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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1299721
審判番号 不服2014-2132  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-05 
確定日 2015-04-13 
事件の表示 特願2009-182648号「誘導発熱ローラ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月9日出願公開、特開2010-277981号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成21年8月5日(優先権主張平成21年4月28日)の出願であって、平成25年11月1日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成26年2月5日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2.平成26年2月5日付けの手続補正についての補正却下の決定

1.補正却下の決定の結論
平成26年2月5日付けの手続補正を却下する。

2.理由
(1)補正の内容
平成26年2月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正をするものであって、請求項1について補正前後の記載を示すと以下のとおりである。

(補正前の請求項1)
「 底部中央部に軸嵌合部を有する有底円筒状のローラ本体と、
前記ローラ本体の中空内に挿入され、先端部が前記ローラ本体の軸嵌合部に嵌合して固定され、後端部に駆動モータのロータが固定される回転軸と、
先端部が前記ローラ本体の中空内に延び、前記回転軸における先端部及び後端部の間を先端側軸受及び後端側軸受により回転可能に保持するとともに、前記回転軸のロータに対応する内周面に駆動モータのステータを有するハウジングと、
前記ローラ本体における軸方向先端側の内周面に沿うように前記ハウジングの先端部に設け、円筒状鉄心及びこの円筒状鉄心の外周面に巻装された誘導コイルからなる磁束発生機構と、を備え、
前記先端側軸受を、前記ハウジングの先端部近傍に設けることにより前記ローラ本体内に位置させるとともに、前記先端側軸受を前記磁束発生機構と向かい合わない位置に配置しており、
前記回転軸における先端側軸受及び後端側軸受の間の径寸法を、前記ローラ本体が固定される先端部の径寸法及び前記ロータが固定される後端部の径寸法よりも大きくしており、
前記ハウジングにおける、前記回転軸の先端側軸受及び後端側軸受の間に対応する内周面が、前記回転軸における先端側軸受及び後端側軸受の間の径寸法に合わせて大径化されている誘導発熱ローラ装置。」

(補正後の請求項1)
「 底部中央部に軸嵌合部を有する有底円筒状のローラ本体と、
前記ローラ本体の中空内に挿入され、先端部が前記ローラ本体の軸嵌合部に嵌合して固定され、後端部に駆動モータのロータが固定される回転軸と、
先端部が前記ローラ本体の中空内に延び、前記回転軸における先端部及び後端部の間を先端側軸受及び後端側軸受により回転可能に保持するとともに、前記回転軸のロータに対応する内周面に駆動モータのステータを有するハウジングと、
前記ローラ本体における軸方向先端側の内周面に沿うように前記ハウジングの先端部に設け、円筒状鉄心及びこの円筒状鉄心の外周面に巻装された誘導コイルからなる磁束発生機構と、
前記ハウジングにおける先端側軸受が設けられる部分に形成され、冷却流体が流通する冷却流体通路とを備え、
前記先端側軸受を、前記ハウジングの先端部近傍に設けることにより前記ローラ本体内に位置させるとともに、前記先端側軸受を前記磁束発生機構と向かい合わない位置に配置しており、
前記回転軸における先端側軸受及び後端側軸受の間の径寸法を、前記ローラ本体が固定される先端部の径寸法及び前記ロータが固定される後端部の径寸法よりも大きくしており、
前記ハウジングにおける、前記回転軸の先端側軸受及び後端側軸受の間に対応する内周面が、大径化されており、
前記冷却流体通路と前記磁束発生機構とが、前記ローラ本体における軸方向に対して垂直な方向に重なり合わない位置に配置されている誘導発熱ローラ装置。」

