• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1299999
審判番号 不服2014-6055  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-03 
確定日 2015-04-23 
事件の表示 特願2008-117423号「遠心脱水装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年11月12日出願公開、特開2009-261781号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年4月28日の出願であって、平成24年6月29日付けで拒絶の理由が通知され(発送日:同年7月3日)、同年8月31日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに平成25年4月4日付けで拒絶の理由が通知され(発送日:同年4月9日)、同年6月4日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、平成26年1月8日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年1月14日)、それに対して、同年4月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に明細書及び特許請求の範囲に係る手続補正がなされたものである。

第2 平成26年4月3日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年4月3日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、平成25年6月4日付け手続補正書に

「【請求項1】
複数の被脱水物を内部に収容し、回転可能に取り付けられ周壁に複数の通水孔が設けられた回転槽を備え、
回転させた前記回転槽内に対して回転軸方向から連続的に供給および排出しながら内部に収容された複数の前記被脱水物から遠心脱水する遠心脱水装置において、
前記回転槽が脱水に要する所定回転数で回転している場合に、前記回転槽内で連接した個々の被脱水物に働く遠心力および重力に起因するバランスに基づき、前記被脱水物は前記回転槽の壁面近傍に連接し、
前記回転槽が前記所定回転数で回転している場合に、かつ前記被脱水物が前記回転槽の所定収容数以下の場合には、前記被脱水物は前記回転槽の遠心力のみでは前記回転槽から排出されず、
前記回転槽が前記所定回転数で回転している場合に、かつ前記被脱水物が前記回転槽の前記所定収容数以上の場合には、前記被脱水物は連続的な供給により後続する前記被脱水物によって押し出されて前記回転槽から排出されることを特徴とする遠心脱水装置。」

とあったものを、

「【請求項1】
複数の被脱水物を内部に収容し、回転可能に取り付けられ周壁に複数の通水孔が設けられた回転槽を備え、
回転させた前記回転槽内に対して回転軸方向から連続的に供給および排出しながら内部に収容された複数の前記被脱水物から遠心脱水する遠心脱水装置において、
前記回転槽が脱水に要する所定回転数で回転している場合に、前記回転槽内で連接した個々の被脱水物に働く遠心力および重力に起因するバランスに基づき、前記被脱水物は前記回転槽の壁面近傍に連接し、
前記回転槽が前記所定回転数で回転している場合に、かつ前記被脱水物が前記回転槽の所定収容数以下の場合には、前記被脱水物は前記回転槽の遠心力のみでは前記回転槽から排出されず、
前記回転槽が前記所定回転数で回転している場合に、かつ前記被脱水物が前記回転槽の前記所定収容数以上の場合には、前記被脱水物は連続的な供給により後続する前記被脱水物によって押し出されて前記回転槽から排出されるとともに、前記回転槽内で前記被脱水物が前記所定収容数に維持されることを特徴とする遠心脱水装置。」

