• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1299833
審判番号 不服2014-13510  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-11 
確定日 2015-04-15 
事件の表示 特願2011-117737「基板とこの基板の第1の面に搭載される集積回路ダイとの間の熱膨張差による応力を低減する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 8月18日出願公開、特開2011-160009〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年3月7日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 平成8年3月28日 米国(US))を国際出願日として出願した特願平9-534409号の一部を平成20年7月23日に新たな特許出願とした特願2008-190163号の一部をさらに平成23年5月26日に新たな特許出願としたものであって、平成25年3月4日付け拒絶理由通知に対応する応答時、同年6月19日付けで手続補正がなされたが、平成26年2月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月11日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされたものである。

2.平成26年7月11日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年7月11日付けの手続補正を却下する。
[理 由]
(1)補正後の本願発明
平成26年7月11日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項7は、
「【請求項7】
基板とこの基板の第1の面に搭載される集積回路ダイとの間の熱膨張差による応力の影響を低減する、基板と集積回路ダイとを備えたBGAパッケージであって、
前記基板の前記第1の面と反対の第2の面に形成された第1の接点アレイであって、前記第1の面に搭載される集積回路ダイの寸法プロファイルの外側にある第1の接点アレイと、
前記基板の前記第1の面と反対の第2の面に形成された第2の接点アレイであって、前記第1の面に搭載される集積回路ダイの寸法プロファイルの内側にある第2の接点アレイと、
前記第1と第2の接点アレイの間であって、かつ前記集積回路ダイの寸法プロファイルの外縁に対応する部分を含む領域に、残される接点のない領域と、
を含み、
該接点のない領域は、前記基板と前記集積回路ダイとの間の熱膨張差が生じる領域であり、さらに、
前記第1の接点アレイの隣接する接点は第1の距離だけ隔てられており、第2の接点アレイの隣接する接点は第2の距離だけ隔てられているとともに、前記接点のない領域の幅は前記第1、第2の各々の距離より大きい、BGAパッケージ。」
と補正された。

上記補正は、請求項7に記載された発明を特定するために必要な事項である、基板と集積回路ダイとを備えた「装置」について、「BGAパッケージ」であるとの限定を付加するものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の上記請求項7に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-70062号公報(公開日:平成8年3月12日。以下、「引用例」という。)には、「電子部品」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】基板の一方の面にチップを搭載し、他方の面にバンプを形成して成る電子部品において、前記チップの端面に対応する位置に形成されるバンプをダミーバンプとすることを特徴とする電子部品。」

イ.「【0002】
【従来の技術】近年、各種電子機器には、バンプ(突出電極)を有する電子部品が次第に広範に用いられるようになってきている。図6は、主基板に実装された従来の電子部品と歪振幅の分布を示す説明図である。この電子部品1は、基板2の上面にチップ3を搭載し、下面に半田より成るバンプ4をマトリクス状に多数個形成して構成されている。チップ3の表面に形成された回路パターンの電極(図示せず)は、図示しない導電手段によりバンプ4に電気的に接続されている。チップ3はボンド5により基板2の表面に固着されており、また基板2の上面にはチップ3を保護するためのモールド体6が形成されている。この電子部品1は、主基板9の電極(図示せず)にバンプ4によって固定されている。
【0003】図6の下部に歪振幅の分布図を示している。この電子部品1を電子機器に組み込み、チップ3の回路パターンに電流を流してチップ3を駆動させると、チップ3は内部抵抗により発熱する。この発熱は、基板2やモールド体6へ伝熱され、電子部品1は熱歪みを生じる。図6はこの熱歪みを示すものであって、本発明者がFEM(有限要素法)解析により解析して入手したものである。
【0004】この分布図から明らかなように、チップ3の端面aの直下に対応するバンプ4aにおいて、歪振幅は最も著しい。これは、チップ3に対して基板2やモールド体6の熱膨張係数が著しく相違することに起因する。因みに、例えばガラエポ基板やモールド体の熱膨張係数は20?60×10^(-6)/℃であるのに対し、チップ3のそれは3?4×10^(-6)/℃であり、前者は後者の約10倍である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】以上のことから、チップ3の端面aに対応する位置のバンプ4aは、熱膨張と熱収縮が繰り返されることにより疲労破壊が発生しやすく、電子部品1と主基板9との電気的な接続の寿命が短くなるという問題点があった。
【0006】そこで本発明は上記の点を勘案してなされたものであって、熱膨張と熱収縮の繰り返しに対処し、電子部品と主基板との電気的な接続の長寿命化を図れる電子部品を提供することを目的とする。」

