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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1299769
審判番号 不服2014-3035  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-18 
確定日 2015-04-06 
事件の表示 特願2009- 87171「カラーフィルタおよび有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月21日出願公開、特開2010-237566〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年3月31日の出願であって、平成25年4月11日及び同年9月19日に手続補正がなされ、同年12月5日付けで同年9月19日付け手続補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成26年2月18日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成26年2月18日になされた手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成26年2月18日になされた手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
(1)平成26年2月18日になされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1についてするものであって、本件補正前の請求項1に、
「基材と、
前記基材上に形成された、色材として染料および/またはレーキ顔料を含む青色着色層と、
前記基材の、前記着色層と反対側の面に形成された、紫外線遮断層とを含んでなり、
前記紫外線遮断層の透過率50%の波長が405nmよりも短波長側にあり、かつ透過率90%の波長と透過率10%の波長との波長間距離が80nm以内である、カラーフィルタ。」とあったものを、

「基材と、
前記基材上に形成された、色材としてレーキ顔料を含む青色着色層と、
前記基材の、前記着色層と反対側の面に形成された、紫外線遮断層とを含んでなり、
前記レーキ顔料が、C.I.ピグメントブルー1、C.I.ピグメントブルー2、C.I.ピグメントブルー3、C.I.ピグメントブルー9、C.I.ピグメントブルー10、C.I.ピグメントブルー11、C.I.ピグメントブルー12、C.I.ピグメントブルー14、およびC.I.ピグメントブルー24からなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記紫外線遮断層の透過率50%の波長が405nmよりも短波長側にあり、かつ透過率90%の波長と透過率10%の波長との波長間距離が80nm以内である、カラーフィルタ。」とする補正を含むものである(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(2)本件補正後の請求項1に係る上記(1)の補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である青色着色層の色材として、「染料および/またはレーキ顔料」とあったものを「レーキ顔料」にのみ限定するものであって、また、「レーキ顔料」が「C.I.ピグメントブルー1、C.I.ピグメントブルー2、C.I.ピグメントブルー3、C.I.ピグメントブルー9、C.I.ピグメントブルー10、C.I.ピグメントブルー11、C.I.ピグメントブルー12、C.I.ピグメントブルー14、およびC.I.ピグメントブルー24からなる群から選択される少なくとも一種」であると限定する補正である。

2 本件補正の目的
本件補正後の請求項1に係る上記1(2)の補正は、本件補正前の請求項1において記載されていた「染料および/またはレーキ顔料」とあったものを「染料」を削除して「レーキ顔料」にのみ限定するとともに、その「レーキ顔料」について、出願当初明細書【0022】の記載に基づいて「C.I.ピグメントブルー1、C.I.ピグメントブルー2、C.I.ピグメントブルー3、C.I.ピグメントブルー9、C.I.ピグメントブルー10、C.I.ピグメントブルー11、C.I.ピグメントブルー12、C.I.ピグメントブルー14、およびC.I.ピグメントブルー24からなる群から選択される少なくとも一種」であると限定し、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が補正の前後において同一であるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たし、また、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下検討する。

3 引用例
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された「本願の出願前に頒布された刊行物である特開2007-234301号公報(以下「引用例1」という。)」には、次の事項が図とともに記載されている。

(1)「【背景技術】
【0002】
上記構成のエレクトロルミネッセンス(以下「EL」とも略す)装置においては、発光素子で発光した光は、色要素を透過した後に観察側から射出される。ここで色要素とは、入射した光のうち特定の波長成分を吸収することによって透過光を所定の色(例えば赤、緑、青等)とすることが可能な物質であり、カラーフィルタとも呼ばれる。色要素の材料としては、耐光性、耐ガス性等に優れた顔料系材料が用いられるのが一般的である。発光素子の観察側に画素の色に対応した色の色要素が配置されていることによって、EL装置から取り出される光の色純度を向上させることができるとともに、視野角による色の変化を抑えることができ、また、外光の反射をある程度遮断することができる。」

