発明1の構成「回転数適応型の動吸振器(5)が,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセット値q_(F)だけ大きい有効次数q_(eff)に設計されていること」は,明らかに開示されていない。
甲第5号証には,本件発明1の上記技術思想が一切開示されていないし,甲第1号証との組み合わせを動機付ける記載も他にないのであるから,甲1号証と甲第5号証とを容易に組み合わせることは到底できない。また,仮に組み合わせ得たとしても,本件発明に想到することはない。

(b-2)甲第3号証
無効理由1の(b-2)のとおりであり,甲第3号証は,甲第1号証と甲第5号証との組み合わせを動機付けるものではなく,当業者はむしろ,潤滑油の量を減らすことを教示される。

(b-3)甲第4号証
無効理由1の(b-3)のとおりであり,当業者が,甲第4号証を目の当たりにしたとしても,当業者は,さまざまな振動数状況への適応のために,減衰媒体が所定の作用を奏するように振動減衰装置を構成することしか思いつくことはない。

(c)請求項1に対する無効理由2のまとめ
以上の事情を総合すれば,甲第1号証及び甲第3号証?甲第5号証の何れにも,油影響に関連して,回転数適応型の動吸振器を,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセットq_(F)だけ大きい有効次数q_(eff)に設定することは全く記載されておらず,示唆もされていない。また,これらの文献を容易に組み合わせ得るとする合理的な根拠もない。
したがって,本件発明1は,甲第1号証及び甲第5号証に記載された発明,又は,甲第1号証及び甲第3号証?甲第5号証に記載された発明に基いて,本出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(d)請求項10に対する無効理由2について
本件発明10は,本件発明1とカテゴリーが異なる発明である。したがって,本件発明1で述べたのと同様の理由から,本件発明10は,甲第1号証及び甲第5号証に記載された発明,又は,甲第1号証及び甲第3号証?甲第5号証に記載された発明に基いて,本出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第3 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし12に係る発明は,その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである(以下「本件特許発明1」ないし「本件特許発明12」という。)。

「【請求項1】
駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達するための力伝達装置(1)であって,少なくとも1つの入力体(E)と,出力体(A)と,少なくとも部分的に運転媒体である油で充填可能な室内に配置された振動減衰装置(3,4)とが設けられており,該振動減衰装置(3,4)が,回転数適応型の動吸振器(5)に連結されている形式のものにおいて,回転数適応型の動吸振器(5)が,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセット値q_(F)だけ大きい有効次数q_(eff)に設計されていることを特徴とする,駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達するための力伝達装置。
【請求項2】
回転数適応型の動吸振器(5)の共振が,励振の次数qに合致しないように,次数オフセット値q_(F)が選択されている,請求項1記載の力伝達装置。
【請求項3】
回転数適応型の動吸振器(5)の有効次数q_(eff)が,駆動装置の励振の次数qを0.05?0.5の範囲内の次数オフセット値q_(F)だけ上回っている,請求項1または2記載の力伝達装置。
【請求項4】
回転数適応型の動吸振器(5)の有効次数q_(eff)が,駆動装置の励振の次数qを0.05?0.4の範囲内の次数オフセット値q_(F)だけ上回っている,請求項3記載の力伝達装置。
【請求項5】
回転数適応型の動吸振器(5)の有効次数q_(eff)が,駆動装置の励振の次数qを0.05?0.3の範囲内の次数オフセット値q_(F)だけ上回っている,請求項3記載の力伝達装置。
【請求項6】
回転数適応型の動吸振器(5)の有効次数q_(eff)が,駆動装置の励振の次数qを0.14?0.3の範囲内の次数オフセット値q_(F)だけ上回っている,請求項3記載の力伝達装置。
【請求項7】
回転数適応型の動吸振器(5)が,遠心振り子装置として形成されており,該遠心振り子装置が,慣性質量体支持装置(10)を有しており,該慣性質量体支持装置(10)が,該慣性質量体支持装置(10)に対して相対的に運動可能に該慣性質量体支持装置(10)に配置された慣性質量体(9,9.1,9.2,9.11,9.12,9.13,9.14)を備えており,個々の慣性質量体(9,9.1,9.2,9.11,9.12,9.13,9.14)の重心間隔Sが,駆動装置の励振の次数qの関数として規定され,有効次数q_(eff)へのq_(F)だけの次数オフセットが,次数オフセット値q_(F)に関連した重心間隔の変化を規定するように,回転数適応型の動吸振器(5)が形成されていて,設計されている,請求項1から6までのいずれか1項記載の力伝達装置。
【請求項8】
次数オフセット値q_(F)の量が,駆動装置の励振の次数qの変化に比例して変化するようになっている,請求項1から7までのいずれか1項記載の力伝達装置。
【請求項9】
力伝達装置(1)が,ハイドロダイナミック式の構成要素と,該ハイドロダイナミック式の構成要素を跨ぐための装置とを有しており,ハイドロダイナミック式の構成要素が,ポンプホイール(P)として機能する少なくとも1つの一次ホイールと,タービンホイール(T)として機能する二次ホイールとを備えており,両ホイールが,作業室(AR)を互いに形成しており,タービンホイール(T)が,少なくとも間接的に力伝達装置(1)の出力体(A)に相対回動不能に結合されており,ハイドロダイナミック式の構成要素と,該ハイドロダイナミック式の構成要素を跨ぐための装置とが,それぞれ出力分岐路に配置されており,回転数適応型の動吸振器(5)を備えた振動減衰装置(3,4)が,少なくとも出力分岐路の一方に直列に接続されており,少なくとも部分的に運転媒体である油で充填可能な室が,力伝達装置(1)の内室によって形成されるようになっており,該内室が,ハイドロダイナミック式の構成要素の運転媒体によって通流されるようになっている,請求項1から8までのいずれか1項記載の力伝達装置。
【請求項10】
少なくとも1つの入力体(E)と,出力体(A)と,少なくとも部分的に運転媒体である油で充填可能な室内に配置された振動減衰装置(3,4)とが設けられており,該振動減衰装置(3,4)が,回転数適応型の動吸振器(5)に連結されている,駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達するための力伝達装置(1)の減衰特性を改善するための方法において,回転数適応型の動吸振器(5)を,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセット値q_(F)だけ大きい有効次数q_(eff)に設計することを特徴とする,駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達するための力伝達装置の減衰特性を改善するための方法。
【請求項11】
前記室が,ハイドロダイナミック式の構成要素の運転媒体によって通流されるようになっている,請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記方法が,以下の方法ステップ:すなわち,
・原動機の励振次数qを規定し,
・該励振次数qに対する回転数適応型の動吸振器(5)のジオメトリを確定し,
・必要となる次数オフセット値q_(F)を規定し,
・該次数オフセット値q_(F)の関数としての動吸振器(5)のジオメトリを検出する:
を有している,請求項10または11記載の方法。」

