• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F23G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F23G
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 F23G
管理番号 1299805
審判番号 不服2013-19258  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-03 
確定日 2015-04-09 
事件の表示 特願2007-182672「焼却システムでの燃焼用ガス供給方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月27日出願公開、特開2008- 70103〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2007(平成19)年7月11日(パリ条約による優先権主張 2006年9月13日 ドイツ連邦共和国)の出願であって、平成24年5月31日付けで拒絶理由が通知され、平成24年11月12日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年5月28日付けで拒絶査定がなされ、平成25年10月3日に拒絶査定に対する審判請求がされると同時に、特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成25年10月24日に審判請求書の請求の理由を変更する手続補正書が提出され、その後、当審における平成26年1月31日付けの書面による審尋に対し、平成26年8月15日に回答書が提出されたものである。

第2.平成25年10月3日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年10月3日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
(1)本件補正の内容
平成25年10月3日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、請求項1に関し、本件補正により補正される前の(すなわち、平成24年11月12日提出の手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1の下記(ア)の記載を、下記(イ)の記載へと補正するものである。

(ア)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
燃料を燃焼システムに搬送し、一次燃焼用ガスを燃料に通過させ、追加の燃料が一切なく、外気を含んだ二次燃焼用ガスを排ガス流に、ノズルを通じて、燃料上方で直接導入する、及び該排ガス流の一部を排ガス流から後焼却領域で取出して、内部再循環ガスとして燃焼過程に戻す燃焼システムでの燃焼制御方法であって、一次燃焼用ガス量と二次燃焼用ガス量の総量を、基本的に化学量論的反応条件を、二次燃焼用ガス面直上及び三次燃焼領域の下方の排ガス流に関して、追加の燃料を一切導入することなく、達成する程度まで低減すること、及び内部再循環ガスが二次燃焼領域に入るのを妨げ、かつ、三次燃焼領域に移動させ、該領域で排ガスが、二次燃焼用ガス導入後、少なくとも1秒の滞留時間を有すること、を特徴とする燃焼システムでの燃焼制御方法。」

(イ)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
燃料を燃焼システムに搬送し、一次燃焼用ガスを燃料に通過させ、追加の燃料が一切なく、外気を含んだ二次燃焼用ガスを排ガス流に、ノズルを通じて、燃料上方で直接導入する、及び該排ガス流の一部を排ガス流から後焼却領域で取出して、内部再循環ガスとして燃焼過程に戻す燃焼システムでの燃焼制御方法であって、一次燃焼用ガス量と二次燃焼用ガス量の総量を、基本的に化学量論的反応条件を、二次燃焼用ガス面直上及び三次燃焼領域の下方の排ガス流に関して、追加の燃料を一切導入することなく、達成する程度まで低減すること、及び内部再循環ガスが二次燃焼領域に入るのを妨げ、かつ、三次燃焼領域に移動させ、該領域で排ガスが、二次燃焼用ガス導入後、少なくとも1秒の滞留時間を有し、更なる排ガスの乱流を、三次燃焼領域又はその上部、即ち内部再循環ガスの導入部上部で生成することを特徴とする燃焼システムでの燃焼制御方法。」(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

