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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1301376
審判番号 不服2014-13272  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-08 
確定日 2015-06-16 
事件の表示 特願2011- 18268「Na含有Moターゲット及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月23日出願公開、特開2012-160532、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年1月31日の出願であって、平成25年10月17日付けで拒絶理由が通知され、同年12月24日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、平成26年3月31日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年7月8日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、手続補正がされたものである。

第2 平成26年7月8日付けの手続補正について
上記補正のうち請求項1に係る補正は、補正前の請求項1を引用する請求項5を新たに請求項1とし、補正前の請求項1を削除したものであるから、特許法第17条の2第5項第1号の特許請求の範囲の削除を目的としたものに該当する。

第3 本願発明
本願発明は、平成26年7月8日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明5」といい、まとめて「本願発明」という。)。
「【請求項1】
Moマトリックス中に柱状のペレットからなるNa含有領域が点在し、前記Na含有領域が、金属Na、Na_(2)O、又はNa_(2)MoO_(4)から選ばれた一種類以上からなり、前記ペレットが前記Moマトリックスをなすターゲットの表面から裏面へ貫くように設置され、前記MoマトリックスとNa含有領域との界面に、前記ペレットと前記Moマトリックスとを密着させるMoNa複合酸化物の反応相があり、前記反応相に含まれるNa_(2)MoO_(4)の比率(質量比)が94質量%以上であり、前記MoNa複合酸化物の反応相の厚みが50?1000nmであることを特徴とする、Na含有Moターゲット。
【請求項2】
前記MoNa複合酸化物の反応相が層状に存在することを特徴とする、請求項1に記載のNa含有Moターゲット。
【請求項3】
前記MoNa複合酸化物の反応相の厚みが200nm超であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のNa含有Moターゲット。
【請求項4】
前記ペレットが円柱状であることを特徴とする、請求項1?請求項3のいずれか1項に記載のNa含有Moターゲット。
【請求項5】
請求項1?請求項4のいずれか1項に記載のNa含有Moターゲットの製造方法であって、Moマトリックス中に、金属Na、Na_(2)O、又はNa_(2)MoO_(4)から選ばれた一種類以上からなる柱状のペレットからなるNa含有領域を、前記ペレットが前記Moマトリックスをなすターゲットの表面から裏面へ貫くように設置して点在させた後、真空中もしくは非酸化雰囲気中で、300?400℃の熱処理を施すことを特徴とする、Na含有Moターゲットの製造方法。」

第4 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶理由の概要は次のとおりである。
「この出願の請求項1-7に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において、頒布された下記1-5の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


1.国際公開第2009/089421号
2.特開2009-138212号公報
3.特開昭61-103686号公報
4.特開平7-316802号公報
5.特開2001-98365号公報」

また、拒絶査定の備考欄には、次のように記載されている。
「拒絶理由通知にて「嵌合した材料を接合することも周知な知見」と指摘のとおり、引用文献3には「固体状態で供給された珪素はモリブデン材中の穴の中で熔解・冷却し、平均膜厚が25μmのモリブデン珪化物の膜を介してモリブデン材と珪素材とが接合した」(第4頁右上欄)、引用文献4には「モザイクターゲットの隣り合うピース間をHIP、ホットプレス、爆着等により固相接合することによりこうした課題を解決しうることを見出し」(【0007】)、引用文献5には「この複合ターゲット仮燒結体5をホットプレスすると、中央部分仮燒結体21を周辺部分仮燒結体22の隣接接合部は燒結により一体的に接合し」(【0013】)と記載されている。
してみれば、MoマトリックスとNa柱状ペレットとを熱処理して接合する構成の想起に格別のものはなく、その際に形成される構成が規定されるにすぎないものである。」