第4 甲各号証について
1.甲第1号証(米国特許第6026940号明細書)
ア 明細書3欄29行ないし45行(下線は当審で付与。以下同様。)
「FIG.1 shows a hydrodynamic torque converter 100 having a bearing journal 1 from which a primary flange 3 extends radially outward. The primary flange 3 is fixedly connected to an impeller shell 5 that carries a converter hub 7 at its radial inner end. The primary flange 3 and the impeller shell 5 form a converter housing 9 of the torque converter 100.
The impeller shell 5 has a vane arrangement for forming an impeller wheel 11 of the torque converter 100. The impeller wheel 11 cooperates with a turbine wheel 13 which also has a vane arrangement. The turbine wheel 13 is fastened to a turbine hub 15 which has an inner toothing 16. The turbine hub 15 is connectable with a conventionally constructed driven shaft via the inner toothing 16. For example, a driven shaft of the kind shown and described in reference DE 41 21 586 A1 which was cited above, may be used.
(図1は,ベアリングジャーナル1を有する流体式トルク・コンバータ100を示している。ベアリングジャーナル1からは第1フランジ3が径方向外側に延出している。第1フランジ3は,インペラ・シェル5に固定的に接続されている。インペラ・シェル5は,その径方向内側端部にコンバータハブ7を有している。第1フランジ3とインペラ・シェル5は,トルク・コンバータ100のコンバータ・ハウジング9を形成している。
インペラ・シェル5は,トルク・コンバータ100のインペラ・ホイール11を形成するためのベーン装置を有している。インペラ・ホイール11は,同じくベーン装置を有するタービン・ホイール13と協働する。タービン・ホイール13は,内側歯部16を有するタービン・ハブ15に固定されている。タービン・ハブ15は,内側歯部16を介して従来の構造を有する従動シャフトに接続可能である。例えば,この種の従動シャフトとしてDE4121586A1に記載のものを使用することができる。)翻訳は請求人作成のものによる。以下,同様。」

イ 明細書3欄46ないし67行
「The turbine hub 15 is clamped between an axial bearing 17 and an axial bearing 19. The axial bearing 17 separates the turbine hubl5 from the primary flange 3. The axial bearing 19, together with another axial bearing 21 which is supported in the region of the converter hub 7 at the converter housing 9, fixes a stator wheel 23 which, together with the impeller wheel 11 and the turbine wheel 13, forms a hydrodynamic converter circuit 24.
A lockup clutch 25 having, a piston 27 which is mounted on the turbine wheel 15 so as to be rotatable and axially displaceable is provided axially between the primary flange 3 and the turbine wheel 13. A radial outer end of the piston 27 has a friction facing 29 that cooperates with a friction surface 31 on the primary flange 3. Pressure may be applied to the back of the piston 27 by the converter circuit 24, so that the friction facing 29 of the piston 27 contacts the friction surface 31 and at torque which is introduced at the converter housing 9 can be transferred to the piston 27. A chamber 35 which is situated axially between the primary flange 3 and the piston 27 may be supplied with pressure medium via grooves 33 in the axial bearing 17 for a lifting of the piston 27 from the primary flange 3.
(タービン・ハブ15は,軸方向軸受17と軸方向軸受19との間にクランプされている。軸方向軸受17は,第1フランジ3からタービン・ハブ15を分離している。軸方向軸受19は,別の軸方向軸受21とともに,ステータ・ホイール23を固定している。軸方向軸受21は,コンバータ・ハウジング9におけるコンバータハブ7の領域に支持されている。ステータ・ホイール23は,インペラ・ホイール11及びタービン・ホイール13とともに,流体式コンバータ回路24を形成している。
ロックアップ・クラッチ25は,第1フランジ3とタービン・ホイール13との間に軸方向に設けられている。ロックアップ・クラッチ25はピストン27を有しており,このピストン27はタービン・ホイール15に回転可能且つ軸方向に変位可能に取り付けられている。ピストン27の径方向外側端部は,第1フランジ3の摩擦表面31と協働する摩擦面29を有している。コンバータ回路24によりピストン27の背部に圧力がかけられると,ピストン27の摩擦面29が摩擦表面31に接触し,コンバータ・ハウジング9に導入されたトルクがピストン27に伝達され得る。第1フランジ3とピストン27との間に軸方向に位置するチャンバ35は,第1フランジ3からピストン27を上昇させるよう軸方向軸受17内の溝33を介して圧力媒体の供給を受けることができる。)」

ウ 明細書4欄4ないし24行
「The piston 27 has a rivet connection 37 with drive-side driving means 39 in the form of cover plates, together with which it forms a drive-side transmission element 40. The drive-side driving means 30 act, via elastic elements 41 which are preferably springs oriented in the circumferential direction, at driven-side driving means 43 in the form of a hub disk having an inner toothing 45 by which it engages with an outer toothing 47 of a holder 49. The turbine hub 15 fixedly receives a carrier 51 for a compensation flywheel mass 54, wherein this compensation flywheel mass 54, together with the driven-side driving means 43 and the holder 49, forms a transmission element 52 on the driven side. Torsional vibrations that are introduced from the converter housing 9 via the piston 27 will consequently cause a deflection of the compensation flywheel mass 54 in opposition to the working direction of the torsional vibrations, so that the compensating function of this compensation flywheel mass 54 takes effect. The basic manner of operation of a compensation flywheel mass 54 in a torsional vibration damper is, for example, described in the above-cited DE 196 18 864 A1.
(ピストン27は,カバープレートの形体の駆動側駆動手段39を有するリベット連結部37を有している。ピストン27は駆動側駆動手段39とともに,駆動側伝動要素40を形成している。駆動側駆動手段30は,複数の弾性要素41を介して内側歯部45を有するハブ・ディスクの形体の従動側駆動手段43において作動する。弾性要素41は好ましくは周方向に配設されたバネである。内側歯部45により,駆動側駆動手段30はホルダ49の外側歯部47に係合する。タービン・ハブ15は,補償フライホイール質量体54用のキャリア51を固定的に受容している。この補償フライホイール質量体54は,従動側駆動手段43及びホルダ49とともに,従動側の伝動要素52を形成している。したがって,コンバータ・ハウジング9からピストン27を介して導入されるねじれ振動は,このねじれ振動の作用方向に対抗する補償フライホイール質量体54のたわみを生じさせ,これにより補償フライホイール質量体54の補償機能が有効となる。ねじれ振動ダンパにおける補償フライホイール質量体54の基本的な動作態様は,例えば上述のDE4121586A1に記載されている。)」

