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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1301195
審判番号 不服2013-10105  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-31 
確定日 2015-05-20 
事件の表示 特願2009-551304「芳香剤錯化物質としてシクロデキストリンを含むパーソナルケア製品」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月 4日国際公開、WO2008/104954、平成22年 6月17日国内公表、特表2010-520861〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,西暦2008年2月28日(パリ条約による優先権主張 平成19年3月1日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成24年1月16日付けで拒絶理由が通知され,同年4月17日に手続補正がなされるとともに同日受付けで意見書が提出されたが、平成25年1月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月31日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?13に係る発明は,平成24年4月17日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであって,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,以下のとおりのものである。
「【請求項1】
(a)身体又は衣類に適用される組成物又は前記身体に適用される物品、
(b)前記組成物又は前記物品の構成成分に結合された複数の粒子であって、前記複数の粒子が、前記複数の粒子の少なくともいくつかが、シクロデキストリン錯化物質及び第1芳香物質を含み、放出前に知覚される前記第1芳香を最小限に抑えるために、シクロデキストリンと錯体を形成する前記第1芳香物質の割合が90%を超える、複数の粒子、及び
(c)前記シクロデキストリンと錯体を形成せず、前記第1芳香物質とは異なる第2芳香物質、を含み、
前記複数の粒子が、噴霧乾燥の工程を含むプロセスを使用して形成され、
前記組成物又は物品が制汗剤活性物質を含有しない、パーソナルケア製品。」

第3 引用刊行物及びその記載事項
原査定で引用され,本願優先権主張日前に頒布された刊行物Aには,以下のことが記載されている。

刊行物A:特開平3-14679号公報(原査定の引用文献1)

1 刊行物Aに記載された事項
[1A] 「2.特許請求の範囲
1. (I)(i)布帛柔軟剤約30%?約99%、
(ii)有効量の香料/シクロデキストリン複合体
および
(iii)粘土粘度制御剤約0.5%?約15%
を含む布帛コンディショニング組成物、および
(II)乾燥機中で自動乾燥機操作温度、例えば、35℃?115℃において有効量の前記組成物の布帛への放出を与える分与手段
を具備することを特徴とする製品。
・・・
4. 前記粘土粘度制御剤が、カルシウムベントナイト粘土である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の製品。
・・・
7. 前記布帛コンディショニング組成物が、非イオン界面活性剤、脂肪酸エステル、脂肪酸、脂肪アルコール、およびそれらの混合物からなる群から選ばれる物質を追加的に含む、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の製品。」(第1頁左下欄7行?同頁右下欄20行)

[2A] 「(1)布帛柔軟剤
基体物品で特に有用である布帛柔軟剤の例は・・・基体物品に特に好ましい陽イオン布帛柔軟剤としては、アルキル基が同じであるか異なることができ且つ約14?約22個の炭素原子を有する・・・第四級アンモニウム塩が挙げられる。かかる好ましい物質の例としては、ジタロ-アルキルジメチルアンモニウムメチルサルフェート(DTDMAMS)・・・が挙げられる。・・・
非イオン布帛柔軟剤の例は、ここに記載のソルビタンエステル、C_(l2)?C_(26)脂肪アルコール、および脂肪アミンである。
基体物品で使用するのに好ましい布帛柔軟剤は、(1)C_(10)?C_(26)アシルソルビタンエステルおよびそれらの混合物と(2)第四級アンモニウム塩と(3)第三級アルキルアミンとの混合物からなる。第四級アンモニウム塩は、好ましくは、布帛コンディショニング組成物の約5%?約25%、より好ましくは約7%?約20%の量で存在する。ソルビタンエステルは、好ましくは、布帛コンディショニング組成物の約10?約50重量%、より好ましくは約20?約40重量%の量で存在する。第三級アルキルアミンは、布帛コンディショニング組成物の約5?約25重量%、より好ましくは約7?約20重量%の量で存在する。好ましいソルビタンエステルは、C_(10)?C_(26)アシルソルビタンモノエステルおよびC_(10)?C_(26)アシルソルビタンジエステル、および前記エステルのエトキシレート(前記エステル中の未エステル化ヒドロキシル基の1以上は1?約6個のオキシエチレン単位を含有する)、およびそれらの混合物からなる群から選ばれる一員からなる。第四級アンモニウム塩は、好ましくは、メチルサルフエート形態である。好ましい第三級アルキルアミンは、アルキル基が同じであるか異なることができ且つ約14?約22個の炭素原子を有するアルキルジメチルアミンおよびジアルキルメチルアミンおよびそれらの混合物からなる群から選ばれる。」(第4頁左上欄14行?同頁右下欄16行)

