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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1301212
審判番号 不服2013-22885  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-22 
確定日 2015-05-20 
事件の表示 特願2010-507994「関心領域の粘弾性の平均値を測定するための方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月20日国際公開、WO2008/139245、平成22年 8月 5日国内公表、特表2010-526626〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年5月16日を国際出願日とする出願であって、平成25年6月11日に手続補正がなされたが、同年7月19日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、同年11月22日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされた。

第2 平成25年11月22日付けの手続補正の補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成25年11月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の発明
平成25年11月22日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、本願の特許請求の範囲の請求項1は、補正前の

「少なくとも1つのトランスデューサを備える1つのプローブを使用し、軟質材料の平均の粘弾性の値を測定するための方法であって、
a)制限ゾーンにおいて、制限ゾーンから組織に伝播する内部せん断波を組織に発生させるために、機械的振動の少なくとも1つのバーストを誘起する誘起ステップと、
b1)前記トランスデューサにより、組織において制限ゾーンから離れて位置する少なくとも1つの第1測定ゾーンにおける過渡組織変位を測定する測定ステップと、
c)第1測定ゾーンにおいて組織について測定した前記過渡組織変位と、制限ゾーンと第1測定ゾーンとの間のせん断波の速度とから、組織のうち制限ゾーンと第1測定ゾーンとの間に位置する領域の平均粘弾性を推定する推定ステップと、を含む方法。」
から、以下のとおりのものに補正された。

「少なくとも1つのトランスデューサを備える1つのプローブを使用し、軟質材料の平均の粘弾性の値を測定するための方法であって、
a)制限ゾーンにおいて、制限ゾーンから組織に伝播する内部せん断波を組織に発生させるために、前記1つのプローブの少なくとも1つのトランスデューサによって組織に誘起される超音波放射圧によって、機械的振動の少なくとも1つのバーストを誘起する誘起ステップと、
b1)前記トランスデューサにより、組織において制限ゾーンから離れて位置する少なくとも1つの第1測定ゾーンにおける過渡組織変位を時間に対して測定する測定ステップ
と、
c)第1測定ゾーンにおいて組織について測定した前記過渡組織変位と、制限ゾーンと第1測定ゾーンとの間のせん断波の速度とから、組織のうち制限ゾーンと第1測定ゾーンとの間に位置する領域の平均粘弾性を推定する推定ステップと、を含む方法。」(以下「補正発明」という。下線部は補正箇所を示す。)

2.特定事項
補正発明は「制限ゾーンにおいて・・・少なくとも1つのトランスデューサによって組織に誘起される超音波放射圧によって、機械的振動の少なくとも1つのバーストを誘起する誘起ステップ」と「前記トランスデューサにより、組織において制限ゾーンから離れて位置する少なくとも1つの第1測定ゾーンにおける過渡組織変位を時間に対して測定する測定ステップ」(以下「特定事項」という。)という事項を有する。
請求人は、「係る補正は段落0005,0017,0038,0050,0065等の記載に基づくものです。」(審判請求書参照)と主張している。

3.本願明細書等の記載
本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1)「【0005】
本発明は、身体における機械的過渡励起の生成に依存して組織の機械的性質を導き出す、過渡弾性率計測技術に関する。
そうした方法は、この過渡振動が与えられる手法が外的なものである(たとえば、振動を発生させる特定の外部装置を用いる)か、内的なものである(たとえば、組織に超音波を集中させて超音波放射力を発生させることによって生じる振動を用いる)かによって分類される。」
(2)「【0017】
本発明は、上記の欠点を解決することができる。
この目的のため、本発明は、少なくとも1つのトランスデューサアレイを備える1つのプローブを使用し、軟質材料の平均の粘弾性の値を測定する方法を提供する。この方法は、
a)制限ゾーンにおいて、制限ゾーンから組織に伝播する内部せん断波を組織に発生させるために、機械的振動の少なくとも1つのバーストを誘起する誘起ステップと、
b1)トランスデューサアレイにより、組織において制限ゾーンから離れて位置する少なくとも1つの第1測定ゾーンにおける過渡組織変位を測定する測定ステップと、
c)第1測定ゾーンにおいて組織について測定した過渡組織変位から、組織のうち制限ゾーンと第1測定ゾーンとの間に位置する領域の平均粘弾性を推定する推定ステップとを含む。」
(3)「【0038】
好適には、測定を集束させるために複数のトランスデューサが選択される。
汎用のトランスデューサアレイを用いるこの実施形態では、この方法は、有利には、バーストを発生させることによって誘起ステップa)を誘起するために、そのトランスデューサアレイのうちの少なくとも1つのトランスデューサの試料を選択するステップを更に含む。」
(4)「【0050】
第1のトランスデューサ2は、組織3においてせん断波を発生させるためのものである。
トランスデューサ2は「プッシング(pushing)」トランスデューサとして性質が決められ、たとえば中心周波数3MHzで動作する。」
(5)「【0065】
超音波検査システムは、組織3に超音波のプッシングビームBを生成するように有利に制御される。
図2に示すように、このようなビームBは、トランスデューサアレイ10の側面のうちの1つの側面に設置されたトランスデューサグループGTbによって放射された超音波を、限定的に集束させることによって取得してもよい。」