ウ.「【0011】
【実施例】次に、図面を参照しながら本発明の実施例を説明する。図1は本発明の第一実施例の電子部品の断面図、図2は同底面図、図3は同部分断面図である。図6に示す従来例と同一のものには同一符号を付すことにより、説明は省略する。
【0012】図1および図2において、電子部品10の基板2の下面にはバンプ4がマトリクス状に多数個形成されているが、このうちチップ3の端面aに対応する位置のバンプはダミーバンプ4bになっている(ダミーバンプ4bは黒く塗りつぶしている)。ダミーバンプ4bとは、チップ3の表面に形成された回路パターンの電極と電気的に接続されていないものであって、回路的には無意味なものである。
【0013】図6を参照して説明したように、チップ3の端面aに対応するダミーバンプ4bは歪振幅が大きく、熱膨張・熱収縮が繰り返されることにより疲労破壊を生じるが、ダミーバンプ4bは回路的には無意味であり、したがって疲労破壊をしても主基板と電子部品10の電気的な接続の寿命には影響を及ぼさない。
【0014】図3に示すように、本実施例のダミーバンプ4bは、熱伝導性の高い金属線などの伝熱材7によりチップ3に接続されている。したがってチップ3の発熱は、伝熱材7を通してダミーバンプ4bに伝熱され、ダミーバンプ4bから放熱される。すなわちこのダミーバンプ4bは、放熱作用を有しており、ダミーバンプ4bから放熱することにより、チップ3の発熱から電子部品10を保護できる。」

・上記引用例に記載の「電子部品」は、上記「ア.」、「イ.」の段落【0002】、「ウ.」の段落【0012】の記載事項、及び図1、図2によれば、基板2の一方の面にチップ3を搭載し、他方の面に当該電子部品1を主基板9の電極に固定するためのバンプ4をマトリクス状に多数個形成してなり、基板2の上面にチップ3を保護するためのモールド体6が形成された電子部品1に関するものである。
・上記「イ.」の段落【0003】?【0005】の記載事項、及び図6によれば、チップ3に対して基板2等の熱膨張係数が著しく相違することに起因して、チップ3駆動時の発熱により、チップ3の端面aの直下に対応するバンプにおいて歪振幅が大きく、熱膨張・熱収縮が繰り返されることにより疲労破壊を発生し、電子部品1と主基板9との電気的な接続の寿命が短くなるという問題点があり、
上記「ア.」、「イ.」の段落【0006】、「ウ.」の記載事項、及び図1、図2によれば、この問題点に対処するために、チップ3の端面aに対応する位置のバンプを、チップ3の表面に形成された回路パターンの電極と電気的に接続されていない(つまり、回路的には無意味なものである)ため、疲労破壊をしても電気的な接続の寿命には影響しないダミーバンプ4bとしたものである。
・図1、図2によれば、ダミーバンプ4bを除いた回路的に意味のあるバンプ4のうち、チップ3の端面aに対応する矩形の輪郭線の外側にあるバンプ4は一定の間隔で多数個形成され、チップ3の端面aに対応する矩形の輪郭線の内側にもバンプ4が形成されており、チップ3の端面aに対応する矩形の輪郭線の外側にあるバンプ4と内側にあるバンプ4との最短距離は、それらの間にはダミーダンプ4bが配置されていることから、外側にあるバンプ4における一定の間隔より大きいことが見てとれる。

