• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1300969
審判番号 不服2013-24076  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-06 
確定日 2015-05-13 
事件の表示 特願2009-540363「浮く合成画像を含むユーザーインターフェース」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月12日国際公開,WO2008/070401,平成22年 4月15日国内公表,特表2010-511916〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2007年11月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年12月4日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成21年6月4日に明細書及び特許請求の範囲の日本語による翻訳文が提出され,平成22年11月9日に手続補正書が提出され,平成24年7月31日付けで拒絶理由が通知され,同年12月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成25年7月31日付けで拒絶査定がなされたところ,同年12月6日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。


第2 補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成25年12月6日提出の手続補正書による手続補正を却下する。

〔理由〕
1 補正の内容
平成25年12月6日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は,特許法184条の6第2項の規定により「願書に添付して提出した特許請求の範囲」とみなされる「特許請求の範囲の日本語による翻訳文」(以下,「明細書の日本語による翻訳文」及び「特許請求の範囲の日本語による翻訳文」をそれぞれ「明細書」及び「特許請求の範囲」という。)について補正しようとするもので,そのうち,請求項1に係る補正は次のとおりである。(下線は補正箇所を示す。)
(1)本件補正前(平成24年12月20日提出の手続補正書による手続補正後)の請求項1
「マイクロレンズの少なくとも1つの層であって,前記層が,第1の側及び第2の側を有する層と,
前記マイクロレンズの層の前記第1の側に隣接して配置された材料層と,
複数の前記マイクロレンズそれぞれと関連付けられた前記材料内に形成された少なくとも部分的に完全な画像であって,前記画像が,前記材料と対照をなす画像と,
を含むシートと,
肉眼には前記シートより上に第1の距離で浮いているように見える,前記個々の前記画像によって提供される第1の合成画像と,
肉眼には前記シートより上に第2の距離で浮いているように見える,前記個々の前記画像によって提供される第2の合成画像と,
を含み,
前記第1の距離及び第2の距離がほぼ同じ距離であり,前記第1の合成画像及び第2の合成画像が同じタスク又は心的操作に関連する,ユーザーインターフェース。」

(2)本件補正後の請求項1
「マイクロレンズの少なくとも1つの層であって,前記層が,第1の側及び第2の側を有する層と,
前記マイクロレンズの層の前記第1の側に隣接して配置された材料層と,
複数の前記マイクロレンズそれぞれと関連付けられた前記材料内に形成された少なくとも部分的に完全な画像であって,前記画像が,前記材料と対照をなす画像と,
を含むシートと,
肉眼には前記シートより上に第1の距離で浮いているように見える,前記個々の前記画像によって提供される第1の合成画像と,
肉眼には前記シートより上に第2の距離で浮いているように見える,前記個々の前記画像によって提供される第2の合成画像と,
を含み,
前記第1の距離及び第2の距離がほぼ同じ距離であり,前記第1の合成画像及び第2の合成画像が同じタスク又は心的操作に関連し,前記第1の合成画像と前記第2の合成画像との間の距離が,所与のユーザーインターフェースの長さ又は幅の4分の1以内である,ユーザーインターフェース。」

2 新規事項の追加及び補正の目的について
本件補正により請求項1に付加された,「第1の合成画像と第2の合成画像との間の距離が,所与のユーザーインターフェースの長さ又は幅の4分の1以内である」点は,本願の「願書に最初に添付した明細書」(平成22年11月9日提出の手続補正書による手続補正前の「明細書の日本語による翻訳文」のこと。以下,前記手続補正前の「明細書の日本語による翻訳文」を「当初明細書」といい,前記手続補正前の「明細書の日本語による翻訳文」,「特許請求の範囲の日本語による翻訳文」及び「図面」をあわせて「当初明細書等」という。)の【0076】に記載されているから,本件補正は,本願の当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされた補正であって,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしている。
また,本件補正後の請求項1に係る前記補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項である「第1の合成画像」及び「第2の合成画像」について,両者間の距離が「所与のユーザーインターフェースの長さ又は幅の4分の1以内である」であることを限定するものであって,本件補正の前後で当該請求項に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であると認められるから,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)について,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか)について以下で検討する。

3 独立特許要件について
(1)本願補正発明
本願補正発明は,前記1(2)にて示したとおりのものと認める。

(2)引用例
ア 特表2003-524205号公報(以下「引用刊行物」という。)は,原査定の拒絶の理由において「引用文献1」として引用された,本願の優先権主張の日(以下「本願優先日」という)前に頒布された刊行物であって,当該引用刊行物には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 a.第一および第二側面を有する少なくとも一つのマイクロレンズ層,
b.マイクロレンズ層の第一側面に近接して配置される材料層,
c.複数のマイクロレンズのそれぞれと結びついた材料中に形成された,材料とともにコントラストを有する少なくとも部分的に完全な画像,および
d.肉眼にシート材料の上または下,あるいは両方に浮いていると見える,個々の画像により提供される合成画像,
を含むシート材料。」