と補正するものである(下線は審決にて付した。以下同じ。)。

2 新規事項の追加について
上記補正は、「回転槽が所定回転数で回転している場合に、かつ被脱水物が回転槽の所定収容数以上の場合には、被脱水物は連続的な供給により後続する被脱水物によって押し出されて回転槽から排出されるとともに、前記回転槽内で前記被脱水物が前記所定収容数に維持される」とするものであり、下線部で追加された被脱水物の動きないし状態によって遠心脱水装置をさらに限定して特定するものである。
これに対し、願書に最初に添付した明細書の段落【0019】には「次に、パチンコ玉2の移動について説明する。洗浄装置から排出された表面が濡れた状態のパチンコ玉2は、ホッパー9内に供給されて内槽8を経由して回転槽3内へ入る。このとき、回転槽3はモータ4によって回転軸4aを介して回転している。回転槽底部3a近傍に落下したパチンコ玉2は、回転槽3の回転による遠心力を受けて回転槽周壁3bへ移動する。さらに、後続して次々に回転槽3内に入ってくるパチンコ玉2の重力および遠心力により互いに接触しながら押されて、回転槽周壁3bでは先行して回転槽3内に入っていたパチンコ玉2が後続のパチンコ玉2と連接しながら徐々に上方へ押し上げられていく。なお、連続して新たにパチンコ玉2を供給しない場合には、パチンコ玉2は回転槽周壁3b近傍あるいは回転槽底部3a近傍に連接したまま回転槽3内でほぼ動かない状態となる。」、段落【0039】には「回転槽周壁3bの上端部が図2のパチンコ玉2aの位置であるとすると、新たなパチンコ玉2の供給によって上方へ押し上げられたパチンコ玉2aが回転槽3外へ排出される。一方、新たなパチンコ玉2の供給がなければ、パチンコ玉2a,2b,2cが回転槽3内に残存する状態が維持される。上記原理に基づき、回転槽3内においてパチンコ玉2の排出を抑制すると共に、回転槽周壁3bに連接させて連続的な供給に対応した連続的な排出を可能にする。」とそれぞれ記載されているが、請求人が補正の根拠として挙げている、これらのいずれの段落においても、新たなパチンコ玉の供給がなければ回転槽内のパチンコ玉が所定の個数に維持されることが説明されているにすぎず、パチンコ玉を連続的に供給した場合に、回転槽内におけるパチンコ玉が所定の個数に維持されることは記載されていない。
このことは、たとえば、願書に最初に添付した図1の回転槽内におけるパチンコ玉の動きと整合する。図1の回転槽内にパチンコ玉を連続的に供給したとき、願書に最初に添付した明細書の説明に基づけば、パチンコ玉が回転槽内に追加され、重力や遠心力のバランスが変化することで、回転槽内で最も上部にあるパチンコ玉に排出方向への力が加わり、この力はこのパチンコ玉を加速させ、排出方向に移動させることになるので、この排出には一定の時間を要する。つまり、パチンコ玉が供給されてから、パチンコ玉が排出されるまでに時間差があることから、パチンコ玉が連続的に供給されたときの回転槽内のパチンコ玉の個数は、新たなパチンコ玉の供給がなければ維持されるパチンコ玉の個数よりも多くなると理解される。
また、請求人が補正の根拠として挙げている、願書に添付した明細書の段落【0019】及び【0039】以外の記載や願書に添付した特許請求の範囲及び図面を考慮しても、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載されている事項は、新たな被脱水物の供給がなければ回転槽内の被脱水物は所定収容数に維持されるということにすぎず、「被脱水物は連続的な供給により後続する被脱水物によって押し出されて回転槽から排出されるとともに、回転槽内で被脱水物が所定収容数に維持される」という技術事項は開示されていないし、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面のすべての記載を総合しても導くことはできない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項に記載する要件を満たしていないので、同法159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 独立特許要件について
上記のとおり、本件補正は、特特許法第17条の2第3項に記載する要件を満たしていないが、仮に本件補正が、特許法第17条の2第3項に記載する要件を満たしているとすれば、すなわち、本件補正の「前記回転槽内で前記被脱水物が前記所定収容数に維持される」が、新たな被脱水物の供給がなければ回転槽内の被脱水物は所定収容数に維持されるということを意味するのであれば、本件補正は、被脱水物の動きないし状態を追加することで遠心脱水装置を限定的に減縮するものとなるから、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)刊行物1に記載された発明
原査定の平成25年4月4日付けの拒絶の理由に引用文献5として引用された特開昭62-241567号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1-a)「2.特許請求の範囲
1. 排出方向で拡開している脱水籠を回転させ、湿潤粉粒体を固液分離する遠心脱水機において、前記脱水籠出口に流量調整板を脱水籠の回転軸方向に対し直角に且つ回転軸方向に移動自在に設け、脱水籠出口端部と流量調整板との隙間を調整可能に形成したことを特徴とする遠心脱水機。
2. 排出方向で拡開している脱水籠を回転させ、湿潤粉粒体を固液分離する遠心脱水機において、前記脱水籠出口に流量調整環を脱水籠の回転軸方向に対し平行に且つ回転軸方向に移動自在に設け、脱水籠出口端部からの流量調整環の突出し量を調整可能に形成したことを特徴とする遠心脱水機。」(第1頁左欄第4行から第18行)