(2)補正の適否
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ハウジング」について、「前記ハウジングにおける先端側軸受が設けられる部分に形成され、冷却流体が流通する冷却流体通路とを備え」との限定及び「前記冷却流体通路と前記磁束発生機構とが、前記ローラ本体における軸方向に対して垂直な方向に重なり合わない位置に配置されている」との限定を付加する一方、補正前の「前記ハウジングにおける、前記回転軸の先端側軸受及び後端側軸受の間に対応する内周面が、前記回転軸における先端側軸受及び後端側軸受の間の径寸法に合わせて大径化されている」を、補正後の「前記ハウジングにおける、前記回転軸の先端側軸受及び後端側軸受の間に対応する内周面が、大径化されており」へと、限定を省く補正を含むものであるため、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。
そして、請求項の削除、誤記の訂正、又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもない。
よって、請求項1についての上記補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第5項の規定に違反するものであり、同法159条1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本件出願の発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年9月30日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(第2 2.(1)(補正前の請求項1)参照。)。

第4 刊行物に記載された事項
(1)刊行物1に記載された事項
原査定で引用文献1として引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である「特表平7-509758号公報」(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(刊1-1)「【特許請求の範囲】
1.延伸巻取機、延伸紡糸機及び延伸撚糸機のための延伸ローラユニットであって、その駆動軸(8)にベアリング(20,21;4-7)を介してギャレット(2)及びハウジング(3;17)が支持され、ハウジング(3;17)にインダクタ(16)を担持する支持シリンダ(18)及び駆動軸のベアリング(20,21;4-7)が設けられる延伸ローラユニット」

(刊1-2)「ギャレット内のケーシングの加熱を行うインダクタ」(第3頁右上欄第25行?左下欄第1行)

(刊1-3)「第1図はギャレット(galette)2及びシャフトを有した電動モータ3を示している。このシャフトはギャレット側端部にハブ12を受け取るための円錐状の端部13を有している。ハブ12はギャレット2の端部壁11の部分をなしている。端部壁11はまたケーシング10にも連結されており、作動の間に周知のようにフィラメント(図示しない)はケーシングに何回か巡らされる。」(第3頁右下欄第7?12行)

(刊1-4)「ケーシング10の内部においてシャフト8の周囲にインダクタ(inductor)16がケーシング10に対して隙間をもって設けられ、かつこのインダクタ16は支持シリンダ18上に収容されている。」(第3頁右下欄第13?15行)

(刊1-5)「第3図は延伸ローラユニットの変形例を示しており、符号1.1が付されている。第1図及び第2図で説明した同一昨日のエレメントは同一の参照符号を使用している」(第4頁左上欄第24?26行)

(刊1-6)「モータ3.1はギャレット2の直近に配置されており、ハウジング17に取り付けられている。ハウジング17内においてシャフト8は回転ベアリング4,5,6及び7によって回転可能に保持される。」(第4頁右上欄第3?6行)

(刊1-7)第3図から、モータ3.1のモータケーシング内にシャフト8が伸びること、また、ギャレット2側の回転ベアリング6及び7をインダクタ16と向かい合わない位置に配置していること、さらに、シャフト8におけるギャレット2側の回転ベアリング6及び7並びにモータ3.1側の回転ベアリング4及び5の間の径寸法は、シャフトがギャレット側端部にハブ12を受け取るための円錐状の端部13の径寸法及びモータ3.1部分におけるシャフト8の径寸法より大きいこと、加えて、ハウジング17における、シャフト8のギャレット2側の回転ベアリング6及び7並びにモータ3.1側の回転ベアリング4及び5の間に対応する内周面が、シャフト8におけるギャレット2側の回転ベアリング6及び7並びにモータ3.1側の回転ベアリング4及び5の間の径寸法に合わせて大径化されていることが看取できる。

(2)刊行物2に記載された事項
原査定で引用文献2として引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である「特開平10-336951号公報」(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(刊2-1)「【0002】
【従来の技術】従来、ホットロール用電動機は、図4に示す構成を有する。この図4から判明するように、電動機本体1はシャフト2とこのシャフト2を回転させる回転子鉄心3、及び固定子鉄心4、固定子ヨーク5、ブラケット6,7を有し、この固定子ヨーク5、ブラケット6,7を支持することで電動機が支持固定されている。」