4.判断
(1)補正発明に含まれる事項
上記特定事項を導入した補正発明は、「バーストを誘起するトランスデューサ」と「過渡組織変位を測定するトランスデューサ」が同一の1つのトランスデューサであるものを含むことになる。
しかしながら、上記摘記事項を含む当初明細書等のすべての記載を参酌しても、このようなことを示唆する記載はない。
また、そのような事項が、本願の出願時点で当業者にとって自明な事項であるともいえない。
してみると、上記事項は、当初明細書等に記載された事項とすることはできない。

(2)結論
したがって本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものでない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第184条の12第2項により読み替える特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成25年11月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年6月11日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのもの(上記「第2」参照)である。

2.引用刊行物及び該刊行物に記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特表2003-530941号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0011】
(発明の実施の形態)
図面を使って、本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
図1Aは、標準的な超音波診断イメージシステム1を表すブロック図である。超音波診断イメージシステム1は、プローブと表記されたトランスデューサ10、および振動発生器2に接続されている。超音波診断イメージシステム1は、処理システム100に接続されている。処理システム100は、一時的剪断波の局部伝搬速度を決定し、一時的剪断波前端イメージ列を表示し、組織弾性などの組織パラメターを決定する。
【0013】
図1Bを参照すると、プローブ10が、検査すべき組織5との超音波接触状態に位置づけられ、その組織5を通して超音波パルスを放出する。プローブ10は、組織表面に平行かつ、Xと表記されたOX軸に平行に配列されて配置されたトランスデューサ素子から構成される。トランスデューサ素子は、X軸に直交するZ軸と表記されたOZ軸に平行な超音波パルスの数本の超音波ビームを放出できる。超音波ビームの総本数l_(IM)は、例えばl_(IM) = 128またはl_(IM) = 256であって良い。各ビームは、以後、Z軸に平行な超音波ラインと呼ぶ。x_(1)からx_(lIM)までのX軸上の座標を有する。超音波パルスが座標x_(i)(指標iは1からl_(IM)までの整数)における一本のラインに沿って組織5を通って伝搬するにつれて、そのラインに沿って遭遇する組織粒子によって対応するエコーが発生される。これらのエコーはプローブにより即座に受信され、それらのエコーはZ軸に平行なライン上のエコー形成の深さzの関数である。座標x_(i)における一本のラインに沿った反射から発生される全てのエコーの結合が、その組織の1ラインの超音波データを形成する。そのデータは複素数であり、SおよびS^(*)と表記される。約4cmの深さzまで一本のラインを走査するのに、約T_(l )= 100マイクロ秒以下の時間を要する。説明の簡単化のために、以後、この時間をT_(l )= 100マイクロ秒とする。l_(IM)ラインの走査が一本ずつ順番に行われて、超音波データ(SおよびS^(*))の完全な2Dイメージを形成する。このイメージは超音波イメージと呼ばれ、Z軸に平行であり、規則正しい間隔(x_(1), x_(2), … x_(lIM))で配置されたl_(IM)本のライン(128または256本)から構成される。これらのラインは、Z軸に沿って約4cmの深さまで測定する。上述の仮定に従い、4cmの深さまでの1つの2D超音波イメージを形成するのに、T_(IM) = l_(IM) x 100マイクロ秒だけの時間を要する。
【0014】
TIM = 12.8ミリ秒 128本のラインの超音波イメージについて または
TIM = 25.6ミリ秒 256本のラインの超音波イメージ
図1Aを参照すると、超音波診断イメージシステム1が、外部の機械的パルス発生器2である振動発生器2に接続されている。この外部の機械的パルス発生器は、患者に対しては無害であり、実施者にとっては非常に使いやすいという効果がある。各機械的パルスが、接触体4の手段によって組織5に印加され、組織5中Z軸に沿って約4cmの深さまで剪断波を伝搬させる。伝搬の速度は、アプリオリに見積もられ、それは以下の式で表される。」
(2)「【0017】
