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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23Q
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B23Q
管理番号 1300298
審判番号 不服2014-3287  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-21 
確定日 2015-04-30 
事件の表示 特願2009-228042「ボーリングバー収納装置、およびそのボーリングバー収納装置を備えた工作機械」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月14日出願公開、特開2011- 73103〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は、平成21年9月30日の出願であって、平成25年7月11日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、同年9月19日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年2月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

【2】平成26年2月21日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年2月21日付けの手続補正を却下する。

[理由]
[1]補正後の本願発明
平成26年2月21日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、以下のように補正された。
「Z軸周りに回転可能な主軸台に保持されたワークに対し、刃物台に保持されたボーリングバーによって加工可能な工作機械において、前記ボーリングバーを収納するために、前記刃物台に対して主軸台と反対側の非加工領域に設けられるボーリングバー収納装置であって、
ボーリングバーを保持した状態でZ軸方向に沿って移動する複数の第一支持体と、
それらの第一支持体をZ軸方向と直交するX軸方向に並設してなる第二支持体とを有しており、
その第二支持体が、前記複数の第一支持体を一緒にX軸方向に移動可能になっているとともに、
第二支持体においては、前記複数の第一支持体が独立してZ軸方向に移動可能になっており、かつ、
第一支持体および第二支持体が、刃物台側にシャッターを配置したものであることを特徴とするボーリングバー収納装置。」

上記補正は、本件補正前の請求項1に係る発明に「主軸台」及び「刃物台」を加え、「ワーク」と「主軸台」との関係、「ボーリングバー」と「刃物台」との関係を明らかにするとともに、「非加工領域に設けられるボーリングバー収納装置」の配置を「刃物台に対して主軸台と反対側」と限定し、さらに「第一支持体および第二支持体が、刃物台側にシャッターを配置したものである」ことを限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて、以下検討する。

[2]引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された、特開2009-178804号公報(以下「刊行物」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付与)。

(ア)
「工作機械の機械本体と、回転可能に支持された工作物用主軸の先端にチャックが設けられ、前記機械本体に設けられた主軸台と、少なくともボーリングバーを保持可能に前記機械本体に設けられて移動可能な刃物台と、複数本の前記ボーリングバーを収納可能なボーリングバーマガジンとを有し、
前記チャックに把持された工作物に対して、前記刃物台の前記ボーリングバーで旋削加工を行い、
前記刃物台を移動させて割出し位置で前記刃物台と前記ボーリングバーマガジンとの間で前記ボーリングバーを交換するようにした工作機械であって、
前記ボーリングバーマガジンは、
前記機械本体に固定されたマガジン基台と、
このマガジン基台に昇降動作可能に支持され、前記複数本の前記ボーリングバーを収納可能なフレーム部と、
このフレーム部に収納されている前記ボーリングバーを直線移動させて、所定高さに設定された前記割出し位置に割出すための移動手段とを備えたことを特徴とするボーリングバーマガジンを有する工作機械。」(【請求項1】)

(イ)
「工作機械1は、工作機械1の機械本体2と、主軸台3と、刃物台4と、ボーリングバーマガジン5とを有している。
主軸台3は、回転可能に支持された工作物用主軸6を有して、機械本体2に設けられている。工作物用主軸6の中心軸線CL1が、床面FLに対してほぼ水平で正面から見て左右方向(Z軸方向)に延びている。工作物用主軸6の先端には、チャック7が設けられている。
刃物台4は、少なくともボーリングバー8を保持可能に機械本体2に設けられ、少なくとも2軸方向(ここでは、Z軸方向とX軸方向)に移動可能である。
ボーリングバーマガジン5は、機械本体2に付設され、複数本のボーリングバー8を収納可能である。
工作物9が長寸法の場合には、ボーリングバー8でボーリング加工することが多い。このときは、ボーリングバーマガジン5に収納されているボーリングバー8を、刃物台4に装着することになる。なお、ボーリングバー8のうち特に長寸法の工具は、ロングボーリングバーと呼ばれている。
工作機械1は、チャック7に把持された工作物9に対して、刃物台4のボーリングバー8を少なくとも2軸方向(Z軸方向とX軸方向)に移動させて旋削加工を行う。工作機械1は、刃物台4を移動させて、割出し位置P0(図6,図11)で、刃物台4とボーリングバーマガジン5との間でボーリングバー8を交換することができる。
ボーリングバーマガジン5は、機械本体2に固定されたマガジン基台15と、フレーム部16と、移動手段17とを備えている。
フレーム部16は、マガジン基台15に昇降動作可能に支持され、複数本(ここでは、3本)のボーリングバー8を収納することができる。移動手段17は、フレーム部16に収納されているボーリングバー8を、直線移動させて所定高さ位置Hと同じ高さに設定された割出し位置P0に割出すことができる(図4,図6,図19)。
ボーリングバーマガジン5の全体が、水平方向に移動するわけではない。したがって、ボーリングバーマガジン5の平面視での移動スペースを確保する必要性がなくなって、省スペースを実現できる。また、ボーリングバー8の交換に必要な動力を低減するとともに、交換動作とそのための機構を簡素化できる。」(【0012】?【0014】)

