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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C09D
管理番号 1301134
審判番号 不服2014-1540  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-01-28 
確定日 2015-06-09 
事件の表示 特願2009- 75327「紫外線硬化型コート組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月14日出願公開、特開2010-229188、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2009年3月26日を出願日とする特許出願であって、平成24年11月20日付けで拒絶理由が通知され、平成25年1月25日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月23日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成26年1月28日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1に係る発明は、平成25年1月25日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「紫外線硬化型モノマー、カチオン性成分、光重合開始剤を含有する紫外線硬化型コート組成物であって、紫外線硬化型モノマーがN-ヒドロキシエチルアクリルアミド及びアクリロイルモルホリンの混合物、カチオン性成分が第1?4級カチオン基含有重合性モノマー、またはそれらを単独重合もしくは他の重合性モノマーと共重合してなるカチオン性重合体であり、N-ヒドロキシエチルアクリルアミドにカチオン性重合体を溶解させたのち、アクリロイルモルホリンと混合することにより得られる紫外線硬化型コート組成物。」

第3 原査定の理由の概要

原査定の理由の概要は、本願発明は、下記の引用文献1、2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とするものである。

引用文献1.特開2005-104067号公報
引用文献2.特開2006-192634号公報

第4 当審の判断

1 引用文献に記載された事項

平成25年10月23日付け拒絶査定において引用された引用文献1、2には次の事項が記載されている。

[引用文献1(特開2005-104067号公報)]

1a 「【請求項1】
親水性単量体(a)、親水性重合体(b)及び無機質フィラー(c)を必須成分としてなるインク受容層形成用活性エネルギー線硬化型組成物(A)であって、(A)が式(1)を満たしてなることを特徴とするインク受容層形成用活性エネルギー線硬化型組成物。
【数1】

(1)式中、αは、膜厚25μmの(A)からなる塗膜を鉛筆硬度(JIS K 5400-1990、8.4 鉛筆引っかき値、8.4.1試験機法に準拠)Bの硬さまで硬化させるのに必要な活性エネルギー線の積算エネルギー照射量(mJ/cm^(2))、βは、(A)の製造24時間後の粘度(β1)と、40℃で6ヶ月間(A)を密閉保存した後の粘度(β2)との比(β2/β1)を表し、粘度は、JIS Z8803-1991 9.円すい及び円すい-平板形回転粘度計による粘度測定方法に準拠し、半径7mm、角度5.24×10^(-2)radの円すいを用いて25℃、100rpmで測定される。」

1b 「【0002】
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、10?2000ppmの保存安定化剤を添加しても、40℃以上の高温下では充分な保存安定性が得られず、粘度上昇又は自然硬化が生じるという問題がある。一方、2000ppmを超える保存安定化剤を添加すると、保存安定性は改良されるが、活性エネルギー線硬化型組成物自体の硬化性が悪くなるという欠点がある。
すなわち、本発明の目的は、保存安定性及び硬化性に優れた活性エネルギー線硬化型組成物を提供することである。」

1c 「【0006】
親水性単量体(a)としては、(N置換)カルバモイル基含有モノマー(a1)、カルボニルオキシ基及び/又はオキシカルボニル基を含有するモノマー(a2)、スルホ基含有モノマー(a3)、カルボキシル基含有モノマー(a4)、ホスホ基含有モノマー(a5)、及びその他親水性モノマー(a6)等が含まれる。なお、(N置換)カルバモイル基は、カルバモイル基又はN置換カルバモイル基を意味する。
【0007】
(N置換)カルバモイル基含有モノマー(a1)としては、一般式(2)又は(3)で表されるアミド等が含まれる。
【化1】

(2)式中、R^(1)は水素原子又はメチル基、R^(2)及びR^(3)は水素原子又は炭素原子数1?12の有機基を表し、R^(2)とR^(3)とは同じであっても異なっていてもよく、R^(2)とR^(3)は互いに結合し環を形成していてもよい。
・・・
【0014】
また、R^(2)及び/又はR^(3)がヒドロキシアルキル基であるアミドとしては、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド及びN,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
・・・
【0019】
また、R^(2)とR^(3)とが互いに結合し環を形成しているアミドとしては、N-(メタ)アクリロイルピペリジン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン、N-(メタ)アクリロイルピペラジン、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイル-2,6-ジメチルモルホリン及びN-(メタ)アクリロイルイミダゾリジン等が挙げられる。
・・・
【0062】
これらの親水性単量体(a)のうち、(N置換)カルバモイル基含有モノマー(a1)及びカルボニルオキシ基及び/又はオキシカルボニル基含有モノマー(a2)が好ましく、さらに好ましくは(a1)、特に好ましくは一般式(2)又は(3)で表される(N置換)アミド、最も好ましくはN,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-{N’,N’-ジメチルアミノエチル}(メタ)アクリルアミド、N-アクリロイルモルホリン、及びビニルホルムアミドである。
・・・
【0064】
これらの親水性単量体(a)は、1種又は2種以上の混合物でもよい。
2種以上の混合物の場合、一般式(2)又は(3)で表されるアミドを含むことが好ましく、さらに好ましくはこのアミドを(a)の重量に基づいて1?95重量%含有すること、特に好ましくは10?90重量%含有すること、最も好ましくは50?85重量%含有することである。一般式(2)又は(3)で表されるアミドを含むと、保存安定性がさらに良好となる。
また、(a)の粘度(mPa・s)は100?2000にすることが好ましく、さらに好ましくは200?1000、特に好ましくは300?800である。この範囲であると、保存安定性がさらに良好となる。なお、粘度は、JIS Z8803-1991 9.円すい及び円すい-平板形回転粘度計による粘度測定方法に準拠して半径7mm、角度5.24×10^(-2)radの円すいを用いて25℃、50rpmで測定される粘度である。」