第5 当審の判断
(1)引用文献1の記載事項
引用文献1には、「SODIUM/MOLYBDENUM COMPOSITE METAL POWDERS, PRODUCTS THEREOF, AND METHODS FOR PRODUCING PHOTOVOLTAIC CELLS(ナトリウム/モリブデン複合金属粉末、その製造物、及び光電池の製造方法)」(発明の名称、括弧内の日本語はファミリー文献である特表2011-511886号によるもの。以下、同じ。)について、次の記載がある(注:下線は、当審により付与した。)。
ア 「A process or method 10 for producing a sodium/molybdenum composite metal powder 12 is illustrated in Figure 1 and, briefly described, may comprise a supply of a molybdenum metal powder 14 and a supply of a sodium compound 16, such as, for example, sodium molybdate (Na_(2)MoO_(4)) powder. The molybdenum metal powder 14 and sodium molybdate powder 16 are combined with a liquid 18, such as water, to form a slurry 20. The slurry 20 may then be spray dried, e.g., by a pulse combustion spray dryer 22, in order to produce the sodium/molybdenum composite metal powder 12. (ナトリウム/モリブデン複合金属粉末12を製造するためのプロセスまたは方法10を図1に例示し簡単に説明する。これは、モリブデン金属粉末14の供給物およびナトリウム化合物16、例えばモリブデン酸ナトリウム(Na_(2)MoO_(4))粉末などの供給物を含むことができる。モリブデン金属粉末14およびモリブデン酸ナトリウム粉末16を水などの液体18と組み合わせて、スラリー20を形成する。その後、スラリー20を例えばパルス燃焼噴霧乾燥機22により噴霧乾燥して、ナトリウム/モリブデン複合金属粉末12を製造することができる。)」(明細書3頁18?24行)
イ「In still yet another embodiment, the composite metal powder feedstock 24, again in either its green form or in its processed form, may be consolidated at step 40 in order to produce a metal product 42, such as a sputter target 44. The metal product 42 may be used as is directly from consolidation 40. Alternatively, the consolidated product may be further processed, e.g., by sintering 46, in which case the metal product 42 will comprise a sintered metal product. In the case where the metal product 42 comprises a sputter target 44 (i.e., in either a sintered form or an un- sintered form), the sputter target 44 may be used in a sputter deposition apparatus (not shown) in order to deposit a sodium/molybdenum film 32 on substrate 34. See Figure 3.(さらに他の態様では、同様に“未処理”の形または処理した形のいずれかにある複合金属粉末供給原料24を段階40で圧密化して、スパッタターゲット44のような金属製造物42を製造することができる。金属製造物42は、圧密化40から直接“そのままで”用いることができる。あるいは、圧密化した製造物を、例えば焼結46によりさらに処理してもよく、その場合、金属製造物42は焼結金属製造物を含むことになる。金属製造物42がスパッタターゲット44(すなわち、焼結形または非焼結形のいずれかにある)を含む場合、スパッタターゲット44をスパッタ付着装置(図示していない)に用いて、ナトリウム/モリブデンフィルム32’’を基材34上に付着させることができる。図3参照。)」(同4頁8?15行)
ウ 「A significant advantage of the present invention is that it provides a metallic combination of molybdenum and sodium that is otherwise difficult or impossible to achieve by conventional methods. Moreover, even though the sodium/molybdenum composite metal powder comprises a powdered material, it is not a mere mixture of sodium and molybdenum particles. Instead, the sodium and molybdenum sub-particles are actually fused together, so that individual particles of the powdered metal product comprise