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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1300971
審判番号 不服2013-25019  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-19 
確定日 2015-05-13 
事件の表示 特願2010-527571「無線通信の開ループ・マルチアンテナモード用のランクアダプテーション」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 6月18日国際公開、WO2009/074880、平成23年 2月 3日国内公表、特表2011-504308〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2008年(平成20年)10月2日(優先権主張2007年10月2日 米国、2008年8月20日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年12月19日付けで拒絶理由が通知され、平成25年5月8日付け手続補正がなされ、同年8月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月19日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


2.本願発明
本願の請求項1?15に係る発明は、平成25年5月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、次のとおりのものである(なお、下線は請求人が付与した。)。

「【請求項1】
無線ネットワークで移動局のランクアダプテーションを基地局により実行する方法であって、
使用されるランクの指標を前記移動局から前記基地局により受信し、
前記移動局の移動速度が所定の閾値の上であると決定したことに応じて、前記移動局と前記基地局との間で無線通信を実行するために開ループ・マルチアンテナモードを選択し、
前記移動局と前記基地局との間で前記開ループ・マルチアンテナモードに従った前記無線通信のために、複数のランクの中から少なくとも1つの基準に基づいて選択し、前記選択されたランクは、前記指標により示されて使用される前記ランクを上書きする方法。」


3.引用文献
原審では、引用文献として、「"Rank Adaptation for Fixed Pre-coding",3GPP TSG-RAN WG1#50 R1-073297,2007.08.20,pp.1-4」(以下、「刊行物1」という。)が引用されている。
上記刊行物1は、移動体通信に関する標準化機関である「The 3rd Generation Partnership Project (3GPP)」の「TSG-RAN WG1」における第50回の標準化会議にあたって提示された文書であって、その内容を3GGPの規格の一部として採用されることを即するために、その内容を当業者等に対して広く公にすることを意図した文書であるので、頒布された刊行物に該当する。
さらに、該標準化会議では、会議前の段階で議論を希望する内容についてあらかじめ提案文書を提出し、この提案文書に基づいてアジェンダが作成され、議論が行われることから、上記刊行物1は会議が開催された2007年8月20日?24日までには公知になっており、本願の優先日(2007年10月2日)の前に頒布されたものであるといえる。
そして、上記刊行物1には、図面とともに、次の事項が記載されている(なお、下線は当審が付与した。)。

(ア)「In this contribution, some analysis and discussion are provided with more emphasis on how to apply precoding for UE with high mobility, the need of rank adaptation for such scenario and how to conduct the rank adaptation. The conclusions of the discussion can be summarized as follows
・ At low UE speed, a codebook based channel-dependent precoding with rank adaptation is preferable.
・ At high UE speed and high geometry, transmission rank-2 with fixed codeword should be utilized.
・ At high UE speed and low geometry, rank-1 transmission using SFBC based transmit diversity should be utilized.
・ For UE with high mobility, dynamic rank adaptation between rank-1 SFBC based transmit diversity and rank-2 fixed precoding should be utilized to increase both the throughput and coverage gain 」(第1頁第10行目?第17行目)
(当審訳:
この投稿の中で、分析と議論は、高い移動度を有するUEに対してどのようにプレコーディングを適用するか、このようなシナリオのためにランクアダプテーションの必要性、そして、ランクアダプテーションをどのように実行するかに重点が置かれている。その議論の結論は、以下のようにまとめることができる。
・ 低UE速度には、ランクアダプテーションを有するチャネル依存プレコーディングのコードブックが好ましい。
・ 高UE速度かつ高ジオメトリには、固定コードワードを有するランク-2伝送が利用されるべきである。
・ 高UE速度かつ低ジオメトリには、伝送ダイバーシティのSFBCを用いるランク-1伝送が利用されるべきである。
・ 高い移動性を有するUEでは、伝送ダイバーシティのランク-1のSFBCとプレコーディングが固定されたランク-2との間のダイナミックランクアダプテーションはスループットとカバレッジゲインの両方を増加させるために利用されるべきである。 )