[3A] 「最も好ましい重合体は、室温で固体であり、約30℃以上の軟化相転移温度を有し且つ約100℃以下、好ましくは約90℃以下で流動性液体となる。軟化相転移温度は、示差走査熱量測定法によって測定できる。室温で硬質な固体である重合体は、布帛コンディショニングンートが粘着感を有するようにならないために望ましい一方、高温での軟化および流動性は基体被覆法を容易にし且つ爾後の布帛コンディショニング活性成分は布乾燥機中で布帛コンディショニングシートから布帛に移る。
かかる汚れ放出重合体の一例は、ICIから得られるミリーゼTLである。ミリーゼTLは、オキシエチレンオキシ、テレフタロイルおよびポリ(オキシエチレン)オキシ基〔該ポリ(オキシエチレン)オキシ基は平均して約34個のオキシエチレン単位を含有〕を含有するポリ(エチレンテレフタレート)とポリオキシエチレンテレフタレートとの低分子量非イオンブロックコオリゴマーである。^(13)C NMRおよび粘度データは、ここに開示の例の製造で使用するミリーゼTL試料が平均して約3個のオキシエチレンオキシ基、約4個のテレフタロイル基、および約2個のポリ(オキシエチレン)オキシ基を含有する(平均分子量約3700)ことを示す。」(第21頁左下欄16行?同頁右下欄20行)

[4A] 「6.乾燥機活性化布帛コンディショナーの組成物上の利点
本発明の固体状の乾燥機活性化布帛コンディショニング組成物を介しての洗濯布帛乾燥機への香料供給は、2点で望ましい。製品悪臭は、遊離香料の柔軟剤組成物への添加によってカバーでき、且つ香料は、洗濯布帛乾燥機中で柔軟剤活性成分と共に布帛上に移ることができる。本発明のテクノロジーは、他の柔軟剤成分に無関係に香料を柔軟剤活性成分に直接加え、またはカプセル形態の香料を柔軟剤マトリックに加える。カプセル化香料は、布帛上に付着し、比較的長い時間保持することができる。しかしながら、加工を生き延びるであろう大抵のカプセルは、破断することが困難であり、かくて香料を望ましい方式で決して放出しないことがある。
遊離香料の柔軟剤マトリックスへの添加は、香料を自由に移行させて不安定な状態を作り且つ布帛上に付着した遊離香料は、布帛を貯蔵する時にかなり迅速に散逸する。布帛上の香料を貯蔵中または着用時により長く持続させたいならば、通常、洗濯プロセスにおける布帛上の一層多い香料の付着を必要とする。しかしながら、このことは、しばしば、製品が望ましくない程に高い製品臭および/または初期布帛臭を有することを必要とする。
低い製品香料臭および許容可能な初期布帛香料臭を有する製品を有するだけではなく、持効性布帛香料臭も有する能力は、消費洗濯製品の多くの開発プロジェクトのゴールである。本発明の製品は、好ましくは、許容可能な程低い製品香料臭と許容可能な初期布帛香料臭との両方を与えるのに十分な遊離香料のみを含有する。基体物品の一部分として香料/CD複合体の形態または香料/CD複合体を含有する固体布帛柔軟剤粒子の形態(洗剤相容性製品の場合)で製品に配合された香料は、更新される香料臭が真実且つ適当に必要である状況で布帛を使用する時に、例えば、若干の水分が存在する時、例えば、洗浄布およびタオルを俗槽で使用する時、または高水準の肉体的活動時および高水準の肉体的活動後に布上に汗臭がある時に放出されるであろう。
本発明の洗濯製品は、著しい量の遊離香料なしに香料/CD複合体のみを含有することもできる。この場合には、製品は、初期にはほとんど香りのない製品として機能する。これらの製品で処理された布帛は、消費者が着用したいことがある他の高価なパーソナル芳香と「衝突」することがある自明の香料臭を担持しない。余分の香料を必要とする時にのみ、例えば、浴槽使用の場合または発汗の場合に、複合体中の香料が、放出される。
処理された布帛の貯蔵時に、少量の香料は、香料/CD複合体と遊離香料とCDとの間の平衡の結果として複合体から逃げることがあり、そして弱い香りが得られる。製品が遊離香料と複合化香料との両方を含有するならば、複合体から逃げたこの香料は、全体の布帛香料臭強度に寄与し、持効性布帛香料臭印象を生ずる。
かくて、遊離香料および香料/CD複合体の量を調節することによって、タイミングおよび/または香料強度に関して広範囲の独特な香料プロフィールを与えることが可能である。固体状の乾燥機活性化布帛コンディショニング組成物は、複合体を適用するのに独特に望ましい方式である。その理由は、それらが布帛がきれいである時および香料に影響を及ぼすことがある追加の処理がほとんどない時に布帛処理法のまさに終わりに適用するからである。」(第22頁左上欄5行?同頁右下欄11行)