エ 明細書4欄25ないし41行
「FIG.2 shows the construction of a carrier 51 in the area of extension of a cutout 53 which acts in the radial outer area as a guide path 55 for the compensation flywheel mass 54. With increasing deflection from its center position in the circumferential direction, the compensation flywheel mass 54 is increasingly forced radially inward. The inward movement of the compensation flywheel mass 54 occurs against the applied centrifugal force, so that, as the deflection increases, the impression is given that the deflection is carried out against a spring of increasing stiffness.
Referring again to FIG.1, the compensation flywheel mass 54 has a center pin 57 by which it is guided into the cutout 53. Axially adjoining this center pin 57 on both sides are securing flanges 59 which are constructed such that their diameter is greater than the radial extension of the cutout 53 and the compensation flywheel mass 54 is accordingly prevented from falling out of the cutout 53.
(図2は,切欠き53の延長部の領域にあるキャリア51の構造を示している。切欠き53は,補償フライホイール質量体54用の案内路55として径方向外側領域において動作する。周方向中央部からのたわみの増大にともなって,補償フライホイール質量体54は径方向内側にますます押圧される。補償フライホイール質量体54の内側への移動は,補償フライホイール質量体54に作用する遠心力に抗して発生するため,たわみが増大するにつれて,より剛性の高いバネに抗してたわみが生じるような印象となる。
図1に戻ると,補償フライホイール質量体54は中央ピン57を有しており,この中央ピン57によって補償フライホイール質量体54は切欠き53内へと案内される。中央ピン57の両側において固定フランジ59が軸方向に隣接している。固定フランジ59はその直径が切欠き53の径方向延長部より大きいように構成されており,これにより補償フライホイール質量体54が切欠き53から脱落しないようになっている。)」

オ Fig.1

カ Fig.2

キ 記載事項ア,イ及びFig.1によれば,流体式トルク・コンバータ100は,駆動装置と被駆動装置の間で出力伝達するためのものであって,インペラ・ホイール11,タービン・ホイール13及びステータ・ホイール23からなる流体式コンバータ回路24とロックアップ・クラッチ25を有している。そして,流体式トルク・コンバータ100は,コンバータ・ハウジング9には運転媒体である油が充填されるものであり,ベアリングジャーナル1とタービン・ハブ15に接続された従動シャフトとを有するものである。

ク 記載事項ウ,エ及びFig.1,2によれば,駆動側駆動手段30は弾性要素41を介して作動するものであり,駆動側駆動手段30は,補償フライホイール質量体54を切り欠き53で案内するキャリア51に連結されるものである。

上記記載事項,認定事項及び図示内容を総合して,本件特許発明1の記載ぶりに則って整理すると,甲第1号証には,次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

「駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達するための流体式トルク・コンバータ100であって,
ベアリングジャーナル1と,
タービンハブ15に接続された従動シャフトと,
運転媒体である油で充填可能な室内に配置された弾性要素41を介して作動する駆動側駆動手段30が設けられており,
駆動側駆動手段30が,補償フライホイール質量体54を切欠き53で案内するキャリア51に連結される流体式トルク・コンバータ100。」

2.甲第2号証(Order-Tuned Vibration Absorbers for a Rotating Flexible Structure with Cyclic Symmetry Brian J. Olson et al.)
ア 2ページ1ないし21行
「1 Introduction
This work investigates the use of order-tuned absorbers to attenuate vibrations in a rotating flexible structure with cyclic symmetry. The applications of interest are turbine blades, bladed disk assemblies, and blisks (integral disk-blade systems), such as might be found in a jet engine. Flow entering an engine invariably meets static obstructions, such as struts, stator vanes, etc., in addition to rotating components, such as fans, compressors, and turbines in its path to the exhaust. Even in steady operation, therefore, the flow slightly upstream of these bladed assemblies is spatially non-uniform in pressure, temperature, and so on. This results in a static force field that varies circumferentially relative to the engine casing and gives rise to traveling wave dynamic loading on the blades-the so-called engine order excitation-which is characterized by excitation frequencies that are proportional to the mean rotational speed of the rotor [1]. Such excitations can lead to high cycle fatigue (HCF) failure, noise, reduced performance, and other undesirable effects [2]. This is an ideal setting for the use of centrifugally-driven, order-tuned vibration absorbers, yet their implementation to such systems has received little attention to date. Much is already known about the dynamic behavior of systems of vibration absorbers, and the same is true for systems with symmetries in general and for rotating flexible structures in particular [3, 4]. This work aims to apply the theory, methodology, and design of order-tuned absorbers to such systems.
(1.はじめに
本研究は,周期的対称性を有する回転可撓性構造物における振動を軽減するための次数がチューニングされた吸収器の使用に関するものである。適用例として,タービン・ブレード,ブレード・ディスク・アセンブリ,及びジェットエンジンに見られるようなブリスク(一体型ディスク・ブレード・システム)が挙げられる。エンジンに流入するフローは,排気通路にあるファン,コンプレッサ及びタービン等の回転部品の他に,支柱やステータのベーン等の静的障害物に必ず接触する。したがって,安定動作中であっても,これらのブレード・アセンブリよりわずかに上流にあるフローは,圧力や温度等において空間的に不均一である。これにより,エンジンのケースに対して周方向に変化するとともに,ブレードに対して進行波動的負荷を生じさせる静的力フィールドが発生する。進行波動的負荷とは,いわゆる「エンジン励起次数」と呼ばれるものであり,ロータの平均回転速度に比例する励起周波数を特徴とする[1]。このような励起は,高いサイクル疲労(HCF)故障,ノイズ,性能低下及び他の望ましくない結果を招き得る[2]。遠心駆動される次数がチューニングされた振動吸収器が使用される理想的環境ではあるが,このようなシステムへの使用は,これまでのところ殆ど注目されてこなかった。振動吸収システムの動的挙動に関して多くが既に知られており,これは一般的な対称性を有するシステムや特殊な回転可撓性構造物についても同様である[3,4]。本研究は,このようなシステムに次数がチューニングされた吸収器の理論,方法論及び設計を適用することを目的とする。)」

