• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F27D
管理番号 1300303
審判番号 不服2014-6680  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-10 
確定日 2015-04-30 
事件の表示 特願2008-314580「熱処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 6月24日出願公開、特開2010-139132〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年12月10日の出願であって、平成25年9月4日付けの拒絶理由通知に対して、同年11月6日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年1月8日付けで拒絶査定がなされた。
そして、同年4月10日に拒絶査定不服審判がされると同時に手続補正書が提出された。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年4月10日に提出された手続補正書による手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成26年4月10日に提出された手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成25年11月6日に提出された手続補正書により補正された本件補正前の特許請求の範囲の請求項1?5を補正して、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?4とするものであり、本件補正前の請求項1、2及び本件補正後の請求項1については、以下のとおりである。

(本件補正前)
「【請求項1】
被処理物を熱処理する加熱炉と、
前記加熱炉に接続されるとともに当該加熱炉内で発生したガスを排出可能とされ、バルブが設けられずに配設された排気管と、
前記排気管に設けられたエゼクタと、
前記エゼクタに駆動ガスを供給する駆動ガス供給手段と、
前記駆動ガスの流量を調整することによって前記排気管を流れる排気ガスの流量を調整する流量調整手段と、
被処理物から蒸発しかつ排出除去されるべき成分が再び凝縮する温度に排気ガスが冷却されないように、前記エゼクタに供給される駆動ガスを加熱する加熱手段と、
前記加熱手段による駆動ガスの加熱温度を制御する制御手段と、
を備えていることを特徴とする熱処理装置。
【請求項2】
前記加熱炉の圧力を測定する圧力測定手段と、この圧力測定手段の測定結果に基づいて前記流量調整手段を制御する第2の制御手段とを更に備えている、請求項1に記載の熱処理装置。」

(本件補正後)
「【請求項1】
被処理物を熱処理する加熱炉と、
前記加熱炉に接続されるとともに当該加熱炉内で発生したガスを排出可能とされ、バルブが設けられずに配設された排気管と、
前記排気管に設けられたエゼクタと、
前記エゼクタに駆動ガスを供給する駆動ガス供給手段と、
前記駆動ガスの流量を調整することによって前記排気管を流れる排気ガスの流量を調整する流量調整手段と、
被処理物から蒸発しかつ排出除去されるべき成分が再び凝縮する温度に排気ガスが冷却されないように、前記エゼクタに供給される駆動ガスを加熱する加熱手段と、
前記加熱手段による駆動ガスの加熱温度を制御する第1の制御手段と、
前記加熱炉の圧力を測定する圧力測定手段と、
前記加熱炉の圧力を調整するために、前記圧力測定手段の測定結果に基づいて前記流量調整手段を制御して前記駆動ガスの流量を調整させる第2の制御手段と、を備えていることを特徴とする熱処理装置。」

2 補正事項の整理
本件補正後の請求項1に係る補正事項を整理すると、次のとおりである。

〈補正事項a〉
本件補正前の請求項1を削除するとともに、本件補正前の請求項1を引用する請求項2を繰り上げて、本件補正後の請求項1とする。

〈補正事項b〉
本件補正前の請求項1に記載された「前記加熱手段による駆動ガスの加熱温度を制御する制御手段」を、本件補正後の請求項1に記載された「前記加熱手段による駆動ガスの加熱温度を制御する第1の制御手段」と補正する。

〈補正事項c〉
本件補正前の請求項1を引用する請求項2の「この圧力測定手段の測定結果に基づいて前記流量調整手段を制御する第2の制御手段」を、本件補正後の請求項1の「前記加熱炉の圧力を調整するために、前記圧力測定手段の測定結果に基づいて前記流量調整手段を制御して前記駆動ガスの流量を調整させる第2の制御手段」と補正する。

3 新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否についての検討
(1)補正事項aについて
ア 補正事項aは、本件補正前の請求項1を削除するとともに、本件補正前の請求項1を引用する請求項2を繰り上げて、本件補正後の請求項1とするものであるから、この補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。
したがって、補正事項aは、特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たす。

イ 補正事項aは、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。また、本願の願書に最初に添付した明細書を「当初明細書」という。)に記載された事項の範囲内においてなされたものであることは明らかである。
したがって、補正事項aは、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