1d 「【0066】
親水性重合体(b)としては、以下のものが含まれる。
(b1)ビニル(共)重合体
(i)ポリビニルアミド
ポリ(N-ビニルビロリドン)、N-ビニルピロリドン/ビニルアセテート共重合体(共重合比率1:10?10:1)、N-ビニルピロリドン/N-ビニルイミダゾール共重合体(共重合比率1:10?10:1)、N-ビニルピロリドン/N-ビニルカプロラクタム共重合体(共重合比率1:10?10:1)及びポリ(N-ビニルホルムアミド)等。
【0067】
(ii)ポリ(メタ)アクリルアミド
ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ{N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド}、ポリ{N-(N’,N’-ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド}、ポリ(ジメチル(メタ)アクリルアミド)、ポリ(ジエチル(メタ)アクリルアミド)、ポリ(N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド)、ポリ(N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド)、ポリ(N-(メタ)アクリロイルピペリジン)、ポリ(N-(メタ)アクリロイルピロリジン)、及びポリ(N-(メタ)アクリロイルモルホリン)等。
・・・
【0086】
親水性重合体(b)は1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
親水性重合体(b)の親水性単量体(a)100gに対する溶解度(g/100g、25℃)の下限は、5が好ましく、さらに好ましくは7、特に好ましくは10、最も好ましくは15である。この範囲であると、インク受容層形成用活性エネルギー線硬化型組成物(A)からなる塗膜がさらに均質となりやすい。
【0087】
すなわち、親水性重合体(b)は親水性単量体(a)に25℃で均一溶解していることが好ましく、このような(a)と(b)の組み合わせとしては、次の組み合わせが好ましく例示できる。
【表1】



1e 「【0105】
インク受容層形成用活性エネルギー線硬化型組成物(A)には、光重合開始剤(d)を配合することが出来る。
光重合開始剤(d)としては、ラジカル開始剤(d1)及びカチオン開始剤(d2)等が含まれる。
ラジカル開始剤(d1)としては、紫外線又は可視光線(波長200?800nm程度)を受けることによりラジカルを発生する化合物であれば制限なく使用でき、ベンゾイル基含有ラジカル開始剤、モルフォニル基含有ラジカル開始剤、リン原子含有ラジカル開始剤及びイオウ原子含有ラジカル開始剤等が使用できる。
ベンゾイル基含有ラジカル開始剤としては、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン及びベンゾフェノン等が挙げられる。
モルフォニル基含有ラジカル開始剤としては、2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン及び2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタン-1-オン等が挙げられる。
リン原子含有ラジカル開始剤としては、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキシド及び2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド等が挙げられる。
イオウ原子含有ラジカル開始剤としては、2,4-ジエチルチオキサントン及びイソプロピルチオキサントン等が挙げられる。」

1f 「【0122】
塗膜の形成は、JIS K5400(1990)「3.3試験片の作成(7.5)バーコーター塗り」に記載されたバーコーターNo.11と同等のバーコーターを用いて、ガラス板上(厚み2mm、塗工面とは反対の面をアルミホイルで覆うことで遮光してある。)に25μmの厚みで(A)を塗工し、塗工面に活性エネルギー線を垂直に照射し、硬化することによって得られる。
活性エネルギー線の積算エネルギー照射量は、上記の塗膜が鉛筆硬度Bの硬さまで硬化するまでのエネルギー照射量を市販の積算線量計{マイドーズPDM-112(アロカ製)、RAMTEC1000plus(東洋メディック製)等}又は、積算光量計{UVパワーメータC8026(浜松ホトニクス製)、UIT-150(ウシオ製)等}を用いて測定される。
活性エネルギー線とは、電子線、γ線、x線、紫外線、可視光線等が含まれる。これらのうち、装置が簡便性の観点等から、電子線、紫外線及び可視光線が好ましく、さらに好ましくは紫外線及び可視光線、特に好ましくは紫外線である。」