(2)「【0018】
(第1の実施形態)
図1は、「エレクトロルミネッセンス装置」としての有機EL装置1を示す概略断面図である。この図に示すように、有機EL装置1は、基板10上に、反射層12、絶縁層14、陽極としての画素電極16、正孔輸送層18、有機発光層20、電子輸送層22、陰極24、薄膜封止層26がこの順に積層されてなる素子基板と、ガラス基板30上に、赤、緑、青にそれぞれ対応する色要素34R,34G,34B(以下では色要素34R,34G,34Bをまとめて「色要素34」とも呼ぶ)、及び遮光部材32が形成されてなる封止基板とを接着剤28を介して貼り合わせたものである。そして、ガラス基板30の、色要素34が形成された面とは反対側の面に、紫外線を吸収する保護フィルム33が貼り付けられている。ここで、基板10が本発明における「第1の基板」に、ガラス基板30が「第2の基板」に、有機発光層20が「発光層」に、陰極24が「ハーフミラー」に、保護フィルム33が「保護層」に、それぞれ対応する。有機EL装置1は、有機発光層20において発光した光を封止基板側から取り出す構成のいわゆるトップエミッション型の発光装置であり、観察者は、ガラス基板30の側から表示を観察する。上記のうち、反射層12から陰極24までの構成要素からなる素子が発光素子70である。発光素子70は、画素40ごとに形成されている。

・・・略・・・

【0026】
ガラス基板30上に形成された色要素34は、入射した光のうちの特定の波長成分を吸収することによって透過光を着色する部材である。色要素34は、着色のための材料として染料が用いられている。この染料としては、例えばアゾ染料、アントラキノン染料等といった有機染料を用いることができる。色要素34は、染料によって着色された感光性樹脂を塗布し、フォトリソグラフィー法で所定のパターンに形成する工程を、色要素34R,34G,34Bのそれぞれについて繰り返す分散法により形成される。各色要素34の間の領域、すなわち画素40の間の領域には、光をほとんど透過させない黒色の樹脂からなる遮光部材32が形成されている。色要素34は、エポキシ樹脂からなる接着剤28を介して薄膜封止層26と対向している。

・・・略・・・

【0032】
図1に戻り、保護フィルム33について説明する。保護フィルム33は、TAC(トリアセチルセルロース)フィルムに紫外線吸収能を添加したものである。図4に、保護フィルム33の透過スペクトルを示す。この図からわかるように、保護フィルム33は、波長400nm以下の紫外線領域の光の大部分を吸収することができる。このため、ガラス基板30の観察側表面から入射した紫外線が、色要素34に到達するのを防止することができる。これにより、染料を用いた色要素34が紫外線によって劣化するのを防ぐことができる。」

(2)「【0044】
(変形例1)
上記各実施形態は、色要素34を分散法によって形成するものであるが、色要素34の形成方法はこれに限られず、電着法、印刷法、染色法等によって形成してもよい。ここで、電着法は、基板上に透明導電膜を設け、染料により着色された帯電樹脂を含む溶液に浸漬して電圧を印加することにより、当該樹脂を透明導電膜上に堆積させるものである。また、印刷法は、染料により着色されたインクをオフセット印刷法を用いて基板上に転写するものである。また、染色法は、基板上に可染性の樹脂層をパターニングし、この樹脂層を染料によって染色するものである。これらの方法によって形成された色要素も、平行線透過率が高く光を散乱させにくいので、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0045】
また、色要素34には、平行線透過率に大きく影響しない範囲であれば、色相の微調整のために顔料を含有させることもできる。」