(イ)「【0007】
発明の概要
本発明はシート材料の上または下に浮かんで現れる合成画像を有するマイクロレンズシート材料を提供する。これらの浮かんだ画像は便宜上浮遊画像と呼ばれ,それらはシート材料の上または下に位置することができる(2次元または3次元画像のいずれかとして)か,またはシート材料の上,平面中,または下に現れる3次元画像であることができる。画像は黒および白またはカラーであり得て,観察者と共に動くように出現することができる。いくつかのホログラフィックシート材料とは違って,本発明の画像化シート材料はそれ自体の複製を創造することはできない。さらに,浮遊画像(複数も含む)は見る人の肉眼により観察することができる。
【0008】
記載したような合成画像を有する本発明のシート材料は,パスポート,IDバッジ,イベント許可証,アフィニティ・カード,製品識別形式,および検証および認証用広告宣伝における安全で不正操作のできない画像,ブランドの浮遊性または沈下性または浮遊性および沈下性画像を提供するブランド高揚画像,パトカー,消防自動車または他の緊急用車両のための紋章などのグラフィック用途における識別表示画像;キオスク,夜間電光表示および自動車ダッシュボード表示などのグラフィック用途における情報表示画像;およびビジネスカード,下げ札,美術品,靴およびビン製品などの製品上の合成画像の使用を通しての新規性強調などの多様な用途において用いることが可能である。」

