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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A63F
審判 全部無効 特17条の2、3項新規事項追加の補正  A63F
審判 全部無効 発明同一  A63F
管理番号 1300558
審判番号 無効2013-800124  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-07-16 
確定日 2014-12-01 
事件の表示 上記当事者間の特許第4807531号発明「画像処理装置およびその方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4807531号(請求項の数[8]、以下、「本件特許」という。)は、平成16年12月28日に出願した特願2004-381199号の一部を平成20年10月27日に新たな特許出願とした特願2008-275989号に係るものであって、その請求項1?8に係る発明について、平成23年8月26日に特許権の設定登録がなされた。

これに対して、平成25年7月16日に、本件特許の請求項1?8に係る発明の特許に対して、本件無効審判請求人(以下「請求人」という。)により本件無効審判〔無効2013-800124号〕が請求されたものであり、本件無効審判被請求人(以下「被請求人」という。)により指定期間内の同年10月7日付けで審判事件答弁書が提出されたものである。

また、平成25年12月24日に請求人より上申書が提出され、平成26年2月3日付けで請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、同4日付けで被請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、同17日付けで被請求人より上申書が提出され、同18日に口頭審理が行われ、同年3月3日付けで請求人より上申書が提出され、同18日付けで被請求人より上申書が提出されたものである。


第2 当事者の主張
1.請求人の主張、及び提出した証拠の概要
請求人は、特許4807531号発明の特許請求の範囲の請求項1、2、3、4、5、6、7及び8に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、平成25年12月24日提出の上申書、平成26年2月3日付け口頭審理陳述要領書、同年2月18日の口頭審理、及び、同年3月3日付け上申書において、甲第1?9号証を提示し、以下の無効理由を主張した。

[無効理由]
無効理由1:本件の請求項1、2、4、5、6及び8に係る各特許発明は、甲第3号証に記載された発明、甲第4号証に記載された発明、甲第5号証に記載された経路描写技術に関する出願当時の技術水準、及び、甲第6号証、甲第7号証等に記載されたゲーム分野において周知な事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

無効理由2:本件の請求項1、2、4、5、6及び8に係る各特許発明は、甲第3号証に記載された発明、甲第3号証の3に開示された経路描写技術、甲第4号証に記載された発明、甲第5号証に記載された経路描写技術に関する出願当時の技術水準、及び、甲第6号証、甲第7号証等に記載されたゲーム分野において周知な事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

無効理由3:本件特許の請求項3及び7に係る各特許発明は、甲第3号証に記載された発明、甲第4号証に記載された発明、甲第5号証に記載された経路描写技術に関する出願当時の技術水準、甲第6号証、甲第7号証等に記載されたゲーム分野において周知な事項、並びに、甲第8号証等に記載されたゲーム分野において周知な事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

無効理由4:本件特許の請求項3及び7に係る各特許発明は、甲第3号証に記載された発明、甲第3号証の3に開示された経路描写技術、甲第4号証に記載された発明、甲第5号証に記載された経路描写技術に関する出願当時の技術水準、甲第6号証、甲第7号証等に記載されたゲーム分野において周知な事項、並びに、甲第8号証等に記載されたゲーム分野において周知な事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

無効理由5:本件の請求項1乃至8に係る各特許発明は、甲第9号証に記載された発明と同一である。よって、本件特許の請求項1乃至8に係る各特許発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。

無効理由6:請求項1乃至8における「遅れて」という記載について、特許法第17条の2第3項の規定により特許を受けることができないものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特許第4807531号特許原簿
甲第2号証:特許第4807531号公報
甲第3号証:J.Lee,外4名著、“Interactive Control of Avatars Animated with Human Motion Data,”SIGGRAPH'02, Proceedings of the 29th annual conference on Computer graphics and interactive techniques, ACM、米国2002年、第491?500頁
甲第3号証の2:甲第3号証の翻訳文
甲第3号証の3:"Sketch Interface”、[online]、インターネット
甲第3号証の4:"Interactive Avatar Control"、[online]、インターネット
甲第4号証:特開平6-285259号公報
甲第5号証:T. Igarashi,外3名著、“Path Drawing for 3D Walkthrough、"UIST'98, Proceedings of the 11th annual ACM symposium on User interface software and technology, 1998、第173?174頁
甲第5号証の2:甲第5号証の翻訳文
甲第5号証の3:"Path Drawing for 3D Walkthrough”、[online]、インターネット
甲第5号証の4: "Path Drawing for 3D Walkthrough”、[online]、インターネット
甲第6号証:「AGE Of Empire」と題する動画、2013年
甲第6号証の2: Mark H. Walker著、日本ドキュメンテックス翻訳、“マイクロソフト エイジオブエンパイヤII:エイジオブキングス,アスキー、1999年、取扱説明書、表紙、表紙の裏、目次頁の1頁目、第42?43頁
甲第7号証:William R.Trotter著、青松社翻訳、“Close Combat inside moves”、アスキー、1997年、第44?45頁
甲第8号証:“タッチ!カービィ 魔法の絵筆”,週刊ファミ通、株式会社エンターブレイン、2004年11月、第34頁
甲第9号証:特開2005-342266号公報

2.被請求人の主張
これに対して、被請求人は、平成25年10月7日付け審判事件答弁書、平成26年2月4日付け口頭審理陳述要領書、平成26年2月17日付け上申書、同年2月18日の口頭審理、及び、同年3月18日付け上申書において、乙第1?2号証を提示し、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の無効理由に対して以下のように反論した。

[無効理由に対する反論]
本件審判の請求には理由がない。

[証拠方法]
乙第1号証:インターネットアーカイブによる甲第3号証の3のアドレスの収集日の検索結果、 https://web.achive.org/web/20060415000000/http://graphics.cs.cmu.edu/projects/Avatar/videos/maze2.avi.平成26年1月30日印刷
乙第2号証:インターネットアーカイブによる甲第5号証の3のアドレスの収集日の検索結果、https://web.achive.org/web/20110701000000/http://www-ui.is.s.u-tokyo.ac.jp/takeo/video/navi.mpg,平成26年1月30日印刷


第3 本件に係る発明
本件特許の請求項1?8に係る発明は特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。(「A:」?「R:」の文字は当審で付与。)
「【請求項1】
A:表示画面と、前記表示画面上に配置されたタッチパネルと、実行手段と、ゲームプログラムが格納されたメモリとを備え、前記実行手段による前記ゲームプログラムの実行により前記表示画面に、ユーザーによる操作に応じて移動可能に設定された複数の制御対象を表示し、前記ユーザーによる前記タッチパネル上での操作に応じて前記制御対象の挙動を制御するように構成されたビデオゲーム装置であって、
B: (a)複数の制御対象を前記表示画面に表示し、
C: (b)前記ユーザーのタッチパネル上での操作によって前記ユーザーから接触された接触位置の移動が接触状態を維持された状態で行われたときドラッグ操作が開始されたと判定し、
D: (c)前記ドラッグ操作の開始された位置に表示されている制御対象を、前記ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動中に、該接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる制御を開始し、
E: (d)前記移動を開始した制御対象を、前記ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動に遅れて追従するように、前記接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる制御を続行し、
F: (e)前記(d)の処理を続行中に前記接触状態が開放されたとき当該開放位置を終端位置として前記ドラッグ操作が確定したと判定する
ことを含む処理を実行するように構成されてなるビデオゲーム装置。
【請求項2】
G: (f)前記ドラッグ操作が確定したとき移動中の前記制御対象を前記(e)で確定した終端位置に向けさらに移動させる制御を実行する処理を行うことを特徴とする請求項1記載のビデオゲーム装置。
【請求項3】
H: 前記(c)または(f)の処理の実行に応じて移動中の前記制御対象に対しユーザーによる新たな操作が行われたとき、前記制御対象に新たな挙動を付加する制御を実行する処理を行うことを特徴とする請求項1または2記載のビデオゲーム装置。
【請求項4】
I: 前記接触位置の軌跡を前記表示画面に線として表示する処理を行うことを特徴とする請求項1?3のいずれか1つに記載のビデオゲーム装置。
【請求項5】
J: タッチパネルが配置された表示画面に、ユーザーの操作に応じて移動可能に設定された複数の制御対象を表示し、前記ユーザーによる前記タッチパネル上での操作に応じて前記制御対象の挙動を制御するプログラムであって、
前記プログラムは、コンピュータに、
K: (a)複数の制御対象を前記表示画面に表示する処理と、
L: (b)前記ユーザーのタッチパネル上での操作によって前記ユーザーから接触された接触位置の移動が接触状態を維持された状態で行われたときドラッグ操作が開始されたと判定する処理と、
M: (c)前記ドラッグ操作の開始された位置に表示されている制御対象を、前記ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動中に該接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる制御を開始する処理と、
N: (d)前記移動を開始した制御対象を、前記ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動に遅れて追従するように前記接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる制御を続行する処理と、
O: (e)前記処理(d)の続行中に前記接触状態が開放されたとき当該開放位置を終端位置として前記ドラッグ操作が確定したと判定する処理と、
を実行させるプログラム。
【請求項6】
P: 前記コンピュータに、
(f)前記ドラッグ操作が確定したとき移動中の前記制御対象を前記(e)の処理で確定した終端位置に向けさらに移動させる処理を実行させる、
請求項5記載のプログラム。
【請求項7】
Q: 前記コンピュータに、
前記(c)または(f)の処理の実行に応じて移動中の前記制御対象に対しユーザーによる新たな操作が行われたとき、前記制御対象に新たな挙動を付加する処理を実行させる、
請求項5または6記載のプログラム。
【請求項8】
R: 前記コンピュータに、
前記接触位置の軌跡を前記表示画面に線として表示する処理を実行させる、
請求項5乃至7のいずれか1つに記載のプログラム。」(以下、「本件特許発明1」等という。)


第4 無効理由1?4についての当審の判断
1.甲第3,4,5,6,7,8号証、及び甲第3号証の3の記載事項
(1)甲第3号証の記載事項
本件特許出願遡及日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、人体の動作データでアニメ化されるアバターのインタラクティブ制御に関して、次の事項が記載されている。
なお、文末の( )は、請求人が翻訳文として提出した甲第3号証の2の対応箇所である。(以下「対応記載」という。)
(ア)「Real-time Control of three-dimensional avatars is an important problem in the context of computer games and virtual environments.
(3次元アバターの実時間制御は、コンピュータゲームと仮想環境の状況において重要な問題である。)」(第491頁左欄第2行?第4行)
(イ)「The user controls the avatar's motion using sketched paths in maze and rough terrain environments.(ユーザーは、迷路と起伏地の環境でスケッチした経路を使用して、アバターの動作を制御する。)」(第491頁右欄第1行?第3行)
(ウ)「In the sketching interface, the user specifies a path through the environment by sketching on the terrain, and the data structure is searched to find motion sequences that follow that path.(スケッチベースドインターフェースでは、ユーザーは、地形にスケッチすることによりその場を通る経路を指定し、その経路をたどる動作シーケンスを見つけるためにデータ構造を探索する。)」(第492頁左欄第18行?第20行)
(エ)「The sketch-based interface allows the user to draw paths on the screen using a mouse.(スケッチベースドインターフェースでは、ユーザーは、マウスを使って画面上に経路を描くことができる。)」(第497頁右欄第28行?第29行)
(オ)「In either case,the sketched path is considered as a sequence of goal positions to be traversed,(いずれの場合も、スケッチされた経路は、通過するためのゴール位置の列として考えられ)」(第498頁左欄第18行?第19行)
(カ)「The sketch-based interface is very easy to use and responds instantly to the user input by finding a matching action and updating the display while the path is being drawn.(スケッチベースドインターフェースは、非常に使いやすく、経路が描かれている間に、マッチする行動を見つけ、ディスプレイを更新することによって、ユーザー入力に即座に反応する。)」(第499頁左欄第31行?第33行)
(キ)Figure1には、画面に、ひとつのアバター、経路を表示したものが記載されている。
(ク)Figure1上段、及びFigure5左上には、経路が連続した曲線として描写され、描写された経路の始端と終端との間の位置に移動中のアバターが位置した状態の写真が示されている。

