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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1301405
審判番号 不服2013-12494  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-01 
確定日 2015-05-29 
事件の表示 特願2010- 59987「PD-1に対する抗体およびその使用」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月 2日出願公開、特開2010-189395〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15(2003)年12月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年12月23日,米国)を国際出願日とする特願2004-561922号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成22年3月16日に新たな特許出願としたものであって、平成24年7月6日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたが、平成25年2月26日付で拒絶査定がなされ、これに対して平成25年7月1日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。

2.平成25年7月1日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年7月1日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
上記補正により、請求項1は、補正前の
「【請求項1】PD-1に特異的に結合して、PD-1へのPD-L1の結合を阻害する抗PD-1抗体であって、
(a)(a-i)配列番号26(CDRL1)、配列番号27(CDRL2)および配列番号28(CDRL3)に示される配列;または
(a-ii)1もしくは数個の保存的アミノ酸置換により(a-i)から誘導された配列;
を有する相補性決定領域(CDR)L1、L2およびL3を含む軽鎖;および
(b)(b-i)配列番号23(CDRH1)、配列番号24(CDRH2)および配列番号25(CDRH3)に示される配列;または
(b-ii)1もしくは数個の保存的アミノ酸置換により(b-i)から誘導された配列;
を有する相補性決定領域(CDR)H1、H2およびH3を含む重鎖を含み、ただし、該抗PD-1抗体は、配列番号26(CDRL1)、配列番号27(CDRL2)および配列番号28(CDRL3)に示される配列を有する相補性決定領域(CDR)L1、L2およびL3を含む軽鎖と、配列番号23(CDRH1)、配列番号24(CDRH2)および配列番号25(CDRH3)に示される配列を有する相補性決定領域(CDR)H1、H2およびH3を含む重鎖とを含まない、抗PD-1抗体。」から、
「【請求項1】PD-1に特異的に結合して、PD-1へのPD-L1の結合を阻害する抗PD-1抗体であって、
(a)(a-i)配列番号26(CDRL1)、配列番号27(CDRL2)および配列番号28(CDRL3)に示される配列;または
(a-ii)1個の保存的アミノ酸置換により(a-i)から誘導された配列;
を有する相補性決定領域(CDR)L1、L2およびL3を含む軽鎖;および
(b)(b-i)配列番号23(CDRH1)、配列番号24(CDRH2)および配列番号25(CDRH3)に示される配列;または
(b-ii)1個の保存的アミノ酸置換により(b-i)から誘導された配列;
を有する相補性決定領域(CDR)H1、H2およびH3を含む重鎖
を含み、ただし、該抗PD-1抗体は、配列番号26(CDRL1)、配列番号27(CDRL2)および配列番号28(CDRL3)に示される配列を有する相補性決定領域(CDR)L1、L2およびL3を含む軽鎖と、配列番号23(CDRH1)、配列番号24(CDRH2)および配列番号25(CDRH3)に示される配列を有する相補性決定領域(CDR)H1、H2およびH3を含む重鎖とを含まない、抗PD-1抗体。」へと補正された。
上記請求項1に係る補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「1もしくは数個の保存的アミノ酸置換」を「1個の保存的アミノ酸置換」に限定するものであり、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、請求項1についての補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下、「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明1」という。)が、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下検討する。

