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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G06F 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 G06F |
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管理番号 | 1299869 |
審判番号 | 不服2012-20049 |
総通号数 | 186 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-06-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-10-11 |
確定日 | 2015-04-08 |
事件の表示 | 特願2007-556166「分散計算環境におけるポータブルフォーマットのジョブの分散」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月24日国際公開、WO2006/088669、平成20年 8月 7日国内公表、特表2008-530707〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本件に係る出願(以下「本願」と記す。)は、 2005年2月17日(以下「優先日」と記す。)付けのアメリカ合衆国での出願を基礎とする、パリ条約に基づく優先権主張を伴う、 2006年2月6日を国際出願日とする出願であって、 平成19年8月16日付けで特許法第184条の5第1項の規定による書面が提出され、 平成19年10月11日付けで特許法第184条の4第1項の規定による国際出願日における明細書、請求の範囲、図面の翻訳文が提出されるとともに、 同日付けで手続補正書が提出され、 平成20年9月19日付けで審査請求がなされ、 平成23年3月17日付けで拒絶理由通知(平成23年4月12日発送)がなされ、 平成23年10月12日付けで意見書が提出されるとともに、 同日付けで手続補正書が提出され、 平成24年6月6日付けで拒絶査定(平成24年6月12日謄本発送、送達)がなされたものである。 本件審判請求は、 「原査定を取り消す、本願は特許をすべきものであるとの審決を求める。」との趣旨で 平成24年10月11日付けでなされたものであり、 同日付けで手続補正書が提出され、 平成25年2月18日付けで特許法第164条第3項に定める報告(前置報告)がなされ、 平成25年3月18日付けで当該報告に対する意見を求める旨の審尋(平成25年3月26日発送)がなされ、これに対して 平成25年9月6日付けで回答書が提出されたものである。 第2.平成24年10月11日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成24年10月11日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正の内容 平成24年10月11日付けの手続補正(以下「本件補正」と記す。)は、特許請求の範囲について、下記の本件補正前の特許請求の範囲から、下記の本件補正後の特許請求の範囲に補正しようとするものである。 <本件補正前の特許請求の範囲> 「 【請求項1】 ある方法を実行するために少なくとも1つのプロセッサにより実行可能な命令を記録するコンピュータ可読記録媒体であって、 異なるプラットフォーム構造を備えた複数の異なるスケジューラと複数のワーカーとを含む分散計算環境において、少なくとも1つのワーカーにより実行されるジョブを定義するジョブオブジェクトを作成するための1つ又は複数の命令と、 前記ジョブオブジェクトを前記複数の異なるスケジューラの異なるプラットフォーム構造から独立したポータブルフォーマットに符号化するための1つ又は複数の命令と、 前記ポータブルフォーマットで符号化された前記ジョブオブジェクトを前記分散計算環境のネットワークを介して転送するための1つ又は複数の命令と、 前記ジョブに関する情報を前記複数の異なるスケジューラの内1つのスケジューラに送るための1つ又は複数の命令であって、該情報によって、該スケジューラが前記ポータブルフォーマットの前記ジョブオブジェクトを前記少なくとも1つのワーカーに分散可能とする、1つ又は複数の命令とが記録された、コンピュータ可読記録媒体。 【請求項2】 前記ジョブオブジェクトが少なくとも1つのタスクを含む、請求項1に記載のコンピュータ可読記録媒体。 【請求項3】 前記ジョブオブジェクトがライセンス情報をさらに含む、請求項2に記載のコンピュータ可読記録媒体。 【請求項4】 前記ポータブルフォーマットがバイナリフォーマットを含む、請求項1に記載のコンピュータ可読記録媒体。 【請求項5】 前記情報が前記ジョブの1つ又は複数のプロパティを含む、請求項1に記載のコンピュータ可読記録媒体。 【請求項6】 前記ジョブを、それぞれが1つ又は複数のタスクを含む複数のポータブルフォーマット・ファイルに分解するための1つ又は複数の命令をさらに含み、 前記ポータブルフォーマットで符号化された前記ジョブオブジェクトを転送するための前記1つ又は複数の命令が、前記複数のポータブルフォーマット・ファイルを転送するための1つ又は複数の命令を含む、請求項1に記載のコンピュータ可読記録媒体。 【請求項7】 クライアントと、複数の異なるスケジューラと、複数のワーカーとを含む分散計算環境において、 クライアントにおいて、前記複数のワーカーの内1つ又は複数のワーカーにより実行されるジョブを作成する段階であって、該ジョブが複数のタスクを含む、作成する段階と、 前記クライアントにおいて、前記ジョブから複数のポータブルフォーマット・ファイルを作成する段階であって、前記複数のポータブルフォーマット・ファイルの各ポータブルフォーマット・ファイルが前記複数のタスク内の1つ又は複数タスクを含み、各ポータブルフォーマット・ファイルが前記複数の異なるスケジューラの任意スケジューラにより処理可能な、作成する段階と、 前記クライアントとのインターフェースにおいて、前記スケジューラのうち選択された1つと互換性があるアダプタを識別する段階であって、前記アダプタが前記選択されたスケジューラの1つまたは複数のプロパティまたは機能に関する情報を与える、識別する段階と、 前記クライアントが、前記複数のポータブルフォーマット・ファイルを前記アダプタからの前記情報を使って前記分散計算環境のネットワークを介して転送する段階と、 前記クライアントが、前記ジョブに関する情報を前記選択されたスケジューラに送る段階であって、該情報によって、該1つのスケジューラが前記複数のポータブルフォーマット・ファイルを前記1つ又は複数のワーカーに分散可能とする、送る段階とを含む、方法。 【請求項8】 前記複数の異なるスケジューラが異なるベンダーにより提供されるスケジューラを含む、請求項7に記載の方法。 