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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1301917
審判番号 不服2013-18908  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-30 
確定日 2015-06-10 
事件の表示 特願2011- 25235「試験方法の臨床的等価を判定するためのシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 5月 6日出願公開、特開2011- 90014〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成15年3月13日(優先権主張 2002年3月13日,米国(US))に出願した特願2003-68965号の一部を平成23年2月8日に新たな特許出願としたものであって,平成23年9月5日付で拒絶理由が通知され,平成24年3月9日に意見書及び手続補正書が提出され,同年5月31日付で拒絶理由が通知され,同年12月5日に意見書のみが提出され,平成25年5月20日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年9月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同時に,手続補正がなされ,平成26年7月9日に上申書が提出されたものである。

第2 平成25年9月30日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成25年9月30日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)平成24年3月9日提出の手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1の記載
「 【請求項1】
評価試験方法が基準試験方法と臨床的に等価であるかどうかを判定する方法であって,
複数のソースから取得した複数の試験体を用意するステップであって,前記複数のソースの各々について,複数の基準試験体と,1つの評価試験体とを用意するステップと,
前記複数のソースの各々について,前記複数の基準試験体に対する基準試験方法の結果を取得するステップと,
前記複数のソースの各々について,前記評価試験体に対する評価試験方法の結果を取得するステップと,
前記複数のソースの各々について,前記複数の基準試験体に対する前記基準試験方法の結果の間の差を平均することにより前記基準試験方法の変動のレベルを計算するステップと,
前記複数のソースの各々について,前記基準試験方法の結果と,前記評価試験方法との差を平均することにより,前記基準試験方法と前記評価試験方法との間の偏りを計算するステップと,
前記計算された変動のレベルおよび前記計算された偏りに基づいて,95%信頼区間を計算するステップと,
前記計算された95%信頼区間が所定の範囲内にある場合に,前記評価試験方法が前記基準方法と等価であると判定するステップと,
前記基準試験方法の結果,前記評価試験方法の結果,前記平均の偏り,前記変動のレベル,および等価の判定を一部に含むレポートを生成するステップと
を備え,
前記基準試験方法において使用される試験体および前記評価試験方法において使用される試験体は同一のソースからのものであることを特徴とする方法。」(以下,「本願発明」という。)

(2)平成25年9月30日提出の手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1の記載
「【請求項1】
評価試験方法が基準試験方法と臨床的に等価であるかどうかを判定する方法であって,
複数のソースから取得した複数の試験体を用意するステップであって,前記複数のソースの各々について,複数の基準試験体と,1つの評価試験体とを用意するステップと,
前記複数のソースの各々について,前記複数の基準試験体に対する基準試験方法の結果を取得するステップと,
前記複数のソースの各々について,前記評価試験体に対する評価試験方法の結果を取得するステップと,
前記複数のソースの各々について,2つの基準試験体に対する前記基準試験方法の結果の間の差を計算し,および,前記複数のソースの各々について計算された差を平均することにより,前記基準試験方法の変動のレベルを計算するステップと,
前記複数のソースの各々について,前記基準試験方法の結果と,前記評価試験方法との差を平均することにより,前記基準試験方法と前記評価試験方法との間の偏りを計算するステップと,
前記計算された変動のレベルおよび前記計算された偏りに基づいて,95%信頼区間を計算するステップと,
前記計算された95%信頼区間が所定の範囲内にある場合に,前記評価試験方法が前記基準方法と等価であると判定するステップと,
前記基準試験方法の結果,前記評価試験方法の結果,前記平均の偏り,前記変動のレベル,および等価の判定を一部に含むレポートを生成するステップと
を備え,
前記基準試験方法において使用される試験体および前記評価試験方法において使用される試験体は同一のソースからのものであることを特徴とする方法。」(以下,「補正発明」という。)

