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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1300484
審判番号 不服2014-2237  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-06 
確定日 2015-05-07 
事件の表示 特願2009-552648「トゥルーカラー通信」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月12日国際公開、WO2008/108761、平成22年 6月17日国内公表、特表2010-521098〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 経緯

1.手続
本願は、2007年(平成19年)3月8日を国際出願日とする出願であって、手続の概要は以下のとおりである。

拒絶理由通知 :平成24年11月12日(起案日)
拒絶査定 :平成25年10月 4日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成26年 2月 6日
手続補正 :平成26年 2月 6日
前置審査報告 :平成26年 5月21日

2.査定の理由
原査定の理由は、概略、以下のとおりである。

本願の請求項1-10に係る発明は、下記の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

刊行物1:特開2004-032399号公報
刊行物2:特開平05-103336号公報
刊行物3:特開2006-211369号公報
刊行物4:特開2006-157207号公報

第2 補正の却下の決定
平成26年2月6日付けの手続補正について次のとおり決定する。

《補正の却下の決定の結論》
平成26年2月6日付けの手続補正を却下する。

《補正の却下の決定の理由》
1.本件補正の内容
平成26年2月6日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の請求項1および請求項5の記載を、以下のように、補正後の請求項1および請求項5の記載とする補正である。

(補正前の請求項1、請求項5)
【請求項1】
被写体のトゥルーカラーを伝達するための画像キャプチャシステムであって、
画像キャプチャ装置(201)と、
少なくとも1つの基準色(reference color)(202a)を含む画像化基準色セット(202)と、
前記少なくとも1つの基準色(202a)に対応する少なくとも1つの制御色(203a)を含む制御基準色セット(203)と、
前記制御基準色セット(203)及び前記画像化基準色セット(202)にアクセスし、前記少なくとも1つの基準色(202a)と前記少なくとも1つの制御色(203a)との間の相違を取り除く色補正関数(210)を生成するための色補正コンポーネント(204)と
を備える画像キャプチャシステム。

【請求項5】
前記画像化基準色セット(202)は、一意の識別情報(202b)をさらに含み、
前記制御基準色セット(203)は、該一意の識別情報(202b)によって一意に識別される前記画像化基準色セット(202)と一致する
請求項1に記載の画像キャプチャシステム。

(補正後の請求項1、請求項5)
【請求項1】
被写体のトゥルーカラーを伝達するための画像キャプチャシステムであって、
画像キャプチャ装置(201)と、
少なくとも1つの基準色(reference color)(202a)を含む画像化基準色セット(202)と、
前記少なくとも1つの基準色(202a)に対応する少なくとも1つの制御色(203a)を含む制御基準色セット(203)と、
前記制御基準色セット(203)及び前記画像化基準色セット(202)にアクセスし、前記画像キャプチャ装置(201)によりキャプチャされた画像の色空間を、前記キャプチャされた画像の対象物の周囲および前記画像キャプチャ装置(201)と独立した基準色空間に変換し、前記少なくとも1つの基準色(202a)と前記少なくとも1つの制御色(203a)との間の相違を取り除く色補正関数(210)を生成するための色補正コンポーネント(204)と
を備える画像キャプチャシステム。

【請求項5】
前記画像化基準色セット(202)は、
一意の識別情報(202b)
をさらに含み、
前記制御基準色セット(203)は、該一意の識別情報(202b)によって一意に識別される前記画像化基準色セット(202)と一致する
請求項1に記載の画像キャプチャシステム。

上記補正は次の補正事項を含むものである。

(補正事項)
補正前の請求項1の
「前記制御基準色セット(203)及び前記画像化基準色セット(202)にアクセスし、前記少なくとも1つの基準色(202a)と前記少なくとも1つの制御色(203a)との間の相違を取り除く色補正関数(210)を生成するための色補正コンポーネント(204)と」の記載を
補正後の請求項1の
「前記制御基準色セット(203)及び前記画像化基準色セット(202)にアクセスし、前記画像キャプチャ装置(201)によりキャプチャされた画像の色空間を、前記キャプチャされた画像の対象物の周囲および前記画像キャプチャ装置(201)と独立した基準色空間に変換し、前記少なくとも1つの基準色(202a)と前記少なくとも1つの制御色(203a)との間の相違を取り除く色補正関数(210)を生成するための色補正コンポーネント(204)と」
の記載とする補正。

2.本件補正の適合性
(2-1)補正の範囲
上記補正事項は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてする補正である。

(2-2)補正の目的
上記補正事項は、「色補正コンポーネント」について、補正前は「前記少なくとも1つの基準色(202a)と前記少なくとも1つの制御色(203a)との間の相違を取り除く色補正関数(210)を生成する」との構成であったのに対し、補正後は、「前記画像キャプチャ装置(201)によりキャプチャされた画像の色空間を、前記キャプチャされた画像の対象物の周囲および前記画像キャプチャ装置(201)と独立した基準色空間に変換し、前記少なくとも1つの基準色(202a)と前記少なくとも1つの制御色(203a)との間の相違を取り除く色補正関数(210)を生成する」と限定する補正事項であるといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正である。

(2-3)独立特許要件
上記補正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるから、独立特許要件について検討する。

(A)補正後発明
本件補正後の請求項5に係る発明(以下「補正後発明」という。)は、以下のとおりである。
【請求項1】
被写体のトゥルーカラーを伝達するための画像キャプチャシステムであって、
画像キャプチャ装置(201)と、
少なくとも1つの基準色(reference color)(202a)を含む画像化基準色セット(202)と、
前記少なくとも1つの基準色(202a)に対応する少なくとも1つの制御色(203a)を含む制御基準色セット(203)と、
前記制御基準色セット(203)及び前記画像化基準色セット(202)にアクセスし、前記画像キャプチャ装置(201)によりキャプチャされた画像の色空間を、前記キャプチャされた画像の対象物の周囲および前記画像キャプチャ装置(201)と独立した基準色空間に変換し、前記少なくとも1つの基準色(202a)と前記少なくとも1つの制御色(203a)との間の相違を取り除く色補正関数(210)を生成するための色補正コンポーネント(204)と
を備える画像キャプチャシステム。