【請求項9】 前記ポータブルフォーマット・ファイルがライセンス情報を含む、請求項7に記載の方法。 【請求項10】 各ポータブルフォーマット・ファイルがバイナリデータを含む、請求項7に記載の方法。 【請求項11】 前記ジョブに関する情報が前記ジョブの1つ又は複数のプロパティを含む、請求項7に記載の方法。 【請求項12】 前記1つ又は複数のワーカーの内1つのワーカーが、前記複数のポータブルフォーマット・ファイルの内1つのポータブルフォーマット・ファイルを受け取り、該ポータブルフォーマット・ファイルから前記1つ又は複数のタスクを復元し、該タスクを実行する段階をさらに含む、請求項7に記載の方法。 【請求項13】 分散計算システムであって、 1つ又は複数のワーカーにより実行されると共に複数のタスクを含むジョブを作成する装置を含み、 さらに、前記装置が、前記ジョブを複数のポータブルフォーマット・ファイルに符号化し、前記複数のポータブルフォーマット・ファイルの各ポータブルフォーマット・ファイルが前記複数のタスク内の1つ又は複数のタスクを含み、各ポータブルフォーマット・ファイルが、異なるプラットフォーム構造を備えた複数の異なるスケジューラのそれぞれにより処理可能であり、 前記装置が、前記複数のポータブルフォーマット・ファイルを前記分散計算システムのネットワークを介して転送し、 前記装置が、前記ジョブに関する情報を前記複数の異なるスケジューラの内1つのスケジューラに送り、該情報によって、該1つのスケジューラが、前記複数のポータブルフォーマット・ファイルを前記1つ又は複数のワーカーに分散可能とする、分散計算システム。 【請求項14】 前記複数の異なるスケジューラが異なるベンダーにより提供されるスケジューラを含む、請求項13に記載の分散計算システム。 【請求項15】 前記複数のポータブルフォーマット・ファイルの各ポータブルフォーマット・ファイルがライセンス情報を含む、請求項13に記載の分散計算システム。 【請求項16】 前記情報が前記ジョブの1つ又は複数のプロパティを含む、請求項13に記載の分散計算システム。 【請求項17】 前記1つ又は複数のワーカーの内1つのワーカーが、 ポータブルフォーマット・ファイルを受け取り、 前記ポータブルフォーマット・ファイルを復号して前記1つ又は複数のタスクを復元し、 前記1つ又は複数のタスクを実行するよう構成されている、請求項13に記載の分散計算システム。 【請求項18】 前記複数のポータブルフォーマット・ファイルがバイナリデータを含む、請求項13に記載の分散計算システム。 【請求項19】 少なくとも1つのタスクを含むジョブを作成する段階と、 前記ジョブを、複数のスケジューラの異なるプラットフォーム構造から独立したポータブルフォーマットに符号化する段階と、 前記ポータブルフォーマットの前記符号化されたジョブをネットワークを介して転送する段階と、 前記ジョブに関する情報を前記スケジューラに送る段階であって、該情報によって、前記スケジューラが前記ポータブルフォーマットの前記符号化されたジョブをワーカーに分散可能とする、送る段階と、 前記ポータブルフォーマットの前記符号化されたジョブを前記ワーカーで受け取る段階と、 前記ポータブルフォーマットから前記ジョブを復号して前記ジョブを復元する段階と、 前記ジョブを前記ワーカーで実行する段階とを含む、方法。 【請求項20】 前記ポータブルフォーマットがバイナリフォーマットを含む、請求項19に記載の方法。 【請求項21】 前記ポータブルフォーマットがシリアルフォーマットを含む、請求項19に記載の方法。 【請求項22】 クライアントと、異なるプラットフォーム構造を備えた複数の異なるスケジューラと、複数のワーカーとを含む分散計算環境において、 前記複数のワーカーの内1つのワーカーにより実行されるタスクを作成する手段と、 前記タスクからポータブルフォーマット・ファイルを作成する手段であって、該ポータブルフォーマット・ファイルが、前記タスクを含むと共に前記複数の異なるスケジューラの前記プラットフォーム構造から独立している、作成する手段と、 前記ポータブルフォーマット・ファイルを前記分散計算環境のネットワークを介して転送する手段と、 前記ジョブに関する情報を前記複数の異なるスケジューラの内1つのスケジューラに送る手段であって、該情報によって、該1つのスケジューラが、前記ポータブルフォーマット・ファイルを前記1つ又は複数のワーカーに分散可能とする、送る手段とを含む、クライアント。」 <本件補正後の特許請求の範囲> 「 【請求項1】 ある方法を実行するために少なくとも1つのプロセッサにより実行可能な命令を記録するコンピュータ可読記録媒体であって、 複数の異なるスケジューラと複数のワーカーとを含む分散計算環境において、少なくとも1つのワーカーにより実行されるジョブを定義するジョブオブジェクトを作成するための1つ又は複数の命令と、 前記ジョブオブジェクトを前記複数の異なるスケジューラのプラットフォーム構造から独立しかつ前記分散計算環境内で移動可能なファイル形式のポータブルフォーマットに符号化するための1つ又は複数の命令と、 前記ポータブルフォーマットで符号化された前記ジョブオブジェクトを前記分散計算環境のネットワークを介して転送するための1つ又は複数の命令と、 前記ジョブに関する情報を前記複数の異なるスケジューラの内1つのスケジューラに送るための1つ又は複数の命令であって、該情報によって、該スケジューラが前記ポータブルフォーマットで符号化された前記ジョブオブジェクトを前記少なくとも1つのワーカーに分散可能となる命令とが記録された、コンピュータ可読記録媒体。 【請求項2】 前記ジョブオブジェクトが少なくとも1つのタスクを含む、請求項1に記載のコンピュータ可読記録媒体。 【請求項3】 前記ジョブオブジェクトがライセンス情報をさらに含む、請求項2に記載のコンピュータ可読記録媒体。 【請求項4】 前記ポータブルフォーマットがバイナリフォーマットを含む、請求項1に記載のコンピュータ可読記録媒体。 【請求項5】 前記ジョブに関する情報が前記ジョブの1つ又は複数のプロパティを含む、請求項1に記載のコンピュータ可読記録媒体。 【請求項6】 前記ジョブを、それぞれが1つ又は複数のタスクを含む複数のポータブルフォーマット・ファイルに分解するための1つ又は複数の命令をさらに含み、 前記ポータブルフォーマットで符号化された前記ジョブオブジェクトを転送するための前記1つ又は複数の命令が、前記複数のポータブルフォーマット・ファイルを転送するための1つ又は複数の命令を含む、請求項1に記載のコンピュータ可読記録媒体。 