(1-b)「第1図は特許請求の範囲第1項の発明の実施例遠心脱水機における流量調整板3により脱水を完了した粉粒体25の排出流量の調整態様を示すもので、脱水籠1の壁面の勾配は湿潤粉粒体24の壁面摩擦角よりも大きくしてあるため装入管2より脱水籠1に装入された湿潤粉粒体は高速回転している脱水籠1の壁面を遠心力の分力により滑り上がっていく。湿潤粉粒体24が壁面を滑っていく速度は、脱水籠1の回転数、脱水籠1の壁面の勾配及び湿潤粉粒体24と脱水籠1の壁面の摩擦係数により変化するが、脱水籠1の壁面の勾配及び湿潤粉粒体24と脱水籠1の壁面の摩擦係数は一旦装置を作ってしまうと自由に調整することができないし、脱水籠1の回転数は脱水性能と直接関係しているため脱水を完了した粉粒体25の排出量を調整するために回転数の調整はできない。
従って第1図に於ける流量調整板3は脱水機1の側壁面を滑り上ってくる脱水中の粉粒体を脱水籠1の出口にて流量調整板3で一旦せき止め、装入管2から供給される湿潤粉粒体24と同一流量の脱水後粉粒体25を排出させようとするもので、流量調整板3と脱水機1の出口端面のすき間を変化させることで容易に調整が可能である。図中5はケーシング、20は排出シュート、26は脱水された水分を示す。」(第2頁右下欄第16行から第3頁左上欄第20行)

(1-c)「第4図、第5図は特許請求範囲の第2項の発明の実施例遠心脱水機における流量調整環3aにより脱水後粉粒体25の排出量を調整する態様を示したもので、脱水籠1の出口端部に脱水籠1の回転軸と平行な方向に移動可能な流量調整環3aを設け該流量調整環3aの脱水籠1の端面からの突き出し量を変化させることにより脱水を完了した粉粒体25の排出流量を調整することが可能となる。
即ち流量調整環3aの側壁面が脱水籠1の回転軸と平行にしてあるため、粉粒体が脱水籠1の壁面を滑り上がるための遠心力による分力が発生せず、粉粒体は完全に流量調整環3aの壁面に押し付けられたまま停止し、後から滑り上がってくる粉粒体に後押しされて初めて排出が可能となる。従ってこの部分では粉粒体が脱水籠1から排出される時に抵抗となり、その抵抗の大きさは流量調整環3aの突き出し量に比例して大きくなり、排出粉粒体の流量調整が可能となる。」(第3頁右上欄第3行から左下欄第1行)

(1-d)「第6図に於いて脱水籠1はその下部を軸受10、その上部をベアリング17にて回転自在に軸支されており、キー28にて駆動軸27に結合されたのち、カップリング9、ベベルギヤボックス8、カップリング7を経由して脱水籠旋回用電動機6と連結している。」(第3頁左下欄第5行から第10行)

(1-e)上記(1-a)ないし(1-d)の事項を踏まえると、第5図から、脱水籠1は、複数の湿潤粉粒体24を収容できるとともに、回転軸方向から装入管2を通じて複数の湿潤粉粒体24が同一流量で供給され、流量調整環3aの壁面を含む壁面をせり上がることで複数の湿潤粉粒体24を同一流量で排出し、複数の湿潤粉粒体24を壁面に沿って滑り上がらせながら複数の湿潤粉粒体24の水分を遠心脱水するものであることが把握できる。

(1-f)上記(1-a)ないし(1-d)の事項を踏まえると、第5図から、脱水籠1は、遠心力の壁面方向の分力が重力の壁面方向の分力と摩擦力に抗することで流量調整環3aの壁面を含む壁面に沿って複数の湿潤粉粒体24を滑り上がらせるとともに互いに接した状態とするものであることが把握できる。