2.本件補正の適否についての判断
[理由1]
2.-1 新規事項の追加
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明において、「更なる排ガスの乱流を、三次燃焼領域又はその上部、即ち内部再循環ガスの導入部上部で生成する」旨を付加するものである。
これに対し、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書等」という。)において、明細書の段落【0019】には、「これは、更なる煙道ガス乱流を、三次燃焼領域で又はその上流で、即ち内部で再循環させた煙道ガスを導入する箇所より上流で発生させる場合、更に有利である。これを、内部で再循環させた煙道ガスの導入で生じる乱流によるだけでなく、例えば炉の煙道ガス通路の断面積を、内部再循環ガスを導入する箇所又はその上流で縮小することで、或はこの領域に乱流を増大させる取付体を使用することで、達成できる。」と記載され、特許請求の範囲の請求項8には、「更なる排ガスの乱流を、三次燃焼領域又はその上流、即ち内部再循環ガスの導入部上流で生成すること、を特徴とする請求項1に記載の方法。」と記載されている(下線は、当審で付した。)。
そして、当初明細書等において、明細書の段落【0026】及び【0028】並びに【図1】等の記載からみて、一次燃焼領域、二次燃焼領域及び三次燃焼領域は、順に下方から並んで構成されることが分かるから、当初明細書等の記載において、「三次燃焼領域の上流」とは、三次燃焼領域の下方を意味し、「内部で再循環された煙道ガスを導入する箇所より上流」とは、内部で再循環された煙道ガスを導入する箇所より下方を意味すると理解される。
しかし、当初明細書等のいずれにも、更なる排ガスの乱流を、三次燃焼領域又はその上部、即ち内部再循環ガスの導入部上部で生成することは記載されておらず、それを示唆する記載もない。

したがって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえず、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

[理由2]
2.-2 独立特許要件違反
仮に、本件補正に、上記2.-1に記載した新規事項の追加が含まれていないとした場合、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するか、さらには独立特許要件を満たすものであるかについて検討する。

(1)本件補正の目的
本件補正は、請求項1に関し、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「内部再循環ガスとして燃焼過程に戻す」ことに関し、更なる排ガスの乱流が三次燃焼領域又はその上部、即ち内部再循環ガスの導入部上部で生成されることを限定することを含むものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)本件補正の適否についての判断
本件補正における特許請求の範囲の補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2.-2-1 引用文献
(1)引用文献の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平7-4624号公報(以下、「引用文献」という。)には、例えば、次のような記載がある。

(ア)「【要約】
【目的】 高温炉の中で、窒素酸化物、硫黄酸化物、塩化水素を同時的に減少する方法と装置を提供する。
【構成】 可燃性物質は炉の中に導入され、燃焼されて一次燃焼ゾーンを形成する。燃焼用空気、吸収剤、炭化水素燃料の最初の部分はカ焼器の中で混合されて生成物ガス/カ焼吸収剤の混合物を形成する。生成物ガス/カ焼吸収剤の混合物と炭化水素燃料の残りの部分は炉の中に噴射されて、一次燃焼ゾーンの下流に酸素不足の二次燃焼ゾーンを形成する。オーバーファイアー空気が炉の中に噴射されて、酸素不足の二次燃焼ゾーンの下流に酸化性の三次燃焼ゾーンを形成する。」(【要約】)

(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、都市固体廃棄物(MSW)と塵芥物源の燃料(RDF)を含む可燃性物質の燃焼から出てくる煙道ガス中のNOx(窒素酸化物)、SOx(硫黄酸化物)、HCl(塩化水素)、CO(一酸化炭素)、全炭化水素(THC)および塩素化された炭化水素(CHC)を含む汚染物質の放散を高温の炉の中で減少させる方法と装置に関する。」(段落【0001】)