(ウ)
「門形基体33の右側には、第2主軸台50が主軸台3に対向して配置されている。第2主軸台50には、第2の工作物用主軸51が回転可能に支持されている。第2の工作物用主軸51の先端には、工作物9を把持可能な第2のチャック52が着脱可能に取付けられている。工作物9は、第2のチャック54に把持されて、第2の工作物用主軸51により中心軸線CL3を中心として回転可能である。
第2主軸台50は、ガイドレールに案内支持されて左右方向に往復移動可能である。ベッド30には、第2主軸台50用のボールねじのねじ軸が配置されている。このねじ軸は、第2主軸台50に固定されたボールナットにねじ込まれている。
ベッド30には、第2主軸台用サーボモータが取付けられている。第2主軸台用サーボモータに駆動されてねじ軸が回転すると、ボールナットが固定されている第2主軸台50が、ガイドレールに案内支持されてZ軸方向に移動する。
このように、工作物9を主軸台3のチャック7のみで把持して、回転または非回転状態にすることができる。この場合、工作物9が長寸法のときには、第2主軸台50の第2の工作物用主軸51にセンタを取付けるのが好ましい。この場合、第2主軸台50は心押台の機能を発揮することになる。こうすれば、工作物9の左側端部がチャック7で把持され、工作物9の右側端部がセンタで支持されるので、工作物9全体をより安定した状態で回転させることができる。
これとは別に、第2主軸台50の第2のチャック52のみで工作物9を把持して、工作物9を回転状態または非回転状態にすることができる。
さらに、主軸台3のチャック7で工作物9の左側端部を把持し、第2主軸台50の第2のチャック52で工作物9の右側端部を支持してもよい。こうすれば、工作物9は、両端支持された状態で回転する。」(【0021】?【0022】)

(エ)
「加工領域SPは、切り屑やクーラントが外部に飛散しないようにスプラッシュガード53で覆われている。・・・スプラッシュガード53の左側面部には、ボーリングバーマガジン5用のシャッタ58が設けられている。シャッタ58は、割出し位置P0に対向した位置に設けられている。シャッタ58が開いて通路が形成されると、刃物台4の一部分やボーリングバー8は、この通路を通過可能である。」(【0025】)

(オ)
「図1ないし図6,図11において、ボーリングバーマガジン5は、工作機械1の加工領域SPの外部(すなわち、スプラッシュガード53より外方)に設置されている。これにより、ボーリングバーマガジン5に収納されているボーリングバー8に、切り屑やクーラントが飛び散ってこれを汚すのを防止できる。その結果、ボーリングバー8を刃物台4に精度よく装着することができる。・・・」(【0030】)