(3)上記(1)ないし(2)から、引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。
「素子基板と接着剤を介して貼り合わせて有機EL装置とするための封止基板であって、
ガラス基板30上に、赤、緑、青にそれぞれ対応する色要素34R,34G,34B(以下では色要素34R,34G,34Bをまとめて「色要素34」とも呼ぶ)及び遮光部材32が形成され、
ガラス基板30の、前記色要素が形成された面とは反対側の面に、紫外線を吸収する保護フィルム33が貼り付けられ、
色要素34は、入射した光のうちの特定の波長成分を吸収することによって透過光を着色する部材であり、着色のための材料として染料が用いられているが、色相の微調整のために顔料を含有させることもでき、
保護フィルム33は、TAC(トリアセチルセルロース)フィルムに紫外線吸収能を添加し、波長400nm以下の紫外線領域の光の大部分を吸収することができ、このため、ガラス基板30の観察側表面から入射した紫外線が、色要素34に到達するのを防止することにより、染料を用いた色要素34が紫外線によって劣化するのを防ぐことができるようにした、封止基板。」(以下「引用発明」という。)

4 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「ガラス基板」は、本願補正発明の「基材」に相当する。

(2)引用発明の「『青』に対応する『色要素34B』」は、入射した光のうちの特定の波長成分を吸収することによって透過光を着色する部材であるから、本願補正発明の「青色着色層」に相当する。

(3)引用発明は、「基材(ガラス基板30)」上に、「青色着色層(青に対応する色要素34B)」及び遮光部材32が形成されているのであるから、引用発明と本願補正発明とは、「基材」と「前記基材上に形成された、色材として顔料を含む青色着色層」とを含んでなる点で一致する。

(4)引用発明の「保護フィルム」は、紫外線吸収能を添加し、波長400nm以下の紫外線領域の光の大部分を吸収することができ、このため、ガラス基板30の観察側表面から入射した紫外線が、色要素34に到達するのを防止する、すなわち「遮断」するのであるから、本願補正発明の「紫外線遮断層」に相当する。

(5)引用発明の「青色着色層(青に対応する色要素34B)」は、着色のための材料として染料が用いられているが、色相の微調整のために顔料を含有させるものであるから、本願補正発明の「青色着色層」とは、「色材として顔料を含む」点で一致する。

(6)引用発明は、「基材(ガラス基板30)」の、前記「青色着色層(青に対応する色要素34B)」が形成された面とは反対側の面に、紫外線を吸収する「紫外線遮断層(保護フィルム33)」が貼り付けられているのであるから、引用発明と本願補正発明とは、「前記基材の、前記着色層と反対側の面に形成された、紫外線遮断層」を含んでなる点で一致する。

(7)上記(1)ないし(6)からみて、引用発明の「封止基板」は、「基材と、前記基材上に形成された、色材として顔料を含む青色着色層と、前記基材の、前記着色層と反対側の面に形成された、紫外線遮断層とを含んで」なり、同様な発明特定事項を含む本願補正発明の「カラーフィルタ」に相当するものである。
なお、引用例1の「カラーフィルタ」は、【0008】(上記3(1)参照。)の記載からみて、色要素からなる層であり、本願補正発明の「カラーフィルタ」における「青色着色層」に相当するものである。

(8)上記(1)ないし(7)からみて、本願補正発明と引用発明とは、
「基材と、
前記基材上に形成された、色材として顔料を含む青色着色層と、
前記基材の、前記着色層と反対側の面に形成された、紫外線遮断層とを含んでなる、カラーフィルタ。」である点(以下、「一致点」という。)で一致し、次の点で相違する。

・相違点1:
前記「顔料」が、
本願補正発明では、C.I.ピグメントブルー1、C.I.ピグメントブルー2、C.I.ピグメントブルー3、C.I.ピグメントブルー9、C.I.ピグメントブルー10、C.I.ピグメントブルー11、C.I.ピグメントブルー12、C.I.ピグメントブルー14、およびC.I.ピグメントブルー24からなる群から選択される少なくとも一種であるレーキ顔料であるのに対し、
引用発明では、顔料の種類を特定していない点。

・相違点2:
本願補正発明では、前記紫外線遮断層の透過率50%の波長が405nmよりも短波長側にあり、かつ透過率90%の波長と透過率10%の波長との波長間距離が80nm以内であるのに対し、
引用発明では、前記紫外線遮断層について、そのような特定がなされていいない点。