【請求項5】
前記画像化基準色セット(202)は、
一意の識別情報(202b)
をさらに含み、
前記制御基準色セット(203)は、該一意の識別情報(202b)によって一意に識別される前記画像化基準色セット(202)と一致する
請求項1に記載の画像キャプチャシステム。

(B)引用刊行物の記載
(1)刊行物3の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2006-211369号公報(以下、刊行物3という。)には、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。

【0001】
本発明は、画像の色再現性を向上させるために色信号を補正する色補正方法、およびその色補正方法を用いた画像信号処理装置に関する。また、特に色変換マトリクスを用いた色補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に撮像装置などの画像入力系の色空間と、画像表示装置やプリンタなどの画像出力系の色空間との間にはズレがあるので、例えば撮影した画像をモニタ等に表示した場合、再現画像の色合いは、元の被写体の色合いと一般に異なる。また、このような色合いの違いは、出力装置毎にも異なる。
【0003】
そこで、近年では画像入力装置及び画像出力装置間で共通化したsRGB規格に準拠した色信号を採用することが多くなっており、画像入力装置では撮像系で得られるRGB信号をsRGB規格に応じて色補正し、これを出力している。これによりsRGB規格対応の画像出力装置では所望の色再現ができる、即ち同じRGB値が与えられれば目標の色に近似した色味が再現できる。色補正の手法は様々であり、例えば撮像系に設ける光学フィルタの分光特性をsRGB規格に合わせる光学的な補正や、RGB信号をマトリクス演算する電子的な補正によって、再現色を目標とする本来の色に近似させている。
【0004】
従来、電子的な色補正で用いる色変換マトリクスの色変換精度を向上させる手法として重回帰分析法が提案されている。重回帰分析法は本来の色と再現色との関係を原因と結果ととらえた統計解析によって色変換マトリクスのマトリクス要素を最適化する、即ち撮像系で得られたRGB信号に色変換マトリクスを作用させることにより予測した再現色と本来の色との信号レベル差が許容値以下となるようなマトリクス要素を求める手法であり、例えば特許文献1には3原色のRGB信号を異なる表色系のXYZ信号に変換するためのマトリクスを重回帰分析により求める構成が開示されている。
【特許文献1】特開平10-164381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、画像入力系の色空間から基準となる色空間(例えばsRGB)への変換は一般に線形変換ではないので、従来の方法のように、定数値からなる色変換マトリクスを用いて色補正を行うと、全ての色を十分正確に色補正できるとは言えない。
【0006】
本発明は、高い精度で第1色空間における入力色を第2色空間における所望の色に変換する色変換マトリクス、及びこの色変換マトリクスを用いた画像信号処理装置を得ることを課題としている。

【0019】
本実施形態において、第1色空間の色信号はRGB信号であり、第2色空間の色信号は、画像出力装置間で基準とされるRGB信号である。また、本実施形態では、第2色空間のRGB信号に、例えばIEC規定の色再現国際規格に準拠するsRGB信号が採用される。すなわち、本実施形態において、撮像系で得られた第1色空間のRGB信号は、第2色空間のsRGB信号に変換される。
【0020】
また、デジタル信号処理回路20は、インターフェースを介してコンピュータ30などの外部装置に接続可能であり、色補正処理を受けたsRGB信号は、例えばコンピュータ30に接続されたモニタ装置31やプリンタ32等の画像出力装置に出力される。
【0021】
色補正処理では、一般に色変換マトリクスが用いられる。後述するように、色変換マトリクスは、デジタルカメラ10で撮影された第1色空間における複数の基準色を第2色空間における所望の色(目標色)に変換するように最適化される。本実施形態では、色変換マトリクスは、デジタルカメラ10の製造工程の終段階において色変換マトリクス算出装置34により算出され、算出された色変換マトリクスに関する情報は、デジタルカメラ10のメモリ22に保存される。
【0022】
なお、色変換マトリクス算出装置34には、目標色のRGB信号の値が第2色空間において設定されるとともに、基準色を撮影して得られた第1色空間のRGB信号がデジタルカメラ10から入力される。例えば本実施形態のように、色再現性を向上する場合には、第2色空間の目標色は基準色の測色値に基づいて設定される。複数の基準色は、例えば均等色空間上になるべく一様に分布するように選択されることが好ましいが、入手の容易性、測色の手間を省くことを考慮して、市販のカラーチャートを用いても良い。
【0023】
また、本実施形態では色再現性の向上を目的としているため、色変換マトリクスを算出する際に設定される目標値(目標色)は基準色の測色信号であるが、人物の肌色や青空の色等のよく使われる特定色を、正確な色ではなく使用者の望む色に再現する場合には、特定の基準色に関して測色信号を修正した値を目標値(目標色)に設定してもよい。なお、本実施形態ではマクベスカラーチャート(登録商標)40を用いた場合を例に説明を行う。
【0024】
マクベスのカラーチャートは、24色のカラーパッチP1?P24(図1では24色のカラーパッチの一部のみに符号を付す)からなり、本実施形態では、このうちのグレースケールを除く18色(P1?P18)が基準色として用いられる。すなわち、色彩計等を用いてカラーパッチP1?P18を正確に計測した測色値を第2色空間に配置したものが目標色とされる。また基準色であるカラーパッチP1?P18は、測色時と同じ照明環境下においてデジタルカメラ10で撮影され、これにより得られるRGB信号が第1色空間における基準色の色信号とされる。
【0025】
また、マクベスカラーチャート40は、市販の既製品であるため手に入れ易く、各カラーパッチP1?P24の測色信号が既知であり測色の手間が省ける。カラーチャートとしてはマクベスカラーチャートに限らず、複数のカラーパッチが均等色空間上に一様に分布する、例えばJIS標準色標でもよい。また目的に応じて良く使用される特定色(人物の肌色、青空の色、緑など)をカラーパッチにした独自のカラーチャートを作成しておけば、その特定色について特に精度良く色再現できる。

