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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1300441
審判番号 不服2013-9643  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-24 
確定日 2015-05-07 
事件の表示 特願2009-535352「癌および他の疾患のための向病巣性標的化遺伝子送達系」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 5月 8日国際公開、WO2008/054826、平成22年 3月25日国内公表、特表2010-509223〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2007年11月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2006年11月3日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする出願であって、平成22年3月24日付け及び平成24年11月29日付けで手続補正がなされ、平成25年1月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年5月24日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成25年5月24日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年5月24日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)本件補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
補正前の
「【請求項1】
対象における露出された細胞外マトリクスに関連する疾患または障害の発生を予防する、その回帰/再発を治療または回避するための組成物であって、該組成物は、少なくとも1×10^(11)コロニー形成単位/ミリリットル(cfu/ml)の力価、および1×10^(11)cfuから1×10^(14)cfuまでの1週用量範囲で、レトロウイルスベクター粒子の治療的有効量を含み、前記レトロウイルスベクター粒子の各々が受容体結合領域を含む修飾ウイルスエンベロープタンパク質を含み、前記受容体結合領域が細胞外マトリクス成分に結合する結合領域を有する標的化ポリペプチドを含むように修飾されており、前記レトロウイルスベクター粒子が、異種治療用ポリペプチドをコードする、組成物。」
から、
補正後の
「【請求項1】
対象における露出された細胞外マトリクスに関連する疾患または障害の発生を予防する、その回帰/再発を治療または回避するための組成物であって、該組成物は、少なくとも1×10^(11)コロニー形成単位/ミリリットル(cfu/ml)の力価、および1×10^(11)cfuから1×10^(14)cfuまでの1週用量範囲で、レトロウイルスベクター粒子の治療的有効量を含み、前記レトロウイルスベクター粒子の各々が受容体結合領域を含む修飾ウイルスエンベロープタンパク質を含み、前記受容体結合領域が細胞外マトリクス成分に結合する結合領域を有する標的化ポリペプチドを含むように修飾されており、前記レトロウイルスベクター粒子が、異種治療用ポリペプチドをコードし、静脈内注入によって対象に投与されることで特徴付けられる、組成物。」
に補正するものである。

(2)本件補正の適否
(2-1)本件補正の目的について
本件補正は、請求項1については、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である
「対象における露出された細胞外マトリクスに関連する疾患または障害の発生を予防する、その回帰/再発を治療または回避するための組成物」を、
「対象における露出された細胞外マトリクスに関連する疾患または障害の発生を予防する、その回帰/再発を治療または回避するための組成物であって」「静脈内注入によって対象に投与されることで特徴付けられる、組成物。」
に限定するものということができるものであり、かつ、本件補正後の請求項1に記載された発明と本件補正前の請求項1に記載された発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、請求項1については、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2-2)独立特許要件違反について
そこで進んで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か、について検討する。

(2-2-1)引用例に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2006-524057号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(ア)請求項1
「【請求項1】
標的化された送達ベクターを生成するための方法であって、該方法は、以下の工程:
a)産生細胞を一過性に以下:
i)コラーゲン結合ドメインを含むように修飾された4070A両栄養性エンベロープタンパク質をコードする核酸配列を含む第1のプラスミドであって、該核酸配列はプロモーターに作動可能に連結されている、プラスミド;
ii)第2のプラスミドであって、以下:
プロモーターに作動可能に連結されている核酸配列であって、ウィルスgag-polポリペプチドをコードする、核酸配列;
プロモーターに作動可能に連結されている核酸配列であって、産生細胞に薬物耐性を与えるポリペプチドをコードする、核酸配列;
SV40複製起点;
を含む、プラスミド;
iii)第3のプラスミドであって、以下:
プロモーターに作動可能に連結されている非相同核酸配列であって、診断用または治療用のポリペプチドをコードする、核酸配列;
5’および3’長末端反復配列(LTR);
Ψレトロウィルスパッケージング配列;
該5’LTRの上流のCMVプロモーター;
プロモーターに作動可能に連結されている核酸配列であって、該産生細胞に薬物耐性を与えるポリペプチドをコードする、核酸配列;
SV40複製起点;
を含む、プラスミド;
でトランスフェクトする工程であって、ここで該産生細胞はSV40ラージT抗原を発現するヒト細胞である、工程;
b)標的化された送達ベクターの産生および培地の上澄みへの放出を可能にする条件下で、a)の産生細胞を培養する工程;
c)ウィルス粒子を収集するための閉鎖ループマニホールド系内に該上澄みを単離して導入する工程;ならびに、
d)該標的化された送達ベクターを収集する工程;
を包含する、方法。」