上記(1-a)ないし(1-f)の事項を総合すると、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる(以下「刊行物1発明」という。)。
「流量調整環の壁面を含む壁面を有することで複数の湿潤粉粒体を収容し、回転自在に軸支され、複数の前記湿潤粉粒体が壁面に沿って滑り上がる範囲で脱水する脱水籠を備え、
回転させた前記脱水籠内に対して回転軸方向から同一流量で供給および排出しながら前記脱水籠内に収容された複数の前記湿潤粉粒体から遠心脱水する遠心脱水機において、
前記脱水籠が遠心脱水可能な回転数で回転している場合に、前記脱水籠内の複数の前記湿潤粉粒体に働く遠心力の分力が重力の分力と摩擦力に抗することで複数の前記湿潤粉粒体が壁面に沿って滑り上がるとともに互いに接した状態となり、
前記脱水籠が遠心脱水可能な回転数で回転している場合であっても、流量調整環の壁面にある複数の前記湿潤粉粒体には滑り上がるための遠心力による分力が発生しないため、後から前記湿潤粉粒体が滑り上がってこない限り、前記流量調整環の壁面にある複数の前記湿潤粉粒体は前記流量調整環の壁面に押し付けられたまま停止され、
前記脱水籠が遠心脱水可能な回転数で回転している場合に、前記流量調整環の壁面にある複数の前記湿潤粉粒体の後から前記湿潤粉粒体が滑り上がってくる場合には、前記湿潤粉粒体は前記脱水籠内に対して回転軸方向から同一流量で供給された当該後から滑り上がってくる前記湿潤粉粒体に後押しされて前記脱水籠から排出される遠心脱水機。」

(2)対比
本願補正発明と刊行物1発明とを対比する。

ア 刊行物1発明における「湿潤粉粒体」、「回転自在に軸支され」、「流量調整環の壁面を含む壁面」及び「脱水籠」は、それぞれ、本願補正発明における「被脱水物」、「回転可能に取り付けられ」、「周壁」及び「回転槽」に相当するから、本願補正発明における「複数の被脱水物を内部に収容し、回転可能に取り付けられ周壁に複数の通水孔が設けられた回転槽」と、刊行物1発明における「流量調整環の壁面を含む壁面を有することで複数の湿潤粉粒体を収容し、回転自在に軸支され、複数の前記湿潤粉粒体が壁面に沿って滑り上がる範囲で脱水する脱水籠」とは、「複数の被脱水物を内部に収容し、回転可能に取り付けられ周壁」を有する「回転槽」で共通する。

イ 刊行物1発明における「同一流量で」及び「遠心脱水機」は、それぞれ、本願補正発明における「連続的に」及び「遠心脱水装置」に相当するから、刊行物1発明における「回転させた前記脱水籠内に対して回転軸方向から同一流量で供給および排出しながら前記脱水籠内に収容された複数の前記湿潤粉粒体から遠心脱水する遠心脱水機」は、本願補正発明における「回転させた前記回転槽内に対して回転軸方向から連続的に供給および排出しながら内部に収容された複数の前記被脱水物から遠心脱水する遠心脱水装置」に相当する。