(カ)
「次に、ボーリングバーマガジン5について説明する。
フレーム部16は、上下方向に並んだ複数段の収納部を有している。収納部として上から順に、上段収納部61,中段収納部62,下段収納部63が並んで配置されている。上段収納部61と同じ高さ位置Hに、割出し位置P0が設定されている。
各収納部(上段収納部61,中段収納部62,下段収納部63)には、ボーリングバー8がそれぞれ1本ずつ収納されている。移動手段17は、各収納部の各ボーリングバー8を、直交3軸方向(X軸方向,Y軸方向,Z軸方向)または直交2軸方向(X軸方向,Y軸方向)に直線移動させて割出し位置P0に割出すとともに、刃物台4に対して着脱することができる。
これにより、ボーリングバーマガジン5に収納されている3本のボーリングバー8から選択されたボーリングバー8を、割出し位置P0に割出すことができる。そして、刃物台4を移動させれば、割出し位置P0で、刃物台4とボーリングバーマガジン5との間でボーリングバー8を交換することができる。
移動手段17は、昇降機構64と前後方向移動機構65と中心軸線方向移動機構66とを有している。
昇降機構64はフレーム部16を直線的に昇降させて、各収納部61,62または63を、割出し位置P0と同じ高さの所定高さ位置Hに自在に移動させることができる。
前後方向移動機構65は、昇降機構64により所定高さ位置Hに位置決めされた収納部61,62または63と、割出し位置P0との間で、ボーリングバー8を前後方向(Y軸方向)に直線的に移動させることができる。
中心軸線方向移動機構66は、前後方向移動機構65により割出し位置P0に割出されたボーリングバー8をその中心軸線方向(Z軸方向)に直線的に水平移動させて、刃物台4に対してボーリングバー8を着脱することができる。
このようにして、移動手段17は、フレーム部16に収納されているボーリングバー8を、X軸方向,Y軸方向およびZ軸方向の直交3軸方向にそれぞれ直線移動させる。その結果、移動手段17は、ボーリングバー8を割出し位置P0に割出して刃物台4に着脱することができる。」(【0034】?【0035】)

(キ)
「ボーリングバー8を交換するには、まず最初に交換開始信号が出力される。すると、ボーリングバーマガジン用シャッタ58が開いて通路を形成する。そして、図11に示すように、刃物台4の一部分が、通路を通ってボーリングバーマガジン5のところまで移動する。やがて、刃物台4がボーリングバーマガジン5に対向し、工具用主軸10の中心軸線が、割出し位置P0の中心軸線と一致する。・・・」(【0046】)

(ク)
上記記載事項(ウ)によれば、「第2主軸台50の第2のチャック52のみで工作物9を把持して、工作物9を回転状態または非回転状態にすることができる。」との記載があり、主軸台3を用いずに第2主軸台50のみにより工作物9を保持することが開示されている。また、図3を参照すれば、ボーリングバー8が刃物台4に保持されていること及びボーリングバーマガジン5が刃物台4に対して第2主軸台50と反対側の非加工領域に設けられていることが見て取れる。以上によれば、刊行物には、「第2主軸台50に保持された工作物9に対し、刃物台4に保持されたボーリングバー8によって加工可能な工作機械1において、前記ボーリングバー8を収納するために、前記刃物台4に対して第2主軸台50と反対側の非加工領域に設けられるボーリングバーマガジン5」が記載されているとみることができる。

【図3】

(ケ)
上記記載事項(カ)及び図11によれば、「ボーリングバーマガジン5が、ボーリングバー8を収納する複数の収納部61,62,63と、それらの収納部61,62,63をZ軸方向と直交するX軸方向に並設してなるフレーム部16とを有して」いることが理解される。

【図11】

(コ)
上記記載事項(カ)及び図11によれば、「昇降機構64はフレーム部16を直線的に昇降させて、各収納部61,62または63を、割出し位置P0と同じ高さの所定高さ位置Hに自在に移動させることができる。」との記載があり、昇降機構64により、「フレーム部16が、複数の収納部61,62,63を一緒にX軸方向に移動可能になっている」ことが理解される。

(サ)
上記記載事項(エ)及び(キ)並びに図11によれば、ボーリングバーマガジン5と刃物台4との間にシャッタ58を配置したことが理解される。

上記記載事項(ア)?(キ)、上記認定事項(ク)?(サ)及び図面の記載並びに当業者の技術常識によれば、上記刊行物には、以下の発明が記載されていると認められる。

「Z軸周りに回転可能な第2主軸台50に保持された工作物9に対し、刃物台4に保持されたボーリングバー8によって加工可能な工作機械1において、前記ボーリングバー8を収納するために、前記刃物台4に対して第2主軸台50と反対側の非加工領域に設けられるボーリングバーマガジン5であって、
ボーリングバー8を収納する複数の収納部61,62,63と、
それらの収納部61,62,63をZ軸方向と直交するX軸方向に並設してなるフレーム部16とを有しており、
そのフレーム部16が、前記複数の収納部61,62,63を一緒にX軸方向に移動可能になっているとともに、
ボーリングバーマガジン5と刃物台4との間にシャッタ58を配置したものであるボーリングバーマガジン5。」(以下「引用発明」という。)