1g 「【0129】
本発明のインク受容層形成用活性エネルギー線硬化型組成物は、親水性アクリル単量体(a)、親水性重合体(b)及び無機質フィラー(c)、並びに、必要に応じて、溶媒、光重合開始剤(d)、光増感剤(e)、熱重合開始剤(f)、溶剤(g)及び/又は添加剤(h)を、撹拌混合することにより得ることができる。
【0130】
(a)?(h)の撹拌混合する順番には熱重合開始剤(g)を除き特に制限がなく、均一に撹拌混合できればよい。熱重合開始剤(g)は、(a)?(h){(g)を除く}を均一混合した後、20℃以下に冷却し、(g)を加え、均一に攪拌混合することが好ましい。撹拌混合温度(℃)としては熱重合開始剤(g)を除き均一撹拌混合できれば特に制限はないが、25?60が好ましく、さらに好ましくは30?50、特に好ましくは35?45である。熱重合開始剤(g)の撹拌混合温度(℃)としては、-10?20が好ましく、さらに好ましくは-5?15、特に好ましくは0?10である。撹拌混合時間(時間)としては熱重合開始剤(g)を除き均一撹拌混合できれば特に制限はないが、0.5?100が好ましく、さらに好ましくは1?80、特に好ましくは1.5?60である。熱重合開始剤(g)の撹拌混合時間(時間)としては均一撹拌混合できれば特に制限はないが、0.5?5が好ましく、さらに好ましくは1?4、特に好ましくは2?3である。」

1h 「【0132】
本発明の組成物は、紙、木材、石、ガラス、コンクリート、金属、プラスチック及び/又は金属蒸着プラスチック等にコーティングすることにより、インク受容層形成を形成することができる。これらのうち、プラスチック及び/又は金属蒸着プラスチック等のインク受容層形成に好適であり、特にプラスチックのインク受容層形成に好適である。」

1i 「【0135】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されない。
表2において、各実施例に対応する組成を各配合量で次のようにして均一配合した。
すなわち、各組成のうち、c2?c4及びc11を除く各組成を空気雰囲気下40℃に温調し、この温度で4時間混合攪拌したのち、c2?c4又はc11を仕込み、空気雰囲気下40℃に温調し、この温度で高速ホモミキサー(日本精機製作所製エクセルオートホモジナイザー)を用いて回転数600rpmで2時間攪拌混合して、本発明のインク受容層形成用活性エネルギー線硬化型組成物1?20(実施例1?20)及び比較用のインク受容層形成用活性エネルギー線硬化型組成物21?26(比較例1?6)を得た。なお、表中の数値は重量部を表し、表2で記載する略号の意味は次の通りである。
【0136】
a11:N,N-ジメチルアクリルアミド
a12:N,N-ジエチルアクリルアミド
a13:N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド
a14:N-(N’,N’-ジメチルアミノエチル)アクリルアミド
a15:N-アクリロイルモルホリン
a16:ビニルホルムアミド
a21:2-ヒドロキシエチルアクリレート
a22:4-ヒドロキシブチルアクリレート
a23:メトキシポリ(n=9)エチレングリコールアクリレート
a24:トリメチロールプロパンジアクリレート
a25:ポリ(n=9)エチレングリコールモノアクリレート
a26:2-アクリロイルオキシエチルコハク酸モノエステル
【0137】
b11:BASF製ルビテックK90パウダー(ポリビニルピロリドン)
b12:BASF製ルビテックVA64(ビニルピロリドン-ビニルアセテート共重合体)
b13:クラレ製PVA117(完全ケン化ポリビニルアルコール)
b14:クラレ製CM-318(カチオン変性ポリビニルアルコール)
b15:クラレ製PVA R-1130(シリル変性ポリビニルアルコール)
【0138】
c2:トクヤマ製ファインシールX-37B(湿式法により製造され得る非結晶性シリカ)
c3:富士シリシア製サイリシア470(湿式法により製造され得る非結晶性シリカ)
c4:グレースデビソン製サイロジェット703A(エアロゲル法により製造され得る非結晶シリカ)
c11:日本アエロジル製アエロジル200(燃焼法により製造された非結晶球状シリカ)
【0139】
d11:2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン
d12:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
h1:ハイドロキノンモノメチルエーテル
h2:ハイドロキノン
【0140】
【表2】

【0141】
インク受容層形成用活性エネルギー線硬化型組成物1?26の保存安定性、及び硬化性、及び印刷性として硬化後のインク受容層上の印刷画像の耐水性、及びインク受容層上の印刷画像のにじみについて評価し、これらの評価結果を表3に示した。
・・・
【0151】
【表3】



[引用文献2(特開2006-192634号公報)]

2a 「【請求項1】
9.0?16.0[cal/cm^(3)]^(1/2)の溶解度パラメーター(SP値)を持つアクリル単量体(a)、
第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基及び第4級アンモニオ基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有するエチレン性不飽和単量体単位を必須構成単位として含有する高分子(b)、
無機微粒子(c)、
並びに9.0?16.0[cal/cm^(3)]^(1/2)のSP値を持つエチレン性不飽和単量体(dd)からなる単位を必須構成単位として含有する架橋有機微粒子(d)
からなることを特徴とするインク受容層形成用活性エネルギー線硬化型組成物。
・・・
【請求項4】
高分子(b)がビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体、ビニルピロリドン/N-ビニルイミダゾール共重合体、ビニルピロリドン/ビニルカプロラクタム共重合体、ポリ(ビニルカプロラクタム)、ポリ(N-ビニルイミダゾール)、ビニルカプロラクタム/ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド/ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸共重合体、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド/ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸共重合体及びビニルピロリドン/N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリル酸共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1?3のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項5】
アクリル単量体(a)が一般式(1)で表される(メタ)アクリルアミドを含んでなる請求項1?4のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【化1】