ウ 刊行物1発明における「前記脱水籠が遠心脱水可能な回転数で回転している場合」及び「複数の前記湿潤粉粒体が壁面に沿って」「互いに接した状態」は、それぞれ、本願補正発明における「前記回転槽が脱水に要する所定回転数で回転している場合」及び「前記被脱水物は前記回転槽の壁面近傍に連接」に相当する。また、刊行物1発明においては、脱水籠が遠心脱水可能な回転数で回転している場合に、脱水籠内の複数の湿潤粉粒体に働く遠心力の分力が重力の分力と摩擦力に抗することで互いに接した状態で複数の湿潤粉粒体が滑り上がることから、個々の湿潤粉粒体に働く遠心力の分力と重力の分力と摩擦力がバランスしていることは明らかであるところ、本願の発明の詳細な説明の段落【0037】における「以上のように、付勢力102b?102h、103d、103eは、パチンコ玉が隣接するパチンコ玉を押す力であり、この付勢力のバランスでパチンコ玉の配置関係および移動可否が決定されている。付勢力が正の値で有り、付勢力が与えられている側のパチンコ玉が移動して余地があれば、付勢力を与えている側のパチンコ玉は付勢方向へ移動することになる。従って、回転槽周壁3bの壁面に沿った垂直最上部にあり垂直上方へ移動する余地のあるパチンコ玉2aにおいては、付勢力102dの垂直方向への分力と付勢力102bとの合力から重力101aと移動時の摩擦力(図示していない)とを差し引いた合力である排出力104が正の値で有ればパチンコ玉2aが垂直上方へ移動していくことになる。」という記載からも明らかなように、本願補正発明においても実質的に摩擦力を考慮していることから、刊行物1発明における「複数の前記湿潤粉粒体が壁面に沿って」「互いに接した状態」は、本願と同様の意味で、遠心力と重力のバランスに基づいて実現されているものといえる。
したがって、刊行物1発明における「前記脱水籠が遠心脱水可能な回転数で回転している場合に、前記脱水籠内の複数の前記湿潤粉粒体に働く遠心力の分力が重力の分力と摩擦力に抗することで複数の前記湿潤粉粒体が壁面に沿って滑り上がるとともに互いに接した状態となり」は、本願補正発明における「前記回転槽が脱水に要する所定回転数で回転している場合に、前記回転槽内で連接した個々の被脱水物に働く遠心力および重力に起因するバランスに基づき、前記被脱水物は前記回転槽の壁面近傍に連接し」に相当する。

エ 刊行物1発明においては、脱水籠が遠心脱水可能な回転数で回転している場合であっても、流量調整環の壁面にある複数の湿潤粉粒体には滑り上がるための遠心力による分力が発生しないため、後から前記湿潤粉粒体が滑り上がってこない限り、流量調整環の壁面にある複数の湿潤粉粒体は流量調整環の壁面に押し付けられたまま停止されていることになる。つまり、刊行物1発明における脱水籠は、遠心脱水可能な回転数で回転している場合であっても、湿潤粉粒体を後押しするに十分な量の湿潤粉粒体が後から滑り上がってこない限り、遠心力が作用しても、流量調整環の壁面で停止している所定量の湿潤粉粒体を脱水籠から排出しないという動きないし状態を実現するものであるといえる。
したがって、本願補正発明における「前記回転槽が前記所定回転数で回転している場合に、かつ前記被脱水物が前記回転槽の所定収容数以下の場合には、前記被脱水物は前記回転槽の遠心力のみでは前記回転槽から排出されず」と、刊行物1発明における「前記脱水籠が遠心脱水可能な回転数で回転している場合であっても、流量調整環の壁面にある複数の前記湿潤粉粒体には滑り上がるための遠心力による分力が発生しないため、後から前記湿潤粉粒体が滑り上がってこない限り、前記流量調整環の壁面にある複数の前記湿潤粉粒体は前記流量調整環の壁面に押し付けられたまま停止され」とは、「前記回転槽が前記所定回転数で回転している場合」であっても、所定数量以下の「前記被脱水物は前記回転槽の遠心力のみでは前記回転槽から排出され」ない点で共通する。

オ 上記エのとおり、刊行物1発明における脱水籠は、遠心脱水可能な回転数で回転している場合であっても、湿潤粉粒体を後押しするに十分な量の湿潤粉粒体が後から滑り上がってこない限り、遠心力が作用しても、流量調整環の壁面で停止している所定量の湿潤粉粒体を脱水籠から排出しないという動きないし状態を実現するものであるから、刊行物1発明における「前記脱水籠が遠心脱水可能な回転数で回転している場合に、前記流量調整環の壁面にある複数の前記湿潤粉粒体の後から前記湿潤粉粒体が滑り上がってくる場合には、前記脱水籠内に対して回転軸方向から同一流量で供給された当該後から滑り上がってくる前記湿潤粉粒体に後押しされて前記脱水籠から排出される」とは、刊行物1発明における脱水籠が、脱水籠が遠心脱水可能な回転数で回転している場合であり、かつ、流量調整環の壁面で停止している所定量の湿潤粉粒体に後押しするに十分な量の湿潤粉粒体が脱水籠に加わった場合には、それだけでは遠心力があっても排出されない湿潤粉粒体を後押しすることで脱水籠から湿潤粉粒体を排出するという動きないし状態を実現するものであることを意味する。

