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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04B |
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管理番号 | 1300900 |
審判番号 | 不服2014-8563 |
総通号数 | 187 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-07-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-05-08 |
確定日 | 2015-05-14 |
事件の表示 | 特願2009-230122号「架構の補強構造」拒絶査定不服審判事件〔平成23年4月14日出願公開、特開2011-74732号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成21年10月2日の出願であって、平成25年9月5日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、同年11月8日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年2月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成25年11月8日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「鋼材からなる柱と梁とを接合してなる柱梁接合部の近傍に、前記柱と梁とに亘って方杖材を架設して補強された架構の補強構造であって、 前記方杖材は、前記柱及び梁よりも先に降伏に至るものであって、 前記柱梁接合部は、前記柱と梁とを剛接合又は半剛接合して形成される共に、前記柱及び梁の全塑性耐力を上回る耐力を有する保有耐力接合とされている ことを特徴とする架構の補強構造。」 第3 引用刊行物に記載された事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物は、次のとおりである。 特開2006-52612号公報(以下、「引用例1」という。) 特開平9-41481号公報(以下、「引用例2」という。) 特開2008-266964号公報(以下、「引用例3」という。) 1 引用例1 (1)引用例1に記載の事項 引用例1には、次の事項が記載されている(下線は当審にて付加した。)。 ア 技術分野 「【0001】 本発明は、鉄骨構造物の鋼材製の柱と鋼材製の梁間に座屈拘束ブレースを架設して、地震などにより鉄骨構造物に大きなエネルギーが加わったときにそのエネルギーを座屈拘束ブレースで吸収し、構造物の振れを減少させる構造物の柱と梁の接合構造に関する。」 イ 背景技術 「【0002】 従来、鋼材製の柱と鋼材製の梁を骨組とした鉄骨構造物に、鋼管とその内部に配置された鋼材との間にコンクリートを充填した座屈拘束ブレースを架設して、地震などによるエネルギーをこの座屈拘束ブレースで吸収し、鋼材製の柱と鋼材製の梁の永久変形を防止するとともに、地震後に必要に応じて座屈拘束ブレースを交換するだけで耐震鉄骨構造物を再現できる構成の耐震鉄骨構造物が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。 特許文献1における構成は、ブレース板の端部を十字型に構成し、鋼材製の梁に十字型の鋼材製取付金具を溶接し、ブレース板の端部と鋼材製取付金具とを突き合わせて鋼製継手板によって結合するものである。 【特許文献1】特開平6-57820号公報((0004)、(0006)、(0009)および図1など)」 ウ 発明が解決しようとする課題 「【0003】 特許文献1の構成は、大地震が発生したときに、座屈拘束ブレースが弾塑性の挙動をし、座屈拘束ブレースの低降伏点鋼材が降伏して地震エネルギーを吸収することにより、鋼材製の柱と鋼材製の梁の永久変形を防止することができる。 