(ウ)「【0035】この発明の一つの具体例による可燃性物質の燃焼装置、即ち、炉10が図1の図式的横断正面図に示されている。複数の炉壁12が燃焼室15を限定する。燃焼室15の内部に、好ましくはその下の部分に位置するストーカー火格子は、少なくとも一つの乾燥用火格子部分20、少なくとも一つの燃焼用火格子部分25、及び少なくとも一つの燃え切り用火格子30部分から成る。少なくとも一つのアッシュピット出口35が燃え切り用火格子部分30からの灰を受けるような位置に配置されている。少なくとも一つの可燃性物質の入り口手段37が火格子の上方の炉壁12の中に配置され、可燃性物質が燃焼室15に入って乾燥用火格子部分20の上に流れるようになっている。可燃性物質は可燃性物質前進手段によって乾燥用火格子部分20から、燃焼用火格子部分25の上に、更に燃え切り用火格子部分30の上に、最後にアッシュピット出口35の中に落ちるように前送りされる。
【0036】火格子下の空気供給手段は、乾燥用火格子部分20、燃焼用火格子部分25及び燃え切り用火格子部分30の少なくとも一つの下の空間と火格子下の空気源とに通じる少なくとも一つの火格子下の空気導管40から成る。火格子下の空気導管40は火格子の下に空気を、次いで火格子を通して火格子下の空気を供給する為に使用される。火格子下の空気源とストーカー下の少なくとも一つの空間は火格子下の空気導管40と通じていて、同じく火格子下空気を火格子の下と次ぎに火格子を通して供給する為に使われる。火格子下の空気は、燃焼室15の中で可燃性物質を燃焼する為の主たる空気源である。可燃性物質の燃焼は、燃焼室15の中で一次燃焼ゾーンを形成する燃焼用火格子部分25の直ぐ真上の近傍で起こる。
【0037】少なくとも一つの吸収剤入り口手段44が炉壁12に固定され、燃焼室15に通じている。吸収剤入り口手段は炉壁12に固定され燃焼室15に通じる少なくとも一つの吸収剤入り口ノズル43を含むことができる。燃焼生成物と図4に示されるカ焼器50からのカ焼された吸収剤の混合物、炭化水素燃料、好ましくは天然ガス、及び随意的には炉のボイラー部分(図には示されない)から再循環された煙道ガスが吸収剤入り口ノズル43を通して燃焼室15の中に噴射され、一次燃焼ゾーンからの燃焼生成物が流入する酸素不足の二次燃焼ゾーンを一次燃焼ゾーンの直ぐ下流に作り出す。この発明の別の具体例では、吸収剤、好ましくは、カ焼されていない石灰石および/またはドロマイトが、表向きは発生する酸素不足の二次燃焼ゾーン内の混合を高める目的で、吸収剤入り口ノズル43を通して燃焼室15の中に噴射される。酸素不足の二次燃焼ゾーンの温度は、好ましくは、約1600°Fと2400°Fの間にあり、そして酸素不足の二次燃焼ゾーン内の酸素濃度は、好ましくは、二次燃焼ゾーン内で可燃物を完全燃焼する為に要する化学量論的必要量(理論量)の約0.6と1.2の間にある。少なくとも一つのオーバーファイアー空気手段60が炉壁12に固定され、燃焼室15に通じている。オーバーファイアー空気手段は、炉壁12に固定されて燃焼室15に通じるオーバーファイアー空気ノズル45を含むことができる。各オーバーファイアー空気ノズル45は、流体、好ましくは、燃え切り用火格子部分30の上から引き抜かれた汚染空気が酸素不足の二次燃焼ゾーンの下流で燃焼室15の中に噴射されるような位置で炉壁12に固定されている。この発明の好ましい具体例では、各オーバーファイアー空気ノズル45と各吸収剤入り口ノズル43は、夫れぞれの流体を燃焼室15の中に接線方向または半径方向に噴射するのに都合の良い位置に配置されるか、又はその為の当該技術に公知の内部機械的部材を持っている。流体の流れを燃焼室15の中に接線方向、又は半径方向に向ける為に、内部邪魔板(バッフル)、内部または外部ノズル等を使用できることは明らかである。このようにして流体の混合を高める渦巻き(渦流)が燃焼室15の中で得られるが、この場合の燃焼室の断面の形状はいかなる形式のものでも良く、図3に示されるように矩形の断面を持つ場合でさえも十分な渦流を得ることができる。
【0038】図3を参照すると、オーバーファイアー空気ノズル45は、燃焼室15の内部に少なくとも一つの渦流、好ましくは多重の渦流が形成されるように炉壁12に関して或る角度を以て配置させることができる。図2に示されるように、オーバーファイアー空気ノズル45を水平に関して或る角度を以て位置させることによって、流体を水平に関して或る角度を以て燃焼室15の中に噴射することができるのは明らかである。」(段落【0035】ないし【0038】)