2 補正の適否(17条の2第3項の違反について)(下線は当審で付与した。)
本件補正は,補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「前記複数のソースの各々について,前記複数の基準試験体に対する前記基準試験方法の結果の間の差を平均することにより前記基準試験方法の変動のレベルを計算するステップ」を,「前記複数のソースの各々について,2つの基準試験体に対する前記基準試験方法の結果の間の差を計算し,および,前記複数のソースの各々について計算された差を平均することにより,前記基準試験方法の変動のレベルを計算するステップ」とする補正を含むものである。
そこで,本件補正が,特許法第17条の2第3項の規定を満たすものであるか否か,即ち,本件補正が,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内でなされたものであるかについて,本件補正において新たに補正された事項を含む上記補正された事項と,平成24年3月9日にされた手続補正において補正され,本件補正において依然として存在する補正された事項の2つの補正された事項について,以下に検討する。

(1)当初明細書等の記載事項

ア 上記2つの補正された事項に関する記載について,当初明細書等には,

(ア)
「【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態による方法およびシステムでは,上記の目的について対処され,他の利点が具体化される。本発明の一実施形態による方法は,基準方法での変動レベルを決定するステップと,基準試験方法および評価試験方法の結果における平均的な差を決定するステップと,基準の変動性レベルに対して2つの方法間の平均的な差を比較するステップと,この比較に基づいて,評価試験方法が基準方法と臨床的に等価であるかどうかを示すレポートを生成するステップとを含む。基準試験方法の結果と評価試験方法の結果との受入れ可能な差は,基準方法に関連付けられた基準試験データの2つのセットを比較することによって算出可能である。あるいは,受入れ可能な差はユーザにより定義可能である。レポートには,偏りに関する信頼区間(confidence interval)のプロット,修正済みの平均差プロット,正確さを表す第1の軸と精度を表す第2の軸とを有する変動性図(variability chart),最良適合回帰線を有する散布図,および関連付けられた統計,ならびに評価試験方法が基準方法と臨床的に等価であるかどうかに関する結論が含まれる。レポートにはさらに,合計統計表(summary statistics table),偏り信頼区間表,ユーザがオプションで入力した場合の許容偏り限度,およびすべての入力データを含む付録も含まれる。最終的に,本発明の一実施形態による方法では,基準試験方法および評価試験方法に関連付けられたデータを,ユーザがグラフィカルユーザインターフェースを通じて便利に識別することができる。」