【0028】
しかし、上記従来の方法では、必ずしも十分正確に、または緻密に第1色空間から第2色空間へ色変換を行うことができない。そこで本実施形態では、色変換マトリクスのマトリクス要素を入力色の座標値をパラメータとした関数とみなし、第1色空間内の各点(色)毎にその座標値に適する色変換マトリクスが求められる。すなわち、本実施形態では、まず基準色毎に、第1色空間におけるその基準色の座標値を適切な第2色空間の座標値に変換する色変換マトリクスが求められる。その後、基準色毎に最適化された複数の色変換マトリクスの値に基づいて、基準色以外の色に適合する色変換マトリクスが算出される。すなわち、第1色空間の任意の色(座標値)は、それぞれの色に適合された色変換マトリクスを用いて第2色空間の色(座標値)に変換される。
【0029】
ステップS101では、基準色であるカラーパッチP1?P18(Pk:k=1?18)の測色値に対応する第2色空間のRGB信号(Rme[k],Gme[k],Bme[k])が、各々目標色Cme[k](k=1?18)として色変換マトリクス算出装置に設定される。ステップS103では、デジタルカメラ10によりカラーパッチPkが撮影され、各々のカラーパッチPkに対応する第1色空間のRGB信号(Rin[k],Gin[k],Bin[k])が、それぞれ入力色Cin[k](k=1?18)としてデジタルカメラ10から色変換マトリクス算出装置34へと出力される。
【0030】
ステップS105では、目標色Cme[k]各々のRGB信号(Rme[k],Gme[k],Bme[k])がそれぞれ均等色空間であるCIE-L*a*b*色空間(以下Labと省略する)のLab信号(L*me[k],a*me[k],b*me[k])に変換される。ステップS107では、k=1?18の各基準色(各カラーパッチPk)に対応する入力色Cin[k]と目標色Cme[k]に基づいて、色変換マトリクスが最適化される(色変換マトリクス最適化処理)。ここで各基準色(カラーパッチPk)について最適化された色変換マトリクスをM[k](k=1?18)と表す。
【0031】
ステップS109では、ステップS108において求められた色変換マトリクスM[k]の各々の要素mij[k]に基づいて、色相角θをパラメータとしたマトリクス要素の補間関数mij(θ)が算出される。また、ステップS111では、補間関数mij(θ)に関わる情報が画像入力装置であるデジタルカメラ10に送出され、メモリ22に保存される。以上により、本実施形態の色変換マトリクス算出処理は終了する。
【0032】
次に、図2のステップS107において実行される色変換マトリクス最適化処理について図3?図5を参照して説明する。なお、図3は、所定の色温度の光を照明に用いた場合のCIE-L*a*b*色空間(以下、Lab色空間と記載する)の模式図である。また、図4、図5は色変換マトリクス最適化処理の方法を説明するためのブロック図とフローチャートである。
【0033】
一般に色変換マトリクスを用いて入力色を補正色に変換する色補正処理は、色変換マトリクスをM、入力色をCin、補正色をCesで表わすとき、(1)式に示される1次変換により表される。また、これをマトリクス要素{mij](i,j=1,2,3)を用いて表わすと(2)式となる。ここで(Rin,Gin,Bin)および(Res,Ges,Bes)は、入力色Cinおよび補正色CesのRGB信号(RGB座標)である。
【数1】(略)
【0034】
以下の説明においては、最適化処理の対象となっている色変換マトリクスの添え字と、その最適化処理において用いられる基準色の添え字との間の混同を避けるため、最適化処理の対象となっている色変換マトリクスの添え字をk、最適化処理に用いられる基準色(入力色)およびこれに対応する各補正色の添え字をn(n=1?18)で表わす。このとき各基準色(入力色)Cin[n]は、(3)、(4)式に示されるように、色変換マトリクスM[k]により各々補正色Ces[n]に変換される。
【数2】(略)
【0035】
なお本実施形態では、色変換マトリクスM[k]は、例えば減衰最小自乗法により求められ、色変換マトリクスM[k]は、基準色(Pk)に重み付けを行った上で、全ての基準色(P1?P18)を用いて算出される。また最適化には、減衰最小自乗法等の他、従来周知の様々な最適化法やそれらの組合せを用いることが可能である。
【0036】
図3に示されたLab色空間には、1つの基準色(Pn)に対応する入力色Cin[n]と、最適化される前の色変換マトリクスM[k]を入力色Cin[n]に作用させて得られる補正色Ces[n]と、基準色(Pk)を測色して得られた目標色Cme[n]とがそれぞれ示されている。
【0037】
図4に示されるように、本実施形態では、マトリクス演算はRGB信号に対して施されるが、色の一致度の評価は、例えば均等色空間であるLab色空間において行われる。すなわち、目標色Cme[n]および補正色Ces[n]のRGB信号(Rme[n],Gme[n],Bme[n])、(Res[n],Ges[n],Bes[n])は、Lab色空間のL*a*b*信号(以下Lab信号と略記)(L*me[n],a*me[n],b*me[n])、(R*es[n],G*es[n],B*es[n])に変換され、Lab空間においてその一致度が評価される。