5 判断
(1)上記相違点1について検討する。
ア カラーフィルターに含まれる顔料としてC.I.ピグメントブルー1、C.I.ピグメントブルー2、C.I.ピグメントブルー9、C.I.ピグメントブルー14は本願の出願前に周知(以下「周知技術1」という。例.補正の却下の決定の引用文献4として引用した特開2006-79012号公報(「【0111】(d)色材 本発明でカラーフィルターに使用する色材としては主に顔料であるが、特に限定されるものではなく、目的とするカラーフィルターの用途によって適宜選択される。・・・略・・・【0114】青色色剤:C.I.ピグメントブルー(P.B.)1、1:2、9、14、・・・」の記載参照。)、特開2001-81348号公報(「【請求項1】染付けレーキ顔料を含有することを特徴とする着色感光性組成物。【請求項2】染付けレーキ顔料が・・・C.I.Pigment Bule 1、C.I.Pigment Bule 2、・・・である請求項1に記載の着色感光性組成物。【請求項3】少なくとも1色の画素が請求項1または2に記載の着色感光性組成物の硬化膜であるカラーフィルター。」の記載参照。)、特開2005-148717号公報(「【0020】[1-1]色材 色材は、本発明のカラーフィルター用着色組成物を着色するものをいう。色材としては、染顔料が使用できるが、耐熱性、耐光性等の点から顔料が好ましい。顔料としては青色顔料、・・・等各種の色の顔料を使用することができる。・・・【0022】 青色顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、1:2、9、14、・・・を挙げることができる。」の記載参照。))である。
イ 引用発明は、「着色層(色要素)」に、着色のための材料として染料が用いられているが、色相の微調整のために顔料を含有させることもでき、当該顔料については、特定の顔料に限定されていないものであるから、上記アからみて、引用発明において、「青色着色層(青に対応する色要素34B)」に含ませる顔料として、C.I.ピグメントブルー1、C.I.ピグメントブルー2、C.I.ピグメントブルー9、C.I.ピグメントブルー14のうち少なくともいずれか一種を用いるようになすこと、すなわち、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは当業者が周知技術1に基づいて適宜なし得たことである。

(2)上記相違点2について検討する。
ア 原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された「本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-6284号公報(以下「引用例2」という。)」には、次の事項が図とともに記載されている。
(ア)「【0027】
また、紫外線保護膜50は、図1(C)の如く絶縁基板10の観察者側に設けても良い。すなわち、絶縁性基板10に紫外線保護膜50のフィルムを貼り付け、その裏面となる縁性基板10上に上述の如くTFTおよび有機EL層25を形成した構造である。本発明の特徴は、紫外線保護膜50を設けることで有機EL層25に侵入する紫外線を保護し、円偏光板52を省いた構造を実現するものである。観察者側とは、発光層と観察者との間の光路上であって、紫外線保護膜50はどこに配置されてもよく、例えば、携帯電話や携帯情報機器の表示装置として本実施形態の有機ELディスプレイを用いる場合、紫外線保護膜50は、基板10に積層される必要はなく、携帯電話などのケース開口部にディスプレイとは独立して紫外線保護膜50を配置しても良い。」
(イ)「【0031】
次に、図2を用いて本実施形態の紫外線保護膜50について述べる。図2は、紫外線保護膜として、複数種類のアクリル樹脂を用いて波長と透過率の関係を模式的に表したものであり、横軸に波長、縦軸に透過率を示す。実線でサンプル1が破線でサンプル2が、二点鎖線でサンプル3がそれぞれ示されている。サンプル1から3は、いずれも可視光で透過率が高く、紫外光で透過率が低い波長依存性を示している紫外線保護膜である。また、図2(a)ではそれぞれのサンプルの差異を強調するために、縦軸は対数で表している。