(イ)
「【発明を実施するための形態】
【0013】
図面では,同じ番号は同じ構造および方法ステップを表すことを理解されよう。
【0014】
本発明の一実施形態による例示的システム100の構成図が,図1に示されている。システムは,試験データを格納するためのメモリ102を含むことが好ましい。メモリ102には処理装置104からアクセス可能である。処理装置104は,キーボードおよびマウスなどの入力デバイス106からの入力を受け取る。処理装置104は,たとえばモニタまたはプリンタであってよい出力デバイス108上に表示される出力も生成する。メモリ102は評価される試験データを格納することが好ましいが,本発明の一実施形態によりプログラムを実行するためのプログラム命令などの,他の情報を格納することもできる。データはユーザ入力デバイス106を介してメモリ102に入力することができるが,別法としてオプションの実験機器110が自動的に試験結果を格納することもできる。
【0015】
処理装置104は,メモリ102に格納された試験データを評価するように適合されたマシン命令のセットを実行する。試験データは,以下でより詳細に説明するように,一般のドナーセットでの様々な試験方法を使用して取得された試験結果に関する。データには,基準(対照:control)方法を使用する対象について少なくとも1つ,好ましくは2つの結果,および各評価方法について少なくとも1つの結果が含まれる。処理装置104は,評価試験方法が基準方法と臨床的に等価であるかどうかを判定する,一連の計算を実行するように適合される。この判定を実行するために処理装置が実施する計算およびステップについては,以下でより詳細に説明する。
【0016】
2つの基準試験方法結果と,1対象あたり2つの評価試験方法それぞれからの1つの結果とに関連付けられたデータの例示的セットが,付録Aに複写されている。図に示されるように,これらのデータはMicrosoft(登録商標)Excelなどのスプレッドシートプログラムに格納されることが好ましい。図に示されるように,データは列および行ごとに識別されたテーブルのセルに格納される。例示的テーブルの2?4行目には,試験名,各試験の結果に適した単位,および各試験の等価についてのユーザ定義限界値(受入れ可能偏り)を含む,試験に関する情報が含まれる。図に示されるように,限界値は,ナトリウムの場合の2mmol/L,またはパーセントでASTの場合の10%などのように,正確な量で表すことができる。
【0017】
さらに付録Aのテーブルに示されるように,6行目には,7行目以降のデータの各列についてのラベルが含まれる。列Aにはドナーの数が含まれ,列Bには試験方法における主な変数(採血管タイプ)が含まれ,列Cにはナトリウムについての試験結果が含まれ,列DにはASTについての試験結果が含まれ,列Eにはトリグリセリドについての試験結果が含まれる。この調査で使用される採血管には,Serum,SST(商標),およびSST II(商標)の3つのタイプがあった。さらに付録Aの例示的テーブルから観察できるように,30のドナーからの検体が試験され,各ドナーは3つの分析物,ナトリウム,AST,およびトリグリセリドについて試験された。各ドナーについてSerumタイプの管で2つ,SST(商標)およびSST II(商標)の管でそれぞれ1つずつと,4つの血液検体が抜き取られ,各検体で3つの分析物がそれぞれ測定される。2つの検体がSerum管で抜き取られ,この場合これが基準または対照方法であるとみなされた。1つの検体が,それぞれ2つの評価機器で抜き取られた。したがって,各ドナーについて結果は12(各分析物について4つ)となった。」

(ウ)
「【0025】
次に,本発明の一実施形態による方法について,図3の流れ図に関して説明する。ステップ300で基準方法が実行される。基準方法からの観察内容が302で記録される。基準方法は,評価方法との比較のための偏りを形成する。基準方法は少なくとも2回実施され,その両方の基準方法の観察内容が記録されることが好ましい。この方法では,同じ方法を連続して実行した場合の変動性を測定することができる。ステップ304で評価方法が実施され,観察内容が306で記録される。観察内容は,統計分析プログラムによって実行される計算データへのアクセスを容易にするために,Microsoft(登録商標)Excelワークシートなどのテーブルに記録されることが好ましい。複数の評価方法を実施し,記録することが可能である。本発明の一実施形態によれば,任意数の評価方法が同時に評価できるので有利である。」

(エ)
「【0027】
さらにインターフェース200では,所望の平均差限界値計算のタイプが312で選択される。使用可能なタイプには,Replicated Control Calculation 214,Bland Altman 216,Given Variability 218,およびNo Control Limits 220がある。定数CV 222または定数SD 224も選択される。Replicated Control Calculation 214が選択されている場合,統計プログラムは,少なくとも2つの基準データセット間での変動性に基づいて,評価データ内での受入れ可能な変動性を計算した。Bland Altman 216は,Bland Altman平均差計算を選択する。Given Variability 218は,ユーザが受入れ可能な変動性を選択できるようにするものである。最後に,No Control Limits 220は,ユーザが対照制限なしに計算セットを選択できるようにするものである。」