[3]対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、その機能及び作用からみて、引用発明の「第2主軸台50」、「工作物9」、「刃物台4」、「ボーリングバー8」、「工作機械1」、「ボーリングバーマガジン5」、「フレーム部16」、「シャッタ58」は、それぞれ、本願補正発明の「主軸台」、「ワーク」、「刃物台」、「ボーリングバー」、「工作機械」、「ボーリングバー収納装置」、「第二支持体」、「シャッター」に相当する。
また、引用発明の「ボーリングバー8を収納する複数の収納部61,62,63」は、ボーリングバー8を収納して保持するものとして捉えることができることから、本願補正発明の「ボーリングバーを保持する第一支持体」に相当する。

そうすると、両者は、
「Z軸周りに回転可能な主軸台に保持されたワークに対し、刃物台に保持されたボーリングバーによって加工可能な工作機械において、前記ボーリングバーを収納するために、前記刃物台に対して主軸台と反対側の非加工領域に設けられるボーリングバー収納装置であって、
ボーリングバーを保持する複数の第一支持体と、
それらの第一支持体をZ軸方向と直交するX軸方向に並設してなる第二支持体とを有しており、
その第二支持体が、前記複数の第一支持体を一緒にX軸方向に移動可能になっているボーリングバー収納装置。」
の点で一致し、次の点で相違している。

〈相違点1〉
複数の第一支持体について、本願補正発明が、ボーリングバーを保持した状態で独立してZ軸方向に移動可能であるのに対して、引用発明ではその点が不明である点。

〈相違点2〉
シャッターの配置について、本願補正発明が、「第一支持体および第二支持体が、刃物台側にシャッターを配置したものである」のに対して、引用発明が「ボーリングバーマガジン5と刃物台4との間にシャッタ58を配置したものである」点。

[4]判断
〈相違点1について〉
上記記載事項(カ)によれば、「中心軸線方向移動機構66は、前後方向移動機構65により割出し位置P0に割出されたボーリングバー8をその中心軸線方向(Z軸方向)に直線的に水平移動させて、刃物台4に対してボーリングバー8を着脱することができる。」との記載があり、引用発明では、複数の収納部61,62,63に収納されたボーリングバー8は中心軸線方向移動機構66によりZ軸方向に移動可能であることが理解される。
また、刊行物には、以下の記載がある(下線は当審にて付与)。
「【0037】
マガジン基台15は、対向している一対の外側板67を有している。一対の外側板67は、左右(Z軸方向)に対向配置されており、その表面は、X軸とY軸とがなすXY平面と平行になっている。
フレーム部16は、一対の外側板67より内方に配置されて、上下方向に昇降可能にマガジン基台15に支持されている。フレーム部16は、対向している一対の内側板68と、一対の内側板68の間に架け渡されて固定された複数(ここでは、3枚)の支持台69とを有している。・・・
【0038】
各支持台69は、左右方向に延びて、Y軸とZ軸とがなすYZ平面(水平面)と平行な面を有している。上段の支持台69は上段収納部61を構成し、中段の支持台69は中段収納部62を構成し、下段の支持台69は下段収納部63を構成している。
各段の支持台69の上には、前後方向(Y軸方向)にスライド可能なスライド板70が平行に設けられている。各段において、ボーリングバー8は受け台71を介してスライド板70上に載置されている。受け台71は、ボーリングバー8を移動しないように位置決め保持している。
・・・
【0041】
前後方向移動機構65は、割出し用支持台76と第3のシリンダ77とを有している。割出し用支持台76は、割出し位置P0に配置されて、マガジン基台15の一対の外側板68に支持されている。・・・
被係合部79が、上段のスライド板70,中段のスライド板70および下段のスライド板70にそれぞれ設けられている。第3のシリンダ77の第3のピストンロッド78の先端部は、複数の被係合部79のうちの一つの係合部79に係合離脱可能に係合する。
したがって、第3のピストンロッド78が、被係合部79に係合した状態でシリンダ本体内に後退すると、スライド板70が、支持台69から割出し用支持台76側(すなわち、後方)に移動する。これにより、ボーリングバー8は、ボーリングバーマガジン5の収納部から割出し位置P0に移動して割出される。・・・
【0042】
中心軸線方向移動機構66は、割出し用支持台76のすぐ下部に取付けられた第4のシリンダ80を有している。第4のシリンダ80は、割出し用支持台76を左右方向(Z軸方向)に短いストロークで水平移動させる機能を有する。
所定高さ位置Hに位置しているボーリングバー8は、スライド板70上に載置されたままで、割出し用支持台76上に移動して割出し位置P0に割出される。第4のシリンダ80を駆動して、割出し用支持台76を刃物台4方向に移動させる。すると、割出し位置P0に割出されたボーリングバー8は、その中心軸線方向(Z軸方向)に直線的に水平移動する。これにより、刃物台4に対してボーリングバー8を着脱することができる。・・・」
上記記載によれば、引用発明の複数の収納部61,62,63は、ボーリングバー8を支持する上段、中段、下段の支持台69からなるものであり、各段の支持台69の上には、ボーリングバー8を載置するスライド板70が設けられており、当該スライド板70は前後方向移動機構65により割出し位置P0に移動可能であるとともに、さらに中心軸線方向移動機構66により中心軸線方向(Z軸方向)に直線的に水平移動可能であることが理解される。
してみると、引用発明では、複数の収納部61,62,63(第一支持体)を構成しているスライド板70がボーリングバーを保持した状態で独立してZ軸方向に移動可能であるということができる。そして、収納部61,62,63(第一支持体)自体を移動可能とするのか、収納部61,62,63(第一支持体)を構成する部材を移動可能とするのかは、当業者が必要に応じて適宜選択される技術事項に過ぎず、格別の顕著性はないものである。
よって、引用発明において、相違点1に係る技術事項を採用することは、必要に応じて適宜なし得るものであり、当業者にとって容易に想到し得るものである。