カ また、上記エのとおり、刊行物1発明における脱水籠は、遠心脱水可能な回転数で回転している場合であっても、湿潤粉粒体を後押しするに十分な量の湿潤粉粒体が後から滑り上がってこない限り、遠心力が作用しても、流量調整環の壁面で停止している所定量の湿潤粉粒体を脱水籠から排出しないという動きないし状態を実現するものであるから、刊行物1発明における脱水籠は、流量調整環の壁面に存在する所定量の湿潤粉粒体に、当該湿潤粉粒体を後押しするに十分な量の湿潤粉粒体が脱水籠に新たに加わった場合、追加された量に相当する湿潤粉粒体が排出された後は、流量調整環の壁面に所定量の湿潤粉粒体が残り、それ以上排出されないという状態を実現することになる。本願補正発明における「前記回転槽内で前記被脱水物が前記所定収容数に維持される」という構成が、仮に、本願の発明の詳細な説明の段落【0019】や【0039】に記載されているように、新たに被脱水物が加えられない限り、回転槽内の被脱水物の個数に変化がないことを意味するのであれば、本願補正発明と刊行物1発明とは、被脱水物が所定数量で維持される点で共通する。

キ なお、請求項1では、「所定収容数以下」の場合と「所定収容数以上」の場合で異なる動作ないし状態が特定されており、ちょうど「所定収容数」の場合にいずれの動作ないし状態となるかは一義的には明らかではないが、本願の発明の詳細な説明の段落【0039】等を参酌すれば、「所定収容数以上」とは、所定収容数を超えた場合を意味すると理解され、さらに「以上」には「程度・数量などについて、それより多い」という意味があることから(株式会社岩波書店広辞苑第六版)、請求項1の「所定収容数以上の場合」は、所定収容数を超えた場合を意味するといえる。

ク よって、上記オないしキでした検討を踏まえると、本願補正発明における「前記回転槽が前記所定回転数で回転している場合に、かつ前記被脱水物が前記回転槽の前記所定収容数以上の場合には、前記被脱水物は連続的な供給により後続する前記被脱水物によって押し出されて前記回転槽から排出されるとともに、前記回転槽内で前記被脱水物が前記所定収容数に維持される」と、刊行物1発明における「前記脱水籠が遠心脱水可能な回転数で回転している場合に、前記流量調整環の壁面にある複数の前記湿潤粉粒体の後から前記湿潤粉粒体が滑り上がってくる場合には、前記湿潤粉粒体は前記脱水籠内に対して回転軸方向から同一流量で供給された当該後から滑り上がってくる前記湿潤粉粒体に後押しされて前記脱水籠から排出される」とは、「前記回転槽が前記所定回転数で回転している場合」、かつ、所定数量よりも多くの前記被脱水物が前記回転槽内に収容されている場合には、「前記被脱水物は連続的な供給により後続する前記被脱水物によって押し出されて前記回転槽から排出されるとともに」、遠心力が作用しても排出されない所定数量まで被脱水物が減少して維持される点で共通する。

ケ したがって、本願補正発明と刊行物1発明とは、

「複数の被脱水物を内部に収容し、回転可能に取り付けられ周壁を有する回転槽を備え、
回転させた前記回転槽内に対して回転軸方向から連続的に供給および排出しながら内部に収容された複数の前記被脱水物から遠心脱水する遠心脱水装置において、
前記回転槽が脱水に要する所定回転数で回転している場合に、前記回転槽内で連接した個々の被脱水物に働く遠心力および重力に起因するバランスに基づき、前記被脱水物は前記回転槽の壁面近傍に連接し、
前記回転槽が前記所定回転数で回転している場合に、前記被脱水物が前記回転槽の所定数量以下の場合には、前記被脱水物は前記回転槽の遠心力のみでは前記回転槽から排出されず、
前記回転槽が前記所定回転数で回転している場合、かつ、前記被脱水物が前記回転槽の前記所定数量以上ないし超える場合には、前記被脱水物は連続的な供給により後続する前記被脱水物によって押し出されて前記回転槽から排出されるとともに、前記回転槽内で前記被脱水物が前記所定数量に維持される遠心脱水装置。」