(ケ)記載事項(イ)の制御は、記載事項(ア)の「コンピュータゲームと仮想環境の状況において重要な問題である。」とされた「3次元アバターの実時間制御」であって、応用分野として、コンピュータゲームが記載されたものであり、かつ、通常、コンピュータゲームは、プログラムによって実現され、このようなプログラムは、メモリ等の記憶手段に記憶されるものであるので、記載事項(ア)?(カ)には、コンピュータを用いて実現されたゲーム装置であって、ゲームプログラムを記録したメモリを備えるものも実質的に記載されているといえる。

上記記載事項から、甲第3号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「ゲームプログラムを記録したメモリを備える、コンピュータを用いて実現されたゲーム装置であって、
画面にアバターを表示し、
ユーザーは、迷路と起伏地の環境でスケッチした経路を使用して、アバターの動作を制御し、
スケッチベースドインターフェースでは、
ユーザーは、地形にスケッチすることによりその場を通る経路を指定し、その経路をたどる動作シーケンスを見つけるためにデータ構造を探索し、
ユーザーは、マウスを使って画面上に経路を描くことができ、
スケッチベースドインターフェースは、非常に使いやすく、経路が描かれている間に、マッチする行動を見つけ、ディスプレイを更新することによって、ユーザー入力に即座に反応するものであり、
スケッチされた経路は、通過するためのゴール位置の列として考えられ、
経路は連続した曲線として描写され、描写された経路の始端と終端との間の位置に移動中のアバターが位置した状態となる
ゲーム装置」(以下、これを「甲第3号証記載の発明1」という。)

また、ゲームプログラムに着目して、甲第3号証には、次の発明も記載されているものと認められる。
「ゲームプログラムを記録したメモリを備える、コンピュータを用いて実現されたゲーム装置のゲームプログラムであって、
画面にアバターを表示し、
ユーザーは、迷路と起伏地の環境でスケッチした経路を使用して、アバターの動作を制御し、
スケッチベースドインターフェースでは、
ユーザーは、地形にスケッチすることによりその場を通る経路を指定し、その経路をたどる動作シーケンスを見つけるためにデータ構造を探索し、
ユーザーは、マウスを使って画面上に経路を描くことができ、
スケッチベースドインターフェースは、非常に使いやすく、経路が描かれている間に、マッチする行動を見つけ、ディスプレイを更新することによって、ユーザー入力に即座に反応するものであり、
スケッチされた経路は、通過するためのゴール位置の列として考えられ、
経路は連続した曲線として描写され、描写された経路の始端と終端との間の位置に移動中のアバターが位置した状態となる
ゲーム装置のゲームプログラム」(以下、これを「甲第3号証記載の発明2」という。)

(2)甲第4号証の記載事項
本件特許出願遡及日前に頒布された刊行物である甲第4号証には、液晶コントローラに関して、次の事項が記載されている。
(ア)「【0007】
【実施例】以下、本発明の一実施例による液晶コントローラを図面を参照して説明する。図1(a)に示すように、液晶コントローラ10は、コントローラ本体11と、制御信号を出力するタッチパネル12と、操作情報を表示する液晶モニタ(液晶画面)13とを有している。
【0008】液晶コントローラ10は、図2に示すように、接続コード14を介してゲーム機本体15に接続されており、・・・。
【0009】コントローラ本体11は、・・・外表面11aのほぼ中央にタッチパネル12が埋設されている。タッチパネル12は、横長矩形状板体からなり、コントローラ本体11の外表面11aの一部を形成している。このタッチパネル12は、タッチパネル12を通して液晶モニタ13の視覚が可能となる無色或は有色の透明体により形成されており、外表面を押圧することにより、ゲーム機本体15へ制御信号を出力することができる。
【0010】液晶モニタ13は、タッチパネル12と同様の形状及び大きさに形成されて、上層に位置するタッチパネル12と共にコントローラ本体11の外表面に設けられており、ゲーム機本体15から送られて来た操作情報を表示する。従って、操作者Pは、タッチパネル12を通して液晶モニタ13に表示される操作情報を視認することができる。」
(イ)「【0021】・・・シミュレーションゲーム(ウォーゲーム)等において、・・・液晶モニタ13に、操作者Pが操作することができる戦車や飛行機やヘリコプターや兵等の戦闘手段の現在位置と共に戦闘手段の移動可能範囲が表示される(図7(b)参照)。
・・・
【0023】この戦闘手段の移動方法の一例を、図8に示す。操作者Pは、先ず動かしたい戦闘手段を指でタッチする(図8(a)参照)。すると、各戦闘手段の能力に応じた移動範囲が色の変化等により明示される(図8(b)参照)。そこで、動かしたい位置に指でタッチすると、従前の位置から移動希望位置に戦闘手段の表示が変更される(図8(c)参照)。」
(ウ)図7、図8には、シミュレーションゲーム(ウォーゲーム)等を実現する場合の処理の例が記載されている。

(3)甲第5号証の記載事項
本件特許出願遡及日前に頒布された刊行物である甲第5号証には、三次元ウォークスルーのための経路描画に関して、次の事項が記載されている。
なお、文末の( )は、請求人が翻訳文として提出した甲第5号証の2の対応箇所である。(以下「対応記載」という。)
(ア)「This paper presents an interaction technique for walkthrough in virtual 3D spaces, where the user draws the intended path directly on the scene, and the avatar automatically moves along the path.(本稿は、ユーザーが場面上に直接意図する経路を描くと、アバターが自動的にその経路上を移動する仮想三次元(3D)空間におけるウォークスルーのためのインタラクション技術を提示する。)」(第173頁左欄第2行?第5行)
(イ)「Using this technique, the user can specify not only the goal position, but also the route to take and the camera direction at the goal with a single stroke.(この技術を使用すると、ユーザーは、1回のストロークで、ゴールの位置だけでなく、たどる経路とゴール地点のカメラ方向も指定できる。)」(第173頁左欄第7行?第10行)
(ウ)「Path drawing can be used with any pointing device, but is most suitable for a pen-based or touch panel system.(経路描写は、あらゆるポインティングデバイスで使用できるが、ペン型またはタッチパネルシステムに最も適する。)」(第174頁左欄第52行?第53行)
(エ)「The user can draw a new stroke during the movement to modify the path.」(ユーザーは、経路を修正するために、移動中に新しいストロークを描くことができる。)」(第173頁右欄第14行?第15行)
(オ)図1内の上部の2枚の写真にはユーザーが描写した経路は、画面上に線で表示されている。(第173頁)
(カ)「Existing walkthrough techniques can be divided into roughly two categories. One is driving,where the user continuously changes the camera position using advancing and turning buttons(中略).The other is flying, where the camera automatically jumps to the goal position that the user had specified using a pointing device [1]. Driving is commonly used for computer games, but can cause unwanted overhead when the walking is not the primary purpose of the interaction, because the user has to continuously press buttons during the movement.(中略) Flying provides a solution to the problem, freeing the user from continuous control. A11 the user has to do is to click the target, then he can arrive at the target position instantly.(現在のウォークスルー技術は、大別して2つのカテゴリーに分類できる。1つはドライビングであり、ユーザーは、前進ボタンと旋回ボタン(中略)を使用して連続的にカメラ位置を変更する。もう一つはフライングであり、カメラは、ユーザーがポインティングデバイスを使用して指定したゴール位置に自動的にジャンプする[1]。 ドライビングは、コンピュータゲームに広く使用されているが、ウォーキングがインタラクションの主目的でない場合には、ユーザーが移動中にずっとボタンを押し続けなければならないため、不要なオーバーヘッドを招くことがある。(中略)フライングは、ユーザーを連続制御から解放するため、この問題への解決策となる。ユーザーが必ずしなければならないことは、目標をクリックすることであり、そうすれば、直ちに目標位置に到達することができる。)」(第173頁左欄第17行?第33行)
(キ)「We propose a path drawing technique for 3D space navigation, which is an extension of the flying technique. It allows the user to draw the desired walkthrough path directly on the screen using a free stroke.(筆者らは、フライング技術の拡張である3D空間ナビゲーションのための経路描写技術を提案する。この技術で、ユーザーは、自由なストロークを使用して画面上に直接望むウォークスルー経路を描写できる。)」(第173頁右欄第2?5行)

(4)甲第6号証の記載事項
「エイジオブエンパイヤII:エイジオブキング」なるゲームの2013年の動画である甲第6号証には、次の事項が開示されてされている。
(ア)ユニットが3個表示されており、そのうちの1個のユニットに矢印が表示されると、そのユニットが○で囲まれ、その後他の地点に矢印が表示され、矢印が消えた後、前記1個のユニットが消えると同時に、前記他の地点にユニットが現れる動画。
(なお、甲第6号証の2第42頁には、「画面の右下の隅にある[詳細ボタン表示]をクリックして詳細コマンドをオンにします。次に、ユニットをクリックしてから、[巡回]をクリックし、目的地をクリックします。
-ユニットは、現在の地点と指定された地点の間を行ったり来たりします。」と記載されている。)

(5)甲第7号証の記載事項
本件特許出願遡及日前に頒布された刊行物である甲第7号証には、“Close Combat inside moves”に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「1 コマンドを発行したいチームのメンバーの誰かにカーソルを合わせ、マウスをクリックする。ボタンはすぐに離さず、押し続ける。
2 [コマンド]メニューが表示される。
3 [移動]または[素早く移動]コマンドをクリックして、目的地までマウスをドラッグする。すると、チームと目的地の間に、短時間だけ青い線が表示される。
・・・
5 チームが目的地に向かって移動を開始する。目的地に着くと、・・・目的地マーカーが消える。・・・」(第44頁)

(6)甲第8号証の記載事項
本件特許出願遡及日前に頒布された刊行物である甲第8号証には、“タッチ!カービィ魔法の絵筆”に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「カービィは、タッチペンで描いたライン上を移動していくのだが、カービィ自身をペンでタッチするとダッシュアタックで敵を攻撃できるのだ。」(左欄四角内の縦書き第1行?第3行)

(7)甲第3号証の3の記載事項
インターネットアーカイブによって収集されたインターネット動画である甲第3号証の3には、"Sketch Interface”に関して、次の事項が開示されてされている。
(ア)時系列に従って、経路が描写されている間に、アバターが、ユーザーが描写している位置に追従して経路に沿って移動する制御が行われているものであって、経路が描写されている間には描写位置には到達していない動画。