【請求項7】 クライアントと、複数の異なるスケジューラと、複数のワーカーとを含む分散計算環境において、 クライアントにおいて、前記複数のワーカーの内1つ又は複数のワーカーにより実行される複数のタスクを含むジョブを作成する段階と、 前記クライアントにおいて、前記ジョブを前記スケジューラのプラットフォーム構造から独立しかつ前記分散計算環境内で移動可能なファイル形式のポータブルフォーマットに符号化し、複数のポータブルフォーマット・ファイルを作成する段階であって、前記複数のポータブルフォーマット・ファイルのそれぞれが前記複数のタスク内の1つ又は複数のタスクを含み、各ポータブルフォーマット・ファイルが前記複数の異なるスケジューラの内の任意スケジューラにより処理可能である段階と、 前記クライアントのインターフェースにおいて、前記スケジューラのうち選択された1つと互換性があるアダプタを識別する段階であって、前記アダプタが前記選択されたスケジューラの1つまたは複数のプロパティまたは機能に関する情報を前記クライアントに与える段階と、 前記クライアントが、前記複数のポータブルフォーマット・ファイルを前記アダプタからの前記情報を使って前記分散計算環境のネットワークを介して転送する段階と、 前記クライアントが、前記ジョブに関する情報を前記選択されたスケジューラに送る段階であって、該情報によって、該スケジューラが前記複数のポータブルフォーマット・ファイルを前記1つまたは複数のワーカーに分散可能となる段階とを含む、方法。 【請求項8】 前記複数の異なるスケジューラが異なるベンダーにより提供されるスケジューラを含む、請求項7に記載の方法。 【請求項9】 前記ポータブルフォーマット・ファイルがライセンス情報を含む、請求項7に記載の方法。 【請求項10】 各ポータブルフォーマット・ファイルがバイナリデータを含む、請求項7に記載の方法。 【請求項11】 前記ジョブに関する情報が前記ジョブの1つ又は複数のプロパティを含む、請求項7に記載の方法。 【請求項12】 前記1つ又は複数のワーカーの内1つのワーカーが、前記複数のポータブルフォーマット・ファイルの内1つのポータブルフォーマット・ファイルを受け取り、該ポータブルフォーマット・ファイルから前記1つ又は複数のタスクを復元し、該タスクを実行する段階をさらに含む、請求項7に記載の方法。 【請求項13】 クライアントと、複数の異なるスケジューラと、1つ又は複数のワーカーとを含む分散計算システムであって、 前記ワーカーにより実行されると共に複数のタスクを含むジョブを作成する装置を含み、 さらに、前記装置が、前記ジョブを前記スケジューラのプラットフォーム構造から独立しかつ前記分散計算システム内で移動可能なフィル形式の複数のポータブルフォーマット・ファイルに符号化し、前記複数のポータブルフォーマット・ファイルのそれぞれが前記複数のタスクの内の1つ又は複数のタスクを含み、各ポータブルフォーマット・ファイルが前記複数の異なるスケジューラのそれぞれにより処理可能であり、 前記装置が、前記複数のポータブルフォーマット・ファイルを前記分散計算システムのネットワークを介して転送し、 前記装置が、前記ジョブに関する情報を前記複数の異なるスケジューラの内1つのスケジューラに送り、該情報によって、該1つのスケジューラが前記複数のポータブルフォーマット・ファイルを前記1つ又は複数のワーカーに分散可能となる、分散計算システム。 【請求項14】 前記複数の異なるスケジューラが異なるベンダーにより提供されるスケジューラを含む、請求項13に記載の分散計算システム。 【請求項15】 前記複数のポータブルフォーマット・ファイルのそれぞれがライセンス情報を含む、請求項13に記載の分散計算システム。 【請求項16】 前記ジョブに関する情報が前記ジョブの1つ又は複数のプロパティを含む、請求項13に記載の分散計算システム。 【請求項17】 前記1つ又は複数のワーカーの内1つのワーカーが、 ポータブルフォーマット・ファイルを受け取り、 前記ポータブルフォーマット・ファイルを復号して前記1つ又は複数のタスクを復元し、 前記1つ又は複数のタスクを実行するよう構成されている、請求項13に記載の分散計算システム。 【請求項18】 前記複数のポータブルフォーマット・ファイルがバイナリデータを含む、請求項13に記載の分散計算システム。 【請求項19】 クライアントと、複数の異なるスケジューラと、複数のワーカーとを含む分散計算環境において、 前記クライアントが少なくとも1つのタスクを含むジョブを作成する段階と、 前記クライアントが前記ジョブを前記スケジューラのプラットフォーム構造から独立しかつ前記分散計算環境内で移動可能なフィル形式のポータブルフォーマットに符号化する段階と、 前記クライアントが前記符号化されたジョブをネットワークを介して転送する段階と、 前記クライアントが前記ジョブに関する情報を前記スケジューラに送る段階であって、 該情報によって、前記スケジューラが前記符号化されたジョブを少なくとも1つの前記ワーカーに分散可能となる段階と、 前記ワーカーが前記符号化されたジョブを前記スケジューラから受け取る段階と、 前記ワーカーが前記符号化されたジョブを復号し、ポータブルフォーマットからジョブを復元する段階と、 前記ワーカーが前記復元したジョブを実行する段階とを含む、方法。 【請求項20】 前記ポータブルフォーマットがバイナリフォーマットを含む、請求項19に記載の方法。 【請求項21】 前記ポータブルフォーマットがシリアルフォーマットを含む、請求項19に記載の方法。 【請求項22】 複数の異なるスケジューラと複数のワーカーと共に分散計算環境を構成するクライアントであって、 前記複数のワーカーの内1つのワーカーにより実行されるタスクを作成する手段と、 前記タスクからポータブルフォーマット・ファイルを作成する手段であって、該ポータブルフォーマット・ファイルが、前記タスクを含むと共に前記複数の異なるスケジューラのプラットフォーム構造から独立しかつ前記分散計算環境内で移動可能なフィル形式に符号化されている手段と、 前記ポータブルフォーマット・ファイルを前記分散計算環境のネットワークを介して転送する手段と、 前記タスクに関する情報を前記複数の異なるスケジューラの内1つのスケジューラに送る手段であって、該情報によって、該1つのスケジューラが前記ポータブルフォーマット・ファイルを1つ又は複数の前記ワーカーに分散可能となる手段とを含む、クライアント。」 2.目的要件について (1)本件補正のうち本件補正後の請求項1についてする補正は、次の補正事項よりなるものである <補正事項1> 本件補正前の請求項1の第2段落の「異なるプラットフォーム構造を備えた複数の異なるスケジューラ」を「複数の異なるスケジューラ」とし、同請求項1の第3段落の「異なるスケジューラの異なるプラットフォーム構造」を「異なるスケジューラのプラットフォーム構造」とする補正。 <補正事項2> 本件補正前の請求項1の第3段落の「異なるプラットフォーム構造から独立したポータブルフォーマット」を「プラットフォーム構造から独立しかつ前記分散計算環境内で移動可能なファイル形式のポータブルフォーマット」とする補正。 <補正事項3> 本件補正前の請求項1の第5段落の「該情報によって、該スケジューラが前記ポータブルフォーマットの前記ジョブオブジェクトを前記少なくとも1つのワーカーに分散可能とする、1つ又は複数の命令」を、「該情報によって、該スケジューラが前記ポータブルフォーマットで符号化された前記ジョブオブジェクトを前記少なくとも1つのワーカーに分散可能となる命令」とする補正。 (2)補正事項1について 上記補正事項1は、原審の拒絶査定において『ここで、本願の補正後の請求項1に記載の「異なるプラットフォーム構造」が、プラットフォーム構造自体が異なっているのか、それともプラットフォーム構造を備えているスケジューラ自体が異なっているのか(プラットフォーム構造自体は単に複数あるというだけ)、記載上判然としないが、・・・』と指摘された明瞭でない記載を釈明するためのものであるから、特許法第17条の2第4項第4号の「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とするものであると言える。 (3)補正事項2について 上記補正事項2は、補正前の請求項1における発明を特定するための事項である「ポータブルフォーマット」をより下位概念化する補正であり、これによって当該発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が格別変更されるものではない。 したがって、上記補正事項2の目的は、特許法第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」(以下「限定的減縮」と記す。)に相当する。 (4)補正事項3について 上記補正事項3は、審判請求書において「(ホ)上記以外に下線で示された補正事項は、日本語として不明確な記載を明確に表現しなおしたものである。」と説明されているとおり、明りょうでない記載の釈明とも解し得るものであるものの、この記載については拒絶理由が通知されてはいない。 したがって、上記補正事項3は 特許法第17条の2第4項第4号の「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とするものとはいえない。 また、上記補正事項3の目的が、請求項の削除、限定的減縮、誤記の訂正のいずれでもないことは明らかである。 したがって、上記補正事項3の目的は特許法第17条の2第4項各号のいずれでもない。 (5)小結 本件補正後の請求項1についてする補正の目的は上記(2)?(4)のとおりのものであるところ、特許法第17条の2第4項各号のいずれでもない事項を目的とする上記補正事項3を含むものであるから、他の請求項に係る補正について検討するまでもなく、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものである。 3.独立特許要件について 本件補正後の請求項1についてする補正は、限定的減縮を目的とする上記補正事項2を含むものであるから、該請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。 3-1.本件補正発明 本件補正発明は、上記1.の本件補正後の特許請求の範囲において【請求項1】として記載した次のとおりのものである。 <本件補正発明> 「ある方法を実行するために少なくとも1つのプロセッサにより実行可能な命令を記録するコンピュータ可読記録媒体であって、 複数の異なるスケジューラと複数のワーカーとを含む分散計算環境において、少なくとも1つのワーカーにより実行されるジョブを定義するジョブオブジェクトを作成するための1つ又は複数の命令と、 前記ジョブオブジェクトを前記複数の異なるスケジューラのプラットフォーム構造から独立しかつ前記分散計算環境内で移動可能なファイル形式のポータブルフォーマットに符号化するための1つ又は複数の命令と、 前記ポータブルフォーマットで符号化された前記ジョブオブジェクトを前記分散計算環境のネットワークを介して転送するための1つ又は複数の命令と、 前記ジョブに関する情報を前記複数の異なるスケジューラの内1つのスケジューラに送るための1つ又は複数の命令であって、該情報によって、該スケジューラが前記ポータブルフォーマットで符号化された前記ジョブオブジェクトを前記少なくとも1つのワーカーに分散可能となる命令とが記録された、コンピュータ可読記録媒体。」 3-2.先行技術 (1)引用文献 本願の出願前である上記優先日よりも前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり、原審の拒絶の査定の理由である上記平成23年3月17日付けの拒絶理由通知において引用された、下記引用文献には、それぞれ、下記引用文献記載事項が記載されている。(下線は当審付与。) <引用文献>米国特許出願公開第2005/0021594号明細書(2005年1月27日公開) <引用文献記載事項1> 「 ABSTRACT A service-oriented framework allows client applications to access computational services hosted on a distributed computing grid. Services facilitate remote, parallel execution of code in a way that is scalable, fault-tolerant, dynamic and language-independent. Services can be written in a variety of languages, and do not need to be compiled or linked with vendor-supplied code. A client written in one language can invoke a Service written in another. A benefit of the invention over traditional approaches is that it virtualizes the Service. Rather than send a request directly to the remote machine hosting the Service, a client request is sent to a manager, which enqueues it until an Engine is available. The first Engine to dequeue the request hosts the Service. This mechanism, in which a single virtual Service instance (the client-side object) is implemented by one or more physical instances (Engine processes), provides for fault tolerance and essentially unlimited scalability. 」 (当審訳: 要約 サービス指向のフレームワークが分散コンピューティンググリッドの上にホストされたコンピュータサービスにアクセスするクライアントアプリケーションを可能にする。