したがって、特に第一実施例に係るものに着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「基板の一方の面にチップを搭載し、他方の面に当該電子部品を主基板の電極に固定するためのバンプをマトリクス状に多数個形成してなり、前記基板の上面に前記チップを保護するためのモールド体が形成された電子部品であって、
前記チップに対して前記基板等の熱膨張係数が著しく相違することに起因して、チップ駆動時の発熱により、当該チップの端面の直下に対応する前記バンプにおいて歪振幅が大きく、熱膨張・熱収縮が繰り返されることにより疲労破壊を発生し、当該電子部品と前記主基板との電気的な接続の寿命が短くなるという問題点に対処するために、前記チップの端面に対応する位置の前記バンプを、前記チップの表面に形成された回路パターンの電極と電気的に接続されていない(つまり、回路的には無意味なものである)ダミーバンプとし、
前記ダミーバンプを除いた回路的に意味のある前記バンプのうち、前記チップの端面に対応する矩形の輪郭線の外側にあるバンプは一定の間隔で多数個形成され、前記チップの端面に対応する矩形の輪郭線の内側にもバンプが形成されており、前記チップの端面に対応する矩形の輪郭線の外側にあるバンプと内側にあるバンプとの最短距離は、外側にあるバンプにおける前記一定の間隔より大きい、電子部品。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、
ア.引用発明における「基板」、「一方の面」は、それぞれ本願補正発明における「基板」、「第1の面」に相当し、
引用発明における「チップ」は、半導体集積回路(IC)を意味することは自明であり、本願補正発明における「集積回路ダイ」に相当するものであり、
(a)引用発明における「基板の一方の面にチップを搭載し、他方の面に当該電子部品を主基板の電極に固定するためのバンプをマトリクス状に多数個形成してなり、前記基板の上面に前記チップを保護するためのモールド体が形成された電子部品であって」によれば、
「電子部品」は、主基板に対して表面実装されるタイプのパッケージ体(引用例の図6も参照)であり、その裏面にバンプ(半田ボール)をマトリクス状に配置してなるものであることから、本願補正発明でいう「BGAパッケージ」に相当するものであることは明らかである。
(b)また、引用発明における「前記チップに対して前記基板等の熱膨張係数が著しく相違することに起因して、チップ駆動時の発熱により、当該チップの端面の直下に対応する前記バンプにおいて歪振幅が大きく、熱膨張・熱収縮が繰り返されることにより疲労破壊を発生し、当該電子部品と前記主基板との電気的な接続の寿命が短くなるという問題点に対処するために・・」によれば、
「・・前記チップに対して前記基板等の熱膨張係数が著しく相違することに起因して、チップ駆動時の発熱により、当該チップの端面の直下に対応する前記バンプにおいて歪振幅が大きく・・」ということは、基板とチップとの熱膨張の差による歪み、つまり応力の影響を受けるということであり、「・・熱膨張・熱収縮が繰り返されることにより疲労破壊を発生し、当該電子部品と前記主基板との電気的な接続の寿命が短くなるという問題点に対処する・・」ということは、その応力によって疲労破壊を発生し、電子部品と主基板との電気的な接続の寿命が短くなるという影響を低減しようとするものであるということができる。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、「基板とこの基板の第1の面に搭載される集積回路ダイとの間の熱膨張差による応力の影響を低減する、基板と集積回路ダイとを備えたBGAパッケージ」である点で一致する。