しかし、特許文献1における座屈拘束ブレースは、ブレース板の端部と鋼材製取付金具とをそれぞれ十字型に構成して突き合わせているため、接合部が長くなってしまい地震エネルギーを吸収する座屈拘束ブレース長さに影響を及ぼしてしまう。 【0004】 本発明はこのような課題を解決するもので、接合部長さを短くするとともに、鉄骨構造物への取り付け作業を容易に行え、地震などにより鉄骨構造物に大きなエネルギーが加わったときにそのエネルギーを座屈拘束ブレースで確実に吸収し、構造物の振れを減少させて、構造物の柱と梁の変形を防止することが可能な柱と梁の接合構造を提供することを目的とする。」 エ 実施例1 「【0008】 以下本発明の実施例について図面とともに詳細に説明する。 図1は本発明の実施例1による構造物の柱と梁の接合構造の構成を示す側面図である。鋼材製の柱11と鋼材製の梁12により鉄骨構造物の骨組みが構成される。鋼材製の柱11と鋼材製の梁12の接合は、剛接、半剛接あるいはピン接合により接合される。図1にはボルト13によるピン接合の例を示す。柱11と梁12間には、座屈拘束ブレース14およびその両端に連結された鋼材製のガゼット15、16からなる方杖17が配置され、柱11にボルト18でガゼット15を、梁12にボルト19でガゼット16を固定して架設される。方杖17は鉄骨構造物が地震等により損傷する可能性がある場合に、地震エネルギーを方杖17に集中させる損傷制御部材として作用する。 【0009】 図2(a)は、座屈拘束ブレース14の分解斜視図である。座屈拘束ブレース14は、断面がL字型、コの字型などの角型あるいは半円型で構成された鋼材の内面にコンクリート層23を形成した上部鋼材21と、同様に断面がL字型、コの字型などの角型あるいは半円型で構成された鋼材の内面にコンクリート層24を形成した下部鋼材22の間に鋼材製のブレース板25を配置させ、上部鋼材21のコンクリート層23と下部鋼材22のコンクリート層24によりブレース板25を挟持させて上部鋼材21および下部鋼材22を結合する。図2(b)に、ブレース板25を上部鋼材21および下部鋼材22で挟持させて結合した状態における端部の様子を示す。 ブレース板25は上部鋼材21および下部鋼材22の両端に延長する長さを有しており、その中央部は幅が若干狭い幅狭部26を形成している。この幅狭部26の作用については後述する。また、ブレース板25の中央部近辺の上下面には鋼製の突起27、28が設けられ、上部鋼材21のコンクリート層23および下部鋼材22のコンクリート層24が固まっていないやわらかい間に突起27、28をコンクリート層23、24に埋め込んだ状態でブレース板25を上部鋼材21および下部鋼材22間に挟持させる。この突起27、28は、座屈拘束ブレース14に地震エネルギーが加えられた際に、ブレース板25が上部鋼材21および下部鋼材22間で滑動しないように作用する。なお、ブレース板25は上部鋼材21および下部鋼材22間でコンクリート層23、24により巻かれるので、改めて耐火被覆を施す必要はない。」 「【0013】 この状態で鉄骨構造物に地震エネルギーが加わったとき、柱11および梁12は地震エネルギーにより振動するが、その振動エネルギーは方杖17に伝達される。 方杖17に振動エネルギーが伝達されると、方杖17の強度的に弱い部分が損傷する。前述したように、方杖17はガゼット15、16の舌部32に形成された切込部36にブレース板25の先端を十字型を形成するように嵌合させて溶接しているので、この接合部分は接合断面が大きく強度が大きい。したがって、ガゼット15、16と座屈拘束ブレース14との接続部における拘束が十分であり、接続部において局部座屈をすることはない。 一方、方杖17は図1に示すようにガゼット15、16と座屈拘束ブレース14との接続端部に間隙20を有している。この間隙20の位置には座屈拘束ブレース14のブレース板25しか存在しないので、ブレース板25の間隙20の位置で降伏する可能性がある。しかし、ブレース板25は、図2に示すように、中央部に間隙20の位置におけるブレース板25の幅より狭い幅の幅狭部26が形成されているので、振動エネルギーはブレース板25の間隙20の位置よりも幅狭部26において降伏する。