(エ)「【0044】この発明によるプロセスでは、可燃性物質は可燃性物質入り口37を通して燃焼室15の中の乾燥用火格子部分20の上部に導入される。可燃性物質は更に、好ましくは往復運動と重力によって燃焼用火格子部分25と燃え切り用火格子部分30の上を前送りされる。火格子下の空気は格子の下から供給され、次いで乾燥用火格子部分20、燃焼用火格子部分25、燃え切り用火格子部分30を通り抜けながら、可燃性物質を乾燥し、燃焼する。灰生成物は、燃焼室15の内部にある燃え切り用火格子部分30の下流に位置するアッシュピット(灰ピット)出口35を通して排出される。吸収剤は、燃焼用空気と混合した炭化水素燃料の最初の部分が燃焼するカ焼器50の中で約1600°Fから約2200°Fの温度でカ焼されて生成物ガス/カ焼吸収剤の混合物を形成する。燃焼生成物/カ焼吸収剤は炭化水素の残りの部分および随意的には炉のボイラー部分から再循環される煙道ガスと混合され、吸収剤入り口ノズル43を通して燃焼室15の中に噴射されて、可燃性物質の燃焼によって形成される一次燃焼ゾーンの直ぐ下流に酸素不足の二次燃焼ゾーンを形成する。別の具体例では、好ましくは、石灰石またはドロマイトから成る吸収剤が炭化水素燃料および随意的には炉のボイラー部分から再循環される煙道ガス、水、水蒸気、空気および/または工業銘柄の窒素と混合され、吸収剤入り口ノズル43を通して燃焼室15の中に噴射される。好ましい具体例では、炭化水素燃料は天然ガスである。一次燃焼ゾーンで形成されるSOx、HCl及びFNSの大部分は酸素不足の二次燃焼ゾーンの中で同時還元される。還元性の二次燃焼ゾーン内の燃焼生成物の平均滞留時間は、好ましくは、約1秒から約4秒である。汚染された空気は燃え切り用火格子部分30の上から排除され、随意的に新鮮な空気又は工業銘柄の酸素と混合されてオーバーファイアー空気入り口45を通して燃焼室15の中に噴射され、酸素不足の二次燃焼ゾーンの下流に酸化性の三次燃焼ゾーンを形成する。燃焼生成物が酸化性の三次燃焼ゾーン内部に滞留する平均時間は、好ましくは約1秒から約5秒である。燃焼炉10から出る煙道ガス中の全硫黄酸化物SOxの放散物は約80%から約95%も減少し、全塩化水素HCl放散物は約95%から約99%も減少する。このような放散物の減少は、公知の従来技術により得られる放散物の減少よりも相当に大きい。
【0045】前述の明細書では、発明を幾つかの好ましい具体例に関して記述し、多くの詳細事項を発明を例示する目的から示してきたが、発明に更に別の具体例を追加することは容易であり、そしてここに記述された詳細の幾つかは本発明の基本原理から逸脱すること無しに相当に変化させ得ることは当該技術に熟練した人にとって明らかであろう。」(段落【0044】及び【0045】)

(2)引用文献記載の事項
上記(1)及び図1ないし図4の記載から、引用文献には次の事項が記載されていることが分かる。

(オ)上記(1)(ア)ないし(エ)及び図1ないし図4の記載から、引用文献には、炉10における可燃性物質の燃焼制御方法が記載されているということができる。

(カ)上記(1)(ア)、(ウ)及び(エ)並びに図1の記載から、引用文献に記載された炉10における可燃性物質の燃焼制御方法において、一次燃焼ゾーンにおいて、可燃性物質を炉10の中に導入し、火格子下の空気導管40から供給される空気を火格子上の可燃性物質に通過させ、カ焼された吸収剤、残りの炭化水素及び空気の混合物を、一次燃焼ゾーンからの燃焼生成物に吸収剤入り口ノズル43を通して一次燃焼ゾーンの上で噴射し、一次燃焼ゾーンの下流に酸素不足の二次燃焼ゾーンを形成し、燃え切り用火格子部分30の上から引き抜かれた汚染空気を、オーバーファイア空気として燃焼室15の中に噴射して、三次燃焼ゾーンを形成するものであることが分かる。