[5A] 「完全な香料(C)
香料Cは、主として中揮発性香料成分および不揮発性香料成分からなる直接香料である。香料Cの主成分は、サリチル酸ベンジル、酢酸p-t-ブチルシクロヘキシル、p-t-ブチル-α-メチルヒドロケイ皮アルデヒド、シトロネロール、クマリン、ガラキソライド、へリオトロピン、ヘキシルケイ皮アルデヒド、4-(4-ヒドロキシ-4-メチルペンチル)-3-シクロヘキセン-10-力ルボキシアルデヒド、メチルセドリロン、γ-メチルヨノン、およびパッチュリアルコールである。」(第23頁左下欄13行?同頁右下欄4行)

[6A] 「香料(D)(香料Cのより揮発性の部分)
香料Dは、主として香料Cの高揮発性画分および中揮発性画分からなるむしろ非直接性の香料である。香料Dの主成分は、リナロール、αテルピネオール、シトロネロール、酢酸リナリル、ゲラニオール、ヒドロキシシトロネラール、酢酸テルピニル、オイゲノール、および酔酸フロルである。」(第23頁右下欄5?11行)

[7A] 「複合体3-香料C/β-CD
可動スラリーは、プラスチック被覆ヘビーデューティー混合ブレードを使用して、β-CD約1kgおよび水1,000mlをキッチンエイドミキサーのステンレス鋼混合ボール中で混合することによって調製する。香料C約176gをゆっくりと加えながら、混合を続ける。液状スラリーは、直ちに増粘し始め、クリーム状ペーストとなる。攪拌を25分間続ける。ペーストは、今や外観がドウ状である。水約500mlをペーストに加え、よくブレンドする。次いで、攪袢を追加の25分間再開する。この際に、複合体は、追加の水を加える前と同じ程度ではないが、再度増粘する。得られたクリーム状複合体は、トレー上に薄層で広がり、空冷させる。このことは、粒状固体約1100gを生じ、この固体を微粉末に粉砕する。
複合体は、若干の遊離香料を保持し、依然として残留香料臭を有する。
複合体4
複合体3中の水の最後の痕跡を凍結乾燥によって除去し、その後複合体3はその重量の約1%を失う。得られた固体をジエチルエーテルで洗浄して、残留未複合化香料を除去する。エーテルの最後の痕跡を真空中で除去して、乾燥している時には無臭であるが水に加える時には香料Cの芳香を生ずる白色粉末として複合体4を与える。」(第24頁右上欄5行?同頁左下欄10行)

[8A] 「複合体16-香料D/シクロデキストリン混合物
デキストロース当量約5?10に達するまで、精製コーンスターチを85?90℃で液化酔素(即ち、αアミラーゼ)によって液化する。この時点で、反応混合物を室温に冷却し、バチルス・マセランズから単離されたシクロデキストリングルコシルトランスフェラーゼ酵素をデンプンの初量に基づいて約12%(重量)の香料Dと一緒にデンプン水解物1g当たり約2活性単位の量で加える。包接複合体が生成時に析出しながら、この混合物を室温で攪拌する。沈殿が完了したと判定された後に、包接複合体を捕集し、酢酸エチルで洗浄し、真空中で乾燥して、乾燥している時には無臭であるが水に加える時には香料Dの芳香を生ずる粉末を与える。この粉末は、主として異なるシクロデキストリン(α、β、γおよび高級次数)中の各種の香料成分の包接複合体の混合物からなる。」(第25頁右下欄10行?第26頁左上欄7行)

