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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W |
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管理番号 | 1301468 |
審判番号 | 不服2013-23560 |
総通号数 | 187 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-07-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-12-02 |
確定日 | 2015-06-03 |
事件の表示 | 特願2011-147658「移動無線ネットワークの同期信号を受信するための受信方法、および、移動無線信号用の送受信素子」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月19日出願公開、特開2012- 16019〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成23年7月1日(パリ条約による優先権主張 2010年(平成22年)7月1日 ドイツ、2010年(平成22年)7月1日 米国)の出願であって、平成24年11月5日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成25年1月28日付けで手続補正がなされ、同年7月25日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年12月2日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。 第2 平成25年12月2日付けの手続補正についての補正却下の決定 [結論] 平成25年12月2日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正内容 平成25年12月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成25年1月28日付けで提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1: 「 【請求項1】 移動無線ネットワークの同期信号を受信する受信方法において、 移動無線信号用の送受信素子を用いて専用の通信リンクを介して、上記送受信素子を備えた移動無線端末によって用いられるある移動無線カードに結びつけられているある移動無線ネットワークと通信を行う通信工程と、 上記専用の通信リンクにおける伝送ギャップ期間中に上記送受信素子を用いて、上記移動無線端末によって用いられる他の移動無線カードに結びつけられている他の移動無線ネットワークの同期信号を受信する受信工程と、を含み、 上記送受信素子に対して、上記他の移動無線ネットワークの信号を受信するための設定が上記専用の通信リンクとは別個に行われない受信方法。」 を、 「 【請求項1】 移動無線ネットワークの同期信号を受信する受信方法において、 移動無線端末によって用いられるある移動無線カードに格納されている承認情報項目を、上記移動無線端末が備える移動無線信号用の送受信素子を用いて、上記ある移動無線カードに結びつけられているある移動無線ネットワークに送信する工程と、 上記移動無線端末によって用いられる他の移動無線カードに格納されている承認情報項目を、上記送受信素子を用いて、上記他の移動無線カードに結びつけられている他の移動無線ネットワークに送信する工程と、 上記送受信素子を用いて専用の通信リンクを介して、上記ある移動無線ネットワークと通信を行う通信工程と、 上記専用の通信リンクにおける伝送ギャップ期間中に上記送受信素子を用いて、上記他の移動無線ネットワークの同期信号を受信する受信工程と、を含み、 上記送受信素子に対して、上記他の移動無線ネットワークの信号を受信するための設定が上記専用の通信リンクとは別個に行われない受信方法。」 と補正することを含むものである(下線は当審で付加したものであり、補正箇所を示す。)。 すなわち、本件補正は、請求項1において、 a.「移動無線端末によって用いられるある移動無線カードに格納されている承認情報項目を、上記移動無線端末が備える移動無線信号用の送受信素子を用いて、上記ある移動無線カードに結びつけられているある移動無線ネットワークに送信する工程」を追加し、 b.「上記移動無線端末によって用いられる他の移動無線カードに格納されている承認情報項目を、上記送受信素子を用いて、上記他の移動無線カードに結びつけられている他の移動無線ネットワークに送信する工程」を追加し、 c.「移動無線信号用の送受信素子を用いて専用の通信リンクを介して」の「移動無線信号用の送受信素子」という記載を、「上記送受信素子」と補正し、 d.