(2)補正事項bについて
ア 補正事項bは、本件補正前の請求項1に記載された「前記加熱手段による駆動ガスの加熱温度を制御する制御手段」のうち「制御手段」を「第1の制御手段」と補正するものであり、本件補正前の請求項2に記載された「第2の制御手段」とは別の特定事項であることを明らかにするものであるから、この補正は、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
したがって、補正事項bは、特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たす。

イ 補正事項bは、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであることは明らかであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

(3)補正事項cについて
ア 当初明細書の段落【0014】には、「エゼクタ17は、駆動ガスの供給により処理容器11内を減圧し、処理容器11内で発生した排気ガスを排気管15に吸引するものである。エゼクタ17に供給される駆動ガスの流量によって処理容器11内の圧力および排気ガスの吸引流量を調整することが可能となっている。なお、エゼクタ17は、処理容器11内の圧力を負圧?正圧の間で調整することが可能なように構成されている。」と記載され、段落【0016】には、「マスフローコントローラ26は、エゼクタ17に供給される駆動ガスの流量を調整するものであり、処理容器11の圧力を測定する圧力計28の検出信号に基づいて調節計29(一定制御式に限らず、時間や温度等に応じた制御が可能なプログラム式のものを含む)により制御される。そして、処理容器11内の圧力は、圧力計28、調節計29、およびマスフローコントローラ26によって設定値に維持されるようになっている。」と記載され、段落【0019】には、「次に、熱処理装置10の動作の流れについて説明する。被処理物は、加熱炉12の処理容器11内に収容され、加熱炉12のヒータの作動によって熱処理される。処理容器11内の圧力は圧力計28によって常時計測され、その検出信号が調節計29に入力される。調節計29は、処理容器11内の圧力が一定となるようにマスフローコントローラ26を制御し、駆動ガスの流量を調整する。」と記載されていることから、圧力計28によって計測された処理容器11内の圧力に基づいて、マスフローコントローラ26を制御して、駆動ガスの流量を調整し、駆動ガスの流量によって排気ガスの吸引流量を調整して処理容器11内の圧力を調整することが記載されているといえる。
すると、補正事項cは、本願明細書の段落【0014】、【0016】及び【0019】に記載されており、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、補正事項cは、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。

イ 補正事項cは、本件補正前の請求項1を引用する請求項2における「第2の制御手段」について、「前記加熱炉の圧力を調整するために」及び「前記駆動ガスの流量を調整させる」との特定事項を付加することにより、「第2の制御手段」を技術的に限定するものであり、また、補正の前後で産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、補正事項cは特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしている。

(4)新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否についての検討のむすび
以上検討したとおり、上記補正事項a?cは、特許法第17条の2第3項及び第5項に規定する要件を満たしている。

そして、本件補正は、上記(3)イで検討したように、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件を満たすか)否かを、更に検討する。

4 独立特許要件を満たすか否かの検討
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
被処理物を熱処理する加熱炉と、
前記加熱炉に接続されるとともに当該加熱炉内で発生したガスを排出可能とされ、バルブが設けられずに配設された排気管と、
前記排気管に設けられたエゼクタと、
前記エゼクタに駆動ガスを供給する駆動ガス供給手段と、
前記駆動ガスの流量を調整することによって前記排気管を流れる排気ガスの流量を調整する流量調整手段と、
被処理物から蒸発しかつ排出除去されるべき成分が再び凝縮する温度に排気ガスが冷却されないように、前記エゼクタに供給される駆動ガスを加熱する加熱手段と、
前記加熱手段による駆動ガスの加熱温度を制御する第1の制御手段と、
前記加熱炉の圧力を測定する圧力測定手段と、
前記加熱炉の圧力を調整するために、前記圧力測定手段の測定結果に基づいて前記流量調整手段を制御して前記駆動ガスの流量を調整させる第2の制御手段と、を備えていることを特徴とする熱処理装置。」