この結果、座屈拘束ブレース14が変形あるいは損傷することにより振動エネルギーを吸収し、地震エネルギーによる構造物の振れを減少させて柱11および梁12の変形や損傷を防止ないしは最小限に抑えることができる。 なお、幅狭部26の長さ、すなわち、ブレース板25の長さ方向に沿った長さを変えることにより降伏位置を調整することができる。」 オ 図面 図1には、柱11と梁12との柱梁接合部の近傍に、柱11と梁12とに亘って座屈拘束ブレース14とガセット15,16からなる方杖17を架設したことが図示されている。 (2)引用例1に記載の発明の認定 ア 引用例1には、上記(1)アに摘記したように、「本発明は、鉄骨構造物の鋼材製の柱と鋼材製の梁間に座屈拘束ブレースを架設して、地震などにより鉄骨構造物に大きなエネルギーが加わったときにそのエネルギーを座屈拘束ブレースで吸収し、構造物の振れを減少させる構造物の柱と梁の接合構造に関する。」と記載されており、また、上記(1)エに摘記したように、「鋼材製の柱11と鋼材製の梁12により鉄骨構造物の骨組みが構成される。鋼材製の柱11と鋼材製の梁12の接合は、剛接、半剛接あるいはピン接合により接合される。」(段落【0008】)と記載されているから、鋼材製の柱11と鋼材製の梁12とからなる鉄骨構造物における柱と梁の接合構造において、鋼材製の柱11と鋼材製の梁12との接合は、剛接又は半剛接により接合されていることが記載されているといえる。 イ 引用例1には、上記(1)エに摘記したように、「柱11と梁12間には、座屈拘束ブレース14およびその両端に連結された鋼材製のガゼット15、16からなる方杖17が配置され、柱11にボルト18でガゼット15を、梁12にボルト19でガゼット16を固定して架設される。」(段落【0008】)と記載されているから、柱11と梁12との間に、座屈拘束ブレース14およびその両端に連結されたガゼット15、16からなる方杖17が架設されていることが記載されているといえる。また、上記(1)オのとおり、図1を参酌すると、方杖17は、柱11と梁12との柱梁接合部の近傍に、柱11と梁12とに亘って架設されているといえる。 ウ 上記(1)ア?ウに摘記したように、引用例1に記載の座屈拘束ブレースは、その低降伏点鋼材が降伏して地震エネルギーを吸収し、構造物の振れを減少させて、柱と梁の変形を防止するものであることを前提としているところ、上記(1)エに摘記した実施例1においても、座屈拘束ブレース14のブレース板25が降伏するもので(段落【0009】,【0013】)、座屈拘束ブレース14が変形あるいは損傷することにより振動エネルギーを吸収し、地震エネルギーによる構造物の振れを減少させて柱11および梁12の変形や損傷を防止ないしは最小限に抑えることができること(段落【0013】)が記載されているから、引用例1に記載の座屈拘束ブレース14とガセット15,16からなる方杖17は、柱11及び梁12よりも先に降伏に至るものであるといえる。 エ 以上のことを踏まえると、上記(1)に記載された事項からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「鋼材製の柱と鋼材製の梁とからなる鉄骨構造物における柱と梁の接合構造において、鋼材製の柱11と鋼材製の梁12とを接合してなる柱梁接合部の近傍に、前記柱11と梁12とに亘って方杖17を架設したものであって、前記方杖17は、前記柱11及び梁12よりも先に降伏に至るものであり、前記柱11と梁12との接合は、剛接又は半剛接により接合されている、鋼材製の柱と鋼材製の梁とからなる鉄骨構造物における柱と梁の接合構造。」 2 引用例2 引用例2には、次の事項が記載されている(下線は当審にて付加した。)。 ア 段落【0008】 「【発明の実施の形態】 本発明は、柱1と梁2の架構面内に接合部材3を介して制振部材4を連結する制振部材について実施される。 本発明の制振部材4は、塑性変形する極低降伏点鋼材で構成された鋼管5と、その内部に充填された補剛材としてのコンクリート6とから成り、両者はアンボンド処理によって絶縁され、鋼管5のみが接合部材3に連結され、軸力は鋼管5にのみ伝達させ充填コンクリート6は補剛材として構成されている。