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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12P
管理番号 1300885
審判番号 不服2013-22663  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-20 
確定日 2015-05-14 
事件の表示 特願2008-539764「L-アミノ酸の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 4月24日国際公開、WO2008/047656〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成19年10月11日(国内優先権主張 平成18年10月12日)を国際出願日とする出願であって、平成25年8月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月20日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされたものである。
本願の請求項1?9に係る発明は、平成25年11月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される発明であると認められ、その請求項1に係る発明は、次の事項により特定されるものであると認める。
「【請求項1】
一般式(1):
【化1】


(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1?20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数7?20のアラルキル基、もしくは置換基を有していてもよい炭素数6?20のアリール基を表す。)で表される純度95%以下のケト酸に、アミノ酸脱水素酵素、及び補酵素再生能を有する酵素を作用させて、一般式(2):
【化2】


(式中、Rは前記と同じ)で表されるL-アミノ酸に変換する反応において、補酵素を2回以上に分割して反応に添加することを特徴とするL-アミノ酸の製造方法。」(以下、「本願発明」という。)

第2 引用例・引用発明
1.引用例
原査定で引用文献1として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物1(Bioscience, biotechnology, and biochemistry,1997,61(12),p.2029-33)には、以下の事項が記載されている。英文であるため、翻訳文を記載する。なお、翻訳は当審によるものであり、また、下線は当審が付したものである。
(1)「NADH再生によるピロリン酸からL-アラニンの連続製造のために、ピルビン酸からL-アラニンへの立体特異的還元のためのアラニン脱水素酵素(AIDH)と、NADH再生のためのグルコース脱水素酵素(GDH)との共役酵素システムが、ナノ濾過膜バイオリアクター(NFMBR)に同時固定された。」(第2029頁 要約1?4行)
(2)「L-アラニンの連続製造
(1)AIDH/GDH共役酵素システムを有する単流路NFMBR。GDH(140U/ml)とAIDH(33又は100U/ml)がNFMBR(体積2ml。撹拌なし)に同時固定され、0.5M トリス緩衝液(pH8)中に、0.2Mピルビン酸、0.2M NH_(4)Cl、0.2Mグルコース、及び10 mMのNADを含む基質溶液が、HPLCポンプ(PU-980,JASCO Co.)から脱ガス装置(JASCO,DG-980-50)を通して連続的に供給された。NFMBRは、25℃のウォーターバス中に浸された。NFMBRからの溶出液は、フラクションコレクター(Bio-Rad,2111)に集められ、L-アラニンについて分析された。」(第2030頁左欄1?10行)

2.引用発明
上記「NADを含む基質溶液」はHPLCポンプを用いて反応系に連続的に供給されるものであるから、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「ピルビン酸、アラニン脱水素酵素、及びNADH再生のためのグルコース脱水素酵素を作用させて、L-アラニンに変換する反応において、NADを連続的に反応に添加する、L-アラニンの製造方法。」(以下、「引用発明」という。)

第3 対比・判断
1.対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明のアラニン脱水素酵素、NADH再生のためのグルコース脱水素酵素、NADは、それぞれ本願発明のアミノ酸脱水素酵素、補酵素再生能を有する酵素、補酵素に相当し、引用発明のピルビン酸及びL-アラニンは、本願発明の一般式(1)のケト酸においてRが炭素数1のアルキル基(メチル基)の場合、及び、本願発明の一般式(2)のL-アミノ酸においてRが炭素数1のアルキル基(メチル基)の場合、に相当する。
したがって、両者は、「一般式(1):
【化1】

(式中、Rは炭素数1のアルキル基を表す。)で表されるケト酸に、アミノ酸脱水素酵素、及び補酵素再生能を有する酵素を作用させて、一般式(2):
【化2】

(式中、Rは前記と同じ)で表されるL-アミノ酸に変換する反応において、補酵素を反応に添加する、L-アミノ酸の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明においては、補酵素を2回以上に分割して反応に添加するのに対して、引用発明では、補酵素を連続的に添加する点。
(相違点2)
本願発明においては、ケト酸の純度が95%以下であることが特定されているのに対して、引用発明ではこの点の特定がない点。