(式中、R^(1)は水素原子又はメチル基、R^(2)及びR^(3)は水素原子又は炭素原子数1?12の有機基を表し、R^(2)とR^(3)とは同じであっても異なっていてもよく、R^(2)とR^(3)は互いに結合し環を形成していてもよい。)」

2b 「【0003】
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のインク受容層形成用組成物を用いて形成したインク受容層には、「乾燥性」、「光沢性」、「粘着性」の3つの機能を同時に満足するものはない。例えば、特許文献1に記載の組成物を用いて形成したインク受容層は、「光沢性」が不十分であり、特許文献2に記載の組成物を用いて形成したインク受容層は「乾燥性」と「粘着性」に関しては問題がある。すなわち、本発明の目的は、インクの乾燥が速く、光沢に優れ、空気中の湿気によるベタツキが生じにくいインク受容層を形成できるインク受容層形成用活性エネルギー線硬化型組成物を提供することである。」

2c 「【0007】
アクリル単量体(a)としては、1分子中に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有し、9.0?16.0(好ましくは9.5?15.5、さらに好ましくは9.6?14.0、特に好ましくは10.0?13.0)[cal/cm^(3)]^(1/2)の溶解度パラメーター(SP値)を持つ単量体が含まれる。
なお、本発明において、(メタ)アクリ・・・は、アクリ・・・及び/又はメタクリ・・・を意味する。また、SP値は、PolymerEngineer Science,vol.14,p.152に記載のFedorsの方法によって計算される値である。
アクリル単量体(a)としては、特開平10-330693号公報に記載されたSP値が11以上の不飽和単量体のうち(メタ)アクリロイル基を有するもの、及び特開平10-053608号公報に記載された極性基含有ビニルモノマー等が使用できる。
これらのアクリル単量体のうち、乾燥性の観点等から、一般式(1)で表されるN置換(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【化1】

式中、R^(1)は水素原子又はメチル基、R^(2)及びR^(3)は水素原子又は炭素原子数1?12の有機基を表し、R^(2)とR^(3)とは同じであっても異なっていてもよいが、同時に水素原子であることはなく、R^(2)とR^(3)は互いに結合し環を形成していてもよい。
・・・
【0016】
R^(2)及び/又はR^(3)がヒドロキシアルキル基であるアミドとしては、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド(SP値:14.6又は15.5)、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド(SP値:13.8又は14.5)及びN,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド(SP値:14.8又は15.4)等が挙げられる。
・・・
【0021】
R^(2)とR^(3)とが互いに結合し環を形成しているアミドとしては、N-(メタ)アクリロイルピペリジン(SP値:11.2又は11.4)、N-(メタ)アクリロイルピロリジン(SP値:11.5又は11.8)、N-(メタ)アクリロイルモルホリン(SP値:11.6又は12.0)、N-(メタ)アクリロイル-2,6-ジメチルモルホリン(SP値:10.7又は10.9)及びN-(メタ)アクリロイルイミダゾリジン(SP値:12.5又は13.0)等が挙げられる。
【0022】
一般式(1)で表されるN置換(メタ)アクリルアミドのうち、乾燥性の観点等から、R^(2)及び/又はR^(3)がヒドロキシアルキル基であるアミド、並びにR^(2)及び/又はR^(3)がアルキル基であるアミドが好ましく、さらに好ましくはR^(2)及び/又はR^(3)がアルキル基であるアミド、特に好ましくはN-エチル(メタ)アクリルアミド、N-メチル-N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-メチル-N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチル-N-n-プロピル(メタ)アクリルアミド及びN-エチル-N-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、最も好ましくはN,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド及びN,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドである。
【0023】
これらのアクリル単量体(a)は、1種又は2種以上の混合物でもよい。
2種以上の混合物の場合、一般式(1)で表されるN置換(メタ)アクリルアミドを含むことが好ましく、さらに好ましくはこのアミドを(a)の重量に基づいて1?95重量%含有すること、さらに好ましくは10?90重量%含有すること、特に好ましくは50?85重量%含有することである。一般式(1)で表されるN置換(メタ)アクリルアミドを含むと、乾燥性がさらに良好となる。」

2d 「【0024】
第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基及び第4級アンモニオ基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有するエチレン性不飽和単量体単位を必須構成単位として含有する高分子(b)としては、特開平05-106190号公報に記載されたカチオン性姓水溶性高分子、特開平10-211764号公報に記載されたピロリドン系ポリマー及びイミダゾール基含有ポリマー等が使用できる。
これらの高分子のうち、乾燥性及び粘着性の観点等から、ビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体、ビニルピロリドン/N-ビニルイミダゾール共重合体、ビニルピロリドン/ビニルカプロラクタム共重合体、ポリ(ビニルカプロラクタム)、ポリ(N-ビニルイミダゾール)、ビニルカプロラクタム/ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド/ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸共重合体、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド/ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸共重合体及びビニルピロリドン/N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリル酸共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、さらに好ましくはビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体、ビニルピロリドン/N-ビニルイミダゾール共重合体及びビニルピロリドン/ビニルカプロラクタム共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種である。」