したがって、柱梁架構に負荷される地震等の水平入力は、軸力(圧縮力、引張力)として前記鋼管5にのみ伝達され、当該鋼管5が早期に降伏して大きく塑性変形するので、地震等のエネルギーを効果的に吸収して優れた制振性能を発揮する。」 イ 段落【0010】 「【実施例】 次に、図面にしたがって制振部材を建物の柱梁架構におけるブレースに適用した実施例を説明する。図1と図2は、柱1と梁2とより成る柱梁架構の内隅部に取付けられた接合部材3を介してブレース(制振部材)4が連結された状態を示している。」 ウ 段落【0014】 「したがって、柱梁架構に負荷される地震等の水平入力は、軸圧縮力及び引張力として前記鋼管5にだけ伝達され、同鋼管5は早期に降伏して大きく塑性変形してエネルギーを吸収し、優れた制振効果を発揮する。また、たとえ大きな軸力が働いても、コンクリート6の両端に緩衝材7が設けられているから、充填コンクリート6に力が伝達されることがなく、しかも、当該充填コンクリート6の補剛効果によって、鋼管5に座屈を生じさせない。」 エ 段落【0015】 「なお、当該制振部材4は、図4に説明したように、全長を短く形成し、柱梁架構面内において、所謂方杖の態様でも使用され、上記のようにブレースとして実施した場合と同様に優れた制振の作用、効果を奏する。」 オ 図4 図4には、柱1と梁2との接合部の近傍に、柱1と梁2とに亘って制振部材4が方杖の態様で架設したことが図示されている。 3 引用例3 引用例3には、次の事項が記載されている(下線は当審にて付加した。)。 ア 技術分野 「【0001】 本発明は、鉄骨造架構における柱及び柱と梁との接合部構造に関するものである。」 イ 発明が解決しようとする課題 「【0009】 本発明は、従来技術の問題を解決し、鉄骨構造における柱と梁との接合部を簡易かつ高い品質をもって構成することができ、更に、一部の梁の接合レベルの変更にも容易かつ低コストで対応することが可能な柱及び柱と梁との接合部構造を提供することを目的とする。」 ウ 発明を実施するための最良の形態 「【0021】 本発明に係る柱及び柱と梁との接合部構造の実施形態について、図を用いて説明する。本発明が適用される建築物は、主に中低層の鉄骨造建築物である。ここで、中低層とは、2階建てから5階建てぐらいまでの範囲をいう。構造形式としては、ラーメン構造、ブレースを併用したラーメンブレース構造等、柱と梁の接合部にて曲げモーメントの伝達が行われるものであればよい。・・・・(略)・・・・」 「【0024】 角形鋼管の肉厚が梁のフランジの厚さの2倍未満では、梁に対して、柱および梁接合部として十分な耐力と剛性が得られない。一方、角形鋼管の肉厚が梁のフランジの厚さの3倍より大きい場合には、梁に対して、柱および梁接合部としての耐力と剛性が過剰になる。その結果、高コストになると共に、重量が重くなりすぎるため、建設現場および鉄骨加工工場での作業性が著しく低下する。」 「【0031】 本発明における柱と梁との接合部構造の形式は、ボルト接合によって剛接合を実現する、即ち柱と梁との間で曲げモーメントを伝達するように設計されたものであればいかなるものでもよく、特に限定されるものではない。例えば、梁の端部に柱との接合面を有する接合プレートを溶接等によって取り付け、該接合プレートを梁接合部に当接し、高力ボルト等にてボルト接合する形式や、柱の梁接合部に一対のT字状断面の接合金物(所謂スプリットティー)を接合した上で、該接合金物と梁の上下フランジの端部とを高力ボルト等によってボルト接合する形式などを適用することができる。」 「【0034】 本住宅は、図1、2に示す複数の平面グリッドを有する総3階の建築物であり、図2に示すように、基本架構は、1層から3層まで連続した通し柱形式の複数の柱1と、各階層において隣接する柱1どうしを連結する複数の大梁2とからなり、桁行き方向が3スパン、妻方向が2スパンで、合計6つの平面グリッドにより構成され、格子状に連続した基礎3の上部に構築されている。