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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M
管理番号 1301109
審判番号 不服2014-15795  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-08 
確定日 2015-06-09 
事件の表示 特願2013-105682「燃料電池用原燃料中の付臭剤除去装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月24日出願公開、特開2013-219038、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年9月5日に出願した特願2008-229144号の一部を平成25年5月18日に新たな特許出願としたものであって、平成26年3月18日付けで拒絶理由が通知され、平成26年5月28日付けで手続補正がされ、平成26年6月18日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成26年8月8日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)は、平成26年5月28日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願発明1は以下のとおりである。
「【請求項1】
燃料電池用原燃料ガス中の付臭剤であるメルカプタン類およびシクロヘキセンを共に吸着除去するための除去装置であって、容器中に銀担持のY型ゼオライトからなる吸着剤を充填してなることを特徴とする燃料電池用原燃料ガス中の付臭剤除去装置。」

また、同じく、本願発明2は以下のとおりである。
「【請求項2】
燃料電池用原燃料ガス中の付臭剤であるメルカプタン類、スルフィド類およびシクロヘキセンを共に吸着除去するための除去装置であって、容器中に銀担持のY型ゼオライトからなる吸着剤を充填してなることを特徴とする燃料電池用原燃料ガス中の付臭剤除去装置。」

本願発明3は以下のとおりである。
「【請求項3】
請求項1、2のいずれか1項に記載の燃料電池用原燃料ガス中の付臭剤除去装置において、前記燃料電池が固体高分子形燃料電池または固体酸化物形燃料電池であることを特徴とする燃料電池用原燃料ガス中の付臭剤除去装置。」

第3 原査定の理由の概要
原査定の理由は、概略以下のとおりである。

理由1.本願発明1及び本願発明2は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

理由2.本願発明1及び本願発明2は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。また、本願発明3は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1、2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2002-66313号公報
引用文献2:特開2007-217694号公報

本願発明1及び本願発明2について
燃料電池用原燃料ガス中の付臭剤として、硫黄化合物の他にシクロヘキセンが用いられることがあり(必要であれば、特開2006-291113号公報(【0002】-【0005】参照)、銀担持のY型ゼオライトが、シクロヘキセンを除去する機能を有すること(必要であれば、特開昭54-41843号公報(第3ページ右欄第5-18行)参照)は、従来から一般的に知られている事項である。
よって、引用文献1に記載された発明の燃料電池用原燃料ガス中の付臭剤除去装置は、物の発明としてみた場合に、メルカプタン類、スルフィド類の硫黄化合物の付臭剤のみならず、シクロヘキセンも除去し得るものと認められるから、引用文献1には、請求項1に係る発明が記載されているに等しい。
なお、燃料電池用原燃料中の付臭剤としてのシクロヘキセンを除去する点において、一応の相違が認められたとしても、上記一般的に知られている事項を踏まえれば、引用文献1に記載された発明において、請求項1に係る発明とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

本願発明3について
引用文献2には、燃料電池が固体高分子形燃料電池または固体酸化物形燃料電池である燃料電池用原燃料中の付臭剤除去装置が記載されている。引用文献1に記載された発明において、引用文献2に記載された発明を考慮して、固体高分子形燃料電池または固体酸化物形燃料電池を採用することは当業者が容易に想到し得たことである。

第4 当審の判断
1.引用文献の記載
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、合議体で記入した)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】燃料ガス中の硫黄化合物除去用吸着剤であって、Y型ゼオライトに銀をイオン交換により担持させてなることを特徴とする燃料ガス中の硫黄化合物除去用吸着剤。
【請求項2】上記燃料ガスが都市ガス、天然ガス又はLPガスである請求項1に記載の燃料ガス中の硫黄化合物除去用吸着剤。
【請求項3】上記燃料ガス中の硫黄化合物がサルファイド類、チオフェン類及びメルカプタン類のうちの1種又は2種以上の硫黄化合物である請求項1?2のいずれかに記載の燃料ガス中の硫黄化合物除去用吸着剤。」