(ウ)「【0010】
本発明の詳細な説明
本発明のマイクロレンズシート材料は,シート材料の上,平面中,および/または下に浮かぶか,または浮遊して現れ,多くのマイクロレンズと結びついた個々の画像により供給される合成画像を提供する。
【0011】
本発明の完全な説明を提供するために,マイクロレンズシート材料を以下のパートIで説明し,次にこうしたシート材料の材料層(好ましくは,感光材料層)をパートIIで,照射源をパートIIIで,画像化法をパートIVで説明する。いくつかの実施例も,本発明の種々の実施形態をさらに説明するために提供される。
【0012】
I.マイクロレンズシート材料
本発明の画像を形成することができるマイクロレンズシート材料は,マイクロレンズ層またはそれらの複数層の一つの側面に近接して配置される材料層(以下に記載するように,好ましくは感光材料または皮膜)を持つマイクロレンズの1以上の個別層を含む。例えば,図1は,一般的に高分子材料である結合剤層14中に部分的に埋め込まれた透明微小球12の単層を含む「レンズ露出」型マイクロレンズシート材料10を示す。微小球は,材料層を画像化するために用いることが可能である照射波長,および合成画像が中で見られる波長の両方に対して透過性である。材料層16は各微小球の後部表面で処置され,また,説明のための実施形態において,一般に,微小球12のそれぞれの表面の一部分のみに接触する。この型のシート材料は米国特許第2,326,634号においてより詳細に記載されており,現在,3M社からScotchlite8910シリーズ反射性布帛のブランド表示の下で市販されている。
・・・(中略)・・・
【0018】
II.材料層
上述のように,材料層はマイクロレンズに近接して提供される。観察者により反射または透過光下で見られる場合,複数のマイクロレンズと結びついた材料中に形成される個々の画像は,シート材料の上,平面上,および/または下に現れる合成画像を提供する。他の方法も用いることが可能であるが,こうした画像を提供するための好ましい方法は感光材料を材料層として提供し,光照射を用いてその材料を望ましいやり方において画像を提供するように変更することである。従って,本発明はそれによって限定されないが,マイクロレンズに近接する材料層の残っている課題は感光材料層に大きく関連して提示される。
【0019】
本発明に有用な感光材料には,金属,高分子および半導体材料およびこれらの混合物の皮膜およびフィルムが挙げられる。本発明に関連して用いられるように,所定レベルの可視光線または他の光の照射にさらされると露出された材料の様子が変化してその照射にさらされなかった材料とのコントラストを提供する場合に,材料は「感光性」である。従って,それによって創造された画像は,組成的変化,材料の除去またはアブレーション,相変化,または感光皮膜の重合の結果であり得る。いくつかの感光金属フィルム材料の例には,アルミニウム,銀,銅,金,チタン,亜鉛,錫,クロム,バナジウム,タンタル,およびこれら金属の合金が挙げられる。これらの金属は,一般に,金属本来の色と光への露出後の金属変性色間の差異によるコントラストを提供する。画像は,また,上述のようにアブレーションによるか,または画像が材料の光学的変性により提供されるまで材料を加熱する照射によって提供することが可能である。例えば,米国特許第4,743,526号には金属合金を加熱して色変化を提供することが記載されている。
・・・(中略)・・・
【0024】
III.照射源
上述のように,マイクロレンズに近接する材料層上に画像パターンを提供する好ましいやり方は,感光材料を画像化するために照射源を用いることである。望ましい輝度および波長の照射を提供するあらゆるエネルギー源が,本発明の方法により用いることができる。200nm?11マイクロメートルの間の波長を有する照射を提供することができる素子は特に好ましいと信じられる。本発明に有用な高ピーク電力照射源の例には,エキシマーフラッシュランプ,無抵抗Q-スイッチ型マイクロチップレーザー,およびQ-スイッチ型ネオジムドープ-イットリウムアルミニウムガーネット(Nd:YAGと短縮される),ネオジムドープ-イットリウムリチウムフッ化物(Nd:YLFと短縮される)およびチタンドープ-サファイア(Ti:サファイアと短縮される)レーザーが挙げられる。これらの高ピーク電力源は,アブレーション-材料の除去を通して,または多光子吸収工程において画像を形成する感光材料により最も有用となる。有用な照射源の他の例には,半導体レーザー,イオンレーザー,非Q-スイッチ型固体レーザー,金属蒸気レーザー,ガスレーザー,アーク灯などの低ピーク電力および高電力白熱光源を与える素子が挙げられる。これらの供給源は,感光媒体が非アブレーション的方法により画像化される場合に特に有用である。
【0025】
すべての有用な照射源に対して,照射源からのエネルギーはマイクロレンズシート材料に向けて当てられ,エネルギーの高度分散光を与えるように制御される。電磁スペクトルの紫外線,可視,および赤外線部分におけるエネルギー源のために,光線は適切な光学的要素により制御され,これらの例は図14,図15,および図16に示されると共に,以下により詳細に説明される。一つの実施形態において,通常光学系列と呼ばれる光学的要素のこの配列の要求事項は,光学系列が所期の角度でマイクロレンズおよび結果として材料層を照射するように適切な発散または散らばりを伴ってシート材料に向け光線を当てることである。本発明の合成画像は,好ましくは,0.3以上の開口数(最大分散光の半角のサインとして定義される)を持つ光発散素子を用いることにより得られる。より大きな開口数を持つ光発散素子は,より大きな視角,およびより大きな範囲の画像仮現運動を有する合成画像を生成する。
【0026】
IV.画像化法
本発明による代表的な画像化法は,レンズを通してのレーザーからの平行光線をマイクロレンズシート材料に向けて方向付けることから成る。さらに以下に説明するように,浮遊画像を有するシート材料を創造するために,光線は高開口数(NA)を持つ分散レンズを通して透過されて高度に分散された光の円錐体を生成する。高NAレンズとは0.3以上のNAを有するレンズである。微小球の照射感光皮膜側は,光円錐体の軸(光学軸)がマイクロレンズシート材料の平面に垂直であるように,レンズからの位置を合わせる。
【0027】
個々のマイクロレンズはそれぞれ光学軸に対して独特な位置を占めるので,各マイクロレンズに侵入する光線は互いのマイクロレンズ上に入射する光に比べて独特の入射角を有する。従って,光は各マイクロレンズにより材料層上の独特な位置に透過され,独特の画像を生成する。さらに正確には,単一光パルスは材料層上に単一の画像化ドットしか生成しないので,そこで隣接する各マイクロレンズの画像を提供するために,多パルス光を用いて多画像化ドットからの画像を創造する。各パルスに対して,光学軸は前パルス間の光学軸の位置に比べて新しい所に位置付けられる。これらのマイクロレンズに対する光学軸位置の連続的な変化は,対応した各マイクロレンズ上への入射角,および,従ってそのパルスにより材料層中に創造された画像化ドットの位置の変化をもたらす。結果として,微小球の裏側に収束する入射光は,感光層中の選択されたパターンを画像化する。各微小球の位置がすべての光学軸に対して独特であるので,各微小球に対して感光材料中に形成される画像はすべての他の微小球に関係する画像とは異なる。
【0028】
浮遊合成画像を形成するための別の方法は,レンズアレーを用いて高度に分散された光を生成してマイクロレンズ化材料を画像化することである。レンズアレーは,すべてが平面空間に整列された高開口数を持つ多数の小レンズから成る。アレーが光源により照射される場合,アレーは多錐体の高度に分散された光を生成し,それぞれ個々の錐体はアレー中のその対応レンズに集中する。アレーの物理的寸法は合成画像の最大の横サイズを収容できるように選択される。アレーサイズによって,小型レンズにより形成される個々のエネルギー錐体は,あたかも個々のレンズが光パルスを受けている間アレーのすべての点で順次位置付けられているかのようにマイクロレンズ化材料を露光する。どのレンズが入射光を受け取るかの選択は反射マスクの使用によって生じる。このマスクは,露光されようとする合成画像部分に対応する透過面および画像が露光されるべきでない反射面を有する。レンズアレーの横方向範囲のせいで,画像を追跡するために多光パルスを用いることは必要ない。
【0029】
マスクを入射エネルギーで十分に照射させることにより,エネルギーが通過することを可能とするマスクの部分は,あたかも画像が単一レンズにより追跡されたかのように浮遊画像の輪郭を描く高度に分散された光の多くの個別の錐体を形成する。結果として,単一光パルスのみがマイクロレンズシート材料中の全体合成画像を形成するために必要とされる。あるいは,反射マスクの代わりに,電流測定xyスキャナーなどの光線位置付けシステムが局部的にレンズアレーを照射しアレー上に合成画像をなぞることができる。この技術によりエネルギーが空間的に局限されるので,アレー中の少しの小型レンズのみがいかなる所定の時間においても照射される。照射される小型レンズは,マイクロレンズ化材料を露光してシート材料中に合成画像を形成するために必要とされる高度に分散した光の円錐体を提供する。
【0030】