・・・略・・・

【0033】
次に、サンプル3について述べる。サンプル3は、400nm以下の波長領域でも透過率が高く、フルカラー表示の観点からは良好な特性を示している。しかし、図2(a)で縦軸を対数表示していることでより明らかとなっているように、透過率が250nm付近で0.1%程度の極大値を有する。一般的な紫外線保護膜50としては、0.1%程度の透過率は問題とならないことが多いが、発明者の知見によると、有機EL表示装置に用いるためには、0.1%の透過率は大きすぎ、紫外線による寿命の低下が防ぎきれない。従って、本実施形態に用いる紫外線保護膜としては、350nm以下の波長領域での透過率が0.05%を越えないことが必要である。更に、350nm以下の波長領域での透過率が0.01%を越えないことが望ましい。 次に、サンプル1について述べる。サンプル1は、440nm以上の波長領域で90%以上、430nm以上の波長領域で85%以上であり、かつ350nm以下の波長領域全体にわたって0.01%を越えないという条件を満たす。従って、本実施形態では、サンプル1を紫外線保護膜として採用した。
【0034】
上述した条件に加え、サンプル1は、透過率の変化が急激であるという特長を有する。図2(b)を参照して、最大透過率側から波長を短く変化させていくと、サンプル1では435nmではほぼ最大透過率90%であった透過率は、急激に減少し、425nmでは80%(最大透過率より10%下)まで低下し、405nmでは1%未満となる。即ち、サンプル1では波長が20nm変化する間に透過率が80%から1%未満まで急激に低下する。これに比較して、サンプル2では、515nmで最大透過率より10%下であり、1%未満となるのは475nmであり、40nmの幅で透過率が下がり続け、変化が緩やかである。紫外線と可視光線の明確な境界線がなく、また、ある波長領域を閾値としてデジタル的に透過、不透過を選別する物質の生成が困難である以上、紫外線保護膜によって、紫色の可視光がある程度遮断されることは、避けられないことである。可視光が遮断された分は、その遮断波長の発光を強くして減衰分を補う必要があるが、減衰曲線が緩やかであると、補うためのデータ補正が複雑となるので、閾値を境に透過率変化が急峻であることが望ましい。有機ELディスプレイに用いる紫外線保護膜としては、最大透過率より10%下の透過率から1%未満となるまで、40nm以下で変化することが必要である。更に、最大透過率より10%下の透過率から1%未満となるまで、20nm以下で変化することが望ましい。」
(ウ)「【図2】


(エ)上記(イ)の記載を踏まえて、複数種類のアクリル樹脂を用いて波長と透過率の関係を模式的に表した【図2】(a)(上記(ウ)参照。)をみると、二点鎖線で示されているサンプル3は、透過率50%の波長が400nm以下であり、透過率90%の波長が約400nmであり、透過率10%の波長が370?380nm付近であることから、透過率90%の波長と透過率10%の波長との波長間距離との波長間距離は多くても30nm程度であることが見て取れる。
(オ)上記(ア)?(エ)からみて、引用例2には、次の事項が記載されているものと認められる。
「透過率が250nm付近で0.1%程度の極大値を有し、透過率50%の波長が400nm以下であり、透過率90%の波長が約400nmであり、透過率10%の波長が370?380nm付近であることから、透過率90%の波長と透過率10%の波長との波長間距離との波長間距離は多くても30nm程度である紫外線保護膜について、
有機EL層25に侵入する紫外線を保護するためには、透過率が250nm付近での0.1%の透過率は大きすぎ、紫外線による寿命の低下が防ぎきれないが、一般的な紫外線保護膜としては、透過率が250nm付近での0.1%程度の透過率は問題とならないこと。」(以下「引用例2の技術事項」という。)
イ 「本願の出願前に頒布された刊行物である特開平1-188830号公報(以下「引用例3」という。)」には、次の事項が図とともに記載されている。
(ア)「2.特許請求の範囲
複数の画素と、この各画素に対応するカラーフィルタとを有する液晶表示装置において、前記カラーフィルタの光入射側に350nmの光透過率が10%以下で420nmの光透過率が80%以上の特性を有する紫外線カットフィルタを設置したことを特徴とする液晶表示装置。」(1頁左欄4?10行)
(イ)「このことことからカラーフィルタは短波長側の光、つまり紫外線によって劣化することがわかる。
したがって短波長側の光の透過率を抑える材料でカラーフィルタを保護すれば、カラーフィルタの劣化を防ぐことができる。」(2頁左下欄4?8行)
(ウ)「ここで使用した短波長光遮断ガラスはUV35,UV37,L-42であり、それぞれの短波長光遮断特性は第5図に示してある。
曲線aはUV35の短波長光遮断特性を示し、これは320nm以下の短波長を抑えるものである。
曲線bはUV37の短波長光遮断特性を示し、これは340nm以下の短波長を抑えるものである。
曲線cはL-42の短波長光遮断特性を示し400nm以下の短波長を抑えるものである。」(2頁左下欄15行?同頁右下欄3行)
(エ)「これからわかるように400nm以下の紫外線をすべて遮断すればカラーフィルタの劣化は防げるが、青(B)のカラーフィルタの特性を妨げカラー表示装置としての色再現性を劣化させてしまう。
このようなことから紫外線を遮断する材料としては350nmの光透過率が10%以下で、420nmの光透過率が80%以上のものを用いるとよい。
こうすることによって青(B)カラーフィルタの特性を損わないで、各カラーフィルタの劣化を防ぐことができる。」(3頁左上欄10?19行)
(オ)「