「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、都市ガスやLPガス、あるいは天然ガスなどの燃料ガス中の硫黄化合物の吸着除去に用いる硫黄化合物除去用吸着剤、および、該硫黄化合物除去用吸着剤による硫黄化合物含有燃料ガス中の硫黄化合物の除去方法に関する。
【0002】
【従来の技術】メタン、エタン、エチレン、プロパン、ブタン等の低級炭化水素ガス、あるいはこれらを含む天然ガス、都市ガス、LPガス等のガスは、工業用や家庭用などの燃料として用いられるほか、燃料電池用燃料や雰囲気ガスなどとして利用される水素の製造用原料としても使用される。水素の工業的製造方法の一つである水蒸気改質法では、それらの低級炭化水素ガスを、Ni系、Ru系等の触媒の存在下、水蒸気を加えて改質し、水素を主成分とする改質ガスが生成される。
【0003】都市ガスやLPガス等の燃料ガスには漏洩保安を目的とする付臭剤として、サルファイド類やチオフェン類、あるいはメルカプタン類などの硫黄化合物が含まれている。具体的には、サルファイド類としてジメチルサルファイド(本明細書中DMSと略称する)やエチルメチルサルファイドやジエチルサルファイド、チオフェン類としてテトラヒドロチオフェン(同じくTHTと略称する)、メルカプタン類としてターシャリーブチルメルカプタン(同じくTBMと略称する)やイソプロピルメルカプタンやノルマルプロピルメルカプタンやターシャリーアミルメルカプタンやターシャリーヘプチルメルカプタンやメチルメルカプタンやエチルメルカプタンなどである。
【0004】一般に添加される付臭剤としてはDMS、THT及びTBMが多く用いられ、これらは一種とは限らず二種以上が添加され(例えば大都市圏の都市ガスには、現在、その殆どがDMSとTBMとが添加されている)、その濃度はいずれも数ppmである。上記のように水蒸気改質法で用いられる触媒は、これらの硫黄化合物により被毒し、性能劣化を来たしてしまう。このため燃料ガス中のそれらの硫黄化合物は、燃料ガスから予め除去しておく必要がある。また、硫黄化合物を除去した燃料ガス中に、たとえ残留硫黄化合物が少量含まれていても、その残留硫黄化合物の量はできるだけ低濃度であることが望ましい。」

「【0008】これまでガス中の硫黄化合物の吸着剤としては各種吸着剤が提案されている。例えば特開平6-306377号では、都市ガス、LPガス等の燃料ガスの付臭成分であるメルカプタン類を無酸素雰囲気下、選択的に、水素及び/又はアルカリ土類金属以外の多価金属イオン交換ゼオライトにより除去するというもので、ここでの多価金属イオンとしてはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Sn、Znが好ましいとされている。この技術での吸着対象硫黄化合物は吸着の容易なメルカプタン類だけである。
【0009】本発明者等は、ゼオライト、活性炭、金属化合物、活性アルミナ、シリカゲル、活性白土、粘土系鉱物等の各種多孔質物質、各種金属酸化物など、市販の数多くの吸着剤を用いて、燃料ガス中の硫黄化合物を除去する実験を実施した。このうち、一部は後述表2に示している。その結果、それらのうち特定の活性炭、特定の金属酸化物(特公平5-58768号)、特定のゼオライト(特開平10-237473号)だけが燃料ガス中の硫黄化合物の吸着に有効であることを確認することができた。」

