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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F16B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16B
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 F16B
管理番号 1301586
審判番号 不服2014-22116  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-31 
確定日 2015-06-23 
事件の表示 特願2012-518023「ロックナット」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月 6日国際公開、WO2011/000393、平成24年12月10日国内公表、特表2012-531568、請求項の数(16)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2009年7月3日を国際出願日とする出願であって、平成26年7月1日付け(発送日:平成26年7月8日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年10月31日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともにその審判の請求と同時に、手続補正がなされたものである。

第2 平成26年10月31日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否

1.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を「雌ネジ(16)を含むネジ部とこれに隣接する内側環状溝(24)とを有するナット本体(12)と、前記内側環状溝(24)に保持される金属製の環状円板(22,26,22’,22’’,22’’’)と、を含み、前記環状円板(22,26,22’,22’’,22’’’)の内周囲において、前記ネジ部の前記雌ネジ(16)に対応して雌ネジ(16’)が切られ、且つ、前記環状円板(22,26,22’,22’’,22’’’)の前記雌ネジ(16’)のナット本体雌ネジ側の端部が、前記ナット本体(12)の雌ネジ(16)の1ネジピッチよりも小さい距離で前記ナット本体(12)の前記雌ネジ(16)の環状円板雌ネジ側の端部に対して軸方向にオフセットされており、前記環状円板(22,26,22’,22’’,22’’’)の内径における厚さ(W)が、前記環状円板(22,26,22’,22’’,22’’’)の外径における厚さ(w)よりも厚いロックナットであって、
前記環状円板(22,26,22’,22’’,22’’’)が、少なくとも一部でその外径から内径へ連続的に厚さが増加し、
前記内側環状溝(24)の領域内に、製造公差を補償するために前記環状円板(22,26,22’,22’’,22’’’)を挿入したときに変形可能な較正用段差が形成されていることを特徴とするロックナット。」とする補正(以下、「補正事項」という。)を含むものである。

2.補正の適否
本件補正の補正事項は、請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「製造公差を補償するために前記環状円板を挿入したときに変形可能な較正用段差」の形成される場所について、本件補正前の「前記内側環状溝(24)の領域内又は前記環状円板(22,26,22’,22’’,22’’’)の外周囲」を「前記内側環状溝(24)の領域内」と限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項及び第4項に違反するところはない。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について検討する。

2-1.特許法第36条第6項第2号についての検討
本願補正発明の「前記内側環状溝(24)の領域内に、製造公差を補償するために前記環状円板(22,26,22’,22’’,22’’’)を挿入したときに変形可能な較正用段差が形成されていること」(以下、「較正構造」という。)について検討する。

一般に、雌ネジを2組持つロックナットにおいては、ロックナットに制動力を発生させるために、2組の雌ネジの位相を特定の範囲でずらす構造が採用されている。このため、ロックナットの技術分野では、一方の雌ネジに対して、他方の雌ネジを(最大でも、せいぜいネジの1ピッチ分ほどではあるが)接近させて雌ネジ同士の位相差を特定の範囲として、製造公差を補償する行為が、通常は必要である。(例えば、特開2004-3587号公報の【要約】及び段落【0025】の(1)や、原査定で引用された特開昭59-159412号公報の第5ページ右上欄第1-3行等参照。)
そうであれば、本願補正発明における較正構造の「製造公差を補償する」という事項の技術的な意味は当業者にとって明らかである。
そして、平坦な面よりは多少なりとも変形しやすいことが自明である「段差」を「内側環状溝(24)の領域内」に設け、この段差に「較正用」という機能を持たせた構造が、本願補正発明の較正構造として特定されていると解することができる。したがって、当該較正構造は明確であるといえる。

また、この他にも、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし16について、特許を受けようとする発明が不明確となるような記載はないので、本願は、特許法第36条第6項第2号に適合する。

2-2.特許法第29条第2項についての検討
2-2-1.刊行物の記載事項
(1)原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である実公昭17-6228号公報(以下、「刊行物1」という。)の明細書及び図面には、片仮名を平仮名に置き換え、旧漢字も常用漢字に置き換えて、本願補正発明に則って整理すると、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「母螺(1)の螺旋とこれに隣接する円筒体(2)の内側の溝とを有する母螺(1)と、前記円筒体(2)の内側の溝に保持される環(3)と、を含み、前記環(3)の内周に螺旋(5)が切られ、母螺(1)の螺旋と還(3)の螺旋(5)とは位相を異ならしめ、且つ、環(3)の螺旋(5)の母螺(1)の螺旋側の端部が、母螺(1)の螺旋の半ピッチより大きいが1ピッチよりも小さい距離で前記母螺(1)の螺旋の螺旋(5)側の端部に対して軸方向にオフセットされており、前記環(3)の内径における厚さが、前記環(3)の外径における厚さよりも厚い母螺であって、
前記環(3)が、外径から内径へ連続的に厚さが増加する、母螺。」

(2)原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開昭59-159412号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。「第5図及び第11図で示した薄肉部分9の角度αを所望に応じて調整し、めねじ7とめねじ13との位相差を調整しても良い。」(第5ページ右上欄第1ないし3行)