both sodium and molybdenum. Accordingly, powdered feedstocks 24 comprising the sodium/molybdenum composite powders according to the present invention will not separate (e.g., due to specific gravity differences) into sodium particles and molybdenum particles. Furthermore, coatings or films produced from the sodium/molybdenum composite metal powders will have compositions that are similar to the compositions of the sodium/molybdenum metal powders since such deposition processes do not rely on the codeposition of separate molybdenum and sodium particles that would each have different deposition rates.(本発明の重要な利点は、通常なら従来法により実現することが難しいか不可能であるモリブデンとナトリウムの金属の組合わせがもたらされる点である。さらに、ナトリウム/モリブデン複合金属粉末は粉末状材料を含むが、それはナトリウムおよびモリブデン粒子の単なる混合物ではない。むしろ、ナトリウムおよびモリブデンのサブ粒子が実際は一緒に溶融しており、その結果、粉末状金属製造物の個々の粒子はナトリウムとモリブデンの両方を含む。したがって、本発明に従ったナトリウム/モリブデン複合粉末を含む粉末状供給原料24は、ナトリウム粒子とモリブデン粒子に(例えば比重の差に起因して)分離しない。さらに、前記付着プロセスは、それぞれ異なる付着速度を有するモリブデンとナトリウムの別個の粒子の共付着(codeposition)に依存しないので、該ナトリウム/モリブデン複合金属粉末から製造されるコーティングまたはフィルムは、ナトリウム/モリブデン金属粉末の組成と同様の組成を有する。)」(同4頁30行?5頁8行)
エ 「Besides the advantages associated with the ability to provide a composite metal powder wherein sodium is highly and evenly dispersed throughout molybdenum, the composite metal powders disclosed herein are also characterized by high densities and flowabilities, thereby allowing the composite metal powders to be used to advantage in a wide variety of power metallurgy processes that are now known in the art or that may be developed in the future. For example, the sodium molybdenum composite metal powders may be readily used in a wide variety of thermal spray deposition apparatus and associated processes to deposit sodium/molybdenum films or coatings on various substrates. The powders may also be readily used in a wide variety of consolidation processes, such as cold and hot isostatic pressing processes as well as pressing and sintering processes. The high flowability allows the powders disclosed herein to readily fill mold cavities, whereas the high densities minimizes shrinkage that may occur during subsequent sintering. Sintering can be accomplished by heating in an inert atmosphere or in hydrogen to further reduce oxygen content of the compact.(モリブデンの全体にわたりナトリウムが高度に均一に分散している複合金属粉末を得ることができるという利点に加えて、本明細書中に開示する複合金属粉末は高い密度および流動性によっても特徴付けられ、これにより、該複合金属粉末を、現在当業者に公知であるか将来開発されうる多様な粉末冶金プロセスに有利に用いることが可能になる。例えば、該ナトリウムモリブデン複合金属粉末を多様な溶射付着装置および関連するプロセスに容易に用いて、さまざまな基材上にナトリウム/モリブデンフィルムまたはコーティングを付着させることができる。該粉末は、多様な圧密化プロセス、例えば、冷間および熱間等方圧プレスプロセスならびにプレス焼結プロセスにも容易に用いることができる。本明細書中に開示する粉末は、高い流動性により金型キャビティをすぐに満たすことが可能であり、一方、その後の焼結中に起こりうる収縮は、高い密度により最小限に抑えられる。焼結は、不活性雰囲気または水素中で加熱して圧縮物の酸素含量をさらに低下させることにより、達成することができる。)」(5頁9?21行)
オ Fig.1(図1)