2.当審の判断
(1)相違点1について
本願発明の補酵素の添加に関して、発明の詳細な説明の記載をみると、段落【0052】には、以下の事項が記載されている。
「さらに、前項1.で挙げた反応の生産性を低下させる低純度のケト酸を基質とした場合、NAD等の補酵素を2回以上に分けて添加する(分割添加)ことにより、全量を反応開始時に添加(一括添加)した場合に比べて、反応の生産性を向上させることが可能である(実施例1、及び比較例1を参照)。反応の生産性が向上する例としては、生成するL-アミノ酸の収率が向上する、反応時間が短縮できる事等が挙げられる。上記のような低純度のケト酸を基質として使用し、補酵素を反応開始時に一括添加する場合も、補酵素を多量に添加すれば、反応の生産性を向上させることが可能であるが、分割添加を行うことにより補酵素の総添加量を削減することが可能である。」
上記の記載では、「NAD等の補酵素を2回以上に分けて添加する(分割添加)」が「全量を反応開始時に添加(一括添加)」と対比して記載されており、この記載から、本願発明にいう「補酵素を2回以上に分割して反応に添加」とは、一括添加以外の添加手段を広く含む概念を指す用語と解される。
また、請求項1を引用して特定する請求項5には、「補酵素を連続的に添加することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。」と記載されていることから、請求項1の「2回以上に分割して反応に添加」には、「連続的に添加」が包含されると認められる。
なお、審判請求人も審判請求書において、「請求項1における2回以上の分割添加は、一の瞬間にすべての補酵素を反応系に導入しないことを意味し、一定の時間をかけて補酵素を連続的に反応系に添加することをも包含します。」と主張している。
したがって、本願発明における補酵素の「2回以上に分割して反応に添加」は、「連続的に添加」を包含するから、相違点1は実質的な相違点ではない。

(2)相違点2について
より高純度な原料は、反応の管理が精密に行えること、副反応が少ないことなどが期待されるものの高価であり、一方、比較的純度の低い原料は、副反応が増加するおそれや、反応生成物に不純物が含まれるおそれなどがあるものの安価であるから、使用する原料の純度は、反応に求められる精度、収率、生成物の用途、コスト等の目的に応じて、当業者が適宜選択するものである。したがって、引用発明において、原料であるケト酸の純度の上限について例えば95%などと特定することに、格別の困難性はない。

(3)効果について
本願発明において、ケト酸として純度が95%以下のものを特定したことによって、刊行物1の記載から当業者が予測できないような効果が奏されたとは認められない。

なお、拒絶査定において引用文献5として示された、特開2004-159587号公報には、以下の事項が記載されている。
「【0002】
【従来の技術】
還元型NAD(P)Hが関与する酵素反応において、酵素反応の結果生じた酸化型補酵素NAD(P)を還元型補酵素NAD(P)Hに再生させ、連続的に目的生産物を得る試みがなされている。その際、補酵素の再生は、微生物の持つNAD(P)還元能(解糖系、メチロトローフのC1化合物資化系)を利用する方法、NAD(P)からNAD(P)Hを生成する能力を有する微生物またはその処理物を添加する方法等により実施される。そのような再生を行う酵素としては、ギ酸脱水素酵素、グルコース脱水素酵素、グルコース6リン酸脱水素酵素、アセトアルデヒド脱水素酵素、ヒドロゲナーゼ等が知られている(Biotechnology 1,677 (1983), J. Am. Chem. Soc. 102, 7104 (1980), Biotechnology Lett. 2, 445 (1980), J. Am. Chem. Soc. 103, 4890 (1981))。
【0003】
しかしながら、従来の再生では、繰り返しの反応や連続的な生産反応の際、微生物菌体の機械的破砕、溶菌等により、再生された補酵素が菌体外へ漏出し、反応系から失われる問題があった。
【0004】
具体的には、大腸菌組換え体を用いた場合、反応中に溶菌を生じ、反応時に補酵素が菌体外に漏れてしまう問題があった。
【0005】
また、微生物菌体を適当な担体に固定した固定化酵素を用いた連続生産反応においても上述と同様に、反応と共に補酵素は反応系外へ漏出し、随時、補酵素を添加しなければならなかった。」

