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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02B |
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管理番号 | 1299988 |
審判番号 | 不服2014-1807 |
総通号数 | 186 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-06-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-01-31 |
確定日 | 2015-04-23 |
事件の表示 | 特願2012-515235「高い残りの膨張比を備える分割サイクルエンジン」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月22日国際公開、WO2011/115866、平成24年11月29日国内公表、特表2012-530203〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2011年3月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年3月15日 米国、2010年7月13日 米国、2010年7月18日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成23年12月13日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面とともに明細書、請求の範囲、図面及び要約書の翻訳文が提出され、平成24年12月7日付けで拒絶理由通知がされ、平成25年4月10日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年9月24日付けで拒絶査定がされ、平成26年1月31日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。 第2 本件補正について (1)平成26年1月31日付けの手続補正書による補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成25年4月10日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の以下のアに示す請求項1ないし8を、イに示す請求項1ないし6に補正するものである。 ア 本件補正前の請求項1ないし8 「【請求項1】 クランクシャフト軸回りに回転可能なクランクシャフト、 当該クランクシャフトの単一の回転中の吸入ストローク及び圧縮ストロークを通して往復するように圧縮シリンダー内に摺動可能に収容されると共に、当該クランクシャフトに作用可能に連結された圧縮ピストン、 当該クランクシャフトの単一の回転中の膨張ストローク及び排気ストロークを通して往復するように膨張シリンダーに摺動可能に収容されると共に、当該クランクシャフトに作用可能に連結された膨張ピストン、及び 圧縮シリンダー及び膨張シリンダーを相互に連結するクロスオーバー通路であって、内部に配置されたクロスオーバー膨張バルブ(XovrE)を含むクロスオーバー通路、を備えるエンジンであって、 当該エンジンはエンジン点火燃焼(EF)モードで運転可能であり、当該EFモードでは、当該エンジンがXovrEバルブの閉成のときに10.0対1から15.7対1の範囲内の大きさの残りの膨張比を有することを特徴とするエンジン。 【請求項2】 当該EFモードでは、当該XovrEバルブは膨張ピストンの上死点後(ATDCe)22度から30度の範囲内で閉じられることを特徴とする請求項1に記載のエンジン。 【請求項3】 当該クロスオーバー通路は内部に配置されたクロスオーバー圧縮バルブ(XovrC)を含み、当該クロスオーバー圧縮バルブ(XovrC)とクロスオーバー膨張バルブ(XovrE)が両者間に圧力室を画成していることを特徴とする請求項1に記載のエンジン。 【請求項4】 クロスオーバー通路に作用可能に連結され、圧縮シリンダーからの圧縮空気を蓄え、及び圧縮空気を膨張シリンダーに配送すべく選択的に作動可能である空気貯留器、及び 当該空気貯留器へ及びそれからの空気流れを選択的に制御する空気貯留器バルブ、を含み、 当該EFモードでは、当該空気貯留器バルブが閉じられることを特徴とする請求項3に記載のエンジン。 【請求項5】 当該EFモードでは、当該圧縮ピストンが当該膨張シリンダーで使用するための入口空気を吸込み、圧縮し、そして膨張ストロークの始まりにおいて圧縮空気が燃料と共に当該膨張シリンダーに導入され、それが着火され、燃焼され、そして当該膨張ピストンの同じ膨張ストロークで膨張されて、動力を当該クランクシャフトに伝達し、そして燃焼生成物が排気ストロークで排出されることを特徴とする請求項1に記載のエンジン。 【請求項6】 クランクシャフト軸回りに回転可能なクランクシャフト、 当該クランクシャフトの単一の回転中の吸入ストローク及び圧縮ストロークを通して往復するように圧縮シリンダー内に摺動可能に収容されると共に、当該クランクシャフトに作用可能に連結された圧縮ピストン、 当該クランクシャフトの単一の回転中の膨張ストローク及び排気ストロークを通して往復するように膨張シリンダーに摺動可能に収容されると共に、当該クランクシャフトに作用可能に連結された膨張(動力)ピストン、及び 圧縮シリンダー及び膨張シリンダーを相互に連結するクロスオーバー通路(ポート)であって、内部に配置されたクロスオーバー膨張バルブ(XovrE)、 を含むエンジンを運転する方法であって、 当該エンジンはエンジン点火燃焼(EF)モードで運転可能であり、 当該方法は、 圧縮ピストンでもって入口空気を吸込みそして圧縮し、 膨張ストロークの始まりにおいて、圧縮シリンダーからの圧縮空気を燃料と共に膨張シリンダーに導入し、該燃料は着火され、燃焼され、そして当該膨張ピストンの同じ膨張ストロークで膨張されて、動力をクランクシャフトに伝達し、そして燃焼生成物が排気ストロークで排出され、そして 当該EFモードで、XovrEバルブの閉成のときに10.0対1から15.7対1の範囲内の大きさの残りの膨張比を維持するステップを含むことを特徴とする方法。 【請求項7】 当該EFモードで、当該XovrEバルブを膨張ピストンの上死点後(ATDCe)22度から30度の範囲内で閉じるステップを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。 【請求項8】 当該エンジンは、内部に配置されたクロスオーバー圧縮バルブ(XovrC)であって、当該クロスオーバー圧縮バルブ(XovrC)とクロスオーバー膨張バルブ(XovrE)が両者間に圧力室を画成しているクロスオーバー圧縮バルブ(XovrC)と、クロスオーバー通路に作用可能に連結され、圧縮シリンダーからの圧縮空気を蓄え、及び圧縮空気を膨張シリンダーに配送すべく選択的に作動可能である空気貯留器と、当該空気貯留器へ及びそれからの空気流れを選択的に制御する空気貯留器バルブとを含み、 当該方法は、エンジンがEFモードで運転されているとき、当該空気貯留器バルブを閉じて保持するステップをさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。」 イ 本件補正後の請求項1ないし6 「【請求項1】 クランクシャフト軸回りに回転可能なクランクシャフト、 当該クランクシャフトの単一の回転中の吸入ストローク及び圧縮ストロークを通して往復するように圧縮シリンダー内に摺動可能に収容されると共に、当該クランクシャフトに作用可能に連結された圧縮ピストン、 当該クランクシャフトの単一の回転中の膨張ストローク及び排気ストロークを通して往復するように膨張シリンダーに摺動可能に収容されると共に、当該クランクシャフトに作用可能に連結された膨張ピストン、及び 圧縮シリンダー及び膨張シリンダーを相互に連結するクロスオーバー通路であって、内部に配置されたクロスオーバー膨張バルブ(XovrE)を含むクロスオーバー通路、を備えるエンジンであって、 当該エンジンはエンジン点火燃焼(EF)モードで運転可能であり、当該EFモードでは、当該エンジンがXovrEバルブの閉成のときに10.0対1から15.7対1の範囲内の大きさの残りの膨張比を有し、且つ 当該EFモードでは、当該XovrEバルブは膨張ピストンの上死点後(ATDCe)22度から30度の範囲内で閉じられることを特徴とするエンジン。 【請求項2】 当該クロスオーバー通路は内部に配置されたクロスオーバー圧縮バルブ(XovrC)を含み、当該クロスオーバー圧縮バルブ(XovrC)とクロスオーバー膨張バルブ(XovrE)が両者間に圧力室を画成していることを特徴とする請求項1に記載のエンジン。 【請求項3】 クロスオーバー通路に作用可能に連結され、圧縮シリンダーからの圧縮空気を蓄え、及び圧縮空気を膨張シリンダーに配送すべく選択的に作動可能である空気貯留器、及び 当該空気貯留器へ及びそれからの空気流れを選択的に制御する空気貯留器バルブ、を含み、 当該EFモードでは、当該空気貯留器バルブが閉じられることを特徴とする請求項2に記載のエンジン。 【請求項4】 当該EFモードでは、当該圧縮ピストンが当該膨張シリンダーで使用するための入口空気を吸込み、圧縮し、そして膨張ストロークの始まりにおいて圧縮空気が燃料と共に当該膨張シリンダーに導入され、それが着火され、燃焼され、そして当該膨張ピストンの同じ膨張ストロークで膨張されて、動力を当該クランクシャフトに伝達し、そして燃焼生成物が排気ストロークで排出されることを特徴とする請求項1に記載のエンジン。 