一時的剪断波の前端を視覚化するために、先ず、剪断波前端伝搬の遅延時間中に、一時的な超音波イメージ列を形成する。」
(3)「【0018】
図2は、処理システム100を表すブロック図である。処理システム100は、一時的な超音波サブイメージ列を獲得するための手段、剪断波の作用下にある組織粒子の局部的速度を推定する手段、組織速度完全イメージ列を構築する手段、剪断波前端速度を推定する手段、および一時的剪断波伝搬の影響下における組織の変位を視覚化する手段を有する。
【0019】
図3Aを参照すると、第1の時点α_(1)において、振動発生器が、超音波診断システム1の走査構成44を用いて、組織5内で第1の剪断波を発生する。第1の時点α_(1)において、組織5に結合したプローブ10が、座標x_(1)における第1のラインの走査を開始して、SおよびS^(*)と表記された第1ラインの超音波データをもたらす。一本のラインを走査するのにT_(l )= 100マイクロ秒の時間がかかり、剪断波が伝搬する4cmを走査するのにT_(SW) = 40ミリ秒かかり、そしてミリ秒あたり1枚の超音波イメージの速度をもってN = 40枚の一時的超音波イメージを供給しなければならない。そして超音波診断システムは、座標x_(1), x_(2), …x_(10)における、第1の超音波イメージI_(1)のl_(K)本(1<l_(K)≦10)の隣接ラインを走査する時間がある。こうして、第1の超音波イメージI_(1)内でK_(1)と表記された超音波データ(SおよびS^(*))のラインから構成される第1バンドを形成する。例えば、l_(K) = 10ラインである。」
(4)「【0027】
図2を参照すると、超音波サブイメージ列の超音波データが用いられて、組織速度サブイメージの対応列が構築される。剪断波の作用下で、組織粒子の速度が、超音波サブイメージ列の各走査ラインに沿って、測定される。組織変位速度の測定は、当業者に周知の動作であり、組織速度測定の手段41を有する標準的超音波診断システム1を用いて実行される。」
(5)「【0032】
組織速度サブイメージ列がメモり1と表記された第1の記憶手段内に記憶される。組織速度値が、P(x, z, t)と表記されたこれらの位置の関数として記憶される。ここで、xはX軸に沿った走査ラインの座標であり、tは上記のイメージ数nに対応する値(nとは異なる)で有り、zは、Z軸に沿った深さである。P(x, z, t)は、座標xおよび深さzにおいてnに対応する値tにおける組織速度サブイメージ内にあり、かつ(N-2p)枚の組織速度サブイメージのk列のサブイメージ(K_(1)[V(n, l, z)]からK_(k)[V(n, l, z)]まで)内のポイントである。」
(6)「【0041】
図2を参照すると、処理1で発行されたデータがメモリ2と表記された第2の記憶手段47内に記憶される。全イメージは、剪断波が伝搬する領域5の組織速度イメージであり、システム1の表示手段45を用いて順番に表示される。この処理段階における表示は、振動発生器2により供給される機械的パルスの作用下で移動する組織領域を示す。
【0042】
図2を参照すると、次の位相において、組織速度イメージ列のデータが、メモリ2から引き出されて、処理2と表記された第2の処理手段50へと供給される。各イメージの各ポイントでの、また剪断波伝搬の各時点tでの組織速度値から構成される組織速度列のデータから、さらなる1つのイメージ(I_(MAX)と呼ぶ)が処理2内で構築される。
【0043】
図5を参照すると、処理2内において、最大速度のイメージと呼ぶこの新しいイメージI_(MAX)が、以下の方法により作られる。その方法とは、組織の速度が最大値(V_(MAX)と表記される)であるとき、そのイメージのライン上のポイントにおいて、t_(1)からt_(N-2p)までのうちのt_(MAX)の時点を書き込むことである。同じ時点t_(MAX)における組織速度の最大値に対応する、イメージI_(MAX)の異なるポイントが、L_(t)と表記されるラインにより統合される。同じライン上の全てのポイントは、同じ時点tについての最大速度のポイントである。ラインは、速度の等レベルである。そして、これらのラインは、剪断波前端の伝搬の時点を表す。このイメージI_(MAX)内の時間の勾配またはグラディエント(gradient)の推定によって、上記剪断波の前端の速度を決定できる。C_(SW)と表記される剪断波前端速度が、以下の数2の公式により、上記の新しいイメージI_(MAX)内のグラディエントの関数として、処理2で推定される。
【0044】
【数2】
(省略)
処理2から引き出された伝搬前端速度データは、本明細書の従来技術の説明の部分において引用した書類で知らされた公式から、例えば組織領域の弾性などの組織パラメターを推定するための計算手段51内で、処理される。この組織パラメターは、記憶手段52内に記憶され、腫瘍その他の疾病の診断を助ける診断ツールとしてさらに使用することができる。」
(7)「【図1A】