(2)引用例の記載ならびに引用例に記載された発明と技術事項
(2-1)引用例1
(2-1-1)引用例1の記載
本件出願前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった平成25年9月4日付けの拒絶の理由において引用文献4として引用された刊行物である、特開2008-249293号公報(以下「引用例1」という。)には、「加熱炉の内部圧力制御方法」(発明の名称)に関して、図1とともに、次の記載がある(ここにおいて、下線は当合議体が付加したものである。)。

1ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、オーブン,真空炉,雰囲気炉,加圧炉等の加熱炉において被処理物を収容する容器・槽の内部圧力を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理物を容器内に収容して加熱する熱処理装置として、種々のタイプの炉やオーブンなどが知られている(例えば、特許文献1?3等を参照。)。(・・・途中省略・・・)
【0003】
なお、上記のような脱バインダ処理を行う炉には、脱離したバインダガスによる被処理物の汚染(再付着)を防止するため、その排気系に、ポンプやエゼクター(エジェクター)等を用いた強制排気手段、あるいは排出されるガスの処理・回収装置や脱臭装置を備えるものもある(特許文献4?5等を参照)。」

1イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、以上のような加熱炉においては、加熱や冷却、あるいは被処理物からの揮発成分等の発生に起因する排気側の抵抗増加や脱臭装置等の状況変化により、炉内の圧力に変動が生じる場合がある。しかしながら、これらの要因により炉内圧力が変化した場合、被処理物の品質(熱処理の度合い)が安定しないばかりか、炉外へのガスの漏れによる作業環境の悪化や、ガス漏れあるいは炉外空気の浸入による発火や爆発等が懸念される。
【0005】
本発明は、上記する課題に対処するためになされたものであり、炉内圧力を安定させることにより被処理物の品質を安定させるとともに、炉の運用の安全性を高めることのできる加熱炉の炉内圧力制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、処理容器内に被処理物を収容して熱処理する加熱炉の炉内圧力を制御する方法であって、前記加熱炉の排気系に、エゼクターと、このエゼクターに供給される駆動ガスの流量を調節する排気側マスフローコントローラとを配設するとともに、前記加熱炉に、その内部に連通して炉内圧力を検知する第1の圧力計を設け、この第1の圧力計の計測値を用いて前記排気側マスフローコントローラを制御することにより、該炉内の圧力を所定の値に調整することを特徴とする。
【0007】
本発明は、加熱容器や槽の中に被処理物を収容して加熱処理する加熱炉において、排気系に、被処理物から発生したガスによる影響を受け難いエゼクターを採用するとともに、このエゼクターの動作を、炉の内部圧力を直接計測した値を用いて制御することにより、所期の目的を達成しようとするものである。
【0008】
すなわち、請求項1に記載の発明によれば、加熱炉に炉内圧力を検知する第1の圧力計を設け、この第1の圧力計の計測値を用いて、排気系のエゼクターに供給される駆動ガスの流量を調節する排気側マスフローコントローラを制御することにより、該加熱炉の炉内圧力を所定の値に維持することができる。
【0009】
また、この構成により、加熱や冷却、あるいは被処理物からの揮発成分等の発生による排気の抵抗増加や脱臭装置等の状況変化に起因する炉内圧力の変動が生じた場合でも、これらの変化に素早く対応することが可能になる。従って、本発明の加熱炉の炉内圧力制御方法によれば、熱処理される被処理物の品質を安定させることができるとともに、炉の運用の安全性を高めることができる。」

1ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつこの発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態における加熱炉の概略構成図である。なお、図中の符号2はイナートガス供給(導入)側のプロセス用流量計、符号3,5および14は自動弁、符号6および7は炉内圧力計、符号8および9はプログラマブルコントローラ、符号10は排気ガスの処理を行う二次側装置群(燃焼装置,触媒装置,脱臭装置等)、符号12はチャンバー、符号17は放圧口である。
【0016】
この実施形態における加熱炉は、炉体内部でイナートガスを加熱し循環させるイナートガスオーブンであり、炉体本体1には、供給口及び排気口(図示省略)が設けられており、炉口扉によって炉口を閉じた後に、本体1内部の空気が窒素,アルゴン等のイナートガスと置換される。なお、炉体本体1の内部には、仕切部材(図示省略)が設けられており、この仕切部材の上方空間は、セラミックス材料等の被処理物が配置される加熱槽(加熱容器)を形成している。また、この仕切部材の下方には、図示を省略したヒーター及びシロッコファン等が配置されており、ヒーターで加熱されたイナートガスをシロッコファンにより循環させることにより、加熱槽内の被処理物に対して、脱バインダー処理等の熱処理が行われる。
【0017】
本実施形態における熱処理炉の特徴は、処理後のガスを排出する排気系に、被処理物から発生する揮発成分の影響を受け難いエゼクター11と、このエゼクター11に供給される駆動ガス(空気,窒素ガス等)の流量を調節する排気側マスフローコントローラ13、およびこれらを制御する排気側プログラマブルコントローラ9が配設されている点である。また、イナートガスを供給する導入側には、炉内圧力計6や排気側マスフローコントローラ13,排気側プログラマブルコントローラ9等が故障した場合に起動されるバックアップシステムとして、導入側マスフローコントローラ4と、導入側プログラマブルコントローラ8、および炉内圧力計7が配置されている。なお、図中の符号15および16はそれぞれ、排気側マスフローコントローラの異常時に使用する切替用流量計と、工程の停電時等に使用する手動調整用流量計である。
【0018】
次に、本実施形態における加熱炉の圧力制御方法について説明する。
先ず、この加熱炉が通常状態で稼動して熱処理を行っている場合、炉体本体1には、プロセス用流量計2および自動弁3を通じて、所定量(一定流量)のイナートガス、あるいは、場合により一時的に空気が供給されるとともに、その排気側には、被処理物(セラミックス材料,炭素材料,燃料電池用材料等)から揮発したバインダー成分等を含む高温ガスが排出される。このような脱バインダー処理においては、温度差や被処理物から脱離するバインダーに起因して、加熱槽内の圧力に変動が生じる場合がある。
【0019】
しかしながら、本実施形態における加熱炉では、加熱槽内の圧力が炉内圧力計6により常時計測されているとともに、排気側のプログラマブルコントローラ9およびマスフローコントローラ13により、この炉内圧力計6の計測値を用いて、エゼクター11に供給される駆動ガスの流量を調節するフィードバック回路が形成されていることから、加熱槽内の圧力が設定値に維持される。」

1エ 摘記した上記1ウの段落【0015】、【0017】の記載を参照すると、図1から、炉体本体1からエゼクター11に至る、処理後のガスを排出する排気系には、自動弁が設けられていないことが見て取れる。

1オ 摘記した上記1ウの段落【0015】、【0017】の記載を参照すると、図1から、自動弁14から供給された駆動ガスが、マスフローコントローラ13及びチャンバー12を介してエゼクター11に供給されることが見て取れる。

(2-1-2)引用例1に記載された発明
上記(2-1-1)の引用例1の摘記事項について検討する。
ア 上記1ウで摘記した段落【0016】の「この実施形態における加熱炉は、・・・炉体本体1には、供給口及び排気口(図示省略)が設けられており、・・・炉体本体1の内部には、・・・セラミックス材料等の被処理物が配置される加熱槽(加熱容器)を形成している。また、・・・加熱槽内の被処理物に対して、脱バインダー処理等の熱処理が行われる。」との記載から、引用例1に記載された加熱炉において、炉体本体1は、被処理物に対して脱バインダー処理等の熱処理を行うものである。

イ 上記1ウで摘記した段落【0016】の「炉体本体1には、供給口及び排気口(図示省略)が設けられて」いるとの記載、及び、段落【0017】の「処理後のガスを排出する排気系」との記載から、炉体本体1の不図示の排気口には、処理後のガスを排出する排気管が接続されていることは明らかである。また、上記1エの記載事項によれば、上記排気管は、自動弁を介することなく、エゼクター11に接続されているということができる。

ウ 上記1ウで摘記した段落【0017】の「本実施形態における熱処理炉の特徴は、処理後のガスを排出する排気系に、被処理物から発生する揮発成分の影響を受け難いエゼクター11と、このエゼクター11に供給される駆動ガス(空気,窒素ガス等)の流量を調節する排気側マスフローコントローラ13、およびこれらを制御する排気側プログラマブルコントローラ9が配設されている点である。」との記載から、引用例1の加熱炉の排気系には、エゼクター11と、当該エゼクター11に供給される駆動ガスの流量を調整するマスフローコントローラ13と、当該マスフローコントローラ13を制御するプログラマブルコントローラ9が設けられている。また、上記1オの記載事項も参照すれば、上記エゼクター11には、マスフローコントローラ13を介して、自動弁14から駆動ガスが供給されている。