(イ)段落0008?0010
「【0008】
この方法は更に、標的化された送達ベクターを培養上澄み中で生産できる条件下にトランスフェクトされた産生細胞を培養すること、および、ベクターを収集するための閉鎖ループマニホールド系内に上澄みを単離して導入することを包含する。例示される閉鎖ループマニホールド系を図19Aおよび図19Bに示す。1つの実施形態において、標的化された送達ベクターはウィルス粒子である。別の実施形態において標的化された送達ベクターは非ウィルス粒子である。
・・・
【0010】
収集された粒子は一般的にミリリットル当たり約1x10^(7)?1x10^(10)のコロニー形成単位のウィルス力価を示す。更に、ウィルス粒子は一般的に直径50nm?150nmである。」

(ウ)段落0075,0076
「【0075】
ヒト臨床治験(後述)から得られたデータによれば、本発明の標的化されたベクターは、新生物性障害の進行を抑制するように、インビボで機能することがわかっている。表1に示すデータは、患者へのこのようなベクターの投与のための治療用法を示す。更に、標的化されたベクターの別の形態(例えば代替標的化機構または代替治療薬)を用いて細胞培養アッセイおよび動物研究で得られたデータを用いて、ヒトにおける使用のための用量の範囲を設定することができる。用量は、好ましくは、毒性が殆どまたは全く無いようなED_(50)を含む循環系中濃度の範囲内である。用量は、使用される剤型および使用される投与経路に応じて、上記範囲内で変動してよい。治療有効量は、細胞培養アッセイからまず推定することができる。用量は、細胞培養で決定されたIC_(50)(即ち、最大感染の半分または最大抑制の半分を達成する試験化合物の濃度)を含む循環系の血漿中濃度の範囲を達成するように、動物モデルにおいて設定してよい。このような情報を用いて、より正確にヒトにおける有用用量を決定できる。血漿中のレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーにより測定してよい。
【0076】
標的化された送達ベクターを含有する薬学的組成物は、選択された量のベクターを、生理学的に許容される担体または賦形剤1つ以上と混合することにより、何れかの従来の態様において処方できる。例えば、標的化された送達ベクターをPBS(リン酸緩衝化食塩水)のような担体中に懸濁してよい。活性化合物は何れかの適切な経路(例えば、経口投与、非経口投与、静脈内投与、皮内投与、皮下投与または局所投与)により、液体、半液体または固体の形態で投与することができ、そして各投与経路に適する態様で処方される。好ましい投与様式は、経口および非経口の投与様式である。」

(エ)段落0089
「【0089】
投薬の個別化が所定の個体に対する最高の作用を達成するために必要であり得ることは、当業者に公知である。治療すべき個体に投与される用量が、個体の年齢、疾患の重症度および段階、および治療の過程に対する応答により変動され得ることは、更に当業者に理解される。本明細書に記載した方法により治療される個体に対する適切な用量を決定するために評価すべき臨床パラメーターは、当業者に公知である。用量を決定するために調べられ得る臨床パラメーターの例としては、腫瘍の大きさ、特定の悪性疾患に関わる臨床試験で使用される腫瘍マーカーの濃度の変化が挙げられるが、これらに限定されない。このようなパラメーターに基づいて、治療する医師は所定の個体に対して使用される治療有効量を決定する。このような治療は、治療する医師が必要と判断する頻度および期間において投与され得る。」