(キ)上記(1)(ウ)の段落【0037】には、「酸素不足の二次燃焼ゾーン内の酸素濃度は、好ましくは、二次燃焼ゾーン内で可燃物を完全燃焼する為に要する化学量論的必要量(理論量)の約0.6と1.2の間にある。」と記載されているから、引用文献に記載された炉10における可燃性物質の燃焼制御方法において、二次燃焼ゾーン内の酸素濃度は、化学量論的必要量の約0.6と1.2の間にあることが分かる。

(ク)上記(1)(ア)、(ウ)及び(エ)並びに図1ないし図3の記載から、引用文献に記載された炉10における可燃性物質の燃焼制御方法において、二次燃焼ゾーンと三次燃焼ゾーンの間でオーバーファイアー空気が噴射されることにより、流体の混合を高める渦巻き(渦流)が発生し、燃焼生成物が三次燃焼ゾーン内部に滞留する平均時間は、好ましくは約1秒から約5秒であることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図1ないし図4の記載から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「可燃性物質を炉10に導入し、火格子下の空気導管40から供給される空気を可燃性物質に通過させ、カ焼された吸収剤、残りの炭化水素及び空気の混合物を一次燃焼ゾーンからの燃焼生成物に、吸収剤入り口ノズル43を通じて、一次燃焼ゾーンの上で噴射する、及び汚染空気を燃え切り用火格子部分30の上から引き抜いて、オーバーファイア空気として燃焼室15の中に噴射する炉10における可燃性物質の燃焼制御方法であって、二次燃焼ゾーン内の酸素濃度は、化学量論的必要量の約0.6と1.2の間にあること、及び二次燃焼ゾーンと三次燃焼ゾーンの間でオーバーファイアー空気が噴射されることにより、流体の混合を高める渦巻き(渦流)が発生し、燃焼生成物が三次燃焼ゾーン内部に滞留する平均時間は、好ましくは約1秒から約5秒である炉10における可燃性物質の燃焼制御方法。」