2.本件特許発明1について
2-1.本件特許発明1と甲第3号証記載の発明1との対比
(1)本件特許発明1と甲第3号証記載の発明1を対比する。
(a)甲第3号証記載の発明1の「画面」は、本件特許発明1の「表示画面」に相当し、以下同様に、「コンピュータ」は、「実行手段」に相当する。
(b)甲第3号証記載の発明1の「マウス」と、本件特許発明1の「タッチパネル」とは、ポインティングデバイスである点で共通する。
(c)甲第3号証記載の発明1の「ゲーム装置」は、「マッチする行動を見つけ、ディスプレイを更新する」ように制御されるものであるので、本件特許発明1の「ビデオゲーム装置」に相当する。
また、「ゲーム装置」は、「ユーザーは、マウスを使って画面上に経路を描く」ものである以上、ゲーム装置が画面やマウス「を備え」ることも自明である。
そうすると、甲第3号証記載の発明1の「ユーザーは、マウスを使って画面上に経路を描くことができ」る「ゲームプログラムを記録したメモリを備える、コンピュータを用いて実現されたゲーム装置」と、本件特許発明1の「表示画面と、前記表示画面上に配置されたタッチパネルと、実行手段と、ゲームプログラムが格納されたメモリとを備え」た「ビデオゲーム装置」とは、「表示画面と、ポインティングデバイスと、実行手段と、ゲームプログラムが格納されたメモリと、を備え」た「ビデオゲーム装置」で共通する。
(d)甲第3号証記載の発明1の「ユーザーは、マウスを使って画面上に経路を描く」ことは、本件特許発明1の「ユーザーによる操作」に相当する。
(e)甲第3号証記載の発明1の「アバターの動作を制御する」は、本件特許発明1の「制御対象の挙動を制御」することに相当する。
そして、甲第3号証記載の発明1の「画面にアバターを表示し」、「ユーザーは、マウスを使って画面上に経路を描く」、「迷路と起伏地の環境でスケッチした経路を使用して、アバターの動作を制御する」制御は、ユーザーの指示による、コンピュータによるゲームプログラムの実行によりなされるものであることが自明であるので、甲第3号証記載の発明1の「画面にアバターを表示し」、「ユーザーは、マウスを使って画面上に経路を描く」、「迷路と起伏地の環境でスケッチした経路を使用して、アバターの動作を制御する」ことと、本件特許発明1の「前記実行手段による前記ゲームプログラムの実行により前記表示画面に、ユーザーによる操作に応じて移動可能に設定された複数の制御対象を表示し、前記ユーザーによる前記タッチパネル上での操作に応じて前記制御対象の挙動を制御する」こととは、「実行手段によるゲームプログラムの実行により表示画面に、ユーザーによる操作に応じて移動可能に設定された制御対象を表示しユーザーによるポインティングデバイスの操作に応じて制御対象の挙動を制御する」点で共通する。
(f)甲第3号証記載の発明1の「画面にアバターを表示」することと、本件特許発明1の「(a)複数の制御対象を前記表示画面に表示し」とは、「制御対象を表示画面に表示」する点で共通する。
(g)甲第3号証記載の発明1の「マウスを使って画面上に経路を描く」操作は、制御対象の移動に係る「ユーザーのポインティングデバイスの操作」である本件特許発明1の「ドラッグ操作」に対応しており、甲第3号証記載の発明1の「通過するためのゴール位置の列として考えられる」ものである「経路」は、これに沿って制御対象が移動させられるものであるから、本件特許発明1のドラッグ操作に係る「接触位置の移動の軌跡」に対応している。そして、甲第3号証記載の発明1の「経路をたどる動作シーケンス」は、このユーザのポインティングデバイスの操作に応じた、経路の軌跡に沿って移動させる制御である点で、本件特許発明1の「接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる制御」に対応する。
さらに、甲第3号証記載の発明1においては、「経路が描かれている間」に「マッチする行動を見つけて、ディスプレイを更新」し「ユーザ入力に即座に反応」し「連続した曲線として描写」された「経路の始端と終端との間の位置」に制御対象が位置するものであり、他方、本件特許発明1においては、
「ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動中」に「接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる制御を開始」し、「接触位置の移動に遅れて追従」するように制御対象を移動させるから、両者は、経路を特定する期間中に経路の軌跡に沿って制御対象を移動させる制御が開始され続行させる点において共通している。

本件特許発明1と甲第3号証記載の発明1とは、以下の一致点で一致する。

(2)一致点:
「A(a1):表示画面と、ポインティングデバイスと、実行手段と、ゲームプログラムが格納されたメモリとを備え、実行手段によるゲームプログラムの実行により表示画面に、ユーザーによる操作に応じて移動可能に設定された制御対象を表示し、ユーザーによるポインティングデバイスの操作に応じて制御対象の挙動を制御するように構成されたビデオゲーム装置であって、
B(b1):(a)制御対象を表示画面に表示し、
C(c1):(b)経路を特定する期間中に経路の軌跡に沿って制御対象を移動させる制御が開始され続行させる
ことを含む処理を実行するように構成されてなるビデオゲーム装置。」(なお、分節「A(a1)」?「C(c1)」は、当審で付与。)

(3)そして、甲第3号証記載の発明1が、本件特許発明1の発明特定事項の下記の「」で括られた構成を備えていない点で、全体として相違する。
なお、全体として相違する点については、下記(4)で発明特定事項の分節毎に整理する。


A(a2):表示画面と、「前記表示画面上に配置されたタッチパネルと、」実行手段と、ゲームプログラムが格納されたメモリとを備え、前記実行手段による前記ゲームプログラムの実行により前記表示画面に、ユーザーによる操作に応じて移動可能に設定された「複数の」制御対象を表示し、前記ユーザーによる「タッチパネル上での」操作に応じて前記制御対象の挙動を制御するように構成されたビデオゲーム装置であって、
B(b2):(a)「複数の」制御対象を前記表示画面に表示し、
C(c2):(b)「前記ユーザーのタッチパネル上での操作によって前記ユーザーから接触された接触位置の移動が接触状態を維持された状態で行われたときドラッグ操作が開始されたと判定し、
D(d2):(c)前記ドラッグ操作の開始された位置に表示されている制御対象を、前記ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動中に、該接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる制御を開始し、
E(e2):(d)前記移動を開始した制御対象を、前記ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動に遅れて追従するように、前記接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる制御を続行し、
F(f2):(e)前記(d)の処理を続行中に前記接触状態が開放されたとき当該開放位置を終端位置として前記ドラッグ操作が確定したと判定する」
ことを含む処理を実行するように構成されてなるビデオゲーム装置。
(なお、分節「A(a2)」?「F(f2)」は、当審で付与。)

(4)全体として相違する点について、発明特定事項の分節毎に整理すると以下の相違点1?7として整理される。
相違点1:ビデオゲーム装置を特定する分節Aのポインティングデバイスが、本件特許発明1は、「表示画面上に配置されたタッチパネル」であるのに対して、甲第3号証記載の発明1は「マウス」であり、ポインティングデバイスの操作が、本件特許発明1は、「タッチパネル上での」操作であるのに対して、甲第3号証記載の発明1は「マウスを使って画面上に経路を描く」である点。
相違点2:ビデオゲーム装置を特定する分節Aの制御対象が、本件特許発明1は、「複数」であるのに対し、甲第3号証記載の発明1は、甲第3号証記載事項(キ)の「ひとつのアバター」を表示ものである点。
相違点3:実行する処理を特定する分節Bの制御対象が、本件特許発明1は、「複数」であるのに対し、甲第3号証記載の発明1は、甲第3号証記載事項(キ)の「ひとつのアバター」を表示ものである点。
相違点4:実行する処理を特定する分節Cの操作が開始されたと判定するのが、本件特許発明1は、「(b)前記ユーザーのタッチパネル上での操作によって前記ユーザーから接触された接触位置の移動が接触状態を維持された状態で行われたときドラッグ操作が開始されたと」判定するのに対し、甲第3号証記載の発明1は「ユーザーは、マウスを使って画面上に経路を描く」ものであって、判定の処理内容がその様に特定されたものではない。
相違点5:実行する処理を特定する分節Dの、制御対象を、経路を特定する期間中に、経路の軌跡に沿って移動させる制御を開始する処理が、本件特許発明1は、「(c)前記ドラッグ操作の開始された位置に表示されている制御対象を、前記ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動中に、該接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる制御を開始」するのに対し、甲第3号証記載の発明1は、「スケッチされた経路は、通過するためのゴール位置の列として考えられ」、「経路が描かれている間に、マッチする行動を見つけ、ディスプレイを更新する」のであって、処理内容がその様に特定されたものではない。
相違点6:実行する処理を特定する分節Eの、遅れが、本件特許発明1は、「前記ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動」に遅れてであり、軌跡が、「該接触位置」の軌跡なのに対し、甲第3号証記載の発明1は、「描写された経路の始端と終端との間の位置に移動中のアバターが位置した状態となる」ものであって、処理内容がその様に特定されたものではない。
相違点7:実行する処理を特定する分節Fの操作が確定したと判定する(経路の終端が選択されたと判定する)処理が、本件特許発明1は、「前記(d)の処理を続行中に前記接触状態が開放されたとき当該開放位置を終端位置として前記ドラッグ操作が確定したと」するのに対し、甲第3号証記載の発明1は「ユーザーは、マウスを使って画面上に経路を描く」ものであって、判定の処理内容がその様に特定されたものではない。


2-2.相違点についての判断
(1)上記相違点1について
甲第5号証記載事項(ウ)の「タッチパネルシステム」は、本件特許発明1の「表示画面上に配置されたタッチパネル」に相当する。
そして、甲第5号証記載事項(ウ)には、「経路描写は、あらゆるポインティングデバイスで使用できるが、ペン型またはタッチパネルシステムに最も適する。」と記載されており、甲第3号証記載の発明1においても、経路描写に適するポインティングデバイスを使用することは一般的に望ましいことと認識できるので、甲第3号証記載の発明1のポインティングデバイスをマウスに替えて、甲第5号証記載のタッチパネルシステムを使用して、本件特許発明1の相違点1に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(2)上記相違点2について
例えば、甲第6号証、甲第7号証に記載されている様に、ゲーム分野では、複数のキャラクタを戦略的に移動させることは、慣用されていることである。
そして、甲第3号証記載の発明1においても、ゲームの内容は当業者が適宜選択し得る事項であるので、甲第3号証記載の発明1のゲームの内容を、甲第6号証や甲第7号証の様な複数のキャラクタを戦略的に移動させるものとして、本件特許発明1の相違点2に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(3)上記相違点3乃至7について
本件特許発明1は、相違点3?7に係る構成によって、本件特許公報の段落【0012】記載の「本発明によれば、ユーザー指定キャラクタの動作を迅速かつ容易に制御できる。また、本発明によれば、キャラクタの動作を迅速に変更することができる。」ものである。
一方、甲第3号証記載の発明1は、制御対象となるアバターは一体であるので、そもそも制御対象を選択する必要がない。
そうすると、上記(2)の甲第3号証記載の発明1のゲームの内容を、甲第6号証や甲第7号証の様な複数のキャラクタを戦略的に移動させるものとすることが、当業者が容易に想到し得ることであるとしても、複数の制御対象を移動させる制御を、ユーザーが迅速かつ容易に行えるものとするという課題は、甲第3号証記載の発明1のゲーム内容を、複数のキャラクタを戦略的に移動させるものとすることによって初めて発生するものであって、甲第3号証自体に存在せず、甲第3号証記載の発明1の処理内容を「ドラッグ操作の開始された位置に表示されている制御対象」を移動させる制御とすることで、複数の制御対象から移動させる制御対象を特定して移動させること、及び、当該制御を行うための処理の流れを具体的に特定することは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

具体的には、次のイ.の点について、容易想到であるということができない。
ア.(b)「前記ユーザーのタッチパネル上での操作によって前記ユーザーから接触された接触位置の移動が接触状態を維持された状態で行われたときドラッグ操作が開始されたと判定」でない点について
一般に、マウスを用いたグラフィックスソフトでは、線は、ドラッグ操作を用いて描かれ、ドラッグ操作は、ボタンを押したままマウスを移動させることであり、ボタン押下状態でマウスの移動がなされればドラッグ操作が開始されたと判断され、ボタンが離されればドラッグ操作が終了したと判断されるものである。
そして、甲第3号証記載の発明1は「ユーザーは、マウスを使って画面上に経路を描くことができ」、「経路は連続した曲線として描写され」るものであるので、該「マウスを使って画面上に経路を描く」構成を、上記一般のドラッグ操作を用いて線を描くグラフィックスソフトとして具現化する事は当業者が容易になし得ると言える。
また、上記「(1)」の甲第3号証記載の発明1のポインティングデバイスをマウスに替えて、甲第5号証記載のタッチパネルシステムを使用することにともない、上記ボタン押下状態でマウスの移動がなされればドラッグ操作が開始されたと判断される条件が、「タッチパネル上で」の操作によって「ユーザーから接触された接触位置の移動が接触状態を維持された状態で行われたとき」となることも自明である。