「上記送受信素子を備えた移動無線端末によって用いられるある移動無線カードに結びつけられているある移動無線ネットワークと通信を行う」の「上記送受信素子を備えた移動無線端末によって用いられるある移動無線カードに結びつけられているある移動無線ネットワーク」という記載を、「上記ある移動無線ネットワーク」と補正し、 e.「上記移動無線端末によって用いられる他の移動無線カードに結びつけられている他の移動無線ネットワークの同期信号を受信する」の「上記移動無線端末によって用いられる他の移動無線カードに結びつけられている他の移動無線ネットワーク」という記載を、「上記他の移動無線ネットワーク」と補正するものである。 2.補正の目的 上記補正事項a.により追加された「移動無線端末によって用いられるある移動無線カードに格納されている承認情報項目を、上記移動無線端末が備える移動無線信号用の送受信素子を用いて、上記ある移動無線カードに結びつけられているある移動無線ネットワークに送信する工程」に対応する事項は、補正前の請求項1に見当たらないが、補正前の請求項1を引用する補正前の請求項7には、「移動無線カードに格納されている承認情報項目を上記ある移動無線ネットワークに送信する工程」が記載されている。 そうすると、上記補正事項a.は、上記補正前の請求項7の「移動無線カードに格納されている承認情報項目を上記ある移動無線ネットワークに送信する工程」の「移動無線カード」を「移動無線端末によって用いられるある移動無線カード」と限定し、「上記ある移動無線ネットワーク」を「上記ある移動無線カードに結びつけられているある移動無線ネットワーク」と具体的な記載に改め、「送信する」点を「上記移動無線端末が備える移動無線信号用の送受信素子を用いて」行うと限定した上で、補正前の請求項1に追加したものと解することができる。 上記補正事項b.も、上記補正事項a.と同様、補正前の請求項7の「別の移動無線カードに格納されている承認情報項目を上記他の移動無線ネットワークに送信する工程」の「別の移動無線カード」を「上記移動無線端末によって用いられる他の移動無線カード」と限定し、「上記他の移動無線ネットワーク」を「上記他の移動無線カードに結びつけられている他の移動無線ネットワーク」と具体的な記載に改め、「送信する」点を「上記送受信素子を用いて」行うと限定した上で、補正前の請求項1に追加したものと解することができる。 上記補正事項c.?e.はいずれも、上記補正事項a.又はb.によって生じた冗長な記載を省略するための補正である。 したがって、請求項1についての補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。 3.引用発明 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物(特表2008-535445号公報)には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は当審で付加したものである。)。 (ア)段落番号0006 「【0006】 本明細書では、伝送ギャップを割り振るため、および非同期通信ネットワークにおいてセル測定を実行するための技法について説明する。ある実施形態では、端末は、第1の通信ネットワーク(たとえばW-CDMAネットワーク)との通信を確立し(たとえば、音声呼をセットアップし)、セルの測定を実行するために伝送ギャップの初期割り振りを受信し、割り振られた伝送ギャップ中に、第2の通信ネットワーク(たとえばGSMネットワーク)内のセルに関する測定を実行する。端末は、第1のネットワークと非同期の、第2のネットワーク内の少なくとも1つのセルのタイミングを決定し、このセルのタイミングを第1のネットワークに送信する。次に端末は、セル測定を実行するための新しい伝送ギャップの割り振りを第1のネットワークから受信する。新しい割り振りにおける伝送ギャップの場所は、端末によって報告される少なくとも1つのセルのタイミングに基づいて決定される。その後、端末は、新しい割り振りにおける伝送ギャップ中に、第2のネットワーク内の少なくとも1つのセルに関する測定を実行する。」 (イ)段落番号0014 「【0014】 マルチRAT端末150(たとえばデュアルモード携帯電話)は、GSMネットワーク110およびW-CDMAネットワーク120と通信するため、通常は、いかなる瞬間でも1つの無線ネットワークと通信するための機能を有する。この機能により、ユーザは同じ端末で、W-CDMAの性能利点およびGSMの有効範囲特典を取得することができる。端末150は、固定または移動体とすることが可能であり、ユーザ機器(UE)、移動局(MS)、移動機器(ME)、無線通信デバイス、加入者ユニット、または何らかの他の用語で呼ぶこともできる。」 (ウ)段落番号0018 「【0018】 GSM内の制御/オーバヘッドチャネルは、51フレームのマルチフレーム構造を使用する。各51フレームのマルチフレームは、0から50のTDMAフレームとしてラベル付けされた、51 TDMAフレームを含む。各TDMAフレームは、4.615msの持続時間を有する。