「【0014】本発明者等は、燃料ガス中に水分が含まれていてもなお有効に機能する吸着剤について追求し、ゼオライトのうちでも特に疎水性ゼオライトに着目して貴重な成果を得ている(特願2000-232780)。この吸着剤は疎水性ゼオライトにCu、Ag等の特定遷移金属をイオン交換により担持させたもので、高露点でも優れた吸着能を有する。本発明者等は、これと相前後してさらに追求したところ、数多くのゼオライトのうち特にY型ゼオライトを用い、且つ、これに銀をイオン交換してなる吸着剤が、常温ないしその近辺で、しかも燃料ガス中に水分が含まれていても、優れた硫黄化合物の吸着性能を有することを見い出した。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】すなわち、本発明は、Y型ゼオライトに対して特定の遷移金属である銀をイオン交換により担持させてなる、常温ないしその近辺で、しかも燃料ガス中の水分濃度にかかわらず、サルファイド類だけでなく、チオフェン類やメルカプタン類からなる硫黄化合物の除去用として優れた性能を有する硫黄化合物除去用吸着剤を提供することを目的とし、また本発明は、該硫黄化合物除去用吸着剤による硫黄化合物含有燃料ガス中の硫黄化合物の除去方法を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】本発明は、(1)燃料ガス中の硫黄化合物除去用吸着剤であって、Y型ゼオライトに銀をイオン交換により担持させてなることを特徴とする燃料ガス中の硫黄化合物除去用吸着剤を提供し、また、本発明は(2)硫黄化合物含有燃料ガスを、Y型ゼオライトに銀をイオン交換により担持させてなる硫黄化合物除去用吸着剤に通すことを特徴とする硫黄化合物含有燃料ガス中の硫黄化合物の除去方法を提供する。
【0017】
【発明の実施の形態】ゼオライトには各種数多くの種類があるが、本発明においてはY型のゼオライトを使用することが重要である。一般に市販されているY型ゼオライトにはNa-Y型ゼオライト及びH-Y型ゼオライトがあるが、本発明においては、Y型ゼオライトであれば用いることができる。すなわち、本発明においては交換性陽イオンが例えばNa^(+)イオンであってもH^(+)イオンであっても使用できるが、このうち特にNa-Y型ゼオライトが優れ、H-Y型ゼオライトがこれに準じている。本発明は、この点と合わせて、Y型ゼオライトに銀(Ag)をイオン交換により担持させてなることが重要である。こうしてなる本発明の吸着剤は、いずれも燃料ガス中の水分濃度にかかわらず、該燃料ガス中に含まれている硫黄化合物を有効に除去することができる。」

「【0025】〈供試吸着剤の調製1〉Y型ゼオライトとして、市販のNa-Y型ゼオライト(東ソー社製、商品名:HSZ320NAD)と市販のH-Y型ゼオライト(東ソー社製、商品名:HSZ320HOD)を用いた。これらゼオライトのSiO_(2)/Al_(2)O_(3)比(モル比)はそれぞれ5.7、5.6であり、バインダーとしてアルミナ20wt%を用いて円柱形のペレット(直径1.5mm、長さ=3?4mm)に成形したものである。一方、硝酸銀を蒸留水に溶解して硝酸銀水溶液を得た。この硝酸銀水溶液を用いて、図3に示す各種イオン交換方法により、上記ゼオライト中の各陽イオン(Na^(+)またはH^(+))をAgイオンと交換させた後、蒸留水(図3中DIW)にて5回洗浄し、次いで乾燥、焼成した。
【0026】表1に、他のゼオライトに対する場合を含めた数例をまとめて示している。表1中、サンプル名の欄には略号で示しているが、同欄中、例えば「Ag(Na)-Y」とはNa-Y型ゼオライトにAgをイオン交換により担持させたものの意味であり、この点表2及び以下の記載についても同じである。なお、乾燥及び焼成条件は各サンプルとも共通であり、乾燥は空気中において100℃で1日行い、また焼成は乾燥窒素中において400℃で2時間行った。こうして、各種ゼオライトにAgをイオン交換により担持させた各供試吸着剤を得た。」