イ.引用発明における「他方の面」、チップの端面に対応する「矩形の輪郭線」は、それぞれ本願補正発明における「第2の面」、集積回路ダイの「寸法プロファイル」に相当し、
引用発明における、チップの表面に形成された回路パターンの電極と電気的に接続されていない(つまり、回路的には無意味なものである)ダミーバンプを除いた回路的に意味のある「バンプ」は、本願補正発明における「接点」に相当するとみることができ、
引用発明における「・・他方の面に当該電子部品を主基板の電極に固定するためのバンプをマトリクス状に多数個形成してなり、・・・・前記チップの端面に対応する位置の前記バンプを、前記チップの表面に形成された回路パターンの電極と電気的に接続されていない(つまり、回路的には無意味なものである)ダミーバンプとし、前記ダミーバンプを除いた回路的に意味のある前記バンプのうち、前記チップの端面に対応する矩形の輪郭線の外側にあるバンプは一定の間隔で多数個形成され、前記チップの端面に対応する矩形の輪郭線の内側にもバンプが形成されており・・」によれば、
(a)ダミーバンプを除いた回路的に意味のあるバンプのうち、チップの端面に対応する矩形の輪郭線の外側にある「バンプ」は、一定の間隔で多数個形成されてなるものであるから、本願補正発明における「第1の接点アレイ」に相当し、
本願補正発明と引用発明とは、「前記基板の前記第1の面と反対の第2の面に形成された第1の接点アレイであって、前記第1の面に搭載される集積回路ダイの寸法プロファイルの外側にある第1の接点アレイと」を含む点で一致とする。
(b)また、ダミーバンプを除いた回路的に意味のあるバンプのうち、チップの端面に対応する矩形の輪郭線の内側にある「バンプ」は、本願補正発明における「第2の接点」に対応するものであり、
本願補正発明と引用発明とは、後述の相違点1を除いて「前記基板の前記第1の面と反対の第2の面に形成された第2の接点であって、前記第1の面に搭載される集積回路ダイの寸法プロファイルの内側にある第2の接点と」を含む点で共通するといえる。
(c)そして、「チップの端面に対応する位置」は、本願補正発明でいう「集積回路ダイの寸法プロファイルの外縁に対応する部分」に相当し、この位置のバンプを、チップの表面に形成された回路パターンの電極と電気的に接続されていない(つまり、回路的には無意味なものである)ダミーバンプとするということは、当該位置を含む領域に有効なバンプ(接点)のない領域を有するとみることができ、
本願補正発明と引用発明とは、後述の相違点2を除いて「前記第1の接点アレイと第2の接点の間であって、かつ前記集積回路ダイの寸法プロファイルの外縁に対応する部分を含む領域に、[有効な]接点のない領域と」を含む点で共通するということができる。
ここで、この[有効な]接点のない領域は、チップの端面に対応する位置を含むものであり、かかる位置では上述のとおり「前記チップに対して前記基板等の熱膨張係数が著しく相違することに起因して、チップ駆動時の発熱により、当該チップの端面の直下に対応する前記バンプにおいて歪振幅が大き」いのであるから、
本願補正発明と引用発明とはさらに、「該[有効な]接点のない領域は、前記基板と前記集積回路ダイとの間の熱膨張差が生じる領域であり」の点で共通するいえる。

ウ.引用発明における「・・前記チップの端面に対応する矩形の輪郭線の外側にあるバンプは一定の間隔で多数個形成され、・・・・前記チップの端面に対応する矩形の輪郭線の外側にあるバンプと内側にあるバンプとの最短距離は、外側にあるバンプにおける前記一定の間隔より大きい・・」によれば、
(a)チップの端面に対応する矩形の輪郭線の外側にあるバンプは、隣接するバンプ同士が「一定の間隔」だけ隔てられて多数個形成されていることから、この「一定の間隔」は、本願補正発明における「第1の距離」に相当し、
(b)また、チップの端面に対応する矩形の外側にあるバンプと内側にあるバンプとの「最短距離」は、ダミーバンプのある領域、つまり、有効なバンプ(接点)のない領域の幅と捉えることができるものであり、本願補正発明における「前記接点のない領域の幅」とは、「前記[有効な]接点のない領域の幅」といえる点で共通する。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、後述の相違点1を除いて「前記第1の接点アレイの隣接する接点は第1の距離だけ隔てられており、前記接点のない領域の幅は前記第1の距離より大きい」点で共通するということができる。

よって、本願補正発明と引用発明とは、
「基板とこの基板の第1の面に搭載される集積回路ダイとの間の熱膨張差による応力の影響を低減する、基板と集積回路ダイとを備えたBGAパッケージであって、
前記基板の前記第1の面と反対の第2の面に形成された第1の接点アレイであって、前記第1の面に搭載される集積回路ダイの寸法プロファイルの外側にある第1の接点アレイと、
前記基板の前記第1の面と反対の第2の面に形成された第2の接点であって、前記第1の面に搭載される集積回路ダイの寸法プロファイルの内側にある第2の接点と、
前記第1の接点アレイと第2の接点の間であって、かつ前記集積回路ダイの寸法プロファイルの外縁に対応する部分を含む領域に、有効な接点のない領域と、
を含み、
該[有効な]接点のない領域は、前記基板と前記集積回路ダイとの間の熱膨張差が生じる領域であり、さらに、
前記第1の接点アレイの隣接する接点は第1の距離だけ隔てられており、前記[有効な]接点のない領域の幅は前記第1の距離より大きい、BGAパッケージ。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
集積回路ダイの寸法プロファイルの内側にある第2の接点について、本願補正発明では、「アレイ」をなし、「第2の接点アレイの隣接する接点は第2の距離だけ隔てられている」とともに、接点のない領域の幅はこの「第2の距離」より大きい(つまり、「第2の距離」は接点のない領域の幅より小さい)旨特定するのに対し、引用発明では、そのような「アレイ」をなすことの明確な特定を有していない点。