サービスが、スケーラブルで、フォールトトレラントで、ダイナミックで、そして言語に依存しないような方法で、リモートでパラレルなコードの実行を容易にする。サービスはいろいろな言語で書かれることができて、そしてコンパイルされたり、ベンダーによって供給されたコードとリンクされる必要がない。1つの言語で書かれたあるクライアントが、他の言語で書かれたサービスをインボークすることができる。従来のアプローチを越えるこの発明の利益は、それがサービスを仮想化するということである。サービスを引き受けるリモートマシンに直接にリクエストを送るのではなく、クライアントのリクエストは、エンジンが利用可能になるまでそれをキューするマネージャーに送られる。リクエストをデキューする最初のエンジンはサービスのホストとして機能する。一つの仮想サービスのインスタンス(クライアントサイドオブジェクト)が1以上の物理的なインスタンス(エンジンプロセス)によって実行されるこのメカニズムはフォールトトレランスと本質的に無制限のスケーラビリティを提供する。) <引用文献記載事項2> 「[0028] Referring now to FIG. 1 , GridServer incorporates three main grid components, Drivers, Engines and Managers. Drivers serve client applications and act as agents for the client application to the GridServer Managers. Engines are the compute resources that the Manager uses to accomplish work requested from the grid by client applications. Managers are the controlling mechanism for the grid, scheduling work, managing state, and monitoring grid components.」 (当審訳:【0028】ここで図1を参照すると、グリッドサーバーは3つのメイングリッドコンポーネント、ドライバ、エンジンとマネージャ(複数)を含む。ドライバはクライアントアプリケーション)をサポートして、そして グリッドサーバーマネージャー(複数)へのクライアントアプリケーションのエージェントの役割を果たす。 エンジンは、マネージャーがクライアントアプリケーションによってグリッドから求められた仕事を果たすために使う計算リソースである。 マネージャー(複数)は、ワークをスケジューリングし、状態を管理し、そしてグリッドコンポーネントを監視する、グリッドのための制御メカニズムである。) <引用文献記載事項3> 「What we claim is: 1 . A method for providing computational services to a client using a grid-based distributed computing system, the system including a plurality of engines and at least one grid manager, the method comprising: deploying executable code corresponding one or more service(s) such that the engines can access the executable code; registering the service(s) with the manager; creating instance(s) of the service(s) that may be invoked by the client; and, using one or more of the instance(s) to invoke one or more of the registered service(s), wherein invoking a service comprises: communicating a service request to the manager; using the manager to assign the service request to an available engine; and, executing code corresponding to the requested service on the assigned engine. 2 . A method, as defined in claim 1 , wherein deploying executable code comprises storing the executable code on a shared file system accessible to the engines. 3 . A method, as defined in claim 1 , wherein deploying executable code comprises using a file update mechanism provided by the manager to distribute the executable code to the engines. 4 . A method, as defined in claim 3 , wherein using a file update mechanism to distribute the executable code to the engines comprises distributing the executable code to the engines when the manager is idle.」 (当審訳:特許請求の範囲 1. グリッドベースの分散コンピューティングシステムを用いて、クライアントにコンピュータサービスを提供するための方法であって、 該システムは複数のエンジンと少なくとも1つのグリッドマネージャーを含み、 該方法は、 該エンジンが該実行可能なコードにアクセスすることができるように、1つ以上のサービスに対応する実行可能なコードを配置することと、 サービスを該マネージャーに登録することと、 該クライアントによってインボークされるであろうサービスのインスタンスを生成すること、そして、 1つ以上の該登録されたサービスをインボークするための、1つ以上の該インスタンスを使うことからなり、 ここに、該サービスをインボークすることは、 マネージャーにサービスのリクエストを伝えることと、 利用可能なエンジンにサービスのリクエストを割り当てるためにマネージャーを使うこと、そして、 リクエストされたサービスに対応しているコードを割り当てられたエンジン上で実行することからなるものである 方法。 2.