【請求項5】 クランクシャフト軸回りに回転可能なクランクシャフト、 当該クランクシャフトの単一の回転中の吸入ストローク及び圧縮ストロークを通して往復するように圧縮シリンダー内に摺動可能に収容されると共に、当該クランクシャフトに作用可能に連結された圧縮ピストン、 当該クランクシャフトの単一の回転中の膨張ストローク及び排気ストロークを通して往復するように膨張シリンダーに摺動可能に収容されると共に、当該クランクシャフトに作用可能に連結された膨張(動力)ピストン、及び 圧縮シリンダー及び膨張シリンダーを相互に連結するクロスオーバー通路(ポート)であって、内部に配置されたクロスオーバー膨張バルブ(XovrE)、 を含むエンジンを運転する方法であって、 当該エンジンはエンジン点火燃焼(EF)モードで運転可能であり、 当該方法は、 圧縮ピストンでもって入口空気を吸込みそして圧縮し、 膨張ストロークの始まりにおいて、圧縮シリンダーからの圧縮空気を燃料と共に膨張シリンダーに導入し、該燃料は着火され、燃焼され、そして当該膨張ピストンの同じ膨張ストロークで膨張されて、動力をクランクシャフトに伝達し、そして燃焼生成物が排気ストロークで排出され、そして 当該EFモードで、XovrEバルブの閉成のときに10.0対1から15.7対1の範囲内の大きさの残りの膨張比を維持し、且つ 当該EFモードで、当該XovrEバルブを膨張ピストンの上死点後(ATDCe)22度から30度の範囲内で閉じるステップを含むことを特徴とする方法。 【請求項6】 当該エンジンは、内部に配置されたクロスオーバー圧縮バルブ(XovrC)であって、当該クロスオーバー圧縮バルブ(XovrC)とクロスオーバー膨張バルブ(XovrE)が両者間に圧力室を画成しているクロスオーバー圧縮バルブ(XovrC)と、クロスオーバー通路に作用可能に連結され、圧縮シリンダーからの圧縮空気を蓄え、及び圧縮空気を膨張シリンダーに配送すべく選択的に作動可能である空気貯留器と、当該空気貯留器へ及びそれからの空気流れを選択的に制御する空気貯留器バルブとを含み、 当該方法は、エンジンがEFモードで運転されているとき、当該空気貯留器バルブを閉じて保持するステップをさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。」 (なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。) (2)本件補正の目的について 特許請求の範囲についての本件補正は、本件補正前の請求項1を引用する請求項2を本件補正後の請求項1とし、本件補正前の請求項6を引用する請求項7を本件補正後の請求項5とするとともに、本件補正前の請求項1及び6を削除したものであるから、特許法第17条の2第5項第1号に規定する請求項の削除を目的とするものと認められる。 第3 本願発明 本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成26年1月31日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲並びに平成23年12月13日に国内書面とともに提出された明細書及び図面の翻訳文からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、その請求項1の記載は上記第1(1)イの【請求項1】の記載のとおりのものである(以下、本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。 第4 引用文献 1 引用文献1 (1)引用文献1の記載 本願の優先日前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された特表2006-528741号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに例えば次のような記載がある。(なお、下線は、理解の一助のため当審で付したものである。) ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 クランクスローを有し、クランクシャフト軸線を中心として回転するクランクシャフトと、 該クランクシャフトの1回転中に4行程サイクルの吸気行程と圧縮行程を通して往復するように、圧縮シリンダー内に摺動可能に設けられると共にクランクシャフトに作動可能に連結された圧縮ピストンと、 膨張シリンダー内に摺動可能に設けられた膨張ピストンと、 膨張ピストンと枢動可能に連結されたコネクティングロッドと、 膨張ピストンがクランクシャフトの上記同一回転中に4行程サイクルの膨張行程と排気行程を通して往復するように、コネクティングロッド/クランクスロー軸線を中心に回転可能にクランクスローをコネクティングロッドに連結する機械的連結機構と、 コネクティングロッド/クランクスロー軸線がクランクシャフト軸線回りで移動する機械的連結機構により設定される経路であって、経路の全ての点において、コネクティングロッド/クランクスロー軸線とクランクシャフト軸線との間の距離が有効クランクスロー半径を規定し、膨張シリンダー内の燃焼事象の少なくとも一部において、コネクティングロッド/クランクスロー軸線が通過する、第1有効クランクスロー半径から第2有効クランクスロー半径までの第1移行領域を含む経路と、 を備えることを特徴とするエンジン。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】) イ 「【0001】 本発明は、内燃機関に関する。より詳しくは、本発明は、一対のピストンを有する分割サイクルエンジンであって、一方を吸気と圧縮行程用ピストンとして、他方を膨張(または動力)と排気行程用ピストンとして用い、4行程のそれぞれがクランクシャフトの1回転で完結する分割サイクルエンジンに関する。膨張ピストンをクランクシャフトに作動可能に連結する機械的連結機構が、固定ピンによる連結を介してクランクシャフトと枢動可能に連結されたコネクティングロッドを有するピストンの下降運動と比べると、燃焼期間の一部で同じピストンのより遅い下降運動の期間をもたらす。」(段落【0001】) ウ 「【0011】 図5を参照するに、上述した従来の4行程エンジンの代りが、分割サイクル4行程エンジンである。この分割サイクルエンジンは、スカデリへの「分割式4行程内燃機関」として2001年7月20日出願された米国特許第6,543,225号に、略開示されており、本明細書においてこの参照によりその全文が開示に含まれるものとする。 【0012】 分割サイクルエンジン・コンセプトの模範的実施形態が70で示されている。分割サイクルエンジン70では、従来の4行程エンジンの隣接する2本のシリンダーに替えて、1本の圧縮シリンダー72と1本の膨張シリンダー74とを一体にしている。これら2本のシリンダー72、74は、クランクシャフト76の一回転ごとに、それぞれの機能を一回果たす。一般的なポペット型バルブ78を介して、圧縮シリンダー72内に吸気チャージが引き込まれる。圧縮シリンダーピストン73はこのチャージを加圧し、膨張シリンダー74用の吸気口であるクロスオーバ通路80を介してチャージを排出する。インレットのチェックバルブ82を用いて、クロスオーバ通路80からの逆流を防ぐ。クロスオーバ通路80のアウトレットのバルブ(複数)84は、加圧された吸気チャージの膨張シリンダー74への流れを制御する。吸気チャージが膨張シリンダー74に入ると、点火栓86は直ぐに点火され、その結果の燃焼が膨張シリンダーピストン75を下方に動かす。排気ガ スはポペットバルブ88を介して膨張シリンダーの外部に排出される。 【0013】 分割サイクルエンジンのコンセプトでは、圧縮シリンダーおよび膨張シリンダーの幾何学的エンジンパラメータ(すなわち、ボア、行程、コネクティングロッドの長さ、圧縮比等)は、一般的には、それぞれ独立である。例えば、各シリンダーのクランクスロー90、92の半径は異なっていてもよく、また、圧縮シリンダーピストン73の上死点(TDC)に先立って、膨張シリンダーピストン75のTDCが生じるように互いに位相が異なるようにしてもよい。この独立性により、分割サイクルエンジンには、上で説明した、より典型的な4行程エンジンよりも高い効率を達成できる可能性がある。 【0014】 しかし、分割サイクルエンジンには、多くの幾何学的パラメータおよびパラメータの組み合わせがある。したがって、これらのパラメータをさらに最適化することが、エンジンの性能と効率とを最大限に活用するために必要である。」(段落【0011】ないし【0014】) エ 「【0024】 III.コンピュータによる第2の研究に起因するドエル型分割サイクルエンジンの実施形態 図6Aおよび6Bを参照するに、100および101は、それぞれ、本発明によるベースライン型およびドエル型分割サイクルエンジンの模範的な実施形態を全体として示す。エンジン100および101は、それぞれ、内部を貫通する膨張(または動力)シリンダー104と圧縮シリンダー106とを有するエンジンブロック102を備える。クランクシャフト108は枢動可能に接続され、クランクシャフト軸線110(この用紙平面に直交して延びる)を中心として回転する。 【0025】 エンジンブロック102は、エンジン100および101の主たる構造部材であり、クランクシャフト108からシリンダーヘッド112との接合部へ向かって上方に延びる。