[9A] 「例22
レーヨン不織布基体(重量1.22g/99平方インチを有する)および布帛コンディショニング組成物からなる乾燥機添加布帛コンディショニング製品を下記方法で調製する。
布帛処理混合物の調製
ジタロ-ジメチルアンモニウムメチルサルフェート(DTDMAMS)(シェレックス・ケミカル・カンパニーによって販売)約21.60部とソルビタンモノステアレート(マザー・ケミカル・インコーボレーッテドによって販売)約32.40部とのブレンドを80℃で溶融し、よく混合する。高剪断混合しながら、この混合物に、汚れ放出剤I約30部と脂肪酸約10部とを含有する汚れ放出剤混合物約40部を85℃で加えて、汚れ放出剤混合物を微細に分散する。水浴を使用して、混合物の温度を70?80℃に保つ。添加完了後、高剪断混合作用を維持しながら、ベントライトL粒状粘土(サザーン・クレー・ブロダクツによって販売)約6部および香料Aとβ-CDとの間の複合体7約15部を逐次ゆっくりと加えて、布帛処理混合物を調製する。
布帛コンディショニングシートの調製
布帛処理混合物を寸法9インチ×11インチ(約23×28cm)の予備秤量不織基体シートに適用する。基体シートは、3デニールの長さ1-9/16インチ(約4cm)のレーヨン繊維70%とポリ酢酸ビニル結合剤30%とからなる。少量の布帛処理混合物をスパチュラで加熱金属板上に置き、次いで、小さい金属ローラーで一様に広げる。不織シートを金属板上に置いて、布帛処理混合物を吸収する。次いで、シートを加熱金属板から取り外し、布帛処理混合物が凝固できるように室温に冷却させる。シートを秤量して、シート上の布帛処理混合物の量を測定する。標的量は、3.0g/シートである。各シートは、汚れ放出剤I約0.78gおよび複合体7(香料A/β-CD複合体)約0.39gを含有する。重量が標的重量未満であるならば、シートを加熱金属板上に置き、一層多くの布帛処理混合物を加える。重量が標的重量を超えるならば、シートを加熱金属板に戻して、布帛処理混合物を再溶融し、過剰物の若干を除去する。」 (第30頁右上欄20行?第31頁左上欄2行)

[10A] 「例24および25
例24および25の布帛処理混合物および布帛コンディショニングシートの調製は、例22のものと同様である。標的塗布量は、2.84g/シートである。各シートは、汚れ放出剤約0.64g、香料複合体約0.50g、および遊離香料約0.05gを含有する。



(a)サザーン・クレー・プロダクツによって販売されているベントライトL」(第31頁右上欄12行?同頁左下欄16行)

第4 対比・判断
1 刊行物A記載の発明
刊行物Aは,その特許請求の範囲の記載(摘示[1A])から見て,布帛コンディショニング組成物及び該組成物の布帛への分与手段,を具備する製品に関する発明が記載されているものであって,その具体例の1つとして「例25」が示されている(摘示[10A])。
そして,該例25に記載の「布帛処理混合物」は,刊行物Aでいう「布帛コンディショニング組成物」に相当するものといえることから,刊行物Aの,特に例25の記載に基づくと,次の発明が記載されているものといえる。
「次の組成を有する布帛コンディショニング組成物
成分 重量部
オクタデシルジメチルアミン 15.06
C_(16?18)脂肪酸 13.79
ソルビタンモノステアレート 12.07
DTDMAMS 12.07
カルシウムベントナイト粘土 4.97
複合体16 17.64
香料C 1.76
ミリーゼTL 22.64」(以下,「引用発明」という。)
なお,ここで「DTDMAMS」は,刊行物Aの摘示[2A]に記載の「ジタロ-アルキルジメチルアンモニウムメチルサルフェート」であって,さらに,刊行物Aの摘示[2A]の記載から,該化合物を含めて,オクタデシルジメチルアミン及びソルビタンモノステアレートの計3物質は布帛柔軟剤であると解せられる。
また,「複合体16」は,刊行物Aの摘示[8A]に記載されている香料Dとシクロデキストリンから得られた包接複合体であり,「香料D」については,刊行物Aの摘示[6A]にその主成分の構成が記載されているものである。(香料Dの成分の詳細については省略する。)
そして,「香料C」も,刊行物Aの摘示[5A]に「完全な香料(C)」としてその主成分の構成が記載されているものである。(香料Cの成分の詳細については省略する。)
さらに,「ミリーゼTL」は,刊行物Aの摘示[3A]に記載の汚れ放出重合体である。(成分の詳細については省略する。)
残りの成分のうち,C_(16?18)脂肪酸については請求項7の記載(摘示[1A])から見て「追加的に」配合された成分と,カルシウムベントナイト粘土については請求項4の記載(摘示[1A])から見て粘土粘度制御剤であると,それぞれ解される。