イ.(c)「前記ドラッグ操作の開始された位置に表示されている制御対象を、前記ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動中に、該接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる制御を開始」でない点について
(a)甲第3号証記載の発明1は「ユーザーは、マウスを使って画面上に経路を描くことができ」、「経路は連続した曲線として描写され」るものであるので、該「マウスを使って画面上に経路を描く」構成を、上記一般のドラッグ操作を用いて線を描くグラフィックスソフトとして具現化する事は当業者が容易になし得ると言えるものである。
しかし、甲第3号証記載の発明1の経路の始端は、アバター、即ち制御対象の表示画面上に表示された位置として特定されたものではなく、また、制御対象を選択する機能のものでもないので、上記「(2)」の「複数の制御対象」とすることが当業者が容易になし得ることであったとしても、「ドラッグ操作の開始された位置に表示されている制御対象」を移動させる制御を開始する構成には、想到しない。
(b)請求人は、平成26年2月3日付け口頭審理陳述要領書で、「甲第3号証の第499頁左欄第32行?第34行には、経路が描かれている間に、マッチする行動を見つけ、ディスプレイを更新することが記載されています。ここで、見つける対象は、第491頁右欄第1行?第3行に記載されているように、経路をたどる動作シーケンスです。よって、甲第3号証には、経路が描かれている間に、経路をたどる動作シーケンスを検索し、ディスプレイを更新することが記載されています。
よって、構成要件Dについて、本件特許発明は、前記ドラッグ操作の開始された位置に表示されている制御対象を移動制御の対象とするのに対し、甲第3号証には、アバターを選択することは記載されていない点で相違します(相違点イ2)。」(第4頁)
「相違点イ1及びイ2は、本願発明において、複数の制御対象のうちのユーザーが選択したーつの挙動を制御することに関するものです。よって、これらの相違点は、審判請求書の相違点イとして認定します。」(第7頁)と述べ、審判請求書で「相違点ア及びイについて検討するに、甲第4号証には、タッチパネルシステムにおいて、ユーザーが選択した一つの戦闘手段を、ユーザーが指定したゴール位置に移動させるものが記載されている。
甲第4号証に記載された発明は、複数の戦闘手段からユーザーが選択した一つの戦闘手段に対して、フライング(甲第5号証参照)を用いて、移動のゴール位置を指定して移動制御を行うものである。なお、ゲーム分野では、リアルタイムストラテジーゲーム等で、フライングにより個々のキャラクタの移動目標を指定して、複数のキャラクタを戦略的に移動させることは、慣用されている事項である(例えば、甲第6号証、甲第7号証参照)。甲第3号証記載の経路描写技術は、アバターへの移動制御において、フライングを拡張して、ゴール位置だけでなく、その移動経路をも指定するものである(甲第5号証参照)。そして、甲第3号証記載の経路描写技術は、タッチパネルシステムに好適なものである(甲第5号証参照)。
よって、甲第5号証に記載された経路描写技術の出願当時の技術水準、及び、甲第6号証及び甲第7号証に記載されたゲーム分野において周知な事項に鑑みれば、甲第3号証と甲第4号証に接した当業者にとって、甲第4号証の個々の戦闘手段に対するフライングによる移動制御を、甲第3号証における経路描写技術により拡張して、ユーザーが、戦闘手段のゴール位置だけでなく、当該ゴール位置に至るまでの途中経路をも指定することにより、ゲーム装置において、ユーザーが選択した戦闘手段を、移動経路をたどって最終的なゴール位置まで移動させるようにすることは、容易に想到し得たものである。
念のため付言するに、・・・相違点イについて、甲第6号証、甲第7号証にあるように、例えばリアルタイムストラテジーゲーム等において、複数のキャラクタのそれぞれに対して、ユーザーが個別的にフライングにより移動の指示を行い、複数のキャラクタを戦略的に移動させることは、広く採用されている。このようなゲームでは、複数のキャラクタが表示されていても、具体的な移動制御は、個々のキャラクタに対して独立に行われる。甲第3号証や甲第5号証は、学術論文として、技術的な特徴を明確にするために、個々のキャラクタ等に対する移動制御を示すものであって、複数のキャラクタを個別的かつ独立に移動制御する場合へ応用することが当然に予定されているものである。そうすると、複数のキャラクタを個別的かつ戦略的に移動制御するためにフライングを採用している周知のゲームにおいて、甲第3号証の経路描写技術によってフライングを拡張して、ユーザーが、ゴール位置だけでなく、移動経路をも指定できるようにすることは、容易に想到し得たものである。」(第16頁第42行?第17頁第36行)、「続いて、本件特許の請求項1に係る発明の効果について検討する。本件特許の0012段落には、発明の効果として、『本発明によれば、ユーザー指定キャラクタの動作を迅速かつ容易に制御できる。また、本発明によれば、キャラクタの動作を迅速に変更することができる。』と記載されている。
まず、第1文について検討するに、これは、0010段落に記載されているように、『複数のキャラクタからなるキャラクタ群を統一して制御する画像処理装置』を前提としているものと認められる。
ユーザーが複数のキャラクタを個別的かつ戦略的に制御することは、RTS等の周知のゲームでフライングを採用することにより達成されている事項である。甲第3号証の経路描写技術は、フライングを拡張するものであることから、第1文は、当業者が予測し得る範囲内の事項である。」(第17頁第41行?第18頁第7行)旨主張している。
(c)しかし、本件特許発明1と甲第3号証記載の発明1との相違点に係る構成が容易想到であるというためには、甲3発明から出発して、甲第3号証以外の従たる引用文献の発明及び周知技術等を考慮することにより、本件特許発明1の相違点に係る構成に想到することが容易であったか否かを判断されるべきものであるところ、請求人の主張は、従たる引用文献である甲第4号証記載の発明に甲第3号証の技術を採用することが容易であったかどうかを述べるものであり、容易想到性の証明にならない。
さらに、甲第4号証には、記載事項(イ)で「この戦闘手段の移動方法の一例を、図8に示す。操作者Pは、先ず動かしたい戦闘手段を指でタッチする(図8(a)参照)。すると、各戦闘手段の能力に応じた移動範囲が色の変化等により明示される(図8(b)参照))。そこで、動かしたい位置に指でタッチすると、従前の位置から移動希望位置に戦闘手段の表示が変更される(図8(C)参照)。」と記載されているとおり、動かしたい戦闘手段を指でタッチし、その後動かしたい位置に指でタッチして、戦闘手段の位置を、移動希望位置に変更するものが記載されているのであって、そのような位置を変更する技術を、甲第3号証記載の発明1として使用すると、甲第3号証記載の発明1の「スケッチした経路を使用して、アバターの動作を制御」する構成自体が変更するものになり、本件特許発明1の構成に想到するものとはならないし、また、甲第3号証記載の発明1と、甲第4号証記載の発明の構成の一部分とを、本件特許発明1の構成に想到する様に都合良く組み合わせて用いることが、甲第3号証、甲第4号証に示唆するされているともいえない。
また、甲第6号証には、記載事項(ア)の「ユニットが3個表示されており、そのうちの1個のユニットに矢印が表示されると、そのユニットが○で囲まれ、その後他の地点に矢印が表示され、矢印が消えた後、前記1個のユニットが消えると同時に、前記他の地点にユニットが現れる動画」が、甲第7号証には、記載事項(ア)の「1 コマンドを発行したいチームのメンバーの誰かにカーソルを合わせ、マウスをクリックする。ボタンはすぐに離さず、押し続ける。
2 [コマンド]メニューが表示される。
3 [移動]または[素早き移動]コマンドをクリックして、目的地までマウスをドラッグする。すると、チームと目的地の間に、短時間だけ青い線が表示される。
・・・
5 チームが目的地に向かって移動を開始する。目的地に着くと、・・・目的地マーカーが消える。・・・」ものが記載されており、そのような位置を変更する技術を、甲第3号証記載の発明1として使用すると、甲第3号証記載の発明1の「スケッチした経路を使用して、アバターの動作を制御」する構成自体が変更するものになり、本件特許発明1の構成に想到するものとはならないし、また、甲第3号証記載の発明1と、甲第6,7号証記載の発明の構成の一部分とを、本件特許発明1の構成に想到する様に都合良く組み合わせて用いることが、甲第3号証、甲第6,7号証に示唆するされているともいえない。
さらに、甲第3号証記載の発明1と、甲第5号証記載の事項を組み合わせても本件特許発明1の構成に想到するものとはならない。

ウ.前記移動を開始した前記制御対象を、「前記ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動に遅れて追従するように、前記接触位置の」移動の軌跡に沿って移動させる制御を続行するものでない点について
(a)甲第3号証記載の発明1の「描写された経路の始端と終端との間の位置に移動中のアバターが位置した状態となる」ことは、その状態となる時点が、経路の終端が決定される前であるにせよ、後であるにせよ、少なくとも経路の特定期間中に、それに遅れて移動させる制御が行われていることに違いはない。
さらに、甲第3号証記載の発明1の「経路が描かれている間に、マッチする行動を見つけ、ディスプレイを更新する」制御は、「スケッチされた経路は、通過するためのゴール位置の列として考えられ」るものであり、かつ上記「描写された経路の始端と終端との間の位置に移動中のアバターが位置した状態となる」態様で実施されるものであるので、移動を開始したアバター、すなわち制御対象を、経路の特定期間中に、それに遅れて経路の軌跡に沿って移動させる制御を続行するものといえる。
そうすると、甲第3号証記載の発明1の「経路が描かれている間に、マッチする行動を見つけ、ディスプレイを更新すること」と、本件特許発明1の前記(d)に係る構成とは、「移動を開始した制御対象を、[経路の特定に](前記ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動に)遅れて[経路](追従するように、前記接触位置の移動)の軌跡に沿って移動させる制御を続行」する点で共通するものである。
(b)そして、上記「(1)」の甲第3号証記載の発明1のポインティングデバイスをマウスに替えて、甲第5号証記載のタッチパネルシステムを使用すること、及び、「マウスを使って画面上に経路を描く」構成を、一般のドラッグ操作を用いて線を描くグラフィックスソフトとして具現化する事にともなって、「前記ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動に」遅れて「追従するように、前記接触位置の移動」の軌跡に沿って移動させる制御を続行する構成となることは自明であって、容易想到といえる。
(c)なお、甲第3号証の3は、インターネットアーカイブによって収集されたインターネット動画であって、被請求人が主張するように、本件特許出願前に公然知られた発明とは認められないが、甲第3号証の3に係る請求人の主張は、「甲第3号証に記載された発明において、甲第3号証の3に開示されている時間要素を加味して、描写位置の移動に遅れてアバターを移動させるようにすることは、当業者が容易に想到し得た事項」というものであるところ、当該事項は甲第3号証の3の存在にかかわらず上記(b)の様に容易想到といえるものであるので、そのことが、相違点3の容易想到性に影響するものではない。

エ.(e)「前記(d)の処理を続行中に前記接触状態が開放されたとき当該開放位置を終端位置として前記ドラッグ操作が確定したと判定する」ものでない点について
前記「ア.」に記載した様に、一般に、マウスのドラッグ操作は、ボタンが離されればドラッグ操作が終了したと判断されるものである。
そして、甲第3号証記載の発明1は「ユーザーは、マウスを使って画面上に経路を描くことができ」、「経路は連続した曲線として描写され」、経路に終端が存在することも自明であるので、該「マウスを使って画面上に経路を描く」構成を、上記一般のドラッグ操作を用いて線を描くグラフィックスソフトとして具現化すると共に、上記「(1)」の甲第3号証記載の発明1のポインティングデバイスをマウスに替えて、甲第5号証記載のタッチパネルシステムを使用するものとして、「前記(d)の処理を続行中に前記接触状態が開放されたとき当該開放位置を」終端「位置として前記ドラッグ操作が確定したと」判定するものとすることも容易想到といえる。