エンジンブロック102は、エンジン100および101の構造上の枠として機能し、通常取り付けパッドを有し、このパッドによってエンジンは、シャシー(図示せず)に支持される。エンジンブロック102は、一般には機械加工された、適切な表面とシリンダーヘッド112やエンジン100および101の他のユニットを装着するためのねじ穴とを有する鋳造品である。 【0026】 シリンダー104と106は、通常全体として円形断面の開口であり、エンジンブロック102の上部を貫通して延びる。シリンダー104および106の直径は、ボアとして知られる。シリンダー104と106の内壁は、くりぬかれ、磨かれて第1膨張(動力)ピストン114と第2圧縮ピストン116をそれぞれ収容する大きさの、滑らかで、正確な支持面を形成する。 【0027】 膨張ピストン114は、第1膨張ピストンシリンダー軸113に沿って往復動作し、圧縮ピストン116は、第2圧縮ピストンシリンダー軸115に沿って往復動作を行なう。 これらの実施形態では、膨張シリンダー104および圧縮シリンダー106は、クランクシャフト軸線110に対してオフセットされている。つまり、第1と第2のピストンシリンダー軸113,115はクランクシャフト軸線110と交差せず、クランクシャフト軸線110の互いに反対側を通る。しかし、ピストンシリンダー軸がオフセットされていない分割サイクルエンジンもまた本発明の範囲内にあることを、当業者は認めるに違いない。 【0028】 ピストン114と116は通常、鉄、鋼又はアルミニウム合金からなる円筒形鋳造品または鍛造品である。動力ピストン114と圧縮ピストン116の上方の閉端、即ち頂部は、夫々第1および第2のクラウン118および120である。ピストン114と116との外表面は全体として機械加工され、シリンダーボアにきちんと嵌まるように収容され、ピストンとシリンダー壁との間隙を密封するピストンリング(図示せず)を設けるための溝が、通常、形成されている。 【0029】 シリンダーヘッド112は、膨張シリンダー104および圧縮シリンダー106を相互接続する気体クロスオーバ通路122を含む。クロスオーバ通路は、圧縮シリンダー106の近傍の、クロスオーバ通路122の端部内に位置されたインレットチェックバルブ124を含む。また、ポペット型のアウトレット・クロスオーバ・バルブ126が、膨張シリンダー104の上部の近傍の、クロスオーバ通路122の反対側の端部内にも配置されている。チェックバルブ124およびクロスオーバ・バルブ126は、その間に圧力室128を区画する。チェックバルブ124は、圧縮シリンダー106から圧力室128への圧縮ガスの一方向の流れを許容する。クロスオーバ・バルブ126は、圧力室128から膨張シリンダー104への圧縮ガスの流れを許容する。チェックバルブおよびポペット型バルブは、それぞれ、インレットチェックバルブ124およびアウトレット・クロスオーバ・バルブ126として説明したが、使用に適した設計のバルブを代わりに用いられてもよく、例えば、インレットバルブ124はポペット型でもよい。 【0030】 シリンダーヘッド112は、圧縮シリンダー106の頂部の上に配置されたポペット型の吸気バルブ130と、膨張シリンダー104の頂部の上に配置されたポペット型の排気バルブ132とを含む。典型的には、ポペットバルブ126、130および132は、バルブ開口を閉鎖するように取付けられたディスク136を一端部に備える金属シャフト(すなわちステム)134を有する。ポペットバルブ130,126および132のシャフト134の他端部は、それぞれ、カムシャフト138,140および142と機械的に連結されている。カムシャフト138,140および142は、通例、全体的に卵形のローブを備える丸型ロッドであり、エンジンブロック102内またはシリンダーヘッド112に位置されている。 【0031】 カムシャフト138、140および142は、通例、歯車、ベルトまたはチェーンリンク(図示せず)を介して、クランクシャフト108と機械的に連結されている。クランクシャフト108がカムシャフト138、140および142を回転させるとき、カムシャフト138,140および142のローブは、バルブ130、126および132にエンジンサイクルの正確な時点で開閉を行わせる。 【0032】 圧縮ピストン116のクラウン120と、圧縮シリンダー106の壁部と、シリンダーヘッド112とは圧縮シリンダー106の圧縮室144を構成する。膨張ピストン114のクラウン118と、膨張シリンダー104の壁部と、シリンダーヘッド112とは膨張シリンダー104の別の燃焼室146を構成する。点火栓148は膨張シリンダー104上のシリンダーヘッド112内に配置され、制御装置(図示せず)により制御され、燃焼室146内の圧縮空気混合気の点火を正確なタイミングで行う。 【0033】 ベースライン型エンジン100とドエル型エンジン101との構造は、膨張ピストンの運動において熱力学的に異なる。この運動は、本明細書で述べるような膨張ピストンのコネクティングロッドおよびクランクスロー間の連結機構を介して達成し得るものとして意図された。したがって、エンジン100および101のコネクティングロッド/クランクスロー連結機構は、別途、後述する。 【0034】 図6Aにおいて、ベースライン型分割サイクルエンジン100は第1膨張コネクティングロッド150および第2圧縮コネクティングロッド152を含み、コネクティングロッド151および152は、それぞれの上端部がピストンピン154および156を介して、動力ピストン114および圧縮ピストン116に枢動可能に取り付けられている。クランクシャフト108は一対の機械的オフセット部、すなわち、第1膨張クランクスロー158および第2圧縮クランクスロー160を含み、クランクスロー158および160は、それぞれ、クランクピン162および164を介して、コネクティングロッド150,152の反対側の下端部に枢動可能に取り付けられる。ピストン114,116およびクランクスロー158,160に対するコネクティングロッド150および152の機械的連結機構には、各ピストンの(膨張ピストン114については方向矢印166が示すような、また圧縮ピストン116については方向矢印168が示すような)往復運動をクランクシャフト108の(方向矢印170で示すような)回転運動に変換する機能がある。 【0035】 なお、重要なことは、ドエル型エンジン101とは違って、ベースライン型エンジン100における圧縮ピストン116および膨張ピストン114双方のクランクスロー半径、すなわち、クランクピン162,164とクランクシャフト軸線110との間の中心から中心までの距離は概ね一定のままである。したがって、ベースライン型エンジン100のクランクシャフト軸線110を周回するクランクピン162および164の軌跡は、ほぼ円形である。」(段落【0024】ないし【0035】) オ 「【0051】 ピストン114がBDCに位置するときの膨張シリンダー(つまり燃焼室146)容積の、ピストンがTDCに位置するときの膨張シリンダー容積に対する比が、ここでは、膨張比と定義されている。コンピュータによる第1の研究(項目Iの「大要」参照)において決定されたように、有益な効率レベルを維持するためには、膨張比は典型的にはおよそ120対1に設定される。さらに、膨張比は20対1以上が好ましく、さらに好ましくは40対1以上、最も好ましいのは80対1以上である。」(段落【0051】) カ 「【0065】 テーブル3は、圧縮ピストンのTDCを基準にした吸気バルブ事象を除いて、膨張ピストンのTDC基準でバルブ事象と燃焼パラメータをまとめたものである。これらのパラメータはベースライン型エンジン100およびドエル型エンジン101の両方に使った。 【0066】 【表3】 テーブル3 分割サイクルベースラインおよびドエルエンジンの ガス抜きおよび燃焼パラメータ パラメータ 値 (中略) クロスオーバー・バルブ閉弁 22度ATDC (以下略) 」(段落【0065】及び【0066】) (2)引用文献1の記載から分かること 上記(1)アないしカ及び図面の記載から、以下のことが分かる。 サ 上記(1)アないしカ及び図面の記載から、引用文献1には、クランクシャフト108、圧縮ピストン116、膨張ピストン114、及びクロスオーバ通路122を備えるエンジンが記載されていることが分かる。 シ 上記(1)アないしカ(例えばエの段落【0032】を参照。)及び図面の記載から、引用文献1に記載されたエンジンは、圧縮混合気の点火及び燃焼を行うモードで運転可能であることが分かる。 ス 上記(1)カ(特に段落【0065】の「テーブル3は、・・・膨張ピストンのTDC基準でバルブ事象と燃焼パラメータをまとめたものである。」及び【0066】【表3】の「クロスオーバー・バルブ閉弁 22度ATDC」 という記載を参照。)及び図面の記載から、引用文献1に記載されたエンジンにおいて、圧縮混合気の点火及び燃焼を行う場合に、クロスオーバー・バルブ閉弁(XVC)の時期は、膨張ピストンのTDC基準で22度ATDC(上死点後22度)であることが分かる。 また、引用文献1に記載されたエンジンは、クロスオーバ・バルブ126の閉弁のときに22度ATDC(上死点後22度)に対応する大きさの残りの膨張比を有していることが分かる。 セ 上記(1)ウ及び図面の記載から、分割サイクルエンジンには、典型的な4工程エンジンよりも高い効率を達成できる可能性があることが分かる。 (3)引用発明1 上記(1)、(2)及び図面の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。 「クランクシャフト軸線110回りに回転可能なクランクシャフト108、 当該クランクシャフト108の単一の回転中の吸入ストローク及び圧縮ストロークを通して往復するように圧縮シリンダー106内に摺動可能に収容されると共に、当該クランクシャフト108に作用可能に連結された圧縮ピストン116、 当該クランクシャフト108の単一の回転中の膨張ストローク及び排気ストロークを通して往復するように膨張シリンダー104に摺動可能に収容されると共に、当該クランクシャフト108に作用可能に連結された膨張ピストン114、及び 圧縮シリンダー106及び膨張シリンダー104を相互に連結するクロスオーバー通路122であって、内部に配置されたクロスオーバー・バルブ126を含むクロスオーバー通路122、を備えるエンジン100,101であって、 当該エンジン100,101は圧縮混合気の点火及び燃焼を行う方法で運転可能であり、当該圧縮混合気の点火及び燃焼を行う方法では、当該エンジン100,101がクロスオーバー・バルブ126の閉弁のときに上死点後22度に対応する大きさの残りの膨張比を有し、且つ 当該圧縮混合気の点火及び燃焼を行う方法では、当該クロスオーバー・バルブ126は膨張ピストン114の上死点後22度で閉じられる、エンジン100,101。」 2 引用文献2 (1)引用文献2の記載 本願の優先日前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された特表2007-521439号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のため当審で付したものである。) ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 エンジンのクランクシャフト軸線を中心として回転するクランクシャフトと、 膨張ピストンであって、膨張シリンダー内に摺動可能に収納され、クランクシャフトの1回転中に4行程サイクルの膨張行程および排気行程を通して往復するように、クランクシャフトに作動可能に連結された膨張ピストンと、 圧縮ピストンであって、圧縮シリンダー内に摺動可能に収納され、クランクシャフトの同じ回転中に同じ4行程サイクルの吸気行程および圧縮行程を通して往復するように、クランクシャフトに作動可能に連結された圧縮ピストンと、 略20対1以上である、膨張シリンダーおよび圧縮シリンダーのいずれか一方のBDCからTDCまでのシリンダー容積の比と、 を備えることを特徴とするエンジン。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】) イ 「【0001】 本発明は、内燃機関に関する。具体的には、本発明は、一対のピストンを有する分割サイクルエンジンであって、一方を吸気と圧縮行程用ピストンとして、他方を膨張(または動力)と排気行程用ピストンとして用い、4行程のそれぞれがクランクシャフトの1回転で完結する分割サイクルエンジンに関する。」(段落【0001】) ウ 「【0011】 図5を参照するに、上述した従来の4行程エンジンの代りが、分割サイクル4行程エンジンである。この分割サイクルエンジンは、スカデリへの「分割式4行程内燃機関」として2001年7月20日出願された米国特許第6,543,225号に、略開示されており、本明細書においてこの参照によりその全文が開示に含まれるものとする。 【0012】 分割サイクルエンジンのコンセプトの模範的実施形態が70で示されている。分割サイクルエンジン70では、従来の4行程エンジンの隣接する2本のシリンダーに替えて、1本の圧縮シリンダー72と1本の膨張シリンダー74とを一体にしている。これら2本のシリンダー72、74は、クランクシャフト76の一回転ごとに、それぞれの機能を一回果たす。一般的なポペット型バルブ78を介して、圧縮シリンダー72内に吸気チャージが引き込まれる。圧縮シリンダーピストン73はこのチャージを加圧し、膨張シリンダー74用の吸気口であるクロスオーバ通路80を介してチャージを排出する。インレットのチェックバルブ82を用いて、クロスオーバ通路80からの逆流を防ぐ。クロスオーバ通路80のアウトレットのバルブ(複数)84は、加圧された吸気チャージの膨張シリンダー74への流れを制御する。吸気チャージが膨張シリンダー74に入ると、点火栓86は直ぐに点火され、その結果の燃焼が膨張シリンダーピストン75を下方に動かす。排気ガスはポペットバルブ88を介して膨張シリンダーの外部に排出される。 【0013】 分割サイクルエンジンのコンセプトでは、圧縮シリンダーおよび膨張シリンダーの幾何学的エンジンパラメータ(すなわち、ボア、行程、コネクティングロッドの長さ、圧縮比等)は、一般的には、それぞれ独立である。例えば、各シリンダーのクランクスロー90、92の半径は異なっていてもよく、また、圧縮シリンダーピストン73の上死点(TDC)に先立って、膨張シリンダーピストン75のTDCが生じるように互いに位相が異なるようにしてもよい。この独立性により、分割サイクルエンジンには、上で説明した、より典型的な4行程エンジンよりも高い効率を達成できる可能性がある。 【0014】 しかし、分割サイクルエンジンには、多くの幾何学的パラメータおよびパラメータの組み合わせがある。したがって、これらのパラメータをさらに最適化することが、エンジンの性能と効率とを最大限に活用するために必要である。 【0015】 従って、効率を向上させ、NOxエミッションレベルを減少することのできる、改善した4行程内燃機関への要求がある。」(段落【0011】ないし【0015】) エ 「【0026】 III.コンピュータによる研究に起因する分割サイクルエンジンの実施形態 図6から図11を参照するに、100は、それぞれ、本発明による4サイクルエンジンの模範的な実施形態を全体として示す。エンジン100は、内部を貫通する膨張(または動力)シリンダー104と圧縮シリンダー106とを有するエンジンブロック102を備える。クランクシャフト108は枢動可能に接続され、クランクシャフト軸線110(この用紙平面に直交して延びる)を中心として回転する。 【0027】 エンジンブロック102は、エンジン100の主たる構造部材であり、クランクシャフト108からシリンダーヘッド112との接合部へ向かって上方に延びる。エンジンブロック102は、エンジン100の構造上の枠として機能し、通常取り付けパッドを有し、このパッドによってエンジンは、シャシー(図示せず)に支持される。エンジンブロック102は、一般には機械加工された、適切な表面とシリンダーヘッド112やエンジン100の他のユニットを装着するためのねじ穴とを有する鋳造品である。 【0028】 シリンダー104と106は、ほぼ円形断面の開口部であり、エンジンブロック102の上部を貫通して延びる。シリンダー104および106の直径は、ボアとして知られる。シリンダー104と106の内壁は、くりぬかれ、磨かれて膨張(動力)ピストン114と圧縮ピストン116をそれぞれ収容する大きさの、滑らかで、正確な支持面を形成する。 【0029】 膨張ピストン114は、第1膨張ピストンシリンダー軸113に沿って往復動作し、圧縮ピストン116は、第2圧縮ピストンシリンダー軸115に沿って往復動作を行なう。これらの実施形態では、膨張シリンダー104および圧縮シリンダー106は、クランクシャフト軸線110に対してオフセットされている。つまり、第1と第2のピストンシリンダー軸113,115はクランクシャフト軸線110と交差せず、クランクシャフト軸線110の互いに反対側を通る。しかし、ピストンシリンダー軸がオフセットされていない分割サイクルエンジンもまた本発明の範囲内にあることを、当業者は認めるに違いない。 【0030】 ピストン114と116は通常、鉄、鋼又はアルミニウム合金からなる円筒形鋳造品または鍛造品である。動力ピストン114と圧縮ピストン116の上方の閉端、即ち頂部は、夫々第1および第2のクラウン118および120である。ピストン114と116との外表面は全体として機械加工され、シリンダーボアにきちんと嵌まるように収容され、ピストンとシリンダー壁との隙間を密封するピストンリング(図示せず)を設けるための溝が、通常、形成されている。 【0031】 第1および第2コネクティングロッド122および124は、動力および圧縮シリンダー114および116に、夫々の上端部126および128において枢動可能に取り付けられている。クランクシャフト108は、第1および第2スロー130および132と呼ばれる一対の機械的にオフセットされた部分を含み、これらは、第1および第2のコネクティングロッド122および124の反対側にある底端部134および136に夫々枢動可能に取り付けられている。ピストン114、116とクランクシャフト・スロー130、132に対するコネクティングロッド122、124の機械的連結は、ピストンの往復動作(膨張ピストン114に対しては方向矢印138で示され、圧縮ピストン116に対しては方向矢印140で示されるように)をクランクシャフト108の回転動作(方向矢印142によって示されるように)に変換するように機能する。 【0032】 この実施形態では、第1と第2ピストン114、116は、それぞれコネクティングロッド122、124を介してクランクシャフト108に直接に連結されているが、他の手段を用いてピストン114、116をクランクシャフト108に機能的に連結できるようにすることは、本発明の範囲内である。