エ 上記1ウで摘記した段落【0019】の「加熱槽内の圧力が炉内圧力計6により常時計測されているとともに、排気側のプログラマブルコントローラ9およびマスフローコントローラ13により、この炉内圧力計6の計測値を用いて、エゼクター11に供給される駆動ガスの流量を調節するフィードバック回路が形成されていることから、加熱槽内の圧力が設定値に維持される。」との記載から、引用例1の加熱炉において、加熱槽内すなわち炉体本体1内部の圧力を炉内圧力計6によって計測しており、上記ウの検討事項も合わせて勘案すれば、プログラマブルコントローラ9は、上記炉内圧力計6の計測値を用いてマスフローコントローラ13を制御して、エゼクター11に供給される駆動ガスの流量を調整することにより、加熱槽内すなわち炉体本体1内部の圧力を所定値に維持するものである。

以上、上記1ア?1オの記載事項を、上記ア?エの検討事項に基づき、図1を参照して、本願補正発明の記載ぶりに則して整理すると、引用例1には以下に示す熱処理装置の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「被処理物を熱処理する炉体本体1と、
前記炉体本体1の排気口に接続されることにより、当該炉体本体1内で発生した熱処理後のガスを排出する排気管であって、自動弁が設けられていない排気管と、
前記排気管に接続されたエゼクター11と、
前記エゼクター11に駆動ガスを供給する自動弁14と、
前記駆動ガスの流量を調整するマスフローコントローラ13と、
前記炉体本体1内部の圧力を計測する炉内圧力計6と、
前記炉体本体1の内部の圧力を設定値に維持するために、前記炉内圧力計6の計測値を用いて前記マスフローコントローラ13を制御して前記駆動ガスの流量を調整させるプログラマブルコントローラ9と、を備えている加熱炉。」

(2-2)引用例2
(2-2-1)引用例2の記載
本件出願前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった平成25年9月4日付けの拒絶の理由において引用文献6として引用された刊行物である、特開平11-257862号公報(以下「引用例2」という。)には、「連続式焼成炉における雰囲気制御装置」(発明の名称)に関して、図1、2とともに、次の記載がある。

2ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば電子部品の焼成に用いられる連続式焼成炉における雰囲気制御装置に関するものである。」

2イ 「【0007】
【発明の実施の形態】以下に図面を参照しつつ、本発明の好ましい実施の形態を説明する。図1は連続式焼成炉の模式的な水平断面図と、焼成温度及び雰囲気の設定値のグラフとを示した図である。この図1において1は連続式焼成炉であり、被焼成物は左側から炉内に供給され、連続式焼成炉1の内部を移動する間に予熱、焼成、冷却され、右側から取り出される。
【0008】(・・・途中省略・・・)
【0009】またこれらの各ゾーン2、3、4間の雰囲気切替え部には、それぞれエジェクター8が配置されている。エジェクター8は、図2に示したように高圧空気をエジェクターコーン9の内側から噴出させ、絞り効果によって生ずる負圧を利用して雰囲気ガスを吸引し、強制排気を行うものである。エジェクター8の排気能力は高圧空気の流量によって迅速かつ確実に調整できるが、ネジ部により高圧空気噴出用のノズル10をスライドさせることによっても排気量の調節ができ、また炉内に通ずるバルブ11を開閉することによっても排気量の調節ができる。」

2ウ 「【0012】図1に示すように、この例では連続式焼成炉1の入口付近にもエジェクター8が配置されている。このエジェクター8は被焼成物から発生する有機バインダーのガスを含んだ炉内ガスを排気するためのものである。このような有機バインダーを含有するガスは、エジェクター8で吸引されると冷却されて凝結し、エジェクター8の内部に付着する。そこで図2に示したように、この部分のエジェクター8には高圧空気噴出用のノズル10に凝結防止用のヒータ13を取付け、高圧空気を200℃以上に加温しておくことが好ましい。」