(オ)段落0090,0091
「【0090】
本発明の試験において、例示されるプロトコルは癌患者のために設計した。Rexin-Gの静注による患者内用量上漸増用法を、8?10日間毎日実施した。この用法の終了の後、毒性の評価のために1週間の休薬期間をおき、その後はRexin-Gの最大耐容用量を更に8?10日間IV投与した。患者が治療期間中Rexin-Gに関連する3または4等級の副作用を発症しなかった場合に、Rexin-Gの用量を以下の通り増量した。
【0091】



最初の2患者において観察された安全性に基づいて、多くの肝転移を伴ったステージIVBの膵臓癌を有する第3の患者に、6日間静脈内Rexin-Gを用いた最前線治療、ついでフィリピンBFADにより認可された第2のプロトコルにおける1000mg/m^(2)のゲムシタビン8回各週投与を行った。」

(2-2-2)引用発明
記載事項(ア)の請求項1に記載された方法により得られる標的化された送達ベクターは、その構成からみて、レトロウイルスベクターであると認められる。
また、請求項1に記載された第3のプラスミドは、「診断用または治療用のポリペプチドをコードする」ものであるから、請求項1に記載された方法により得られる標的化された送達ベクターは、診断または治療に用いられるものであることは明らかである。
そして、治療用の送達ベクターは、通常、何らかの担体と共に組成物として用いられることは技術常識であるし、記載事項(ウ)の【0076】には、「標的化された送達ベクターを含有する薬学的組成物は、選択された量のベクターを、生理学的に許容される担体または賦形剤1つ以上と混合することにより、何れかの従来の態様において処方できる。」との記載があり、引用例1には、請求項1に記載された方法により得られる標的化された送達ベクターを含む組成物が記載されている、といえる。さらに、治療のための組成物に、治療有効量の有効成分を含有させることは、技術常識ある。
したがって、引用例1には、
「治療するための組成物であって、該組成物は、レトロウイルスベクター粒子の治療的有効量を含み、前記レトロウイルスベクター粒子の各々がコラーゲン結合ドメインを含むように修飾された4070A両栄養性エンベロープタンパク質を含み、前記レトロウイルスベクター粒子が、非相同核酸配列であって、治療用のポリペプチドをコードする核酸配列を含む、組成物。」
が記載されている。(以下、「引用発明」という。)

(2-2-3)対比
本件補正発明と、引用発明を比較すると、
引用発明の「コラーゲン結合ドメインを含むように修飾された4070A両栄養性エンベロープタンパク質」は、本件補正発明の「受容体結合領域を含む修飾ウイルスエンベロープタンパク質」であって、「前記受容体結合領域が細胞外マトリクス成分に結合する結合領域を有する標的化ポリペプチドを含むように修飾されて」いるものに相当する。
また、本件補正発明の「異種治療用ポリペプチドをコードし」との文言は、平成24年11月29日付け手続補正書で追加された事項であり、同日付意見書には、「請求項22の発明特定事項を請求項1に組み込み、請求項1において、「レトロウイルスベクター粒子が異種治療用ポリペプチドをコードする」ことを明確にしました。」との記載があるので、平成22年3月24日付け手続補正書の請求項22をみると、「【請求項22】 前記レトロウイルスベクターがプロモータに作動的に連結された異種核酸配列を含み、前記配列が診断用または治療用ポリペプチドをコードする、請求項1に記載の組成物。」と記載されている。すなわち、「異種治療用ポリペプチドをコードし」とは、「(レトロウイルスベクターが)異種核酸配列を含み、前記配列が治療用ポリペプチドをコードする」ことである、といえる。そして、出願当初の請求項22(請求項22が二つあるうちのはじめの方)にも同じ記載がある。ここで、対応する国際公開第2008/054826号の請求項22には、「22. The method of claim 1, wherein the retroviral vector comprises a heterologous nucleic acid sequence operably linked to a promoter, wherein the sequence encodes a diagnostic or therapeutic polypeptide.」と記載があり、「異種核酸配列」とは、「a heterologous nucleic acid sequence」を意味するものと認められる。一方、引用発明の、「非相同核酸配列」も、引用例1に対応する国際公開第2004/093810号の請求項1によれば、「a heterologous nucleic acid sequence」を意味するものである。したがって、本件補正発明の「異種治療用ポリペプチド」をコードする核酸配列と、引用発明の「非相同核酸配列であって、治療用のポリペプチドをコードする核酸配列」は、同じ意味で用いられていると理解できる。