「【0028】〈硫黄化合物の吸着試験1(実施例1?2、比較例1?21)〉図4に示す試験装置を用いて硫黄化合物の吸着試験を実施した。図4中、4が充填塔(円筒反応管)であり、これに上記で得た各供試吸着剤を充填し、それぞれについて硫黄化合物の吸着試験を実施した。試験条件は以下のとおりとした。
【0029】充填塔:28.4mm(直径)×63.2mm(高さ)、これに各供試吸着剤40cm^(3)を充填した。試験ガス:都市ガス(13A)、試験ガス中の硫黄化合物濃度:4.4mg-SNm^(3)(DMS=50wt%、TBM=50wt%、これはDMS=1.8ppm、TBM=1.2ppmに相当する)、このガスに水約380ppm(露点-30℃)を添加した(恒温槽中での試験ガスの水中バブリングによる)。ガス流速:340L/h、LV(ガスの線速度)=15cm/sec、SV(空間速度)=8500h^(-1)、温度:室温(20?30℃)、圧力:常圧。本吸着試験は比較例を含めてすべて同一装置、同1条件で実施した。」

「【0034】表2のとおり、Y型ゼオライトについて、イオン種がNaである場合(比較例6)では、硫黄吸着量は0.01wt%を下回り(<0.01wt%)、水分を含む燃料ガス中の硫黄化合物用の吸着剤としては有用でないことを示している。イオン種がHである場合(比較例7)にも、硫黄吸着量は0.05wt%であるに過ぎない。このようにイオン種がNaでもHでもY型ゼオライトであるだけでは、水分を含む燃料ガス中の硫黄化合物の除去性能は低いことを示している。
【0035】これに対して、イオン種がNaのY型ゼオライト(Na-Y型ゼオライト)に対してAgをイオン交換により担持させた場合(実施例1)の硫黄吸着量は4.10wt%であり、非常に有効な吸着特性を示している。試験ガスにはDMSが1.8ppm、TBMが1.2ppm含まれ、水が約380ppm含まれているが、このように水分の存在下において、DMSだけでなく、TBMについても有効に吸着されることを示している。また、イオン種がHのY型ゼオライトに対してAgをイオン交換により担持させた場合(実施例2)の硫黄吸着量は1.91wt%であり、実施例1に比べれば劣るが、有効な吸着特性を示している。」

「【0051】
【発明の効果】本発明によれば、Y型ゼオライトに銀をイオン交換により担持させることで、燃料ガス中の水分濃度にかかわらず、燃料ガス中における硫黄化合物の吸着特性を格段に改善することができる。これにより、吸着剤の必要量を少なくできるだけでなく、再生頻度、交換頻度を少なくできる。特に、本発明によれば、燃料ガス中の、ただDMSだけでなく、サルファイド類とメルカプタン類、さらにチオフェン類などの硫黄化合物を含む燃料ガスからそれらの硫黄化合物を同時に有効に除去することができる。また、本発明の吸着剤によれば、特に常温ないしその近辺で燃料ガス中の硫黄化合物を除去できるので、実用上も非常に有利である。」

そうすると、引用文献1には次の事項が記載されている。
(1)天然ガス、都市ガス、LPガス等のガスは、燃料電池用燃料として利用される水素の製造用原料としても使用され、水素の工業的製造方法の一つである水蒸気改質法では、それらの低級炭化水素ガスを、Ni系、Ru系等の触媒の存在下、水蒸気を加えて改質し、水素を主成分とする改質ガスが生成される(【0002】)。
(2)都市ガスやLPガス等の燃料ガスには付臭剤として、サルファイド類やチオフェン類、あるいはメルカプタン類などの硫黄化合物が含まれている(【0003】)。
(3)水蒸気改質法で用いられる触媒は、これらの硫黄化合物により被毒し、性能劣化を来たしてしまう。このため燃料ガス中のそれらの硫黄化合物は、燃料ガスから予め除去しておく必要がある(【0004】)。
(4)本発明は、Y型ゼオライトに対して特定の遷移金属である銀をイオン交換により担持させてなる、サルファイド類だけでなく、チオフェン類やメルカプタン類からなる硫黄化合物のうちの1種又は2種以上の硫黄化合物の除去用として優れた性能を有する硫黄化合物除去用吸着剤を提供することを目的とする(【0015】)。
(5)Y型ゼオライトとして、市販のNa-Y型ゼオライトと市販のH-Y型ゼオライトを用い、上記ゼオライト中の各陽イオン(Na^(+)またはH^(+))をAgイオンと交換させた後、蒸留水(図3中DIW)にて5回洗浄し、次いで乾燥、焼成した(【0025】)。
(6)充填塔(円筒反応管)に上記で得た吸着剤を充填し、それぞれについて硫黄化合物の吸着試験を実施した(【0028】)。
(7)イオン種がNaのY型ゼオライト(Na-Y型ゼオライト)に対してAgをイオン交換により担持させた場合の硫黄吸着量は4.10wt%であり、非常に有効な吸着特性を示し、また、イオン種がHのY型ゼオライトに対してAgをイオン交換により担持させた場合の硫黄吸着量は1.91wt%であり、有効な吸着特性を示している(【0035】)。