(2-2-2)引用例2に記載の技術事項
上記(2-2-1)の引用例2の摘記事項について検討する。
ア 上記2ア、2イ、2ウの記載から、引用例2に記載の連続式焼成炉における雰囲気制御装置は、例えば電子部品を焼成する連続式焼成炉において、焼成時に被焼成物から発生する有機バインダーのガスを含んだ炉内ガスを、エジェクタ-8を用いて強制排気するものである。

イ 上記2ア、2ウで摘記した段落【0001】、【0012】には、電子部品の焼成に関し、焼成により有機バインダーのガスを含んだ炉内ガスが排気されるが、この排気ガスはエジェクター8により吸引されると冷却されて凝結し、エジェクタ-8の内部に付着することになるので、凝結防止用のヒータ13を設けて、高圧空気を200℃以上に加温しておくことが好ましいと記載されている。

(3)対比
(3-1)次に、本願補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「炉体本体1」は、上記(2-1-2)のアで検討したように、セラミックス材料等の被処理物に対して脱バインダー処理等の熱処理を行う炉であり、一方、本願補正発明の「加熱炉」は、本願明細書の段落【0002】に記載されているように、「被処理物を加熱し、被処理物に含まれるバインダや被処理物に付着した加工油等を除去する」ための炉であるから、引用発明の「炉体本体1」と本願補正発明の「加熱炉」は、いずれも同様の熱処理を行う炉であるので、引用発明の「炉体本体1」は本願補正発明の「加熱炉」に相当する。

イ 上記アの検討事項を勘案すれば、引用発明の「排気管」が「前記炉体本体1の排気口に接続されることにより、当該炉体本体1内で発生した熱処理後のガスを排出」することは、本願補正発明の「排気管」が「前記加熱炉に接続されるとともに当該加熱炉内で発生したガスを排出可能とされ」ていることに相当する。

ウ 引用発明の「自動弁」が、本願補正発明の「バルブ」に相当することは明らかであり、したがって、引用発明の「排気管」に「自動弁が設けられていない」ことは、本願補正発明の「排気管」が「バルブが設けられずに配設され」ていることに相当する。

エ 引用発明の「エゼクター11」、「マスフローコントローラ13」、「プログラマブルコントローラ9」、「炉内圧力計6」は、それぞれ、本願補正発明の「エゼクタ」、「流量調整手段」、「第2の制御手段」、「圧力測定手段」に相当する。

オ 引用発明の「自動弁14」は、「エゼクター11に駆動ガスを供給する」ための手段であるから、上記エの検討のとおり、引用発明の「エゼクター11」が本願補正発明の「エゼクタ」に相当することを勘案すると、引用発明の「自動弁14」は、本願補正発明の「エゼクタに駆動ガスを供給する」「駆動ガス供給手段」に相当する。

カ 本願明細書の段落【0016】には、「処理容器11内の圧力は、圧力計28、調節計29、およびマスフローコントローラ26によって設定値に維持されるようになっている。」と記載されていることから、本願補正発明において「加熱炉の圧力を調整する」とは、加熱炉の圧力を設定値に維持することである。したがって、引用発明の「前記炉体本体1の内部の圧力を設定値に維持するために」とは、本願補正発明の「前記加熱炉の圧力を調整するために」に相当する。

キ 上記オとカの検討事項を勘案すると、引用発明の「加熱炉」が「前記炉体本体1の内部の圧力を設定値に維持するために、前記炉内圧力計6の計測値を用いて前記マスフローコントローラ13を制御して前記駆動ガスの流量を調整させるプログラマブルコントローラ9と、を備えている」ことは、本願補正発明の「熱処理装置」が「前記加熱炉の圧力を調整するために、前記圧力測定手段の測定結果に基づいて前記流量調整手段を制御して前記駆動ガスの流量を調整させる第2の制御手段と、を備えている」ことに相当する。

ク 上記アで検討したことを勘案すると、引用発明の「加熱炉」は、脱バインダー処理等の熱処理を行うための「炉体本体1」を備えた装置であり、また、本願補正発明の「熱処理装置」は、被処理物を加熱して、被処理物に含まれるバインダ等を除去するための「加熱炉」を備えた装置であり、いずれも同様の熱処理を行うための装置であるといえるから、引用発明の「加熱炉」は本願補正発明の「熱処理装置」に相当する。