【0039】
なお、RGB信号からLab信号への変換は下記に示す公知の(5)式および(6)式により行われる。(5)式はRGB信号をXYZ信号に変換するための変換式であり、(6)式はXYZ信号をLab信号に変換するための変換式である。色の一致度の評価時にはRGB信号はRGB→XYZ→L*a*b*変換によりLab信号に変換される。

【0041】
図5の色変換マトリクス最適化処理が実行されると、まず変数kがk=1に初期設定され、その後ステップS201が実行される。ステップS201では、色変換マトリクスM[k]の各要素mij[k]の値が初期設定されるとともに、変数nの値がn=1に初期設定される。
【0042】
ステップS203?ステップS205においては、基準色(Pn)のRGB信号(Rin[n],Gin[n],Bin[n])に対して色変換マトリクスM[k]が施され、補正色(Res[n],Ges[n],Bes[n])の値がn=1?18の各々に対して求められる。すなわち、ステップS203では、Ces[n]=M[k]・Cin[n]の値が計算されるとともに、RGB信号のCes[n]の値がLab信号であるC*es[n]に変換され、ステップS205では、n≧18であるか否かが判定される。n<18の場合にはnが1インクリメントされてステップS203が繰り返され、n≧18の場合にはステップS207が実行される。
【0043】
ステップS207では、C*es[n]とC*me[n]との間の一致度が評価され、C*es[n]がC*me[n]に収束したか否かが判定される。なお、収束したか否かの判断には、例えばメリット関数φが所定の閾値以下となったか否かによって判定される。
【0044】
ステップS207において、C*es[n]がC*me[n]に収束していないと判定された場合には、ステップS209においてマトリクス要素mij[k]の値が更新されるとともに変数nの値がn=1にリセットされ、処理はステップS203に戻る。すなわち、更新されたマトリクス要素mij[k]に基づいて、n=1?18の基準色(Pn)に対して補正色(Rme[n],Gme[n],Bme[n])の値が求められ、以下同様の処理が繰り返される。
【0045】
一方、ステップS207において、C*es[n]がC*me[n]に収束したと判定された場合には、ステップS211に進み現在のmij[k]の値が色変換マトリクスM[k]の最適解とされ、その後ステップS213が実行される。ステップS13では、k≧18であるか否かが判定される。k≧18の場合には、全ての基準色(Pn)に対して各々最適な色変換マトリクスが求められたこととなるので、この色変換マトリクス最適化処理は終了する。

【0048】
本実施形態の最適化処理では、各kに対してメリット関数φが最小となるようにマトリクス要素mij[k]が求められる。ここでメリット関数φが極値をとるための条件は、(8)式に示される9個の連立方程式で与えられる。
【数6】(略)
【0049】
メリット関数φは、マトリクス要素mij[k]に関して非線形であるため、本実施形態では、従来周知のように、マトリクス要素mij[k]に関してメリット関数φを出発点mij[k]0(ステップS203の演算において用いられる仮のマトリクス要素mij[k]の値)の周りで線形近似し、これを(8)式に代入して(9)式の9元連立1次方程式を得ている。
【数7】(略)
【0050】
ここで、Δmij[k]は、出発点mij[k]0からの移動量であり、ステップS209のマトリクス要素mij[k]の更新では出発点mij[k]0の値が、mij[k]0+Δmij[k]の値に更新される。このような方法で、ステップS201?S209においてマトリクス要素mij[k]の値を順次更新することにより、その値はメリット関数φを所定の閾値以下とするマトリクス要素mij[k]の値へと収束し、C*es[n]をC*me[n]に収束させる。

