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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B23K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23K
管理番号 1301603
審判番号 不服2013-25651  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-26 
確定日 2015-06-02 
事件の表示 特願2009-543463「金属帯を処理する方法、連続的な金属帯、及び金属帯が使用されるプッシュベルト」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月10日国際公開、WO2008/080910、平成22年 5月 6日国内公表、特表2010-514570〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は、平成19年12月24日(優先権主張2006(平成18)年12月28日 EP)を国際出願日とする出願であって、平成24年7月24日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、同年10月24日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成25年1月9日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、同年5月14日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年8月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

【2】平成25年12月26日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成25年12月26日付けの手続補正を却下する。

[理由]
[1]補正後の本願発明
平成25年12月26日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、以下のように補正された。
「主に半径方向に向けられた2つの主面(15)と主に軸方向に向けられた2つの側面(11)とが設けられた、変速機の駆動ベルトとしての又は変速機の駆動ベルトにおける連続的な金属帯(10)を形成するための方法において、少なくとも個々の側面(11)の部分を含む、帯(10)の軸方向の側縁部分が溶融され、その後固化させられ、溶融された帯(10)の前記側縁部分が、帯(10)の半径方向厚さ(T)全体に亘って延びていることを特徴とする、方法。」(下線は補正箇所を示す)

上記補正は、補正前の請求項1に係る発明の特定事項である「金属帯(10)」について「変速機の駆動ベルトとしての又は変速機の駆動ベルトにおける」との限定を追加するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて、以下検討する。

[2]引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された、特開平2006-183078号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(ア)
「薄板状のマルテンサイト系ステンレス鋼板の端部同士を突き合わせて溶接し円筒状の金属ドラムを形成する工程と、
該金属ドラムを所定幅毎に裁断して金属リングを形成する工程と、
該溶接後に該金属ドラムまたは該金属リングを該マルテンサイト系ステンレス鋼板のMs点からMf点までの範囲の温度に保持して冷却処理する工程と、
該冷却処理後に該金属リングを塑性変形させる工程とを備えることを特徴とする無段変速機用金属リングの製造方法。」(【請求項1】)

(イ)
「本発明は、ステンレス鋼製の無段変速機用金属リングを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
従来、自動車等の無段変速機(CVT)の動力伝達のために、複数の金属リングを積層して積層リングを形成し、該積層リングを所定形状のエレメントに組み付けて結束したCVT用ベルトが知られている。前記金属リングの材料としては、マルエージング鋼が用いられることが多いが、マルエージング鋼は高価であるので、これに代えてより安価なマルテンサイト系ステンレス鋼を用いることが提案されている(例えば特許文献1参照)。」(段落【0001】?【0002】)

(ウ)
「本実施形態の製造方法では、まず図1に示すように、薄板状のマルテンサイト系ステンレス鋼板1をカール又はロール成形してループ化したのち、端縁同士を突合せ溶接して円筒状の金属ドラム2を形成し、金属ドラム2を所定幅毎に裁断して金属リング3を形成する。
次に、金属リング3を冷却装置4に収容し、マルテンサイト系ステンレス鋼板1のMs点からMf点までの範囲の温度に保持して冷却処理を行う。前記範囲の温度で冷却処理を行うことにより、図2に示すように、溶接部の硬度が上昇する。
ところで、金属リング3は、前記裁断によりその側端縁が鋭利になっている。そこで、次に、図1に示すように、金属リング3の側端縁をブラシ加工により研磨し、半円形状とする。そして、前記ブラシ加工後の金属リング3を圧延し、さらに圧延後の金属リング3に張力を付与して周長補正を行うことにより、所定の周長の金属リング3を得る。」(段落【0016】?【0018】)

(エ)
「次に、金属リング3のブラシ加工を行う。前記ブラシ加工は、例えば図5に示すブラシ研磨装置11により行うことができる。ブラシ研磨装置11は、複数の研磨ブラシ12が円周上に設けられた円柱状のブラシヘッド13と、6個の金属リング3を保持するテーブル14とを備えている。研磨ブラシ12は、研磨材入りの複数のナイロン線材が円柱状に束ねられたものである。また、テーブル14には金属リング3を内側から保持するリング保持手段15が設けられており、リング保持手段15は6個の当接部材16を内周面から金属リング3に当接させて保持するものである。
ブラシ研磨装置11は、リング保持手段15を図示しないモータにより回転駆動して各金属リング3をその円周方向に回転させると共に、ブラシヘッド13を図示しないモータにより回転駆動して各研磨ブラシ12を円周軌道に沿って移動させる。この結果、金属リング3の側端縁に研磨ブラシ12が当接され、研磨ブラシ12により、該側端縁が全周にわたって研磨される。ブラシ研磨装置11では、リング保持手段15の当接部材16を内周面から金属リング3に当接させることにより、金属リング3に張力が付与される。」(段落【0022】?【0023】)