(刊2-2)第4図から、シャフト2の回転子鉄心3に対応する内周面に電動機本体1の固定子鉄心4を有する固定子ヨーク5が看取できる。

(3)刊行物3に記載された事項
原査定で引用文献3として引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である「実願昭57-115227号(実開昭59-21683号)のマイクロフィルム」(以下、「刊行物3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(刊3-1)「5は、鉄芯5aと鉄芯に形成したコイル5bからなるヒータであり、該コイルに通電することにより、磁束を発生させ、該磁束がローラ内周面に沿つて短絡電流を誘起し、ジヤケツト室4に封入した熱媒を介して加熱するものであり、機台6に固定されている。」(第3頁第19行?第4頁第4行)

(刊3-2)「ヒータ5をローラ内部に設けた型式の回転加熱ローラにおいて、回転軸2を支承する軸受7をローラ内部に配設するものである。
このような構成とすることにより、オーバーハングを減少させることができ、軸受がローラの外にあるものと比べて危険速度を大幅に向上させることができる」(第4頁第5?12行)

(刊3-3)「ヒータ長をローラ長よりも短くし、ヒータの位置を前部に偏らせて、ヒータのない空いたスペースに軸受を配設することにより、小径ローラであつても軸受をローラ内部に配設できるという利点がある」(第4頁第18行?第5頁第2行)

(刊3-4)図面から、軸受7が機台6の先端部近傍に設けられ、ヒータ5と向かい合わない位置に配置されていることが看取できる。

第5 刊行物に記載された発明
(1)刊行物1に記載された発明
刊行物1の摘示(刊1-5)には、「第3図は延伸ローラユニットの変形例を示しており、符号1.1が付されている。第1図及び第2図で説明した同一昨日(当審注:「機能」の誤記と認める。)のエレメントは同一の参照符号を使用している」との記載があることから、第3図の延伸ローラユニットの変形例において、第1図で説明した同一の参照符号のエレメントは同一機能であることが分かる。
この事項を加味すれば、上記記載事項から、刊行物1には、
「ハブ12はギャレット2の端部壁11の部分をなしており、端部壁11はまたケーシング10にも連結されており、
シャフトはギャレット側端部にハブ12を受け取るための円錐状の端部13を有し、モータ3.1のモータケーシング内にシャフト8が伸びており、
ハウジング17内においてシャフト8は回転ベアリング4,5,6及び7によって回転可能に保持され、
ケーシング10の内部においてシャフト8の周囲にインダクタ16がケーシング10に対して隙間をもって設けられ、かつこのインダクタ16は支持シリンダ18上に収容されており、ハウジング17にインダクタ16を担持する支持シリンダ18が設けられ、
ギャレット2側の回転ベアリング6及び7をインダクタ16と向かい合わない位置に配置しており、
シャフト8におけるギャレット2側の回転ベアリング6及び7並びにモータ3.1側の回転ベアリング4及び5の間の径寸法は、シャフトがギャレット側端部にハブ12を受け取るための円錐状の端部13の径寸法及びモータ3.1部分におけるシャフト8の径寸法より大きくしており、
ハウジング17における、シャフト8のギャレット2側の回転ベアリング6及び7並びにモータ3.1側の回転ベアリング4及び5の間に対応する内周面が、シャフト8におけるギャレット2側の回転ベアリング6及び7並びにモータ3.1側の回転ベアリング4及び5の間の径寸法に合わせて大径化されている
延伸ローラユニット。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているということができる。

(2)刊行物2に記載された発明
上記記載事項から、刊行物2には、
「ホットロール用電動機の電動機本体1において、シャフト2を回転させる回転子鉄心3を有し、固定子ヨーク5においてシャフト2の回転子鉄心3に対応する内周面に電動機本体1の固定子鉄心4を有するもの」
が記載されている。