2 判断
上記引用発明は,本願発明の特定事項の全てについて,具備するものであるか,又は,実質的な相違点とはいえないもの,の何れかに該当することから,結局本願発明は,上記刊行物Aに記載された発明と解すべきものと判断されるので,以下,順次説示する。
(1)本願発明の特定事項(a)について
本願発明の特定事項(a)は,
「(a)身体又は衣類に適用される組成物又は前記身体に適用される物品,(を含み)」とするものである。
引用発明に係る布帛コンディショニング組成物の構成成分のうち,「複合体16」及び「香料C」を除く他の成分,すなわち,
「オクタデシルジメチルアミン,
C_(16?18)脂肪酸,
ソルビタンモノステアレート,
DTDMAMS,
カルシウムベントナイト粘土,及び,
ミリーゼTL」
の6成分からなる組成物は,布帛柔軟剤及び汚れ放出剤を含むものであることから,本願発明でいう「衣類に適用される組成物」に相当する。
したがって,引用発明に係る布帛コンディショニング組成物は,本願発明の
「身体又は衣類に適用される組成物又は前記身体に適用される物品」との特定事項のうちの「衣類に適用される組成物」に該当する成分を含むものであるから,上記特定事項(a)を具備するものである。
(2)本願発明の特定事項(b)について
(2-1)(b)の前段について
ア 本願発明の特定事項(b)のうち,まず前段について検討する。
特定事項(b)の前段は,
「前記組成物又は前記物品の構成成分に結合された複数の粒子であって,前記複数の粒子が,前記複数の粒子の少なくともいくつかが,シクロデキストリン錯化物質及び第1芳香物質を含み」(以下,「特定事項(b1)」という。)
とするものであるが,例えば,次の事項を満たすならば,この特定事項(b1)を具備するものと解される。
「シクロデキストリン錯化物質及び第1芳香物質を含む複数の粒子が,前記組成物(すなわち,上記(1)で記載した6成分からなる組成物)の構成成分に結合していること」
イ そこで,以下,引用発明がこのような事項を満たすものといえるか否かについて検討する。
上記引用発明に含まれる「複合体16」は,上記「1 刊行物A記載の発明」で記載したように,シクロデキストリンと香料Dからなる包接複合体であり,さらに,その調整法に関する摘示[8A]の記載を見ると,
「・・・包接複合体を捕集し,酢酸エチルで洗浄し,真空中で乾燥して,乾燥している時には無臭であるが水に加える時には香料Dの芳香を生ずる粉末を与える。この粉末は,主として異なるシクロデキストリン(α,β,γおよび高級次数)中の各種の香料成分の包接複合体の混合物からなる。」
と,複合体が『粉末』の形態(すなわち,『複数の粒子』)で得られる旨の記載がなされている。
したがって,「複合体16」は,「シクロデキストリン錯化物質及び第1芳香物質を含む複数の粒子」に該当するものといえる。
ウ 次に,上記引用発明を認定する際に特に参考とした刊行物Aの例25の記載(摘示[8A])は,その調整法に関して例22を引用しているが,該例22の記載(摘示[9A])を見ると,上記(1)で記載した6成分からなる組成物と,香料とシクロデキストリンとの複合体とは,一体的に混合製剤化されている。
エ ところで,本願発明における「(前記組成物・・・の)構成成分に結合された複数の粒子」なる記載における用語『結合された』の意味するところが必ずしも明らかとはいえないものの,例えば,本願実施例2及び3においては,石鹸成分等とシクロデキストリン芳香錯体とを一体的に混合製剤化している例が記載されていて,ここにおける石鹸成分等は本願発明でいう「(前記組成物の・・・)構成成分」と,またシクロデキストリン芳香錯体も「(シクロデキストリン錯化物質及び第1芳香物質を含む)複数の粒子」と解さざるを得ないものであるから,このように『構成成分』と『複数の粒子』とが一体的に製剤化されている場合も,本願発明にいう「(前記組成物・・・の)構成成分に結合された複数の粒子」に該当するものと解される。
オ そうすると,刊行物Aの例22と同様な調整法により得られた引用発明についても,本願発明における「(前記組成物・・・の)構成成分に結合された複数の粒子」に該当するものと解すべきということになる。
カ したがって,以上のことから,引用発明は,
「シクロデキストリン錯化物質及び第1芳香物質を含む複数の粒子が,前記組成物(上記(1)で記載した6成分からなる組成物)の構成成分に結合していること」