以上のことから引用文献1には次の発明(以下、「引用文献1記載の発明」という。)が記載されている。
「燃料電池用燃料として利用される水素の製造用原料である都市ガスやLPガスに含まれる付臭剤であるサルファイド類、チオフェン類やメルカプタン類からなる硫黄化合物のうちの1種又は2種以上の硫黄化合物を共に吸着除去するための除去装置であって、充填塔にNa-Y型ゼオライト又はH-Y型ゼオライト中のNa^(+)またはH^(+)をAgイオンと交換させた吸着剤を充填してなる燃料電池用燃料として利用される水素の製造用原料である都市ガスやLPガスに含まれる付臭剤除去装置。」

2.対比
本願発明1と引用文献1記載の発明とを対比し、また同様に本願発明2と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献1記載の発明の「燃料電池用燃料として利用される水素の製造用原料である都市ガスやLPガスに含まれる」、「充填塔」、「Na-Y型ゼオライト又はH-Y型ゼオライト中のNa^(+)またはH^(+)をAgイオンと交換させた吸着剤」は、それぞれ本願発明1及び本願発明2の「燃料電池用原燃料ガス中の」、「容器中」、「銀担持のY型ゼオライトからなる吸着剤」に相当する。また、引用文献1記載の発明の「サルファイド類、チオフェン類やメルカプタン類からなる硫黄化合物のうちの1種又は2種以上の硫黄化合物」は、「サルファイド類、チオフェン類やメルカプタン類からなる硫黄化合物のうちの1種」として、メルカプタン類を選択した場合に、本願発明1の「メルカプタン類」に相当し、また「サルファイド類、チオフェン類やメルカプタン類からなる硫黄化合物のうちの2種」として、メルカプタン類、サルファイド類を選択した場合に本願発明2の「メルカプタン類、スルフィド類」に相当する。

したがって、本願発明1と引用文献1記載の発明とは、
「燃料電池用原燃料ガス中の付臭剤であるメルカプタン類を吸着除去するための除去装置であって、容器中に銀担持のY型ゼオライトからなる吸着剤を充填してなる燃料電池用原燃料ガス中の付臭剤除去装置。」
である点で一致し、
本願発明1がメルカプタン類だけでなく、「シクロヘキセンを共に吸着除去するための除去装置であ」るのに対し、引用文献1記載の発明が、シクロヘキセンの吸着除去をすることについて特定されていない点で相違(以下、「相違点1」という。)する。

また、本願発明2と引用文献1記載の発明とは、
「燃料電池用原燃料ガス中の付臭剤であるメルカプタン類、スルフィド類を共に吸着除去するための除去装置であって、容器中に銀担持のY型ゼオライトからなる吸着剤を充填してなる燃料電池用原燃料ガス中の付臭剤除去装置。」
である点で一致し、
本願発明2がメルカプタン類、スルフィド類だけでなく、「シクロヘキセンを共に吸着除去するための除去装置であ」るのに対し、引用文献1記載の発明が、シクロヘキセンの吸着除去をすることについて特定されていない点で相違(以下、「相違点2」という。)する。