なお、柱脚部は特開平01-203522号公報に開示された露出型固定柱脚工法にて基礎に接合されている。」 「【0036】 図3に示すように、柱1に接合される大梁2はH形鋼からなり、全ての階層における全ての大梁2は梁成が250mm、上下フランジの幅が125mm、上下フランジの厚みが9mm、ウェブの厚みが6mmに統一されている。大梁2の柱1との接合部は、大梁2の両端部に溶接された接合プレート2aによって構成されている。接合プレート2aには、横方向には中心から左右対称に2列、縦方向には等間隔に4段、同一径の孔2bが計8箇所穿たれている。孔2bのうち上部2段と最下段の孔計6個が柱1との接合に使用するボルト4を挿通する為の孔である。なお、下から2段目の孔2個は接合作業の際「シノ」を挿し込んで位置合わせを行う為の孔であり、柱と梁との接合には使用しない。上記構成は寸法も含め全ての階層の全ての大梁2に共通している。 【0037】 図4に示すように、柱1は、外形寸法が150mm角の角形鋼管からなる通し柱となっている。柱脚プレート1aの接合部から中途部分に形成された柱・柱接合部1bまでの下層部(下部柱1cとする)は、22mm肉厚を有する継目無の角形鋼管(即ち鋼管の横断面内に溶接による継目が存在しないシームレスパイプ)で長さ方向について接合部を有することなく構成されている。これより上部の上層部(上部柱1dとする)は、外形寸法は下部柱1cと同一ではあるが下部柱1cよりも薄い4.5mm乃至6.0mmの肉厚を有する角形鋼管で構成されている。従って、下部柱1cの肉厚は大梁2のフランジの厚みの約2.44倍に設定されていることになる。一般に柱として使用される150mm角の鋼管の肉厚は4.5mmから12mmの範囲であり、下部柱1cはかなり厚肉の構成となっている。 【0038】 柱1は、各階層の標準的な階高(大梁上端面間の離間寸法)が3000mm程度となるように大梁2の基準接合レベルが設定されている。柱1の全ての面には各階大梁2の基準接合レベルに合わせて、フランジ面の所定高さに大梁2の接合プレート2aの孔2bに対応するようにネジが切られたボルト接合用の孔1hが穿たれて大梁2との梁接合部(第1の梁接合部)1e1、1f1、1g1が形成されている。なお、大梁2の孔2bと同様に上部2段と最下段の孔計6個が大梁2と接合するボルト4を螺入する孔であり、下から2段目の2個の孔は位置合わせ用の孔である。」 「【0042】 下部柱1cを構成する角形鋼管の肉厚は、前述したように大梁2の端部に最も大きな曲げモーメントが作用し、ボルトに最も大きな引抜力が作用する接合レベルにおいて下記手順により構造安全性の確認がなされている。 【0043】 (1) 所定の材料強度と断面寸法を有する大梁2に対して保有耐力接合(柱との接合部の崩壊が大梁の崩壊に先行しないような接合)を満足するボルト4の引抜力を求める。 (即ち、梁の崩壊がはじまる時点での、最も大きな引抜力の作用する上端および下端のボルト4の引抜力を求める。) (2) 求めたボルト4の引抜力に基づいて柱の断面を仮定する。 【0044】 (3) 3階大梁接合部の第3の梁接合部1f3に3階大梁2を接合した状態を想定して応力を計算し、部材応力が許容値以下であることを確認する。 【0045】 大梁2と柱1とは図3に示すように実公平5-575号公報に開示された高力ボルト4によりボルト接合されている。」 第4 対比 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「鋼材製の柱と鋼材製の梁とからなる鉄骨構造物」は、「架構」といえるものであって、また、引用発明の「方杖17」は、その構成要素である座屈拘束ブレースが、地震エネルギーを吸収し、構造物の振れを減少させて、柱と梁の変形を防止するものであるから(上記第3の1(2)を参照)、柱と梁とからなる構造を補強するものであるといえるので、引用発明の「鋼材製の柱と鋼材製の梁とからなる鉄骨構造物における柱と梁の接合構造」は、本願発明の「架構の補強構造」に相当するといえる。また、引用発明の「方杖」は、本願発明の「方杖材」に相当するから、引用発明の「方杖17を架設した」ことは、本願発明の「方杖材を架設して補強された」ことに相当するといえる。 