を満たすものといえるから,結局,本願発明の特定事項(b1)を具備するものであるということになる。
(2-2)(b)の後段について
ア 次に,(b)の後段について検討する。
本願発明の特定事項(b)の後段は,
「放出前に知覚される前記第1芳香を最小限に抑えるために,シクロデキストリンと錯体を形成する前記第1芳香物質の割合が90%を超える,複数の粒子」(以下,特定事項(b2)という。)
とするものである。
イ まず,引用発明の『複合体16』について,その詳細を検討する。
刊行物Aにおいて,香料をシクロデキストリンとの複合体の形態で使用する目的については,例えば,
「・・・本発明の製品は,好ましくは,許容可能な程低い製品香料臭と許容可能な初期布帛香料臭との両方を与えるのに十分な遊離香料のみを含有する。基体物品の一部分として香料/CD複合体の形態または香料/CD複合体を含有する固体布帛柔軟剤粒子の形態(洗剤相容性製品の場合)で製品に配合された香料は,更新される香料臭が真実且つ適当に必要である状況で布帛を使用する時に,例えば,若干の水分が存在する時,例えば,洗浄布およびタオルを俗槽で使用する時,または高水準の肉体的活動時および高水準の肉体的活動後に布上に汗臭がある時に放出されるであろう。・・・」(摘示[4A])
との記載から,製品製造初期からの香料臭を与える遊離香料とは別に,例えば,「若干の水分が存在する時」などの必要な状況で香料を放出するための成分として配合されるものと理解される。
ウ そして,上記(2-1)イでも記載したように,その調整法に関する摘示[8A]の記載では,
「・・・包接複合体を捕集し,酢酸エチルで洗浄し,真空中で乾燥して,乾燥している時には無臭であるが水に加える時には香料Dの芳香を生ずる粉末を与える。」
と酢酸エチルによる洗浄とその後の真空乾燥の結果,「乾燥している時には無臭であるが水に加える時には香料Dの芳香を生ずる粉末」として複合体16が得られるのである。
エ ところで,「乾燥している時には無臭であるが水に加える時には・・・芳香を生ずる」なる表現に関しては,刊行物Aにおいて他にも記載があり,例えば,複合体1,2及び4などについても同様な記載がなされている。特に,「複合体4」に関しては,その製造法の記載を詳細に検討すると,複合体3に追加処理を施したものであって,その複合体3は,溶剤としては水のみが使用された工程で複合体が製造され,「若干の遊離香料を保持し,依然として残留香料臭を有する」(摘示[7A])とされていたものである。すなわち,このように水のみを溶剤とする工程では残留香料臭を有する複合体3を,有機溶剤で洗浄し真空乾燥することにより,「乾燥している時には無臭であるが・・・」という性状の複合体となることが記載されているのである。
ここでの有機溶剤による洗浄及びそれに引き続く真空乾燥という追加処理は,複合体16にも共通するものであり,これにより「乾燥している時は無臭」の複合体が得られたものと解される。
オ したがって,以上の刊行物Aの記載を総合的に解釈すると,引用発明においては,複合体16は,製品製造初期より放出する遊離香料とは異なり,例えば,「水に加える時」に香料を放出するための成分として配合されているものであって,このような理由からも,複合体16は残留香料臭を除去するための処理が行われたものと理解することができる。
すなわち,引用発明に係る複合体16は,「乾燥している時は無臭である」とするために,酢酸エチルでの洗浄及び真空乾燥が行われ,その結果として,遊離香料に基づく残留香料臭が除去されたものといえる。
カ そこで改めて,本願発明の特定事項(b2)に関して,本願発明に係る「複数の粒子」と引用発明に係る「複合体16」とを対比する。
まず,特定事項(b2)のうちの「放出前に知覚される前記第1芳香を最小限に抑えるために」という点に関しては,引用発明に係る複合体16について酢酸エチルでの洗浄に引き続く真空乾燥は,包接された香料の放出前にはその芳香が「無臭」と表現されるような状態にまで低減させるものであることから,引用発明も,本願発明の「放出前に知覚される前記第1芳香を最小限に抑えるために」という点では,少なくとも共通するものといえる。
キ 次に,「シクロデキストリンと錯体を形成する前記第1芳香物質の割合が90%を超える」という点に関しては,刊行物Aを詳細に検討しても,この点が明記された記載は確かに見当たらないものではある。