例えば、第2クランクシャフトを用いてピストン114、116を第1クランクシャフト108に機械的に連繋させても良い。 【0033】 シリンダーヘッド112は、第1シリンダー104および第2シリンダー106を相互接続する気体クロスオーバ通路144を含む。クロスオーバ通路は、第2シリンダー106の近傍のクロスオーバ通路144の端部内に位置されたインレットチェックバルブ146を含む。また、ポペット型のアウトレット・クロスオーバ・バルブ150が、第1シリンダー104の上部の近傍のクロスオーバ通路144の反対側の端部内にも配置されている。チェックバルブ146およびクロスオーバ・バルブ150は、その間に圧力室148を区画する。チェックバルブ146は、第2シリンダー106から圧力室148への圧縮ガスの一方向の流れを許容する。クロスオーバ・バルブ150は、圧力室148から第1シリンダー104への圧縮ガスの流れを許容する。チェックバルブおよびポペット型バルブは、それぞれ、インレットチェックバルブ146およびアウトレット・クロスオーバ・バルブ150として説明したが、使用に適した設計のバルブが代わりに用いられてもよく、例えば、インレットバルブ146はポペット型でもよい。 【0034】 シリンダーヘッド112は、圧縮シリンダー106の頂部の上に配置されたポペット型の吸気バルブ152と、第1シリンダー104の頂部の上に配置されたポペット型の排気バルブ154とを含む。典型的には、ポペットバルブ150、152、および154は、バルブ開口を閉鎖するように取付けられたディスク158を一端部に備える金属シャフト(すなわちステム)156を有する。ポペットバルブ150、152および154のシャフト156の他端部は、それぞれ、カムシャフト160,162および164と機械的に連結されている。カムシャフト160,162および164は、通例、全体的に卵形のローブを備える丸型ロッドであり、エンジンブロック102内またはシリンダーヘッド112に位置されている。 【0035】 カムシャフト160、162および164は、通例、歯車、ベルトまたはチェーンリンク(図示せず)を介してクランクシャフト108と機械的に連結されている。クランクシャフト108がカムシャフト160、162および164を回転させるとき、カムシャフト160,162および164のローブは、バルブ150、152および154にエンジンサイクルの正確な時点で開閉を行わせる。 【0036】 圧縮ピストン116のクラウン120と、第2シリンダー106の壁部と、シリンダーヘッド112とは第2シリンダー106の圧縮室166を構成する。動力ピストン114のクラウン118と、第1シリンダー104の壁部と、シリンダーヘッド112とは第1シリンダー104の別の燃焼室168を構成する。点火プラグ170は第1シリンダー104上のシリンダーヘッド112内に配置され、制御装置(図示せず)により制御され、燃焼室168内の圧縮空気混合気の点火を正確なタイミングで行う。 【0037】 この実施形態は、火花点火式(SI)エンジンを説明しているが、圧縮着火式(CI)エンジンもまたこの種のエンジンの範囲に入ることを当業者なら認識するであろう。加えて、本発明による分割サイクルエンジンは、ガソリン以外の種々の燃料、例えば、デーゼル、水素、天然ガスで運転するのに用いられ得ることを当業者は認識するであろう。 【0038】 動作中において、膨張ピストン114は位相角172だけ圧縮ピストン116より進んでいる。位相角172は、膨張ピストン114がその上死点位置に到達した後に、圧縮ピストン116がその上死点位置に到達するために、クランクシャフト108が回転しなければならないクランク角(CA)回転の角度によって決められる。この後のコンピュータによる研究で説明するように、適切な熱効率レベル(BTEまたはITE)を維持するためには、位相角172が典型的にはおよそ20度に設定される。さらに、位相角は50度以下が好ましく、より好ましくは、30度以下であり、最も好ましいのは25度以下である。 【0039】 図6から図11は、分割サイクルエンジン100が所定の閉じこまれた空気/燃料混合気のマス(ドットで示される部分)のポテンシャルエネルギーを回転機械エネルギーに変換するときの、エンジン100の一つの完全なサイクルを示している。すなわち、図6から図11は、それぞれ、閉じ込められるマスの吸気、部分圧縮、完全圧縮、燃焼の開始、膨張および排出を示している。しかしながら、エンジンが、充分に空気/燃料混合気で充填され、吸入され、圧縮シリンダー116によって圧縮された空気/燃料混合気の各閉じ込められたマスに対して、略同一の閉じ込められたマスが膨張シリンダー104によって燃焼され、排出されることに注意することが重要である。 【0040】 図6は、動力ピストン114が下死点(BDC)に到達し、まさに(矢印138で示すように)上昇して排出行程を始めたときの動力ピストン114を示している。圧縮ピストン116は、動力ピストン114に遅れて、吸気行程を下降中である(矢印140)。インレットバルブ152は、所定量の燃料と空気の爆発性混合気が圧縮室166に吸引され、そこに閉じ込められる(つまり、図6のドットで示す閉じ込められたマス)のを許容すべく開いている。排気バルブ154も開いており、ピストン114が燃焼後の生成物を燃焼室168から排出するのを許容する。 【0041】 クロスオーバ通路144のチェックバルブ146およびクロスオーバ・バルブ150は、2つの室166および168間で着火性燃料および燃焼後生成物が移動することを防ぐべく閉じられている。さらに、排気行程および吸気行程中において、チェックバルブ146およびクロスオーバ・バルブ150は、圧力室148を密閉し、前回の圧縮行程および動力行程からそこに閉じ込められていたガスの圧力を略維持する。 【0042】 図7を参照するに、閉じ込めたマスの部分圧縮が進行中である。すなわち、インレットバルブ152は閉じており、圧縮ピストン116は空気/燃料混合気を圧縮するように上死点(TDC)位置方向に上昇(矢印140)中である。同時に、排気バルブ154は開いて、膨張ピストン114も燃焼後の燃料生成物を排出するように上昇(矢印138)中である。 【0043】 図8を参照するに、閉じ込めたマス(ドット)はさらに圧縮され、チェックバルブ146を介してクロスオーバ通路144に入り込み始めている。膨張ピストン114は上死点(TDC)位置に到達し、下降して(矢印138で示す)膨張行程に入ろうとしている一方で、圧縮ピストン116はまだ(矢印140で示す)圧縮行程による上昇の最中である。このとき、チェックバルブ146は部分的に開いている。クロスオーバ・アウトレットバルブ150、吸気バルブ152および排気バルブ154は、すべて、閉じている。 【0044】 TDCにおいて、ピストン114は、ピストン114のクラウン118とシリンダー104の頂部間にクリアランス距離178を有する。このクリアランス距離178は、(先行技術の図3に示されるように)従来エンジン10のクリアランス距離60と比較して非常に小さい。これは、従来エンジンのクリアランス(圧縮比)が、意図しない圧縮着火と過剰なシリンダー圧を避けるために制限されているからである。さらに、クリアランス距離178を減少させることで、排気生成物の更なる完全な排出が行われる。 【0045】 ピストン114がBDCに位置するときの膨張シリンダー(つまり燃焼室168)容積の、ピストンがTDCに位置するときの膨張シリンダー容積に対する比が、ここでは、膨張比と定義されている。この比は、従来エンジン10のBDCとTDC間のシリンダー容積の比より通常はるかに大きい。続くコンピュータによる研究の記述において示されるように、有益な効率レベルを維持するためには、膨張比は典型的にはおよそ120対1に設定される。さらに、膨張比は20対1以上が好ましく、さらに好ましくは40対1以上、最も好ましいのは80対1以上である。 【0046】 図9を参照するに、閉じ込めたマス(ドットで示した部分)の燃焼開始が示されている。クランクシャフト108は、膨張ピストン114のTDC位置を通過後さらに所定角度回転し、その点火位置に達する。この時点で、点火プラグ170が点火され、燃焼が始まる。圧縮ピストン116はちょうど圧縮行程を終了しつつあり、そのTDC位置近くにいる。この回転の最中に、圧縮シリンダー116内の圧縮ガスは、チェックバルブ146を全開させる閾値圧力に達する一方、カム162はクロスオーバ・バルブ150をも開くべくタイミング付けられている。したがって、動力ピストン114が降下し圧縮ピストン116が上昇するにつれ、圧縮ガスの略等しいマスが圧縮シリンダー106の圧縮室166から膨張シリンダー104の燃焼室168に移動される。 【0047】 以下のコンピュータによる研究の説明に記されるように、クロスオーバ・バルブ150のバルブ継続期間、すなわち、クロスオーバ開弁(XVO)とクロスオーバ閉弁(XVC)との間でのクランク角間隔(CA)は、吸気バブル152および排気バルブ154のバルブ継続期間と比較すると、非常に小さい。バルブ152、154の典型的なバルブ継続期間は、通例、160度CAを超える。有益な効率レベルを維持するためには、クロスオーバ・バルブ継続期間は典型的にはおよそ25度CAに設定される。さらに、クロスオーバ・バルブ継続期間は69度CA以下が好ましく、さらに好ましくは50度CA以下、最も好ましいのは35度CA以下である。 【0048】 さらに、コンピュータによる研究はまた、クロスオーバ・バルブ継続期間と燃焼継続期間とが、燃焼継続期間の所定の最低パーセンテージ分、重なる場合には、燃焼継続期間は実質的に減少する(閉じ込めたマスの燃焼率が実質的に上がる)ことを示している。