2e 「【0038】
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物には、1分子中に少なくとも2個のエチレン性不飽和炭化水素基を有する単量体(f1)、光重合開始剤(g)、熱重合開始剤(i)、溶剤(j)及び/又は添加剤(k)を含むことができる。
単量体(f1)を含む場合、この含有量(重量%)は、(a)の合計重量に基づいて、0.1?40が好ましく、さらに好ましくは0.3?20、特に好ましくは0.5?10である。この範囲であると、粘着性がさらに良好となる。」

2f 「【0053】
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物は、アクリル単量体(a)、高分子(b)、無機微粒子(c)及び架橋有機微粒子(d)、並びに必要に応じて、少なくとも2個のラジカル重合性二重結合を有する単量体(f1)、光重合開始剤(g)、光増感剤(h)、熱重合開始剤(i)、溶剤(j)及び/又は添加剤(k)を、均一撹拌混合することにより得られる。これらの(a)?(k)の撹拌混合する順番には熱重合開始剤(i)を除き特に制限がなく、均一に撹拌混合できればよい。熱重合開始剤(i)は、(a)?(k){(i)を除く}を均一混合した後、20℃以下(好ましくは-10?20℃、さらに好ましくは-5?15℃、特に好ましくは0?10℃)に冷却し、(i)を加え、均一に攪拌混合することが好ましい。撹拌混合温度としては熱重合開始剤(i)を除き均一撹拌混合できれば特に制限はないが、25?60℃が好ましく、さらに好ましくは30?50℃、特に好ましくは35?45℃である。撹拌混合時間としては熱重合開始剤(i)を除き均一撹拌混合できれば特に制限はないが、0.5?100時間が好ましく、さらに好ましくは1?80時間、特に好ましくは1.5?60時間である。熱重合開始剤(i)の撹拌混合時間としては均一撹拌混合できれば特に制限はないが、0.5?5時間が好ましく、さらに好ましくは1?4時間、特に好ましくは2?3である。」

2g 「【0055】
本発明の活性エネルギー線硬化型組成物は、紙、木材、石、ガラス、コンクリート、金属、プラスチック及び/又は金属蒸着プラスチック等にコーティングすることにより、インク受容層形成を形成することができる。これらのうち、プラスチック及び/又は金属蒸着プラスチック等のインク受容層形成に好適であり、特にプラスチックのインク受容層形成に好適である。」

2h 「【0059】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されない。
表1に記載した材料を同表に記載した使用量で次のように均一混合して実施例1?15及び比較例1?4の活性エネルギー線硬化型組成物を得た。すなわち、c01?c04及び/又はd01?d04を除く各材料を空気雰囲気下40℃に温調し、この温度で混合攪拌(4時間)したのち、c01?c04及び/又はd01?d04を仕込み、空気雰囲気下40℃以下に保ちながら、高速ホモミキサー(日本精機製作所製エクセルオートホモジナイザー)を用いて回転数600rpmで2時間攪拌混合して、活性エネルギー線硬化型組成物1?19を得た。なお、表1中のa01?j01は以下の材料を意味し、使用量(数値)は重量部を意味する。
【0060】
a01:2-ヒドロキシエチルアクリレート
a02:4-ヒドロキシブチルアクリレート
a03:N-アクリロイルモルホリン
a04:2-ヒドロキシエチルアクリルアミド
a05:N-イソプロピルアクリルアミド
a06:N,N-ジメチルアクリルアミド
b01:BASF Corporation製Luvitec K-90(ポリビニルピロリドン)
b02:International Specialty Products製Viviprint300(ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド/ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体の30重量%水溶液)
b03:BASF Corporation製LuvitecVPI55K72W(ビニルピロリドン/ビニルイミダゾール共重合体の20重量%水溶液)
b04:BASF Corporation製LuvitecVPC55K65W(ビニルピロリドン/ビニルカプロラクタム共重合体の30重量%水溶液)
c01:(株)トクヤマ製ファインシールX-37B(湿式法シリカ微粒子)
c02:CABOT Corporation製SpectrAl(アルミナ微粒子)
c03:日本アエロジル(株)製Aerosil50(気相法シリカ微粒子、一次平均粒子径:50nm)
c04:日本アエロジル(株)製Aerosil300(気相法シリカ微粒子、一次平均粒子径:7nm)
d01:BASF Corporation製Luvicross(架橋ポリビニルピロリドン粒子、体積平均粒子径:250μm)
d02:BASF Corporation製LuvicrossVI(架橋ビニルピロリドン/ビニルイミダゾール共重合体粒子、体積平均粒子径:250μm)
d03:BASF Corporation製LuvicrossM(架橋ポリビニルピロリドン粒子、体積平均粒子径:15μm)
d04:BASF Corporation製LuvicrossVI-M(架橋ビニルピロリドン/ビニルイミダゾール共重合体粒子、体積平均粒子径:15μm)
f11:共栄社化学(株)製ライトアクリレート4EG-A(PEG200#ジアクリレート)
f12:BASF Corporation製Laromer8812(アミン変性3官能アクリレート単量体)
g01:1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン
j01:エタノール
j02:イオン交換水
k01:ハイドロキノンモノメチルエーテル
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
実施例1?15及び比較例1?4で得た活性エネルギー線硬化型組成物を用いて、以下のようにしてインク受容層を調製し、これらのインク受容層について、以下の評価方法により、「粘着性」、「光沢性」、「乾燥性」、「にじみ」及び「耐水性」を評価し、表3に示した。
【0064】
<インク受容層の調製>
コクヨ(株)製インクジェットプリンタ用OHPフィルム(品番VF-1100N)に、JIS K5400(1990)「3.3試験片の作成(7.5)バーコーター塗り」に記載されたバーコーターNo.18と同等のバーコーター(コーティングテスター工業製バーコーター18番)を用いて、インク受容層形成用活性エネルギー線硬化型組成物を塗工し、塗工面に紫外線(メタルハライドランプ)を照射することによって硬化した後(硬化条件は以下の通りである)、50℃の循風乾燥機で15分間乾燥することによって(実施例7で得た活性エネルギー線硬化型組成物については乾燥することなく、紫外線照射による硬化のみにより)、インク受容層を調製した。
紫外線硬化条件:コンベア式露光機{ウシオ電機(株)製ユニキュアUVC-02516S1AGM01}と超高圧水銀ランプ(ウシオ電機(株)製UVL-4001-N)とを用い、コンベア速度3m/分で500mJ/cm^(2)の紫外線を照射した。
・・・
【0070】
【表3】



