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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1301183
審判番号 不服2012-11556  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-21 
確定日 2015-05-20 
事件の表示 特願2008- 91579「能動的塞栓形成のための微小球」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月18日出願公開、特開2008-214355〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2001年3月23日(優先権主張 外国庁受理 2000年3月24日 米国(US))を国際出願日とする特願2001-570242号の一部を平成20年3月31日に新たな特許出願としたものであり、その後の経緯は以下のとおりである。

平成20年 4月30日 手続補正書の提出
平成23年 4月26日付け 拒絶理由の通知及び同日出願の協議指令 (平成23年4月26日当時適用されて いた平成23年法律第63号による改正 前の特許法第39条第7項の規定に基づ く指令)
同年11月17日 意見書及び手続補正書の提出
平成24年 2月17日付け 拒絶査定
同年 6月21日 拒絶査定不服審判の請求及び手続補正書 の提出
同年10月 5日付け 前置審査の結果の報告
平成25年10月10日付け 審尋
平成26年 4月14日 回答書の提出
平成26年 5月 9日付け 当審における拒絶理由の通知
同年11月12日 意見書及び手続補正書の提出

第2 本願発明
本願請求項1?13に係る発明は、平成26年11月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明は次のとおりである。

「【請求項1】
生物適合性であるアクリル酸ナトリウムおよびビニルアルコールコポリマー、ならびにパクリタキセル、シスプラチン、マイトマイシン、タモキシフェン、ドキソルビシンまたはこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種の薬剤から実質的に成り、直径が10μm?2000μmの範囲内である、能動的塞栓形成に適した実質的に球体の微小球。」

第3 当審が通知した拒絶理由
当審が通知した拒絶の理由のうち、理由2の概要は次のとおりである。
「 理 由

・・・
2)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


・・・
3.理由2について
本願発明1は特定のコポリマー及び特定の薬剤を含む能動的塞栓形成に適した微小球に係るものであるところ、明細書の発明の詳細な説明には、かかる微小球について具体的な記載はない。しかし、いかなるコポリマー、薬剤であっても能動的塞栓形成に適すること、いかなるコポリマーであっても薬剤を担持できることは本願出願時の技術常識ではなく、本願発明1のコポリマー、薬剤の組み合せが能動的塞栓形成に適すること、該コポリマーが該薬剤を担持できることも自明ではない。このことは、審判請求人が平成26年4月14日提出の回答書に「知られていなかったのは、アクリル酸ナトリウムおよびビニルアルコールコポリマー微小球がこれらの薬剤を担持し、そしてin vivoでそれを放出しるかどうかでした。」と記載されていることとも一致する。したがって、本願発明1は発明の詳細な説明に記載したものでない。・・・」(審決注:「本願発明1」は本願請求項1に係る発明のこと。)

第4 判断
本願明細書には以下の記載がある。
「【0001】
1.発明の分野
本発明は、癌および他の様々な血管形成依存性疾患を含む疾患を治療するための組成物および方法に関し、特に、担体としての微小球と組み合わせた生物活性治療因子を含む組成物(該微小球は該因子で被覆されるか、または該因子を含む)、およびこのような組成物を能動的塞栓形成治療のために使用する方法に関する。」
「【0021】
標的部位への薬剤の局所分布および標的部位からの損失抑制の二重の機能は微小球で達成することができる。このような微小球は、局所動脈を介して導入された場合、組織の脈管構造内にトラップされ、そこで薬剤充填を放出する。このような二重作用は、能動的塞栓形成と称される。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0023】
従って、遺伝子送達用の微小球のさらなる開発が必要であることが証明されている。主に望まれる長所は、血流により抗癌剤を腫瘍脈管構造に特異的に標的化させる能力である。さらに、栄養供給および老廃物除去の同時途絶を伴う腫瘍血液供給の妨害は、おそらく、腫瘍細胞の破壊のために最も望ましい結果である。」
これらの記載によれば、本願請求項1に係る発明は、担体としての微小球と組み合わされた生物活性治療因子について、該微小球が組織の脈管構造内にトラップされ、また、充填された薬剤(生物活性治療因子)を放出することで、能動的塞栓を形成し、癌を含む様々な血管形成依存性疾患等を治療することをその課題とするものであるということができる。