具体的には、クロスオーバ・バルブ150は、好ましくは、クロスオーバ閉弁前に、全燃焼事象(つまり、燃焼の0%ポイントから100%ポイント)の少なくとも5%、より好ましくは全燃焼事象の10%、さらに最も好ましいのは全燃焼事象の15%の間、開いたままにしておくべきである。この後さらに詳細に説明するように、空気・燃料混合気が燃焼している(すなわち、燃焼事象)期間にクロスオーバ・バルブ150の開く期間をより長く維持できるほど、燃焼率と効率レベルは益々向上する。このオーバラップへの制限は、後ほど説明する。 【0049】 クランクシャフト108がさらに回転すると、圧縮ピストン116は、上死点にまで進み、その後別の吸気行程を開始して再びサイクルを繰り返し始める。この圧縮ピストン116は、また標準エンジン10に比べて非常に小さいクリアランス距離182を有している。これは、圧縮シリンダー106の圧縮室166のガス圧力が、圧力室148の圧力に到達すると、ガスが通過するのを許容するようにチェックバルブ146が開かれるので、可能である。それ故に、圧縮ピストン116が上死点位置に到達するとき、その頂部に非常に小さい容積の高圧ガスが閉じ込められる。 【0050】 ピストン116がBDCに位置するときの圧縮シリンダー(つまり燃焼室166)容積の、ピストンがTDCに位置するときの圧縮シリンダー容積に対する比が、ここでは、圧縮比と定義されている。この比は一般に従来エンジン10のBDCとTDC間のシリンダー容積の比よりはるかに大きい。次のコンピュータによる研究の記述に示されるように、有益な効率レベルを維持するためには、圧縮比は典型的にはおよそ100対1に設定される。さらに、圧縮比は20対1以上が好ましく、さらに好ましくは40対1以上、最も好ましいのは80対1以上である。 【0051】 図10を参照するに、閉じ込めたマスでの膨張行程が示されている。空気/燃料混合気が燃焼するにつれ、熱いガスが膨張ピストン114を下方に動かす。 【0052】 図11を参照するに、閉じ込めたマスでの排気行程が示されている。膨張シリンダーがBDCに到達し、再び上昇を始めるにつれ、燃焼ガスは開いたバルブ154の外に排出され次のサイクルを始める。」(段落【0026】ないし【0052】) オ 「【0054】 このコンピュータによる研究は、エンジン性能と効率に関して影響を与える重要な変数として、圧縮比、膨張比、TDC位相(すなわち、圧縮と膨張ピストン間の位相角(図6の項目172参照))、クロスオーバ・バルブ継続期間、燃焼継続期間を識別した。具体的には、これらのパラメータは、以下のように設定された。 ・圧縮と膨張比は、20対1以上であるべきで、この研究ではそれぞれ100対1と20対1に設定された。 ・位相角は、50度以下であるべきで、この研究では約20度に設定された。 ・クロスオーバ継続期間は69度以下であるべきで、この研究では約25度に設定された。 【0055】 更に、クロスオーバ・バルブ継続期間と燃焼継続期間は、効率レベル向上のために、燃焼事象の所定のパーセントだけオーバラップすべきである。この研究では、全燃焼事象の5%オーバラップが現実的であり、この研究でモデル化された実施形態実施形態での35%を到達できない上限として、より大きなオーバラップが可能であることをCFD計算は示した。 【0056】 これらのパラメータが適切な構成に適用されると、分割サイクルエンジンは、ブレーキ熱効率(BTE)とNOxエミッションにおいてかなりの有利性を示した。テーブル9は、従来エンジンモデルと分割サイクルエンジンの種々の実施形態における、BTEに関するコンピュータ研究の結果を要約し、図24は、予測NOxエミッションをグラフにしている。」(段落【0054】ないし【0056】) カ 「【0094】 3.0 分割サイクルエンジンモデル 分割サイクルコンセプトのモデルは、スクデリ グループ、LLCによって提供されたエンジンパラメータに基づき、GT-Powerにおいて作られた。圧縮と膨張シリンダーの幾何学的なパラメータは、互いにユニークであり、従来型エンジンとは少し異なっていた。従来型エンジン結果に対する比較の有効性は、充填吸気の閉じ込められたマスをマッチングすることによって維持された。すなわち、分割サイクルエンジンは、従来型と同様に吸気バルブ閉弁後、圧縮シリンダーに閉じ込められた同一マスを有するように作られた。つまりこれが比較のベースとなった。典型的には、エンジン間の公平な比較を保証するために、等量の排気量が用いられるが、分割サイクルエンジンの排気量を規定することは非常に困難である。かくて、等量の閉じ込めマスがベースとして用いられた。 【0095】 3.1 初期分割サイクルモデル 分割サイクルエンジンモデルとしていくつかの異なる形態が作られた。もっとも重要なパラメータのいくつかは、TDC位相と圧縮・膨張比であることが判明した。変更されたエンジンパラメータがテーブル4と5にまとめられた。 【0096】 【表4】(略) 【0097】 【表5】(略) 【0098】 図15Aおよび15Bを参照するに、分割サイクルエンジンモデルのGT-PowerGUIが示されている。吸入空気は、パイプ吸気バイパスと合流部吸気スプリッターによって示されるように、大気源から吸気マニフォルドへ流入する。そこから、吸入空気は吸気ポート(吸気ポート1、吸気ポート2)に流れ、そこで燃料が噴射され、空気流と混合される。サイクルの適切なタイミングで、吸気バルブ(vil-y)が開弁し、同時に圧縮シリンダー内のピストンは下降行程(吸気行程)にある。空気と燃料の混合気は、この行程中にシリンダーへ入れられ、その後、吸気バルブが閉弁する。吸気行程後、ピストンは上昇し、混合気を高温・高圧まで圧縮する。圧縮行程の終端近くで圧力が十分になり、チェックバルブを開弁し、空気/燃料混合気をクロスオーバ通路へ押込む。同時に、動力シリンダーがちょうど排気行程を終えて、TDCを通過する。ほぼこの時点で、クロスオーバ・バルブが開弁し、クロスオーバ通路とピストンがTDCに近づいている圧縮シリンダーから空気が導入する。圧縮シリンダーのピストンがほぼTDCにあるときに(すなわち、動力シリンダーのピストンがTDCから位相角のオフセット分の後)、クロスオーバ・バルブが閉弁し、点火プラグが、動力シリンダー内で点火される。混合気の燃焼によって、膨張、すなわち動力行程を通して混合気の温度と圧力をさらに上昇させてピストンを降下させる。膨張行程の終端近くで排気バルブが開弁し、ピストンは上昇し始め、排気を、排気バルブ(バルブ1,2)を介して排気ポート(排気ポート1,2)へシリンダーから流入させる。なお、吸気および動力行程と共に、圧縮および排気行程は、異なるシリンダーではあるがほぼ同時に行われている。排気は排気ポートを介して排気マニフォルド(排気合流部)へ流れ、そこから大気を表す排気端部環境に流れる。 【0099】 尚、このモデルのレイアウトは、従来型エンジンモデルとほぼ同じである。吸気と排気のポートおよびバルブ、並びにマルチポート燃料噴射弁は従来型エンジンモデルから直接持ってきたものであった。クロスオーバ通路は、入口部での1つのチェックバルブと出口部での複数のポペットバルブを有する、曲がった一定の直径を有するパイプとしてモデル化された。初期の構成においては、クロスオーバ通路は、直径1.024インチ(26.0mm)であり、出口に直径0.512インチ(13.0mm)の4つのバルブを有した。膨張シリンダーに供給するポペットバルブは、クロスオーバ・バルブと称された。 【0100】 このクロスオーバ通路は、チェックバルブ入口とポペットバルブ出口を有する曲がった一定直径のパイプとしてモデル化されているが、当業者なら他の形状も本発明の範囲に入ることを認めるであろう。例えば、クロスオーバ通路は、燃料噴射システムを含むことができるし、入口バルブは、チェックバルブよりむしろポペットバルブであってもよい。さらに種々の周知の可変バルブタイミング装置が、クロスオーバ通路に対するクロスオーバ・バルブ、または入口バルブのいずれかに使用されてもよい。 【0101】 図16を参照するに、分割サイクルエンジンのモデルが、ピストン動作プロフィールを確認し、メカニズムの動画を作成するためにMSC.ADAMS(登録商標)動的分析ソフトウエアパッケージを用いて構成された。カリフォルニア州サンタ アナのMSC.ソフトウェア会社によって所有されるMSC.ADAMS(登録商標)ソフトウェアは、エンジン産業において、もっとも広く使用されている動的シュミレーションソフトウエアパッケージの1つである。これは、通常、運動部品に関連する力と振動を計算するために使用される。1つの適用例は、エンジンシステムにおいて、運動、速度、慣性力と振動を生成させるためである。図16は、MSC.ADAMS(登録商標)モデルの概括的表示である。 【0102】 一旦分割サイクルエンジンモデルが正の仕事を生成しているとき、いくらかの他の改良がなされた。吸気バルブ開弁(IVO)と排気閉弁(EVC)事象のタイミングは、バルブタイミングと、バルブとピストンの干渉によって制限されるクリアランス容積間の最適トレードオフを発見するために調整された。これらの事象は、初期の分割サイクルモデル化試み中に調査され、最適なIVOとEVCが設定された。IVOは、クロスオーバ通路への供給後、残っている高ガス圧からの膨張仕事を圧縮ピストンが受けるのを許容すべく、わずかに遅角された。これにより、クリアランス容積を減少させることとブリージングを改善するための早期IVOと間のトレードオフをなくした。エンジンは良好にブリージングし、遅れたIVOはピストンが膨張仕事を若干回収するのを可能にした。 