3.判断
上記相違点1及び相違点2について検討する。
(1)まず、本願の明細書の記載をみると次の事項がわかる。
「都市ガスやLPガスには漏洩保安を目的とする付臭剤としてメルカプタン類、スルフィド類、チオフェン類などの硫黄化合物、あるいは炭化水素であるシクロヘキセンが添加されてい」(【0004】)る。一方、「排気ガス中の炭化水素を吸着する吸着剤としてゼオライト、あるいはゼオライトにCu、Ag、Au等の元素を含有させたものが開示されてい」(【0021】)たが、「それらの吸着剤は、炭化水素を吸着するとは言え、排気ガス中の炭化水素であり、シクロヘキセンという特定の炭化水素を吸着するかどうかは一切不明である。また、もし万一、シクロヘキセンを吸着するにしても、各種炭化水素の混合物からシクロヘキセンを“選択的に吸着する”かどうかは一切不明であ」(【0023】)るところ、「シクロヘキセンはメルカプタン類、スルフィド類、チオフェン類等の硫黄化合物と併用しても使用される。そのうち、硫黄化合物は水蒸気改質法で用いられる改質触媒に対して被毒影響があり、また、シクロヘキセンは水蒸気改質器の改質部に配置した改質触媒の表面に炭素を析出することから、原燃料中の硫黄化合物およびシクロヘキセンはともに除去する必要がある」(【0024】)ために、「本発明においては、銀担持のゼオライト(以下、銀担持ゼオライト、銀担持ゼオライト吸着剤、銀担持ゼオライトからなる吸着剤、銀担持ゼオライトからなる付臭剤吸着剤、等とも言う)を使用することにより、それらの問題を解決したものである。」(【0024】)
すなわち、本願発明1は、「銀担持のY型ゼオライトからなる吸着剤を」用いることにより、「燃料電池用原燃料ガス中の付臭剤であるメルカプタン類およびシクロヘキセンを共に吸着除去する」ための燃料電池用原燃料ガス中の付臭剤除去装置であり、また、本願発明2は、「銀担持のY型ゼオライトからなる吸着剤を」用いることにより、「燃料電池用原燃料ガス中の付臭剤であるメルカプタン類、スルフィド類およびシクロヘキセンを共に吸着除去する」ための燃料電池用原燃料ガス中の付臭剤除去装置であって、本願発明1,2の付臭剤除去装置は、シクロヘキセンという炭化水素を他の炭化水素が含まれる燃料電池用原燃料ガス中から選択的に吸着除去するものであり、さらには、メルカプタン類やスルフィド類という硫黄化合物である付臭剤と共にこのシクロヘキセンを吸着することに特徴を有するといえる。
(2)これに対して、引用文献1には、「本発明は、Y型ゼオライトに対して特定の遷移金属である銀をイオン交換により担持させてなる、常温ないしその近辺で、しかも燃料ガス中の水分濃度にかかわらず、サルファイド類だけでなく、チオフェン類やメルカプタン類からなる硫黄化合物の除去用として優れた性能を有する硫黄化合物除去用吸着剤を提供することを目的とし、また本発明は、該硫黄化合物除去用吸着剤による硫黄化合物含有燃料ガス中の硫黄化合物の除去方法を提供することを目的とする」(【0015】)と記載されているように、引用文献1に記載されている発明は、硫黄化合物の除去用として優れた性能を有する除去用吸着剤であり、シクロヘキセンを吸着除去するためにこの除去用吸着剤を用いることは引用文献1には記載されていない。さらに引用文献1の記載から「銀担持のY型ゼオライトからなる吸着剤」がシクロヘキセンを吸着除去するための除去装置として有効であることとが当業者にとって自明であるとは言えない。
(3)また、原査定の理由において、燃料電池用原燃料ガス中の付臭剤として、硫黄化合物の他にシクロヘキセンが用いられることがあるとして示された特開2006-291113号公報をみると、「硫黄系付臭剤に代わるものとして、シクロヘキセン、ノルボルネン誘導体、アクリル酸エチル等の飽和又は不飽和脂肪酸エステルなどの非硫黄系付臭剤が検討されている」(【0002】)とし、また、「燃料ガスを改質し水素リッチガスを生成する燃料電池、特にリン酸型や固体高分子型燃料電池に要求される付臭剤は、炭化水素系の化合物であり、感知濃度の閾値の低い化合物である」(【0005】)ことから、「炭化水素系の付臭剤としては、シクロヘキセンが特許文献5(合議体注:特開昭54-58701号公報のこと)に…開示されている。」(【0005】)ことも記載されている。しかし、ここで記載されているのは燃料ガス中の付臭剤としてシクロヘキセンを用いることが検討されているという事実にとどまり、本願の出願時においてシクロヘキセンが都市ガスやLPガス中の付臭剤として一般的に用いられているとまでいえるものではない。
また、この他にもシクロヘキセンが都市ガスやLPガス中の付臭剤として本願の出願時において用いられていることを示す証拠はない。
したがって、上記特開2006-291113号公報の記載などをふまえても、引用文献1に記載された「燃料電池用燃料として利用される水素の製造用原料である都市ガスやLPガス」の付臭剤としてシクロヘキセンが用いられているとはいえず、特開2006-291113号公報の記載などから引用文献1記載の発明が、シクロヘキセンを吸着除去するための除去装置であるとはいえない。
(4)さらに、原査定の理由において、銀担持のY型ゼオライトが、シクロヘキセンを除去する機能を有することは、従来から一般的に知られている事項であるとし、その例として特開昭54-41843号公報を示している。ここで、特開昭54-41843号公報をみると以下の事項が記載されている。
「本発明はシクロヘキセンの分離方法に関するものである。さらに詳しくは、シクロヘキセンを含有するベンゼンおよび/またはシクロヘキサンの混合物からシクロヘキセンを分離する方法に関するものである。
シクロヘキセンを含有するベンゼンおよび/またはシクロヘキサンの混合物は一般には、ベンゼンの選択的水素添加法、シクロヘキサンの選択的脱水素法または酸化的脱水素法などにより、シクロヘキセンを製造する際に、反応生成物として得られる。
シクロヘキセンは、シクロヘキサノール、アジピン酸などの有機合成の原料として有用な環状不飽和炭化水素化合物である。
したがって、上記種々の方法によりシクロヘキセンを工業的に有利に得るためには上記混合物からのシクロヘキセンの分離精製が重要な問題となる。そこで、従来からシクロヘキセンを分離するために種々の方法が検討されてきた。」(第1頁左下欄12行ないし同頁右下欄11行、空白行を除く。)