本願発明の酵素反応は、上記文献に記載される「還元型NAD(P)Hが関与する酵素反応」に該当し、本願の実施例1の方法は、酵素成分として大腸菌の形質転換体(参考例4)の菌体濃縮液を用いる方法であるから、上記文献に記載される「大腸菌組換え体を用いた場合、反応中に溶菌を生じ、反応時に補酵素が菌体外に漏れてしまう問題」を生じる可能性がある方法である。そして、上記文献には、問題を生じさせないために、「随時、補酵素を添加しなければならなかった。」と記載されており、すなわち、上記文献には、随時、補酵素を添加すれば、上記の問題が回避され、酵素反応が進行することが示されているといえる。
したがって、本願の実施例1に示される方法における効果は、上記文献の記載から、当業者が予測できるともいえる。

(4)請求人の主張について
請求人は、審判請求書及び回答書において、以下ア?ウの点を主張をしている。
ア 引用文献1では、高純度のケト酸を使用しており、有機合成の分野では反応効率を高めるために高純度の基質を使用するのが当然であるから、引用文献1において純度が95%以下という低純度のケト酸を使用する動機はない。
イ 本願の実施例1の収率が参考例1を上回っていることから、純度が95%以下のケト酸を使用して、高純度のケト酸の場合と同じにまで収率を回復できるだけではなく、原料のコストを低減しながら、その一方で収率は改善できるという効果を奏することが理解できる。

ウ 補酵素を分割添加しても、収率を維持するために同じ総添加量が必要という技術常識を踏まえると、補酵素の総添加量を低下させると収率も低下してしまうと予測される。
実験例1?2は、本願発明の方法において補酵素の添加を2回行い、合計0.0006モル等量(補酵素の総添加量が実施例1の2/3)を使用する方法であるが、この実験例1?2の結果(ケト酸は消失し、L-アミノ酸は実施例1に近い約95mol%という高い収率で回収。比較例1の2倍以上の基質仕込み濃度でも反応を完遂。比較例1に対して、約1/3という短い反応時間で、収率も改善。)は、この予測に反する結果である。
補酵素を分割添加した実施例1では反応前の補酵素の分解を抑えることができ、結果的に、一括して添加するよりもL-アミノ酸の収率を改善でき、少量の補酵素で反応を終結させることができる。この効果は、補酵素を分割添加する反応系において低純度のケト酸を使用することにより、はじめて達成される特異的な効果である。

(アについて)
上記(2)のとおり、使用する原料の純度は、当業者が適宜選択するものである。刊行物1において、低純度の原料の使用が除外されているとも認められない。

(イについて)
実施例1の結果は、酵素成分として形質転換した大腸菌の菌体濃縮液を用い、ケト酸成分として純度83.2%という特定の純度のトリメチルピルビン酸を用い、分割添加方法として3回添加を採用するという、特定の反応系・反応方法によるものである。一方、本願発明の方法は、そのような反応系・反応方法に特定されるものではなく広範であるから、実施例1の結果を本願発明の全体の効果として参酌することはできない。
また、本願発明に特定されるケト酸の純度の上限95%は、むしろ参考例1の純度98.5%に近いことを考慮すると、本願発明において、純度95%以下としたことによって、格別の効果が奏されたとはいえない。

(ウについて)
本願発明には、補酵素の添加量等は特定されていない。請求人の主張する、少量の補酵素で反応を終結できる点は、本願発明の特定に基づかないものであり、採用できない。
また、上記(イについて)で述べたとおり、実施例1及び実験例1,2は、いずれも特定の反応系、反応方法の結果であり、このような結果を本願発明の全体の効果として参酌することはできない。

第4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、本願優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-11 
結審通知日 2015-03-17 
審決日 2015-03-31 
出願番号 特願2008-539764(P2008-539764)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邉 潤也小川 明日香  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 高堀 栄二
飯室 里美
発明の名称 L-アミノ酸の製造方法  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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