【0103】 EVCは、クロスオーバ・バルブ開弁(XVO)前にわずかな圧力上昇を構築すべく進角された。これによって、クロスオーバ室から大容積低圧リザーバへ高圧ガスが廃棄されることによる取り返すことのできない損失を減少させた。 【0104】 Wiebe燃焼モデルを使用して、分割サイクルエンジンでの放熱を計算した。テーブル6は、圧縮ピストンのTDCを基準とする吸気バルブ事象を除いて、膨張ピストンのTDCを基準として、バルブ事象と燃焼パラメータを概括する。 【0105】 【表6】 テーブル6 分割サイクルエンジンのブリージングおよび燃焼パラメータ パラメータ 値 動力シリンダーのTDC基準 (中略) クロスオーバ・バルブ閉弁 25度(ATDC)(動力) 25度ATDC (XVC)(後略) 」(段落【0094】ないし【0105】) (2)引用文献2の記載から分かること 上記(1)アないしカ及び図面の記載から、以下のことが分かる。 サ 上記(1)アないしカ及び図面の記載から、引用文献2には、クランクシャフト108、圧縮ピストン116、膨張(または動力)ピストン114、およびクロスオーバ通路144を備えてなるエンジン100が記載されていることが分かる。 シ 上記(1)アないしカ(例えばエの段落【0036】を参照。)及び図面の記載から、引用文献2に記載されたエンジンは、燃焼室168内の圧縮空気混合気の点火及び燃焼を行う方法で運転可能であることが分かる。 ス 上記(1)カ(特に段落【0104】の「テーブル6は、・・・膨張ピストンのTDCを基準として、バルブ事象と燃焼パラメータを概括する。」及び段落【0105】【表6】のクロスオーバ・バルブ閉弁(XVC) 25度(ATDC)(動力) 25度ATDC」という記載を参照。)の記載から、引用文献2に記載されたエンジンにおいて、燃焼室168内の圧縮空気混合気の点火及び燃焼を行う場合に、クロスオーバ・バルブ閉弁(XVC)の時期は、膨張ピストンのTDCを基準として25度ATDC(すなわち上死点後25度)であることが分かる。 また、引用文献2に記載されたエンジンは、クロスオーバ・バルブ150の閉成のときに上死点後25度に対応する大きさの残りの膨張比を有していることが分かる。 セ 上記(1)オ(特に段落【0056】を参照。)及び図面の記載から、分割サイクルエンジンは、ブレーキ熱効率(BTE)とNOxエミッションにおいて有利性を示すことが分かる。 (3)引用発明2 上記(1)、(2)及び図面の記載から、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。 「クランクシャフト軸線110回りに回転可能なクランクシャフト108、 当該クランクシャフト108の単一の回転中の吸入ストローク及び圧縮ストロークを通して往復するように圧縮シリンダー106内に摺動可能に収容されると共に、当該クランクシャフト108に作用可能に連結された圧縮ピストン116、 当該クランクシャフト108の単一の回転中の膨張ストローク及び排気ストロークを通して往復するように膨張シリンダー104に摺動可能に収容されると共に、当該クランクシャフト108に作用可能に連結された膨張ピストン114、及び 圧縮シリンダー106及び膨張シリンダー104を相互に連結するクロスオーバー通路144であって、内部に配置されたクロスオーバ・バルブ150を含むクロスオーバー通路144、を備えるエンジン100であって、 当該エンジン100は圧縮空気混合気の点火及び燃焼を行う方法で運転可能であり、当該圧縮空気混合気の点火及び燃焼を行う方法では、当該エンジン100がクロスオーバ・バルブ150の閉弁のときに上死点後25度に対応する大きさの残りの膨張比を有し、且つ 当該圧縮空気混合気の点火及び燃焼を行う方法では、当該クロスオーバ・バルブ150は膨張ピストンの上死点後25度で閉じられる、エンジン。」 第5 対比・検討その1(引用発明1との対比・検討) 1 対比 本願発明と引用発明1を対比する。 引用発明1における「クランクシャフト軸線110」は、その構成、機能及び技術的意義からみて、本願発明における「クランクシャフト軸」に相当し、以下同様に、「クランクシャフト108」は「クランクシャフト」に、「圧縮シリンダー106」は「圧縮シリンダー」に、「圧縮ピストン116」は「圧縮ピストン」に、「膨張シリンダー104」は「膨張シリンダー」に、「膨張ピストン114」は「膨張ピストン」に、「クロスオーバ通路122」は「クロスオーバー通路」に、「クロスオーバ・バルブ126」は「クロスオーバー膨張バルブ(XovrE)」及び「XovrEバルブ」に、「エンジン100,101」は「エンジン」に、「圧縮混合気の点火及び燃焼を行う方法」は「エンジン点火燃焼(EF)モード」及び「EFモード」に、「閉弁」は「閉成」に、「上死点後」は「上死点後(ATDCe)」に、それぞれ相当する。 また、引用発明1における「圧縮空気混合気の点火及び燃焼を行う方法では、当該エンジン100,101がクロスオーバ・バルブ126の閉弁のときに上死点後22度に対応する大きさの残りの膨張比を有し」は、「エンジン点火燃焼モードでは、当該エンジンがクロスオーバー膨張バルブの閉成のときに所定の大きさの残りの膨張比を有し」という限りにおいて、本願発明における「EFモードでは、当該エンジンがXovrEバルブの閉成のときに10.0対1から15.7対1の範囲内の大きさの残りの膨張比を有し」に相当する、 また、引用発明1における「クロスオーバー・バルブ126は膨張ピストン114の上死点後22度で閉じられる」は、「クロスオーバー膨張バルブは膨張ピストンの上死点後22度で閉じられる」という点で、本願発明における「XovrEバルブは膨張ピストンの上死点後(ATDCe)22度から30度の範囲内で閉じられる」と一致する。 したがって、両者は、 「クランクシャフト軸回りに回転可能なクランクシャフト、 当該クランクシャフトの単一の回転中の吸入ストローク及び圧縮ストロークを通して往復するように圧縮シリンダー内に摺動可能に収容されると共に、当該クランクシャフトに作用可能に連結された圧縮ピストン、 当該クランクシャフトの単一の回転中の膨張ストローク及び排気ストロークを通して往復するように膨張シリンダーに摺動可能に収容されると共に、当該クランクシャフトに作用可能に連結された膨張ピストン、及び 圧縮シリンダー及び膨張シリンダーを相互に連結するクロスオーバー通路であって、内部に配置されたクロスオーバー膨張バルブを含むクロスオーバー通路、を備えるエンジンであって、 当該エンジンはエンジン点火燃焼モードで運転可能であり、当該エンジン点火燃焼モードでは、当該エンジンがクロスオーバー膨張バルブの閉成のときに所定の大きさの残りの膨張比を有し、且つ 当該エンジン点火燃焼モードでは、当該クロスオーバー膨張バルブは膨張ピストンの上死点後22度で閉じられる、エンジン。」 で一致し、以下の点で相違する。 <相違点> 本願発明においては、 「EFモードでは、当該エンジンがXovrEバルブの閉成のときに10.0対1から15.7対1の範囲内の大きさの残りの膨張比を有し、且つ当該EFモードでは、当該XovrEバルブは膨張ピストンの上死点後(ATDCe)22度から30度の範囲内で閉じられる」のに対し、引用発明1においては、 「圧縮混合気の点火及び燃焼を行う方法では、当該エンジン100,101がクロスオーバー・バルブ126の閉弁のときに上死点後22度に対応する大きさの残りの膨張比を有し、且つ当該圧縮混合気の点火及び燃焼を行う方法では、当該クロスオーバー・バルブ126は膨張ピストン114の上死点後22度で閉じられる」点(以下、「相違点1」という。)。 2 検討 相違点1について検討する。 本願発明において、「EFモードでは、当該エンジンがXovrEバルブの閉成のときに10.0対1から15.7対1の範囲内の大きさの残りの膨張比を有し、且つEFモードでは、当該XovrEバルブは膨張ピストンの上死点後(ATDCe)22度から30度の範囲内で閉じられる」とすることの技術的意義を知るために、本願の明細書を参照する。 本願の明細書には、 「当該XovrEバルブ26が遅ければ遅く閉じるほど、残りの(すなわち、効果的な容積測定の)膨張比はより小さくなり、この膨張比は、(b)当該XovrEバルブ26が閉じたときに丁度、膨張シリンダー14内に捕捉される容積に対する、(a)膨張ピストン30が下死点にあるときに、膨張シリンダー14内に捕捉される容積(すなわち、当該シリンダー14の壁、膨張ピストン30の頂部、及びシリンダーヘッド33の底部によって概ね画成されるチャンバーの容積)の比(a/b)として定義される。膨張ピストン30の膨張ストロークの間に、一旦、当該XovrEバルブ26が閉じられると、膨張シリンダー14内には膨張している捕捉された質量(マス)が存在するのみで、質量(マス)が膨張するにつれ仕事が行われる。明らかに、当該XovrEバルブ26が遅く閉じるほど、膨張ピストン30は上死点からより遠く、従って、残りの膨張比はより小さく、かつ、膨張ストロークの間、より少ない仕事が行われる。」(段落【0057】) 「図2に示されるように、EFモードでのエンジン効率における重大な低下を回避するためには、当該残りの膨張比が10.0:1以上に大きくあるべきである。より好ましくは、残りの膨張比が15.7:1以上に大きくあるべきである。この模範的な実施形態において、10.0:1以上の残りの膨張比を達成するためには、当該XovrEバルブが凡そ30度以下ATDCeで閉じられ、より好ましくは、22度以下ATDCeで閉じられるべきである。」