(4)小括
そうすると、請求人の主張する理由では、甲第3号証記載の発明1のゲーム装置を、本件特許発明1の相違点3?7に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

2-3.まとめ
本件特許発明1は、上記相違点1?3に係る構成によって、本件特許公報の段落【0012】記載の「本発明によれば、ユーザー指定キャラクタの動作を迅速かつ容易に制御できる。また、本発明によれば、キャラクタの動作を迅速に変更することができる。」ものである。
したがって、本件特許発明1は、(a)甲第3号証に記載された発明、甲第4号証に記載された発明、甲第5号証に記載された経路描写技術に関する出願当時の技術水準、及び、甲第6号証、甲第7号証等に記載されたゲーム分野において周知な事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも、
(b)甲第3号証に記載された発明、甲第3号証の3に開示された経路描写技術、甲第4号証に記載された発明、甲第5号証に記載された経路描写技術に関する出願当時の技術水準、及び、甲第6号証、甲第7号証等に記載されたゲーム分野において周知な事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。


3.本件特許発明2?4について
(a)請求人は、本件特許発明2?4に係る構成要件G?Iに関して、平成26年2月3日付け口頭審理陳述要領書において、
「・構成要件G
甲第3号証の第498頁左欄第18行?第19行には、スケッチされた経路は、通過するためのゴール位置の列とすることが記載されています。
そのため、構成要件Gについて、相違点は認められません。
・構成要件H
甲第3号証には記載されておりません。そのため、構成要件Hについて相違します(審判請求書の相違点ウ)。
・構成要件I
甲第3号証では、図1上段及び図5左上等において線で表示されております。
そのため、構成要件Iについて、相違点は認められません。」(第6?7頁)
と主張しているので、当該主張について検討する。
(b)本件特許発明2?4は、本件特許発明1にさらに「(f)前記ドラッグ操作が確定したとき移動中の前記制御対象を前記(e)で確定した終端位置に向けさらに移動させる制御を実行する処理を行う」、「前記(c)または(f)の処理の実行に応じて移動中の前記制御対象に対しユーザーによる新たな操作が行われたとき、前記制御対象に新たな挙動を付加する制御を実行する処理を行う」、「前記接触位置の軌跡を前記表示画面に線として表示する処理を行う」との構成を付加したものであり、上記2.で本件特許発明1が当業者が容易になし得たものであると認められない以上、仮に、上記(a)であってとしても、上記2.と同様に本件特許発明2?4が当業者が容易になし得たものであるとは認められない。


4.本件特許発明5について
(1)4-1.本件特許発明5と甲第3号証記載の発明2との対比
本件特許発明5と甲第3号証記載の発明2を対比する。
(a)甲第3号証記載の発明2の「画面」は、本件特許発明5の「表示画面」に相当し、以下同様に、「アバター」は、「ユーザーは、迷路と起伏地の環境でスケッチした経路を使用して、アバターの動作を制御」するものであるので、「ユーザーの操作に応じて移動可能に設定された」「制御対象」に、「ユーザーは、マウスを使って画面上に経路を描く」ことは、本件特許発明5の「ユーザー」「の操作」に相当する。
(b)甲第3号証記載の発明2の「マウス」と、本件特許発明5の「タッチパネル」とは、ポインティングデバイスである点で共通する。
(c)甲第3号証記載の発明2の「アバターの動作を制御する」は、本件特許発明5の「制御対象の挙動を制御」することに相当する。
そして、甲第3号証記載の発明2の「画面にアバターを表示し」「ユーザーは、マウスを使って画面上に経路を描くことができ」「スケッチされた経路は、通過するためのゴール位置の列として考えられ」ている「ゲームプログラムを記録したメモリを備える、コンピュータを用いて実現されたゲーム装置のゲームプログラム」と、本件特許発明5の「タッチパネルが配置された表示画面に、ユーザーの操作に応じて移動可能に設定された複数の制御対象を表示し、前記ユーザーによる前記タッチパネル上での操作に応じて前記制御対象の挙動を制御するプログラム」とは、「表示画面に、ユーザーの操作に応じて移動可能に設定された制御対象を表示し、ユーザーによるポインティングデバイスの操作に応じて制御対象の挙動を制御するプログラム」で共通する。
また、当該プログラムがコンピュータに、実行させるプログラムであることは、自明である。
(d)甲第3号証記載の発明2の「画面にアバターを表示」する「ゲーム装置のゲームプログラム」と、本件特許発明5の「(a)複数の制御対象を前記表示画面に表示する処理」「を実行させるプログラム。」とは、「制御対象を表示画面に表示する処理」「を実行させるプログラム。」で共通する。
(e)甲第3号証記載の発明2の「マウスを使って画面上に経路を描く」操作は、制御対象の移動に係る「ユーザーのポインティングデバイスの操作」である本件特許発明5の「ドラッグ操作」に対応しており、甲第3号証記載の発明2の「通過するためのゴール位置の列として考えられる」ものである「経路」は、これに沿って制御対象が移動させられるものであるから、本件特許発明5のドラッグ操作に係る「接触位置の移動の軌跡」に対応している。そして、甲第3号証記載の発明2の「経路をたどる動作シーケンス」は、このユーザのポインティングデバイスの操作に応じた、経路の軌跡に沿って移動させる制御である点で、本件特許発明5の「接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる制御」に対応する。
さらに、甲第3号証記載の発明2においては、「経路が描かれている間」に「マッチする行動を見つけて、ディスプレイを更新」し「ユーザ入力に即座に反応」し「連続した曲線として描写」された「経路の始端と終端との間の位置」に制御対象が位置するものであり、他方、本件特許発明5においては、
「ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動中」に「接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる制御を開始」し、「接触位置の移動に遅れて追従」するように制御対象を移動させるから、両者は、経路を特定する期間中に経路の軌跡に沿って制御対象を移動させる制御が開始され続行させる点においても共通している。

本件特許発明5と甲第3号証記載の発明2とは、以下の一致点で一致する。

(2)一致点:
「J(j1):表示画面に、ユーザーの操作に応じて移動可能に設定された制御対象を表示し、ユーザーによるポインティングデバイスの操作に応じて制御対象の挙動を制御するプログラムであって、
前記プログラムは、コンピュータに、
K(k1):(a)制御対象を表示画面に表示する処理と、
L(l1):(b)経路を特定する期間中に経路の軌跡に沿って制御対象を移動させる制御が開始され続行させる処理と、
を実行させるプログラム。」(なお、分節「J(j1)」?「L(l1)」は、当審で付与。)

(3)そして、甲第3号証記載の発明2が、本件特許発明5の発明特定事項の下記の「」で括られた構成を備えていない点で、全体として相違する。
なお、全体として相違する点については、下記(4)で発明特定事項の分節毎に整理する。


J(j2):「タッチパネルが配置された」表示画面に、ユーザーの操作に応じて移動可能に設定された「複数の」制御対象を表示し、前記ユーザーによる「前記タッチパネル上での」操作に応じて前記制御対象の挙動を制御するプログラムであって、
前記プログラムは、コンピュータに、
K(k2):(a)「複数の」制御対象を前記表示画面に表示する処理「と、
L(l2):(b)前記ユーザーのタッチパネル上での操作によって前記ユーザーから接触された接触位置の移動が接触状態を維持された状態で行われたときドラッグ操作が開始されたと判定する処理と、
M(m2):(c)前記ドラッグ操作の開始された位置に表示されている制御対象を、前記ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動中に該接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる制御を開始する処理と、
N:(d)前記移動を開始した制御対象を、前記ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動に遅れて追従するように前記接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる制御を続行する処理と、
O:(e)前記処理(d)の続行中に前記接触状態が開放されたとき当該開放位置を終端位置として前記ドラッグ操作が確定したと判定する処理と、」
を実行させるプログラム。

(4)全体として相違する点について、発明特定事項の分節毎に整理すると以下の相違点8?14として整理される。
相違点8:ビデオゲーム装置を特定する分節Jのポインティングデバイスが、本件特許発明5は、「表示画面上に配置されたタッチパネル」であるのに対して、甲第3号証記載の発明2は「マウス」であり、ポインティングデバイスの操作が、本件特許発明5は、「タッチパネル上での」操作であるのに対して、甲第3号証記載の発明2は「マウスを使って画面上に経路を描く」である点。
相違点9:ビデオゲーム装置を特定する分節Jの制御対象が、本件特許発明5は、「複数」であるのに対し、甲第3号証記載の発明2は、甲第3号証記載事項(キ)の「ひとつのアバター」を表示ものである点。
相違点10:実行する処理を特定する分節Kの制御対象が、本件特許発明5は、「複数」であるのに対し、甲第3号証記載の発明2は、甲第3号証記載事項(キ)の「ひとつのアバター」を表示ものである点。
相違点11:実行する処理を特定する分節Lの操作が開始されたと判定する処理が、本件特許発明5は、「タッチパネル上での」操作によってユーザーから「接触された接触位置の移動が接触状態を維持された状態で行われたときドラッグ操作」が開始されたと判定するのに対し、甲第3号証記載の発明2は「ユーザーは、マウスを使って画面上に経路を描く」ものであって、判定する処理がその様に特定されたものではない。
相違点12:実行する処理を特定する分節Mの、制御対象を、経路を特定する期間中に、経路の軌跡に沿って移動させる制御を開始する処理が、本件特許発明5は、
「ドラッグ操作の開始された位置に表示されている制御対象を、前記ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動中に該接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる制御を開始する」のに対し、甲第3号証記載の発明2は、「スケッチされた経路は、通過するためのゴール位置の列として考えられ」、「経路が描かれている間に、マッチする行動を見つけ、ディスプレイを更新する」のであって、処理内容がその様に特定されたものではない。
相違点13:実行する処理を特定する分節Nの、遅れが、本件特許発明5は、
「ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動」に遅れてであり、軌跡が、
「接触位置の移動」の軌跡なのに対し、甲第3号証記載の発明2は、「描写された経路の始端と終端との間の位置に移動中のアバターが位置した状態となる」ものであって、処理内容がその様に特定されたものではない。
相違点14:実行する処理を特定する分節Oの操作が確定したと判定する処理が、本件特許発明5は、
「前記処理(d)の続行中に前記接触状態が開放されたとき当該開放位置を終端位置として前記ドラッグ操作が確定したと」判定するのに対し、甲第3号証記載の発明2は「ユーザーは、マウスを使って画面上に経路を描く」ものであって、判定の処理内容がその様に特定されたものではない。


4-2.相違点についての判断
(1)上記相違点8について
前記「2-2.(1)」と同様に、甲第3号証記載の発明2のポインティングデバイスをマウスに替えて、甲第5号証記載のタッチパネルシステムを使用して、本件特許発明5の相違点8に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(2)上記相違点9について
前記「2-2.(2)」と同様に、甲第3号証記載の発明2のゲームの内容を、甲第6号証や甲第7号証の様な複数のキャラクタを戦略的に移動させるものとして、本件特許発明5の相違点9に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(3)上記相違点10乃至14について
前記「2-2.(3)」と同様に、請求人の主張する理由では、甲第3号証記載の発明2のプログラムを、本件特許発明2の相違点10乃至14に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

4-3.まとめ
本件特許発明5は、上記相違点8?14に係る構成によって、本件特許公報の段落【0012】記載の「本発明によれば、ユーザー指定キャラクタの動作を迅速かつ容易に制御できる。また、本発明によれば、キャラクタの動作を迅速に変更することができる。」ものである。
したがって、本件特許発明5は、(a)甲第3号証に記載された発明、甲第4号証に記載された発明、甲第5号証に記載された経路描写技術に関する出願当時の技術水準、及び、甲第6号証、甲第7号証等に記載されたゲーム分野において周知な事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも、
(b)甲第3号証に記載された発明、甲第3号証の3に開示された経路描写技術、甲第4号証に記載された発明、甲第5号証に記載された経路描写技術に関する出願当時の技術水準、及び、甲第6号証、甲第7号証等に記載されたゲーム分野において周知な事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。