しかしながら,引用発明では,本願発明においてこのような数値範囲とするための目的である「放出前に知覚される前記第1芳香を最小限に抑えるため」という点では差異のない処理が行われているのみならず,引用発明に係る「複合体16」に関しては,「無臭」という,いわばほぼ完全に香料物質がシクロデキストリンに包接されたといえる状態にまで,残留遊離香料が除去されていると解されることから,このような状態は,本願発明でいう「シクロデキストリンと錯体を形成する前記第1芳香物質の割合が90%を超える」状態とほぼ同程度といい得るものである。
さらに加えて,本願明細書において,「シクロデキストリンと錯体を形成する前記第1芳香物質の割合が90%を超える」という特定の数値範囲とすることにより,当業者が予想し得ない格別の効果が示されているとはいえないものである。
そうすると,引用発明に係る「複合体16」に関しては,「シクロデキストリンと錯体を形成する前記第1芳香物質の割合が90%を超える」という明記はないものの,このような状態とほぼ同程度の状態といえることに加えて,しかも,このような数値範囲とすることによって,明確な効果上の差異があるとはいえないことから,本願発明において「シクロデキストリンと錯体を形成する前記第1芳香物質の割合が90%を超える」と特定されていることによって,引用発明と実質的な差異があるとはいえない。
(2-3)
上記(2-1)及び(2-2)から,本願発明の特定事項(b),すなわち,
「(b)前記組成物又は前記物品の構成成分に結合された複数の粒子であって,前記複数の粒子が,前記複数の粒子の少なくともいくつかが,シクロデキストリン錯化物質及び第1芳香物質を含み,放出前に知覚される前記第1芳香を最小限に抑えるために,シクロデキストリンと錯体を形成する前記第1芳香物質の割合が90%を超える,複数の粒子,(を含み)」とする点については,引用発明も具備するか,又は,実質的に差異がないといえるものである。
(3)特定事項(c)について
本願発明の特定事項(c)は,
「前記シクロデキストリンと錯体を形成せず,前記第1芳香物質とは異なる第2芳香物質,を含み」というものであるが,引用発明でも,シクロデキストリンとの複合体の形態で「香料D」が含まれているほか,「香料C」が配合されているので,引用発明は特定事項(c)も具備するものである。
(4)その他の特定事項について
(4-1)「前記複数の粒子が,噴霧乾燥の工程を含むプロセスを使用して形成され」について
ア この特定事項は,「複数の粒子」という『物』に関する特定事項であるから,仮に,異なるプロセスを使用する方法により得られた「複数の粒子」が『物』として差異がなければこのような特定事項により,実質的に差異があるとはいえないものである。このような前提の下,以下検討する。
イ 明細書の記載を参酌すると,【0025】?【0027】において,噴霧乾燥により得られるシクロデキストリン-芳香剤錯体の錯化効率は96%以上であるのに対して,押出形成により得られるものの錯化効率は60?67%程度となっており,ここでいう『錯化効率』とは,本願明細書【0024】などの記載から見て,本願発明の「シクロデキストリンと錯体を形成する前記第1芳香物質の割合」に相当するものと解されることから,「噴霧乾燥の工程を含むプロセスを使用して形成され」という特定事項によってこの割合が「90%を超える」複数粒子が得られるということは理解される。
ウ しかしながら,ここにおける「噴霧乾燥」については,
「噴霧乾燥は,上述の芳香剤の錯化レベルを有するシクロデキストリン錯体を作製することができる1つの製造技術である。」(【0025】)
と,あくまで,高い錯化レベルを有するシクロデキストリン錯体の『1つの製造技術』として記載されており,さらには,
「当業者は,表IIで提供される比較は,特定の錯体形成プロセスを明記しない付属請求項から,混練/押出成形プロセスを放棄することを意図しないことを認識すべきである。むしろ,例えば,追加加工工程は,組成物に包含される前に,押出成形される錯体に結合された遊離芳香剤を最小限に抑えるために必要としてもよい。」(【0027】)
との記載があって,「遊離芳香剤を最小限に抑えるため」には,『噴霧乾燥の工程を含む』ことのみならず,むしろ,押出成形などの,当該工程自体では不十分な錯化効率しか達成できない場合でも,組成物に包含される前に行われる『追加加工工程』により,遊離芳香剤を最小限に抑えて錯化効率を向上させる方法についても示唆されているものである。