(2)特許法第36条第4項第1号について
(2-1)本願明細書の記載
本願明細書において、本願補正発明1の(a)及び(b)で特定されるCDRを有する(ただし、本願補正発明1からは除外されている)抗体を、PD1-28抗体と称している。
また、本願明細書の段落【0010】?【0011】には、
「(発明の要旨)
本開示は、PD-1のアゴニストおよび/またはアンタゴニストとして作用し得る抗体を提供して、これにより、PD-1によって調節される免疫応答を調節する。本開示は新規抗原結合フラグメントを含む抗PD-1抗体を、さらに提供する。本発明の抗PD-1抗体は、(a)PD-1(ヒトPD-1を含める)に特異的に結合すること;(b)PD-1とその天然リガンドとの相互作用をブロックすること;または(c)両方の機能を実行することが可能である。さらに、これらの抗体は、免疫調節性特性を有する(すなわち、これらの抗体は、免疫応答のPD-1関連ダウンレギュレーションの調節において有効であり得る)。使用方法および所望される効果に応じて、これらの抗体は、免疫応答を増強するか、または阻害するかのいずれかのために、使用され得る。
これらの抗体の非限定的な例示的な実施形態は、PD1-17、PD1-28、PD1-33、PD1-35、およびPD1-F2として呼ばれる。他の実施形態は、PD1-17、PD1-28、PD1-33、PD1-35、またはPD1-F2のFvフラグメントのVHドメインおよび/またはVLドメインを含む。さらなる実施形態は、任意のこれらのVHドメインおよびVLドメインのうちの一以上の相補性決定領域(CDR)を含む。他の実施形態は、PD1-17、PD1-28、PD1-33、PD1-35、またはPD1-F2のVHドメインのH3フラグメントを含む。」
(注:下線部は当審による。以下、同様。)という一般的な記載があり、さらに、本願明細書の段落【0046】には、PD-1に特異的な抗体の改変体に関して、
「(誘導体)
本開示はまた、PD-1に特異的な抗体を得る方法を提供する。このような抗体のCDRは、表1に同定されるVHおよびVLの特異的な配列に限定されず、そしてPD-1に特異的に結合する能力を保持するこれらの配列の改変体を含み得る。このような改変体は、当該分野において周知の技術を用いて、当業者によって、表1に列挙される配列から誘導され得る。例えば、アミノ酸置換、アミノ酸欠失、またはアミノ酸付加は、FRにおいておよび/またはCDRにおいてなされ得る。FRにおける変更は、通常、抗体の安定性および免疫原性を向上するように設計され、一方でCDRにおける変更は、代表的に、この標的に対する抗体の親和性を上昇するように設計される。FRの改変体はまた、天然に存在する免疫グロブリンアロタイプ含む。このような、親和性を上昇させる変更は、CDRを変更させること、および抗体の標的に対する抗体の親和性を試験することを包含する慣例的な技術によって、経験的に決定され得る。例えば、保存的なアミノ酸置換は、任意の一つの開示されるCDR内になされ得る。種々の変更が、Antibody Engineering,第2版,Oxford University Press(編)Borrebaeck,1995に記載される方法に従って、なされ得る。これらは、配列内の機能的に等価なアミノ酸残基をコードする異なるコドンの置換によって変更されて、従って「サイレント」変化を生じるヌクレオチド配列を含むが、これらに限定されない。例えば、非極性アミノ酸としては、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、およびメチオニンが挙げられる。極性中性アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、およびグルタミンが挙げられる。陽性荷電(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、リジン、およびヒスチジンが挙げられる。陰性荷電(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。この配列内のアミノ酸置換は、このアミノ酸が属するクラスの他のメンバーから選択され得る(表5を参照のこと)。さらに、このポリペプチドにおける任意のネイティブ残基はまた、アラニンで置換され得る(例えば、MacLennanら(1998)Acta Physio.Scand.Suppl.643:55-67;Sasakiら(1998)Adv.Biophys.35:1-24を参照のこと)。」
と記載されている。
そして、本願明細書の実施例では、PD1-28抗体がヒトPD-1に特異的に結合し、該抗体がヒトPD-L1のヒトPD-1に対する結合を阻害したこと、及び該抗体が市販されているマウス抗ヒトPD-1抗体であるJ110とは異なるエピトープを認識することを確認したことが記載されているものの、本願補正発明1に該当するPD1-28抗体の改変体については、本願明細書の実施例で一例も製造されておらず、PD-1との特異的結合を確認したことも記載されていない。

(2-2)当審の判断
本願補正発明1の抗体は、(a)の軽鎖のCDRおよび(b)の重鎖のCDRの一方もしくは両方のCDRに対して、1個の保存的アミノ酸置換を有する抗PD-1抗体であるといえるが、本願明細書にはこのような抗体を製造し、PD-1との特異的結合を確認したことが記載されていないのは、上述のとおりである。
一方、抗体の技術分野においては、重鎖及び軽鎖のCDR1?3の6つをそれぞれこの順序で有することで、初めて抗原との特異的な結合が保持されるのであり、たとえCDR中の1アミノ酸の保存的置換であっても、その抗原との特異的な結合に影響を与えることが、本願出願時の技術常識であった。そうすると、本願明細書において実際に作成したことが記載されているPD1-28抗体のCDRのどの場所にいかなる保存的アミノ酸置換をした場合に、PD1-28抗体と同様の性質、すなわちPD-1に特異的に結合する抗体が得られるかは不明である。
そうすると、本願補正発明1を実施するには、本願補正発明1の軽鎖CDRに相当する配列番号26?28のアミノ酸配列(合計29アミノ酸)について1個の保存的アミノ酸置換(置換するアミノ酸は複数存在する)を導入して(a-ii)の配列を作製し、重鎖CDRに相当する配列番号23?25のアミノ酸配列(合計32アミノ酸)について1個の保存的アミノ酸置換(置換するアミノ酸は複数存在する)を導入して(b-ii)の配列を作製し、さらに(a-i)と(b-ii)、(a-ii)と(b-i)、並びに(a-ii)と(b-ii)で規定される、軽鎖CDRと重鎖CDRの膨大な数の組み合わせの全てについて、PD-1に特異的に結合し、かつPD-1へのPD-L1の結合を阻害するか否かを試験しなければならず、これは当業者といえども過度の試行錯誤を要するものである。
したがって、本願の発明の詳細な説明には、本願補正発明1の抗体を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(2-3)審判請求人の主張
審判請求人は、平成25年8月7日付審判請求書の手続補正書において、「(a-ii)及び(b-ii)に記載の抗体の可変ドメインの配列は、それぞれ(a-i)及び(b-i)に記載の可変領域の配列と95%以上の同一性を有するものとなった」こと、「変異抗体と、もとの抗体との可変ドメインの配列同一性が95%以上である場合には、変異抗体においても、もとの抗体の抗原結合部位の立体構造が保持され、上記抗体と同程度の親和性を有する抗体が得られる蓋然性は極めて高い」こと、さらに「例えば特許第5094842号や特許第5175181号においては、もとの抗体の可変ドメインとの配列同一性が95%である変異抗体が特許されている」ことを主張している。
しかしながら、本願補正発明1のPD-1に対する抗体によって、PD-1とPD-L1との結合を阻害するという機能を発揮するには、CDRにおいて保存的アミノ酸置換された抗体であっても、同じエピトープを同様に認識する必要があるところ、たとえ1個のアミノ酸残基の置換が95%同一性を満たしたとしても、エピトープを認識するCDRに変異が導入される以上、保存的アミノ酸置換前の抗体と同様の認識性が直ちに期待できるとはいえない。また、特許された事例は本願補正発明1とは事案を異にしているため、参考とすることができないから、審判請求人の上記主張は採用できない。