2 引用文献1に記載された発明

(1) 引用文献1の1a、1e?1hの記載によれば、引用文献1には、「親水性単量体(a)、親水性重合体(b)、光重合開始剤(d)を含有する紫外線硬化型組成物(A)。」が記載されているといえる。

(2) ここで、引用文献1の1dの【表1】の項番6、10、11に関する記載及び同じく1iの【表2】の実施例3、5、6、11、15、18に関する記載によれば、引用文献1には、「親水性単量体(a)」として、「N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド」または、「N-アクリロイルモルホリン」を用いることが開示されている。

(3) また、引用文献1の1dの記載によれば、引用文献1には、「親水性重合体(b)」として、「ポリ{N-(N’,N’-ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド}」を用いることが開示されている。

(4) 上記(1)?(3)の記載事項及び認定事項を整理すると、引用文献1(実施例)には、以下の発明が記載されているといえる。

「親水性単量体(a)、親水性重合体(b)、光重合開始剤(d)を含有する紫外線硬化型組成物(A)であって、親水性単量体(a)がN-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、または、N-アクリロイルモルホリンであり、親水性重合体(b)がポリ{N-(N’,N’-ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド}である紫外線硬化型組成物(A)。」(以下、「引用発明1」という。)

3 引用文献2に記載された発明

(1) また、引用文献2の2a、2e、2g、2hの記載によれば、引用文献2には、「アクリル単量体(a)、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基及び第4級アンモニオ基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有するエチレン性不飽和単量体単位を必須構成単位として含有する高分子(b)、光重合開始剤(g)を含有する紫外線硬化型組成物。」が記載されているといえる。

(2) ここで、引用文献2の2c、同じく2hの【表1】の実施例2、3、5、7、10?14に関する記載によれば、引用文献2には、「親水性単量体(a)」としては、「N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド」または、「N-アクリロイルモルホリン」を用いることが開示されている。

(3) また、引用文献2の2dの記載によれば、引用文献2には、「第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基及び第4級アンモニオ基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有するエチレン性不飽和単量体単位を必須構成単位として含有する高分子(b)」として、「ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド/ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸共重合体」を用いることが開示されている。

(4) 上記(1)?(3)の記載事項及び認定事項を整理すると、引用文献2には、以下の発明が記載されているといえる。

「アクリル単量体(a)、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基及び第4級アンモニオ基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有するエチレン性不飽和単量体単位を必須構成単位として含有する高分子(b)、光重合開始剤(g)を含有する紫外線硬化型組成物であって、アクリル単量体(a)がN-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、または、N-アクリロイルモルホリンであり、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基及び第4級アンモニオ基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有するエチレン性不飽和単量体単位を必須構成単位として含有する高分子(b)がジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド/ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸共重合体である紫外線硬化型組成物。」(以下、「引用発明2」という。)

4 本願発明についての検討

(1) 引用発明1を主引用発明とした場合について

ア 対比

本願発明と引用発明1とを対比する。

(ア) 引用発明1の「親水性単量体(a)」である「N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、または、N-アクリロイルモルホリン」が紫外線により硬化するモノマーであることは当業者に顕著であることから、引用発明1の「親水性単量体(a)」は、本願発明の「紫外線硬化型モノマー」に相当する。

(イ) 引用発明1の「親水性重合体(b)」である「ポリ{N-(N’,N’-ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド}」がカチオン性の成分であること及び第1?4級カチオン基含有重合性モノマー、またはそれらを単独重合もしくは他の重合性モノマーと共重合してなるカチオン性重合体に包含されることは当業者に顕著であることから、引用発明1の「親水性重合体(b)」は、本願発明の「第1?4級カチオン基含有重合性モノマー、またはそれらを単独重合もしくは他の重合性モノマーと共重合してなるカチオン性重合体(カチオン性成分)」に相当する。

