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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1301383
審判番号 不服2013-17983  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-18 
確定日 2015-05-28 
事件の表示 特願2007- 37663「皮膚外用剤」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月 4日出願公開、特開2008-201694〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯 ・本願発明
本願は、平成19年2月19日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成25年1月15日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下「本願発明」という。)

「クロオコックス科の藍藻植物またはその抽出物(スイゼンジノリ由来の糖誘導体を単独で含むものを除く)を含むことを特徴とする皮膚用保湿剤。」

2 引用刊行物記載の発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用文献6として引用された、本願の出願の日前である平成17年(2005年)に頒布された「九州東海大学農学部紀要,2005,Vol.24,Page.37?43」(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。

[1a]「スイゼンジノリ(Aphanothece sacrum (Sur.) Okada)は,清澄な水域でのみ増殖する日本固有の淡水産ラン藻である.」(37頁左下欄2行?同頁右下欄1行)

[2a]「生のスイゼンジノリを凍結乾燥し,メタノールで1週間冷浸後,抽出液をろ過,さらに残渣にメタノールを加え,同様な操作後,ろ液を合わせ減圧下濃縮してメタノール抽出エキスを得た.」(38頁右欄17?20行)

[3a]「ヒアルロニダーゼ活性阻害試験はDavidsonらの方法,α-グルコシダーゼ活性阻害試験は松井らの方法を応用して行った(7).」(38頁右欄35?37行)

[4a]「スイゼンジノリは,江戸時代より高級郷土料理の素材として珍重されていた.そこで,スイゼンジノリの食品としての機能性に関する実験として,そのメタノール抽出エキスについて,ヒアルロニダーゼおよびα-グルコシダーゼに対する活性阻害試験を行った.
現在,スギ花粉症などアレルギー症状を示す病気が多く見られる.そこで,抗I型アレルギー活性の指標の一つとされるヒアルロニダーゼ活性阻害試験を行い,その結果をFig. 9に示した.試料の最終濃度は0.05%で,ポ

ジティブコントロールとしては,市販の抗アレルギー剤であるトラニラストを用いた.Fig.9から明らかな様に,スイゼンジノリの活性阻害は,アラメ(海藻の一種)には及ばないものの,市販食品中でヒアルロニダーゼ活性阻害が高いといわれている緑茶のメタノールエキスよりも約3倍強い活性を示した.
・・・
これにより,スイゼンジノリには,抗アレルギー活性や血糖の上昇を抑制する作用があることが示唆されたが,活性成分の分離・同定やメカニズムの検討などを早急に行う必要がある.そして,培養条件や機能性の詳細な検討を通じて,日本固有種ラン藻・スイゼンジノリの保全と利用を図る必要がある.」(42頁左欄42行?43頁左欄9行)

引用例には、スイゼンジノリ(摘示[1a])のメタノール抽出エキス(摘示[2a])が記載されており、該メタノール抽出エキスは、ヒアルロニダーゼ活性阻害試験(摘示[3a]、[4a])でヒアルロニダーゼ活性阻害作用が確認されているものであるから、ヒアルロニダーゼ活性阻害剤といえるものである。
そうすると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「生のスイゼンジノリを凍結乾燥し、メタノールで1週間冷浸後、抽出液をろ過、さらに残渣にメタノールを加え、同様な操作後、ろ液を合わせ減圧下濃縮して得られたメタノール抽出エキスからなるヒアルロニダーゼ活性阻害剤」

3 対比
本願発明と引用発明を対比する。
本願明細書には、【0010】で、
「クロオコックス科の藍藻植物、すなわちクロオコックス科に属する藍藻植物類には・・・スイゼンジノリ属のスイゼンジノリ(Aphanothece sacrum)・・・などがある。」
と記載され、【0011】には、
「抽出の際は、藍藻を生のまま用いてもよいが、抽出効率を考えると、細切、乾燥、粉砕等の処理を行った後に抽出を行うことが好ましい。」
と記載されている。
よって、引用発明の「生のスイゼンジノリ」が、本願発明の「クロオコックス科の藍藻植物」に相当する。
また、引用発明の「抽出エキス」と本願発明の「抽出物(スイゼンジノリ由来の糖誘導体を単独で含むものを除く)」は、「抽出物」である点で一致している。
そうすると、両者は「クロオコックス科の藍藻植物の抽出物を含む剤」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1
本願発明はクロオコックス科の藍藻植物の抽出物(スイゼンジノリ由来の糖誘導体を単独で含むものを除く)であるのに対し、引用発明は生のスイゼンジノリを凍結乾燥し、メタノールで1週間冷浸後、抽出液をろ過、さらに残渣にメタノールを加え、同様な操作後、ろ液を合わせ減圧下濃縮して得られたメタノール抽出エキスである点。
相違点2
本願発明は皮膚用保湿剤であるのに対し、引用発明はヒアルロニダーゼ活性阻害剤である点。