また、本願明細書には以下の記載もある。
「【0088】
本発明の微小球は、弾性体、好ましくはアクリルポリマー、ビニルアルコールポリマー、アクリル酸ポリマー、多糖類、シリコーン、またはそれらの混合物からなる群より選択される弾性体を含む。より好ましくは、この用途に有用な親水性コポリマーは、ポリアクリルアミドおよびその誘導体、ポリアクリレートおよびその誘導体、ならびにポリアリル化合物およびポリビニル化合物のようなアクリルファミリーのものである。」
「【0081】
本発明の別の態様では、例えばタキソール、ドキソルビシン、シスプラチン、パクリタキセルなど(これらに限定されない)の抗新形成薬を含む組成物を、切除後に腫瘍の切除周縁に投与して、該部位における癌の局所再発および血管の形成を阻害することを含む、腫瘍切除部位を治療する方法を提供する。」
「【0252】
5. 実施例
実施例1
100 mlの脱ミネラル水を含むビーカーに、58 gの塩化ナトリウムおよび27gの酢酸ナトリウムを溶解する。400 mlのグリセロールを加えて、pHを5.9?6.1に調節する。次いで、90 gのN-トリス-ヒドロキシ-メチルメチルアクリルアミド、35 mgのジエチルアミノエチルアクリル-アミド、および10 gのN,N-メチレン-ビス-アクリルアミドを添加する。60?70℃で加熱し、100 moの熱い300 mg/mlゼラチン溶液を添加する。熱湯を添加して、混合物の合計容量を980 mlに調節し、次いで、20 mlの70 mg/ml過硫酸アンモニウム溶液、および4 mlのN,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミンを添加する。
【0253】
この溶液を、50?70℃で攪拌しながらパラフィン油に注ぐ。数分後、温度を上げて、アクリルモノマーの重合反応を現す。次いで、微小球を、静注により回収し、注意深く洗浄し、スクリーニングし、オートクレーブにおいて緩衝化媒体中で滅菌する。
【0254】
スクリーニング検定後のこれらの微小球は、著しい陽イオン電荷および有効接着剤(ゼラチンまたは変性コラーゲン)を含む塞栓形成に望ましい特徴を有する。
【0255】
実施例2・・・。」(段落0252?0269)

しかしながら、これらは好ましい微小球、薬剤の種類を例示し、本願請求項1に係る微小球とは異なる微小球の具体的な製造方法等を記載するに止まるものであって、本願請求項1に係る微小球の製造方法、その物性、治療効果等を具体的に記載するものではないし、そもそも上記箇所には、「アクリル酸ナトリウムおよびビニルアルコールコポリマー」さえ例示されていない。なお、「アクリル酸ナトリウムおよびビニルアルコールコポリマー」は段落0226に記載されているが、この段落は本願請求項1とは異なる「(a)生物活性治療因子をコードするポリヌクレオチド、(b)陽イオン架橋微小球、および(c)リポポリアミントランスフェクション剤を含む組成物」の(b)成分の例として挙げられているにすぎない。
また、実施例の記載を含め、その他の本願の発明の詳細な説明にも、当該微小球の製造方法、その物性、治療効果等についての具体的な記載はない。
そして、化学物質の生体内における動態及び化学物質相互の作用については、通常当業者が予測することは困難であることを考慮すれば、本願請求項1に係る生物適合性であるアクリル酸ナトリウムおよびビニルアルコールコポリマー、ならびにパクリタキセル、シスプラチン、マイトマイシン、タモキシフェン、ドキソルビシンまたはこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種の薬剤から実質的に成り、直径が10μm?2000μmの範囲内である、能動的塞栓形成に適した実質的に球体の微小球が、組織の脈管構造内にトラップされ、また、充填された薬剤(生物活性治療因子)を放出することで、能動的塞栓を形成し、癌を含む様々な血管形成依存性疾患等を治療することができることは、具体的な実験例等を以てその根拠が示されない限り、当業者が理解することはできないというべきものである。
そうしてみると、発明の詳細な説明は、本願請求項1に係る発明についてその課題を解決することができると技術常識に照らして当業者が認識できるように記載されているということはできず、したがって、本願請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものではない。

第5 審判請求人の主張について
審判請求人は平成26年11月12日付け意見書において本願明細書の段落0088及び0081や原出願の出願時の請求項の記載を基にサポート要件を満たす旨主張するが、原出願の出願時の請求項の記載はサポート要件を満たすこととは無関係であり、そして、指摘された段落の記載は上述のとおり、本願請求項1に係る微小球の製造方法、その物性、治療効果等を具体的に記したものでないから、かかる記載を以てサポート要件を満たすということはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものでない。したがって、他の理由を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-12 
結審通知日 2014-12-16 
審決日 2015-01-06 
出願番号 特願2008-91579(P2008-91579)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 辰己 雅夫  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 冨永 保
新居田 知生
発明の名称 能動的塞栓形成のための微小球  
代理人 藤田 節  
代理人 平木 祐輔  
代理人 深見 伸子  
代理人 田中 夏夫  
代理人 新井 栄一  

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