(オ)
「【0030】
ユーザが実行できる様々な選択に適した一連の数式が,付録BおよびCに記載されている。付録Bは,Correlation Plot 234での勾配および切片の決定に関連付けられた数式セットを示すものである。計算タイプ,基準データセットおよび評価データセットの種類および数,ならびに選択された変動タイプの様々な組合せについて,様々な数式が提供される。付録Cは,Chevronプロットデータを生成するのに使用される数式セットを示すものである。Chevronプロットについては,図4に関して以下でより詳細に説明する。
【0031】
ステップ318で,システムは統計分析に基づき,評価方法が基準方法と臨床的に等価であることを評価データが示すかどうかを判定する。最後にステップ320で,評価方法が臨床的に等価であるかどうかをレポートする結論と共に,選択された出力が生成される。
【0032】
次に,様々な出力について説明する。説明する出力は,付録Aのテーブルにおいて提供されるサンプルデータに基づいたものである。完全なサンプルレポートは付録Dに複写されており,このレポートには,付録Aに示された基準方法および評価方法で試験された3つの分析物それぞれについて,前述の説明に記載されたそれぞれの出力タイプが含まれる。簡略化するために,出力はそれぞれ,3つの分析物のうちの1つであるASTに関して1回ずつ説明する。
【0033】
図4は,ユーザインターフェース200のConfidence Limits for Bias 228をチェックすることによって選択された,Confidence Limits for Bias出力を示す図である。図4に示された出力は,各ドナーについて,ならびに各基準試験方法および評価試験方法について試験された分析物ASTに対応する。偏りの95%信頼区間は,基準方法または機器と評価方法または機器とを使用して取得される結果の平均偏りまたは差に関して可能な値の実現可能範囲を与えるものである。したがって,SST(商標)管とSerum管との間でASTにおける偏りの95%信頼区間が(5%,8%)の場合,95%信頼は,真の差が5%から8%の間のどこかにある。SST(商標)およびSST II(商標),それぞれの評価方法についての信頼区間が,指定された10%限界内に完全に収まるように示されており,評価機器および基準機器の間の等価を示している。」

(カ)
付録Dには,表7に「結論 本表は,各処理および分析物に関する結論をまとめたものである。等価は,観察された偏りと平均偏りに与えられた基準に基づくものである。平均偏りの95%信頼限界が基準内であれば,評価は対照と等価である。」と記載されている。

(2)本件補正において新たに補正された事項を含む「複数のソースの各々について,2つの基準試験体に対する前記基準試験方法の結果の間の差を計算し,および,前記複数のソースの各々について計算された差を平均することにより,前記基準試験方法の変動のレベルを計算するステップ」(以下,「発明特定事項1」という。)について検討する。

ア 当初明細書等には発明特定事項1そのものの記載はなく,基準試験方法の変動のレベルを計算することに関連する記載としては,上記(1)ア(ア)に摘記した下線部分においては「基準試験方法」の「変動のレベル」を決定するステップが存在すること,この「基準試験方法の変動のレベル」が「基準方法に関連付けられた基準試験データの2つのセットを比較することによって算出可能」であることが,上記(1)ア(イ)の下線部分からは,付録Aには,2つの基準試験方法と,1対象あたり2つの評価試験方法のそれぞれの試験結果が関連付けられた試験結果データが記載されていることが,上記(1)ア(ウ)の下線部分からは「基準試験方法」が「少なくとも2回実施される」こと,それにより「同じ方法を連続して実行した場合の変動性を測定することができる」ことが,さらに,上記(1)ア(エ)の下線部分からは「統計プログラム」を用いて「少なくとも2つの基準データセット間での変動性に基づいて」,「評価データ内での受入れ可能な変動性を計算する」ことが,各々読み取れるのみであるから,当初明細書等においては,「少なくとも2つの基準試験方法」の試験結果を「統計プログラム」を用いて「変動性」を計算するものであることは読み取れるものの,その「変動性」を具体的にどのように計算するのかについては何ら記載されていないから,「2つの基準試験方法」における「変動レベル」の具体的な計算方法(例えば2つの基準試験方法の結果の差を計算することなど)が読み取れるものでもない。
また,上記(1)ア(オ)の下線部分において説明されている付録BないしDをみても,付録Bには「制限」,「対照」,「評価」,「変動」,「制限切片,勾配」という各項目についての表が記載され,付録Cについても「制限切片,勾配」にかえて,「Chevron評価」とされた各項目について同様の表が記載されているが,発明の詳細な説明における当該表に関する説明は,「ユーザが実行できる様々な選択に適した一連の数式である」旨が説明されているのみであって,当該表を用いて,「基準試験方法」が2回実施される場合において,その変動性をどのように計算するかについては何らも記載されていないから,「2つの基準試験方法」における「変動レベル」の具体的な計算方法が読み取れるものでもない。
そして,付録DについてもSSTとSSTIIとSerumとの比較を30の対象を使用して行った結果をまとめたものが記載されているのみであって,これにより,「2つの基準試験方法」における「変動レベル」の具体的な計算方法が理解できるわけでもない。