(段落【0058】) と記載されており、「残りの膨張比」は、XovrEバルブ26が閉じる時期により決定され、エンジン効率の低下を避けるために残りの膨張比を10.0:1以上の大きさとし、より好ましくは、残りの膨張比を15.7:1以上の大きさとすべきであることが分かる。 (なお、本願発明における「10.0対1から15.7対1の範囲内の大きさの残りの膨張比」は、より好ましい大きさの残りの膨張比ではないから、格別顕著な作用効果があるとはいえない。) また、10.0:1以上の残りの膨張比を達成するために、XovrEバルブが30度以下ATDCe、より好ましくは、22度以下ATDCeで閉じられることが分かる。 そうすると、引用発明1においては、クロスオーバー・バルブ126は膨張ピストン114の上死点後22度で閉じられるのであるから、10.0:1以上の残りの膨張比が達成されることになる。 つまり、引用発明1においては、燃焼室内の圧縮混合気の点火及び燃焼を行う方法で、エンジンがクロスオーバー・バルブの閉弁のときに10.0以上の大きさの残りの膨張比を有し、且つクロスオーバー・バルブは膨張ピストンの上死点後22度で閉じられることとなる。 そして、「10.0以上の大きさの残りの膨張比」を、「10.0対1から15.7対1の範囲内の大きさの残りの膨張比」に限定することにより、格別顕著な作用効果が得られるわけではなく、「10.0対1から15.7対1の範囲内の大きさの残りの膨張比」に限定することは、当業者が適宜なし得たことであるといえる。 また、エンジン効率を考慮して、エンジンの各構成について実験的に数値範囲を好適化することは当業者の通常の創作能力の発揮であるから、引用発明1において、「残りの膨張比」を「10.0対1から15.7対1の範囲内の大きさ」と限定することは、当業者が容易になし得たことであるともいえる。 してみると、引用発明1において、エンジンの効率を最適化するために、残りの膨張比を「10.0対1から15.7対1の範囲内の大きさ」に限定して、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項を想到することは、当業者が容易になし得たことである。 そして、本願発明が、引用発明1からは予想しえない格別の効果を奏するものとも認められない。 したがって、本願発明は、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 対比・検討その2(引用発明2との対比・検討) 本願発明と引用発明2を対比する。 引用発明2における「クランクシャフト軸線110」は、その構成、機能及び技術的意義からみて、本願発明における「クランクシャフト軸」に相当し、以下同様に、「クランクシャフト108」は「クランクシャフト」に、「圧縮シリンダー106」は「圧縮シリンダー」に、「圧縮ピストン116」は「圧縮ピストン」に、「膨張シリンダー104」は「膨張シリンダー」に、「膨張ピストン114」は「膨張ピストン」に、「クロスオーバ通路144」は「クロスオーバー通路」に、「クロスオーバ・バルブ150」は「クロスオーバー膨張バルブ(XovrE)」及び「XovrEバルブ」に、「エンジン100」は「エンジン」に、「圧縮混合気の点火及び燃焼を行う方法」は「エンジン点火燃焼(EF)モード」及び「EFモード」に、「閉弁」は「閉成」に、「上死点後」は「上死点後(ATDCe)」に、それぞれ相当する。 また、引用発明2における「圧縮空気混合気の点火及び燃焼を行う方法では、当該エンジン100がクロスオーバ・バルブ150の閉弁のときに上死点後25度に対応する大きさの残りの膨張比を有し」は、「エンジン点火燃焼モードでは、当該エンジンがクロスオーバー膨張バルブの閉成のときに所定の大きさの残りの膨張比を有し」という限りにおいて、本願発明における「EFモードでは、当該エンジンがXovrEバルブの閉成のときに10.0対1から15.7対1の範囲内の大きさの残りの膨張比を有し」に相当する、 また、引用発明2における「クロスオーバー・バルブ150は膨張ピストン114の上死点後25度で閉じられる」は、「クロスオーバー膨張バルブは膨張ピストンの上死点後25度で閉じられる」という点で、本願発明における「XovrEバルブは膨張ピストンの上死点後(ATDCe)22度から30度の範囲内で閉じられる」と一致する。 したがって、両者は、 「クランクシャフト軸回りに回転可能なクランクシャフト、 当該クランクシャフトの単一の回転中の吸入ストローク及び圧縮ストロークを通して往復するように圧縮シリンダー内に摺動可能に収容されると共に、当該クランクシャフトに作用可能に連結された圧縮ピストン、 当該クランクシャフトの単一の回転中の膨張ストローク及び排気ストロークを通して往復するように膨張シリンダーに摺動可能に収容されると共に、当該クランクシャフトに作用可能に連結された膨張ピストン、及び 圧縮シリンダー及び膨張シリンダーを相互に連結するクロスオーバー通路であって、内部に配置されたクロスオーバー膨張バルブを含むクロスオーバー通路、を備えるエンジンであって、 当該エンジンはエンジン点火燃焼モードで運転可能であり、当該エンジン点火燃焼モードでは、当該エンジンがクロスオーバー膨張バルブの閉成のときに所定の大きさの残りの膨張比を有し、且つ 当該エンジン点火燃焼モードでは、当該クロスオーバー膨張バルブは膨張ピストンの上死点後25度で閉じられる、エンジン。」 という点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点> 本願発明においては、 「EFモードでは、当該エンジンがXovrEバルブの閉成のときに10.0対1から15.7対1の範囲内の大きさの残りの膨張比を有し、且つ当該EFモードでは、当該XovrEバルブは膨張ピストンの上死点後(ATDCe)22度から30度の範囲内で閉じられる」のに対し、引用発明2においては、 「圧縮混合気の点火及び燃焼を行う方法では、当該エンジン100がクロスオーバ・バルブ150の閉弁のときに上死点後25度に対応する大きさの残りの膨張比を有し、且つ当該圧縮混合気の点火及び燃焼を行う方法では、当該クロスオーバー・バルブ150は膨張ピストン114の上死点後25度で閉じられる」点(以下、「相違点2」という。)。 2 検討 相違点2について検討する。 上記第5 2において検討したように、本願発明において、「残りの膨張比」は、クロスオーバー膨張バルブ(XovrEバルブ)が閉じる時期により決定され、エンジン効率の低下を避けるために残りの膨張比が10.0:1以上とし、より好ましくは、残りの膨張比が15.7:1以上とすることが分かる。 また、10.0:1以上の残りの膨張比を達成するために、XovrEバルブが30度以下ATDCe、より好ましくは、22度以下ATDCeで閉じられることが分かる。 そうすると、引用発明2においては、クロスオーバー・バルブ150は膨張ピストン114の上死点後25度で閉じられるのであるから、10.0:1以上の残りの膨張比が達成されることになる。 つまり、引用発明2においては、圧縮混合気の点火及び燃焼を行う方法で、エンジンがクロスオーバー・バルブの閉弁のときに10.0以上の大きさの残りの膨張比を有し、且つクロスオーバー・バルブは膨張ピストンの上死点後25度で閉じられることとなる。 そして、上記のように、本願発明における「10.0対1から15.7対1の範囲内の大きさの残りの膨張比」は、上記のように、「より好ましくは、残りの膨張比が15.7:1以上とする」という残りの膨張比ではないのだから、「10.0以上の大きさの残りの膨張比」を、「10.0対1から15.7対1の範囲内の大きさの残りの膨張比」に限定することにより、格別顕著な作用効果が得られるわけではなく、このように「10.0対1から15.7対1の範囲内の大きさの残りの膨張比」に限定することは、当業者が適宜なし得たことであるといえる。 また、エンジン効率を考慮して、エンジンの各構成について実験的に数値範囲を好適化することは当業者の通常の創作能力の発揮であるから、引用発明2において、「残りの膨張比」を「10.0対1から15.7対1の範囲内の大きさ」と限定することは、当業者が容易になし得たことであるともいえる。 してみると、引用発明2において、エンジンの効率を最適化するために、残りの膨張比を「10.0対1から15.7対1の範囲内の大きさ」に限定して、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項を想到することは、当業者が容易になし得たことである。 そして、本願発明が、引用発明2からは予想しえない格別顕著な効果を奏するものとも認められない。 したがって、本願発明は、引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明1又は引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-11-19 |
結審通知日 | 2014-11-25 |
審決日 | 2014-12-09 |
出願番号 | 特願2012-515235(P2012-515235) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F02B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石黒 雄一 |
特許庁審判長 |
林 茂樹 |
特許庁審判官 |
金澤 俊郎 槙原 進 |
発明の名称 | 高い残りの膨張比を備える分割サイクルエンジン |
代理人 | 特許業務法人 谷・阿部特許事務所 |
復代理人 | 阿部 和夫 |