GSMの制御チャネルは、周波数訂正チャネル(FCCH)、同期化チャネル(SCH)、同報制御チャネル(BCCH)、および共通制御チャネル(CCCH)を含む。FCCHは、端末が、FCCHを伝送するGSMセルに関する周波数および粗タイミング情報を取得できるようにする、トーンを搬送する。FCCHは、各51フレームのマルチフレームのTDMAフレーム0、10、20、30、および40で送信される。SCHは、(1)タイミングおよびフレーム番号付けを同期させるために端末によって使用される低減TDMAフレーム番号(RFN)、および(2)SCHを搬送するGSMセルを識別するベーストランシーバ局識別符号(BSIC)を搬送する。SCHは、各51フレームのマルチフレームのTDMAフレーム1、11、21、31、および41で送信される。BCCHは、各51フレームのマルチフレームのTDMAフレーム2、3、4、および5で送信される。CCCHは制御情報を搬送し、アイドル端末に関するページングメッセージを搬送するページングチャネル(PCH)の実施にも使用される。GSMにおける制御チャネルのチャネル編成については、公的に入手可能な文書、3GPP TS 05.01に記載されている。」 (エ)段落番号0022 「【0022】 端末150は、そのサービス提供セルから隣接セルリストを取得し、3GPPによって指定されたように、そのリスト内のGSMおよびW-CDMA隣接セルに関する測定を実行する。サービス提供セルとの通信中に、端末は、より良好なセルを探すために、隣接セルリスト内のセルに関する測定を定期的に実行する。隣接セルは、そのサービス提供セルと同じネットワークにあるか、または異なるネットワークにあるものとすることができる。GSMの場合、隣接セルは、セル内干渉を避けるために異なるRFチャネル上で伝送される。W-CDMAの場合、各セルは、固有のスクランブル符号を備える3つのW-CDMA周波数帯域のうちの1つの任意の周波数上で伝送されることが可能である。したがって、同じかまたは異なるネットワーク内の隣接セルを測定するために、端末は、そのRF受信機を、サービス提供セルによって使用されるRF周波数/チャネルから同調を離す必要がある可能性がある。同調を離された場合、端末はサービス提供セルからデータを受信すること、またはこれにデータを送信することができない。GSMおよびW-CDMAはどちらも、端末が、サービス提供セルからのデータを失うことなく、隣接セルに関する測定を実行できるようにするためのメカニズムを提供する。」 (オ)段落番号0025 「【0025】 W-CDMAは、端末が隣接セルの測定を実行できるようにする伝送内のギャップを提供するために、ダウンリンク上で圧縮モードをサポートする。圧縮モードでは、W-CDMAサービス提供セルは、一部の無線フレーム中にのみ端末にデータを伝送し、その後、そのフレームの残りの部分に伝送ギャップが作成される。端末は、サービス提供セルからのデータを失うことなく、異なる周波数上および/または異なる無線ネットワーク内で隣接セルに関する測定を実行するために、伝送ギャップ中にW-CDMAネットワークを一時的に離れることができる。」 (カ)段落番号0029 「【0029】 各GSMセルは、図3に示されるように、特定のTDMAフレーム上でFCCHおよびSCHを伝送する。SCHの各伝送は、SCHバースト、SCH伝送、同期化バースト、シグナリングバースト、などとも呼ばれる。端末は、通常、GSMセルからの伝送の任意の部分中に実行されたパワー測定に基づいて、所与のGSMセルに関する受信信号強度を取得することができる。しかしながら、端末は、GSMセルによってSCHが伝送される間の適切な時間間隔で、端末が適切なARFCNを処理する場合にのみ、そのGSMセルに関するRFNおよびBSICを取得することができる。測定および識別されていない隣接セルの場合にしばしば当てはまるように、端末がGSMセルに関するタイミング情報を有さない場合、端末は、そのGSMセルのSCHを取り込むために、異なる時点で多くの測定を実行することが必要な可能性がある。」 (キ)段落番号0034 「【0034】 W-CDMAネットワークは、端末から測定報告を受信し、GSM候補セルのタイミングに基づいて新しい伝送ギャップパターンシーケンスを割り振る(ブロック520)。新しい伝送ギャップパターンシーケンス内の伝送ギャップは、GSM候補セルのSCHバーストがこれらの伝送ギャップ内に入るように定義される。W-CDMAネットワークは、各GSM候補セルに対して十分な数の伝送ギャップを割り振り、任意のGSM候補セルのSCHバーストと一致しない不必要な伝送ギャップを最小限にする。その後、W-CDMAネットワーク内のサービス提供セルは、新しい伝送ギャップパターンシーケンスを端末に送信する(ブロック522)。」 (ク)段落番号0037 【0037】 図6は、1つのGSMセルのSCHバーストと、端末に関する新しい伝送ギャップパターンシーケンス内の伝送ギャップとのタイミング関係を示す図である。