の点で一致し、以下の点で相違し、

[相違点1]:

本願補正発明における回転槽の周壁には複数の通水孔が設けられているのに対し、刊行物1発明における回転槽の周壁に通水孔が設けられているか否か不明な点。

さらに以下の点で一応相違する。

[相違点2]:

被脱水物が遠心力のみでは回転槽から排出されない状態と、被脱水物が回転槽から排出されるとともに所定数量に維持される動きないし状態について、本願補正発明においては、所定収容数以下の場合と所定収容数以上ないし超える場合とで区別して特定されているのに対し、刊行物1発明においては、そのように特定されていない点。

(3)判断
ア 相違点1について
遠心脱水装置の回転槽に複数の通水孔を設けることは周知技術にすぎない(たとえば、特開平10-305160号公報の段落【0033】等、特公昭41-17273号公報)。刊行物1発明は、複数の湿潤粉粒体が壁面に沿って滑り上がる範囲で脱水するものであるところ、この脱水機能を有する範囲に対応する壁面に、脱水のための複数の通水孔を設けることは、周知技術の付加にすぎない。

イ 相違点2について
(ア)本願補正発明における「前記回転槽が前記所定回転数で回転している場合に、かつ前記被脱水物が前記回転槽の所定収容数以下の場合には、前記被脱水物は前記回転槽の遠心力のみでは前記回転槽から排出されず、前記回転槽が前記所定回転数で回転している場合に、かつ前記被脱水物が前記回転槽の前記所定収容数以上の場合には、前記被脱水物は連続的な供給により後続する前記被脱水物によって押し出されて前記回転槽から排出されるとともに、前記回転槽内で前記被脱水物が前記所定収容数に維持される」という特定事項は、被脱水物の動きないし状態によって回転槽を特定するものであるから、刊行物1発明における回転槽が、これと同じ動きないし状態を実現するものであるか否かについて以下検討する。

(イ)刊行物1発明における回転槽は、所定量以下の場合には被脱水物が遠心力のみでは回転槽から排出されず、所定量を超える場合には、被脱水物は回転槽から排出されるとともに、所定量に維持されるものと解されるが、被脱水物が量で特定されるものか数で特定されるものかの違いがあっても、遠心力と重力のバランスで被脱水物が排出されるか否かが決まるという原理には違いが生じないから、刊行物1発明の回転槽内に収容される被脱水物が、量ではなく個数によって特定されるものであっても、遠心力のみでは回転槽から排出されない被脱水物が一定数存在することになることは、当業者にとって自明な事項である。すなわち、被脱水物が個数によって特定される場合に、刊行物1発明における回転槽は、所定収容数以下の場合には、被脱水物が遠心力のみでは回転槽から排出されず、所定収容数以上ないし超える場合には、被脱水物は回転槽から排出されるともに、所定収容数に維持されるという動きないし状態を実現するものであることは、当業者にとって自明な事項であるから、上記相違点2は実質的な相違点ではない。