特許請求の範囲第1項記載の方法において、前記実行可能なコードを配置することは、前記実行可能なコードを前記エンジンがアクセスできる共有されたファイルシステムにストアすることを構成されるものである方法。 3.特許請求の範囲第1項記載の方法において、前記実行可能なコードを配置することは、前記マネージャーによって提供されたファイル更新メカニズムを使って前記エンジンへの実行可能なコードを配布するように構成されるものである方法。 4.特許請求の範囲第3項記載の方法において、ファイル更新メカニズムを前記エンジンへの前記実行可能なコードを配布するために使うことは、マネージャーがアイドル状態であるときに、前記エンジンへの前記実行可能なコードを配布するように構成されるものである方法。) (2)参考文献 本願の出願前である上記優先日よりも前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記参考文献には、それぞれ、下記参考文献記載事項が記載されている。(下線は当審付与。) <参考文献1> 米国特許公開2005/0027785号明細書(2005年2月3日公開)(特表2007-500382号公報に対応。) <参考文献記載事項1-1> 「[0038] In many examples, control of application processes on resources in a computer device is specific to the operating system (OS). The grid computing environment 100 is configured to handle different operating systems on computer devices. Furthermore, grid computing environment 100 is designed to handle different applications (e.g., internet pricing configurator) that do not have to be redesigned to execute on the grid computing environment 100 . A grid manager controls an application process in a general manner that decreases interdependence between development of grid manager code and application code. An interface is provided to application code to enable grid managers to discover, control (e.g., start, stop, halt, resume) and inspect or monitor a state of application processes. The interface is provided for operating system processes that are exposed by the operating system or hosting environment and includes three aspects. One aspect of the interface is process data, such as process identification, states, degree of resource consumption (such as Central Processing Unit (CPU), memory, socket bindings, or other resources that an application can use), and application specific data defined by a process data scheme. 」 (対応する公表公報の記載:「【0029】 多くの例において、コンピュータデバイス内のリソース上でのアプリケーションプロセスの制御は、オペレーティングシステム(OS)に固有である。グリッドコンピューティング環境100は、コンピュータデバイス上の様々なオペレーティングシステムを扱うように構成される。さらに、グリッドコンピューティング環境100は、グリッドコンピューティング環境100上で実行されるために設計し直される必要がない様々なアプリケーション(たとえば、インターネット価格設定コンフィギュレータ)を扱うように設計される。グリッドマネージャは、グリッドマネージャコードとアプリケーションコードの開発の間の相互依存性を低下させる一般的なやり方でアプリケーションプロセスを制御する。グリッドマネージャがアプリケーションプロセスの状態を発見し、制御し(たとえば、スタートし、ストップし、停止し、再開し)、検査し、または監視することを可能にするためのインターフェイスがアプリケーションコードに提供される。このインターフェイスは、オペレーティングシステムまたはホスティング環境によって公開されるオペレーティングシステムプロセス用に提供され、3つの側面を含む。インターフェイスの1つの側面は、プロセス識別、状態、リソース消費(アプリケーションが使用し得る中央演算処理装置(CPU)、メモリ、ソケットバインディング、または他のリソースなど)の程度などのプロセスデータ、およびプロセスデータ方式によって定義されるアプリケーション固有データである。」) <参考文献2> 特開2004-295887号公報(平成16年10月21日出願公開) <参考文献記載事項2-1> 「【0004】 ユーザは、グリッド内の他のノード上でリモートで実行すべきジョブをサブミットすることができる。このようなジョブは通常、グリッド・リソース・アプリケーション管理(GRAM)サービスなどのサーバ・プロセスにサブミットされる。グリッド・リソース・アプリケーション・マネージャは、リモート・リソースが種々のプラットフォーム上で実行される場合でも、このようなリソース上でプログラムを始動できるようにするものである。」 3-3.引用発明の認定 (1)上記引用文献記載事項3の記載から、引用文献には 「グリッドベースの分散コンピューティングシステムを用いて、クライアントにコンピュータサービスを提供するための方法であって、 該システムは複数のエンジンと少なくとも1つのグリッドマネージャーを含み、 該方法は、 該エンジンが該実行可能なコードにアクセスすることができるように、1つ以上のサービスに対応する実行可能なコードを配置することと、 サービスを該マネージャーに登録することと、 該クライアントによってインボークされるであろうサービスのインスタンスを生成すること、そして、 1つ以上の該登録されたサービスをインボークするための、1つ以上の該インスタンスを使うことからなり、 ここに、該サービスをインボークすることは、 マネージャーにサービスのリクエストを伝えることと、 利用可能なエンジンにサービスのリクエストを割り当てるためにマネージャーを使うこと、そして、 リクエストされたサービスに対応しているコードを割り当てられたエンジン上で実行することからなるもの」である「方法」 が記載されていると言える。 (2)さらに、当該引用文献記載事項3における「少なくとも1つのグリッドマネージャーを含み」との記載や、上記引用文献記載事項2においては「Managers」と複数形で表現されていることなどから見て、該方法における「システム」が含む「少なくとも1つのグリッドマネージャー」として「複数のグリッドマネージャー」を採用したものを読み取ることができる。 (3)上記引用文献記載事項2における「マネージャーは、ワークをスケジューリング」する「グリッドのための制御メカニズムである」旨の記載等から 「前記マネージャーは、ワークをスケジューリングする、前記グリッドのための制御メカニズムである」 ことが読み取れる。 (4)よって、引用文献には、下記引用発明が記載されていると認められる。 <引用発明> 「グリッドベースの分散コンピューティングシステムを用いて、クライアントにコンピュータサービスを提供するための方法であって、 該システムは複数のエンジンと複数のグリッドマネージャーを含み、 該方法は、 該エンジンが該実行可能なコードにアクセスすることができるように、1つ以上のサービスに対応する実行可能なコードを配置することと、 サービスを該マネージャーに登録することと、 該クライアントによってインボークされるであろうサービスのインスタンスを生成すること、そして、 1つ以上の該登録されたサービスをインボークするための、1つ以上の該インスタンスを使うことからなり、 ここに、該サービスをインボークすることは、 マネージャーにサービスのリクエストを伝えることと、 利用可能なエンジンにサービスのリクエストを割り当てるためにマネージャーを使うこと、そして、 リクエストされたサービスに対応しているコードを割り当てられたエンジン上で実行することからなるものであり、 前記マネージャーは、ワークをスケジューリングする、前記グリッドのための制御メカニズムである 方法」 3-4.対比 (1)本件補正発明は「ある方法を実行するために少なくとも1つのプロセッサにより実行可能な命令を記録するコンピュータ可読記録媒体」であることろ、以下に、当該記録媒体に記録される命令によって実行される方法(以下「本件方法」と記す。)と引用発明とを比較する。 (2) ア.引用発明は「グリッドベースの分散コンピューティングシステムを用いて、クライアントにコンピュータサービスを提供するための方法」であるから、「分散計算環境において」なされるものであると言える。 イ.引用発明における該「システム」は「複数のエンジンと複数のグリッドマネージャーを含」むものであるところ、当該「エンジン」は「リクエストされたサービスに対応しているコードを」「実行する」のであるから「ワーカー」とも言えるものである。 ウ.また、当該「グリッドマネージャー」は「ワークをスケジューリングする」ものであるから「スケジューラ」とも言えるものである。 エ.引用発明における「サービス」は、本件方法における「ジョブ」に対応付けられるものであり、前者は「クライアントによってインボーク」され、これ「に対応しているコード」が「エンジン上で実行」されるのであるから、引用発明においても「少なくとも1つのワーカーにより実行されるジョブを定義するジョブオブジェクトを作成する」ことがなされることは明らかである。 オ.したがって、引用発明も本件方法もともに 「複数の異なるスケジューラと複数のワーカーとを含む分散計算環境において、少なくとも1つのワーカーにより実行されるジョブを定義するジョブオブジェクトを作成すること」を実行するものであると言える。 (3)引用発明における「配置する」ことは、本件方法における「転送する」ことに対応付けられるものであるところ、引用発明は「グリッドベースの分散コンピューティングシステムを用いて、クライアントにコンピュータサービスを提供するための方法」なのであるから、当該「配置する」ことが「転送」を伴うものであることは明らかである。 してみると、引用発明と本件方法とは 「前記ジョブオブジェクトを前記分散計算環境のネットワークを介して転送すること」を実行するものである点で共通する。 (4)また、引用発明における「サービスのリクエスト」は「ジョブに関する情報」とも言えるものであり、引用発明における「サービス」は「クライアントによってインボークされる」ものであるから、「クライアント」から「マネージャー」に「伝え」られるものであることは明らかであり、引用発明においても「前記ジョブに関する情報を前記複数の異なるスケジューラの内1つのスケジューラに送る」ことが実行されていると言える。 そして、引用発明における「マネージャー」は「サービスのリクエスト」が「伝え」られ、「利用可能なエンジンにサービスのリクエストを割り当てるために」「使」われ、「ワークをスケジューリング」し、引用発明における「エンジン上」では「リクエストされたサービスに対応しているコード」が「実行」されるのであるから、引用発明においても「サービスのリクエスト」によって「該スケジューラが」「前記ジョブオブジェクトを前記少なくとも1つのワーカーに分散可能となる」ことが実行されると言える。 したがって、引用発明と本件方法とは、「前記ジョブに関する情報を前記複数の異なるスケジューラの内1つのスケジューラに送ることであって、該情報によって、該スケジューラが前記ジョブオブジェクトを前記少なくとも1つのワーカーに分散可能となることを実行する」ものである点で共通するといえる。 (5)よって、本件方法は、下記の一致点で引用発明と一致し、本件補正発明は下記の相違点で引用発明と相違する。 <一致点> 「 複数の異なるスケジューラと複数のワーカーとを含む分散計算環境において、少なくとも1つのワーカーにより実行されるジョブを定義するジョブオブジェクトを作成することと、 前記ジョブオブジェクトを前記分散計算環境のネットワークを介して転送することと、 前記ジョブに関する情報を前記複数の異なるスケジューラの内1つのスケジューラに送ることであって、該情報によって、該スケジューラが前記ジョブオブジェクトを前記少なくとも1つのワーカーに分散可能となることを実行する、方法。」 <相違点1> 本件補正発明は「ある方法を実行するために少なくとも1つのプロセッサにより実行可能な命令を記録するコンピュータ可読記録媒体」であり、上記ジョブオブジェクトを作成する「ための1つ又は複数の命令」と、前記ジョブオブジェクトを転送する「ための1つ又は複数の命令」と、ジョブに関する情報を送る「ための1つ又は複数の命令」「とが記録された」「コンピュータ可読記録媒体」である点。 (これに対し、引用文献には引用発明(方法の発明)を実行するための1つ又は複数の命令が記録されたコンピュータ可読記録媒体を直接的に明示する記載はない。