(ウ) 引用発明1の「光重合開始剤(d)」、「紫外線硬化型組成物(A)」は、それぞれ本願発明の「光重合開始剤」、「紫外線硬化型コート組成物」に相当する。

してみると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>

紫外線硬化型モノマー、カチオン性成分、光重合開始剤を含有する紫外線硬化型コート組成物であって、カチオン性成分が第1?4級カチオン基含有重合性モノマー、またはそれらを単独重合もしくは他の重合性モノマーと共重合してなるカチオン性重合体である紫外線硬化型コート組成物。

<相違点1a>

紫外線硬化型モノマーについて、本願発明は、「N-ヒドロキシエチルアクリルアミド及びアクリロイルモルホリンの混合物」であるのに対して、引用発明1は、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド(N-ヒドロキシエチルアクリルアミド)、または、N-アクリロイルモルホリン(アクリロイルモルホリン)であり、それらの混合物であるかについては不明である点。

<相違点1b>

紫外線硬化型コート組成物について、本願発明では、「N-ヒドロキシエチルアクリルアミドにカチオン性重合体を溶解させたのち、アクリロイルモルホリンと混合することにより得られる」と規定しているのに対して、引用発明1は、「」が特定されていない点。

イ 判断

(ア) 相違点1aについて

引用発明1の紫外線硬化型モノマーは、引用文献1の1dの【0064】の「これらの親水性単量体(a)は、1種又は2種以上の混合物でもよい。」との記載によれば、親水性単量体(a)である「N-ヒドロキシエチルアクリルアミド」と他の親水性単量体(a)である「アクリロイルモルホリン」の混合物を一応包含するものである。

そこで、本願発明の効果について検討すると、本願明細書には、「皮膚刺激性の小さいN-ヒドロキシエチルアクリルアミドを用いることで、安全性が高くなる。また、カチオン性ポリマー等を溶解することが可能であるため、さまざまな用途に用いることが可能な紫外線硬化型コート組成物を提供することができる。インク受容層として用いた場合は、インク吸収性、耐タック性、基材との密着性を向上させ、コーティング剤として使用した時には基材との密着性を向上させる帯電防止コーティングとして有用である。その他用途にも有用である紫外線硬化型コート組成物を提供することができる」(【0010】)及び、「安全であるとともに、優れたインク吸収性、耐タック性、耐水性、印刷画像の乾燥性、耐にじみ性も良好なインク受容層を形成する」(【0014】)と記載され、2種の特定の紫外線硬化型モノマーの混合物を混合することにより、優れたインク吸収性、耐タック性、耐水性、印刷画像の乾燥性、耐にじみ性も良好なインク受容層を形成するという、優れた効果を奏するものである。また、実施例によれば、「紫外線硬化型モノマー」が、本願発明である「N-ヒドロキシエチルアクリルアミド」と「アクリロイルモルホリン」の「混合物」である場合、耐にじみ性の面で、本願発明の範囲外の紫外線硬化型モノマー(比較例1、2)よりも優れていることが認められる。

以上からみて、本願発明は、「紫外線硬化型モノマー」を、「N-ヒドロキシエチルアクリルアミド」と「アクリロイルモルホリン」の「混合物」とすることによって、優れたインク吸収性、耐タック性、耐水性、印刷画像の乾燥性、耐にじみ性も良好なインク受容層を形成することができるという優れた効果を奏するものと認められる。

これに対して、引用発明1は、発明の詳細な説明の記載を参照しても、混合により「優れたインク吸収性、耐タック性、耐水性、印刷画像の乾燥性、耐にじみ性も良好なインク受容層を形成することができるという優れた効果」が達成されることを容易に予測できるものではない。

よって、「紫外線硬化型モノマー」を、「N-ヒドロキシエチルアクリルアミド」と「アクリロイルモルホリン」の「混合物」とすることは、引用発明1における一つの可能性として想定できるとしても、本願発明の効果は、引用発明1から容易に予測できない顕著なものと認められ、上記相違点1aは実質的なものである。

(イ) 相違点1bについて

引用発明1の紫外線硬化型コート組成物は、引用文献1の1gの記載によれば、「撹拌混合する順番には・・・特に制限がなく、均一に撹拌混合できればよい。」と言及していることから、「N-ヒドロキシエチルアクリルアミド」に「カチオン性重合体」を溶解させたのち、「アクリロイルモルホリン」と混合することにより得られる場合を一応包含するものである。

次に、本願発明の効果について検討する。本願明細書には、「N-ヒドロキシエチルアクリルアミドは第1?4級カチオン基含有重合性モノマー、または種々のカチオン性重合体の溶解性に優れる」(【0013】)こと、また、審判請求人が平成26年3月13日に提出した審判請求書の理由補充のための手続補正書によれば、「N-ヒドロキシエチルアクリルアミドにカチオン性重合体を溶解させたのち、アクリロイルモルホリンと混合することを特徴とするものであって、このような順番で添加することによりN-ヒドロキシエチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン及びカチオン性重合体の均一且つ透明な溶液を取得することができる。本願発明は、特定の混合順としたことにより、本願明細書の[0006]に記載した、コート組成物にカチオン成分を含有させた場合、カチオン成分の溶解性が不十分なために不溶解物が析出する、相分離する等の問題を解決したものである」(第2頁)ことが記載され、また、同じく審判請求書の理由補充のための手続補正書に添付された実験成績証明書によれば、「N-ヒドロキシエチルアクリルアミド」は、「カチオン性重合体」に対して優れる溶解性を有する一方、「アクリロイルモルホリン」にはカチオン性重合体が溶解しないこと、また、「N-ヒドロキシエチルアクリルアミド」と「アクリロイルモルホリン」を混合させたのち、「カチオン性重合体」を添加すると、当該「カチオン性重合体」を溶解することはできないが、「N-ヒドロキシエチルアクリルアミド」に「カチオン性重合体」を溶解させてから、「アクリロイルモルホリン」を混合した場合、「カチオン性重合体が析出せず、目的の「N-ヒドロキシエチルアクリルアミド」、「アクリロイルモルホリン」及び「カチオン性重合体」の溶液を取得することができるという、格別の効果を奏することが認められる。