この例の場合、新しいシーケンス内の各伝送ギャップパターンは1つの伝送ギャップを有し、SCHバーストは、新しいシーケンス内の伝送ギャップパターン1および2内の2つの伝送ギャップと時間整合される。端末は、これらの伝送ギャップ中に伝送されたSCHバーストから、RFNおよびBSICを回復することができる。図6に示された例の場合、無駄になる伝送ギャップがない。さらに、各伝送ギャップの測定によって有用な情報が引き出されるため、必要な伝送ギャップがより少なくてよい。」 (ケ)段落番号0052 「【0052】 ギャップ割り振りおよびセル測定の場合、無線ネットワークは、適切なメッセージで伝送ギャップを端末に送信する。端末150では、コントローラ970が無線ネットワークからメッセージを受信し、割り振られた伝送ギャップを取得する。コントローラ970は、割り振られた伝送ギャップによって決定された時間間隔で他の無線ネットワーク内のセルに関する測定を実行するように、受信機956に指示する。セル測定が完了すると、コントローラ970は測定報告を生成し、そのレポートを無線ネットワークに送信する。」 (コ)図9は、ネットワーク及び端末を示すブロック図であり、図9からは、端末が、一つの受信機(RCVR)956、一つの送信機(TMTR)986及びコントローラ970を備えていること、が読み取れる。 したがって、上記刊行物には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「伝送ギャップを割り振るため、および非同期通信ネットワークにおいてセル測定を実行するための技法であって、 端末は、移動体とすることが可能であり、 端末は、GSMネットワークおよびW-CDMAネットワークと通信するため、通常は、いかなる瞬間でも1つの無線ネットワークと通信するための機能を有し、 端末は、W-CDMAネットワークとの音声呼をセットアップし、セルの測定を実行するために伝送ギャップの初期割り振りを受信し、割り振られた伝送ギャップ中に、GSMネットワーク内のセルに関する測定を実行し、W-CDMAネットワークと非同期の、GSMネットワーク内の少なくとも1つのセルのタイミングを決定し、このセルのタイミングをW-CDMAネットワークに送信し、セル測定を実行するための新しい伝送ギャップの割り振りをW-CDMAネットワークから受信し、新しい割り振りにおける伝送ギャップの場所は、端末によって報告される少なくとも1つのセルのタイミングに基づいて決定され、その後、端末は、新しい割り振りにおける伝送ギャップ中に、GSMネットワーク内の少なくとも1つのセルに関する測定を実行し、 新しい伝送ギャップパターンシーケンス内の伝送ギャップは、GSM候補セルのSCHバーストがこれらの伝送ギャップ内に入るように定義されており、 端末は、これらの伝送ギャップ中に伝送されたSCHバーストから、RFNおよびBSICを回復することができ、 端末は、一つの受信機、一つの送信機及びコントローラを備え、 コントローラは、割り振られた伝送ギャップによって決定された時間間隔で他の無線ネットワーク内のセルに関する測定を実行するように、受信機に指示する、 技法。」 4.本願補正発明と引用発明の一致点・相違点 本願補正発明と引用発明を比較すると、次のことがいえる。 ア 引用発明における端末は、GSMネットワーク及びW-CDMAネットワークと無線通信を行う移動体であるから、本願補正発明における「移動無線端末」に相当する。 イ 引用発明における端末は、W-CDMAネットワークおよびGSMネットワークと通信可能である。 上記GSMネットワーク及びW-CDMAネットワークが、移動無線ネットワークであることは周知である。 また、無線通信分野において、端末がW-CDMAネットワークやGSMネットワークを利用する場合、SIMカードに格納されている認証鍵情報をW-CDMAネットワークやGSMネットワークに送信して、認証される必要があることは技術常識であるから、引用発明における端末が、W-CDMAネットワーク、GSMネットワークそれぞれに、SIMカードに格納されている認証鍵情報を送信していることは明らかである。 そして、上記SIMカードは、本願補正発明の「移動無線カード」に相当し、上記認証鍵情報は、本願補正発明の「承認情報項目」に相当するから、引用発明と本願補正発明とは、「移動無線端末によって用いられる移動無線カードに格納されている承認情報項目を、ある移動無線ネットワークに送信する」という点で一致し、また、「移動無線端末によって用いられる移動無線カードに格納されている承認情報項目を、他の移動無線ネットワークに送信する」という点で一致している。 ウ 引用発明において、端末は、W-CDMAネットワークとの音声呼をセットアップしているから、端末は、該音声呼のために割り当てられた専用の通信リンクを介して、W-CDMAネットワークと通信を行っていることは明らかである。 したがって、引用発明と本願補正発明とは、「専用の通信リンクを介して、ある移動無線ネットワークと通信を行う」という点で一致している。 