[相違点2]
[有効な]接点のない領域について、本願補正発明では、「残される」接点のない領域であるのに対し、引用発明では、ダミーバンプが形成されている点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
[相違点1]について
引用例の図1、図2では、チップの端面aに対応する矩形の輪郭線の内側にあるバンプは、1個だけ示されているにすぎないが、かかる図面は概略図にすぎず、実際には矩形の輪郭線の外側にあるバンプと同様、一定の間隔で多数個設ける、すなわちアレイをなすように設けられる〔特に、チップのサイズ(面積)が大きい場合には放熱作用の促進等の観点からも尚更である〕のが普通である。そして、その際、隣接するバンプ同士の「一定の間隔」については、矩形の輪郭線の外側にあるバンプにおける「一定の間隔」と等しくする〔この間隔は、(有効な)接点のない領域の幅より小さいものである〕のが自然である。
したがって、引用発明において、チップの端面に対応する矩形の輪郭線の内側にあるバンプを、「アレイ」をなし、その隣接するバンプの「一定の間隔」が接点のない領域の幅より小さいものとすることも、チップのサイズ(面積)等に応じて当業者が容易なし得ることである。

[相違点2]について
かかる相違点はつまり、有効な接点のない領域には、本願補正発明では接点そのものが設けられていないのに対し、引用発明ではダミーではあるものの、接点(バンプ)が設けられていることであるといえる。
しかしながら、引用発明におけるダミーダンプは、チップの発熱を放熱する作用を有する(上記「ウ.」の段落【0014】を参照)ものであるものの、電気的に接続されていないものであって、回路的に無意味なものであり、疲労破壊をしても差し支えないものである(上記「ウ.」の段落【0012】?【0013】を参照)から、ダミーダンプによる放熱作用を期待することなく、例えば放熱をチップの端面に対応する矩形の輪郭線の内側にあるバンプ等により行うようにし、ダミーダンプについてはこれを省略して接点(バンプ)そのものを設けないようにすることも当業者であれば容易に想到し得ることである。

そして、上記各相違点を総合的に判断しても本願補正発明が奏する効果は、引用発明から当業者が十分に予測できたものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。

(5)むすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成26年7月11日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項7係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年6月19日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項7に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項7】
基板とこの基板の第1の面に搭載される集積回路ダイとの間の熱膨張差による応力の影響を低減する、基板と集積回路ダイとを備えた装置であって、
前記基板の前記第1の面と反対の第2の面に形成された第1の接点アレイであって、前記第1の面に搭載される集積回路ダイの寸法プロファイルの外側にある第1の接点アレイと、
前記基板の前記第1の面と反対の第2の面に形成された第2の接点アレイであって、前記第1の面に搭載される集積回路ダイの寸法プロファイルの内側にある第2の接点アレイと、
前記第1と第2の接点アレイの間であって、かつ前記集積回路ダイの寸法プロファイルの外縁に対応する部分を含む領域に、残される接点のない領域と、
を含み、
該接点のない領域は、前記基板と前記集積回路ダイとの間の熱膨張差が生じる領域であり、さらに、
前記第1の接点アレイの隣接する接点は第1の距離だけ隔てられており、第2の接点アレイの隣接する接点は第2の距離だけ隔てられているとともに、前記接点のない領域の幅は前記第1、第2の各々の距離より大きい、装置。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明の発明特定事項である、基板と集積回路ダイとを備えた「装置」が「BGAパッケージ」であるとする限定を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、更に限定事項を付加したものに相当する本願補正発明が前記「2.(4)」に記載したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお付言しておくと、独立形式で記載された請求項1に係る発明についてみても、「装置」という物の発明に係る本願発明を、「方法」に係る発明にそのカテゴリーを変えて表現したものであって、実質的に本願発明のすべての発明特定事項を共通して有するものであるから、上記(2)と同じ理由により、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-11-17 
結審通知日 2014-11-18 
審決日 2014-12-01 
出願番号 特願2011-117737(P2011-117737)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 園子  
特許庁審判長 丹治 彰
特許庁審判官 酒井 朋広
井上 信一
発明の名称 基板とこの基板の第1の面に搭載される集積回路ダイとの間の熱膨張差による応力を低減する方法及び装置  
代理人 山川 茂樹  
代理人 山川 政樹  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