このため、引用発明における「配置」「登録」「生成」「インボーク」「割り当て」などを実行する「1つ又は複数の命令」を「コンピュータ可読記録媒体」に「記録」することも、引用文献から直接的に読み取ることはできない。) <相違点2> 本件補正発明は「前記ジョブオブジェクトを前記複数の異なるスケジューラのプラットフォーム構造から独立しかつ前記分散計算環境内で移動可能なファイル形式のポータブルフォーマットに符号化するための1つ又は複数の命令」も記録されるものであり、ジョブオブジェクトは「前記ポータブルフォーマットで符号化された」ものである。 (これに対して、引用文献には、「配置」の際の符号化に関する言及は無く、また、サービスがサーバーの言語に依存しない旨の記載(引用文献記載事項1参照)はあるものの、これと「配置」の際の符号化との関連も明示されていない。) 3-5.判断 以下、上記相違点について検討する。 (1)相違点1について 引用発明がコンピュータによって実行される方法であることは明らかであるところ、このような方法を実行するためのプログラムを、コンピュータ可読記録媒体に記録して提供することは、当業者の常套手段にすぎないものであるから、引用発明における「配置」「登録」「生成」「インボーク」「割り当て」などを実行する「1つ又は複数の命令」を「コンピュータ可読記録媒体」に「記録」し、引用発明「を実行するために少なくとも1つのプロセッサにより実行可能な命令を記録するコンピュータ可読記録媒体」とすること、すなわち、上記相違点1に係る事項を採用することは、当業者が当然に想到する事項にすぎない。 (2)相違点2について 所謂グリッドは個々のコンピュータのプラットフォームに依存しないように構成するのが普通である(必要があれば参考文献記載事項1-1、2-1等参照)から、引用発明におけるコードの配置を行う際に、これをプラットフォームに依存しない形に符号化してグリッド内を移動可能とすることも、当業者であれば当然に採用する事項にすぎない。 したがって、引用発明において「前記ジョブオブジェクトを前記複数の異なるスケジューラのプラットフォーム構造から独立しかつ前記分散計算環境内で移動可能なファイル形式のポータブルフォーマットに符号化する」ことを採用し、引用発明を実行するための「コンピュータ可読記録媒体」を、該符号化をするための「1つ又は複数の命令」も記録されるものとし、ジョブオブジェクトを「前記ポータブルフォーマットで符号化された」ものとすること、すなわち上記相違点2に係る事項を採用することも、当業者であれば当然に採用する事項にすぎない。 (3)してみると、本件補正発明の構成は引用発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。 そして、当該構成の採用によって奏される作用効果も、当業者であれば容易に予測し得る程度のものであって、格別顕著なものではない。 よって、本件補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 3-6.小結 以上のとおり、本件補正後の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、他の請求項についての検討をするまでもなく、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。 4.むすび 上記2.のとおり、本件補正は平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものである。 また、上記3.のとおり、本件補正は平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。 したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下しなければならないものである。 よって、上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。 第3.原審査定について 1.手続の経緯、本願発明の認定 本願の手続の経緯は上記第1.記載のとおりのものであり、さらに、平成24年10月11日付けの手続補正は上記第2.のとおり却下された。 したがって、本願の特許請求の範囲は、上記第2.1.の本件補正前の特許請求の範囲に記載のとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」と記す。)はそこに【請求項1】として記載したとおりのものである。 2.先行技術・引用発明の認定 上記第2.3-2.で示したとおり、本願の出願前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり、原審の拒絶の査定の理由である上記平成23年3月17日付けの拒絶理由通知において引用された上記引用文献には上記引用文献記載事項が記載されており、本願の出願前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となされた上記参考文献にはそれぞれ上記参考文献記載事項が記載されている。 そして、上記引用文献には上記第2.3-3.で認定したとおりの引用発明が記載されていると認められる。 3.対比・判断 上記第2.3.で検討した本件補正発明は、実質的には本願発明に対し上記第2.2.(3)で述べた限定的減縮をしたものと認められるから、本願発明は、上記本件補正発明から当該限定的減縮により限定される要件を無くしたものに相当すると認められる。 そして、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の要件を付加したものに相当する上記本件補正発明は、上記第2.3.に記載したとおり、上記引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本願発明も同様の理由により、上記引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項についての検討をするまでもなく、本願を拒絶すべきものとした原審の拒絶査定は妥当なものである。 よって、上記結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-11-05 |
結審通知日 | 2014-11-11 |
審決日 | 2014-11-25 |
出願番号 | 特願2007-556166(P2007-556166) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G06F)
P 1 8・ 574- Z (G06F) P 1 8・ 572- Z (G06F) P 1 8・ 121- Z (G06F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 仲間 晃、小田 浩 |
特許庁審判長 |
辻本 泰隆 |
特許庁審判官 |
小林 大介 山崎 達也 |
発明の名称 | 分散計算環境におけるポータブルフォーマットのジョブの分散 |
代理人 | 水野 祐啓 |