イ 2ページ22行ないし3ページ5行
「An important feature of order-tuned absorber systems is that they are tuned to a particular order of rotation, and are thus effective over a range of operating speeds, rather than to a particular speed. This is in contrast to the classical frequency-tuned absorbers due to Ormondroyd and Den Hartog [5, 6], which are effective only at a particular frequency. The desired order-tuning [7] is achieved by exploiting the centrifugal field due to rotation to provide the absorber restoring forces, as opposed to an elastic element. Order-tuned absorbers have been quite successful in rotating machinery applications, where they are used to attenuate torsional vibrations that arise from fluctuating torques acting on the rotor. Some mature applications include light aircraft engines [8] and helicopter rotors [9], and, more recently, diesel camshafts [10] and advanced technology automotive engines [11]. In contrast, here we consider the case where the rotor runs at a constant speed, but flexible attachments experience vibrations due to applied loads. Linear analytical studies of order-tuned absorbers applied to such systems have been carried out, for example, by Hollkamp et al. [12], and also Wang et al. [13]. Recent experimental work by Duffy and coworkers [14] has demonstrated the effectiveness of the impacting response of such absorbers, and Shaw and Pierre [15] have analytically investigated the response of a single flexible element fitted with an order-tuned impact absorber.
(次数がチューニングされた吸収システムの重要な特性は,それらが特定の回転「次数」にチューニングされ,これにより,特定の速度ではなく作動速度の一定の範囲に亘って有効であるということである。これは,Ormondroyd及びDen Hartog[5,6]による,特定の周波数においてのみ有効である古典的な周波数をチューニングされた吸収器と対称的である。望ましい次数チューニング[7]は,弾性要素とは反対に,回転による遠心フィールドを利用して吸収復元力を提供することにより達成される。次数がチューニングされた吸収器は,回転機械への適用にあたって非常に成功している。回転機械への適用において,次数がチューニングされた吸収器は,ロータに作用する変動トルクに起因するねじれ振動を軽減すべく使用される。軽量の航空機エンジン[8],ヘリコプタのロータ[9]及び最近ではディーゼル・カムシヤフト[10]及び進んだ自動車のエンジン[11]が成熟した適用例に含まれる。これに対し,ロータが定速で作動するが荷重がかかるために可撓性の部品が振動を受けるというケースをここでは考察する。このようなシステムに適用される次数がチューニングされた吸収器に関するリニア分析研究が,例えば,Hollkampら[12]またWangら[13]によりなされている。Duffyとその共同研究者次数がチューニングされた吸収器は,[14]による最近の実験的研究により,このような吸収器の衝撃レスポンスの有効性が実証されるとともにShawとPierre[15]は,次数がチューニングされた衝撃吸収器に取り付けられた単独の可撓性要素のレスポンスを分析的に精査している。)」

ウ 3ページ6ないし26行
「The rotating flexible structures of interest consist of an array of interconnected constituent parts (substructures) whose geometry and structural properties are rotationally periodic, and they are said to have cyclic symmetry [16]. In a bladed disk, for example, the fundamental substructure is one blade plus the corresponding segment of the disk, which is collectively referred to as a sector. The entire dynamics of these systems can be captured by analyzing a single sector [17, 18], a feature shared by all perfectly cyclic systems. The cyclically symmetric model considered here consists of N sectors (Fig. 1b), each of which is composed of a single degree-of-freedom (DOF) blade model with an attached absorber. Hence each sector possesses two DOF, and these are coupled such that the overall system (Fig. 1a) has 2N DOF. While it is possible to handle the governing (coupled) 2N equations of motion using the tools from linear vibration theory [19], a standard change of coordinates based on the cyclic symmetry of the system is employed to reduce the problem to N uncoupled 2-DOF systems [16-18, 20-22]. Not only does this offer substantial computational savings, it also yields closed-form solutions describing the forced response, which clearly shows the effects of the absorbers on the system. The main objective of this work is to investigate the overall system behavior and to assess the effectiveness of the absorbers in attenuating the blade vibrations, especially near resonance. Absorber tuning plays a key role in this analysis.
(当該回転可撓性構造物は,相互結合された一連の構造部品(下位構造物)からなる。これらの構造部品の幾何学的及び構造的特性は回転周期性であり,これらは「周期的対称性」を有すると言われる[16]。例えば,ブレード・ディスクにおいて,基本的構造はディスクの対応セグメントを有する1つのブレードであり,これは集合的に「セクタ」と称される。これらのシステムの全体的な力学は,全ての完全に周期的なシステムが共有する特性である単独のセクタ[17,18]を分析することで理解することができる。ここで想定される周期的に対称なモデルとは,N個のセクタ(図1b)からなり,各セクタは吸収器が取り付けられた単独の自由度(DOF)ブレード・モデルから構成されている。したがって,各セクタは2つのDOFを有し,これらは全体的なシステム(図1a)が(N×2)個のDOFを有するように連結されている。リニア振動理論[19]からツールを用いた運動の支配(連結)2N方程式を扱うことも可能であるが,システムの周期的対称性に基づく座標の標準変化がN個の非連結2-DOFシステムの問題を減じるように採用される[16-18,20-22]。これは,実質的な計算上の節約となるだけでなく,システムにおける吸収器の有効性を明示する,強制レスポンスを描写する閉じた形態の解決をも提供するものである。本研究の主な目的はシステム全体の挙動を精査し,且つ,特に共振付近でのブレード振動の軽減に関する吸収器の有効性を評価することである。吸収器のチューニングはこの分析において重要な役割を果たす。)」

エ Fig.1.(a),(b)