また、引用発明の「鋼材製の柱」と「鋼材製の梁」は、本願発明の「鋼材からなる柱」と「鋼材からなる梁」にそれぞれ相当する。 さらに、引用発明の「前記柱11と梁12との接合は、剛接又は半剛接により接合されている」ことは、本願発明の「前記柱梁接合部は、前記柱と梁とを剛接合又は半剛接合して形成される」ことに相当するといえる。 したがって、両者は、次の一致点で一致し、相違点で相違する。 (一致点) 鋼材からなる柱と梁とを接合してなる柱梁接合部の近傍に、前記柱と梁とに亘って方杖材を架設して補強された架構の補強構造であって、前記方杖材は、前記柱及び梁よりも先に降伏に至るものであって、前記柱梁接合部は、前記柱と梁とを剛接合又は半剛接合して形成される、架構の補強構造。 (相違点) 本願発明は、柱梁接合部は「柱及び梁の全塑性耐力を上回る耐力を有する保有耐力接合とされている」のに対し、引用発明は、そのような構成を有しているか不明である点。 第5 判断 1 引用例3に記載の事項について 引用例3には、上記第3の3で摘記したように、鉄骨造架構における柱と梁との接合部構造に関するもので(ア 段落【0001】)、鉄骨構造における柱と梁との接合部を簡易かつ高い品質をもって構成することができ、更に、一部の梁の接合レベルの変更にも容易かつ低コストで対応することが可能な柱と梁との接合部構造を提供することを目的とするものであって(イ 段落【0009】)、柱と梁との接合部に関して、柱と梁とをボルト接合によって剛接合すること(ウ 段落【0031】)が記載されているといえる。 また、引用例3には、柱と梁との接合部に関して、「下部柱1cを構成する角形鋼管の肉厚は、前述したように大梁2の端部に最も大きな曲げモーメントが作用し、ボルトに最も大きな引抜力が作用する接合レベルにおいて下記手順により構造安全性の確認がなされている。」(ウ 段落【0042】)及び「所定の材料強度と断面寸法を有する大梁2に対して保有耐力接合(柱との接合部の崩壊が大梁の崩壊に先行しないような接合)を満足するボルト4の引抜力を求める。(即ち、梁の崩壊がはじまる時点での、最も大きな引抜力の作用する上端および下端のボルト4の引抜力を求める。)」(ウ 段落【0043】)とも記載されており、当該記載からは、柱と梁との接合部は、梁に対して保有耐力接合されている、言い換えると、柱と梁の接合部の崩壊が梁の崩壊に先行しないように接合されているといえる。 したがって、引用例3には、 「鉄骨造架構における柱と梁との接合部構造において、柱と梁とを剛接合し、柱と梁との接合部は、梁に対して保有耐力接合されている(言い換えると、柱と梁の接合部の崩壊が梁の崩壊に先行しないように接合されている)こと」(以下、引用例3記載の技術事項」という。) が記載されているといえる。 ところで、本願明細書には、「柱梁接合部は、接合される柱および梁の全塑性耐力を上回る耐力を有しているので、柱や梁よりも先んじて接合部が破壊されることはなく」(段落【0008】)と記載されており、また、引用例3に記載されているような、柱と梁の接合部の崩壊(「破壊」に相当)が梁の崩壊に先行しないように接合されている構造においては、構造設計における合理性を考慮すると(引用例3の段落【0024】を参照。)、柱と梁の接合部の崩壊は柱の崩壊よりも先行しないようにするものと解されるから、引用例3記載の技術事項の「柱と梁との接合部は、梁に対して保有耐力接合されている(言い換えると、柱と梁の接合部の崩壊が梁の崩壊に先行しないように接合されている)こと」は、柱梁接合部は、接合される柱及び梁の全塑性耐力を上回る耐力を有する保有耐力接合とされていることに相当するといえる。 なお、仮にそう言えないとしても、引用例3に接した当業者であれば、柱と梁の接合部の崩壊は梁や柱の崩壊よりも先行しないようにすることは、容易に着想し得ることであるといえる。 