「本発明者らは、以上記述した従来法の欠点および問題点を克服するために鋭意研究を重ねた結果、シクロヘキセンを含むベンゼンおよび/またはシクロヘキサンの混合物からシクロヘキセンを分離取得する際に、ベンゼンおよび/またはシクロヘキセンを選択的に吸着するY型アルミノシリケートゼオライトを吸着剤として使用することにより、極めて簡便に、純度よく、経済的にシクロヘキセンを分離することができることを見い出し本発明に到達した。」(第2頁右上欄18行ないし同頁左下欄8行)

「Y型アルミノシリケートゼオライトはいかなる金属イオンで置換されてもベンゼンおよび/またはシクロヘキセンを選択性よく吸着することができるが、シクロヘキセンを含むベンゼンおよび/またはシクロヘキサンの混合物をY型アルミノシリケートゼオライトで処理する場合、金属イオンとして・・・銀イオン(Ag^(+))・・・などで1部あるいは全部の金属イオンがイオン交換されているY型アルミノシリケートゼオライトを用いることが好ましい。」(第3頁右上欄5行ないし同欄18行)

「本発明の方法によりY型アルミノシリケートゼオライトに吸着されたベンゼンおよび/またはシクロヘキセンは公知の方法により分離回収される。」(第4頁左下欄11行ないし同欄13行)