(3)原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である欧州特許出願公開第0622554号明細書(以下、「刊行物3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(第1欄第47行ないし第2欄第14行)
当審仮訳
「図1は、本発明に係るバックアップリングのディスクの実施形態を示しています。外径Dおよび内径dの環状ディスク10は、三セグメント状凹部28a、28b、28cを有します。環状ディスク10のこれらの凹部の間に残りの円周部は30a、30b、30cで示されています。これらの周辺領域30a、30b、30cのそれぞれにおいて、中央に平行な側壁が形成された切欠部32a、32b、32cの矩形形状です。これらのノッチの半径方向の深さtは、それらが、セグメントの最大の深さに等しい28a、28b、28cを凹部であるようなものです。 直径Dを有する内接円34 及び凹部、切欠き等を含まず、必要な安定性を確保する環状ディスク30は、内側リング部38の内縁36は、これの間になります。セグメントの切り欠き部28a、28b、28cの最大の半径方向深さは、保持リングディスク10の切り欠き部32a、32b、32cの幅bの半径方向の最大幅の三分の一、好ましくは四分の一、および周縁部30a、30b、30cそれぞれの周方向伸長の三分の一の間の範囲であることが好ましいです。」

2-2-2.対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「母螺(1)の螺旋」は、その技術的意義及び機能からみて本願補正発明の「雌ネジ(16)」あるいは「雌ネジ(16)を含むネジ部」に相当し、以下同様に、「円筒体(2)の内側の溝」は「内側環状溝(24)」に、「母螺(1)」は「ナット本体(12)」に、「還(3)」は「環状円板(22,26,22’,22’’,22’’’)」に、「螺旋(5)」は「雌ネジ(16’)」に、「母螺」は「ロックナット」に、それぞれ相当する。また、引用発明の「母螺(1)の螺旋と還(3)の螺旋(5)とは位相を異ならしめ」は、本願補正発明の「前記ネジ部の前記雌ネジに対応して雌ネジが切られ」に相当すると認められる。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、以下の一致点で一致し、相違点1ないし2で相違する。

[一致点]
「雌ネジを含むネジ部とこれに隣接する内側環状溝とを有するナット本体と、前記内側環状溝に保持される金属製の環状円板と、を含み、前記環状円板の内周囲において、前記ネジ部の前記雌ネジに対応して雌ネジが切られ、且つ、前記環状円板の前記雌ネジのナット本体雌ネジ側の端部が、前記ナット本体の雌ネジの1ネジピッチよりも小さい距離で前記ナット本体の前記雌ネジの環状円板雌ネジ側の端部に対して軸方向にオフセットされており、前記環状円板の内径における厚さが、前記環状円板の外径における厚さよりも厚いロックナットであって、
前記環状円板が、少なくとも一部でその外径から内径へ連続的に厚さが増加する、ロックナット。」

[相違点1]
本願補正発明は「前記内側環状溝の領域内に、製造公差を補償するために前記環状円板を挿入したときに変形可能な較正用段差が形成されている」のに対し、引用発明は較正用段差を持つかどうか不明な点。

[相違点2]
本願補正発明の「環状円板(22,26,22’,22’’,22’’’)」は金属製であるのに対し、引用発明の「還(3)」の材質は不明な点。

2-2-3.当審の判断
以下、相違点1について検討する。
刊行物2に記載された薄肉部分9は、製造公差を補償するという点においうて本願補正発明の較正用段差に類似するものである。しかしながら、本願補正発明は、較正用段差を、環状円板を保持する内側環状溝に設ける構造を採用しているのに対して、刊行物2の薄肉部分9は、本願補正発明の環状円板(引用発明の還(3))に相当するものに設けられている点で相違している。
また、刊行物3には、製造公差を補償する構造は記載されていない。
さらに、ロックナットにおいて、製造公差を補償するために変形する部分を、環状円板を保持する内側環状溝に、段差として設けることは周知技術でもない。
してみると、引用発明の円筒体(2)の内側の溝に、較正用段差を設けることは、当業者といえども容易に成し得たことではない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本願補正発明は、引用発明及び刊行物2ないし3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえないので、特許法第29条第2項の規定に該当しない。

2-3.まとめ
以上のとおりであるから、本件補正の補正事項は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
また、本件補正のその余の補正事項についても、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に違反するところはない。

3.むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願の請求項1ないし16に係る発明
本件補正は上記のとおり特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に
適合するから、本願の請求項1ないし16に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明については、原査定の拒絶理由を検討しても、その理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
さらに、本願の請求項2ないし16に係る発明については、いずれも本願の請求項1に係る発明の発明特定事項を全て含むものであるから、本願の請求項2ないし16に係る発明も、上記で検討したことと同じ理由により拒絶すべきものとすることができない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2015-06-09 
出願番号 特願2012-518023(P2012-518023)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (F16B)
P 1 8・ 121- WY (F16B)
P 1 8・ 575- WY (F16B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 谷口 耕之助  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 大内 俊彦
内田 博之
発明の名称 ロックナット  
代理人 松島 鉄男  
代理人 河村 英文  
代理人 奥山 尚一  
代理人 関谷 充司  
代理人 小川 護晃  
代理人 有原 幸一  
代理人 池本 理絵  
代理人 西山 春之  

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