〈相違点2について〉
本願補正発明におけるシャッターの配置については、本願明細書の「【0018】・・・工作機械Mは、主軸台1と、・・・刃物台2と、収納装置3とが設けられている。収納装置3は、カバーにより切削空間と分離されており、そのカバーにはシャッター21が取り付けされている。」との記載及び図1の記載を参酌すれば、「ボーリングバー収納装置と刃物台との間にシャッターを配置したもの」とみることができ、そして、本願補正発明の「第一支持体」及び「第二支持体」が「ボーリングバー収納装置」の構成部材であることを考慮すると、「ボーリングバー収納装置と刃物台との間にシャッターを配置したもの」とは「第一支持体および第二支持体が、刃物台側にシャッターを配置したもの」と言い換えることができるものと理解される。

【図1】

してみると、本願補正発明の「第一支持体および第二支持体が、刃物台側にシャッターを配置したもの」と引用発明の「ボーリングバーマガジン5と刃物台4との間にシャッタ58を配置したものである」とは実質上の差異は無く、シャッターの配置に関して、同じ状態を指しているものと解することができる。
よって、上記相違点2に係る技術事項は実質上の相違点ではない。

そして、本願補正発明により得られる作用効果も、引用発明及び刊行物の記載事項から当業者であれば予測し得る範囲のものであって格別のものとはいえない。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び刊行物の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

[5]むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。

【3】本願発明について
[1]本願発明
平成26年2月21日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年9月19日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

(本願発明)
「Z軸周りに回転可能に保持されたワークに対しボーリングバーによって加工可能な工作機械において、前記ボーリングバーを収納するために非加工領域に設けられるボーリングバー収納装置であって、
ボーリングバーを保持した状態でZ軸方向に沿って移動する複数の第一支持体と、
それらの第一支持体をZ軸方向と直交するX軸方向に並設してなる第二支持体とを有しており、
その第二支持体が、前記複数の第一支持体を一緒にX軸方向に移動可能になっているとともに、
第二支持体においては、前記複数の第一支持体が独立してZ軸方向に移動可能になっていることを特徴とするボーリングバー収納装置。」

[2]引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された上記刊行物の記載事項は、前記【2】[2]に記載したとおりである。

[3]対比・判断
本願発明は、本願補正発明の「主軸台」及び「刃物台」の記載を削除し、「非加工領域に設けられるボーリングバー収納装置」の配置を「刃物台に対して主軸台と反対側」とする限定及び「第一支持体および第二支持体が、刃物台側にシャッターを配置したものである」こととする限定をなくすものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに構成要件を限定したものに相当する本願補正発明が、前記【2】[4]に記載したとおり、引用発明及び刊行物の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び刊行物の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[4]むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び刊行物の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-27 
結審通知日 2015-03-03 
審決日 2015-03-16 
出願番号 特願2009-228042(P2009-228042)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B23Q)
P 1 8・ 575- Z (B23Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 忠博  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 石川 好文
三澤 哲也
発明の名称 ボーリングバー収納装置、およびそのボーリングバー収納装置を備えた工作機械  
代理人 石田 喜樹  

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