オ 21ページ8行ないし22ページ5行
「4 Absorber Tuning
Absorber tuning refers to a particular choice of absorber parameters to attenuate, as much as possible, the response of the primary systems (blades) over a range of operating speeds, and in particular near resonance. This is done by prescribing the dimensionless parameters μ,γ, and α, which in turn specify the absorber mass m, the radius of its path r, and it’s placement along the blades, respectively. It is shown in Section 4.1 that, in the absence of damping, there exists an absorber tuning such that full annihilation of the blade vibrations is possible, although this may require large-amplitude vibrations of the absorbers. This tuning is accomplished by matching the order of the isolated absorbers to that of the excitation, just as is done with frequencies in the classical dynamic vibration absorber [6], and also with orders for the centrifugal pendulum vibration absorber [7]. In the presence of small absorber damping, however, it becomes impossible to eliminate the blade vibrations completely, and the situation becomes more complicated.^( 10 )The effects of detuning ^(11) the absorbers relative to the excitation order is explored in Section 4.2. It is shown that overtuning the absorbers results in only one system resonance over all possible rotation speeds, even though there are two DOF per sector and there are N such sectors, and the same is true for most values of undertuning. However, there exists a small region of absorber undertuning, bounded on one side by the exact tuning (zero detuning), for which there are no system resonances. This no-resonance gap motivates a particular tuning strategy, which offers a significant reduction of the blade amplitudes and is robust to random perturbations of the system model.
Consider again the Campbell diagrams in Fig. 3. Whereas n is fixed for a particular engine order excitation, the tuning order n^(?) depends on the model parameters α,δ, and γ (these are prescribed by design), and the additional choice for the dimensionless absorber mass μ sets the critical tuning order n?(n^(?)). (審決注:「n?」はnの上に山形を入れた記号)
(4.吸収器のチューニング
吸収器のチューニングは,作動速度の一定の範囲に亘る,特に共振付近における第1システム(ブレード)のレスポンスを可能な限り軽減するための吸収器のパラメータの特定の選択を参照する。これは,吸収器の質量m,そのパスの半径r,及びブレードに沿うその配置をそれぞれ特定する無次元パラメータμ,γ,及びαを規定することにより実施される。第4.1部において,ダンピングがない場合,ブレード振動の完全な消滅を可能とする吸収器のチューニングが存在することが示される。但し,ブレード振動の完全な消滅には,吸収器の大きな振幅振動が必要とされる場合がある。このチューニングは,古典的な動的振動吸収器における周波数[6]及び遠心性振り子振動吸収器[7]に対するのと同様に,離間した吸収器の次数を励起次数にマッチさせることにより実現される。しかしながら,小さい吸収ダンピングが存在する場合,ブレード振動を完全に解消することは不可能となり,より複雑な状況となる(^(10)ダンプされたシステムの分析は進行中であり以後の論文で論じられる)。励起次数に対する吸収器の「デチューニング」の影響は,第4.2部で検討される(^(11)本論文において「デチューニング」とは,全ての吸収器が等しくnに対してチューニング過剰(オーバー)又はチューニング不足(アンダー)であることを意味する。この「デチューニング」と,システム・パラメータのわずかなランダム不確実性に関する「ミスチューニング」が混同されてはならない。ターボ機械の論文において,デチューニングとミスチューニングとはしばしば互換的に用いられるが,本論文においては明確に区別されなければならない)。吸収器のオーバー・チューニングは,各セクタにつき2つのDOFが存在するとともにN個のかかるセクタが存在するとしても,全ての潜在的な回転速度に対して唯一のシステム共振しか得られないことが示される。これは,アンダー・チューニングの殆どの値についても同様である。しかしながら,小領域の吸収器のアンダー・チューニングが存在し,この一辺は正確なチューニング(ゼロ・チューニング)と境を接しており,これについてはシステム共振は存在しない。「無共振ギャップ」は,ブレード振幅の顕著な減少を提供するとともにシステム・モデルのランダムな摂動に対して強固性を有する特定のチューニング戦略の助けとなる。
図3のCampbell図を参照されたい。nは特定のエンジン励起次数について固定であるが,チューニング次数n^(?)はモデル・パラメータα,δ,及びγ(これらは設計により規定される)に依存し,無次元吸収器の質量μに対する更なる選択は臨界的なチューニング次数n?(n^(?))を設定する。)」

カ 第23ページ下から3行ないし第24ページ5行
「However, any perturbation of the model or absorber parameters, due to in-service wear, environmental effects, and so on, will invariably destroy the exact tuning. To account for such effects, and to allow for intentionally detuned designs, we let
n^(?) = n(1 + β), (47)
where β is a detuning parameter. Perfect, or exact tuning corresponds to β= 0, while undertuning (resp. overtuning) corresponds to β < 0 (resp.β > 0).
(しかしながら,モデルの摂動又は吸収パラメータが,使用による磨耗,環境効果等によって正確なチューニングを不変的に破壊する。このような効果を考慮して,意図的にデチューニングの設計を可能にするために,式(47)を実施する。
n^(?) = n(1 + β), (47)
式(47)中,βはデチューニング・パラメータである。完璧なあるいは正確なチューニングはβ=0に対応し,アンダー・チューニング(resp.オーバー・チューニング)はβ<0(resp.β>0)に対応する。)」

3.甲第3号証(独国特許出願公開DE10005544A1号明細書)
ア 1欄35ないし49行(ウムラウトは省略した。以下同様。)
「Dies bedingt jedoch eine erhebliche Befullung der Auslenkungsmassenkammern mit Schmierfluid, so dass dieses nicht nur ein Beitrag zur Schmierung leistet, sondem gleichzeitig auch durch die erforderlich werdende Verdrangung desselben einen Dampfungsbeitrag liefert. Ein derartger Dampfungsbeitrag kann jedoch zu einer Verstimmung der Schwingungsdampfungseinrichtung fuhren, so dass diese ggf. nicht dazu in der Lage ist, die erforderliche Schwingungsdampfung im vorgesehenen Frequenzbereich vorzusehen.
Es ist daher eine Aufgabe der vorliegenden Erfindung, eine Schwingungsdmpngseinrichtung bereitzustellen, bei welcher eine durch Schmiermedium bedingte Verstimmun im Wesentlichen vermieden werden kann.
(しかしながら,このことは,偏り質量体スペースを油流体でかなり満たすことを要求し,その結果,油に対する寄与をもたらすだけでなく,同時に,必要となる移動によってダンピング寄与をもたらす。しかしながら,このようなダンピング寄与は振動ダンピング装置のデチューニングを引き起こし,その結果,場合によっては存在しないが,意図された周波数領域において必要な振動ダンピングを提供する。
このため,本発明の目的は,油媒体によるデチューニングを実質的に回避することができる振動ダンピング装置を提供することにある。)」

イ 6欄32ないし39行
「Man erkeimt, dass dieses Schmierfluid 72 nur einen derartigen Ftillstand erreicht, dass es nicht bis an die Fuhrungsbahnanordnimgen 44, 56 radial heranreicht. Dies hat den Vorteil, dass die bei der Bewegung der Ausl enkungsmass en 38 durch Verdrangung von Schmierfluid 72 eingehrte Schwingungsdampfung minimi ert werden kann und somit auch eine Verstimmung des gesamten Schwingungssystems weitgehend veraiieden werden kann.
(油流体72がガイド軌道列44,56に半径で届かないレベルまでしか入れられない。そのことによって,好ましくも,潤滑油72の移動によって偏り質量体38の動きにもたらされる振動吸収を小さくすることができ,全体の振動システムのデチューニングが大きく避けられうる。)」

ウ Fig.1

4.甲第4号証(特開2000-283235号公報)
「【0015】きわめてさまざまな振動数状況(Frequenzverhaeltnisse)への適応のはじめに述べられた課題は,本発明の別の観点により,少なくとも一つの偏位軌道が少なくとも領域的に粘性のある減衰媒体内に延在することによって解決される。このようにしても,軌道に沿って動く偏位質量体が前記媒体中において運動しなければならない,従って高められた抵抗に抗して動かねばならないという事実によって,そのようにつくられた振動子の固有振動数に影響が及ぼされ得る。
【0016】このケースでは,周方向に相前後して位置する複数の偏位軌道が設けられており,その際,当該偏位軌道のそれぞれがそれぞれの減衰媒体室を画成すること,及び,当該減衰媒体室のうちの少なくとも二つが減衰媒体交換のための通路装置(ダクト装置)によって互いに連通させられていることが考慮に入れられているとよい。従って,このような配置の場合には,当該各減衰媒体室の間で流動体が往復移動させられ得る。その際,この往復移動も決められた固有振動数をもち,それによってダンパの振動挙動に影響を与える。
【0017】その際,例えば,減衰媒体室を画成するそれぞれの偏位軌道に通路装置が開口していることが考慮に入れられているとよい。さらに,前記少なくとも一つの偏位質量体に減衰媒体の流入ないし貫流のための通路装置(ダクト装置)が設けられていることによって,各振動子の振動挙動に影響が及ぼされてもよい。」