(カ)上記(ア)?(エ)の記載を踏まえて、各紫外線吸収材料の透過率を示す第5図(上記(カ)参照。)をみると、短波長光遮断ガラスUV37の短波長光遮断特性を示す曲線bは、透過率50%の波長が400nm以下であり、透過率90%の波長が約400nmであり、透過率10%の波長が350nm付近であることから、透過率90%の波長と透過率10%の波長との波長間距離との波長間距離は多くても50nm程度であることが見て取れる。
(キ)上記(ア)?(カ)からみて、引用例3には、次の事項が記載されているものと認められる。
「従来のカラーフィルタは短波長側の光、つまり紫外線によって劣化するため、短波長側の光の透過率を抑える材料でカラーフィルタを保護すれば、カラーフィルタの劣化を防ぐことができるものの、400nm以下の紫外線をすべて遮断すればカラーフィルタの劣化は防げるが、青(B)のカラーフィルタの特性を妨げカラー表示装置としての色再現性を劣化させてしまうという問題点があったため、
この問題点を解決するために、350nmの光透過率が10%以下で、420nmの光透過率が80%以上とすることにより、青(B)カラーフィルタの特性を損わないで、各カラーフィルタの劣化を防ぐことができるようにした、カラーフィルタの光入射側に設置された紫外線カットフィルタであって、
具体的には、透過率50%の波長が400nm以下であり、透過率90%の波長が約400nmであり、透過率10%の波長が350nm付近であることから、透過率90%の波長と透過率10%の波長との波長間距離との波長間距離は多くても50nm程度である紫外線カットフィルタ。」(以下「引用例3の技術事項」という。)
ウ 本願明細書には「【0025】 本発明の好ましい態様によれば、紫外線遮断層が、紫外線防止フィルムから形成されてなることが好ましい。本発明においては、市販の紫外線防止フィルムを用いることもでき、例えば、TACフィルムとしては、・・・などが挙げられる。UVカットフィルムとしては、・・・などが挙げられる。また、紫外線吸収剤としては、・・・などを使用できる。このような紫外線防止フィルムによれば、表示面からの紫外線の入射を遮断することができるので、カラーフィルタに含まれる色材(顔料および/または染料)の退色をより効果的に防止することができる。・・・」と記載されており、当該記載からみて、市販の紫外線防止フィルムには、本願補正発明の「紫外線遮断層の透過率50%の波長が405nmよりも短波長側にあり、かつ透過率90%の波長と透過率10%の波長との波長間距離が80nm以内である」ことを満たすものがいくつか存在すると解される。
エ 上記ア(オ)の引用例2の記載事項、上記イ(キ)の引用例3の記載事項及び上記ウからみて、紫外線遮断層において、紫外線を遮断しつつ青色光の特性を妨げないようにするために、透過率50%の波長が405nmよりも短波長側にあり、かつ透過率90%の波長と透過率10%の波長との波長間距離が80nm以内を満たすようにすることは周知(以下「周知技術2」という。)であるといえる。
オ 引用発明は、「基板(ガラス基板)」の観察側表面から入射した紫外線が、「カラーフィルタ(色要素34)」に到達するのを防止することにより、染料を用いた「カラーフィルタ(色要素34)」が紫外線によって劣化するのを防ぐために、波長400nm以下の紫外線領域の光の大部分を吸収する「紫外線遮断層(保護フィルム)」を用いているものであるところ、引用例1に紫外線を遮断しつつ青色光の特性を妨げないようにすることが明示されていないとしても、上記エからみて、引用発明において、紫外線遮断層を用いる際に、紫外線を遮断しつつも青色光の特性を妨げないようにすることは当業者が考慮すべきことであるから、引用発明の紫外線遮断層を透過率50%の波長が405nmよりも短波長側にあり、かつ透過率90%の波長と透過率10%の波長との波長間距離が80nm以内のものとなすこと、すなわち、上記相違点2に係る本願補正発明の構成となすことは当業者が周知技術2に基づいて適宜なし得たことである。