(3-2)そうすると、本願補正発明と引用発明の一致点と相違点は次のとおりとなる。

《一致点》
「被処理物を熱処理する加熱炉と、
前記加熱炉に接続されるとともに当該加熱炉内で発生したガスを排出可能とされ、バルブが設けられずに配設された排気管と、
前記排気管に設けられたエゼクタと、
前記エゼクタに駆動ガスを供給する駆動ガス供給手段と、
流量調整手段と、
前記加熱炉の圧力を測定する圧力測定手段と、
前記加熱炉の圧力を調整するために、前記圧力測定手段の測定結果に基づいて前記流量調整手段を制御して前記駆動ガスの流量を調整させる第2の制御手段と、を備えている熱処理装置。」

《相違点》
《相違点1》
本願補正発明の「流量調整手段」が「前記駆動ガスの流量を調整することによって前記排気管を流れる排気ガスの流量を調整する」ものであるのに対して、引用発明の「マスフローコントローラ13」は、当該マスフローコントローラ13に供給される「駆動ガスの流量を調整」するものではあるが、「駆動ガスの流量を調整することによって前記排気管を流れる排気ガスの流量を調整する」ことについて特定されていない点。
《相違点2》
本願補正発明が、「被処理物から蒸発しかつ排出除去されるべき成分が再び凝縮する温度に排気ガスが冷却されないように、前記エゼクタに供給される駆動ガスを加熱する加熱手段と、前記加熱手段による駆動ガスの加熱温度を制御する第1の制御手段と」を備えているのに対して、引用発明はこれら手段を備えていない点。

(4)判断
(4-1)相違点1についての判断
引用例1には、エゼクターの詳細な構造や排気原理については記載されていないが、引用発明の「エゼクター」も本願補正発明の「エゼクタ」も、排気管に接続され、駆動ガスを供給することにより、強制的に排気を行う手段であるから、同じ構造と排気原理を備えたものであるということができる。 そして、エゼクタ自体は周知の排気手段であって、エゼクタにおいて、駆動ガスの流量を調整することによって排気ガスの流量を調整することは技術常識である。この点については、例えば、上記(2-2-1)で摘記した引用例2の段落【0009】には、「エジェクター8」について「排気能力は高圧空気の流量によって迅速かつ確実に調整できる」と記載されており、ここに記載された「エジェクタ-」及び「高圧空気」はそれぞれ本願補正発明の「エゼクタ」及び「駆動ガス」と同義であるから、駆動ガスの流量によってエゼクタの排気能力を調整することが記載されており、また、排気能力を調整することと、排気ガスの流量を調整することが、技術的に同じ内容を意味することは明らかである。
したがって、引用発明の「エゼクター」も、本願補正発明の「エゼクタ」と同様の構造と排気原理を有しており、そのようなエゼクタにおいて、駆動ガスの流量を調整することによって排気ガスの流量を調整していることは技術常識であるから、引用発明の「エゼクター」においても、本願補正発明と同様に、駆動ガスの流量を調整することによって排気管を流れる排気ガスの流量を調整しているということができる。
よって、相違点1は実質的なものではない。

(4-2)相違点2についての判断
ア 上記(2-1-1)の1アで摘記した段落【0003】には、脱離したバインダガスが、再付着して汚染の原因となることが記載されており、同1イの段落【0004】には、解決しようとする課題として、被処理物からの揮発成分等の発生に起因する排気側の抵抗増加等により、炉内の圧力に変動が生じ、その結果被処理物の品質が安定しなくなることが記載されており、また、同1ウで摘記した段落【0017】には、被処理物から発生する揮発成分の影響を受け難いエゼクターを採用することが記載されている。したがって、上記記載を総合すると、引用発明は、被処理物を熱処理することにより発生する揮発成分が排気系に再付着することによって、排気側が抵抗増加するとの課題に対して、加熱炉の排気系に、揮発成分の影響を受け難いエゼクターを採用しているものと認められる。