イ 上記のとおり,当初明細書等には,「複数のソースについて,2つの基準試験体に対する前記基準試験方法」の変動レベルを計算することが記載されているといえても,変動レベルをどのように計算するのかが具体的に記載されていないのであるから,「複数のソースについて2つの基準試験体に対する前記基準試験方法の結果の間の差を計算し」「複数のソースの各々について計算された差」を「平均すること」により「基準試験方法」の「変動レベル」を求める点について当初明細書等に記載されているとはいえない。
また,「変動レベル」を評価するにあたり,その方法は様々なものが存在するのであるから,当初明細書等に記載された事項から,この点が自明であるともいえない。

ウ 審判請求人は,発明特定事項1の補正の根拠として,審判請求の理由において,当初明細書等の段落【0010】,【0015】及び【0016】の記載を,また,平成26年7月9日付けの上申書において,段落【0027】の記載及び付録AないしDを挙げるが,当該記載から発明特定事項1が読み取れるものではなく,またそれらの記載から発明特定事項1が自明のものでないことは上記で検討したとおりである。

したがって,発明特定事項1は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において,新たな技術事項を導入しないものでない。

(3)平成24年3月9日にされた手続補正において補正され,本件補正において依然として存在する補正された事項である「計算された変動のレベルおよび前記計算された偏りに基づいて,95%信頼区間を計算するステップ」(以下,「発明特定事項2」という。)は,以下の第3 3(2)で検討するとおり,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において,新たな技術事項を導入しないものでない。

(4)以上検討したように,補正された発明特定事項1及び2は,いずれも当初明細書等に記載した事項の範囲内のものとはいえない。
よって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年法改正前」という。)の特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

3 まとめ
以上のとおり,本件補正は,平成18年法改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?18に係る発明は,平成24年3月9日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?18に記載された事項により特定されたものであって,その請求項1に係る発明は,上記第2 1(1)に記載したとおりであると認める。

2 原査定の拒絶の理由の概要
平成24年5月31日付の拒絶理由通知書及び平成25年5月20日付でなされた拒絶査定によれば,原査定の拒絶の理由の概要は,平成24年3月9日付けでした手続補正(以下,「本願補正」という。)は,以下の2点で当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないので,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないというものである。
(1) 「前記複数のソースの各々について,前記複数の基準試験体に対する前記基準試験方法の結果の間の差を平均することにより前記基準試験方法の変動のレベルを計算(する)」ことは,当初明細書等に明示されている事項とも,自明な事項とも認められない点。

(2) 「前記計算された変動のレベルおよび前記計算された偏りに基づいて,95%信頼区間を計算(する)」ことは,当初明細書等に明示されている事項とも,自明な事項とも認められない点。

3 当審の判断
(1) 本願発明の本願補正により補正され発明特定事項として記載された「前記複数のソースの各々について,前記複数の基準試験体に対する前記基準試験方法の結果の間の差を平均することにより前記基準試験方法の変動のレベルを計算(する)」こと」(以下,「発明特定事項1d」という。)について検討する。

