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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07F
管理番号 1301171
審判番号 不服2013-16791  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-30 
確定日 2015-05-18 
事件の表示 特願2009-548644「イソシアナトオルガノシランの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年8月14日国際公開、WO2008/095791、平成22年5月27日国内公表、特表2010-518041〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年1月25日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2007年2月7日(DE)ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成24年4月24日付けで拒絶の理由が通知され、同年7月24日に意見書が提出されたが、平成25年4月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月30日に拒絶査定に対する審判請求がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1に記載した事項により特定される、以下に記載のとおりのものであると認められる。
「イソシアナート官能基を有するシランを、
前記シランをそれらの化学的製造後に精製し、かつ精製後に10%未満の相対大気湿度を有する雰囲気中で専ら取り扱うことによって、
製造する方法。」(以下、「本願発明」という。)

第3 原査定の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1?4に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものであるところ、刊行物1?4は下記のとおりである。

刊行物1 特表2005-501146号公報
刊行物2 特表昭63-500178号公報
刊行物3 特開平9-143141号公報
刊行物4 特開昭63-51367号公報

第4 当審の判断
1 刊行物及びその記載事項
(1) 刊行物1(特表2005-501146号公報)
原査定の拒絶の理由において「引用文献1」として引用されたこの出願の優先日前に頒布された刊行物である「特表2005-501146号公報」(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。
1-a 「例1:
イソシアナトメチル-トリメトキシシランの製造:
クロロメチル-トリメトキシシランから出発してメチルカルバマトメチル-トリメトキシシランを公知の方法(US3,494,951)により合成する。
石英ウールを充填した石英の熱分解管中へアルゴンガス流下に該シランをポンプで送入する。熱分解管中の温度は420?470℃である。粗生成物を加熱時間の終わりに冷却器を用いて凝縮させ、かつ回収する。無色の液体を減圧下での蒸留により精製する。頭部を介して約88?90℃(82ミリバール)で、99%を上回る純度の所望の生成物を排出し、他方、塔底で未反応のカルバメートを再度単離することができる。これを熱分解に直接再供給することができる。
メチルカルバマトメチル-トリメトキシシラン56.9g(273ミリモル)から出発して所望の生成物33.9g(191ミリモル)はイソシアナトメチル-トリメトキシシランを97%を上回る純度で含有する。これは理論値の70%の収率に相応する。」(【0043】?【0045】)

(2) 刊行物2(特表昭63-500178号公報)
原査定の拒絶の理由において「引用文献2」として引用されたこの出願の優先日前に頒布された刊行物である「特表昭63-500178号公報」(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。
2-a 「R^(1)とR^(6)は、独立的に、1乃至20炭素原子の非芳香族ヒドロカルビルまたはハロ置換ヒドロカルビル基もしくは1乃至10炭素原子のカルボキシアルキル基である。
・・・
R^(4)とR^(5)は、1乃至20炭素原子の二価のヒドロカルビル基またはハロヒドロカルビル基である。
・・・a、b、f及びeで指定される数は、独立的に0-3であり、・・・、a+b+g=f+e+h=3である。」(第3頁左上欄第2行?下から第2行)
2-b 「この発明の定着剤は、多くの異なつた方法でつくることができる。調整の好ましい方法は、式Aの化合物を式Bの化合物と反応させることである。
式 A
(R^(1)-O)_(a)-Si-R^(4)-N=C=O
式 B
NH_(2)-R^(5)-Si-(OR^(6))_(e)
R^(1)、R^(4)、R^(5)、R^(6)並びにa、c、d及びeは前述のものである。反応は、2つの成分を混合すると熱の発生を伴ない、かつ自然発生的である。反応は、一般的に、窒素のような不活性ガスブラケツトの存在のもとで行なわれるが、これは、その化合物の湿気との反応を避けるためである。
一般的に、約0.95乃至約1.0モルの式Bを式Aの1モルについて利用するが、これは、より一層多いかまたは少ない量を利用することができるが、等しいモル比率が好まれる状態においてである。反応は、約40℃乃至約100℃の温度で大気圧で行なわれる。式Bは、Aに、温度計を備えており窒素でガスシールした三ツ口フラスコ内で攪拌しながら、添加する。」(第3頁右下欄第3行?下から第3行)