5.本件特許発明6?8について
(a)請求人は、本件特許発明6?8に係る構成要件P?Rに関して、平成26年2月3日付け口頭審理陳述要領書において、
「・構成要件G
甲第3号証の第498頁左欄第18行?第19行には、スケッチされた経路は、通過するためのゴール位置の列とすることが記載されています。
そのため、構成要件Gについて、相違点は認められません。
・構成要件H
甲第3号証には記載されておりません。そのため、構成要件Hについて相違します(審判請求書の相違点ウ)。
・構成要件I
甲第3号証では、図1上段及び図5左上等において線で表示されております。
そのため、構成要件Iについて、相違点は認められません。
・・・
本願の請求項5乃至8に係る発明における構成要件J?Rについても同様です。」(第6?7頁)と主張しているので、当該主張について検討する。
(b)本件特許発明6?8は、本件特許発明5にさらに「前記コンピュータに、
(f)前記ドラッグ操作が確定したとき移動中の前記制御対象を前記(e)の処理で確定した終端位置に向けさらに移動させる処理を実行させる」「前記コンピュータに、
前記(c)または(f)の処理の実行に応じて移動中の前記制御対象に対しユーザーによる新たな操作が行われたとき、前記制御対象に新たな挙動を付加する処理を実行させる」「前記コンピュータに、
前記接触位置の軌跡を前記表示画面に線として表示する処理を実行させる」との構成を付加したものであり、上記4.で本件特許発明5が当業者が容易になし得たものであると認められない以上、仮に、上記(a)であってとしても、上記4.と同様に本件特許発明6?8が当業者が容易になし得たものであるとは認められない。


第5 無効理由5についての当審の判断
1.甲第9号証の記載事項
本件特許出願遡及日前の他の出願であって、その出願後に特開2005-342266号(甲第9号証)として出願公開された特願2004-166345号の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下「先願明細書1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、例えば、単一のゲーム装置からなるゲームシステム、複数のゲーム装置が通信回線を介して接続されてなるゲームシステム、複数のゲーム装置とサーバとがインターネットを介して接続されてなるゲームシステム等のゲームシステムに関する。特に、本発明は、リアルタイムストラデジーゲームを行うことが可能なゲームシステムに関する。」
(イ)「【0029】
表示手段としての第1ディスプレイ11の前方には、タッチパネル14が設置されている。タッチパネル14は、プレーヤによる接触を検出可能であり、当該接触を検出した際に接触位置を示す検出信号を、後述する操作入力部114(図示せず)に出力する。
プレーヤはタッチパネル14に触れて各種の指示を入力することが可能である。・・・」
(ウ)「【0032】
図4は、端末装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
制御部100は、端末装置1の全体の動作を制御するもので、CPU101と、ROM102と、RAM103とを備える。
【0033】
ROM102は、各種の画像データ及びゲームプログラム等を記憶する。・・・
【0037】
第1描画処理部111は、プレーフィールド画像及びカード画像を含むゲーム画像を第1ディスプレイ11に表示させるもので、VDP(Video date Processor)やビデオRAM等を備える。」
(エ)「【0040】
操作入力部114は、メモリ114aとタイマ114bとを備えたマイクロコンピュータであり、メモリ114aの所定領域に、タッチパネル14から出力された検出信号が示す接触位置をデータとしてバッファリングし、順次、タイマ114b等を用いて当該データに基づいて指示内容を判定し、判定結果を操作コマンドとして制御部100に供給する。
このように、操作入力部114のメモリ114aには検出信号がデータとしてバッファリングされるため、操作入力部114は、例えば、タッチパネル14により瞬時に複数のキャラクタ画像に対する指示が入力されても、同時に又は並行して当該指示に応じた処理を実行することができるのである。また、操作入力部114が備えるメモリ114aの所定領域には、第1ディスプレイ11に表示されるオブジェクト(タッチパネル14による操作対象となり得る画像)に関するオブジェクト位置情報を格納したオブジェクト位置テーブルが記憶されている(図9参照)。オブジェクト位置テーブルは、操作入力部114が指示内容を判定する際に参照されるものであり、RAM103に記憶されたオブジェクト位置情報が更新されるごとに同期して更新される。」
(オ)「【0050】
図7は、端末装置の第1ディスプレイに表示されるゲーム画像の一例を示す図であり、図8は、図7に示したゲーム画像に含まれる各画像について説明するための図である。
第1ディスプレイ11に表示されるゲーム画像90の左上には、プレーフィールド画像91が配置されている。プレーフィールド画像91は、プレーフィールドの一部を表す画像であり、ゲームの進行状況(例えば、キャラクタの移動等)に応じてスクロール表示されるものである。プレーフィールド画像91には、5つの味方キャラクタ画像98a?98eと、5つの敵キャラクタ画像99a?99eとが配置されている。
キャラクタ画像98、99は、プレーヤによる操作対象となり得る画像であり、本実施形態に係るゲームシステムにおいては、タッチパネル14(図示せず)を介してキャラクタ画像98、99に触れることにより、キャラクタに対する操作指示を入力することができる。」
(カ)「【0061】
まず、操作入力部114は、タッチパネル14から出力された検出信号を受信したか否か、すなわち、当該検出信号により接触位置の座標がデータとしてメモリ114aに入力されたか否かを判断する(ステップS10)。
・・・
【0063】
該当オブジェクトが存在する場合、操作入力部114は、図9に示したオブジェクト位置テーブルを参照し、そのオブジェクトが操作受付可能であるか否かを判断する(ステップS13)。操作受付不可である場合、本サブルーチンを終了する。従って、キャラクタ画像を操作する場合、操作可能なキャラクタ画像を操作しなければ、その操作は無効になる。
一方、操作受付可能である場合には、後述する操作種別判定処理を行い(ステップS14)、本サブルーチンを終了する。」
(キ)「【0065】
次に、デタッチ(接触終了)されたか否かを判断する(ステップS21)。この処理において、操作入力部114は、タッチパネル14から検出信号の入力がなくなった際にデタッチされたと判断する。
デタッチされていないと判断した場合、入力座標が移動しているか否かを判断する(ステップS22)。この処理において、操作入力部114は、タッチパネル14からの検出信号が示す接触位置が順次移動しているか否かを判断する。
順次移動していないと判断した場合、タイマ値が0になったか否かを判断する(ステップS23)。タイマ値が0になったと判断した場合、検出信号のパターンは、所定期間にわたって出力されるパターンであるから、操作入力部114は、操作がタッチ操作(所定期間にわたってタッチパネル14の同一位置に触れる操作)であると判定する。タイマ値が0になっていないと判断した場合、ステップS21に処理を戻す。また、ステップS22において、入力座標が移動していると判断した場合、検出信号が示す接触位置が連続的に変化しているので、操作入力部114は、操作がドラッグ操作であると判定する。」
(ク)「【0073】
操作種別が「タッチ」であれば、処理内容は「ステータス表示」となる。すなわち、検出信号のパターンが、所定期間にわたって出力されるパターンであれば、「ステータス表示」の指示が入力されたことになる。該当オブジェクトがP(味方キャラクタ画像)である場合におけるステータス表示は、味方キャラクタの容姿及び能力等の表示である。
操作種別が「ドラッグ」であれば、処理内容は「移動」である。すなわち、検出信号が示す接触位置が連続的に変化すれば、「移動」の指示が入力されたことになる。この場合、ドラッグ先がキャラクタ画像の移動先となる。」
(ケ)「【0120】・・・検出信号が示す接触位置が連続的に変化する場合、表示制御手段(第1描画処理部111)は、変化する接触位置に追従してキャラクタ画像が移動するように、当該キャラクタ画像を含むゲーム画像を表示手段(第1ディスプレイ11)に表示する。」

(コ)記載事項(ア)の「単一のゲーム装置からなるゲームシステム」は、記載事項(イ)の「表示手段としての第1ディスプレイ11の前方には、タッチパネル14が設置されている。」、記載事項(ウ)の「制御部100は、端末装置1の全体の動作を制御するもので、CPU101と、ROM102と、RAM103とを備える。・・ROM102は、各種の画像データ及びゲームプログラム等を記憶する。・・第1描画処理部111は、プレーフィールド画像及びカード画像を含むゲーム画像を第1ディスプレイ11に表示させる」ものであるので、第1ディスプレイ11と、第1ディスプレイ11の前方に設けられたタッチパネル14と、制御部100と、第1描写処理部111を備え、制御部100は、CPU101と、ゲームプログラムを記憶するROM102を備え、単一のゲーム装置として実現されたゲームシステムといえる。
(サ)記載事項(イ)の「第1ディスプレイ11」は、記載事項(オ)の「図7は、端末装置の第1ディスプレイに表示されるゲーム画像の一例を示す図であり、・・・プレーフィールド画像91には、5つの味方キャラクタ画像98a?98eと、5つの敵キャラクタ画像99a?99eとが配置されている。」ものであって、記載事項(ク)の「操作種別が「ドラッグ」であれば、処理内容は「移動」である。」であるので、5つの味方キャラクタ画像98a?98e(本件特許の請求項の「複数の制御対象」に相当)が表示され、味方キャラクタ画像98a?98eは、プレーヤのタッチパネル14上におけるドラッグ操作により移動可能に設定されているものといえる。
(シ)記載事項(エ)の「操作入力部114」は、「メモリ114aとタイマ114bとを備えたマイクロコンピュータであり、メモリ114aの所定領域に、タッチパネル14から出力された検出信号が示す接触位置をデータとしてバッファリングし、順次、タイマ114b等を用いて当該データに基づいて指示内容を判定し、判定結果を操作コマンドとして制御部100に供給する」ものであり、(カ)の「操作入力部114は、タッチパネル14から出力された検出信号を受信したか否か、すなわち、当該検出信号により接触位置の座標がデータとしてメモリ114aに入力されたか否かを判断する・・・該当オブジェクトが存在する場合・・・そのオブジェクトが操作受付可能である・・・場合には、後述する操作種別判定処理を行い・・・」、記載事項(キ)の「・・・検出信号の入力がなくなった際にデタッチされたと判断する。
デタッチされていないと判断した場合、・・・入力座標が移動していると判断した場合、・・・操作入力部114は、操作がドラッグ操作であると判定する。」ものであるので、
操作入力部114は、タッチパネル14から出力された検出信号が示す接触位置を順次バッファリングし、接触位置に基づいて指示内容を判定し、判定結果を操作コマンドとして制御部100に供給するものであり、タッチパネル14から出力された検出信号が受信されると、検出信号により接触位置の座標が入力され、操作入力部114は、入力座標に該当するオブジェクトが存在し、かつ、当該オブジェクトが操作受付可能であれば、デタッチでない状態で、入力座標が移動したかを判定して、入力座標が移動していると判断した場合、プレーヤによる操作がドラッグ操作であると判定するものといえる。
(ス)記載事項(ク)の「処理」は、「該当オブジェクトがP(味方キャラクタ画像)である場合におけるステータス表示は、味方キャラクタの容姿及び能力等の表示である。
操作種別が『ドラッグ』であれば、処理内容は『移動』である。」であるので、オブジェクトが味方キャラクタ画像(P)であり、操作種別が「ドラッグ」であるときに、処理内容を「移動」とするものといえる。
(セ)記載事項(ケ)の「表示制御手段」は、「検出信号が示す接触位置が連続的に変化する場合、表示制御手段(第1描画処理部111)は、変化する接触位置に追従してキャラクタ画像が移動するように、当該キャラクタ画像を含むゲーム画像を表示手段(第1ディスプレイ11)に表示する。」ものであるので、検出信号が示す接触位置が連続的に変化する場合、第1描写処理部111は、変化する接触位置に追従してキャラクタ画像が移動するように、当該キャラクタ画像を含むゲーム画像を第1ディスプレイ11に表示するものといえる。
上記記載事項から、甲第9号証には、次の発明が記載されているものと認められる。(「a:」?「f:」の文字は当審で付与。)
「a:第1ディスプレイ11と、第1ディスプレイ11の前方に設けられたタッチパネル14と、制御部100と、第1描写処理部111を備え、制御部100は、CPU101と、ゲームプログラムを記憶するROM102を備え、単一のゲーム装置として実現されたゲームシステムであって、
b:前記第1ディスプレイ11には、5つの味方キャラクタ画像98a?98eが表示され、味方キャラクタ画像98a?98eは、プレーヤのタッチパネル14上におけるドラッグ操作により移動可能に設定されているものであり、
c:操作入力部114は、タッチパネル14から出力された検出信号が示す接触位置を順次バッファリングし、接触位置に基づいて指示内容を判定し、判定結果を操作コマンドとして制御部100に供給するものであり、タッチパネル14から出力された検出信号が受信されると、検出信号により接触位置の座標が入力され、操作入力部114は、入力座標に該当するオブジェクトが存在し、かつ、当該オブジェクトが操作受付可能であれば、デタッチでない状態で、入力座標が移動したかを判定して、入力座標が移動していると判断した場合、プレーヤによる操作がドラッグ操作であると判定し、
d:該当オブジェクトが味方キャラクタ画像(P)であり、操作種別が「ドラッグ」であるときに、処理内容を「移動」とし、
e:検出信号が示す接触位置が連続的に変化する場合、第1描写処理部111は、変化する接触位置に追従してキャラクタ画像が移動するように、当該キャラクタ画像を含むゲーム画像を第1ディスプレイ11に表示し、
f:ドラッグ先がキャラクタ画像の移動先となるゲームシステム。」(以下、これを「引用先願発明1」という。)