よって、両者は、「治療するための組成物であって、該組成物は、レトロウイルスベクター粒子を含み、前記レトロウイルスベクター粒子の各々が受容体結合領域を含む修飾ウイルスエンベロープタンパク質の治療的有効量を含み、前記受容体結合領域が細胞外マトリクス成分に結合する結合領域を有する標的化ポリペプチドを含むように修飾されており、前記レトロウイルスベクター粒子が、異種治療用ポリペプチドをコードする組成物。」
の点で一致し、以下の点で一応相違する。

・組成物の用途が、本件補正発明では、「対象における露出された細胞外マトリクスに関連する疾患または障害の発生を予防する、その回帰/再発を治療または回避するため」であるのに対し、引用発明では「治療するため」である点。(以下、「相違点1」という。)
・本件補正発明では、「組成物は、少なくとも1×10^(11)コロニー形成単位/ミリリットル(cfu/ml)の力価・・・で、レトロウイルスベクター粒子の治療的有効量を含」むのに対し、引用発明では、組成物に含まれるレトロウイルスベクター粒子の力価が特定されていない点。(以下、「相違点2」という。)
・本件補正発明では、「組成物は、・・・1×10^(11)cfuから1×10^(14)cfuまでの1週用量範囲で、レトロウイルスベクター粒子の治療的有効量を含」むのに対し、引用発明では、組成物に含まれるレトロウイルスベクター粒子の1週用量範囲が特定されていない点。(以下、「相違点3」という。)
・本件補正発明では「静脈内注入によって対象に投与されることで特徴付けられる、組成物。」であるのに対し、引用発明では、投与方法は特定されていない点。(以下、「相違点4」という。)

(2-2-4)判断
上記相違点について検討する。

(相違点1について)
平成25年5月24日付け手続補正書の請求項2には、
「【請求項2】
前記疾患または障害が癌、腫瘍、心血管疾患、慢性炎症、自己免疫疾患、関節リウマチ、狼瘡、糖尿病、乾癬、子宮内膜症、血管新生緑内障、肥満症、肝硬変、結合組織障害、コラーゲンの露出に関連する血管障害、新生内膜、血管病変、再狭窄、線維症、潰瘍性病変、炎症、レーザー損傷、角膜混濁、外科的損傷、関節炎、瘢痕、またはケロイドである、請求項1に記載の組成物。」と記載されており、本件補正発明の「対象における露出された細胞外マトリクスに関連する疾患または障害」には、癌をはじめとする種々の疾患が含まれることが理解できる。
一方、記載事項(ウ)及び(オ)によれば、引用発明の「治療」に、「癌の治療」が包含されることは明らかである。
したがって、本件補正発明及び引用発明において、組成物の用途に実質的な相違はない。

(相違点2について)
記載事項(イ)には、標的化された送達ベクターであるウィルス粒子は、一般的にミリリットル当たり約1x10^(7)?1x10^(10)のコロニー形成単位のウィルス力価を示すことが記載されている。
さらに、濃縮など公知の手段により、より高い力価の組成物を得ることは、当業者が適宜なし得ることである。
また、本願の明細書の記載を検討しても、具体的な記載があるレトロウイルスベクター粒子の力価は、せいぜい【0151】や【0159】にある、5×10^(9)U/ml程度であり、「少なくとも1×10^(11)コロニー形成単位/ミリリットル(cfu/ml)の力価」とすることで、当業者の予想し得ない格別顕著な効果が得られることは具体的に示されていない。