レンズアレーそれ自体は個別小型レンズから,またはエッチング法によりレンズのモノリシックアレーを生成することにより製作することができる。レンズに適する材料は,入射エネルギーの波長において非吸収性であるものである。アレー中の個々のレンズは,好ましくは,0.3より大きい開口数および30マイクロメートルより大きく10mmより小さい直径を有する。これらのアレーは,反射防止皮膜を有してレンズ材料への内部損傷を引き起こし得る背面反射の影響を減少させることが可能である。加えて,有効な負の焦点距離およびレンズアレーに相当する寸法を有する単一レンズも,アレーを離れる光の発散を増大するために用いることが可能である。モノリシックアレー中の個々の小型レンズの形状は,高開口数を有し,約60%を超える大きな充填比を提供するために選択される。
【0031】
図4はマイクロレンズシート材料に侵入する発散エネルギーの図式的な略図である。画像Iが上または中で形成される材料層の部分は,各マイクロレンズが異なる視界から入射エネルギーを「見る」ので,各マイクロレンズに対して異なる。従って,独特の画像は各マイクロレンズと結びつく材料層中に形成される。
【0032】
画像化後,拡大対象物の寸法に応じて,対象物の完全なまたは部分的な画像が各微小球の後ろの感光材料中に存在する。実際の対象物が微小球の後ろで画像として再生産される程度は,微小球上に入射するエネルギー密度に応じて決まる。拡大対象物の部分は,それらの微小球上に入射するエネルギーがその材料を修正するために必要とされる照射レベルよりも低いエネルギー密度を有するようにマイクロレンズの領域から十分な距離を取ることが可能である。さらに,空間的に拡大された画像に対して,固定NAレンズにより画像化する場合,シート材料のすべての部分が拡大対象物のすべての部分に対する入射光にさらされるとは限らない。結果として,対象物のそれらの部分は感光媒体中では修正されなくて,対象物の部分画像のみが微小球の後ろに現れる。図5は個々の微小球に近接する感光層中に形成される標本画像を表すマイクロレンズシート材料の断面透視図であり,さらに,記録された画像は合成画像の完全な複製から部分的な複製までの範囲にあることを示す。図6および図7は本発明により画像化されたマイクロレンズシート材料の光学顕微鏡写真であり,感光層はアルミニウム層である。その中に示されるようにいくつかの画像は完全であり,他は不完全である。
【0033】
これらの合成画像は,不完全および完全の両方であり,すべて実際の対象物から異なる視界を持つ多くの画像を一緒に総合化した結果と考えることもできる。多くの独特の画像は,それらのすべてが対象物を「見る」かまたは異なる視界から画像化するミニチュアレンズのアレーを通して形成される。個々のミニチュアレンズの後ろで,画像の形状およびそこから画像化エネルギー源を受け取る方向に依存する画像の透視図が材料層中に創造される。しかし,レンズの見るすべてのものが感光材料中に記録されるわけではない。レンズにより見られる画像または対象物の内,感光材料を修正するために十分なエネルギーを有する部分のみが,記録される。
【0034】
画像化しようとする「対象物」は,「対象物」の外形を描くことかまたはマスクの使用のいずれかにより強い光源の使用を通して形成される。こうして記録されて合成態様を有する画像のために,対象物からの光は広範囲の角度にわたり照射されねばならない。対象物から照射される光が対象物の単一点から来ると共に,広範囲の角度にわたり照射する場合,すべての光線は対象物についての情報を運んでいるが,しかし,情報は光線の視角からのものであるが,その単一点からのみのものである。今,光線により運ばれる通りの対象物に関する比較的完全な情報を得るために,光は対象物を構成する点の収集から広範囲の角度にわたり照射しなければならないことを考察する。本発明において,対象物から発散する光線の角度の範囲は,対象物とマイクロレンズ材料の間に置かれた光学要素により制御される。これらの光学要素は合成画像を生成するために必要な最適範囲の角度を与えるように選択される。光学要素の最善の選択は光の円錐体をもたらし,それによって円錐体の頂点は対象物の位置で止まる。最適円錐角度は約40度より大きい。
【0035】
対象物はミニチュアレンズにより縮小され,対象物からの光はミニチュアレンズの裏側に接触するエネルギー感光皮膜上に収束される。収束点またはレンズの裏側での画像の実際の位置は,対象物から生じる入射光線の方向に応じて決まる。対象物上の点から発散する光の各円錐体はミニチュアレンズの一部を照射し,十分なエネルギーにより照射されたミニチュアレンズのみが対象物のその点の恒久的な画像を記録する。
【0036】
幾何光学は,本発明による種々の合成画像の形成を説明するために用いられる。前述のように,以下に記載される画像化法が本発明の好ましいが排他的ではない実施形態である。
【0037】
A.シート材料の上に浮遊する合成画像を創造すること
図8に関して,入射エネルギー100(本例においては光)は,光源中のあらゆる非均一性を均質化するために光拡散器101上に導かれる。拡散的に散乱された光100aは光コリメータ102により捕捉され平行化され,光コリメータ102は均一に分布した光100bを分散レンズ105aに導く。分散レンズから,光線100cがマイクロレンズシート材料106に向けて分散していく。
【0038】
マイクロレンズシート材料106に侵入する光線のエネルギーは個々のマイクロレンズ111により材料層(説明のための実施形態中の感光皮膜112)上に収束される。この収束されたエネルギーは感光皮膜112を修正して,光線と感光皮膜間の相互作用に応じて決まる画像,サイズ,形状,および外見を提供する。
【0039】
図8に示す配置は,レンズを通して後ろ側に延長する場合に分散光100cが分散レンズの焦点108aで交差するであろうから,以下に説明するようにシート材料の上に浮遊するように観察者には見える合成画像を有するシート材料を提供するであろう。つまり,仮定の「画像線」が各微小球を通して材料層から描かれ分散レンズを通して逆行させられるならば,それらは合成画像が現れる場である108aで収束するであろう。
【0040】
B.シート材料の上に浮遊する合成画像を見ること
合成画像を有するシート材料は,観察者と同じ側(反射光),または観察者とはシート材料の反対側(透過光),または両方からシート材料に侵入する光を用いて見ることが可能である。図9は,反射光下で見る場合観察者Aの肉眼にシート材料の上に浮いて見える合成画像の略図である。肉眼は正常な視覚に直すことが可能であるが,しかし,例えば拡大または特別のビュアによって助けてもらえるものではない。画像化シート材料が平行化または拡散することが可能である反射光により照射される場合,光線は,光線が衝突した材料層により決定されるやり方で画像化シート材料から逆反射される。定義により,材料層中に形成される画像は材料層の非画像化部分とは違って見え,従って画像は認知することができる。
【0041】
例えば,光L1は材料層により反射されて観察者に向かって戻ってくることが可能である。しかし,材料層は光L2をそれらの画像化部分から観察者に向けて反射して戻すことはうまくできないか,または全くできない。従って,観察者は,108aでのそれらの集積が108aでシート材料の上に浮くように見える合成画像を創造する光線がないことを認知することが可能である。簡単に言えば,光は画像化部分を除く全体シート材料から反射することが可能であり,このことは比較的暗い合成画像が108aで現れることを意味する。
【0042】
非画像化材料が入射光を吸収するかまたは透過させること,および画像化材料が合成画像を提供するために必要とされる対照効果を提供するために入射光をそれぞれ反射するかまたは部分的に吸収することもまた可能である。それらの環境下での合成画像は,比較的暗く見えるであろうシート材料の残分と比較して比較的明るい合成画像として見られるであろう。焦点108aで画像を創造するものが実際の光であり,光の不在ではないので,この合成画像は「実際の画像(リアルイメージ)」と呼ぶことが可能である。これら可能性をもった種々の組合せは要望通りに選択することができる。
【0043】
ある種の画像化シート材料は,また,図10に見られるように透過光により見ることができる。例えば,材料層の画像化部分が半透明であり,非画像化部分がそうでない場合,次に大部分の光L3は材料層により吸収されるかまたは反射されるが,一方で透過光L4は材料層の画像化部分を通過し,マイクロレンズにより焦点108aに向けて進む。合成画像は焦点で見られ,それは本実施例においてシート材料の残分よりも明るく見られる。焦点108aで画像を創造するものが実際の光であり,光の不在ではないので,この合成画像は「実際の画像」と呼ぶことが可能である。
【0044】
あるいは,材料層の画像化部分が半透明でないがしかし材料層の残分がそうである場合,次に,画像部分における透過光の不在はシート材料の残分よりも暗く見える合成画像を提供する。
【0045】
C.シート材料の下に浮遊する合成画像を創造すること
観察者から反対側のシート材料上に浮遊するように見える合成画像も提供することが可能である。シート材料の下に浮くこの浮遊画像は,図8に示す発散レンズ105の代わりに収束レンズを用いることにより創造することができる。図11に関して,入射エネルギー100(本例においては光)は,光源中のあらゆる非均一性を均質化するために光拡散器101上に導かれる。散乱光100aは次に光コリメータ102中に収集,平行化され,光コリメータ102は光100bを集束レンズ105bに導く。集束レンズから,光線100dが収束レンズと収束レンズの焦点108bの間に置かれるマイクロレンズシート材料106上に入射する。」