5.甲第5号証(特許第3221866号公報)
ア 「【請求項1】 軸(1)の回りを回転可能なシャフト用の回転数適応式振動吸収装置であって,少なくとも1つの慣性質量部材(3)が備わるハブ部(2)を含み,該少なくとも1つの慣性質量部材(3)が,所定の運動軌道(B)に沿って,前記ハブ部(2)に対して往復運動を行う回転数適応式振動吸収装置において,
前記運動軌道(B)が,前記少なくとも1つの慣性質量部材(3)が前記軸(1)から最も大きな間隔をもつように調節された中央位置を有し,かつ前記運動軌道(B)が,前記少なくとも1つの慣性質量部材(3)の前記中央位置からの変位が増大するにつれ,少なくとも段階的に変化する曲率半径(R,R’)をもち,
前記中央位置での前記運動軌道(B)の曲率半径(R)が,Lを曲率中心(M)の軸(1)からの距離,xを励起振動次数,kを0.8から1.2の範囲の係数とすると,式:R=kL/x^(2)により画定されることを特徴とする回転数適応式振動吸収装置。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は軸のまわりを回転可能なシャフト用の回転数適応式振動吸収装置に関する。より詳細には本発明は,少なくとも1つの慣性質量部材が備わるハブ部を含み,その慣性質量部材が所定の運動軌道に沿って,ハブ部に対して往復運動し,運動軌道が,少なくとも1つの慣性質量部材が軸から最も大きな間隔をもつように調節された中央位置を有する回転数適応式振動吸収装置に関する。」

ウ 「【0014】本発明では振動吸収装置の同調性は,運動軌道が,その曲率半径が一方でk=1.2における式:R=kL/x^(2)により画定される円と,他方で中心位置での曲率半径がk=0.8における式:R=kL/x^(2)により画定されるサイクロイドとの間に限定される区域にあることによりさらに改良される。ここで円とサイクロイドは,それらの軌道が中央位置において重なるように,すなわち円の接線とサイクロイドの接線が中央位置において一致するように配置される。遠心力の作用する場にある慣性質量部材のこの運動軌道の形式により,良好な振動吸収が達成可能である。この方法により,ハブ部に対して相対的に動く慣性質量部材の,変位に依存しない往復運動の持続を達成することが可能になる。このような慣性質量部材の非直線性の往復運動の他に,例えば潤滑剤に起因する流体静力学上,及び流体動力学上の効果からもさらに大幅に回転振動を相殺可能である。
【0015】さらに中央位置に隣接する第一区間にある運動軌道が,区域の第一領域にあるとすることができる。ここでこの第一領域は,その曲率半径が一方でk=1.0における式:R=kL/x^(2)により画定される円と,他方で曲率半径がk=1.2における式:R=kL/x^(2)により画定される円との間に限定される領域である。このときこれら2つの円は,それらの軌道が中央位置で重なるように配置される。
【0016】発明の概念のさらなる形態にしたがえば、運動軌道は、第一区間に隣接する第二区間において区域の第二領域にあるとすることができる。ここで第二領域は、その曲率半径が一方でk=1.0における式:R=kL/x^(2)により画定される円と、他方で中央位置での曲率半径がk=0.8における式:R=kL/x^(2)により画定されるサイクロイドとの間に限定される領域である。このとき円とサイクロイドは、それらの軌道が中央位置で重なるように配置される。運動軌道の形が領域により異なることから、大きく異なる条件下においても吸収特性をさらに最適化する、新たな可能性が生まれる。なお本願においては、運動軌道を中央位置から見た場合に、最初の区間を第一区間とし、それに続くのを第二区間と称する。」

エ 「【0019】
【実施例】以下においては,本願発明の回転数適応式振動吸収装置の良好な振動吸収特性がどのように達成されるかが述べられる。実施例について図面を参照して説明する。図1には軸1の回りを回転可能なシャフト(示していない)用の回転数適応式振動吸収装置が示される。この回転数適応式振動吸収装置は,ハブ部2と周方向に隣接する複数(この場合には5つ)の慣性質量部材3を有する。このハブ部2には,各慣性質量部材3用に,慣性質量部材3をハブ部2上に支承するための各々2つの円周方向で隣り合う保持部4がある。なおM1はケーシングの一部であり,M2は組立のための取り付け部であり,M3はハブ部分の凹所であり,M4は部品取り付けのためのボアである。
【0020】各保持部4は,ハブ部2内の空所5及びその中に受容されるピン6を含む。このときハブ部2の軸1と平行に延びる軸,縦軸を有するピン6は,慣性質量部材3内の例えばくり抜き部として形成された空所7内に延伸する。したがって各保持部4は,ハブ部2内の空所5,慣性質量部材3の空所7,ピン6より構成される。
【0021】このハブ部2には空所5を画定する転がり軌道8があり,またこの慣性質量部材3には空所7を画定する転がり軌道9がある。転がり軌道8,9及びピン6は,慣性質量部材3が,その重心と軸1との距離が最大となるように調節された中央位置から出発して,それぞれの変位位置において運動軌道Bに沿ってハブ部2に対して往復運動するように形成及び配置されている。遠心力の場において,すなわち例えば本発明の回転数適合式振動吸収装置が取り付けられるシャフトが回転する際に,慣性質量部材3が行う往復運動では,慣性質量部材3の重心は変位し,軸1に近付く,もしくは慣性質量部材3の重心と軸1との間隔は小さくなる。慣性質量部材3が変位位置間を動く際に,ピン6は,互いに逆方向に湾曲したハブ部2と慣性質量部材3の転がり軌道8と9の上を転動する。図1に示されているように(図4も合わせて参照),ハブ部2の転がり軌道8は軸1の方に向く概略U字形形状であり,一方慣性質量部材3の転がり軌道9はこれとは反対に外側へ,すなわち軸1とは反対の方を向く概略U字形形状をしている。
【0022】回転運動に重畳する回転振動が発生すると,慣性質量部材3の各点,特にその重心は図1で示したその中央位置から,ハブ部2に対して湾曲した,曲がった運動軌道Bに沿って動く。このとき各慣性質量部材3は,ハブ部2に対して並進運動すなわち各慣性質量部材3はハブ部2と隣接して,平行して変位するので,固定された慣性質量部材3の各点,特に慣性質量部材の重心は同様の運動軌道Bに沿って変位する,もしくはずれる。
【0023】慣性質量部材3にはさらに空所7内に,転がり軌道9に対向するガイド軌道10を備えるので,空所7は軸1から離れた方,軸1とは反対側を向く概略U字形になる。同様にこれと対応するガイド軌道11も又はハブ部2の保持部4内に形成され,空所5は軸1の方を向く概略U字形となる(図1の破線表示と比較,図4も合わせて参照)。
【0024】周方向で隣接する慣性質量部材は,互いに対向する端部が丸く形成され,互いの変位運動に依存しないように,すなわち隣り合う慣性質量部材が互いに影響を及ぼし合うことがないように,隣接する慣性質量部材が間隔をあけて配置されている。
【0025】図2には,図1に示す回転数適応式振動吸収装置とは異なる振動吸収装置の断面を示す。図2に示した軸1に沿った断面図は,ハブ部2に支承される慣性質量部材3の配置及び軸受け構造を明らかにする。図2に示した実施形態では,慣性質量部材3は対になって軸方向両側にハブ部2に隣り合って配置している。
【0026】転がり軌道8及び9は,ハブ部2ないし慣性質量部材3の空所5及び7内で,脱落することなく受容される嵌込み部材12,13の構成要素である。投入部12及び13は,まず空所5及び7内にゆるく挿入し,もしくは固定することなく挿入し,次ぎにガイド軌道10,11を形成する層14,15によってハブ部2,慣性質量部材3と嵌込み部材12,13との間を埋めて,空所5及び7と嵌込み部分12及び13と接着することができる。」