ウ 本願補正発明が奏する効果について
本願補正発明が奏する効果は、当業者が刊行物1発明及び周知技術から予測し得る程度のものであって、格別のものではない。

エ 請求人の主張について
請求人は、請求の理由において、本願補正発明は「前記回転槽が前記所定回転数で回転している場合に、かつ前記被脱水物が前記回転槽の所定収容数以下の場合には、前記被脱水物は前記回転槽の遠心力のみでは前記回転槽から排出されず、前記回転槽が前記所定回転数で回転している場合に、かつ前記被脱水物が前記回転槽の前記所定収容数以上の場合には、前記被脱水物は連続的な供給により後続する前記被脱水物によって押し出されて前記回転槽から排出されるとともに、前記回転槽内で前記被脱水物が前記所定収容数に維持される」という構成を有しているため、供給量が変化しても、回転槽内に所定収容数の被脱水物が常に保持されるのに対し、刊行物1では、供給量が変化すると脱水籠内の粉粒体の収容数も変化すると主張する。
確かに、本件補正後の請求項1の記載のみに基づけば、供給量が変化しても、回転槽内に所定収容数の被脱水物が常に保持されることが特定されていると理解されなくもないが、上記2で述べたように、このような状態を実現する回転槽ないし遠心脱水装置については、新規事項の追加に該当するのであり、上記主張は新規事項に基づくものであるから採用することはできない。本願の発明の詳細な説明の段落【0019】には「連続して新たにパチンコ玉2を供給しない場合には、パチンコ玉2は回転槽周壁3b近傍あるいは回転槽底部3a近傍に連接したまま回転槽3内でほぼ動かない状態となる。」、段落【0039】には「新たなパチンコ玉2の供給がなければ、パチンコ玉2a,2b,2cが回転槽3内に残存する状態が維持される。」とそれぞれ記載されているが、このことをもって、供給量が変化しても、回転槽内の被脱水物が常に所定収容数に保持されるとまではいえない。
むしろ、上記2で述べたように、本願の発明の詳細な説明や図面を参酌すれば、「パチンコ玉が供給されてから、パチンコ玉が排出されるまでに時間差があることから、パチンコ玉が連続的に供給されたときの回転槽内のパチンコ玉の個数は、新たなパチンコ玉の供給がなければ維持されるパチンコ玉の個数よりも多くなると理解される」から、本願補正発明における回転槽の機能は、刊行物1発明の脱水籠の機能と同じであるといえる。
よって、請求人の主張を採用することはできない。

オ まとめ
以上のように、本願補正発明は、当業者が刊行物1発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 補正却下の決定についてのむすび
上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項に記載する要件を満たしていないので、同法159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

仮に本件補正が、特許法第17条の2第3項に記載する要件を満たしているとしても、限定的減縮を目的とする本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年6月4日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
複数の被脱水物を内部に収容し、回転可能に取り付けられ周壁に複数の通水孔が設けられた回転槽を備え、
回転させた前記回転槽内に対して回転軸方向から連続的に供給および排出しながら内部に収容された複数の前記被脱水物から遠心脱水する遠心脱水装置において、
前記回転槽が脱水に要する所定回転数で回転している場合に、前記回転槽内で連接した個々の被脱水物に働く遠心力および重力に起因するバランスに基づき、前記被脱水物は前記回転槽の壁面近傍に連接し、
前記回転槽が前記所定回転数で回転している場合に、かつ前記被脱水物が前記回転槽の所定収容数以下の場合には、前記被脱水物は前記回転槽の遠心力のみでは前記回転槽から排出されず、
前記回転槽が前記所定回転数で回転している場合に、かつ前記被脱水物が前記回転槽の前記所定収容数以上の場合には、前記被脱水物は連続的な供給により後続する前記被脱水物によって押し出されて前記回転槽から排出されることを特徴とする遠心脱水装置。」

2 刊行物
刊行物1の記載事項及び刊行物1に記載された発明並びに周知技術については、上記「第2 3」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明から「前記回転槽内で前記被脱水物が前記所定収容数に維持される」という事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 3」に記載したとおり、当業者が刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-20 
結審通知日 2015-02-24 
審決日 2015-03-10 
出願番号 特願2008-117423(P2008-117423)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63F)
P 1 8・ 55- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河本 明彦  
特許庁審判長 長崎 洋一
特許庁審判官 泉 卓也
平城 俊雅
発明の名称 遠心脱水装置  
代理人 田澤 英昭  
代理人 濱田 初音  
代理人 濱田 初音  
代理人 田澤 英昭  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