(エ)「【0064】
実施例3
この実施例は,単一非球面レンズの代わりにレンズアレーを用いて,アルミニウム感光層を持つレンズ露出シート材料中に合成画像を形成することを説明する。浮遊合成画像を形成するために,図15に示す型の光学系を用いた。光学系は,Q-スイッチ型レーザー300,99%反射型ミラー302,光学拡散器304,およびビーム拡大望遠鏡306から成った。この実施例において用いた光学系のこれらの構成要素は実施例1に記載されているものと同じである。また,この実施例の光学系中に含まれるものには,2次元レンズアレー407,反射マスク409および負の双凹レンズ411があった。反射マスク409の面は,レーザー照射にさらされようとするマイクロレンズ化材料412の面と合致するように透過性であり,一方残りのマスクの表面は半透過性または反射性であった。レンズアレー407は,アラバマ州,ハンツビルのMEMS Optical,LLCから3038のブランドで市販されている石英ガラス反射型マイクロレンズアレーから成った。この密に充填された球面レンズアレーを,直径75mmおよび焦点距離マイナス150mmを有する負の双凹レンズ411とほとんど接触するように置いた。80nm厚さのアルミニウム感光層を持つレンズ露出シート材料412を,負の双凹レンズ411の25mm内に置いた。マイクロレンズ化材料を,マイクロレンズアレーおよび負の双凹レンズの組合せ光学通路の焦点距離から約1cmに置いた。レーザーからの出力を,マイクロレンズ化シート材料の露出レンズ表面の界面で約4mJ/cm^(2)が生成されるように調整した。単一レーザーパルスを活性化して全体画像に露光した。
【0065】
周辺光下で見る場合,得られた画像化マイクロレンズ化シート材料は,シート材料の上約1cmに浮いて見える画像を示した。画像は明るいグレー背景に対して暗いグレーに見えた。」