2.-2-2 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「可燃性物質」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願補正発明における「燃料」に相当し、以下同様に、「炉10」は「燃焼システム」に、「導入」は「搬送」に、「火格子下の空気導管40から供給される空気」は「一次燃焼用ガス」に、「一次燃焼ゾーンからの燃焼生成物」は「排ガス流」に、「吸収剤入り口ノズル43」は「ノズル」に、「一次燃焼ゾーンの上で噴射」は「燃料上方で直接導入」に、「炉10における可燃性物質の燃焼制御方法」は「燃焼システムでの燃焼制御方法」に、「二次燃焼ゾーン」は「二次燃焼領域」に、「三次燃焼ゾーン」は「三次燃焼領域」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「燃え切り用火格子部分の上」は、その技術的意義からみて、本願補正発明における「後焼却領域」に相当するということができ、同様に「オーバーファイア空気」は「内部再循環ガス」に相当するということができるから、引用発明において「汚染空気を燃え切り用火格子部分30の上から引き抜いて、オーバーファイア空気として燃焼室15の中に噴射する」ことは、本願補正発明において「排ガス流の一部を排ガス流から後焼却領域で取出して、内部再循環ガス燃焼過程に戻す」ことに相当する。
そして、「外気を含んだ二次燃焼用ガス」という限りにおいて、引用発明における「カ焼された吸収剤、残りの炭化水素及び空気の混合物」は、本願補正発明における「追加の燃料が一切なく、外気を含んだ二次燃焼用ガス」に相当する。また、引用発明において、「二次燃焼ゾーン」は「酸素不足」((1)(ウ)【0037】)であることからみて、当然に、二次燃焼ゾーンの直上及び三次燃焼ゾーンの下方の燃焼生成物の流れにおいて、酸素濃度が低いということができる。したがって、「一次燃焼用ガス量と二次燃焼用ガス量の総量を、基本的に化学量論的反応条件を、二次燃焼用ガス面直上及び三次燃焼領域の下方の排ガス流に関して、達成する程度まで低減すること」という限りにおいて、引用発明において「二次燃焼ゾーン内の酸素濃度は、化学量論的必要量の約0.6と1.2の間にあること」は、本願補正発明において、「一次燃焼用ガス量と二次燃焼用ガス量の総量を、基本的に化学量論的反応条件を、二次燃焼用ガス面直上及び三次燃焼領域の下方の排ガス流に関して、追加の燃料を一切導入することなく、達成する程度まで低減すること」に相当する。
さらに、本願補正発明は、「ガス流を後燃焼室領域から吸引によって抽出し、それにより該ガス流が二次燃焼ゾーンに流入するのを防ぐ」(本願の明細書の段落【0012】)ものであるところ、引用発明も「汚染空気を燃え切り用火格子部分に30の上から引き抜いて」、「オーバーファイア空気として燃焼室15の中に噴出する」点で同様の構成を有することから、本願補正発明と同様に汚染空気が二次燃焼ゾーンに流入するのを防ぐものであるということができる。したがって、「内部再循環ガスが二次燃焼領域に入るのを妨げ、かつ、三次燃焼領域に移動させ、該燃焼領域で排ガスが、二次燃焼用ガス導入後、少なくとも1秒の滞留時間を有し、更なる排ガスの乱流を、内部再循環ガスの導入部付近で生成する」という限りにおいて、引用発明において「二次燃焼ゾーンと三次燃焼ゾーンの間でオーバーファイアー空気が噴射されることにより、流体の混合を高める渦巻き(渦流)が発生し、燃焼生成物が三次燃焼ゾーン内部に滞留する平均時間は、好ましくは約1秒から約5秒である」ことは、本願補正発明において「内部再循環ガスが二次燃焼領域に入るのを妨げ、かつ、三次燃焼領域に移動させ、該領域で排ガスが、二次燃焼用ガス導入後、少なくとも1秒の滞留時間を有し、更なる排ガスの乱流を、三次燃焼領域又はその上部、即ち内部再循環ガスの導入部上部で生成する」ことに相当する。

以上から、本願補正発明と引用発明は、
「燃料を燃焼システムに搬送し、一次燃焼用ガスを燃料に通過させ、外気を含んだ二次燃焼用ガスを排ガス流に、ノズルを通じて、燃料上方で直接導入する、及び該排ガス流の一部を排ガス流から後焼却領域で取出して、内部再循環ガスとして燃焼過程に戻す燃焼システムでの燃焼制御方法であって、一次燃焼用ガス量と二次燃焼用ガス量の総量を、基本的に化学量論的反応条件を、二次燃焼用ガス面直上及び三次燃焼領域の下方の排ガス流に関して、達成する程度まで低減すること、及び内部再循環ガスが二次燃焼領域に入るのを妨げ、かつ、三次燃焼領域に移動させ、該燃焼領域で排ガスが、二次燃焼用ガス導入後、少なくとも1秒の滞留時間を有し、更なる排ガスの乱流を、内部再循環ガスの導入部付近で生成する燃焼システムでの燃焼制御方法。」
である点で一致し、次の点において相違する。