(2)引用文献1に記載された発明の認定
上記(1)の記載から、引用文献1には、「モリブデン金属粉末14及びモリブデン酸ナトリウム粉末16と水とからスラリー20を形成し、該スラリー20が、パルス燃焼噴霧乾燥機22によって噴霧乾燥されることで製造された、ナトリウム及びモリブデンのサブ粒子が一緒に溶融し、モリブデンの全体にわたりナトリウムが高度に均一に分散したナトリウム/モリブデン複合金属粉末を、冷間及び熱間等方圧プレスプロセスによって圧密化したことによって得られたスパッタターゲット44」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「スパッタターゲット44」は、ナトリウムを含有するモリブデンターゲットであるから、本願発明1の「Na含有Moターゲット」に相当する。

そうすると、本願発明1と引用発明とは、
「Na含有Moターゲット」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点)
本願発明1の「Na含有Moターゲット」は、「Moマトリックス中に柱状のペレットからなるNa含有領域が点在し、前記Na含有領域が、金属Na、Na_(2)O、又はNa_(2)MoO_(4)から選ばれた一種類以上からなり、前記ペレットが前記Moマトリックスをなすターゲットの表面から裏面へ貫くように設置され、前記MoマトリックスとNa含有領域との界面に、前記ペレットと前記Moマトリックスとを密着させるMoNa複合酸化物の反応相があり、前記反応相に含まれるNa_(2)MoO_(4)の比率(質量比)が94質量%以上であり、前記MoNa複合酸化物の反応相の厚みが50?1000nmである」のに対し、引用発明の「スパッタターゲット44」は、「モリブデン金属粉末14及びモリブデン酸ナトリウム粉末16と水とからスラリー20を形成し、該スラリー20が、パルス燃焼噴霧乾燥機22によって噴霧乾燥されることで製造された、ナトリウム及びモリブデンのサブ粒子が一緒に溶融し、モリブデンの全体にわたりナトリウムが高度に均一に分散したナトリウム/モリブデン複合金属粉末を、冷間及び熱間等方圧プレスプロセスによって圧密化したことによって得られた」ものである点。

(4)相違点についての判断
拒絶理由で引用された引用文献2?5の記載について検討する。
(引用文献2について)
引用文献2には、「耐酸化性、耐熱性に優れた物理蒸着皮膜用ターゲット材料」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0009】
本発明者らは上記の課題に鑑み、Al-Zr-Si-N系あるいはAl-Zr-N系あるいはAl-Zr-B-N系のPVDコーティング皮膜を得ることができ、低コストで容易に製作できるAl-Zr-Si系あるいはAl-Zr系あるいはAl-Zr-B系のPVDコーティング用のターゲット材料の開発に鋭意取り組み本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明の骨子とするところはZrの板材にAlあるいはAl-B合金あるいはAl-Si合金をはめ込むための孔を複数加工し、その孔に別途溶製あるいは粉末成形等により製造したAlあるいはAl-B合金あるいはAl-Si合金の板状あるいは筒状のプラグをはめこむことにより、該ターゲット材の製造過程において金属間化合物の形成による脆化やZr粉末の爆発の危険性なしに、低コストで容易にAl-Zr-Si-N系あるいはAl-Zr-N系あるいはAl-Zr-B-N系のコーティング皮膜を得るためのPVDコーティング用のターゲット材料の製作及び提供を行うものである。」

この記載によれば、引用文献2には、「Zrの板材にAlあるいはAl-B合金あるいはAl-Si合金をはめ込むための孔を複数加工し、その孔に別途溶製あるいは粉末成形等により製造したAlあるいはAl-B合金あるいはAl-Si合金の板状あるいは筒状のプラグをはめこんだPVDコーティング用のターゲット材料」が記載されていると認められる。

(引用文献3について)
引用文献3には、「高融点金属材と珪素材の接合方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
「この発明は、特に、高融点金属材と珪素材とからなる複合ターゲツト材を製造する際などに適用される高融点金属材と珪素材の接合方法に関する。」(1頁右下欄3?5行)
「本発明者らは1(審決注:原文は○の中に1)まず高融点金属材と珪素材とを直接熔解接合することを試みたが、高融点金属材と溶融珪素とを直接接触させると、接触面における高融点金属珪化物生成に伴う多量かつ急激な熱発生のため、溶融珪素の突沸を引き起こし、正常な接合を妨げること、2(審決注:原文は○の中に2)しかしながら、熔解接合する際に、予め高融点金属材の接合すべき面に高融点金属の珪化物の膜を形成してから、そこに珪素材を溶融された状態で接触させることにより、溶融珪素の突沸も起こらずに高融点金属材と珪素材とを良好に接合することができ、しかも接合により得られた複合金属材は上向、下向及び垂直等どのように配置することもでき、かつ接合された複合金属材をターゲツト材として用いたとき、複合金属材を構成する両者の金属材の間で異常放電を起こさずに高純度で良好な膜質の被膜を形成し得ることを種々研究の結果見い出した。」(2頁左下欄4?20行)

これらの記載によれば、引用文献3には、「ターゲット材のような複合金属材における高融点金属材と珪素材の熔解接合方法に関して、予め高融点金属材の接合すべき面に高融点金属の珪化物の膜を形成してから、そこに珪素材を溶融された状態で接触させることにより、溶融珪素の突沸も起こらずに高融点金属材と珪素材とを良好に接合する高融点金属材と珪素材の接合方法」が記載されていると認められる。