また、ゲームプログラムに着目して、甲第9号証には、次の発明も記載されているものと認められる。
「j:第1ディスプレイ11と、第1ディスプレイ11の前方に設けられたタッチパネル14と、制御部100と、第1描写処理部111を備え、制御部100は、CPU101と、ゲームプログラムを記憶するROM102を備え、単一のゲーム装置として実現されたゲームシステムのゲームプログラムであって、
k:前記第1ディスプレイ11には、5つの味方キャラクタ画像98a?98eが表示され、味方キャラクタ画像98a?98eは、プレーヤのタッチパネル14上におけるドラッグ操作により移動可能に設定されているものであり、
l:操作入力部114は、タッチパネル14から出力された検出信号が示す接触位置を順次バッファリングし、接触位置に基づいて指示内容を判定し、判定結果を操作コマンドとして制御部100に供給するものであり、タッチパネル14から出力された検出信号が受信されると、検出信号により接触位置の座標が入力され、操作入力部114は、入力座標に該当するオブジェクトが存在し、かつ、当該オブジェクトが操作受付可能であれば、デタッチでない状態で、入力座標が移動したかを判定して、入力座標が移動していると判断した場合、プレーヤによる操作がドラッグ操作であると判定し、
d:該当オブジェクトが味方キャラクタ画像(P)であり、操作種別が「ドラッグ」であるときに、処理内容を「移動」とし、
m:検出信号が示す接触位置が連続的に変化する場合、第1描写処理部111は、変化する接触位置に追従してキャラクタ画像が移動するように、当該キャラクタ画像を含むゲーム画像を第1ディスプレイ11に表示し、
n:ドラッグ先がキャラクタ画像の移動先となるゲームシステムのゲームプログラム。」(以下、これを「引用先願発明2」という。)

2.本件特許発明1について
2-1.本件特許発明1と引用先願発明1との対比
本件特許発明1と引用先願発明1を対比する。
(a)引用先願発明1の「第1ディスプレイ11」は、本件特許発明1の「表示画面」に相当し、以下同様に、「制御部100」は、「実行手段」に、「ゲームプログラムを記憶するROM102」は、本件特許発明1の「ゲームプログラムが格納されたメモリ」に、「プレーヤ」は、「ユーザー」に、「5つの味方キャラクタ画像98a?98e」は、「複数の制御対象」に相当する。
(b)引用先願発明1の「5つの味方キャラクタ画像98a?98eが表示」は、プレーヤによるゲーム装置の操作に応じてなされるものであることは明らかであるので、引用先願発明1の「第1ディスプレイ11には、5つの味方キャラクタ画像98a?98eが表示され」、「味方キャラクタ画像98a?98eは、プレーヤのタッチパネル14上におけるドラッグ操作により移動可能に設定されて」、「キャラクタ画像が移動するように」制御されることは、本件特許発明1の「表示画面に、ユーザーによる操作に応じて移動可能に設定された複数の制御対象を表示し、前記ユーザーによる前記タッチパネル上での操作に応じて前記制御対象の挙動を制御する」ことに相当する。
そして、引用先願発明1の「単一のゲーム装置として実現されたゲームシステム」は、上記制御を行うものであって、かつ「ゲームプログラムを記憶するROM102を備え」るものである以上、当該ゲームプログラムの実行によりそれらの制御がなされることも自明であるので、本件特許発明1の「前記実行手段による前記ゲームプログラムの実行により前記表示画面に、ユーザーによる操作に応じて移動可能に設定された複数の制御対象を表示し、前記ユーザーによる前記タッチパネル上での操作に応じて前記制御対象の挙動を制御するように構成されたビデオゲーム装置」に相当する。
(c)引用先願発明1の「第1ディスプレイ11には、5つの味方キャラクタ画像98a?98eが表示され」ることは、本件特許発明1の「複数の制御対象を前記表示画面に表示」することに相当する。
(d)引用先願発明1の「タッチパネル14から出力された検出信号が示す接触位置を順次バッファリングし、・・・入力座標が移動したかを判定して、入力座標が移動していると判断した場合、プレーヤによる操作がドラッグ操作であると判定し」と、本件特許発明1の「前記ユーザーのタッチパネル上での操作によって前記ユーザーから接触された接触位置の移動が接触状態を維持された状態で行われたときドラッグ操作が開始されたと判定」することとは、
「ユーザーのタッチパネル上での操作によってユーザーから接触された接触位置の移動が接触状態を維持された状態で行われたときドラッグ操作と判定」することで共通する。
(e)引用先願発明1の「入力座標に該当するオブジェクトが存在し・・・入力座標が移動していると判断した場合、プレーヤによる操作がドラッグ操作であると判定し、
操作種別が「ドラッグ」であるときに、処理内容を「移動」とし、・・・変化する接触位置に追従してキャラクタ画像が移動するように、当該キャラクタ画像を含むゲーム画像を第1ディスプレイ11に表示」することと、本件特許発明1の「前記ドラッグ操作の開始された位置に表示されている制御対象を、前記ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動中に該接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる制御を開始」することとは、
「ドラッグ操作の開始された位置に表示されている制御対象を、接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる」ことで共通する。
(f)引用先願発明1の「ドラッグ先がキャラクタ画像の移動先となる」ことと、本件特許発明1の「前記(d)の処理を続行中に前記接触状態が開放されたとき当該開放位置を終端位置として前記ドラッグ操作が確定したと判定」することとは、
「ドラッグ先を終端位置」とする点で共通する。

一致点:
そうすると、両者は、
「A:表示画面と、前記表示画面上に配置されたタッチパネルと、実行手段と、ゲームプログラムが格納されたメモリとを備え、前記実行手段による前記ゲームプログラムの実行により前記表示画面に、ユーザーによる操作に応じて移動可能に設定された複数の制御対象を表示し、前記ユーザーによる前記タッチパネル上での操作に応じて前記制御対象の挙動を制御するように構成されたビデオゲーム装置であって、
B: (a)複数の制御対象を前記表示画面に表示し、
C: (b)ユーザーのタッチパネル上での操作によってユーザーから接触された接触位置の移動が接触状態を維持された状態で行われたときドラッグ操作と判定し、
D: (c)ドラッグ操作の開始された位置に表示されている制御対象を、接触位置の移動の軌跡に沿って移動させ、
F: (e)終端位置とする
ことを含む処理を実行するように構成されてなるビデオゲーム装置。」
で一致し、次の点で一応相違する。

一応の相違点1:本件特許発明1は、
(b)・・(中略)・・ドラッグ操作「が開始された」と判定し、
(c)・・(中略)・・「ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動中に」該接触位置の移動の軌跡に沿って移動させ「る制御を開始し」、
「(d)前記移動を開始した制御対象を、前記ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動に遅れて追従するように、前記接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる制御を続行し、」
(e)「前記(d)の処理を続行中に前記接触状態が開放されたとき当該開放位置を」終端位置「として前記ドラッグ操作が確定したと判定」する
ことを含む処理を実行するのに対し、引用先願発明1は、そうでない点。
なお、「」で括られた点が引用発明が備えていない点である。

2-2.一応の相違点についての判断
(a)請求人は、上記一応の相違点1に係る構成に関して、審判請求書で、
「甲第9号証に記載された発明において、第1描写処理部111による第1ディスプレイの表示制御は、検出信号が示す接触位置が連続的に変化する場合に、変化する接触位置に追従してキャラクタ画像が移動するように、当該キャラクタ画像を含むゲーム画像を表示するものである(明細書0120段落参照)。
よって、甲第9号証に記載された発明は、接触位置の移動に遅れてこれに追従して接触位置の軌跡に沿って移動させるものと認められる。」(第23頁)と主張しているので、当該主張について検討する。
(b)上記「2-1.」に記載した様に、引用先願発明1の制御は、接触位置の移動に「遅れてこれに」追従してなされるものでなく、さらに、請求人が主張する甲第9号証【0120】の記載もそのような制御を開示したものではない。
さらに、本件特許発明1の、接触位置の移動に「遅れてこれに」追従してなされる一連の制御は、被請求人が、平成26年2月4日付け口頭審理陳述要領書で「本件特許発明は、『電子遊戯の画像情報を処理して電子遊戯のためのキャラクタを画面上に表示する画像処理装置に関するものである。』(本件特許公報,段落【0001】)。従来技術においては,『例えば,サッカーゲームなど,複数のキャラクタからなるキャラクタ全体の制御を必要とするゲームプログラムの場合,ボールを持ったキャラクタしかユーザーによって制御できないので,キャラクタの全体制御の下で個々のキャラクタの挙動を迅速に制御しようとする場合には不向きである』(同段落【0004】)等の問題点があったことから,本件特許発明は,このような問題点に鑑みて,『コンピュータによってキャラクタ全体が統一的に制御されるべき状況下で,キャラクタへの動作入力がユーザーにとって迅速に可能となり,かつ平易になるという画像処理装置を提供すること』(同段落【0005】)を発明の目的の一つとしたものである。・・・
(構成要件E)を採用したことにより,ユーザーは,制御対象が,ドラッグ入力が確定する前に移動させる制御を開始するとともに,接触位置の移動に遅れてこれに追従して接触位置の軌跡に沿って移動する間に,多種多様な操作をすることができるのであり,もって,本件特許公報の【発明の効果】に記載のとおり,『本発明によれば,ユーザー指定キャラクタの動作を迅速かつ容易に制御できる。また,本発明によれば,キャラクタの動作を迅速に変更することができる。』(同段落【0012】)という効果を生じ得るものである。」(第5?6頁)と主張した様な技術的意義をともなうものでもあるので、上記一応の相違点は、実質的に相違点であり、引用先願発明1と本件特許発明1とは、実質的な相違点が存在するものである。

2-3.まとめ
上記の如く、引用先願発明1と本件特許発明1とは、実質的な相違点が存在するものであるので、「本件の請求項1係る各特許発明は、甲第9号証に記載された発明と同一である。よって、本件特許の請求項1に係る各特許発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである」とはいえない。