4 当審の判断
(1)上記相違点1について検討する。
本願発明の「クロオコックス科の藍藻植物の抽出物(スイゼンジノリ由来の糖誘導体を単独で含むものを除く)」には何が包含されるのか必ずしも明らかではない。そこで、本願明細書の記載を見てみると、【0010】で、
「このクロオコックス科の藍藻植物またはその抽出物には、分析しきれないほどの非常に多くの種類の成分が含まれており、これらが総合的に作用して本発明の効果が得られるものと推測される。」と記載されていることから、スイゼンジノリ由来の糖誘導体を単独で含むように分画処理等されていないクロオコックス科の藍藻植物の抽出物といえれば、本願発明の「クロオコックス科の藍藻植物の抽出物(スイゼンジノリ由来の糖誘導体を単独で含むものを除く)」に包含されると解される。
ここで、引用発明の「メタノール抽出エキス」は、「生のスイゼンジノリを凍結乾燥し、メタノールで1週間冷浸後、抽出液をろ過、さらに残渣にメタノールを加え、同様な操作後、ろ液を合わせ減圧下濃縮して得られた」ものであって、スイゼンジノリ由来の糖誘導体を単独で含むように分画処理等されていないクロオコックス科の藍藻植物の抽出物といえるから、引用発明の「生のスイゼンジノリを凍結乾燥し、メタノールで1週間冷浸後、抽出液をろ過、さらに残渣にメタノールを加え、同様な操作後、ろ液を合わせ減圧下濃縮して得られたメタノール抽出エキス」は、本願発明の「クロオコックス科の藍藻植物の抽出物(スイゼンジノリ由来の糖誘導体を単独で含むものを除く)」に包含されると解される。
よって、相違点1は実質的な相違点とはいえない。
なお、本願発明の「(スイゼンジノリ由来の糖誘導体を単独で含むものを除く)」という特定事項は、平成25年1月15日付け意見書によれば、原審で引用された引用文献等12(分画処理等されたスイゼンジノリ由来の糖誘導体を有効成分とする保湿剤が記載されている。)との差別化を明確にするためのものであり、引用例(原審で引用された引用文献6)との差別化を明確にするためのものではない。
(2)上記相違点2について検討する。
ア 本願発明の皮膚用保湿剤は、保湿剤であり、かつ、皮膚用剤であるといえるから、保湿剤、皮膚用剤の2点で相違点2について検討する。
イ 保湿剤の点について
引用発明のヒアルロニダーゼ活性阻害剤は、ヒアルロニダーゼ活性阻害作用を有するといえるものであり(摘示[4a])、ヒアルロニダーゼ活性阻害作用に皮膚の保湿作用があることは周知の事項1(例えば、参考文献1?4参照。)である。
そうすると、引用発明のヒアルロニダーゼ活性阻害剤は、上記周知事項1に基づけば、皮膚の保湿作用を有するものといえるから、実質的には保湿剤といえる。
よって、保湿剤の点では、相違点2は実質的な相違点であるとはいえない。
参考文献1:フレグランスジャーナル,2002,Vol.30,No.6,Page.119?123(特に、1.はじめに、7.ヒアルロン酸の生産と分解、8.おわりに参照。)
参考文献2:特開平9-124497号公報(特に、請求項10、【0004】、【0023】、【0024】参照。)
参考文献3:特開2003-12489号公報(特に、【0004】、【0005】、【0024】参照。)
参考文献4:特開平9-67266号公報(特に、請求項1、【0001】、【0003】、【0009】、【0013】参照。)
ウ 皮膚用剤の点について
ヒアルロニダーゼ活性阻害剤を皮膚用剤、つまり皮膚外用剤とすることは周知の事項2(例えば、参考文献1?4参照。)である。
そうであれば、引用発明のヒアルロニダーゼ活性阻害剤を、上記周知事項2に基づき、皮膚用剤、つまり皮膚外用剤とすることに格別な困難性は認められない。
エ 以上から、引用発明を、上記周知事項1、2に基づき、皮膚用保湿剤とすることに格別な困難性は認められない。
(3)本願発明の効果について検討する。
ア 本願明細書の実施例(【0049】、【0050】の<保湿作用の評価>)で、本願発明は保湿作用を有することが示されている。
しかし、本願発明が保湿作用を有することは、上記周知事項1、2から、予測の範囲内である。また、その保湿作用の程度は、本願発明が引用発明と成分の点で相違しないものであることからすれば(上記4(1)参照。)、格別なものであるとは認められない。
イ また、本願明細書の【0022】には、
「クロオコックス科の藍藻植物またはその抽出物を有効成分とする保湿剤は、皮膚や毛髪等に優れた保湿効果を与えるとともに、肌荒れ、小じわ、くすみといった皮膚症状の改善に優れた効果を発揮し、肌のキメを整え、肌の透明感を高めることができる。」と記載されているから、本願発明は「皮膚に優れた保湿効果を与えるとともに、肌荒れ、小じわ、くすみといった皮膚症状の改善に優れた効果を発揮し、肌のキメを整え、肌の透明感を高めることができる。」ものであると認められる。
しかし、「皮膚に優れた保湿効果を与える」点は、上記4(3)アで述べたように格別でない。
また、「肌荒れ、小じわ、くすみといった皮膚症状の改善に優れた効果を発揮し、肌のキメを整え、肌の透明感を高めることができる。」点も、上記周知事項1、2から導き出される効果(皮膚が保湿されることにより、肌荒れ、小じわ、くすみといった皮膚症状が改善され、肌のキメが整えられ、肌の透明感が高まる。)を述べているにとどまるか、ヒアルロニダーゼ活性阻害作用によって、ヒアルロン酸の減少が防止されるのであるから、ヒアルロン酸の減少防止から予測される範囲内の効果である(例えば、参考文献1?5参照。)。
参考文献5:特開2003-212781号公報(特に、【0003】、【0004】参照。)

5 むすび
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-24 
結審通知日 2015-03-31 
審決日 2015-04-13 
出願番号 特願2007-37663(P2007-37663)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 弘實 謙二  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 関 美祝
星野 紹英
発明の名称 皮膚外用剤  

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