【0051】
次に、図2のステップS109において実行される補間関数算出処理について図6を参照して説明する。図6は、ステップS107の色変換マトリクス最適化処理で求められたマトリクス要素m11[1]?m11[18]の値をプロットしたグラフであり、横軸は対応する基準色(Pk)の色相角(ラジアン)縦軸は、マトリクス要素の値である。
【0052】
本実施形態では、Lab色空間の座標のうち、色相角θのみをパラメータとした補間関数m11(θ)を用いて補間処理を行い、図6には、プロットされたマトリクス要素m11[1]?m11[18]の値に基づいて算出された補間関数m11(θ)が実曲線S1として示される。
【0053】
本実施形態の補間関数mij(θ)としては、周期境界条件を満たすとともに、連続、滑らかな条件を満たすものが選ばれる。また、補間関数mij(θ)の1次微分の値が、滑らかなグラデーションを阻害しない範囲に納まるような関数が選ばれる。このような一例として、本実施形態では(10)式のような補間関数が仮定される。
mij(θ)=A1ij・sin(θ)+A2ij・cos(θ)
+A3ij・sin(2θ)+A4ij・cos(2θ)+A5ij・・・(10)
【0054】
なお、係数A1ij?A5ijは、最小自乗法や減衰最小自乗法などの従来周知の方法により求められる。図6には、i=j=1のときに対応するm11[k](k=1?18)の補間関数mij(θ)のみが曲線S1として示されるが、同様の方法により、他のmij[k]の補間関数mij(θ)も算出される。すなわち、i,j=1?3の各々の補間関数mij(θ)に関して、係数a1ij?a5ijが算出される。
【0055】
以上のように、本実施形態によれば、画像入力装置によって撮影される複数の基準色と、その基準色の測色値から、各基準色に適合された色変換マトリクスが求められ、それらの色変換マトリクスに基づいて、任意の色相角に対して最適化された色変換マトリクスを得ることが可能となる。
【0056】
図2を参照して説明したように、補間関数mij(θ)に関わる情報がステップS111においてデジタルカメラ10のメモリ22に保存される。補間関数mij(θ)に関わる情報としては、求められた係数A1ij?A5ijを含む補間関数自体であってもよいが、要求される精度に応じてLab色空間を色相角方向に細かく分割し、各領域を代表するマトリクス要素mijを予め求め、これを例えばルックアップテーブルとしてメモリ22に保存しておいてもよい。
【0057】
例えば、Lab空間を色相角方向に沿ってN個の領域に均等に分割した場合、θn=(2n+1)π/N(n=0,1,・・・,N-1)に対応するマトリクス要素mij(θn)の値がメモリ22に保存される。すなわち、入力色の色相角θが2nπ/N≦θ<2(n+1)π/Nに含まれる場合、マトリクス要素mij(θn)の値を用いて色補正処理が行われる。
【0058】
次に、図1、図7、図8を参照して、本実施形態の色変換マトリクス算出処理に基づいて算出された色変換マトリクスを用いた色補正処理について説明する。図7は、撮影時におけるデジタルカメラ内での信号処理の流れを示したフローチャートである。また、図8は、この信号処理の流れを模式的に表したブロック図である。
【0059】
デジタルカメラ10には、出荷時に上述した補間関数mij(θ)に関わる情報がメモリ22に保存されている。ステップS301において、デジタルカメラ10を用いて被写体の画像を撮影すると、被写体画像は例えばRGB信号として撮像素子14により取得される。ステップS303においては、取得されたRGB信号に基づき画像のLab信号が求められる。
【0060】
ステップS305では、ステップS303において得られたLab信号に基づいて撮影された被写体画像の各画素Pの色相角θpが算出され、ステップS307では、色相角θpに対応したマトリクス要素mijが求められる。すなわち、メモリ22に補間関数mij(θ)とその係数が保存されている場合には、色相角θpに対応するマトリクス要素mijの値が計算され、データ群として記憶されている場合には、例えばルックアップテーブルを参照して、対応するマトリクス要素mijの値が選択される。
【0061】
ステップS309では、被写体画像の各画素PのRGB信号が、ステップS307において各画素の色相角θpに応じて得られたマトリクス要素mijを用いて色補正処理を受ける。ステップS311では、色補正処理が施されたRGB信号がモニタ装置31などの画像出力装置(デジタルカメラ搭載のLCD等も含む)に向けて出力される。
【0062】
以上のように、第1実施形態によれば、色変換マトリクスの各要素を色空間内の位置をパラメータとした関数と見なすとともに、複数の基準色に基づいて第1色空間の色域全体に渡るマトリクス要素の補間関数を求めることにより、高い精度で入力色を所望の色に変換することが可能となり、色再現性を向上することができる。

(2)刊行物4の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2006-157207号公報(以下、刊行物4という。)には、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。

【0015】
前記基準チャート5は、図3に示すように、有彩色、無彩色の濃度の異なる複数のカラーパッチ5Y(黄色),5M(マジェンダ),5C(シアン),5K(グレー),5R(赤),5G(緑),5B(青)が印刷されるとともに、チャートの三辺にチャートの基準位置を示す三本の基準ラインLt,Lyが印刷され、さらに左上部に当該基準チャート5の印刷ロット番号を示す識別情報5aとしての英数文字が印刷されている。
【0016】
以下に上述の画像読取装置の校正手順を、図4に示すフローチャートに基づいて説明する。上述の基準チャート5が前記画像読取装置1の原稿台に載置され、操作部(図示せず)で設定された校正モードで読み取られると(S1,S2)、前記画像読取手段10に備えた撮像素子(通常、リニアCCDセンサが使用される)によって各カラーパッチの濃度及び基準ラインLt,Lyの位置がRGBデータとして読み取られ、シェーディング補正、地肌補正等の必要な補正処理が施された後に記憶手段15に格納される(S3)。
【0017】
前記記憶手段15に格納された画像データから前記基準チャート識別手段12に備えられた文字認識手段12aによって前記識別情報5aが読み取られ、前記基準チャート5が固有に識別される(S4)。
【0018】
次に、前記測色データ取得手段13によって前記データベースサーバ3にアクセスされ(S5)、前記データベース5aから当該識別情報で特定される基準チャート5のカラーパッチに対する測色データが取得される(S6)。ここで、測色データは前記データベースサーバ3からFTPやHTTP等のデータ転送プロトコルに基づいて取得されるように構成することが可能であり、他にメーラソフトを搭載しておけば電子メールとして取得されるように構成することも可能である。
【0019】
このようにして測色データが取得されると、前記カラー変換テーブル生成手段14によって、取得された測色データと前記画像読取手段10により読み取られたカラーパッチの読取データとから前記カラー変換テーブルが生成される(S7)。

(3)刊行物5の記載事項
前置報告書で提示された刊行物である特開平9-233494号公報(以下、刊行物5という。)には、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。

【0002】
【従来の技術】入室証として用いられるIDカードを作成する場合においては、入力デバイスとしてCCDカメラあるいはスキャナを用い、出力デバイスとして、カラーディスプレイやカラープリンタをパ-ソナルコンピュ-タに接続していた。
【0003】また、カメラやスキャナはRGB表色系で扱い、カラープリンタは、YMCK表色系で扱うため、パソコンでRGBからYMCKへの変換を行っていた。また、カラーマネジメントシステムのようにそれぞれの入出力デバイスのプロファイル情報を用意し、一旦XYZ表色系等のデバイスインディスペンデントカラーへ変換した後、出力デバイスのガミュートへのカラーマッピングを行う方法もある。

(C)刊行物3に記載された発明
(1)刊行物3の【0001】、【0006】の記載によれば、刊行物3に記載された発明は、「第1色空間における入力色を第2色空間における所望の色に変換する色変換マトリクスを用いた色補正方法を用いた画像信号処理装置」に関する発明であるといえる。