(引用文献4について)
引用文献4には、「モザイクターゲット及びその製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、複数の異種材料のピースから構成される固相接合モザイクターゲット及びその製造方法に関するものであり、特には接合界面での剥離を防止するために隣り合う異種材料のピースのそれぞれの接合面における1つまたは2つ以上の位置に互いに対向して形成されるキー溝と該対向するキー溝により形成される貫通孔に嵌合するキーとを備えることを特徴とするモザイクターゲット及びその製造方法に関するものである。」
「【0013】上述した通り、固相接合は、固体材料同志を接触状態におき、適当な温度で適当な圧力をかけることにより拡散作用、原子間力等により固体同志を接合させるものである。モザイクターゲットに固相接合法を適用することにより各ターゲットピースの密度、組成その他の特性を実質上犠牲とすることなくピース間の隙間を排除してモザイクターゲットを一体化することができる。目的とするモザイクターゲットを構成するよう、単一成分若しくはその合金乃至化合物のブロックや板材から成るピースが突き合わせ状態で組み合わせて配列される。固相接合は、HIP、ホットプレス、爆着等の方法でもたらすことができる。ターゲット材質に適した温度下で適当な圧力をかけ或いは無荷重で一定時間保持することによりピース界面の接合をもたらすことができる。接合温度及び圧力は材料及び使用される接合方法による。例えば、TaピースとMoピースとを組み合わせたターゲットのHIP又はホットプレスによる固相接合の場合、700?2000℃、好ましくは1000?1500の温度範囲そして1000?1500atmの荷重範囲で固相接合可能である。こうして固相接合されたターゲット接合材は長さ方向に所定のターゲット厚さにスライスされまた所定のターゲット直径となるよう機械加工される。」

これらの記載によれば、引用文献4には、「複数の異種材料のピースから構成され、該ピース同志を接触状態におき、HIP、ホットプレス、爆着等の方法の適当な温度で適当な圧力をかけることにより拡散作用、原子間力等により該ピース同志を接合させる固相接合によって製造されたモザイクターゲットであって、該ピースは、それぞれの接合面における1つ又は2つ以上の位置に互いに対向して形成されるキー溝と該対向するキー溝により形成される貫通孔に嵌合するキーとを備えたモザイクターゲット」が記載されていると認められる。

(引用文献5について)
引用文献5には、「光磁気記録媒体膜形成用複合スパッタリングターゲット」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【0006】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明者らは、スパッタリング時間が長時間経過しても光磁気記録媒体膜の場所による組成のばらつきが少ない光磁気記録媒体膜を成膜することのできる複合スパッタリングターゲットを製造すべく研究を行なった。その結果、(a)前記図9に示される従来の中央部分11と周辺部分12の希土類元素含有量が異なる複合ターゲット13は、長時間スパッタリングを行うと、図10の断面図に示されるように、複合ターゲットの中央部分11は比較的消耗が少ないが、周辺部分12は大きく消耗して最外周付近には窪み14が発生する程度まで消耗し、したがって長時間スパッタリングを行った後の図10に示される複合ターゲットの周辺部分12の表面積と中央部分11の表面積の比率は、スパッタリング開始当初の図9に示される複合ターゲットの周辺部分12の表面積と中央部分11の表面積の比率に比べて大きくなり、その結果、成膜された光磁気記録媒体膜の中心点Xと周辺点Yの組成に許容範囲を越える大きなばらつきが生じる、(b)このばらつきを解消するには、図1に示されるように、希土類元素含有量が相対的に少ない組成の中央部分1と、希土類元素含有量が相対的に多い組成の周辺部分2とが同心円状に一体的に接合されており、この複合ターゲット3の中央部分1の側面は表面から裏面に向かって厚さ方向に対して傾斜して広がっている複合ターゲットを作製し、この中央部分1と周辺部分2からなる複合ターゲット3を用いて長時間スパッタリングすると、周辺部分2が早く消耗して周辺部分2の表面積が拡大しても、それにつれて複合ターゲットの中央部分1の面積も広がるところから、中央部分1と周辺部分2の表面積の比率はスパッタリング開始直後と大きく変化せず、したがって形成された光磁気記録媒体膜の中心点Xと周辺点Yの膜組成のばらつきが大きくなることはない、という知見を得たのである。」
「【0013】この発明の光磁気記録媒体膜形成用複合スパッタリングターゲットの製造方法について具体的に説明する。図3?4は、この発明の図1に示される磁気記録媒体膜形成用複合スパッタリングターゲットを製造するための工程断面図である。この発明の光磁気記録媒体膜形成用複合スパッタリングターゲットの製造するには、まず、図3の断面図に示されるように、厚さ方向に側面が末広がりに傾斜した傾斜面8を有し希土類元素含有量の相対的に少ない円錐台形状をした中央部分仮燒結体21およびこの中央部分仮燒結体21に嵌合する末広がりの開口部4を有する希土類元素含有量の相対的に多いリング形状をした周辺部分仮燒結体22を用意し、次に中央部分仮燒結体21を周辺部分仮燒結体22の開口部4に嵌合して一体化し、図4に示される複合ターゲット仮燒結体5を作製する。この複合ターゲット仮燒結体5をホットプレスすると、中央部分仮燒結体21を周辺部分仮燒結体22の隣接接合部は燒結により一体的に接合し、図1に示されるこの発明の磁気記録媒体膜形成用複合スパッタリングターゲット3が得られる。」