(3)刊行物3に記載された発明
上記記載事項から、刊行物3には、
「回転加熱ローラにおいて、鉄芯5aと鉄芯に形成したコイル5bからなるヒータ5を有し、回転軸2を支承する軸受7をローラ内部に配設することにより、軸受がローラの外にあるものと比べて危険速度を大幅に向上させることができ、軸受7が機台6の先端部近傍に設けられ、ヒータ5と向かい合わない位置に配置されていること」
が記載されている。

第6 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、
引用発明の「ハブ12」、「モータ3.1」、「シャフト8」、「ギャレット2側の回転ベアリング6及び7」、「モータ3.1側の回転ベアリング4及び5」、及び「インダクタ16」は、その機能に照らし、それぞれ本願発明の「軸嵌合部」、「駆動モータ」、「回転軸」、「先端側軸受」、「後端側軸受」、及び「磁束発生機構」に相当する。
そして、引用発明の「ギャレット」は、「ハブ12はギャレット2の端部壁11の部分をなしており、端部壁11はまたケーシング10にも連結され」るものであって、ケーシング10がその機能から円筒状であることは明らかであることから、ハブ12、端部壁11及びケーシング10からなるギャレット2が全体として有底円筒状を成すといえ、本願発明の「底部中央部に軸嵌合部を有する有底円筒状のローラ本体」に相当する。
引用発明の「シャフト」は、「ギャレット側端部にハブ12を受け取るための円錐状の端部13を有し、モータ3.1のモータケーシング内にシャフト8が伸び」るものであって、ギャレット2のハブ12との位置関係からギャレット2の中空内に挿入されることから、本願発明の「ローラ本体の中空内に挿入され、先端部が前記ローラ本体の軸嵌合部に嵌合して固定され」る「回転軸」に相当する。そして、引用発明のシャフトが「モータ3.1のモータケーシング内にシャフト8が伸び」るものであることと、本願発明の回転軸が、「後端部に駆動モータのロータが固定される」ものであることとは、少なくとも「後端部に駆動モータが位置する」ものであるとの限度で一致する。
引用発明の「ハウジング17」、「支持シリンダ18」及び「モータ3.1のモータケーシング」は、「ハウジング17内においてシャフト8は回転ベアリング4,5,6及び7によって回転可能に保持され」ていると共に、「ハウジング17にインダクタ16を担持する支持シリンダ18が設けられ」ており、また、刊行物1の摘示(刊1-6)より「モータ3.1は」「ハウジング17に取り付けられて」おり、モータ3.1のモータケーシングがハウジング17に取り付けられていることになるから、本願発明の「先端部が前記ローラ本体の中空内に延び、前記回転軸における先端部及び後端部の間を先端側軸受及び後端側軸受により回転可能に保持する」「ハウジング」に相当する。
引用発明の「インダクタ16」は、ギャレット2の一部である「ケーシング10の内部においてシャフト8の周囲に」「ケーシング10に対して隙間をもって設けられ」ているのであって、ハウジング17の先端部に位置する「支持シリンダ18上に収容されて」いることから、本願発明の「前記ローラ本体における軸方向先端側の内周面に沿うように前記ハウジングの先端部に設け」た「磁束発生機構」に相当する。
引用発明の「ギャレット2側の回転ベアリング6及び7をインダクタ16と向かい合わない位置に配置して」いること、「シャフト8におけるギャレット2側の回転ベアリング6及び7並びにモータ3.1側の回転ベアリング4及び5の間の径寸法は、シャフトがギャレット側端部にハブ12を受け取るための円錐状の端部13の径寸法及びモータ3.1部分におけるシャフト8の径寸法より大きくして」いること、及び「ハウジング17における、シャフト8のギャレット2側の回転ベアリング6及び7並びにモータ3.1側の回転ベアリング4及び5の間に対応する内周面が、シャフト8におけるギャレット2側の回転ベアリング6及び7並びにモータ3.1側の回転ベアリング4及び5の間の径寸法に合わせて大径化されている」ことは、それぞれ、本願発明の「前記先端側軸受を前記磁束発生機構と向かい合わない位置に配置して」いること、「前記回転軸における先端側軸受及び後端側軸受の間の径寸法を、前記ローラ本体が固定される先端部の径寸法及び後端部の径寸法よりも大きくして」いること及び「前記ハウジングにおける、前記回転軸の先端側軸受及び後端側軸受の間に対応する内周面が、前記回転軸における先端側軸受及び後端側軸受の間の径寸法に合わせて大径化されている」に相当する。
引用発明の「延伸ローラユニット」は、刊行物1の摘示(刊1-2)よりケーシング10をインダクタ16で誘導発熱させるものであることが明らかであるから、本願発明の「誘導発熱ローラ装置」に相当する。