(2)刊行物3の【0019】-【0024】等の記載によれば、第1色空間のRGB信号は、マクベスのカラーチャートをデジタルカメラで撮影した基準色のRGB信号であって、第2色空間のsRGB信号に変換されるといえる。
すなわち、刊行物3には、デジタルカメラを有し、マクベスのカラーチャートをデジタルカメラで撮影した基準色のRGB信号であって、第2色空間のsRGB信号に変換される第1色空間のRGB信号の構成が記載されているといえる。

(3)刊行物3の【0019】-【0025】等の記載によれば、目標色のRGB信号が第2色空間において設定される構成を有し、目標色はマクベスのカラーチャートを基準色としたカラーパッチの既知の測色信号を第2色空間に配置したものであるといえる。
すなわち、刊行物3には、マクベスのカラーチャートを基準色としたカラーパッチの既知の測色信号を第2色空間に配置した目標色が記載されているといえる。

(4)刊行物3に記載された色変換マトリクス最適化処理は、【0028】-【0050】の記載によれば、
a)1つの基準色(Pn)に対応する入力色Cin[n]、
b)最適化される前の色変換マトリクスM[k]を入力色Cin[n]に作用させて得られる補正色Ces[n]、
c)基準色(Pk)を測色して得られた目標色Cme[n]、
としたとき、
目標色Cme[n]および補正色Ces[n]のRGB信号をRGB→XYZ→L*a*b*変換によりLab信号に変換して(変換したものを、それぞれ、C*me[n]、C*es[n]とする。)一致度を評価し、C*es[n]がC*me[n]に収束したか否かが判定した結果、収束したと判定された場合には、ステップS211に進み現在のmij[k]の値が色変換マトリクスM[k]の最適解とされ、全ての基準色(Pn)に対して各々最適な色変換マトリクスが求められたら色変換マトリクス最適化処理を終了する、
処理であるといえ当該処理を行う処理手段を有しているといえる。
上記処理手段で処理される、1つの基準色(Pn)に対応する入力色Cin[n]は、マクベスのカラーチャートをデジタルカメラで撮影した基準色のRGB信号であるから、基準色の第1色空間のRGB信号であり、目標色Cme[n]は、マクベスのカラーチャートを基準色としたカラーパッチの既知の測色信号を第2色空間に配置した目標色のRGB信号であるといえる。
したがって、上記処理手段の処理をまとめると、すべての基準色に対して、基準色の第1色空間のRGB信号に色変換マトリクスM[k]を作用させた補正色と基準色の既知の測色信号を第2色空間に配置した目標色のRGB信号とをRGB→XYZ→L*a*b*変換によりLab信号に変換して一致度を評価し、一致度が収束したときのmij[k]の値を色変換マトリクスM[k]の最適解として得る処理手段といえ、刊行物3には当該処理手段が開示されているといえる。

(5)刊行物3に記載された補間関数算出処理は、刊行物3の【0051】-【0056】の記載によれば、上記色変換マトリクス最適化処理手段で得られた最適解のmij[k]の値に基づいて補間関数mij(θ)を算出しているといえ当該算出を行う算出手段を有しているといえる。

(6)刊行物3の【0056】-【0062】の記載によれば、補間関数mij(θ)はデジタルカメラに記憶され、デジタルカメラで撮影した画像のRGB信号を各画素の色相角θpに応じて得られたマトリクス要素mijを用いて色補正処理を行うための関数であるといえる。

(7)まとめ
以上(1)ないし(6)の記載事項をまとめると、刊行物3には以下の発明(以下、刊行物3発明という。)が開示されているといえる。

第1色空間における入力色を第2色空間における所望の色に変換する色変換マトリクスを用いた色補正方法を用いた画像信号処理装置であって、
デジタルカメラと、
マクベスのカラーチャートをデジタルカメラで撮影した基準色のRGB信号であって、第2色空間のsRGB信号に変換される第1色空間のRGB信号と、
マクベスのカラーチャートを基準色としたカラーパッチの既知の測色信号を第2色空間に配置した目標色と、
すべての基準色に対して、基準色の第1色空間のRGB信号に色変換マトリクスM[k]を作用させた補正色と基準色の既知の測色信号を第2色空間に配置した目標色のRGB信号とをRGB→XYZ→L*a*b*変換によりLab信号に変換して一致度を評価し、一致度が収束したときのmij[k]の値を色変換マトリクスM[k]の最適解として得る処理手段と、
上記色変換マトリクス最適化処理手段で得られた最適解のmij[k]の値に基づいて補間関数mij(θ)を算出する算出手段と、を備え
補間関数mij(θ)はデジタルカメラに記憶され、デジタルカメラで撮影した画像のRGB信号を各画素の色相角θpに応じて得られたマトリクス要素mijを用いて色補正処理を行うための関数である、
画像信号処理装置。

(D)対比
補正後発明と刊行物3発明とを対比する。

(1)刊行物3発明は「第1色空間における入力色を第2色空間における所望の色に変換する色変換マトリクスを用いた色補正方法を用いた画像信号処理装置」である。
刊行物3発明の上記「所望の色」とは、【0002】、【0003】、【0004】の記載を見ると、「元の被写体の色合い」、「本来の色」であるといえる。
すなわち、刊行物3発明は、第1色空間における入力色を第2色空間における「元の被写体の色合い」に変換する色変換マトリクスを用いた色補正方法を用いた画像信号処理装置であるといえ、第1色空間における入力色を第2色空間に変換する際に「元の被写体の色合い」を伝達する構成を有する画像信号処理装置といえ、「元の被写体の色合い」は被写体のトゥルーカラーといえる。
また、刊行物3発明の画像処理装置は、以下で検討するように、マクベスのカラーチャートをデジタルカメラで撮影(キャプチャ)した画像から、色変換マトリクスを求めているから、キャプチャシステムであるといえる。
以上のことから、刊行物3発明は、「被写体のトゥルーカラーを伝達するための画像キャプチャシステム」である点で補正後発明と相違がない。