これらの記載をみると、この特開昭54-41843号公報には、銀担持のY型ゼオライトによりシクロヘキセンを吸着することが記載されている。しかしながら、この特開昭54-41843号公報に記載されているのは、ベンゼンおよび/またはシクロヘキサンとの混合物からシクロヘキセンを分離回収するために用いられる銀坦治のY型ゼオライトであり、ベンゼンおよび/またはシクロヘキサンとの混合物からシクロセキセンを除去することを目的としたものではない。したがって、特開昭54-41843号公報に記載される発明は、シクロヘキセンが分離回収できれば、その発明の目的を達するのであって、分離後のベンゼンおよび/またはシクロヘキサンの混合物中からシクロヘキセンが吸着除去されるか否かは不明の発明である。
この点、技術常識をふまえてみれば、シクロヘキセンが分離されれば、その分離された量だけ、ベンゼン/および/またはシクロヘキサンの混合物からシクロヘキセンは低減されることとなるが、上記のように特開昭54-41843号公報に記載されるのはシクロヘキセンを分離後のベンゼンおよび/またはシクロヘキサンの混合物中からシクロヘキセンが除去されるか否かは不明の発明であるから、このことにより、引用文献1記載の発明の「燃料電池用燃料として利用される水素の製造用原料である都市ガスやLPガス」からシクロヘキセンが燃料電池用原燃料として用いることができる程度にまでシクロヘキセンを吸着除去できることが明らかであるとはいえない。
(5)さらに、本願発明1は、「メルカプタン類およびシクロヘキセンを共に吸着除去するための除去装置」であり、本願発明2は、「メルカプタン類、スルフィド類およびシクロヘキセンを共に吸着除去するための除去装置」であるところ、上記特開昭54-41843号公報にはシクロヘキセンを吸着することは記載されているものの、メルカプタン類またはメルカプタン類及びスルフィド類と共にシクロヘキセンを吸着することは記載されていない。メルカプタン類またはメルカプタン類及びスルフィド類を吸着することは、上記のように引用文献1に記載されているが、これらの付臭剤を吸着すると共にシクロヘキセンも併せて吸着できるか否かは引用文献1及び上記特開昭54-41843号公報の記載からは不明であり、これらから、引用文献1記載の発明が「メルカプタン類およびシクロヘキセンを共に吸着除去するための除去装置」又は「メルカプタン類、スルフィド類およびシクロヘキセンを共に吸着除去するための除去装置」であることが明らかであるともいえず、またそのようにすることが当業者にとって容易であるともいえない。

(6)以上のことから、拒絶査定で示された特開2006-291113号公報の記載及び特開昭54-41843号公報の記載をみても、引用文献1記載の発明の付臭剤除去装置がシクロヘキセンを吸着除去することが明らかであるとはいないから、本願発明1及び本願発明2は、引用文献1に記載された発明であるとはいえず、また燃料電池用原燃料ガス中のシクロヘキセンを吸着除去するために有効である除去装置として用いることが当業者にとって容易に想到できたことであるともいえないから、引用文献1に記載された事項から当業者が容易にすることができた発明であるともいえない。
さらに本願発明3は本願発明1または本願発明2をさらに限定したものであり、本願発明3が当業者が容易に発明をすることができたものとする根拠の1つとして示された引用文献2にも燃料電池用原燃料ガス中のシクロヘキセンを吸着除去することは記載されていないから、当業者が引用文献1及び引用文献2に記載された事項から容易にすることができた発明であるといえない。

第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし2に係る発明は引用文献1に記載された発明とはいえず、また、本願の請求項1ないし2に係る発明は、当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものではなく、さらに本願の請求項3に係る発明は、当業者が引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2015-05-25 
出願番号 特願2013-105682(P2013-105682)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高田 基史  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 松永 謙一
長馬 望
発明の名称 燃料電池用原燃料中の付臭剤除去装置  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  

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