オ 「【0027】保持部4をもつハブ部2の一部は,ハブ部2に対して密閉したキャップ16により囲まれているため,空洞17が生じる。すなわちハブ部2,慣性質量部材3,キャップ16で囲まれた空洞17が形成される。空洞17のわずかな部分に,空洞17の一部分に潤滑剤が満たされる。潤滑剤としては特に,潤滑液,例えば潤滑油又はグリースを挙げることができる。」

カ 「【0028】図3、4及び5は、本発明に適する運動軌道Bの形態を、図によりさらに明白にする。慣性質量部材3のある点、特に重心Pの運動軌道Bは、慣性質量部材3の中央位置で、ある曲率半径Rを有する。本発明においては、この曲率半径が、慣性質量部材3の中央位置からの変位が増大するにつれ、少なくとも段階的に変化することを特徴とする。好ましくは、慣性質量部材3の中央位置からの変位が増大するにつれ、曲率半径が少なくとも段階的に減少し、より好ましくは単調に減少する。この中央位置内の運動軌道Bの曲率半径Rは、式:R=kL/x^(2)により決定される。その際Lは曲率中心Mと軸1との距離、xは励起振動の次数、kは0.8から1.2の範囲の係数である。ここで特に好ましくはkは1ではなく、0.8?0.999又は1.001?1.2である。
【0029】この曲率半径は、慣性質量部材3が、中央位置から変位するにつれて変化し、好ましくは減少する(曲率半径R')。その結果として運動軌道の曲率は変化し、好ましくは増加する。より好ましくはこの曲率は連続して増加、単調に増加し、すなわち曲率半径は連続して減少、単調に減少し、ある関数により表すことができる。このとき運動軌道BがサイクロイドZの一部分により形成されることが好ましい。ここでサイクロイドとは、ある円が一直線上を転がるときに生じる曲線である。その円とその中心からの距離で強く画定される点、すなわちその円の円周上の点は、その円が直線上で転がる際、一続きの曲線を描く。すなわちサイクロイドとは、円がある直線上に沿って滑らずに回転するとき、その円周上の1点の軌跡が描く曲線のことである。発明に適する慣性質量部材の運動軌道の形態により、特に良好な振動吸収装置の同調性が達せられる。」

キ 図1

ク 図2

ケ 図3

第5 当審の判断
1.無効理由1について
(1)本件特許発明1
(1-1)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比すると,その作用,機能からみて,後者の「流体式トルク・コンバータ100」は前者の「力伝達装置(1)」に相当し,同様に,
「ベアリングジャーナル1」は「少なくとも1つの入力体(E)」に,
「タービンハブ15に接続された従動シャフト」は「出力体(A)」に,
「弾性要素41を介して作動する駆動側駆動手段30」は「振動減衰装置(3,4)」に,
「補償フライホイール質量体54を切欠き53で案内するキャリア51に連結される」ものは「回転数適応型の動吸振器(5)に連結されている形式のもの」にそれぞれ相当する。

したがって,両者は,
「駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達するための力伝達装置であって,少なくとも1つの入力体と,出力体と,少なくとも部分的に運転媒体である油で充填可能な室内に配置された振動減衰装置とが設けられており,該振動減衰装置が,回転数適応型の動吸振器に連結されている形式のものである,駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達するための力伝達装置。」
である点で一致し,以下の点で相違する。

本件特許発明1では,「回転数適応型の動吸振器(5)が,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセット値q_(F)だけ大きい有効次数q_(eff)に設計されている」のに対し,甲1発明では,補償フライホイール質量体54を切欠き53で案内するキャリア51がどのように設計されているのか明らかでない点。

(1-2)判断
請求人は,甲第3号証及び甲第4号証を目の当たりにして,油影響に関連して,回転数適応型の動吸振器を,駆動装置の励振の次数qに対してオフセットさせることを思いついた当業者が,甲第2号証(や甲第5号証)を目の当たりにすることで上記相違点に係る構成を容易に思いつく旨,主張している。
しかしながら,当審はそのように判断することができない。
なぜならば,甲第2号証の論文は,周期的対称性を有する回転可撓性構造物における振動を軽減するための次数がチューニングされた吸収器の使用に関するものであり,次数がチューニングされた吸収器の理論,方法論及び設計について記載されている(第4 2.アないしオ参照)が,次数のチューニングをモデル・パラメータに基づいて分析するものであって,油影響に関連して,回転数適応型の動吸振器を,駆動装置の励振の次数qに対してオフセットさせることを示唆するものではない。また,使用による摩耗や環境効果によって正確なチューニングを不変的に破壊するため,デチューニングとしてオーバー・チューニングまたはアンダー・チューニングを行うことが記載されている(同カ参照)に止まり,油影響に関連してオーバー・チューニングを行うことが記載されているわけでもない。請求人は,甲第2号証に「1f’回転数適応型の動吸振器を,環境効果等を考慮して,駆動装置の励振の次数nよりも所定の次数オフセット値nβだけ大きい有効次数n^(?)に設計すること」が開示されている旨主張するが,せいぜい,回転数適応型の動吸振器を,環境効果等を考慮して,駆動装置の励振の次数nよりも所定の次数オフセットした有効次数nに設計することが示唆されているにすぎず,所定の次数オフセット値nβだけ大きい有効次数nに設計するという技術思想を導き出すことはできない。
したがって,仮に甲第3号証及び甲4号証から,油がダンパの挙動に影響を与えることを当業者が理解できたとしても,そのことによって当業者が,駆動装置の励振の次数よりも所定の次数オフセット値だけ大きい有効次数に設計することを容易に思いつくということはできない。また,無効理由2で述べるように,甲第5号証に基づいて,相違点に係る構成に容易に想到し得るともいえない。
そもそも,甲第3号証には,潤滑油によって振動ダンピング手段のデチューニングが引き起こされることが記載されている(第4 3.イ参照)のであって,そのために潤滑油の量を考慮すること,すなわち,デチューニングに潤滑油を用いることが記載されているにすぎない。また,甲第4号証は,振動減衰装置において,振動減衰を積極的に減衰媒体を用いて行うもの(同4.参照)であって,減衰媒体の影響を考慮して,何らかのデチューニングを行うことを示唆するものではない。
したがって,無効理由1によって,本件特許発明1についての特許を無効とすることはできない。