(2)刊行物3発明は「デジタルカメラ」を備えており、上記デジタルカメラは、画像をキャプチャする装置といえるから、刊行物3発明は、「画像キャプチャ装置」を有している点で、補正後発明と相違がない。

(3)刊行物3発明は「マクベスのカラーチャートをデジタルカメラで撮影した基準色のRGB信号であって、第2色空間のsRGB信号に変換される第1色空間のRGB信号」を有している。
すなわち、マクベスのカラーチャートを撮影したRGB信号は基準色であり、第2色空間のsRGB信号に変換されるのであるから、マクベスのカラーチャートは、基準色を含み、第1色空間の画像から第2色空間の画像を生成するための基準色のセットといえ、刊行物3発明は「少なくとも1つの基準色(reference color)(202a)を含む画像化基準色セット(202)」を有しているといえる。

(4)刊行物3発明の「マクベスのカラーチャートを基準色としたカラーパッチの既知の測色信号を第2色空間に配置した目標色」は、マクベスのカラーチャート(基準色)に対応した測色信号のセットといえる。
上記目標色を用いて、以下にあるように色変換マトリクス最適化処理を行っているから、目標色(の測色信号)は、色変換マトリクス最適化処理の制御を行う値であるといえ、刊行物3発明は、「前記少なくとも1つの基準色(202a)に対応する少なくとも1つの制御色(203a)を含む制御基準色セット(203)」を有しているといえる。

(5)刊行物3発明は、
「すべての基準色に対して、基準色の第1色空間のRGB信号に色変換マトリクスM[k]を作用させた補正色と基準色の既知の測色信号を第2色空間に配置した目標色のRGB信号とをRGB→XYZ→L*a*b*変換によりLab信号に変換して一致度を評価し、一致度が収束したときのmij[k]の値を色変換マトリクスM[k]の最適解として得る処理手段と、
上記色変換マトリクス最適化処理手段で得られた最適解のmij[k]の値に基づいて補間関数mij(θ)を算出する算出手段と、を備え
補間関数mij(θ)はデジタルカメラに記憶され、デジタルカメラで撮影した画像のRGB信号を各画素の色相角θpに応じて得られたマトリクス要素mijを用いて色補正処理を行うための関数である」
の構成を有している。
基準色の第1色空間のRGB信号はマクベスのカラーチャート(前記画像化基準色セット)を撮影したRGB信号であるから、上記刊行物3発明の構成は、「マクベスのカラーチャート(前記画像化基準色セット)を撮影したRGB信号に色変換マトリクスM[k]を作用させた補正色(のRGB信号)」と、「既知の測色信号を第2色空間に配置した目標色のRGB信号(制御基準色セット)」とから、上記二つのRGB信号をLab信号に変換した信号についてその一致度が収束するように色変換マトリクス最適化処理を行い、上記色変換マトリクス最適化処理により求めたmij[k]の値に基づき、補間関数mij(θ)を算出しているといえ、上記色変換マトリクス最適化処理に基づき得られた補間関数mij(θ)は色補正処理を行うための関数であるから、刊行物3発明は「前記制御基準色セット(203)及び前記画像化基準色セット(202)にアクセスし、前記少なくとも1つの基準色(202a)と前記少なくとも1つの制御色(203a)との間の相違を取り除く色補正関数(210)を生成するための色補正コンポーネント(204)」を有しているといえる。
また、刊行物3発明の色変換マトリクス最適化処理では、(Lab信号に変換した)補正色を(Lab信号に変換した)目標色と比較して一致度が収束したことを判定しているから、上記一致度が収束するように求められた(Lab信号に変換した)補正色は、前記キャプチャされた画像の対象物の周囲および前記画像キャプチャ装置(201)と独立した基準色空間に変換されているといえる。
したがって、刊行物3発明は「前記制御基準色セット(203)及び前記画像化基準色セット(202)にアクセスし、前記画像キャプチャ装置(201)によりキャプチャされた画像の色空間を、前記キャプチャされた画像の対象物の周囲および前記画像キャプチャ装置(201)と独立した基準色空間に変換し、前記少なくとも1つの基準色(202a)と前記少なくとも1つの制御色(203a)との間の相違を取り除く色補正関数(210)を生成するための色補正コンポーネント(204)と」を備えているといえる。

(6)刊行物3発明では、マクベスのカラーチャートを用いた色変換マトリクス最適化処理のみを前提としているから、補正後発明が有する一意の識別信号に関する構成を有していない。
したがって、刊行物3発明は
「前記画像化基準色セット(202)は、
一意の識別情報(202b)
をさらに含み、
前記制御基準色セット(203)は、該一意の識別情報(202b)によって一意に識別される前記画像化基準色セット(202)と一致する」
の構成を有していない点で補正後発明と相違する。

(7)まとめ(一致点・相違点)
以上まとめると、補正後発明と刊行物3発明とは以下の一致点で一致し相違点で相違する。

(一致点)
被写体のトゥルーカラーを伝達するための画像キャプチャシステムであって、
画像キャプチャ装置(201)と、
少なくとも1つの基準色(reference color)(202a)を含む画像化基準色セット(202)と、
前記少なくとも1つの基準色(202a)に対応する少なくとも1つの制御色(203a)を含む制御基準色セット(203)と、
前記制御基準色セット(203)及び前記画像化基準色セット(202)にアクセスし、前記画像キャプチャ装置(201)によりキャプチャされた画像の色空間を、前記キャプチャされた画像の対象物の周囲および前記画像キャプチャ装置(201)と独立した基準色空間に変換し、前記少なくとも1つの基準色(202a)と前記少なくとも1つの制御色(203a)との間の相違を取り除く色補正関数(210)を生成するための色補正コンポーネント(204)と
を備える画像キャプチャシステム。