これらの記載によれば、引用文献5には、「厚さ方向に側面が末広がりに傾斜した傾斜面8を有し希土類元素含有量の相対的に少ない円錐台形状をした中央部分仮燒結体21およびこの中央部分仮燒結体21に嵌合する末広がりの開口部4を有する希土類元素含有量の相対的に多いリング形状をした周辺部分仮燒結体22を用意し、次に中央部分仮燒結体21を周辺部分仮燒結体22の開口部4に嵌合して一体化し、ホットプレスすることで得られた中央部分11と周辺部分12の希土類元素含有量が異なる光磁気記録媒体膜形成用複合スパッタリングターゲット3において、希土類元素含有量が相対的に少ない組成の中央部分1と、希土類元素含有量が相対的に多い組成の周辺部分2とが同心円状に一体的に接合されており、この光磁気記録媒体膜形成用複合ターゲット3の中央部分1の側面は表面から裏面に向かって厚さ方向に対して傾斜して広がっている光磁気記録媒体膜形成用複合スパッタリングターゲット3」が記載されていると認められる。

(判断)
そうすると、引用文献2?5には、「Moマトリックスと柱状のペレットからなるNa含有領域との界面に、前記Na含有領域と前記Moマトリックスとを密着させるMoNa複合酸化物の反応相を設ける」ことについては、開示も示唆もなく、また、「前記反応相に含まれるNa_(2)MoO_(4)の比率(質量比)が94質量%以上であり、前記MoNa複合酸化物の反応相の厚みが50?1000nmである」ことについても、開示も示唆もない。

さらに、引用発明は、「ナトリウム及びモリブデンのサブ粒子が一緒に溶融し、モリブデンの全体にわたりナトリウムが高度に均一に分散したナトリウム/モリブデン複合金属粉末を冷間及び熱間等方圧プレスプロセスによって圧密化したことによって得られたスパッタターゲット44」であるところ、本願発明1のような、Moマトリクス中に柱状のペレットからなるNa含有領域が点在するような態様は、そもそも想定されるものではない。

したがって、相違点に係る本願発明1の発明特定事項は、引用発明及び引用文献2?5の記載に基いて、当業者が容易に想到することができたとすることはできない。

よって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2?5の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本願発明2?5について
本願発明2?5は、本願発明1を直接的又は間接的に引用するものであって、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明1と同様な理由から、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2015-06-04 
出願番号 特願2011-18268(P2011-18268)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉野 三寛  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 山口 剛
川端 修
発明の名称 Na含有Moターゲット及びその製造方法  
代理人 志賀 正武  
代理人 勝俣 智夫  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 寺本 光生  
代理人 山口 洋  

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