(オ)
【図1】には、連続的な金属リング3には、主に半径方向に向けられた2つの主面と主に軸方向に向けられた2つの側面とが設けられていることが見て取れる。


(カ)
上記記載事項(イ)によれば、金属リング3は変速機の駆動ベルトとして用いられることが理解される。

上記記載事項(ア)?(エ)及び上記認定事項(オ)?(カ)並びに当業者の技術常識によれば、上記刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「主に半径方向に向けられた2つの主面と主に軸方向に向けられた2つの側面とが設けられた、変速機の駆動ベルトに用いる連続的な金属リング3を形成するための方法において、少なくとも個々の側面の部分を含む、金属リング3の軸方向の側縁部分がブラシ加工により研磨され、全体が半円形状に形成されている、方法。」(以下「引用発明」という。)

[3]対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、その機能及び作用からみて、引用発明の「変速機の駆動ベルトに用いる」、「金属リング3」は、それぞれ、本願補正発明の「変速機の駆動ベルトとしての又は変速機の駆動ベルトにおける」、「金属帯(10)」に相当する。
また、本願補正発明の「側縁部分が溶融され、その後固化させられ、溶融された帯(10)の前記側縁部分が、帯(10)の半径方向厚さ(T)全体に亘って延びている」と、引用発明の「側縁部分がブラシ加工により研磨され、全体が半円形状に形成されている」とは、「側縁部分が全体的に面取り形状処理されている」で共通している。

そうすると、両者は、
「主に半径方向に向けられた2つの主面と主に軸方向に向けられた2つの側面とが設けられた、変速機の駆動ベルトとしての又は変速機の駆動ベルトにおける連続的な金属帯を形成するための方法において、少なくとも個々の側面の部分を含む、帯の軸方向の側縁部分が全体的に面取り形状処理されている、方法。」
の点で一致し、次の点で相違している。

〈相違点〉
側縁部分の面取り形状処理方法について、本願補正発明では、「側縁部分が溶融され、その後固化させられ、溶融された帯(10)の前記側縁部分が、帯(10)の半径方向厚さ(T)全体に亘って延びている」のに対し、引用発明では、「側縁部分がブラシ加工により研磨され、全体が半円形状に形成されている」点。