(相違点)
補正後発明では、一意の識別情報に関する構成を有しているのに対し、刊行物3発明では、一意の識別情報に関する構成を有さず、したがって、
刊行物3発明は、
「 前記画像化基準色セット(202)は、
一意の識別情報(202b)
をさらに含み、
前記制御基準色セット(203)は、該一意の識別情報(202b)によって一意に識別される前記画像化基準色セット(202)と一致する」
の構成を有していない点で補正後発明と相違する。

(E)判断
上記相違点に関して、刊行物3ではマクベスのカラーチャートを用いることを前提として実施例を構成しているが、刊行物3の【0025】には「カラーチャートとしてはマクベスカラーチャートに限らず、複数のカラーパッチが均等色空間上に一様に分布する、例えばJIS標準色標でもよい。」との記載があり、他のカラーチャートを用いてもよいことが示唆されている。そして、色変換テーブルを作成するときに、異なるカラーチャートを基準として用いる場合には、基準チャートが固有に識別される識別情報をカラーチャートに付加し、予め記憶されている基準色(制御基準色セット)を上記識別情報を用いて識別して利用することは、上記刊行物4にあるとおり本願出願前よく知られたことであり、刊行物3においても、異なるカラーチャートを用いることが示唆されているから、カラーチャートを選択可能として、上記選択されたカラーチャートを識別するための識別情報を用いて、制御基準色セットを当該識別情報で識別することは当業者が容易になしえたことである。

なお、上記対比において、「刊行物3発明の色変換マトリクス最適化処理では、(Lab信号に変換した)補正色を(Lab信号に変換した)目標色と比較して一致度が収束したことを判定しているから、上記一致度が収束するように求められた(Lab信号に変換した)補正色は、前記キャプチャされた画像の対象物の周囲および前記画像キャプチャ装置(201)と独立した基準色空間に変換されているといえる。」としたが、仮に、上記補正後発明の構成の「独立した基準色空間」が、装置に依存しない色空間(デバイスインディスペンデントカラー)に変換する構成を指すとしても、刊行物3発明では、「RGB信号をRGB→XYZ→L*a*b*変換」しており、少なくとも「XYZ」に変換することは、上記刊行物5にもあるとおり装置に依存しない色空間に変換していることといえるから、この点で刊行物3発明は補正後発明と相違はない。

(F)効果
以上のように、上記相違点は、当業者が容易に想到し得たものと認められ、補正後発明全体としてみても格別のものはなく、その作用効果も、上記相違点に係る構成の採用に伴って当然に予測される程度のものにすぎず、格別顕著なものがあるとは認められない。

(G)まとめ(独立特許要件)
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成26年2月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし10に係る発明は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし10に係る発明のとおりであるところ、そのうち、請求項5に係る発明(以下「本願発明」という。)は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1および請求項5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項1】
被写体のトゥルーカラーを伝達するための画像キャプチャシステムであって、
画像キャプチャ装置(201)と、
少なくとも1つの基準色(reference color)(202a)を含む画像化基準色セット(202)と、
前記少なくとも1つの基準色(202a)に対応する少なくとも1つの制御色(203a)を含む制御基準色セット(203)と、
前記制御基準色セット(203)及び前記画像化基準色セット(202)にアクセスし、前記少なくとも1つの基準色(202a)と前記少なくとも1つの制御色(203a)との間の相違を取り除く色補正関数(210)を生成するための色補正コンポーネント(204)と
を備える画像キャプチャシステム。

【請求項5】
前記画像化基準色セット(202)は、一意の識別情報(202b)をさらに含み、
前記制御基準色セット(203)は、該一意の識別情報(202b)によって一意に識別される前記画像化基準色セット(202)と一致する
請求項1に記載の画像キャプチャシステム。

2.刊行物3(特開2006-211369号公報)の記載
審査官が拒絶の査定で引用した刊行物3には、上記第2 2.(2-3)(B)(1)に示したとおりの事項が記載されている。

3.刊行物3記載の発明
上記刊行物1には、上記第2 2.(2-3)(C)(7)に示した、刊行物3発明が記載されている。

4.対比・判断
本願発明は、前記第2 2.(2-3)(A)で認定した補正後発明との対応でみると、当該補正後発明における構成要件Cのうち「前記画像キャプチャ装置(201)によりキャプチャされた画像の色空間を、前記キャプチャされた画像の対象物の周囲および前記画像キャプチャ装置(201)と独立した基準色空間に変換し」との特定がないだけで、その余の点は補正後発明と同じである。
したがって、本願発明は、上記刊行物3記載の発明と対比すると、前記第2 2.(2-3)(D)(1)ないし(7)で認定した相違点で相違し、その余の点で一致するといえる。
上記相違点の構成は、第2 2.(2-3)(E)で検討したように、刊行物4に記載された構成であるといえ、また、本願発明に刊行物4に記載された技術思想を適用することも、当業者が容易になしえたことであるから、本願発明は、刊行物3及び刊行物4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物3及び刊行物4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、残る請求項1ないし4、6ないし10に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-05 
結審通知日 2014-12-08 
審決日 2014-12-19 
出願番号 特願2009-552648(P2009-552648)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (H04N)
P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 豊田 好一  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 渡邊 聡
小池 正彦
発明の名称 トゥルーカラー通信  
代理人 特許業務法人アイ・ピー・ウィン  

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