2 刊行物1に記載された発明
刊行物1には「石英ウールを充填した石英の熱分解管中へアルゴンガス流下に該シランをポンプで送入する。熱分解管中の温度は420?470℃である。粗生成物を加熱時間の終わりに冷却器を用いて凝縮させ、かつ回収する。無色の液体を減圧下での蒸留により精製する。頭部を介して約88?90℃(82ミリバール)で、99%を上回る純度の所望の生成物を排出し、他方、塔底で未反応のカルバメートを再度単離することができる。これを熱分解に直接再供給することができる。」(1-a)ことが記載されており、ここで、「メチルカルバマトメチル-トリメトキシシラン・・・から出発して所望の生成物・・・イソシアナトメチル-トリメトキシシラン」(1-a)と記載されていることから、「該シラン」は「メチルカルバマトメチル-トリメトキシシラン」であり、また「所望の生成物」は「イソシアナトメチル-トリメトキシシラン」を意味することが明らかである。
してみると、刊行物1には、
「石英ウールを充填した石英の熱分解管中へアルゴンガス流下にメチルカルバマトメチル-トリメトキシシランをポンプで送入し、熱分解管中の温度は420?470℃とし、粗生成物を加熱時間の終わりに冷却器を用いて凝縮させ、かつ回収し、無色の液体を減圧下での蒸留により精製して、頭部を介して約88?90℃(82ミリバール)で、99%を上回る純度のイソシアナトメチル-トリメトキシシランを排出し、他方、塔底で未反応のカルバメートを再度単離する方法。」
に関する発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3 対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「イソシアナトメチル-トリメトキシシラン」は、本願発明の「イソシアナート官能基を有するシラン」に相当する。
また、引用発明の「石英ウールを充填した石英の熱分解管中へアルゴンガス流下にカルバマトメチル-トリメトキシシランをポンプで送入し、熱分解管中の温度は420?470℃とし、粗生成物を加熱時間の終わりに冷却器を用いて凝縮させ、かつ回収し」はカルバマトメチル-トリメトキシシランを熱分解してイソシアナトメチル-トリメトキシシランの粗生成物を製造する方法を示していること、及び「無色の液体を減圧下での蒸留により精製して」はイソシアナトメチル-トリメトキシシランを精製する方法を示していることを考慮すると、結局、引用発明の「石英ウールを充填した石英の熱分解管中へアルゴンガス流下にカルバマトメチル-トリメトキシシランをポンプで送入し、熱分解管中の温度は420?470℃とし、粗生成物を加熱時間の終わりに冷却器を用いて凝縮させ、かつ回収し、無色の液体を減圧下での蒸留により精製して、頭部を介して約88?90℃(82ミリバール)で、99%を上回る純度のイソシアナトメチル-トリメトキシシランを排出(する。)」は、本願発明の「前記シランをそれらの化学的製造後に精製し、製造する」に相当する。
してみると、本願発明と引用発明とは、
「イソシアナート官能基を有するシランを、
前記シランをそれらの化学的製造後に精製し、
製造する方法。」
である点で一致し、両者は以下の点で相違している。
[相違点] イソシアナート官能基を有するシランを製造する方法について、本願発明が「精製後に10%未満の相対大気湿度を有する雰囲気中で専ら取り扱うことによって」製造するのに対し、引用発明においては「精製後に10%未満の相対大気湿度を有する雰囲気中で専ら取り扱うことによって」製造することは規定されていない点

4 相違点についての判断
刊行物2には、式Aとして「(R^(1)-O)_(a)-Si-R^(4)-N=C=O」(R^(1)は1炭素原子の非芳香族ヒドロカルビル基、R^(4)は1炭素原子の二価のヒドロカルビル基、a=3をとり得るものであり、これはイソシアナトメチル-トリメトキシシランである。)を式Bの化合物と反応させる際に、化合物の湿気との反応を避けるために窒素のような不活性ガス雰囲気下で行うことが記載され(2-a,2-b)、またイソシアナート基が極めて反応性が高いことも当業者に良く知られたことである。
そうすると、イソシアナトメチル-トリメトキシシランのような「イソシアナート官能基を有するシラン」について、そのような化合物の湿気との反応を避けるため窒素のような不活性ガス雰囲気中で取り扱うことは技術常識であるということができる。
したがって、引用発明において、イソシアナート官能基を有するシランを、精製後に湿気との反応を避けるために相対大気湿度を可能な限り低減することを目的として、(窒素のような)10%未満の相対大気湿度を有する雰囲気中で専ら取り扱うことによって製造することは当業者が容易に想到し得ることである。

5 本願発明の効果について
本願発明の効果は「イソシアナト官能性シラン・・・がそれぞれ最後の精製工程の後に、決して(空気)湿分と接触していない場合に明らかに改善される貯蔵安定性を有する」(本願明細書の【0025】)というものであるところ、イソシアナトメチル-トリメトキシシランのようなイソシアナート官能基を有するシランを「精製後」に「低い相対大気湿度を有する雰囲気中で専ら取り扱うこと」によって製造すれば、湿気との反応による当該シランの分解が避けられることにより、改善される貯蔵安定性を有することは明らかであるので、「明らかに改善される貯蔵安定性を有する」という効果は、イソシアナトメチル-トリメトキシシランのようなイソシアナート官能基を有するシランを「精製後に10%未満の相対大気湿度を有する雰囲気中で専ら取り扱うことによって」製造すれば当然に奏する効果である。
しかも、「10%未満の相対大気湿度」なる数的限定に臨界的意義は見いだせない。
したがって、本願発明が格別顕著な技術的効果を奏し得たものであるとは認められない。