(オ)「【図1】



イ 前記ア(ア)ないし(オ)を含む引用刊行物の記載全体から,「レンズ露出型マイクロレンズシート材料」(【0012】の記載,【0064】に記載された実施例3)を,自動車ダッシュボード表示用途(【0008】)に用いたものについての発明を把握することができるところ,その構成は次のとおりのものと認められる。
「第一側面および第二側面を有する少なくとも一つのマイクロレンズ層と,マイクロレンズ層の第一側面に近接して配置される材料層とを含むシート材料であって,
前記マイクロレンズ層は,高分子材料である結合剤層14中に部分的に埋め込まれた透明微小球12の単層であり,
前記材料層は,所定レベルの可視光線または他の光の照射にさらされると露光された材料の様子が変化して露光されなかった材料とのコントラストを提供する感光材料によって形成され,かつ,前記各透明微小球12の後部表面に形成されたものであり,
露光されようとする合成画像部分に対応する透過面および画像が露光されるべきでない反射面を有するマスクを通過させる等の方法によって画像パターンとしたレーザーからの平行光線を,凹レンズを介して,前記マイクロレンズ層に照射することによって,複数のマイクロレンズのそれぞれと結びついた前記材料層中に,前記コントラストによる少なくとも部分的に完全な画像がそれぞれ形成されており,
当該各少なくとも部分的に完全な画像を前記各マイクロレンズを通して見ることで,肉眼にはシート材料の上に合成画像が浮いているように見える,
自動車ダッシュボード表示用途に用いたシート材料。」(以下「引用発明」という。)

(3)対比
ア 引用発明の「透明微小球12」,「マイクロレンズ層(透明微小球12の単層)」,「第一側面(透明微小球12の後部表面)」,「第二側面」,「材料層」,「少なくとも部分的に完全な画像」及び「シート材料」は,本願補正発明の「マイクロレンズ」,「マイクロレンズの層」,「第1の側」,「第2の側」,「材料層」,「少なくとも部分的に完全な画像」及び「シート」にそれぞれ相当する。

イ 引用発明の「マイクロレンズ層」は,「第一側面および第二側面を有する少なくとも一つのマイクロレンズ層」であるから,「マイクロレンズの少なくとも1つの層であって,前記層が,第1の側及び第2の側を有する層」であるという本願補正発明の「マイクロレンズの層」に係る発明特定事項に相当する構成を具備している。

ウ 引用発明の「材料層」は,各透明微小球12の後部表面すなわちマイクロレンズ層の「第一側面」(「第1の側」)に形成されたものであるから,「マイクロレンズの層の第1の側に隣接して配置された」という本願補正発明の「材料層」に係る発明特定事項に相当する構成を具備している。

エ 引用発明の「材料層」は,所定レベルの可視光線または他の光の照射にさらされると露光された材料の様子が変化して露光されなかった材料とのコントラストを提供する感光材料によって形成されたものであり,当該材料層中に形成された「少なくとも部分的に完全な画像」は,露光された材料と露光されなかった材料とのコントラストにより形成されたものであるところ,当該「少なくとも部分的に完全な画像」を「材料と対照をなす画像」ということができる。(なお,本願の請求項1における「材料と対照をなす画像」なる記載が指し示す内容は,本願の請求項1の記載からは必ずしも明らかでないが,本願に係る国際特許出願(PCT/US2007/84192,国際公開第2008/070401号)の特許請求の範囲の請求項1の該当箇所の記載及び引用刊行物に係る国際特許出願(PCT/US00/16954,国際公開第01/063341号)の特許請求の範囲の請求項1の該当箇所の記載は,ともに「wherein the image contrasts with the material」であるから,本願の請求項1に記載された「材料と対照をなす画像」とは,引用刊行物の請求項1に記載された「材料とともにコントラストを有する」画像のこと,すなわち,引用発明における「露光された材料と露光されなかった材料とのコントラストにより形成された」画像を意味するものと解されるし,もし仮に,そうではなく異なることを意味するのだとしても,引用発明の「少なくとも部分的に完全な画像」が「材料と対照をなす」という構成を有することは明らかである。)
したがって,引用発明の「少なくとも部分的に完全な画像」は,「材料と対照をなす画像」であるという本願補正発明の「少なくとも部分的に完全な画像」に係る発明特定事項に相当する構成を具備している。

オ 引用発明の「合成画像」は,複数のマイクロレンズのそれぞれと結びついた材料層中に形成された各少なくとも部分的に完全な画像を,各マイクロレンズを通して見ることで,肉眼にはシート材料の上に浮いているように見えるものであるから,本願補正発明の「第1の合成画像」及び「第2の合成画像」と,「肉眼にはシートより上に所定の距離で浮いているように見える,個々の少なくとも部分的に完全な画像によって提供される合成画像」である点で一致する。