(8)「【図1B】


(9)「【図2】



これらの記載事項を含む引用文献1全体の記載及び当業者の技術常識を総合すれば、引用文献1には、以下の発明が記載されている。

「組織(5)表面に平行に配列されて配置されたトランスデューサ素子から構成されたプローブ(10)が、検査すべき組織との超音波接触状態に位置づけられ、その組織を通して超音波パルスを放出し、該トランスデューサ素子は、組織表面に平行な軸に直交する軸に平行な超音波パルスの数本の超音波ビームを放出でき、
外部の機械的パルス発生器である振動発生器(2)による各機械的パルスが、接触体(4)によって組織に印加され、組織中組織表面に平行な軸に直交する軸に沿って約4cmの深さまで剪断波を伝搬させ、
一時的な超音波サブイメージ列を獲得するための手段、剪断波の作用下にある組織粒子の局部的速度を推定する手段、組織速度完全イメージ列を構築する手段、剪断波前端速度を推定する手段、および一時的剪断波伝搬の影響下における組織の変位を視覚化する手段を用い、
振動発生器が組織内に剪断波を発生し、組織に結合したプローブが超音波データをもたらし、
剪断波の作用下で、組織粒子の速度が、超音波サブイメージ列の各走査ラインに沿って測定され、組織変位速度の測定が、当業者に周知の組織速度測定の手段(41)を用いて実行され、剪断波前端速度が、推定され、
推定された伝搬前端速度データは、例えば組織領域の弾性などの組織パラメターを推定するために計算手段(51)内で処理され、この組織パラメターは、記憶手段(52)内に記憶され、腫瘍その他の疾病の診断を助ける診断ツールとしてさらに使用することができる、
方法。」(以下「引用発明」という。)

3.対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「トランスデューサ素子」及び「プローブ」は、それぞれ本願発明の「トランスデューサ」及び「プローブ」に相当する。
(2)引用発明は「腫瘍その他の疾病の診断を助ける診断ツールとしてさらに使用することができる」から、引用発明の「組織」が「生体組織」を含むことは明らかである。一方、本願明細書の、例えば段落【0001】の記載に照らして、本願発明の「軟質材料」も「生体組織」を含む。したがって、引用発明の「組織」は本願発明の「軟質材料」に相当する。
(3)本願発明の「制限ゾーン」は、そこから組織に伝播する内部せん断波を組織に発生させるためのゾーンであるから、引用発明の「接触体」の位置がこれに相当する。したがって、引用発明の「機械的パルスが接触体によって組織に印加され、組織中組織表面に平行な軸に直交する軸に沿って約4cmの深さまで剪断波を伝搬させ」ることは、本願発明の「制限ゾーンから組織に伝播する内部せん断波を組織に発生させる」ことに相当する。また、引用発明の「機械的パルス」を「振動発生器」で発生させることは、本願発明の「バーストを誘起する誘起ステップ」に相当する。
(4)引用発明の「組織に結合したプローブ」の位置が本願発明の「第1測定ゾーン」に相当し、引用発明において当該位置と「接触体」の位置(本願発明の「制限ゾーン」に相当)が離れていることは自明である。
引用発明において「超音波サブイメージ列を獲得する」のは剪断波の前端を視覚化するため(上記摘記事項(2)参照)であり、該剪断波の前端の様子は本願発明の「過渡組織変位」に相当する。そして、引用発明はそれにより「組織粒子の速度が測定され」るから、引用発明は、本願発明の「第1測定ゾーンにおける過渡組織変位を測定する測定ステップ」に相当する構成を有する。当該測定がトランスデューサ素子で行われることは自明である。
(5)引用発明で測定される「剪断波前端速度」は本願発明の「制限ゾーンと第1測定ゾーンとの間のせん断波の速度」に相当する。
(6)引用発明の「組織領域の弾性などの組織パラメター」「を推定する」ことと本願発明の「組織のうち制限ゾーンと第1測定ゾーンとの間に位置する領域の平均粘弾性を推定する推定ステップ」は、引用発明の「組織領域」が本願発明の「組織のうち制限ゾーンと第1測定ゾーンとの間に位置する領域」に相当することは明らかであるから、両者はともに「組織のうち制限ゾーンと第1測定ゾーンとの間に位置する領域の組織パラメターを推定する推定ステップ」である点で共通する。
(7)ところで、本願発明の「c)第1測定ゾーンにおいて組織について測定した前記過渡組織変位と、制限ゾーンと第1測定ゾーンとの間のせん断波の速度とから、組織のうち制限ゾーンと第1測定ゾーンとの間に位置する領域の平均粘弾性を推定する推定ステップ」において、「過渡組織変位」と「制限ゾーンと第1測定ゾーンとの間のせん断波の速度」との関係が必ずしも明確ではないことから、本願明細書の記載を参酌すると、本願明細書の段落【0058】?【0060】には、以下の記載がある。(当審注:下線は当審で付与)
「【0058】
プッシングシーケンスにより低い周波数を用いることにより、プッシング効率が向上し、プッシングビームとイメージングビームとの間の干渉が低減される。
このような組織における変位の測定は弾性率計測分野において周知であり、当業者に知られている方法を用いて行われてよい。
【0059】
たとえば、処理は、第1に動き推定アルゴリズム(たとえば、1次元相互相関またはドップラーに基づくアルゴリズム)を適用することを含む。
その後、組織変位または速度Vが、超音波線L1,L2に沿って時間tの関数、すなわち、V1(z1,t)およびV2(z2,t)として評価される。ここで、z1,z2はそれぞれL1,L2に沿った深度であり、tは時間である。
【0060】
変位データはその後、2つの線L1,L2に沿ったせん断波特性を導き出し、更に2つの線L1,L2の間に位置する媒質の全体的な機械的パラメータを測定するために使用される。推定される機械的パラメータの一例は、これら2点の間でのせん断波の速度CTである:」
また、請求人は審判請求書において「補正後の請求項1に係る発明の方法では、せん断波が誘起されるゾーンと測定ゾーンとの間におけるせん断波の速度を用いて、該領域の平均粘弾性が推定されます(例えば、段落0059?0062)。」と主張している。
これらのことから、本願発明における「過渡組織変位」と「せん断波の速度」との関係は、「過渡組織変位を用いてせん断波の速度を推定すること」であると認められる。
してみると、引用発明の「剪断波前端速度」の推定が上記事項に相当する。

以上のことから、両者は、
「少なくとも1つのトランスデューサを備える1つのプローブを使用し、軟質材料の組織パラメータを測定するための方法であって、
a)制限ゾーンから組織に伝播する内部せん断波を組織に発生させるために、機械的振動の少なくとも1つのバーストを誘起する誘起ステップと、
b1)前記トランスデューサにより、組織において制限ゾーンから離れて位置する少なくとも1つの第1測定ゾーンにおける過渡組織変位を測定する測定ステップと、
c)第1測定ゾーンにおいて組織について測定した前記過渡組織変位と、制限ゾーンと第1測定ゾーンとの間のせん断波の速度とから、組織のうち制限ゾーンと第1測定ゾーンとの間に位置する領域の組織パラメータを推定する推定ステップと、を含む方法。」
の点で一致し、次の点で相違している。

(相違点1)
本願発明が「制限ゾーンにおいて」バーストを誘起するのに対して、引用発明は制限ゾーンから離れた「外部の機械的パルス発生器」でバーストを誘起する点。
(相違点2)
組織パラメータが、本願発明では「平均粘弾性」であるのに対して、引用発明では「弾性など」である点。

4.判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点1
生体組織に機械的振動を誘起させ、当該振動に基づき組織パラメータを測定する方法において、機械的振動を組織表面(本願発明の「制限ゾーン」に相当)で誘起することは、本願の出願日時点で周知の技術(現査定の拒絶の理由に引用された特表2000-503223号公報参照)であり、引用発明に当該周知技術を適用することに格別の阻害要因も技術的困難性もない。
してみると、引用発明に上記相違点1に係る構成を採用することは、当業者が容易になしうる事項である。
(2)相違点2
生体組織に機械的振動を誘起させ、当該振動に基づき測定する組織パラメータとして、粘弾性はよく知られたものである(上記特表2000-503223号公報参照)。
また、引用発明の組織パラメータとして当該粘弾性を用いることに格別の阻害要因はない。
そして、本願発明における「平均粘弾性」は、本願明細書等の記載に照らして「制限ゾーンと第1測定ゾーンとの間に位置する領域の平均の粘弾性」のことであるから、引用発明に上記相違点2に係る構成を採用することは、当業者が容易になしうる事項である。

(3)効果
本願発明全体の効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-11 
結審通知日 2014-12-16 
審決日 2015-01-06 
出願番号 特願2010-507994(P2010-507994)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮澤 浩  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 三崎 仁
渡戸 正義
発明の名称 関心領域の粘弾性の平均値を測定するための方法および装置  
代理人 恩田 博宣  
代理人 本田 淳  
代理人 恩田 誠  

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