[4]判断
本願補正発明の「側縁部分が溶融され、その後固化させられ、溶融された帯(10)の前記側縁部分が、帯(10)の半径方向厚さ(T)全体に亘って延びている」(以下「構成A」という。)について、本願明細書では以下の記載がある。
「本発明による方法によれば、管から切断された後又はその他の形式で形成された後、帯の横方向縁部の少なくとも部分が溶融され、その後再び固化させられる。この方法において、あらゆるバリ、すり傷及び同様のものが帯の側面から消滅する。さらに、帯の半径方向に向いた主面に隣接する縁部を有する側面には、自動的にかつ好適には、溶融された帯材料の表面張力により、丸味が提供される。側面のこのような自然に形成された形状は、帯に、疲労に対する良好な耐性等の極めて良好な機械的特性を提供する。」(段落【0007】)
「本発明によれば、レーザ63の強度は、帯10の区分が、レーザビームBが側面11を放射するところで、制限された深さDまで溶融されるように、設定又は制御されている。これにより、このような溶融された区分は好適には、帯10の半径方向厚さTの全体に亘って延びているのに対し、軸方向では、範囲Dは、好適にはこのような厚さ寸法Tに匹敵するが、好適にはこのような厚さ寸法Tよりも僅かに小さい。前記溶融された区分の接線方向寸法は好適には、このような厚さ寸法Tに匹敵するが、好適にはこのような厚さ寸法Tよりも僅かに大きい、溶融された後、材料は、レーザ63を消滅させることによって又はレーザビームB又は帯10を除去することによって、再び固化させられる。
この方法において、溶融した帯材料における表面張力により実質的に円弧状の丸味を提供しながら、すり傷及び同様のものが、帯10の側面11の溶融した区分16から消滅する。本発明による方法において自然に形成された側面11のこのような形状は、図6の写真のような図に示されている。側面11のこのように形成された形状は、プッシュベルトにおける帯10の意図した適用に関して好適であると考えられる。」(段落【0021】?【0022】)
これらの記載及び図6の記載によれば、本願補正発明の「溶融された帯(10)の前記側縁部分が、帯(10)の半径方向厚さ(T)全体に亘って延びている」とは、「側縁部分が厚さ方向全体に溶融されている」ことを指しており、「側縁部分が溶融され、その後固化させられ、溶融された帯(10)の前記側縁部分が、帯(10)の半径方向厚さ(T)全体に亘って延びている」(構成A)とは、「側縁部分が厚さ方向全体に溶融され、その後固化させられた」ことを指しているものと解される。
そして、同記載及び図6の記載によれば、本願補正発明は上記構成Aを有することにより、帯の側縁部分が円弧状の丸みを帯びた形状となり、バリ、すり傷などが溶融部分に吸収され、消滅するものと理解される。
また、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された、特開平11-138283号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。
「・・・図2(A)に示されているように、前工程におけるレーザ切断によりワークWの切断ラインの外側(図2(B)中右側)には薄バリ1が全面にわたって付着している(ステップS1)。
このため、図2(B)に示されているように、まず前述の薄バリ1をレーザにより切断除去した後(ステップS2)、図3(A)に示されているケービング加工によりワークWの端面付近の両側面に溝3を加工して溶融部分5を作製する(ステップS3)。あるいは、図3(B)に示されているように、ワークW上端面の両角7を面取りして溶融部分9を作製する(ステップS3)。
最後に、図4を参照するに、前述のケービング加工により作製された溶融部分5や面取りして作製された溶融部分9をレーザ光LBにより溶融して仕上げ加工を行なう(ステップS4)。」(段落【0016】?【0018】)
「・・・ワークに対してレーザ切断を伴うレーザ加工を行なう際に、レーザ切断により生じたバリを除去した後にレーザで面取りし、面取りされた端部をレーザにより溶融して仕上げるので、レーザによりきれいなR形状に仕上げることができる。」(段落【0023】)
これらの記載によれば、刊行物2には、切断部分の処理において、仕上げ加工としてレーザ溶融によるものを用い、きれいなR形状に仕上げるものが記載されている。また、溶融後固化しR形状となることは技術常識である。
さらに、ワーク加工時のバリ等を除去させるために、レーザをバリ等に照射し溶融させることは従来周知である(必要であれば、特開2003-347110号公報、特開平6-269964号公報、特開昭62-286695号公報等参照)。
してみると、側縁部分の面取り形状処理方法として、ブラシ加工による研磨とするか、レーザ溶融によるものとするかは、選択的技術事項に過ぎず、引用発明において、「側縁部分がブラシ加工により研磨され、全体が半円形状に形成されている」ことに代えて、同じく円弧形状となり、バリ等を除去し得るものとして、レーザ溶融によるものを採用し、本願補正発明の相違点に係る構成(構成A)、言い換えると「側縁部分が厚さ方向全体に溶融され、その後固化させられた」こととすることは、刊行物2の記載事項及び従来周知の技術事項に基づいて、当業者ならば必要に応じて適宜なし得るものであり、格別の困難性はないものである。
そうすると、引用発明において、刊行物2の記載事項及び従来周知の技術事項に基づいて、本願補正発明の上記相違点に係る構成(構成A)とすることは当業者にとって容易に想到し得るものである。

そして、本願補正発明により得られる作用効果も、引用発明、刊行物2の記載事項及び従来周知の技術事項から当業者であれば予測し得る範囲内のものであって格別のものとはいえない。
したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物2の記載事項及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

[5]むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。

【3】本願発明について
[1]本願発明
平成25年12月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年5月14日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

(本願発明)
「主に半径方向に向けられた2つの主面(15)と主に軸方向に向けられた2つの側面(11)とが設けられた連続的な金属帯(10)を形成するための方法において、少なくとも個々の側面(11)の部分を含む、帯(10)の軸方向の側縁部分が溶融され、その後固化させられ、溶融された帯(10)の前記側縁部分が、帯(10)の半径方向厚さ(T)全体に亘って延びていることを特徴とする、方法。」

[2]引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された上記刊行物1の記載事項は、前記【2】[2]に記載したとおりである。

[3]対比・判断
本願発明は、本願補正発明の「変速機の駆動ベルトとしての又は変速機の駆動ベルトにおける」との記載を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに構成要件を限定したものに相当する本願補正発明が、前記【2】[4]に記載したとおり、引用発明、刊行物2の記載事項及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、刊行物2の記載事項及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[4]むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、刊行物2の記載事項及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-15 
結審通知日 2015-01-05 
審決日 2015-01-20 
出願番号 特願2009-543463(P2009-543463)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B23K)
P 1 8・ 121- Z (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 公一  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 石川 好文
三澤 哲也
発明の名称 金属帯を処理する方法、連続的な金属帯、及び金属帯が使用されるプッシュベルト  
復代理人 山崎 孝博  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 久野 琢也  

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