イ 一方、引用例2には、上記(2-2-2)のイにて検討したように、有機バインダーのガスを含んだ炉内ガスをエジェクターによって排気する場合に、排気ガスがエジェクターによって吸引されると冷却されて凝結し、エジェクター内部に付着してしまうので、このような凝結を防止するために、エジェクターに供給する駆動ガスをヒーターによって加熱することが記載されている。また、駆動ガスを加熱するにあたり、駆動ガスを「200℃以上に加温しておくことが好ましい」と記載されているから、駆動ガスを一定温度に保つためにヒーターの温度を制御すること、もしくは、ヒーターを温度制御する手段を備えることが示唆されているものと認められる。

ウ すると、引用例2に接した当業者であれば、引用発明においても、エゼクターによって吸引された排気ガスが冷却され、排気ガス中の揮発成分が凝結してエゼクター内部に付着するという課題が内在していることが理解されるから、引用発明においても、揮発したバインダーによるエゼクターへの汚染(再付着)を防ぐべく、エゼクターに供給される駆動ガスを加熱するためのヒータと、駆動ガスの温度を一定に保つために制御する手段を備えるようにすること、すなわち、引用発明において、上記相違点2に係る本願補正発明の構成を採用することは当業者にとって容易になし得たことである。
そして、本願補正発明により得られる作用効果も、引用発明と引用例2の記載から当業者であれば十分に予測し得るものである。

(4-3)判断についてのまとめ
以上、検討したとおり、本願補正発明は、引用発明と引用例2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定によって、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)独立特許要件についてのまとめ
したがって、本件補正による補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しない。

5 補正の却下の決定のむすび
以上の次第で、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正(平成26年4月10日に提出された手続補正による補正)は却下されたので、本願の各請求項に係る発明は、平成25年11月6日に提出された手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1を引用する請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1において本件補正前の請求項1を引用する請求項2として記載されたものであり、これを独立形式に書き直すと、次のとおりである。

「【請求項2】
被処理物を熱処理する加熱炉と、
前記加熱炉に接続されるとともに当該加熱炉内で発生したガスを排出可能とされ、バルブが設けられずに配設された排気管と、
前記排気管に設けられたエゼクタと、
前記エゼクタに駆動ガスを供給する駆動ガス供給手段と、
前記駆動ガスの流量を調整することによって前記排気管を流れる排気ガスの流量を調整する流量調整手段と、
被処理物から蒸発しかつ排出除去されるべき成分が再び凝縮する温度に排気ガスが冷却されないように、前記エゼクタに供給される駆動ガスを加熱する加熱手段と、
前記加熱手段による駆動ガスの加熱温度を制御する制御手段と、
前記加熱炉の圧力を測定する圧力測定手段と、この圧力測定手段の測定結果に基づいて前記流量調整手段を制御する第2の制御手段と、
を備えていることを特徴とする熱処理装置。」

2 引用例の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1の記載事項と引用発明、同じく引用された引用例2の記載事項と引用例2に記載の技術事項については、前記第2の4の(2)において、摘記及び認定したとおりである。

3 対比・判断
前記第2の2、3で検討したように、本願補正発明は、本願発明の「制御手段」を「第1の制御手段」と補正するとともに、本願発明の「この圧力測定手段の測定結果に基づいて前記流量調整手段を制御する第2の制御手段」について、「前記加熱炉の圧力を調整するために」及び「前記駆動ガスの流量を調整させる」との限定を付したものである。逆に言えば、本願発明は、本願補正発明から、上記の補正を取り消すとともに上記の限定を省いたものである。なお、上記の補正は発明特定事項の名称のみを変更するものであって、当該発明特定事項によって特定される技術事項を実質的に変更するものではない。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、これをより限定したものである本願補正発明が、前記第2の4の(3)?(5)において検討したとおり、引用発明と引用例2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明と引用例2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 結言
以上のとおり、本願発明は、引用発明と引用例2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-27 
結審通知日 2015-03-03 
審決日 2015-03-17 
出願番号 特願2008-314580(P2008-314580)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F27D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原 賢一  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 池渕 立
松嶋 秀忠
発明の名称 熱処理装置  
代理人 特許業務法人サンクレスト国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