カ 本願明細書の発明の詳細な説明の【0008】には,「特許請求の範囲を含めて本明細書で用語「ユーザーインターフェース」を使用する場合,この用語は,人間がそこから情報を受け取り,及び/又は対話できるように設計されたあらゆるインターフェースを意味する。例えば,ユーザーインターフェースは,自動車のダッシュボード,・・・(中略)・・・,又は,人間がインターフェースから情報を受け取る,若しくはそれと対話する他のあらゆるタイプのインターフェースに含まれる可能性がある。ユーザーインターフェースを有する自動車の計器パネルの例では,表示される情報のいくつかとして,自動車の速度,エンジンと関連する様々な警告灯,自動車の走行距離と関連するマイル数又はキロメートル数,タコメーター,方向指示灯,自動車の内部又はエンジンの温度,燃料計などを挙げることができる。」と記載されていることから,本願補正発明の「ユーザーインターフェース」とは,引用発明の「自動車ダッシュボード表示用途に用いたシート材料」を含む概念と認められる。
したがって,引用発明の「自動車ダッシュボード表示用途に用いたシート材料」は,本願補正発明の「ユーザーインターフェース」に相当する。

キ 前記アないしカから,本願補正発明と引用発明とは,
「マイクロレンズの少なくとも1つの層であって,前記層が,第1の側及び第2の側を有する層と,
前記マイクロレンズの層の前記第1の側に隣接して配置された材料層と,
複数の前記マイクロレンズそれぞれと関連付けられた前記材料内に形成された少なくとも部分的に完全な画像であって,前記画像が,前記材料と対照をなす画像と,
を含むシートと,
肉眼には前記シートより上に所定の距離で浮いているように見える,前記個々の前記画像によって提供される合成画像と,
を含む,ユーザーインターフェース。」
である点で一致し,次の点で一応相違する。

相違点:
本願補正発明では,「合成画像」として,同じタスク又は心的操作に関連する第1の合成画像及び第2の合成画像が存在し,両合成画像がシートよりほぼ同じ距離で浮いて見え,両画像の間の距離が,所与のユーザーインターフェースの長さ又は幅の4分の1以内であるのに対して,
引用発明では,「合成画像」として,そのような第1の合成画像及び第2の合成画像が存在することが特定されていない点。

(4)判断
ア 相違点の容易想到性について
(ア)自動車のダッシュボードが自車の速度を示す速度計(スピードメータ)を具備する必要があることは当業者に自明であるところ,当該速度計として,針が回転して数字や目盛りを指し示すことで自車の速度を表示するような構成のものは,本願優先日前に周知・慣用であった(例えば,特開2005-145298号公報の図1,国際公開第2005/018997号の図1,特開2004-17724号公報の図2等を参照。また,本願優先日前に市販された多くの自動車のダッシュボードが,針が回転して数字や目盛りを指し示すことで自車の速度を表示する速度計を有していたことは顕著な事実である。)と認められる。

(イ)引用発明における「自動車ダッシュボード」においても自車の速度を示す速度計(スピードメータ)を具備する必要があることが当業者に自明であるところ,「自動車ダッシュボード表示用途に用いたシート材料」である引用発明の合成画像を,前記(ア)で述べた周知・慣用の構成の速度計における「数字や目盛り」を含むものとして構成することは,例え明記がなくとも引用刊行物に記載されたも同然の事項であるか,少なくとも前記(ア)で述べた周知・慣用の事項に基づいて当業者が適宜なし得たことである。

(ウ)本願補正発明における「同じタスク又は心的操作に関連」する「第1の合成画像」及び「第2の合成画像」について,本願明細書の発明の詳細な説明には,【0083】に「同じタスク又は心的操作に関連する浮動画像は,シートより上又は下のどちらかの同じ面の中に浮いているように見えるはずであることが好ましい。対照的に,同じタスク又は心的操作に関連する画像が,ユーザーインターフェース表示装置の面より上又は下のどちらかの異なる面の中に見える場合,ユーザーが情報を処理することはより難しくなる。図14及び15はこの概念を説明する助けとなる。図14では,ユーザーインターフェース150はシート152を含む。シート152は,毎時マイル数(「mph」)及び毎時キロメートル数(「kph」)の両方の形態で情報を提示する,速度計を構成する複数の浮動画像154を含む。kph機能に関連する浮動画像154aは,シート152より上に浮いているように見える。mph機能に関連する浮動画像154cは,シート152より下に浮いているように見える。速度表示器は,浮動画像154bの形態であり,シート152の面の中に浮いているように見える。mph機能に関連する数字及び曲線並びにハッチマークは全て,シート152より下の同じ面の中に浮いているように見えている。kph機能に関連する数字及び曲線並びにハッチマークは全て,シート152より上の同じ面の中に浮いているように見えている。これは,浮動画像154a,154b,154cがそれぞれ同じタスク又は心的操作に関連する,具体的にはこの場合はkph機能に関連する一例である。浮動画像154cは,同じタスク又は心的操作に関連し,具体的にはこの場合はmph機能に関連する。」と記載され,【0084】に「図15は,同じタスク又は心的操作に関連する浮動画像が同じ面の中に浮いているように見えない場合を示す。図15は,mphと関連する数字10,20,40,60,90,及び100に関連する浮動画像154a,mphと関連する曲線及びハッチマークに関連する浮動画像,並びにkphと関連する数字0,40,60,140が全て,シート152より上の同じ面の中に浮いているように見えることを示す。mphと関連する数値0,30,50,70,及び80に関連する浮動画像154c,kphと関連する曲線及びハッチマークに関連する浮動画像,並びにkphと関連する数値20,80,100,120,及び160は全て,シート152より下の同じ面の中に浮いているように見えている。図15に示されるユーザーインターフェースのユーザーは,図14に示されるユーザーインターフェースに比べて,自身の自動車が走行している速度について情報を処理するのがより困難であろう。」と記載されていることから,本願補正発明において,自動車ダッシュボードにおける「同じタスク又は心的操作に関連」する「第1の合成画像」及び「第2の合成画像」とは,少なくとも,速度計に係る表示のうち,「数字及び曲線並びにハッチマーク」の一部及び残部(速度計に係る表示が,「mph」表示方法及び「kph」表示方法の双方でなされる場合は,同一表示方法における「数字及び曲線並びにハッチマーク」の一部及び残部)を包含する概念であると解される。