エ 引用発明において、端末は、伝送ギャップ中に伝送されたSCHバーストからRFN及びBSICを回復しているから、端末が伝送ギャップ期間中にRFNを受信していることは明らかである。 上記伝送ギャップは、端末がW-CDMAネットワークと音声呼をセットアップした後の、W-CDMAネットワークのサービス提供セルから端末へのデータ伝送における伝送ギャップであるから、上記伝送ギャップは、上記音声呼のために割り当てられた専用の通信リンクにおける伝送ギャップであるといえる。 上記RFNは、タイミングおよびフレーム番号付けを同期させるために端末によって使用される信号である。さらに、上記RFNは、GSMネットワーク内のGSM候補セルから伝送されており、該GSMネットワークは、端末が、音声呼をセットアップして通信を行っているW-CDMAネットワークとは別の移動無線ネットワークであるから、上記RFNは、他の移動無線ネットワークの同期信号といえる。 したがって、引用発明と本願補正発明とは、「専用の通信リンクにおける伝送ギャップ期間中に、他の移動無線ネットワークの同期信号を受信する」という点で一致している。 オ 引用発明において、端末は一つの受信機及び一つの送信機を備えているから、該一つの受信機及び一つの送信機を用いて、W-CDMAネットワーク及びGSMネットワークと無線通信を行っていることは明らかである。 したがって、上記一の受信機及び一の送信機は、本願補正発明の「移動無線信号用の送受信素子」に相当する構成ということができ、引用発明と本願補正発明とは、上記イ?エに示した、承認情報項目のある移動無線ネットワークへの送信、承認情報項目の他の移動無線ネットワークへの送信、専用リンクを介したある移動無線ネットワークとの通信、及び、伝送ギャップ期間中の他の移動無線ネットワークの同期信号の受信を、「移動無線信号用の送受信素子を用いて」行っているという点で一致している。 カ 引用発明において、端末のコントローラは、伝送ギャップによって決定された時間間隔で、他のネットワーク内の隣接セルに関する測定を実行するように受信機に指示している。 端末は、他のネットワーク内の隣接セルに関する測定を行うために、他のネットワーク内の隣接セル、すなわち、GSMネットワーク内の隣接セルから伝送されるRFN等の信号を受信するから、上記受信機への指示が、GSMネットワーク内の隣接セルからの信号を受信するための設定(例えば、RF周波数/チャネルに関する設定)を含んでいることは明らかである。 また、上記指示は、伝送ギャップによって決定された時間間隔における測定の指示であり、上記エに示したように、上記伝送ギャップは、W-CDMAネットワーク上の音声呼のための専用の通信リンクにおける伝送ギャップである。このことは、上記指示が、上記専用の通信リンクの伝送と連動して行われている、換言すれば、上記指示は、上記専用の通信リンクの伝送と別個には行われていないことを意味する。 したがって、引用発明と本願補正発明とは、「送受信素子に対して、他の移動無線ネットワークの信号を受信するための設定が上記専用の通信リンクとは別個には行われない」という点で一致している。 キ 上記カで述べたように、引用発明では、GMSネットワーク内の隣接セルに関する測定を実行するために、当該隣接セルから伝送されるRFNを受信しているから、引用発明の、伝送ギャップを割り振るため、及び非同期通信ネットワークにおいてセル測定を実行するための技法は、RFNを受信する方法、すなわち、移動無線ネットワークの同期信号を受信する方法ともいえる。 したがって、引用発明と本願補正発明とは、「移動無線ネットワークの同期信号を受信する受信方法」であるという点で一致している。 以上から、本願補正発明と引用発明の一致点・相違点は、次のとおりである。 [一致点] 「 移動無線ネットワークの同期信号を受信する受信方法において、 移動無線端末によって用いられる移動無線カードに格納されている承認情報項目を、上記移動無線端末が備える移動無線信号用の送受信素子を用いて、ある移動無線ネットワークに送信する工程と、 移動無線端末によって用いられる移動無線カードに格納されている承認情報項目を、上記送受信素子を用いて、他の移動無線ネットワークに送信する工程と、 上記送受信素子を用いて専用の通信リンクを介して、上記ある移動無線ネットワークと通信を行う通信工程と、 上記専用の通信リンクにおける伝送ギャップ期間中に上記送受信素子を用いて、上記他の移動無線ネットワークの同期信号を受信する受信工程と、を含み、 上記送受信素子に対して、上記他の移動無線ネットワークの信号を受信するための設定が上記専用の通信リンクとは別個に行われない受信方法。」である点。 [相違点1] 本願補正発明は、移動無線端末が、「ある移動無線ネットワーク」が結びつけられた「ある移動無線カード」と、「他の移動無線ネットワーク」が結びつけられた「他の移動無線カード」の2枚の「移動無線カード」を用いているのに対し、引用発明は、端末が、W-CDMAネットワークが結びつけられたSIMカードと、GSMネットワークが結びつけられた他のSIMカードの2枚のSIMカードを用いているのか不明な点。 [相違点2] 本願補正発明では、「ある移動無線ネットワーク」に送信される「承認情報項目」が「ある移動無線カード」に格納され、「他の移動無線ネットワーク」に送信される「承認情報項目」は「他の移動無線カード」に格納されているのに対し、引用発明には、そのような記載がない点。 5.相違点についての検討 (1)周知例及び周知技術 ア 周知例1 原査定の拒絶の理由に引用された特開2009-55325号公報(以下、「周知例1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線部は、当審で付与したものである。)。 (ア)段落番号0016 「【0016】 携帯電話機(以下電話機)100は、複数の無線基地局201?203を介して発信、着信機能を実現する。電話機100は、公知の様に、これら複数の無線基地局201?203のうち、通信に使用する無線基地局を探索する。そして、探索の結果検出した無線基地局を介して通信を行う。」 (イ)段落番号0019 「【0019】 図1の電話機100は、複数の通信方式による通信が可能である。本実施形態では、W-CDMA方式とCDMA2000方式による通信が可能である。もちろん、これ以外の通信方式でもよく、また、三つ以上の通信方式による通話を可能とすることもできる。」 (ウ)段落番号0031 「【0031】 また、電話機100は、W-CDMA方式(第1の通信方式)用の通信部101、102と、CDMA2000方式(第2の通信方式)用の通信部103を備えている。そして、後述の様に、装着されたSIMカード4?6から読み出した加入者情報に従い、通信部101、102、103の何れかを選択し、通信を行う。即ち、装着されたSIMカードが第1の通信方式に対応していた場合には、通信部101と102の何れかを選択して通信を行い、SIMカードが第2の通信方式に対応していた場合には通信部103を選択して通信を行う。また、本実施形態では、第1の通信方式に対応したSIMカードを2枚同時に装着して通信を行うことができる。更に、本実施形態では、第1の通信方式に対応したSIMカードを2枚と、第2の通信方式に対応したSIMカードを1枚同時に装着して通信を行うことができる。」 イ 周知例2 本願の優先日前に公開された実用新案登録第3071509号(以下、「周知例2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線部は、当審で付与したものである。)。 (ア)段落番号0005 「 【0005】 しかし、数多くのシステム経営者の使用する通信チャンネルは同じでなく(例えばGSM900、GSM1800、GSM1900等がある)、不断に利便性、日常化、金融化等のサービス機能の提供が押し進められるなかで、携帯電話手機ユーザーは同時に複数の、異なるシステム経営者の異なるチャンネルのSIMカードを所有して、システム経営者が提供するサービスの種類によりそれを選択して使用している。」 (イ)段落番号0010?0012 「 【0010】 【考案の実施の形態】 図2は本考案の第1実施例の斜視図であり、図3はその分解斜視図である。この携帯電話手機4の背面には電池溝41が設けられて携帯電話バッテリーパック5が収容される。電池溝41の適宜位置に、別にSIM嵌置溝42が凹設され並びに複数の接触片43が設けられる。 【0011】 典型的な携帯電話バッテリーパックはケース内に数個の二次電池が収容されて形成されている。本考案の携帯電話バッテリーパック5の上面には二つの指示ランプ51、52と一つの切り換えキー53が設けられている。該携帯電話バッテリーパック5の底面に二つのSIMカード嵌置溝54、55が設けられて、二つのSIMカード61、62が嵌め置かれ、各一つのSIMカード嵌置溝中に数個の接触片が設けられて、SIMカードの金属接点と接触する。このほか、該携帯電話バッテリーパック5の底面の、携帯電話手機4にもともとあるSIM嵌置溝42に対応する位置に、突出平台56が設けられ、並びにもともとあるSIM嵌置溝42の接触片43の数個の接触片43に対応する数個の接触片57が設けられている。これらの各構成要件は直接携帯電話バッテリーパック5のケースに結合されるか、或いは携帯電話バッテリーパック5の背面に余分に増設された基板50に設置される。 【0012】 SIMカード嵌置溝52、55、接触片57の間の対応する信号線は回路レイアウトの方式で連接され、且つ指示ランプ51、52、切り換えキー53間も変換制御回路で連接される。使用者が切り換えキー53を押すと、該変換制御回路の制御の下で、第1SIMカード61或いは第2SIMカード62が使用選択され、並びに指示ランプ51、52がその使用状態を表示する。」 ウ 周知技術 周知例1及び周知例2の上記記載を技術常識に照らすと、次のことがいえる。 ・周知例1の携帯電話機は、端末といえる。 ・周知例1のW-CDMA方式、CDMA2000方式等の通信方式は、移動無線ネットワークで用いられる通信方式であることは明らかである。 ・周知例1の第1の通信方式に対応したSIMカードは、第1の通信方式を用いる移動無線ネットワークと通信するためのSIMカードであるから、該移動無線ネットワークが結びつけられているSIMカードといえる。 第2の通信方式に対応したSIMカードは、第2の通信方式を用いる他の移動無線ネットワークと通信するためのSIMカードであるから、該他の移動無線ネットワークが結びつけられているSIMカードといえる。 ・周知例1の携帯電話機は、装着されたSIMカードから読み出した加入者情報に従い、通信を行っているから、上記携帯電話機は、該SIMカードを用いて通信を行っているといえる。 ・周知例2の携帯電話手機は、端末といえる。 ・周知例2のシステム経営者の使用する通信チャンネルとは、システム経営者が提供する移動無線ネットワークで使用される通信チャンネルのことであることは明らかであり、複数の、異なるシステム経営者の異なるチャンネルのSIMカードは、それぞれ、異なる通信チャンネルを使用する異なる移動無線ネットワークが結びつけられているSIMカードといえる。 ・周知例2の携帯電話バッテリーパックには、二つのSIMカード61、62が嵌め置かれるから、該携帯電話バッテリーパックを収容した携帯電話手機は、二つのSIMカードを同時に装着しているといえる。 したがって、周知例1及び2は、次の周知技術を開示しているといえる。 「端末が、ある移動無線ネットワークが結びつけられているSIMカードと、他の移動無線ネットワークが結びつけられている他のSIMカードを同時に装着し、装着された該SIMカード及び他のSIMカードを用いて通信を行う」技術。 (2)相違点1及び2について 上記(1)のとおり、端末が、ある移動無線ネットワークが結びつけられているSIMカードと、他の移動無線ネットワークが結びつけられている他のSIMカードを同時に装着し、装着された該SIMカード及び他のSIMカードを用いて通信を行うことは周知である。 したがって、引用発明において、端末が、W-CDMAネットワークが結びつけられたSIMカードと、GSMネットワークに結びつけられた他のSIMカードを同時に装着し、これら2枚のSIMカードを用いて通信を行う構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 また、無線通信分野において、SIMカードに、移動無線ネットワークに送信される認証鍵情報が格納されることは技術常識であるから、上記構成において、W-CDMAネットワークが結びつけられたSIMカードに、W-CDMAネットワークに送信される認証鍵情報が格納され、GSMネットワークが結びつけられた他のSIMカードに、GSMネットワークに送信される認証鍵情報が格納されることは自明である。 そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。 よって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 6.まとめ 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 平成25年12月2日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年1月28日付けで提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものである。 第4 当審の判断 1.引用発明 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及び引用発明は、前記「第2 平成25年12月2日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3.引用発明」に記載したとおりである。 2.対比・判断 本願発明は、前記「第2 平成25年12月2日付けの手続補正についての補正却下の決定」で検討した本願補正発明から、補正事項の構成を省いたものである。 そうすると、本願発明と引用発明との相違点は、相違点1のみとなるから、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-12-26 |
結審通知日 | 2015-01-06 |
審決日 | 2015-01-21 |
出願番号 | 特願2011-147658(P2011-147658) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H04W)
P 1 8・ 121- Z (H04W) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山中 実、齋藤 哲 |
特許庁審判長 |
水野 恵雄 |
特許庁審判官 |
佐藤 聡史 寺谷 大亮 |
発明の名称 | 移動無線ネットワークの同期信号を受信するための受信方法、および、移動無線信号用の送受信素子 |
代理人 | 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK |