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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09F |
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管理番号 | 1299718 |
審判番号 | 不服2014-1609 |
総通号数 | 186 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-06-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-01-29 |
確定日 | 2015-04-17 |
事件の表示 | 特願2012-150563「表示素子用基板およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月13日出願公開、特開2012-247785〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成18年10月25日に出願した特願2006-289439号(以下、「原出願」という。)の一部を平成24年7月4日に新たな特許出願としたものであって、平成25年5月14日付けで拒絶理由が通知され、同年7月22日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたが、同年10月28日付けで拒絶査定がなされた。本件は、これに対して、平成26年1月29日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。 第2 本願発明について 1.平成26年1月29日付けの手続補正について 本願の特許請求の範囲の請求項1は、請求人の主張のとおり、平成26年1月29日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、本件補正前の(平成25年7月22日付けの手続補正により補正された)請求項5の内容が請求項1に導入されたものである。 したがって、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1を引用する請求項5である。 2.本願発明 すなわち、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「無機ガラスと、該無機ガラスの両側に配置された樹脂層とを備え、総厚が150μm以下であり、湾曲させた際の破断直径が30mm以下であり、170℃における平均線膨張係数が20ppm℃^(-1)以下である、表示素子用基板であって、 該樹脂層の合計厚みd_(rsum)と該無機ガラスの厚みd_(g)との比_(drsum)/d_(g)が、1.5?2.1であり、 該無機ガラスの厚みd_(g)が25μm?50μmである、 表示素子用基板。」 3.引用刊行物 (1)原査定の拒絶の理由に引用され、原出願の出願前に頒布された刊行物である、国際公開第2005/047200号(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審が付した。) (a)「技術分野 [0001] 本発明は、フレキシブルフラットパネルディスプレイに好適に用いることのできるフレキシブル基板に関する。また、このようなフレキシブル基板などの製造に好適に用いることができるコーティング液に関する。 背景技術 [0002] 軽量で折り曲げ可能なフレキシブルフラットパネルディスプレイが未来のディスプレイとして注目を集めている。このフレキシブルフラットパネルディスプレイ用の基板として用いるフレキシブル基板としては、有機樹脂フィルムからなるフレキシブル基板や、ベース基板となるガラスフィルムにポリマー層が被覆されたガラス/プラスチック複合体フィルムからなるフレキシブル基板が提案されている(例えば、特許文献1及び2並びに非特許文献1参照。)。 [0003] このうち、有機樹脂フィルムからなるフレキシブル基板は軽量で優れた柔軟性及び優れた耐衝撃性が得られるという長所はあるものの、水蒸気や酸素などのガスに対するガスバリア性に難があるため内部素子を保護することが困難であるという問題があった。 これに対して、ガラス/プラスチック複合体フィルムからなるフレキシブル基板は、ベース基板としてガラスフィルムを用いたことにより、従来のガラス基板の場合と同様に優れたガスバリア性が得られるとともに、ガラスフィルムにポリマー層を被覆したことにより、優れた柔軟性及び優れた耐衝撃性も得られている。なお、ここでいう柔軟性とは、フレキシブル基板を自在に湾曲させることができる性質をいう。 [0004] 図11は、特許文献2に開示されたガラス/プラスチック複合体フィルムからなる従来のフレキシブル基板の構造を示す図である。このフレキシブル基板900は、例えば10μm?100μm厚のガラスフィルム901と、このガラスフィルム901に被覆された例えば2μm?50μm厚のポリマー層904との積層構造を有するガラス/プラスチック複合体フィルムからなっている。 [0005] このフレキシブル基板900によれば、ガラスフィルム901にポリマー層904を被覆したことにより、従来のガラス基板では得られないほどの優れた柔軟性(破壊直前の限界曲率半径が12mm)及び優れた耐衝撃性が得られている。また、このフレキシブル基板900によれば、ベース基板としてガラスフィルム901を用いたことにより、従来のガラス基板の場合と同様に優れたガスバリア性が得られている。すなわち、このフレキシブル基板900は、優れた柔軟性及び優れた耐衝撃性並びに優れたガスバリア性を兼ね備えた優れた基板といえる(非特許文献1参照。)。 [0006] 特許文献1: 特開平4-235527号公報(図1) 特許文献2: 特表2002-534305号公報(図1) 非特許文献1: SID02ダイジェスト,セッション6.3,第53?55頁,題「Thin Glass-Polymer Systems as Flexible Substrates for Displays」(表1) 発明の開示 発明が解決しようとする課題 [0007] しかしながら、上記したフレキシブル基板900の耐熱性は、数時間使用の場合で130℃程度、数分間使用の場合で200℃程度であり(特許文献2参照。)、フレキシブル基板に低抵抗の透明電極を形成したりTFT等の能動素子を形成したりするためには耐熱性が低すぎるという問題があった。すなわち、低抵抗の透明電極を形成する工程やTFT等の能動素子を形成する工程においては、少なくとも300℃?350℃の温度がフレキシブル基板にかかるため、上記したフレキシブル基板900の耐熱性では低すぎるのである。 [0008] そこで、本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、優れた柔軟性、優れた耐衝撃性及び優れたガスバリア性を有するのに加えて優れた耐熱性をも有するフレキシブル基板を提供することを目的とする。また、このような優れたフレキシブル基板などの製造に好適に用いることができるコーティング液を提供することを目的とする。 課題を解決するための手段 [0009] 本発明者らは、上述した目的を達成すべく鋭意努力を重ねた結果、無機ガラス層に柔軟性を付与するためのポリマー層として、ポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含むポリマー層を用いることにより、優れた柔軟性、優れた耐衝撃性及び優れたガスバリア性が得られるのに加えて優れた耐熱性も得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。 [0010] 本発明のフレキシブル基板は、無機ガラス層と、ポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含むポリマー層との積層体からなることを特徴とする。」 (b)「発明を実施するための最良の形態 [0052] 以下、本発明の実施の形態に基づいて、本発明のフレキシブル基板をさらに詳細に説明する。但し、いうまでもなく、本発明の技術的範囲は、以下の本発明の実施の形態の記載に限定されるものではない。 [0053] [実施形態1] 図2は、実施形態1に係るフレキシブル基板10の構造を模式的に示す図である。実施形態1に係るフレキシブル基板10は、図2に示すように、無機ガラス層110と、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含むポリマー層120A,120Bとの積層体からなる基板である。ポリマー層120A,120Bは、無機ガラス層110の両面に形成されている。なお、図2においては、構造を分かり易くするために、無機ガラス層110とポリマー層120A,120Bとを一部剥がした状態で示している。 [0054] 以下のような方法で実施形態1に係るフレキシブル基板を作成した。 まず、フェニルトリメトキシシラン及び3-メルカプトプロピルトリメトキシシランの混合溶液を加水分解及び脱水縮合してラダー型のポリオルガノシルセスキオキサン(ポリスチレン換算の重量平均分子量:Mw=19512)を作成した。 次に、このポリオルガノシルセスキオキサンの20重量部をγ-ブチロラクトン80重量部に溶解してコーティング液を調製した。 [0055] 次に、このコーティング液を、縦40mm×横40mmの正方形の形状を有する厚さ50μmの硼珪酸ガラス基板(無機ガラス層)の一方の面に回転塗布し、80℃の乾燥機で30分間乾燥した。次に、さらに同じコーティング液を硼珪酸ガラス基板の他方の面に回転塗布し80℃の乾燥機でさらに30分間乾燥した。 次に、電気炉を用いて400℃で30分熱処理することにより実施形態1に係るフレキシブル基板10を作成した。ポリマー層120A,120Bの膜厚はそれぞれ1.5μmである。 [0056] このようにして得られた実施形態1に係るフレキシブル基板10によれば、ポリマー層としてラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含む耐熱性に優れたポリマー層120A,120Bを用いているため、優れた耐熱性が得られるようになる。また、無機ガラス層110にラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンを主成分とする柔軟性に優れたポリマー層120A,120Bを積層させた構造を有しているため、優れた柔軟性及び優れた耐衝撃性が得られる。さらにまた、フレキシブル基板のベース基板として本来的に高いガスバリア性を有する無機ガラス層110を用いているため、優れたガスバリア性が得られる。 このため、実施形態1に係るフレキシブル基板10は、優れた柔軟性、優れた耐衝撃性及び優れたガスバリア性を有するのに加えて優れた耐熱性をも有するフレキシブル基板となる。」 (c)「実施例 [0064] 以下、実施例を参照しながら、本発明のフレキシブル基板の効果を説明する。 [0065] フレキシブル基板の評価は以下のようにして行った。 (1)柔軟性 縦40mm×横20mmの長方形の形状を有するフレキシブル基板の中央部を、開口幅が14mmの開口部に、毎秒0.05mmのスピードで押し込みながらフレキシブル基板を曲げて行き、破壊が起こる直前の曲率半径を限界曲率半径(単位:mm)として測定した。この値が小さいほど柔軟性が優れていることを示す。 [0066] (2)耐衝撃性 縦40mm×横40mmの正方形の形状を有するフレキシブル基板を350℃の電気炉に入れ30分放置した。その後、図4に示す試験装置200を用いて衝撃力(単位:mNm)を測定した。その結果を以下の基準に従って評価した。 ◎:0.7mNmの衝撃力でも割れない。 ○:0.3mNmの衝撃力でも割れない。 ×:0.3mNmの衝撃力で割れる。 [0067] (3)ガスバリア性 以下の基準に従って評価した。 ◎:優れたガスバリア性を示す。 ×:優れたガスバリア性を示さない。 [0068] (4)耐熱性 フレキシブル基板を300℃?400℃の電気炉に入れ30分放置した。その後、フレキシブル基板を取り出して、フレキシブル基板の外観を観察することにより行った。その結果を以下の基準に従って評価した。 ◎:変色・変形は全く見られない。また、表面のクラックも全く見られない。さらにまた、膜質の劣化も全く見られない。 ○a:変色・変形は全く見られない。また、膜質の劣化も全く見られない。但し、表面のクラックに関しては、300℃ではクラックがほとんど見られないが、350℃を超えるとクラックが見られることもある。 ○b:変色・変形は全く見られない。また、表面のクラックも全く見られない。但し、膜質に関しては、300℃では膜質の劣化がほとんど見られないが、350℃を超えると膜質の劣化が見られることもある。 ×:変色・変形がはなはだしい。 [0069] (5)光透過率 フレキシブル基板を350℃の電気炉に入れ30分放置した。その後、紫外可視吸収スペクトル測定装置により400nm及び600nmにおける光透過率(単位:%)を測定した。この値が大きいほど透明性に優れていることを示す。 [0070] 〔実施例1〕 以下のような方法で実施例1に係るフレキシブル基板を作成した。 まず、フェニルトリメトキシシラン及び3-メルカプトプロピルトリメトキシシランの混合溶液を加水分解及び脱水縮合してラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンを作成した。 [0071] 図7は、実施例1における上記したラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算分子量分布及び赤外線吸収スペクトルを示す図である。このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算の重量平均分子量Mwは、図7(a)に示すように、19512である。また、このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの赤外吸収スペクトルにおける、1000cm^(-1)?1200cm^(-1)の領域に見られるSi-O結合に基づく吸収帯のうち最も吸収の大きい吸収帯の吸収強度に対する、830cm^(-1)?930cm^(-1)の領域に見られるSi-OH結合に基づく吸収帯の吸収強度の比(IR強度比)は、図7(b)に示すように、0.074である。 [0072] 次に、このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの20重量部をγ-ブチロラクトン80重量部に溶解してコーティング液を調製した。 次に、このコーティング液を、厚さ50μmの、無機ガラス層としての硼珪酸ガラス基板(縦40mm×横40mmの正方形の形状を有する硼珪酸ガラス基板及び縦40mm×横20mmの長方形の形状を有する硼珪酸ガラス基板)の一方の面に回転塗布し、80℃の乾燥機で30分間乾燥した。次に、さらに同じコーティング液を硼珪酸ガラス基板の他方の面に回転塗布し80℃の乾燥機でさらに30分間乾燥した。 次に、電気炉を用いて400℃で30分熱処理することにより実施例1に係るフレキシブル基板を作成した。ポリマー層の膜厚はそれぞれ1.5μmである。 [0073] 得られたフレキシブル基板における、厚さ、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算の重量平均分子量、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのIR強度比、柔軟性、耐衝撃性、ガスバリア性、耐熱性及び光透過率を表1に示す。なお、分子量はGPCを用いて測定した。 [0074] 〔実施例2〕 フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン及び3-メルカプトプロピルトリメトキシシランの混合溶液を加水分解及び脱水縮合してラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンを作成した。 [0075] 図8は、実施例2におけるラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算分子量分布及び赤外線吸収スペクトルを示す図である。このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算の重量平均分子量Mwは、図8(a)に示すように、13396である。また、このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの赤外吸収スペクトルにおける、IR強度比は、図8(b)に示すように、0.087である。 [0076] 次に、このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの20重量部をγ-ブチロラクトン80重量部に溶解してコーティング液を調製した。それ以降の工程は実施例1と同様にして実施例2に係るフレキシブル基板を作成した。ポリマー層の膜厚はそれぞれ1.5μmである。 [0077] 得られたフレキシブル基板における、厚さ、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算の重量平均分子量、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのIR強度比、柔軟性、耐衝撃性、ガスバリア性、耐熱性及び光透過率を表1に示す。 [0078] 〔実施例3〕 フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン及び3-メルカプトプロピルトリメトキシシランの混合溶液を、実施例2の場合よりも希薄な濃度条件で加水分解及び脱水縮合して、実施例2の場合よりも低分子量のラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンを作成した。 [0079] 図9は、実施例3におけるラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算分子量分布及び赤外線吸収スペクトルを示す図である。このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算の重量平均分子量Mwは、図9(a)に示すように、6549である。また、このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの赤外吸収スペクトルにおける、IR強度比は、図9(b)に示すように、0.082である。 [0080] 次に、このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの20重量部をγ-ブチロラクトン80重量部に溶解してコーティング液を調製した。それ以降の工程は実施例1と同様にして実施例3に係るフレキシブル基板を作成した。ポリマー層の膜厚はそれぞれ1.5μmである。 [0081] 得られたフレキシブル基板における、厚さ、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算の重量平均分子量、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのIR強度比、柔軟性、耐衝撃性、ガスバリア性、耐熱性及び光透過率を表1に示す。 [0082] 〔実施例4〕 米テクネグラス社より入手したラダー型のポリオルガノシルセスキオキサン(GR-100)の20重量部をγ-ブチロラクトン80重量部に溶解してコーティング液を調製した。 図10は、実施例4におけるラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算分子量分布及び赤外線吸収スペクトルを示す図である。このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算の重量平均分子量Mwは、図10(a)に示すように、3177である。また、このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの赤外吸収スペクトルにおける、IR強度比は、図10(b)に示すように、0.216である。 [0083] 次に、このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの20重量部をγ-ブチロラクトン80重量部に溶解してコーティング液を調製した。それ以降の工程は実施例1と同様にして実施例4に係るフレキシブル基板を作成した。ポリマー層の膜厚はそれぞれ1.5μmである。 [0084] 得られたフレキシブル基板における、厚さ、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算の重量平均分子量、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのIR強度比、柔軟性、耐衝撃性、ガスバリア性、耐熱性及び光透過率を表1に示す。 [0085] 〔実施例5〕 実施例2で作成したラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの25重量部及びアクリル樹脂(A-DCP 新中村化学工業株式会社)の1重量部をγ-ブチロラクトン74重量部に溶解してコーティング液を調製した。それ以降の工程は実施例1と同様にして、実施例5に係るフレキシブル基板を作成した。ポリマー層の膜厚はそれぞれ6μmである。 [0086] 得られたフレキシブル基板における、厚さ、柔軟性、耐衝撃性、ガスバリア性、耐熱性及び光透過率を表1に示す。 [0087] 〔実施例6〕 実施例3で作成したラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの50重量部及び及び耐熱性シリコーン樹脂(TSR-144 ジーイー東芝シリコーン株式会社)の50重量部をγ-ブチロラクトンに溶解してコーティング液を調製した。それ以降の工程は実施例1と同様にして実施例6に係るフレキシブル基板を作成した。ポリマー層の膜厚はそれぞれ15μmである。 [0088] 得られたフレキシブル基板における、厚さ、柔軟性、耐衝撃性、ガスバリア性、耐熱性及び光透過率を表1に示す。 [0089] 〔実施例7〕 実施例3で作成したラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの60重量部及びコロイダルシリカ(NanoTek(登録商標) Slurry シーアイ化成株式会社)の40重量部をγ-ブチロラクトンに溶解してコーティング液を調製した。それ以降の工程は実施例1と同様にして実施例7に係るフレキシブル基板を作成した。ポリマー層の膜厚はそれぞれ8μmである。 [0090] 得られたフレキシブル基板における、厚さ、柔軟性、耐衝撃性、ガスバリア性、耐熱性及び光透過率を表1に示す。 [0091] 〔実施例8〕 実施例3で作成したラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの60重量部及び米テクネグラス社より入手したラダー型のポリオルガノシルセスキオキサン(GR-100)の40重量部をγ-ブチロラクトンに溶解してコーティング液を調製した。それ以降の工程は実施例1と同様にして実施例8のフレキシブル基板を作成した。ポリマー層の膜厚はそれぞれ7μmである。 [0092] 得られたフレキシブル基板における、厚さ、柔軟性、耐衝撃性、ガスバリア性、耐熱性及び光透過率を表1に示す。 [0093] 〔比較例1〕 厚さが50μmの硼珪酸ガラス基板(縦40mm×横40mmの正方形の形状を有する硼珪酸ガラス基板及び縦40mm×横20mmの長方形の形状を有する硼珪酸ガラス基板)を比較例1に係るフレキシブル基板とした。この硼珪酸ガラス基板における、厚さ、柔軟性、耐衝撃性、ガスバリア性、耐熱性及び光透過率を表1に示す。 [0094] 〔比較例2〕 ポリビニルピロリドン(重量平均分子量360000)1重量部をジメチルフォルムアミド99重量部に溶解させてコーティング液を調整した。それ以降は実施例1と同様にして比較例2に係るフレキシブル基板を作成した。ポリマー層の膜厚はそれぞれ3μmである。 得られたフレキシブル基板における、厚さ、柔軟性、耐衝撃性、ガスバリア性、耐熱性及び光透過率を表1に示す。 [0095] [表1] [0096] 表1からも明らかなように、本発明のフレキシブル基板(実施例1?8)は、比較例1のフレキシブル基板と比較して優れた柔軟性及び優れた耐衝撃性を示すことがわかった。また、本発明のフレキシブル基板(実施例1?8)は、比較例2のフレキシブル基板と比較して優れた耐熱性及び高い光透過率を示すことがわかった。 また、本発明のフレキシブル基板の中でも、実施例1?3及び6?8のフレキシブル基板は、実施例4及び5のフレキシブル基板と比較してさらに優れた耐熱性を示すことがわかった。 [0097] 以上のように、本発明のフレキシブル基板は、優れた柔軟性、優れた耐衝撃性及び優れたガスバリア性に加えて優れた耐熱性を有するため、軽量で折り曲げ可能なディスプレイ(例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ)用の基板として好適に用いることができる。 また、本発明のコーティング液は、このように優れたフレキシブル基板をはじめ各種用途に好適に用いることができる。」 (d)「[図2] 」 (e)上記記載事項(b)、(c)の記載において、[実施形態1]、〔実施例1〕?〔実施例8〕の「コーティング液」は、いずれも、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含むものであり、そして、このコーティング液を、縦40mm×横40mmの正方形の形状を有する厚さ50μmの硼珪酸ガラス基板(無機ガラス層)の一方の面に回転塗布し、80℃の乾燥機で30分間乾燥し、次に、さらに同じコーティング液を硼珪酸ガラス基板の他方の面に回転塗布し80℃の乾燥機でさらに30分間乾燥し、次に、電気炉を用いて400℃で30分熱処理することにより作成した[実施形態1]、〔実施例1〕?〔実施例8〕に係るフレキシブル基板10における「ポリマー層120A,120B」は、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含むものであることは、当業者には明らかである。 すると、上記引用文献1の記載事項から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「無機ガラス層110と、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含むポリマー層120A,120Bとの積層体からなる基板であるフレキシブルフラットパネルディスプレイに好適に用いることができるフレキシブル基板であって、 ポリマー層120A,120Bは、無機ガラス層110の両面に形成されており、 無機ガラス層110は厚さ50μmの硼珪酸ガラス基板であり、 ポリマー層120A,120Bの膜厚はそれぞれ1.5μm、6μm、7μm、8μm、15μmであり、 限界曲率半径が6mm、9mmである、 フレキシブルフラットパネルディスプレイに好適に用いることができるフレキシブル基板。」 (2)原査定の拒絶の理由に引用され、原出願の出願前に頒布された刊行物である、特開2002-297054号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審が付した。) (a)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、主として反射型液晶表示装置に用いられる表示素子用プラスチック基板に関する。 【0002】 【従来の技術】液晶,プラズマディスプレイ,エレクトロルミネッセンス(EL),蛍光表示管,発光ダイオ-ド等のディスプレイ基材としてはガラス板が多く用いられている。しかし、大面積化を考えた場合、割れ易い、曲げられない、比重が大きく軽量化に不向き等の問題から、近年、ガラス板の代わりにプラスチック素材を用いる試みが数多く行われるようになってきた。しかし、従来のプラスチック表示素子用基板では、基板をなす樹脂層と電極との熱膨張率の差が大きいため、特に高い温度変化にさらされるTFT基板用途に於いては、透明電極に亀裂が生じ易く抵抗値の増大が生じたり、時には断線といった事態に陥ることもあった。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来前述のような問題があった表示素子用基板において、安価で、割れにくく、絶縁性に優れると共に、配線の亀裂を生じさせない特徴を持つ表示素子用基板を供給するものである。 【0004】 【課題を解決するための手段】プラスチックは、軽い、割れにくい、曲げやすいといった利点を持ち、次世代の表示素子用基板としてはガラスにない特徴を有してはいるものの、吸水や温度変化に対する伸び縮み、すなわち寸法安定性に問題がある。一方、セラミックの一種であるガラスは透明性が良く、弾性率に優れ、光学特性にも優れることから、広く表示素子用基板として使用されているが、耐衝撃性に劣り、割れやすい。プラスチックの一種であるポリイミドは、吸水性は高いが、熱線膨張係数が低く、配線に亀裂を生じさせないという点では優れた材料であるが、ガラスや他のプラスチック材料と比較して、材料単価が高く、コスト面で利用することが困難であった。本発明者らは、一種類の材料を用いることでは、上記課題を解決することが困難であると考え、鋭意検討を行った結果、熱線膨張率の低いガラスに直接コーティング等の方法により、ポリイミドのようなイミド結合を有する線膨張率の低い樹脂層を積層する事で、前記課題を解決できる事を見いだし、以下の発明に至った。」 (b)「【0010】 【発明の実施の形態】本発明のガラス層は、基板の剛性を維持し、熱膨張を押さえるためのものであり、その厚みは、50?700μm、好ましくは70?500μm、より好ましくは80?400μm、さらに好ましくは100?300μmである。この厚みが薄すぎると剛性を維持できなくなり、また厚すぎると重くなる。ガラスの種類としては特に限定はせず、石英ガラス、硼珪酸ガラス、鉛ガラス、ソーダ石灰ガラス等を使用することができるが、樹脂層を有し、透明性の必要がない反射型基板用途では、経済性の面からソーダ石灰ガラスが好ましい。 【0011】本発明の主鎖にイミド結合を有する樹脂層は、電気絶縁性を高め、酸性物質に直接触れることを防ぐと共に軽くするためのものであり、さらに熱膨張を押さえるためのものでもある。したがって、30?200℃での平均線膨張係数は-10?50ppmの範囲であり、、好ましくは、-5?30ppm、より好ましくは0?20ppmの範囲である。平均線膨張係数が-10ppm未満または50ppmを超える場合には配線に用いられる金属の平均線膨張係数との差が大きくなるため、高温にさらされたとき断線を生じるおそれがある。このことから、ガラス層と樹脂層との30?200℃での平均線膨張係数の差が0?30ppmであることが望ましい。」 (c)「【0023】 【実施例】次に本発明について、実施例及び比較例を挙げて詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に制限されるものではない。 【0024】(実施例1):o-トリジン6.37gをN,N-ジメチルアセトアミド130mLに完全に溶解させた後、ピロメリット酸二無水物6.54gを加え、15℃で1時間、室温で3時間攪拌した。得られたワニスを厚み400μmのソーダ石灰ガラス上にキャストし、乾燥させた後、更に裏面も同様にキャストを行い、減圧下のオーブン中で150℃×30分+200℃×30分+250℃×30分+300℃×3時間減圧加熱してイミド化させ、厚さ700μmの基板を得た。(ポリイミド/ソーダ石灰ガラス/ポリイミド=150/400/150μm) 【0025】(実施例2):p-フェニレンジアミン3.24gをN,N-ジメチルアセトアミド130mLに完全に溶解させた後、ビフタル酸無水物8.83gを加え、15℃で1時間、室温で20時間攪拌した。得られたワニスを300μmのソーダ石灰ガラスにディップコートし、乾燥させた後、さらに減圧下のオーブン中で150℃×30分+200℃×30分+250℃×30分+300℃×3時間減圧加熱してイミド化させ、厚さ400μmの基板を得た。(ポリイミド/ソーダ石灰ガラス/ポリイミド=50/300/50μm) 【0026】(比較例1):厚さ700μmのソーダ石灰ガラスを使用した。 (比較例2):4,4’-ジアミノジフェニルエーテル6.01gをN,N-ジメチルアセトアミド130mLに完全に溶解させた後、ピロメリット酸二無水物6.54gを加え、15℃で1時間、室温で3時間攪拌した。得られたワニスを厚さ700μmのソーダ石灰ガラスにディップコートし、乾燥させた後、さらに減圧下のオーブン中で150℃×30分+200℃×30分+250℃×30分+300℃×3時間減圧加熱してイミド化させ、厚さ800μmの基板を得た。(ポリイミド/ソーダ石灰ガラス/ポリイミド=50/700/50μm) これらのシートを以下の評価方法で評価した。結果を表-1に示す。 【0027】<評価方法> 平均線膨張係数: セイコー電子製TMA/SS120C型熱応力歪測定装置を用いて、窒素の存在下、1分間に5℃の割合で温度を室温から(熱変形温度-20℃)まで上昇させて20分間保持した後、1分間に5℃の割合で温度を室温まで冷却し5分間室温で保持させた。その後、再度、1分間に5℃の割合で温度を上昇させて、30℃?200℃の時の値を測定して求めた。(熱変形温度から20℃を引いた温度が350℃以上のときは350℃とした。) 耐溶剤性: 40℃のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液に試料を浸漬して60分放置。試料を取り出した後、目視にて外観を観察した。 耐配向剤性: スピンコーター上に試料を設置。その表面にCRD-8201(住友ベークライト製)を滴下した後 2500rpmでスピンコートを実施。180℃、60分乾燥処理後、目視にて外観を観察した。 耐液晶性: 基板の表面にメルク社製ZLI-4792を1滴滴下する。120℃のオ ーブン内に投入して60分放置する。試料を取り出した後、目視にて外観を観察する。 密度: JIS K 7112(A法:水中置換法)に基づき、各基板の密度を測定した。 基板曲げ性: 20mm×50mmに切断した基板を25mm間隔で固定し、中央部に荷重をかけ、基板をたわませた。中央部が1mm以上たわんだものを0.1mm未満で基板が割れたものを×とした。 耐熱性: 基板を200℃×2時間、95℃温水×30分の処理を2回繰り返した後、目視にてポリイミド層表面を観察した。 【0028】 【表1】 【0029】表1に示すように、基板曲げ性評価結果において、通常基板として使用されている70 0μmのガラスを用いた比較例では基板に割れが生じたが、同じ700μm厚の基板でも ガラス層を400μmとし、樹脂層を両側に付けた実施例1では、明らかに曲げ性の改善 が見られた。また、実施例では樹脂層の平均線膨張係数が30ppm以下という低い値 であり、ガラス層との平均線膨張係数の差も20ppm以下と低い値であったために、 耐熱性評価試験においても樹脂層にクラック等の変化は全く観察されなかった。これに 対して、比較例では、樹脂層に同じポリイミド系樹脂を用いたにもかかわらず、平均線 膨張係数が59ppmと高く、ガラス層との平均線膨張係数の差も50ppm以上の差 があったために、耐熱性評価において、樹脂層に亀裂を生じたものと考えられる。本発明の基板は、耐溶剤性、耐配向剤性、耐液晶性についても、いずれも問題なく、 反射型液晶表示基板等の表示素子用基板としての用途に耐えうるものと考えられた。 【0030】 【発明の効果】以上述べたように、本発明の方法によれば従来の技術ではすべてを満足できなかった表示素子用基板の性能に於いて、安価で、割れにくく、絶縁性に優れると共に、電極の亀裂を生じさせない特徴を持つ表示素子用基板を供給する事が可能となった。」 4.対比 (1)本願発明と引用発明との対比 (a)引用発明の「無機ガラス層110」、「ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含むポリマー層120A,120B」及び「フレキシブルフラットパネルディスプレイに好適に用いることができるフレキシブル基板」は、それぞれ、本願発明の「無機ガラス層」、「樹脂層」及び「表示素子用基板」に相当するから、引用発明の 「無機ガラス層110と、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含むポリマー層120A,120Bとの積層体からなる基板であるフレキシブルフラットパネルディスプレイに好適に用いることができるフレキシブル基板であって、 ポリマー層120A,120Bは、無機ガラス層110の両面に形成されて」いる構成は、本願発明の 「無機ガラス層と、該無機ガラスの両側に配置された樹脂層とを備え」た「表示素子用基板」に相当する。 (b)引用発明では、無機ガラス層の厚さとポリマー層120A,120Bの膜厚をたしたものが、「フレキシブルフラットパネルディスプレイに好適に用いることができるフレキシブル基板」の総厚であることは明らかであるから、引用発明の「フレキシブルフラットパネルディスプレイに好適に用いることができるフレキシブル基板」の総厚は、53μm、62μm、64μm、66μm、80μmとなる。 すると、引用発明の「無機ガラス層110は厚さ50μmの硼珪酸ガラス基板であり、ポリマー層120A,120Bの膜厚はそれぞれ1.5μm、6μm、7μm、8μm、15μmであ」る構成は、本願発明の「総厚が150μm以下であり、」「該無機ガラスの厚みd_(g)が25μm?50μmである」構成に相当する。 (c)引用発明の「限界曲率半径が6mm、9mmである」構成における「限界曲率半径」は、引用文献1に「(1)柔軟性 縦40mm×横20mmの長方形の形状を有するフレキシブル基板の中央部を、開口幅が14mmの開口部に、毎秒0.05mmのスピードで押し込みながらフレキシブル基板を曲げて行き、破壊が起こる直前の曲率半径を限界曲率半径(単位:mm)として測定した。」([0065])と記載される方法で測定したものであり、また、本願発明の「湾曲させた際の破断直径が30mm以下である」構成における「破断直径」は、本願の明細書に「(4)破断直径;直径の異なる円柱へ基板(サイズ:10mm×50mm、サンプル数:5)を巻きつけ、無機ガラスの破断を目視により確認し、破断が確認された5サンプルについての円柱の直径の平均を破断直径とした。」(段落【0069】)と記載される方法で測定したものであって、両者は測定方法が異なるものの、ともに破壊あるいは破断する際の径であることを考慮すると、引用発明の「限界曲率半径」と本願発明の「破断直径」は極めて類似した指標であるといえるから、引用発明の「限界曲率半径が6mm、9mmである」構成(それぞれを直径にすると、12mm、18mmとなる。)は、本願発明の「湾曲させた際の破断直径が30mm以下である」構成に相当する。 (2)一致点 してみると、両者は、 「無機ガラスと、該無機ガラスの両側に配置された樹脂層とを備え、総厚が150μm以下であり、湾曲させた際の破断直径が30mm以下である、表示素子用基板であって、 該無機ガラスの厚みd_(g)が25μm?50μmである、 表示素子用基板。」 で一致し、次の各点で相違する。 (3)相違点 (a)相違点イ 本願発明では、「170℃における平均線膨張係数が20ppm℃^(-1)以下である」のに対して、引用発明では、170℃における平均線膨張係数が明らかでない点。 (b)相違点ロ 本願発明では、該樹脂層の合計厚みd_(rsum)と該無機ガラスの厚みd_(g)との比d_(rsum)/d_(g)が、1.5?2.1であ」るのに対して、引用発明では、「無機ガラス層110は厚さ50μmの硼珪酸ガラス基板であり、ポリマー層120A,120Bの膜厚はそれぞれ1.5μm、6μm、7μm、8μm、15μmであ」る、すなわち、「ポリマー層120A,120Bの膜厚」の合計と「無機ガラス層110」の厚みとの比が、0.06、0.24、0.28、0.32、0.6である点。 5.判断 (1)相違点イについて 引用文献2には、「従来のプラスチック表示素子用基板では、基板をなす樹脂層と電極との熱膨張率の差が大きいため、特に高い温度変化にさらされるTFT基板用途に於いては、透明電極に亀裂が生じ易く抵抗値の増大が生じたり、時には断線といった事態に陥ることもあった。」(段落【0002】)という課題に対して、「熱線膨張率の低いガラスに直接コーティング等の方法により、ポリイミドのようなイミド結合を有する線膨張率の低い樹脂層を積層する事で、前記課題を解決できる事を見いだし、」(段落【0004】)「本発明の主鎖にイミド結合を有する樹脂層は、電気絶縁性を高め、酸性物質に直接触れることを防ぐと共に軽くするためのものであり、さらに熱膨張を押さえるためのものでもある。したがって、30?200℃での平均線膨張係数は-10?50ppmの範囲であり、、好ましくは、-5?30ppm、より好ましくは0?20ppmの範囲である。平均線膨張係数が-10ppm未満または50ppmを超える場合には配線に用いられる金属の平均線膨張係数との差が大きくなるため、高温にさらされたとき断線を生じるおそれがある。このことから、ガラス層と樹脂層との30?200℃での平均線膨張係数の差が0?30ppmであることが望ましい。」(段落【0011】)という技術事項が開示されている。 上記記載において、ポリイミドの平均線膨張係数は0?20ppmが好ましく、ガラス層と樹脂層の平均線膨張係数の差が0?30ppmであることが望ましいとされ、かつ、一般にガラスの平均線膨張係数は小さく、上記ポリイミドの平均線膨張係数である0?20ppmと同程度のものであることを考慮すると、当業者であれば、引用文献2から、ガラスにポリイミドを積層した基板の平均線膨張係数が0?20ppm程度であることが好ましいという技術事項が読み取れると認められる。 そして、引用発明の「フレキシブルフラットパネルディスプレイに好適に用いることができるフレキシブル基板」も表示素子用基板であって、上記引用文献2に記載された課題と同一の課題を有することは自明であり、また、一般に、ポリイミドが樹脂の中では耐熱性が高いものであることが周知の技術事項であることも勘案すれば、引用発明の耐熱性の高い樹脂として使用されている「ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサン」に換えて引用文献2に記載されたポリイミドを採用して、上記相違点イに係る本願発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得ることである。 (2)相違点ロについて 引用発明は、引用文献1に、 「ガラス/プラスチック複合体フィルムからなるフレキシブル基板は、ベース基板としてガラスフィルムを用いたことにより、従来のガラス基板の場合と同様に優れたガスバリア性が得られるとともに、ガラスフィルムにポリマー層を被覆したことにより、優れた柔軟性及び優れた耐衝撃性も得られている。なお、ここでいう柔軟性とは、フレキシブル基板を自在に湾曲させることができる性質をいう。」(段落[0003])、 「無機ガラス層に柔軟性を付与するためのポリマー層として、ポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含むポリマー層を用いることにより、優れた柔軟性、優れた耐衝撃性及び優れたガスバリア性が得られるのに加えて優れた耐熱性も得られることを見出し、」(段落[0009])と記載されるように、ポリマー層により柔軟性等が得られるものであり、この柔軟性等は、ガラスフィルムのガラス材料や厚み、ポリマー層の材料や厚み等の条件によって変化するものであって、ポリマー層の厚みを含むこれらの条件は、所望の柔軟性等が得られるように適宜設計し得るものであることは当業者には明らかである。 そして、ガラス板の両側に樹脂層を設けた表示素子基板の、樹脂層の厚みの合計とガラス板の厚みとの比について、引用文献2に、0.75(=(150+150)/400;実施例1(段落【0024】))、0.333(=(50+50)/300;実施例2(段落【0025】))、平成25年10月28日付けの拒絶査定で挙げられた特開2001-113631号公報(以下「引用文献3」という。)に、0.857(=(30+30)/70;実施例1(段落【0029】))、1.086(=(38+38)/70;実施例2(段落【0032】))といった、引用発明の「ポリマー層120A,120Bの膜厚」の合計と「無機ガラス層110」の厚みとの比の最大値である0.6という数値を超えるものも含む種々の数値例が挙げられること、さらに、本願発明の「該樹脂層の合計厚みd_(rsum)と該無機ガラスの厚みd_(g)との比d_(rsum)/d_(g)」の下限値である1.5という数値に格別な技術的意味、特に、臨界的意味も見当たらないことを勘案すると、引用発明において、「ポリマー層120A,120Bの膜厚」の合計と「無機ガラス層110」に厚みとの比を適宜設計して、1.5程度とし、上記相違点ロに係る本願発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得ることである。 (3)効果について 本願発明が奏し得る効果は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項及び引用文献3に記載された技術事項から当業者が予測し得る程度のものである。 (4)結論 したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項及び引用文献3に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第3 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項及び引用文献3に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-02-17 |
結審通知日 | 2015-02-18 |
審決日 | 2015-03-03 |
出願番号 | 特願2012-150563(P2012-150563) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G09F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小野 博之 |
特許庁審判長 |
神 悦彦 |
特許庁審判官 |
伊藤 昌哉 山口 剛 |
発明の名称 | 表示素子用基板およびその製造方法 |
代理人 | 籾井 孝文 |