(相違点3について)
一般に、医薬品においては、効果と副作用のバランスをみて、最適な投与量とすることは、技術常識であるし、遺伝子治療において、より高い用量とすることで、より高い効果が発揮されることも技術常識であるから、引用発明においても、投与量の最適化を図り、1×10^(11)cfuから1×10^(14)cfuまでの1週用量範囲とすることは、当業者が適宜なし得ることであるし、そのことにより、当業者の予想を超える格別顕著な効果があるとは認められない。
また、本件補正発明においては、「レトロウイルスベクター粒子」について、詳細な特定はされておらず、広範な「レトロウイルスベクター粒子」が包含されるため、適切な1週用量範囲は「レトロウイルスベクター粒子」の種類により様々であるといえるし、仮に、「Rexin-G」と称されるレトロウイルスベクター粒子について、「1×10^(11)cfuから1×10^(14)cfuまでの1週用量範囲」が特に適する1週用量範囲であるとしても、引用例1の記載事項(オ)の表1には、Rexin-Gを1.4×10^(10)単位/日で、第18-27日に投与したことが記載されており、この間の1週用量は、1.4×10^(10)×7=0.98×10^(11)単位であり、「1×10^(11)cfu」に非常に近い値である。そして、記載事項(エ)によれば、治療すべき個体に投与される用量は、個体の年齢、疾患の重症度および段階、および治療の過程に対する応答により変動され得るものであるから、0.98×10^(11)単位/週を超える用量とすることについては、当業者が適宜なし得ることである。
また、本願明細書の記載によれば、Rexin-Gについて、1×10^(11)cfuから1×10^(14)cfuまでの1週用量範囲のうちの、効果が確認されているのは高々4×10^(11)/週(【0217】)までであり、1×10^(14)cfu/週といった高い範囲についての効果は不明であるし、その、確認された効果についても、引用例1の0.98×10^(11)単位/週での投与から、当業者が予想できる範囲の効果であると認められる。
したがって、本願明細書の記載を検討しても、当業者の予想を超える、格別顕著な効果があるとは認められない。

(相違点4について)
記載事項(ウ)【0076】には、標的化された送達ベクターを,静脈内投与しても良いことが記載されている。さらに、記載事項(オ)には、実際に、患者に、Rexin-Gを静注したことが記載されている。
したがって、引用発明の組成物を静脈内投与することは、当業者が容易になし得ることである。

なお、審判請求人は、審判請求書において、甲第1号証(Science 302:415-519(2003))、甲第2号証(Blood 102:3934-3937(2003))、Vermaら(Nature、1997年、389:239-242)、LangrethとMoore(Wall Street Journal(1999年10月27日))を引用し、本願発明のようにレトロウィルスベクターを高用量で投与することは、たとえ当業者であっても想到し得なかった旨主張している。
しかしながら、本件補正発明は、技術革新の盛んな遺伝子工学の分野に属する技術であるところ、いずれの文献も、引用例1に対応する国際公開第2004/093810号(2004年11月4日公開)よりも1?5年前に公開された文献である一方、引用例1においては、Rexin-Gを0.98×10^(11)単位/週で投与したことが記載されているのだから、当該投与量を参考に、投与量をさらに増加させてみることを妨げるものとはいえない。

また、「引用文献1の明細書段落[0116]記載の、脇腹に1×10^(7)個のヒトMiaPaca2膵臓癌細胞(転移胃腸癌のプロトタイプ)を皮下移植したヌードマウスを用いた薬理学的/毒性学的試験では、ベクター容量は最大でも1.6×10^(8)cfuです。この毒性学的試験は、レトロウィルスベクターの安全性を確認するために高用量のレトロウィルスベクターを投与する試験を指します。つまり、引用文献1に記載の発明は、ヒトでの試験に移行したとしても、1.6×10^(8)cfu以上の用量で投与することを想定していないことを示しています。従って、引用文献1には、1.6×10^(8)cfuよりも高用量でレトロウィルスベクターを投与しようとする動機付けがありません。」とも主張している。
しかしながら、記載事項(オ)には、患者に対して、1.4×10^(10)単位/日を第18-27日の間投与したことが記載されている。したがって、請求人の上記主張は引用例1の記載のうち、特に低用量の記載箇所をことさらに強調するものであって、この主張によって、本件補正発明が引用例1に記載された発明に基づき当業者が容易に想到できたものでないとはいえない。