そうすると、両者は、
「 底部中央部に軸嵌合部を有する有底円筒状のローラ本体と、
前記ローラ本体の中空内に挿入され、先端部が前記ローラ本体の軸嵌合部に嵌合して固定され、後端部に駆動モータが位置する回転軸と、
先端部が前記ローラ本体の中空内に延び、前記回転軸における先端部及び後端部の間を先端側軸受及び後端側軸受により回転可能に保持するハウジングと、
前記ローラ本体における軸方向先端側の内周面に沿うように前記ハウジングの先端部に設けた磁束発生機構と、を備え、
前記先端側軸受を前記磁束発生機構と向かい合わない位置に配置しており、
前記回転軸における先端側軸受及び後端側軸受の間の径寸法を、前記ローラ本体が固定される先端部の径寸法及び後端部の径寸法よりも大きくしており、
前記ハウジングにおける、前記回転軸の先端側軸受及び後端側軸受の間に対応する内周面が、前記回転軸における先端側軸受及び後端側軸受の間の径寸法に合わせて大径化されている誘導発熱ローラ装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願発明の駆動モータは、回転軸の後端部に「駆動モータのロータが固定され」、ハウジングにおいて「回転軸のロータに対応する内周面に駆動モータのステータを有する」ものであるのに対し、引用発明の駆動モータは回転軸の後端部に位置するものの、ロータ及びステータの位置が明らかでない点。

[相違点2]
本願発明の磁束発生機構が、「円筒状鉄心及びこの円筒状鉄心の外周面に巻装された誘導コイルからなる」ものであって、「先端側軸受を、前記ハウジングの先端部近傍に設けることにより前記ローラ本体内に位置させるとともに、前記先端側軸受を前記磁束発生機構と向かい合わない位置に配置して」いるのに対し、引用発明の磁束発生機構は、円筒状鉄芯と誘導コイルからなるものであるかが明らかでなく、先端側軸受が磁束発生機構と向かい合わない位置に配置されているものの、ローラ本体内に位置していない点。

第7 判断
(1)[相違点1]について
刊行物2の「電動機本体1」、「固定子鉄心4」、「回転子鉄心3」、「シャフト2」、「固定子ヨーク5」及び「ホットロール用電動機」は、その機能に照らし、それぞれ、本願発明の「駆動モータ」、「ステータ」、「ロータ」、「回転軸」、「ハウジング」及び「誘導発熱ローラ装置」に相当するから、刊行物2には、誘導発熱ローラ装置の駆動モータにおいて、回転軸に駆動モータのロータが固定され、ハウジングにおいて回転軸のロータに対応する内周面に駆動モータのステータを有するものが記載されている。
そして、刊行物2に記載の駆動モータの構造は、ロータとステータを有するモータ構造として慣用されているものにすぎないことから、引用発明において、駆動モータの構造として、刊行物2に記載されているような、回転軸に駆動モータのロータが固定され、回転軸のロータに対応する内周面に駆動モータのステータを有するハウジングを採用することは当業者が容易に想到し得たものである。