以上からみて、本願発明は、「N-ヒドロキシエチルアクリルアミド」に「カチオン性重合体」を溶解させたのち、「アクリロイルモルホリン」と混合することによって、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン及びカチオン性重合体の均一且つ透明な溶液を取得することができるという優れた効果を奏するものと認められる。

これに対して、引用発明1は、発明の詳細な説明の記載を参照しても、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン及びカチオン性重合体の均一且つ透明な溶液を取得することができるという優れた効果」が達成されることを容易に予測できるものではない。

よって、「紫外線硬化型コート組成物」を、「「N-ヒドロキシエチルアクリルアミド」に「カチオン性重合体」を溶解させたのち、「アクリロイルモルホリン」と混合すること」は、引用発明1における一つの可能性として想定できるとしても、本願発明の効果は、引用発明1から容易に予測できない顕著なものと認められ、上記相違点1bも実質的なものである。

(ウ) 小括

よって、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2) 引用発明2を主引用発明とした場合について

ア 対比

本願発明と引用発明2とを対比する。

(ア) 引用発明2の「アクリル単量体(a)」である「N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、または、N-アクリロイルモルホリン」が紫外線により硬化するモノマーであることは当業者に顕著であることから、引用発明2の「アクリル単量体(a)」は、本願発明の「紫外線硬化型モノマー」に相当する。

(イ) 引用発明2の「第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基及び第4級アンモニオ基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有するエチレン性不飽和単量体単位を必須構成単位として含有する高分子(b)」である「ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド/ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸共重合体」がカチオン性の成分であること及び第1?4級カチオン基含有重合性モノマー、またはそれらを単独重合もしくは他の重合性モノマーと共重合してなるカチオン性重合体に包含されることは当業者に顕著であることから、引用発明2の「第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基及び第4級アンモニオ基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有するエチレン性不飽和単量体単位を必須構成単位として含有する高分子(b)」は、本願発明の「第1?4級カチオン基含有重合性モノマー、またはそれらを単独重合もしくは他の重合性モノマーと共重合してなるカチオン性重合体(カチオン性成分)」に相当する。

(ウ) 引用発明2の「光重合開始剤(g)」、「紫外線硬化型組成物」は、それぞれ本願発明の「光重合開始剤」、「紫外線硬化型コート組成物」に相当する。

してみると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>

紫外線硬化型モノマー、カチオン性成分、光重合開始剤を含有する紫外線硬化型コート組成物であって、カチオン性成分が第1?4級カチオン基含有重合性モノマー、またはそれらを単独重合もしくは他の重合性モノマーと共重合してなるカチオン性重合体である紫外線硬化型コート組成物。

<相違点2a>

紫外線硬化型モノマーについて、本願発明は、「N-ヒドロキシエチルアクリルアミド及びアクリロイルモルホリンの混合物」であるのに対して、引用発明2は、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド(N-ヒドロキシエチルアクリルアミド)、または、N-アクリロイルモルホリン(アクリロイルモルホリン)であり、それらの混合物であるかについては不明である点。

<相違点2b>

紫外線硬化型コート組成物について、本願発明では、「N-ヒドロキシエチルアクリルアミドにカチオン性重合体を溶解させたのち、アクリロイルモルホリンと混合することにより得られる」と規定しているのに対して、引用発明2は、「」が特定されていない点。

イ 判断

(ア) 相違点2aについて

相違点2aについては、上記相違点1aと同一であることから、当該相違点1aで検討したものと同様に実質的なものである。

(イ) 相違点2bについて

相違点2bについても、上記相違点1bと同一であることから、当該相違点1bで検討したものと同様に実質的なものである。

(ウ) 小括

よって、本願発明は、引用文献2に記載された発明に基いても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3) その他

引用発明1と引用発明2をどのように組み合わせても上記相違点1a(1b)、2a(2b)は依然として存在することから、引用文献1、2に記載された発明に基いても当業者が容易になし得たものとは認められない。

(4) まとめ

以上のとおりであって、本願発明は、引用文献1または、2に記載された発明のいずれに基いても、または、引用文献1、2に記載された発明に基いても当業者が容易になし得たものとは認められない。

第5 むすび

以上のとおりであるから、本願については、原査定の拒絶理由を検討しても、その理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2015-05-26 
出願番号 特願2009-75327(P2009-75327)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C09D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 服部 芙美  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 國島 明弘
菅野 芳男
発明の名称 紫外線硬化型コート組成物  

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