(エ)前記(イ)で述べた引用発明の合成画像に含まれる「数字や目盛り」は,前記(ウ)で述べた「数字及び曲線並びにハッチマーク」に相当する表示であるところ,当該「数字や目盛り」が複数の表示要素(複数の数字や目盛り)によって構成されることは自明であるから,前記(ウ)に照らせば,当該(イ)で述べた引用発明の「自動車ダッシュボード表示用途に用いたシート材料」において肉眼に見える合成画像に,「同じタスク又は心的操作に関連」する「第1の合成画像」(「数字や目盛り」を構成する複数の表示要素のうちの一部)及び「第2の合成画像」(「数字や目盛り」を構成する複数の表示要素のうちの残部)が存在することは明らかである。
また,針で指し示される「数字や目盛り」は,通常,回転する針の先端が指し示す円弧状の位置に配置されるのであって(前記(ア)で例示した,特開2005-145298号公報の図1,国際公開第2005/018997号の図1,特開2004-17724号公報の図2,本願優先日前に市販された多くの自動車のダッシュボード等を参照。),その一部を残部に対して当該円弧状の位置から離間して表示させることは,技術常識からみておよそ考えられないから,前記(イ)で述べた引用発明の合成画像中に存在する「第1の合成画像」と「第2の合成画像」は,「両画像の間の距離が,所与のユーザーインターフェースの長さ又は幅の4分の1以内である」と認められる(少なくとも,「第1の合成画像」と「第2の合成画像」との間の距離を,「自動車ダッシュボード表示用途に用いたシート材料」の長さ又は幅の4分の1以内とすることは,単なる設計上の事項にすぎない。)。
さらに,引用刊行物の記載から,「数字や目盛り」のうちの一部を残部とは異なる高さで浮いて見えるようにすることの必要性について把握することはできないから,引用刊行物に接した当業者は,前記(イ)で述べた引用発明の合成画像に含まれる「数字や目盛り」については,その全ての表示要素が同じ高さに浮いて見えるように構成するものと認められる(少なくとも,「数字や目盛り」の全ての表示要素が同じ高さに浮いて見えるように構成することは,当業者が適宜なし得たことである。)。

(オ)以上のとおりであるから,相違点は実質的な相違点でなく,本願補正発明と引用発明は実質的に同一であるか,少なくとも,引用発明において,合成画像を,同じタスク又は心的操作に関連する第1の合成画像及び第2の合成画像が存在するものとし,両合成画像がシートよりほぼ同じ距離で浮いて見え,両画像の間の距離が,所与のユーザーインターフェースの長さ又は幅の4分の1以内となるように構成すること,すなわち,引用発明を,相違点に係る本願補正発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

イ 効果について
本願補正発明が奏する効果は,引用発明が奏する効果であるか,引用刊行物の記載に基づいて当業者が予測できた程度のものである。

(5)独立特許要件についてのまとめ
以上のとおりであって,本願補正発明は,引用発明と実質的に同一であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるか,少なくとも,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は前記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成24年12月20日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された,前記第2〔理由〕1(1)に本件補正前の請求項1として示したとおりのものと認める。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物の記載事項及び引用発明については,前記第2〔理由〕3(2)ア及びイのとおりである。

3 対比・判断
前記第2〔理由〕2で述べたとおり,本願補正発明は,本願発明を特定するために必要な事項について限定を付加したものに相当する。
そして,本願発明の構成要件をすべて含みさらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が,前記第2〔理由〕3で述べたとおり,引用発明と実質的に同一であるか,少なくとも,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由で,引用発明と実質的に同一であるか,少なくとも,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明と実質的に同一であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないか,少なくとも,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-02 
結審通知日 2014-12-09 
審決日 2014-12-22 
出願番号 特願2009-540363(P2009-540363)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 113- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 宙子  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 清水 康司
大瀧 真理
発明の名称 浮く合成画像を含むユーザーインターフェース  
代理人 出野 知  
代理人 小林 直樹  
代理人 石田 敬  
代理人 小林 良博  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