6 請求人の主張について
請求人は平成25年8月30日に提出した審判請求書において以下のように主張している。
「従来のイソシアナートの分解は、利用できる水(蒸気や湿気)が存在しなくなるとすぐに停止します。そのため、水が存在しない場合には、通常、さらなる反応は起こりません。水(蒸気や湿気)との短い接触の後、残った未反応のイソシアナートは、完全に安定なのです。
よって、従来のイソシアナートが短時間だけ(例えば包装する間)大気と接触したとしても、非常に少量の材料しか反応しません。通常、このような短時間の大気との接触の後の分解はごくわずかであり、検出することさせできません。したがって、このような短時間の大気との接触を防ぐことは、当業者であっても想到し得たものではありません。
一方、イソシアナート官能性シランは、TDIのような従来のイソシアナートとは明らかに異なった反応が起こるのです。具体的には、イソシアナート官能性シランは、以下の多様な反応が起こるのです(スキーム2参照)。

これらのさらなる反応は、イソシアナート官能性シランがイソシアナート基とシリル基の両方を含有することでのみ起こるものです。残念ながら、これらの反応のいくつかは、定量の水を必要としません。すなわち、材料を気密及び密閉した容器中に保存した場合であっても、これらのさらなる反応は起こるのです。よって、イソシアナート官能性シランの貯蔵安定性は、従来のイソシアナートの貯蔵安定性よりも、非常に重要な問題なのです。
ここで、本願発明の重要な特徴は、この材料の最終精製後に大気との接触が全くなくても起こるイソシアナート官能性シランの“嫌気性の”分解が顕著に減少するという驚くべき知見に基づくものです。」(審判請求書第4頁下から12行?第6頁第6行)
請求人の主張は、従来のイソシアナート(注.イソシアナート官能性シラン以外のイソシアナート)の分解は利用できる水(蒸気や湿気)が存在しなくなるとすぐに停止するため、従来のイソシアナートは、短時間だけ(例えば包装する間)大気と接触したとしても非常に少量のイソシアナートしか反応せず残った未反応のイソシアナートは完全に安定となるので、気密状態に保存しさえすれば貯蔵安定性が確保されるのに対し、イソシアナート官能性シランは、短時間だけ(例えば包装する間)の大気との接触でさえも、大気中に含まれる水と反応してメタノール分子(注.イソシアナート官能性シランを構成するメトキシ-ケイ素結合が分解して生成したもの。)が生成し、この生成したメタノール分子は更に残りのイソシアナート官能性シランと反応して更に別のメタノール分子が生成するというプロセスが以後延々と繰り返されるので、イソシアナート官能性シランを保存する場合には、短時間だけ(例えば包装する間)でも大気と接触してしまえば、例えその後気密状態に保存したとしてもイソシアナート官能性シランの分解反応は停止せず貯蔵安定性が確保されないことになるから、イソシアナート官能性シランが貯蔵安定性を有するようにした本願発明は格別顕著な効果を奏する、という趣旨の主張と解される。
しかしながら、スキーム2は「(メトキシ基のような)アルコキシ基がケイ素原子に結合した構造を有するイソシアナート官能性シラン」が水と反応して分解する反応スキームについてのものであるところ、本願発明のイソシアナート官能性シランは「アルコキシ基がケイ素原子に結合した構造を有する」ものに限定されていない(例えば、イソシアナトアルキル-トリアルキルシランも本願発明のイソシアナート官能性シランに包含される。)。そして、「アルコキシ基がケイ素原子に結合した構造を有しないイソシアナート官能性シラン」の場合には、スキーム2のようなイソシアナート官能性シランが水と反応して分解しメタノール(アルカノール)が生成する反応は起こり得ないから、生成したメタノール分子が更に残りのイソシアナート官能性シランと反応して更に別のメタノール分子が生成するというプロセスが以後延々と繰り返されることはないので、請求人の主張は特許請求の範囲に基づく主張ではなく、イソシアナート官能性シランが「アルコキシ基がケイ素原子に結合した構造を有しないイソシアナート官能性シラン」である場合をも包含する本願発明においては、請求人が主張する効果は本願の特許請求の範囲に記載された発明全体において奏する格別顕著な効果ということはできない。
また、イソシアナトメチル-トリメトキシシランのようなイソシアナート官能基を有するシランを、精製後に10%未満の相対大気湿度を有する雰囲気中、例えば窒素雰囲気中で専ら取り扱うことによって製造すれば、水(蒸気や湿気)との反応に起因するスキーム2のようなイソシアナート官能基を有するシランの分解は起こりえないから、イソシアナトメチル-トリメトキシシランのようなイソシアナート官能基を有するシランが「改善される貯蔵安定性を有する」という効果は、イソシアナトメチル-トリメトキシシランのようなイソシアナート官能基を有するシランを「精製後に10%未満の相対大気湿度を有する雰囲気中で専ら取り扱うことによって」製造すれば当然に奏する効果である。
したがって、本願発明が格別顕著な技術的効果を奏し得たものであるとは認められない。

7 まとめ
したがって、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-18 
結審通知日 2014-12-19 
審決日 2015-01-06 
出願番号 特願2009-548644(P2009-548644)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今井 周一郎  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 木村 敏康
唐木 以知良
発明の名称 イソシアナトオルガノシランの製造方法  
代理人 浅野 真理  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 小島 一真  
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