(3)なお、審判請求人は、審判請求書において、
「本願発明においては、透過率50%の波長が特定の位置にある紫外線遮断層と、特定のレーキ顔料(C.I.ピグメントブルー1、・・・からなる群から選択される少なくとも一種)を含む青色着色層とを組み合わせることに重要な特徴がございます。・・・、まして、その特定のレーキ顔料を含む青色着色層と、透過率50%の波長が特定の位置にある紫外線遮断層とを組み合わせることおよびその効果は容易に想到することができません。したがって、請求人は審査官の認定に到底承伏できるのものではありません。
また、引用文献2および3のいずれにも、上記の特定のレーキ顔料を含む青色着色層と、透過率50%の波長が特定の位置にある紫外線遮断層とを組み合わせることおよびその効果は何ら教示されておりません。」(審判請求書の「5(2)」)と主張する。
しかしながら、審判請求書には、特定のレーキ顔料を含む青色着色層と透過率50%の波長が特定の位置にある紫外線遮断層とを組み合わせた効果が、具体的に如何なる効果であるかの言及がないとともに、前記青色着色層と前記紫外線遮断層とを組み合わせた際に想定される効果以上の優れた効果であることについての言及もない。
また、明細書を参照しても、前記組み合わせた効果は、「本発明のカラーフィルタによれば、高い色純度を確保しつつ高透過率化を可能とし、さらに色材の退色を効果的に防止することができる。」(【0017】)という、引用発明の奏する効果、周知技術1の奏する効果及び周知技術2の奏する効果から想定される範囲の効果にすぎないものと認められる。

(4)したがって、本願補正発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、周知技術1の奏する効果及び周知技術2の奏する効果から予測することができた程度のものである。

(5)よって、本願補正発明は、当業者が引用例に記載された発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものである。
本願補正発明は、当業者が引用例に記載された発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6 小括
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は、同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成25年4月11日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年4月11日に補正された特許請求の範囲の記載からみて、上記「第2〔理由〕1(1)」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 引用例
引用例及びその記載事項は、上記「第2〔理由〕3」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記「第2〔理由〕1(2)」で検討した本願補正発明から、「レーキ顔料」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、上記「第2〔理由〕4(5)」に記載した相違点2でのみ相違する。
そして、引用発明において、相違点2に係る本願補正発明の構成となすことは、上記「第2〔理由〕5(2)」に記載したとおり、当業者が周知技術2に基づいて適宜なし得たものであるから、本願発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-06 
結審通知日 2015-02-10 
審決日 2015-02-23 
出願番号 特願2009-87171(P2009-87171)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 素川 慎司  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 大瀧 真理
鉄 豊郎
発明の名称 カラーフィルタおよび有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ装置  
代理人 浅野 真理  
代理人 永井 浩之  
代理人 小島 一真  
代理人 勝沼 宏仁  

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