さらに、平成26年5月26日付け回答書において、「請求項1に係る発明である組成物の力価をさらに高い範囲(例えば、6×10^(11)-1×10^(14)cfuの1週用量)に補正する用意があります」と主張した上で、資料第1号(Chawla et al. Mol.Ther.(2010)18:435-441)及び資料第2号(Chawla et al.Mol.Ther.(2009)17:1651-1657)を引用し、6×10^(11)cfu/週を投与したことによって生じる具体的な効果を主張し、進歩性を有する旨主張している。
しかしながら、これらの文献は、本願出願後に公開された文献であることに加え、(2-2-4)(相違点3について)で検討したとおり、本願明細書に具体的な記載があるのは、高々4×10^(11)/週までの用量であり、6×10^(11)単位の1週用量が、2×10^(11)単位の1週用量よりも優れることについては、明細書中には何ら具体的な記載はない。したがって、これら資料第1号及び資料第2号に基づく主張は、明細書の記載に基づかないものであって、本件補正発明の進歩性を認める根拠とはならない。
また、仮に、資料第1号及び資料第2号の記載を参酌したとしても、平成24年5月23日付け拒絶理由通知書で先行技術文献として提示された、International Journal of Oncology, 2006.11.1, Vol.29,p.1053-1064には、Rexin-Gを3.0×10^(10)U/日で月-金投与したこと、すなわち、1.5×10^(11)U/週で投与したこと(1055ページ左欄15行-下から5行)及び総投与量?2.5×10^(12)Uを6週間又は16週間で投与したこと(同ページ右欄27-33行)が記載されている。2.5×10^(12)Uを6週間で投与した場合、1週用量は、平均して、約4.2×10^(11)Uである。これらの記載を参考に、より高い投与量を試すことは当業者が通常の技術的創作において行うことであるし、当業者の予想を超える格別顕著な効果が得られるとも認められない。
したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。

以上のとおり、本件補正発明は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(2-3)むすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成24年11月29日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?41に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
対象における露出された細胞外マトリクスに関連する疾患または障害の発生を予防する、その回帰/再発を治療または回避するための組成物であって、該組成物は、少なくとも1×10^(11)コロニー形成単位/ミリリットル(cfu/ml)の力価、および1×10^(11)cfuから1×10^(14)cfuまでの1週用量範囲で、レトロウイルスベクター粒子の治療的有効量を含み、前記レトロウイルスベクター粒子の各々が受容体結合領域を含む修飾ウイルスエンベロープタンパク質を含み、前記受容体結合領域が細胞外マトリクス成分に結合する結合領域を有する標的化ポリペプチドを含むように修飾されており、前記レトロウイルスベクター粒子が、異種治療用ポリペプチドをコードする、組成物。」

4.引用例に記載された事項
引用例1に記載された事項は、上記2.の(2-2-1)に記載したとおりであり、引用例1から認定される引用発明は、上記2.の(2-2-2)に記載したとおりである。

5.対比・判断
本願発明は、本件補正発明の「対象における露出された細胞外マトリクスに関連する疾患または障害の発生を予防する、その回帰/再発を治療または回避するための組成物であって」、「静脈内注入によって対象に投与されることで特徴付けられる、組成物。」を、投与方法の特定されない「対象における露出された細胞外マトリクスに関連する疾患または障害の発生を予防する、その回帰/再発を治療または回避するための組成物」としたものである。
そうすると、本願発明の組成物の投与方法を特定した発明に相当するといえる本件補正発明が、上記2.(2-2-4)にて説示したとおり、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-01 
結審通知日 2014-12-03 
審決日 2014-12-16 
出願番号 特願2009-535352(P2009-535352)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深草 亜子  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 齋藤 恵
川口 裕美子
発明の名称 癌および他の疾患のための向病巣性標的化遺伝子送達系  
代理人 清原 義博  
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