(2)本件特許発明2ないし9
本件特許発明2ないし9は直接または間接的に本件特許発明1を引用するものであるから,本件特許発明1の特許を無効理由1によって無効とすることができない以上,本件特許発明2ないし9の特許を無効理由1によって無効とすることはできない。

(3)本件特許発明10
本件特許発明10は,本件特許発明1とカテゴリーが異なる発明である。したがって,本件特許発明1で述べたのと同様の理由から,本件特許発明10は,無効理由1によって無効とすることはできない。

(4)本件特許発明11ないし12
本件特許発明11ないし12は直接または間接的に本件特許発明10を引用するものであるから,本件特許発明10の特許を無効理由1によって無効とすることができない以上,本件特許発明11ないし12の特許を無効理由1によって無効とすることはできない。

2.無効理由2について
(1)本件特許発明2
(1-1)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比すると,無効理由1で述べたとおりの,一致点及び相違点を有する。

(1-2)判断
請求人は,甲第1号証に,甲第5号証を組み合わせることで,当業者は本件特許発明1に到達することができる旨主張している。
しかしながら,甲5号証には請求人のいう「1f 回転数適応型の動吸振器が,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセット値q_(F)だけ大きい有効次数q_(eff)に設計されていること」が開示されているとはいえず,甲第1号証に,甲第5号証を組み合わせても本件特許発明1に到達することはできない。すなわち,甲第5号証に「x_(eff)=x*1/√k=√(L/R)が開示されており,幾何学的な要素であるRを調整することで,有効な励起振動次数x_(eff)を得ることが開示されている。」と主張するが,これは甲第5号証に記載されている運動軌道の曲率半径に対する励起振動次数の関係(第4 5.ア,ウ,カ参照)を,請求人が励起振動次数に関して式を変形しており,甲第5号証に記載されている技術思想とは異なるものであって,請求人のいうような励起振動次数をどのようにするかということを表しているものではなく,Rを調整することで,有効な励起振動次数x_(eff)を得ることが開示されているということはできない。そうである以上,甲第5号証において,x=2,k=0.8のときには,x_(eff)=2.236となるからといって,励起振動次数2よりも0.236だけオーバーチューンすることが記載されているということはできない。
さらに,段落【0027】に,潤滑油を利用することも開示されている主張するが,段落【0027】は,回転数適応式振動吸収装置においてハブ部2,慣性質量部材3,キャップで囲まれた空洞17に潤滑油が満たされる構成が記載されているのであって,潤滑油を利用して励起振動次数x_(eff)を設定することは記載されておらず,潤滑油を利用することが開示されているということはできない。
以上のとおり,甲第5号証に「1f 回転数適応型の動吸振器が,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセット値q_(F)だけ大きい有効次数q_(eff)に設計されていること」ことは開示されていないのであるから,甲第1号証に,甲第5号証を組み合わせても,当業者は本件特許発明1に到達することはできない。
また,請求人は,甲第5号証の開示は,係数kが1つの運動軌道において0.8?1.2の間で変化するものに限定されるものではなく,k値として,0.8?0.99の範囲または1.001から1.2の範囲のいずれか一方のみを採択することは否定していない旨主張するが,甲第5号証の開示はあくまで,係数kが1つの運動軌道において0.8?1.2の間で変化するもの(k=1を除く)であって,k値として,0.8?0.99のみを採択することを示唆するものではなく,k値として,0.8?0.99のみを採択するという技術思想が甲第5号証に開示されているということはできない。
さらに,段落【0027】を根拠に,空洞17の一部分に潤滑剤が満たされれば,慣性質量体3の少なくとも一部(おそらくは少なくとも半径方向外側部分)に潤滑剤が触れ,慣性質量体3の運動に影響を及ぼすことは自明であり,甲第5号証の装置は,油影響を何らかの形で考慮した設計がなされていなければならないものと考えるのが相当である旨主張しているが,装置の構成を説明している記載に基づいて油影響を考慮しているということはできない。段落【0014】に「この方法により,ハブ部に対して相対的に動く慣性質量部材の,変位に依存しない往復運動の持続を達成することが可能になる。このような慣性質量部材の非直線性の往復運動の他に,例えば潤滑剤に起因する流体静力学上,及び流体動力学上の効果からもさらに大幅に回転振動を相殺可能である。」と記載されているとおり,請求項に記載された構成を採用することで,潤滑剤に起因する回転振動をも相殺できることが開示されているのであって,潤滑剤の影響を考慮して装置構成を設計することを示唆するものではない。

したがって,無効理由2によって,本件特許発明1についての特許を無効とすることはできない。

(2)本件特許発明2ないし9
本件特許発明2ないし9は直接または間接的に本件特許発明1を引用するものであるから,本件特許発明1の特許を無効理由2によって無効とすることができない以上,本件特許発明2ないし9の特許を無効理由2によって無効とすることはできない。

(3)本件特許発明10
本件特許発明10は,本件特許発明1とカテゴリーが異なる発明である。したがって,本件特許発明1で述べたのと同様の理由から,本件特許発明10は,無効理由2によって無効とすることはできない。

(4)本件特許発明11ないし12
本件特許発明11ないし12は直接または間接的に本件特許発明10を引用するものであるから,本件特許発明10の特許を無効理由2によって無効とすることができない以上,本件特許発明11ないし12の特許を無効理由2によって無効とすることはできない。

第6 むすび
以上のとおり,請求人の主張する理由及び証拠方法によっては,本件特許発明1ないし12についての特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-13 
結審通知日 2015-02-17 
審決日 2015-03-03 
出願番号 特願2010-535208(P2010-535208)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (F16F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷井 雅昭  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 小関 峰夫
森川 元嗣
登録日 2014-02-14 
登録番号 特許第5473933号(P5473933)
発明の名称 回転数適応型の動吸振器を備えた力伝達装置および減衰特性を改善するための方法  
代理人 久野 琢也  
代理人 出口 智也  
代理人 永井 浩之  
代理人 森 秀行  
代理人 関根 毅  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 野本 裕史  
代理人 酒谷 誠一  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 山崎 孝博  

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