(イ)「2 Rank Adaptation for Fixed Precoding
As precoding process is considered as a generalized process for MIMO share data channel transmission, it should be clarified that the precoding can be categorized into two types, one is channel-dependent precoding and the other is fixed precoding.
・ Channel-dependent precoding: Based on the channel condition, UE determines the transmission rank, and codebook matrix index (PMI) and then feedbacks the PMI, rank index, and associated signal and interference-to-noise ratio (SINR) or channel quality indicator (CQI).
・ Fixed precoding: Based on the channel condition, UE determines transmission rank and then feedbacks the rank index, associated SINR or CQI. In this case, no feedback of PMI is required. 」(第1頁第18行目?第25行目)
(当審訳:
2 固定されたプレコ-ディングのためのランクアダプテーション
プレコーディングプロセスはMIMO共有データチャネル伝送のための一般的なプロセスとして考えられているので、そのプレコ-ディングが2つのタイプ、1つがチャネル依存プレコーディング、他が固定されたプレコーディングに分類されることができることが明確にされるべきである。
・ チャネル依存プレコーディング: チャネルの状態に基づいて、UEは、伝送ランクとコードブックマトリックスインデックス(PMI)を決定し、そのPMI、ランク指標、関連付けられた信号対干渉雑音比(SINR)又はチャネル品質指標(CQI)をフィードバックする。
・ 固定されたプレコーディング: チャネルの状態に基づいて、UEは、伝送ランクを決定し、そのランク指標、関連付けられたSINR、又は、CQIをフィードバックする。このケースでは、PMIのフィーダバックは要求されない。 )

(ウ) 「Figure 1」には、
DLSCHのマルチアンテナ伝送モードの選択として、移動速度が所定値より遅い場合には、チャネル依存プレコーディングを選択し、速度が所定値より速くかつ長期間SINRがしきい値より低い場合には、ランク-1で固定されたプレコーディングを選択し、速度が所定値より速くかつ長期間SINRがしきい値より高い場合には、ランク-2で固定されたプレコーディングを選択すること、
が記載されている。

このため、上記(ア)?(ウ)で摘記した事項により、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「 MIMO共有データチャネル伝送における固定されたプレコ-ディングのためのランクアダプテーションであって、
UEの移動速度が所定値より遅い場合、UEは、伝送ランクとコードブックマトリックスインデックス(PMI)を決定し、そのPMI、ランク指標、関連付けられた信号対干渉雑音比(SINR)又はチャネル品質指標(CQI)をフィードバックする、ランクアダプテーションを有するチャネル依存プレコーディングを用いるマルチアンテナ伝送モードを選択し、
UEの移動速度が所定値より速く、長時間SINRが低い場合、UEは、伝送ランクを決定し、そのランク指標、関連付けられたSINR、又は、CQIをフィードバックし、なお、PMIのフィーダバックは要求されない、ランク-2で固定されたプレコーディングを用いるマルチアンテナ伝送モードを選択し、
UEの移動速度が所定値より速く、長期間SINRが高い場合、UEは、伝送ランクを決定し、そのランク指標、関連付けられたSINR、又は、CQIをフィードバックし、なお、PMIのフィーダバックは要求されない、ランク-1で固定されたプレコーディングを用いるマルチアンテナ伝送モードを選択し、
高い移動性を有するUEでは、伝送ダイバーシティのランク-1のSFBCとプレコーディングが固定されたランク-2との間のダイナミックランクアダプテーションが利用される
固定されたプレコ-ディングのためのランクアダプテーション。」


4.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、以下のことがいえる。

引用発明では、UEが伝送ランク等を決定し、決定したランクのランク指標をフィードバンクしており、フィードバックを受けたノードがいずれのプレコーディングを用いるか選択している。
そして、ランク指標がフィードバックされ、いずれのプレコーディングを用いるかを決定するノードが基地局であることは、ノード間の機能分担からみて、当業者にとって自明な事項であるから、引用発明は、基地局により実行されるランクアダプテーションであるといえる。
また、MIMO共有データチャネルは無線ネットワークのチャネルである。
さらに、引用発明は、UEの移動速度や長期間SINRの高低に応じて、ランクやプレコーディングが選択されることにより実行されるランクアダプテーションであるから、ランクアダプテーションを実行する方法であるといい得る。
してみると、引用発明は、本願発明と同様に、「無線ネットワークで移動局のランクアダプテーションを基地局により実行する方法」であるといえる。

引用発明では、UEが伝送ランク等を決定し、決定したランクのランク指標をフィードバンクしている。
してみると、引用発明は、本願発明と同様に、「使用されるランクの指標を前記移動局から前記基地局により受信し」ているといえる。