エ そして,引用発明に係る複合体16も,酢酸エチルによる洗浄に引き続く真空乾燥により,若干の遊離香料に基づく残留香料臭を除去して,「シクロデキストリンと錯体を形成する前記第1芳香物質の割合が90%を超える」複数の粒子とは実質的な差異がないといえる『物』が得られていることは,上記(2-2)で記載したとおりであり,この際の,酢酸エチルによる洗浄及び真空乾燥工程は,本願明細書でいう『追加加工工程』に対応するものと解されるものである。
オ また,「噴霧乾燥の工程を含むプロセスを使用して形成され」なる事項によって,「複数の粒子」が『物』として他のプロセスにより形成された『物』とは実質的に差異があるとすべき何らかの性質等が本願明細書に記載されているものとすることもできないし,また,技術常識を考慮しても,本願発明に関連して,考慮すべきそのような性質等があるものとも解されない。
カ したがって,本願明細書の記載及び技術常識を考慮しても,「前記複数の粒子が,噴霧乾燥の工程を含むプロセスを使用して形成され」なる特定事項によって,本願発明に係る「複数の粒子」が,引用発明に係る「複合体16」と,『物』として実質的に差異があるとすべきものとはいえない。
(4-2)「前記組成物又は物品が制汗剤活性物質を含有しない,パーソナルケア製品」について
ア まず,「前記組成物・・・が制汗剤活性物質を含有しない」に関しては,「第4 対比・判断」の「1 刊行物A記載の発明」に記載したように,引用発明に含まれている成分には,制汗剤成分は見当たらないし,また,刊行物Aの請求項7における「追加的に含む」として配合されていると解される『C_(16?18)脂肪酸』を含めて,本願明細書の【0060】に「制汗剤活性物質」として例示された各物質に対応する成分も含まれていない。
したがって,この特定事項も,引用発明は具備するものである。
イ 次に,「パーソナルケア製品」については,本願明細書【0002】において,
「本発明は,身体又は衣類に適用される組成物及び身体に着用又は適用される物品を含む,パーソナルケア製品に関する。組成物としては,・・・柔軟仕上げ剤,・・・及び・・・が挙げられるが,これらに限定されない。」
と『柔軟仕上げ剤』が本発明に含まれる組成物の例として記載されているのに対して,引用発明に係る布帛コンディショニング組成物も,布帛柔軟剤を主たる必須成分の1つとして含むものであって『柔軟仕上げ剤』に含まれるものといえる。
したがって,引用発明は,本願発明にいう「パーソナル製品」に該当するものといえる。
なお,刊行物Aにおいては,引用発明に係る「布帛コンディショニング組成物」を布帛シート等の「分与手段」と一体化したものを『製品』としているものであって,引用発明に係る組成物自体,最終的な『製品』として記載されているものではないが,技術的に見て,引用発明に係る「布帛コンディショニング組成物」は,それ自体単独でも製品と見なし得るものと,当業者ならば理解するといえることから,引用発明に係る組成物を『柔軟仕上げ剤』と解釈して差し支えないものと判断する。

第5 むすび
以上のとおり,本願請求項1に係る発明は,刊行物Aに記載された発明といえるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないものである。
よって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-11-20 
結審通知日 2014-11-25 
審決日 2015-01-07 
出願番号 特願2009-551304(P2009-551304)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川合 理恵  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 小川 慶子
小久保 勝伊
発明の名称 芳香剤錯化物質としてシクロデキストリンを含むパーソナルケア製品  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  
復代理人 主代 静義  

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