〈相違点〉
(a)「外気を含んだ二次燃焼用ガス」に関し、本願補正発明における二次燃焼用ガスには追加の燃料が一切ないのに対し、引用発明における「カ焼された吸収剤、残りの炭化水素及び空気の混合物」は、追加の燃料となる残りの炭化水素を含むものである点(以下、「相違点1」という。)。
(b)「内部再循環ガスが二次燃焼領域に入るのを妨げ、かつ、三次燃焼領域に移動させ、該燃焼領域で排ガスが、二次燃焼用ガス導入後、少なくとも1秒の滞留時間を有し、更なる排ガスの乱流を、内部再循環ガスの導入部付近で生成する」ことに関し、本願補正発明においては「内部再循環ガスが二次燃焼領域に入るのを妨げ、かつ、三次燃焼領域に移動させ、該領域で排ガスが、二次燃焼用ガス導入後、少なくとも1秒の滞留時間を有し、更なる排ガスの乱流を、三次燃焼領域又はその上部、即ち内部再循環ガスの導入部上部で生成する」のに対し、引用発明においては「二次燃焼ゾーンと三次燃焼ゾーンの間でオーバーファイアー空気が噴射されることにより、流体の混合を高める渦巻き(渦流)が発生し、燃焼生成物が三次燃焼ゾーン内部に滞留する平均時間は、好ましくは約1秒から約5秒である」点(以下、「相違点2」という。)。

2.-2-3 判断
まず、相違点1について検討する。
燃焼システムにおいて、二次燃焼用ガスとして、燃料を含まない空気を供給する技術は、周知(以下、「周知技術」という。例えば、特開平10-61930号公報の段落【0011】ないし【0016】、段落【0029】の〈1〉及び図1並びに特開平5-60313号公報の段落【0015】ないし【0020】及び図1等参照。)である。
そして、引用発明と上記周知技術は共通の技術分野に属するから、引用発明において、上記周知技術を適用して、二次燃焼用ガスに燃料を含まない空気を供給することで、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項としたことは、当業者が容易に想到し得たことである。

次に、相違点2について検討する。
引用文献には、オーバーファイアー空気ノズル45の配置角度を適宜設定することにより、流体の混合を高める渦巻き(渦流)が燃焼室15の中で得られ(2.2-1(1)(ウ)の【0037】参照)、オーバーファイアー空気ノズル45を水平に関して或る角度を以て位置させることによって、流体を水平に関して或る角度を以て燃焼室15の中に噴射することができる(同【0038】参照)旨が記載されている。
したがって、引用発明において、オーバーファイアー空気ノズル45を適宜角度を付けて配置することにより、オーバーファイアー空気の噴射位置の上部で更なる排ガスの乱流を生成することにより、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項としたことは、当業者が容易に想到し得たことである。

さらに、本願補正発明を全体として検討しても、引用発明及び周知技術から予測される以上の格別の効果を奏すると認めることはできない。

以上から、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2.-2-4 [理由2]のむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.むすび
[理由1]又は[理由2]によって、結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
前記のとおり、平成25年10月3日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成24年11月12日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲並びに願書に添付された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであり、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2.の[理由]1.(1)(ア)【請求項1】のとおりのものである。

2.引用文献
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献(特開平7-4624号公報)記載の発明(引用発明)は、前記第2.の[理由]2.-2-1の(3)に記載したとおりである。

3.対比
本願発明は、前記第2.の[理由]2.-2の(1)で検討したように、実質的に、本願補正発明における発明特定事項の一部の構成を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記第2.-2-2及び2.-2-3に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-10-29 
結審通知日 2014-11-04 
審決日 2014-11-18 
出願番号 特願2007-182672(P2007-182672)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (F23G)
P 1 8・ 121- Z (F23G)
P 1 8・ 575- Z (F23G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 泰輔  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 槙原 進
中村 達之
発明の名称 焼却システムでの燃焼用ガス供給方法  
代理人 ▲吉▼川 俊雄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