引用発明では、UEの移動速度が所定値より速く、長時間SINRが低い場合、UEは、伝送ランクを決定し、そのランク指標、関連付けられたSINR、又は、CQIをフィードバックし、なお、PMIのフィーダバックは要求されない、ランク-2で固定されたプレコーディングを用いるマルチアンテナ伝送モードを選択し、UEの移動速度が所定値より速く、長期間SINRが高い場合、UEは、伝送ランクを決定し、そのランク指標、関連付けられたSINR、又は、CQIをフィードバックし、なお、PMIのフィーダバックは要求されない、ランク-1で固定されたプレコーディングを用いるマルチアンテナ伝送モードを選択している。
ここで、「"Considerrations on PDCCH design for SU-MIMO",3GPP TSG-RAN WG1#50 R1-073482,2007.08.20,pp.1-7」の
「2.1. Open-Loop SU-MIMO
For open-loop MIMO, rank information is essentially required.
・・・・・・・・・・・・・・
「2.2. Close-Loop SU-MIMO
For the closed-loop MIMO, not only rank information but PMI is reported to eNodeB.」(第2頁第6行目?第15行目)
(当審訳:
2.1 オープンループSU-MIMO
オープンループSU-MIMOでは、ランク情報が基本的に要求される。
・・・・・・・・・・・・・・
2.2 クローズループSU-MIMO
クローズループSU-MIMOでは、ランク情報だけでなくPMIもeNodeBに要求される。)
なる記載などにみられるように、MIMO共有データチャネル伝送における固定されたプレコ-ディングのためのランクアダプテーションにおいて、PMIのフィードバックが要求されないプレコーディングを用いるマルチアンテナ伝送モードは、プレコーディングに関するインデックスがフィードバックされないモード、すなわち、プレコーディングに関して開ループのモードであるから、移動局と基地局との間の無線通信が開ループ・マルチアンテナモードであるといい得る。
引用発明において、UEの移動速度における高い低いのしきい値となる所定値を「所定の閾値」といい得るととともに、長期間SINRにおける高い低いのしきい値を「1つの基準」といい得る。
引用発明における、ランク-2で固定されたプレコーディングを用いるマルチアンテナ伝送モードか、ランク-1で固定されたプレコーディングを用いるマルチアンテナ伝送モードかの選択は、基地局で行われており、その選択は、長期間SINRにおける1つの基準(具体的には、しきい値)に基づいて決定されたランク指標に応じた選択であるから、引用発明も、「複数のランクの中から少なくとも1つの基準に基づいて選択し」ているといい得る。
してみると、引用発明は、本願発明と同様に、「前記移動局の移動速度が所定の閾値の上であると決定したことに応じて、前記移動局と前記基地局との間で無線通信を実行するために開ループ・マルチアンテナモードを選択し、前記移動局と前記基地局との間で前記開ループ・マルチアンテナモードに従った前記無線通信のために、複数のランクの中から少なくとも1つの基準に基づいて選択し」ているといえる。

以上から、本願発明と引用発明とは、次の点で一致する。

<一致点>
無線ネットワークで移動局のランクアダプテーションを基地局により実行する方法であって、
使用されるランクの指標を前記移動局から前記基地局により受信し、
前記移動局の移動速度が所定の閾値の上であると決定したことに応じて、前記移動局と前記基地局との間で無線通信を実行するために開ループ・マルチアンテナモードを選択し、
前記移動局と前記基地局との間で前記開ループ・マルチアンテナモードに従った前記無線通信のために、複数のランクの中から少なくとも1つの基準に基づいて選択する方法。

また、本願発明と引用発明とは、次の点で相違する。

<相違点>
本願発明では、「前記選択されたランクは、前記指標により示されて使用される前記ランクを上書きする」のに対して、引用発明では、これに関する特定がない点。


5.当審の判断
引用発明では、高い移動性を有するUEでは、伝送ダイバーシティのランク-1のSFBCとプレコーディングが固定されたランク-2との間のダイナミックランクアダプテーションを用いるマルチアンテナ伝送モードが利用されており、長期間SINRに応じたランクアダプテーションがダイナミックに行われているといえる。
そして、ランクアダプテーションがダイナミックに行われるためには、選択されて現在設定されている古いランク指標を、フィードバックされた新しいランク指標に更新すること、すなわち、上書きすることが必要であることは、当業者にとって自明な事項である。
してみると、引用発明において、UEの移動速度が所定値より速い場合のマルチアンテナモードに従った無線通信である、前記移動局と前記基地局との間で前記開ループ・マルチアンテナモードに従った無線通信のために、「前記選択されたランクは、前記指標により示されて使用される前記ランクを上書きする」ようにすることは、当業者であれば容易に想到し得る事項である。

そして、本願発明の奏する作用効果は、引用発明に記載された事項から予測できる範囲内のものであって、格別のものということができない。

よって、本願発明は、引用発明に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものである。


6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2014-12-08 
結審通知日 2014-12-10 
審決日 2014-12-24 
出願番号 特願2010-527571(P2010-527571)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 倉本 敦史  
特許庁審判長 水野 恵雄
特許庁審判官 佐藤 聡史
寺谷 大亮
発明の名称 無線通信の開ループ・マルチアンテナモード用のランクアダプテーション  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 那須 威夫  
代理人 大塚 文昭  
代理人 西島 孝喜  
代理人 辻居 幸一  

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