(3)特許法第36条第6項第1号について
本願補正発明1に係る抗体は、2.(2-2)に記載した理由と同様の理由により、本願明細書に記載されておらず、また、本願出願時の技術常識を考慮しても、かかる抗体を製造できることを当業者が理解できるよう本願明細書に記載されているとはいえない。

(4)小括
以上の理由により、本願の発明の詳細な説明には、本願補正発明1について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願補正発明1は、本願の発明の詳細な説明に記載されていないから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本願補正発明1は、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものではない。

(5)結び
以上のとおり、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成25年7月1日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?6に係る発明は、平成24年7月6日付手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち請求項1には、以下のとおり記載されている。
「【請求項1】PD-1に特異的に結合して、PD-1へのPD-L1の結合を阻害する抗PD-1抗体であって、
(a)(a-i)配列番号26(CDRL1)、配列番号27(CDRL2)および配列番号28(CDRL3)に示される配列;または
(a-ii)1もしくは数個の保存的アミノ酸置換により(a-i)から誘導された配列;
を有する相補性決定領域(CDR)L1、L2およびL3を含む軽鎖;および
(b)(b-i)配列番号23(CDRH1)、配列番号24(CDRH2)および配列番号25(CDRH3)に示される配列;または
(b-ii)1もしくは数個の保存的アミノ酸置換により(b-i)から誘導された配列;
を有する相補性決定領域(CDR)H1、H2およびH3を含む重鎖を含み、ただし、該抗PD-1抗体は、配列番号26(CDRL1)、配列番号27(CDRL2)および配列番号28(CDRL3)に示される配列を有する相補性決定領域(CDR)L1、L2およびL3を含む軽鎖と、配列番号23(CDRH1)、配列番号24(CDRH2)および配列番号25(CDRH3)に示される配列を有する相補性決定領域(CDR)H1、H2およびH3を含む重鎖とを含まない、抗PD-1抗体。」(以下、「本願発明1」という。)

(1)原査定の拒絶の理由の概要
原査定における拒絶の理由は、
(i)本願の発明の詳細な説明には、本願請求項1に記載の発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、
(ii)本願の発明の詳細な説明には、本願請求項1に記載の発明が記載されておらず、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、
というものである。

(2)本願明細書の記載
本願明細書の記載は、2.(2-1)に記載のとおりであり、本願補正発明1に該当するPD1-28抗体の改変体については、本願明細書の実施例で一例も製造されておらず、PD-1との結合を確認したことも記載されていない。

(3)当審の判断
2.(2-2)で判断したとおり、本願明細書には、実際に軽鎖および重鎖の一方もしくは両方のCDRに対して、1個の保存的アミノ酸置換を有するPD-1抗体を製造したことさえ記載されておらず、そのような抗体を製造するためには当業者といえども過度の実験を要するものであるから、さらに膨大な数の組み合わせを包含する、軽鎖および重鎖の一方もしくは両方のCDRに対して、1もしくは数個の保存的アミノ酸置換を有するPD-1抗体を製造するためには、さらに過度な実験、試行錯誤を要することは明らかである。
よって、本願の発明の詳細な説明には、本願発明1の抗体を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
また、2.(3)と同様に、本願発明1に係る抗体は本願明細書に記載されておらず、また、本願出願時の技術常識を考慮しても、かかる抗体を製造できることを当業者が理解できるよう本願明細書に記載されているとはいえない。

4.結び
以上のとおりであるから、本願は、本願請求項1に記載の発明について、特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明については論及するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-19 
結審通知日 2015-01-06 
審決日 2015-01-19 
出願番号 特願2010-59987(P2010-59987)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C07K)
P 1 8・ 536- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 晋治藤井 美穂  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 高堀 栄二
三原 健治
発明の名称 PD-1に対する抗体およびその使用  
代理人 東海 裕作  
代理人 小澤 誠次  
代理人 堀内 真  
代理人 小澤 誠次  
代理人 堀内 真  
代理人 東海 裕作  
代理人 廣田 雅紀  
代理人 廣田 雅紀  

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