3.本件特許発明2?4について
本件特許発明2?4は、本件特許発明1にさらに「(f)前記ドラッグ操作が確定したとき移動中の前記制御対象を前記(e)で確定した終端位置に向けさらに移動させる制御を実行する処理を行う」「前記(c)または(f)の処理の実行に応じて移動中の前記制御対象に対しユーザーによる新たな操作が行われたとき、前記制御対象に新たな挙動を付加する制御を実行する処理を行う」「前記接触位置の軌跡を前記表示画面に線として表示する処理を行う」との構成を付加したものであり、上記2.で引用先願発明1と本件特許発明1とは、実質的な相違点が存在するものである以上、同様に本件特許発明2?4は、甲第9号証に記載された発明と同一であるとは認められない。

4.本件特許発明5について
4-1.本件特許発明5と引用先願発明2との対比
本件特許発明5と引用先願発明2を対比する。
(a)引用先願発明2の「第1ディスプレイ11」は、本件特許発明5の「表示画面」に相当し、以下同様に、「プレーヤ」は、「ユーザー」に、「5つの味方キャラクタ画像98a?98e」は、「複数の制御対象」に相当する。
(b)引用先願発明2の「5つの味方キャラクタ画像98a?98eが表示」は、プレーヤによるゲーム装置の操作に応じてなされるものであることは明らかであるので、引用先願発明2の「第1ディスプレイ11には、5つの味方キャラクタ画像98a?98eが表示され」、「味方キャラクタ画像98a?98eは、プレーヤのタッチパネル14上におけるドラッグ操作により移動可能に設定されて」、「キャラクタ画像が移動するように」制御されることは、本件特許発明5の「表示画面に、ユーザーの操作に応じて移動可能に設定された複数の制御対象を表示し、前記ユーザーによる前記タッチパネル上での操作に応じて前記制御対象の挙動を制御する」ことに相当する。
そして、引用先願発明2の「単一のゲーム装置として実現されたゲームシステムのゲームプログラム」は、上記制御を行うものであって、かつ「ゲームプログラムを記憶するROM102を備え」るものである以上、当該ゲームプログラムの実行によりそれらの制御がなされることも自明であるので、本件特許発明5の「表示画面に、ユーザーの操作に応じて移動可能に設定された複数の制御対象を表示し、前記ユーザーによる前記タッチパネル上での操作に応じて前記制御対象の挙動を制御するプログラム」に相当する。
(c)引用先願発明2の「第1ディスプレイ11には、5つの味方キャラクタ画像98a?98eが表示され」ることは、本件特許発明5の「複数の制御対象を前記表示画面に表示する」ことに相当する。
(d)引用先願発明2の「タッチパネル14から出力された検出信号が示す接触位置を順次バッファリングし、・・・入力座標が移動したかを判定して、入力座標が移動していると判断した場合、プレーヤによる操作がドラッグ操作であると判定し」と、本件特許発明5の「前記ユーザーのタッチパネル上での操作によって前記ユーザーから接触された接触位置の移動が接触状態を維持された状態で行われたときドラッグ操作が開始されたと判定する処理」とは、
「ユーザーのタッチパネル上での操作によってユーザーから接触された接触位置の移動が接触状態を維持された状態で行われたときドラッグ操作と判定する処理」である点で共通する。
(e)引用先願発明2の「入力座標に該当するオブジェクトが存在し・・・入力座標が移動していると判断した場合、プレーヤによる操作がドラッグ操作であると判定し、
操作種別が「ドラッグ」であるときに、処理内容を「移動」とし、・・・変化する接触位置に追従してキャラクタ画像が移動するように、当該キャラクタ画像を含むゲーム画像を第1ディスプレイ11に表示」することと、本件特許発明5の「前記ドラッグ操作の開始された位置に表示されている制御対象を、前記ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動中に該接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる制御を開始する処理」とは、
「ドラッグ操作の開始された位置に表示されている制御対象を、接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる処理」である点で共通する。
(f)引用先願発明2の「ドラッグ先がキャラクタ画像の移動先となる」ことと、本件特許発明5の「前記処理(d)の続行中に前記接触状態が開放されたとき当該開放位置を終端位置として前記ドラッグ操作が確定したと判定する処理」とは、「ドラッグ先を終端位置とする処理」である点で共通する。

一致点:
そうすると、両者は、
「J:タッチパネルが配置された表示画面に、ユーザーの操作に応じて移動可能に設定された複数の制御対象を表示し、前記ユーザーによる前記タッチパネル上での操作に応じて前記制御対象の挙動を制御するプログラムであって、
前記プログラムは、コンピュータに、
K:(a)複数の制御対象を前記表示画面に表示する処理と、
L:(b)ユーザーのタッチパネル上での操作によってユーザーから接触された接触位置の移動が接触状態を維持された状態で行われたときドラッグ操作と判定する処理と、
M:(c)ドラッグ操作の開始された位置に表示されている制御対象を、接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる処理と、
O:(e)ドラッグ先を終端位置する処理と、
を実行させるプログラム。」
で一致し、次の点で相違する。

一応の相違点2:本件特許発明5は、
(b)・・(中略)・・ドラッグ操作「が開始された」と判定する処理と、
ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動中に該接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる「制御を開始する」処理と、
(c)・・(中略)・・「ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動中に」該接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる「制御を開始する」処理と、
「(d)前記移動を開始した制御対象を、前記ドラッグ操作に基づく前記接触位置の移動に遅れて追従するように前記接触位置の移動の軌跡に沿って移動させる制御を続行する処理と、」
(e)「前記処理(d)の続行中に前記接触状態が開放されたとき当該開放位置を」終端位置「として前記ドラッグ操作が確定したと判定」する処理と、
を実行させるプログラムであるのに対し、引用先願発明2は、そうでない点。
なお、「」で括られた点が引用発明が備えていない点である。

4-2.一応の相違点についての判断
前記「2-2.」と同様に、上記一応の相違点2は、実質的に相違点であり、引用先願発明2と本件特許発明5とは、実質的な相違点が存在するものである。

4-3.まとめ
上記の如く、引用先願発明2と本件特許発明5とは、実質的な相違点が存在するものであるので、「本件の請求項5係る各特許発明は、甲第9号証に記載された発明と同一である。よって、本件特許の請求項5に係る各特許発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである」とはいえない。

5.本件特許発明6?8について
本件特許発明6?8は、本件特許発明5にさらに「前記コンピュータに、
(f)前記ドラッグ操作が確定したとき移動中の前記制御対象を前記(e)の処理で確定した終端位置に向けさらに移動させる処理を実行させる」「前記コンピュータに、
前記(c)または(f)の処理の実行に応じて移動中の前記制御対象に対しユーザーによる新たな操作が行われたとき、前記制御対象に新たな挙動を付加する処理を実行させる」「前記コンピュータに、
前記接触位置の軌跡を前記表示画面に線として表示する処理を実行させる」との構成を付加したものであり、上記4.で引用先願発明2と本件特許発明5とは、実質的な相違点が存在するものである以上、同様に本件特許発明6?8は、甲第9号証に記載された発明と同一であるとは認められない。


第6 無効理由6についての当審の判断
本件の願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある。
(ア)「【0004】
従来技術のうち・・・後者のものは、ドラッグを用いることについては配慮されているが、ドラッグによってキャラクタを『掴む』操作であって、これは、例えば、サッカーゲームなど、複数のキャラクタからなるキャラクタ全体の制御を必要とするゲームプログラムの場合、ボールを持ったキャラクタしかユーザーによって制御できないので、キャラクタの全体制御の下で個々のキャラクタの挙動を迅速に制御しようとする場合には不向きである。
【0005】
本発明は、前記従来技術の課題に鑑みて為されたものであり、その目的は、コンピュータによってキャラクタ全体が統一的に制御されるべき状況下で、キャラクタへの動作入力がユーザーにとって迅速に可能となり、かつ平易になるという画像処理装置を提供することにある。本発明の他の目的は、キャラクタへの動作入力が多様化された入力形態によって、キャラクタの動作がリアリティなものに適した画像処理装置を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、表示装置の表示画面に表示された数多くのキャラクタを一人のユーザーで容易に操作できるようにした画像処理装置を提供することにある。」
(イ)「【0012】
本発明によれば、ユーザー指定キャラクタの動作を迅速かつ容易に制御できる。また、本発明によれば、キャラクタの動作を迅速に変更することができる。」
(ウ)「【0046】
次に、タッチパネル22に対する複数の入力操作の組合せによって、キャラクタに特殊な動作命令を与えるときの動作を図5に従って説明する。まず、ワンツーパスを行うときには、一方のキャラクタ(選手)50から他方の味方のキャラクタ(選手)52にパスをするときには、ユーザーが味方のキャラクタ(選手)52にシングルまたはダブルタッチ操作を行い、そのあとキャラクタ50をドラッグ操作すると、キャラクタ50が移動したあと他方のキャラクタ52からパスが自動的に戻ってくるようになっている。」
(エ)「【0047】
この場合、ドラッグ操作でキャラクタ50の移動先が指定されたときには、ドラッグ操作の軌跡を示すドラッグ線が画面上に表示されるようになっている。また、ドラッグ操作が確定したときには、ドラッグ操作に関連する表示対象、例えば、キャラクタ50、ドラッグ線56の色が変更されるようになっている。また、ドラッグ操作の開始は画面に対するタッチ操作がされたときであって、ドラッグ操作の確定は、タッチ操作後にキャラクタ50が一定距離移動した後に、タッチ操作が解除されたときである。そして、ドラッグ操作でキャラクタ50を移動させる場合、ドラッグ操作が確定する前に、キャラクタ50をドラッグ操作の開始点と終端点との間の位置まで移動させ、ドラッグ操作が確定したときには、キャラクタ50をドラッグ操作の終端まで移動させるようになっている。これらの処理は、ゲームプログラムに基づいてCPU101で実行される。」
(オ)図5には、ドラッグ線56の始端と終端との間の位置にキャラクタ50が位置した状態が記載されており、その状態となる時点が、ドラッグ線56の終端が決定される前であるにせよ、後であるにせよ、少なくともドラッグ線56の特定期間中に、それに遅れて移動させる制御が行われていることに違いはないので、ドラッグする指先の移動より遅れてキャラクタ50が移動している状態が記載されているといえる。

これらの記載によれば、願書に最初に添付された明細書には、上記(ア)?(イ)の「複数のキャラクタからなるキャラクタ全体の制御を必要とするゲームプログラム」の「キャラクタへの動作入力がユーザーにとって迅速に可能となり、かつ平易」「キャラクタの動作がリアリティなもの」と関連するものとして、上記(ウ)?(オ)に、ドラッグ操作でキャラクタ50を移動させる場合、ドラッグ操作が確定する前に、キャラクタ50をドラッグ操作の開始点と終端点との間の位置まで移動させ、ドラッグ操作が確定したときには、キャラクタ50をドラッグ操作の終端まで移動させるようになっているものであって、ドラッグする指先の移動より遅れてキャラクタ50が移動するものが記載されていると認められる。
そうすると、平成20年10月27日付けの手続補正によって、請求項1に記載された「接触位置の移動に遅れてこれに追従して前記接触位置の軌跡に沿って移動させる制御」は、当初明細書に記載の「図5に従って説明」された動作の時間と空間での関係を「移動に遅れて」移動させると表現したものであることは明らかであり、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、平成20年10月27日付けの手続補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものといえる。
よって、無効理由6は理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明1?8の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-10-02 
結審通知日 2014-10-07 
審決日 2014-10-22 
出願番号 特願2008-275989(P2008-275989)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A63F)
P 1 113・ 161- Y (A63F)
P 1 113・ 561- Y (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大山 栄成古川 直樹  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 竹村 真一郎
住田 秀弘
登録日 2011-08-26 
登録番号 特許第4807531号(P4807531)
発明の名称 画像処理装置およびその方法  
代理人 澤井 光一  
代理人 羽立 章二  
代理人 羽立 幸司  
代理人 塩谷 英明  
代理人 吉田 幸二  
代理人 岡田 誠  
代理人 峰 雅紀  
代理人 松山 智恵  

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