2 容易想到性について 同一又は関連する技術分野に置換可能なあるいは付加可能な技術手段があるときは、当業者がその適用を容易に着想し得るといえるところ、引用発明と引用例3に記載の技術事項とは、ともに鉄骨構造物、及びその柱と梁の接合構造に関する技術分野に属するものであり、また、引用発明においても、柱と梁の接合構造、柱と梁からなる構造物(架構)の耐震性能及び制振性能を向上させるとの課題が存在しているといえるから、引用発明に引用例3記載の技術事項を適用して、柱梁接合部を、接合される柱及び梁の全塑性耐力を上回る耐力を有する保有耐力接合とすること、すなわち本願発明の相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることといえる。 3 効果について 本願発明の作用効果は、引用発明及び引用例3に記載の技術事項の作用効果からみて、当業者が予測し得る程度のものである。 4 審判請求人の主張について 審判請求人は、引用例2には、「方杖材が柱及び梁よりも先に降伏に至る」構成について開示が無く、更に、引用例1及び3にも上記構成についての開示は一切存在しない旨を主張している。 しかしながら、審判請求人の主張は以下のとおり採用できない。 (1)引用例1について 先に説示したように、方杖材が柱及び梁よりも先に降伏に至る構成は、引用例1に記載されているといえる。 (2)引用例2について 引用例2には、上記第3の2で摘記したように、柱1と梁2の架構面内に接合部材3を介して制振部材4を連結するものであって(ア 段落【0008】)、制振部材4は、柱1と梁2との接合部の近傍に、柱1と梁2とに亘って方杖の態様で架設されるもので(エ 段落【0015】、及びオ 図4)、制振部材4の構成要素である鋼管5が早期に降伏して大きく塑性変形するので、地震等のエネルギーを効果的に吸収して優れた制振性能を発揮すること(ア 段落【0009】)が記載されている。 そして、引用例2に記載の「制振部材4」は、柱1と梁2との接合部の近傍に、柱1と梁2とに亘って方杖の態様で架設されているから、本願発明の「方杖材」に相当するといえるので、引用例2には、柱1と梁2との接合部の近傍に、柱1と梁2とに亘って制振部材4である方杖材が架設された構造が記載されているといえる。 また、引用例2において、制振部材4の構成要素である鋼管5は、早期に降伏して大きく塑性変形して、地震等のエネルギーを効果的に吸収するものであるから、制振部材4である方杖材は、構造物(言い換えると、架構)を構成する柱1と梁2より先に降伏することは、地震等のエネルギーを効果的に吸収して優れた制振性能を発揮するとの制振構造を採用することの意義を踏まえれば明らかであるといえる。 (3)本願明細書の先行技術について 本願明細書の段落【0003】,【0004】には、方杖材を降伏させて塑性変形させることで地震エネルギーを吸収させることが、本願出願前から知られていることとして記載されている。 (4)まとめ 方杖材が柱及び梁よりも先に降伏に至る構成は、引用例1に記載されているといえる。 また、上記(2),(3)のとおり、方杖材が柱及び梁よりも先に降伏に至る構成は、本願出願前から周知であるともいえるので、そのような構成を採用したことに進歩性があるとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例3(又は引用例2,3)に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-03-13 |
結審通知日 | 2015-03-17 |
審決日 | 2015-03-30 |
出願番号 | 特願2009-230122(P2009-230122) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(E04B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 星野 聡志 |
特許庁審判長 |
中川 真一 |
特許庁審判官 |
竹村 真一郎 小野 忠悦 |
発明の名称 | 架構の補強構造 |
代理人 | 西本 博之 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 池田 正人 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 城戸 博兒 |