(2)[相違点2]について
刊行物3の「鉄芯5aと鉄芯に形成したコイル5bからなるヒータ5」は、本願発明の「円筒状鉄心及びこの円筒状鉄心の外周面に巻装された誘導コイルからなる磁束発生機構」に相当する。
また、刊行物3の「ローラ」、「回転軸2」、「軸受7」及び「回転加熱ローラ」は、その機能に照らし、それぞれ、本願発明の「ローラ本体」、「回転軸」、「先端側軸受」及び「誘導発熱ローラ装置」に相当する。
よって、刊行物3には、誘導発熱ローラ装置において、円筒状鉄心及びこの円筒状鉄心の外周面に巻装された誘導コイルからなる磁束発生機構を有し、回転軸を支承する先端側軸受をローラ本体内部に配設することにより、先端側軸受がローラ本体の外にあるものと比べて危険速度を大幅に向上させることができ、先端側軸受がハウジングの先端部近傍に設けられ、磁束発生機構と向かい合わない位置に配置されていることが記載されている。
そして、引用発明と刊行物3に記載の各装置はローラ本体を片持ち状に保持する誘導発熱ローラ装置であることで共通しており、大重量のローラ本体の高速回転を実現するという共通の目的を有するものであることから、引用発明において、刊行物3に記載の事項を適用して、上記相違点2の本願発明のようになすことは、当業者が容易に想到し得たものである。

そして、本願発明の効果について検討しても、引用発明、刊行物2及び3に記載の事項から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。

(3)平成26年2月5日付け手続補正で付加されていた限定について
なお、上記第2で述べたとおり、平成26年2月5日付けの手続補正は却下されたが、同日付の手続補正で付加されていた限定(請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ハウジング」について、「前記ハウジングにおける先端側軸受が設けられる部分に形成され、冷却流体が流通する冷却流体通路とを備え」との限定及び「前記冷却流体通路と前記磁束発生機構とが、前記ローラ本体における軸方向に対して垂直な方向に重なり合わない位置に配置されている」との限定)について、念のため見解を述べる。
原査定で引用文献5として引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である「特開昭62-199836号公報」(以下、「刊行物4」という。)には、ハウジング(機枠1)における先端側軸受(軸受4)が設けられる(外周)部分には、機枠1の基部側から、冷却流体(冷却用油)が流通する冷却流体通路(送液用孔1b?ジャケット室1a)が形成された誘導発熱ローラ装置(回転熱処理装置)が記載されている(特に、第2頁左上欄第13行?右上欄4行、同頁同欄19行?左下欄1行参照。)。
引用発明及び刊行物4に記載の各装置は、いずれも誘導発熱ローラに関する装置である点で共通していることから、引用発明において、ハウジングに対し、少なくとも先端側軸受の外周付近に、刊行物4に記載されているような冷却流体通路を設けることは当業者であれば容易に想到し得たものである。
ここで、上記相違点2について検討したように、先端側軸受をローラ本体内部であって磁束発生機構と向かい合わない位置に配置することは当業者であれば容易に想到し得たものであるところ、当該配置を前提として、刊行物4に記載の冷却流体通路(1b?1a)を設ければ、冷却流体通路と磁束発生機構とが、ローラ本体における軸方向に対して垂直な方向に重なり合わない位置に配置されることは自明である。
よって、本件補正後の請求項1に係る発明も当業者であれば容易に想到し得たものである。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、本願優先権主張日前に頒布された刊行物1、2及び3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。
したがって、本願は、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-12 
結審通知日 2015-02-17 
審決日 2015-03-02 
出願番号 特願2009-182648(P2009-182648)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
P 1 8・ 572- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邉 洋  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 小野 孝朗
紀本 孝
発明の名称 誘導発熱ローラ装置  
代理人 西村 竜平  

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