ア 当初明細書等には,上記第2 2 (1) ア で摘記した記載事項が記載されている。

イ 上記第2 2 (2)で検討したように,当初明細書等には,「複数のソースについて,2つの基準試験体に対する前記基準試験方法」の変動レベルを計算することが記載されているといえても,変動レベルをどのように計算するのかが具体的に記載されていないのであるから,「複数のソースについて複数の基準試験体に対する前記基準試験方法の結果の間の差を計算し」「複数のソースついて計算された差」を「平均すること」により「基準試験方法」の「変動レベル」を求める点について当初明細書等に記載されているとはいえない。
また,「変動レベル」を評価するにあたり,その方法は様々なものが存在するのであるから,当初明細書等に記載された事項から,この点が自明であるともいえない。

ウ なお,審判請求人は,発明特定事項1dの補正の根拠として,平成24年12月5日提出の意見書において,当初明細書等の段落【0027】の記載及び付録Aを挙げるが,当該記載から発明特定事項1dが読み取れるものではなく,またその記載から発明特定事項1dが自明のものでないことは上記第2 2 (2)で検討したとおりである。

したがって,発明特定事項1dは,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において,新たな技術事項を導入しないものでない。

(2) 本願発明の本願補正により補正された事項である「発明特定事項2」について検討する。

ア 当初明細書等には,上記第2 2 (1) ア で摘記した記載事項に加えて
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価試験方法が基準試験方法と臨床的に等価であるかどうかを判定する方法であって,
基準方法を使用し,複数のソースの各々からのサンプルを使用して取得された結果における変動レベルを判断するステップと,
前記基準方法から生じた結果および該基準方法から生じた結果の変動レベルに関し,前記複数のソースの各々からのサンプルに対する標準化された偏りを判断するステップと,
前記標準化された偏りから平均の偏りを取得するステップと,
前記標準化された偏りから,前記平均の偏りの変動性を判断するステップと,
前記基準方法の変動性の範囲内で発生する前記評価試験方法から生じた結果の割合を繰り返し計算するステップと,
前記計算された割合が95%以上である場合に,前記評価試験方法が前記基準方法と等価であると判定するステップと,
前記基準方法の結果,前記評価試験方法の結果,前記平均の偏り,前記変動性,および等価の判定を一部に含むレポートを生成するステップとを備え,
前記基準方法において使用されるサンプルおよび前記評価試験方法において使用されるサンプルは同一のソースからのものであることを特徴とする方法。」

(イ)「【0005】
どんな試験手順にもある程度の変動性がある。試験データを分析することにより,試験結果の変動性を測定することが可能である。さらに,新しい試験手順または方法が,平均して「基準(reference)」試験手順とは異なる結果を与える場合がある。この平均の差が偏り(bias)と呼ばれる。新しい試験手順と基準方法との間の偏りが十分小さく,新しい手順を使用した結果の変動性が古い試験手順の変動性より大きくない場合は,新しい試験手順が古い試験手順と臨床的に等価であるとみなすことができる。現在,試験方法を評価および妥当性検査するための専門ソフトウェアが市販されている。ただし,既存のソフトウェア製品はいくつかの点で不十分である。」
と記載されている。

イ 当初明細書等には発明特定事項2そのものの記載はなく,95%信頼区間を計算することに関連する記載としては,第2 2 (1) ア(オ)に摘記した段落【0033】の下線部分において,「偏りの95%信頼区間」について「取得される結果の平均偏りまたは差に関して可能な値の実現可能範囲を与えるものである」と「偏りの95%信頼区間」の性質について記載されていることが読み取れ,
上記第2 2(1)ア(カ)の下線部分からは,付録Dの表7には「平均偏りの95%信頼限界が基準内であれば,評価は対照と等価である。」と「平均偏りの95%信頼限界」の使い方について記載されていることは読み取れるものの,「偏りの95%信頼区間」及び「平均偏りの95%信頼限界」を具体的にどのように計算するのかについては記載されていないから,「計算された変動のレベル」および「計算された偏り」に基づいた,「95%信頼区間」の具体的な計算方法が読み取れない。
また,上記ア(ア)の下線部には,「計算された割合が95%以上ある場合」との記載があるが,「計算された割合が95%以上である場合」に,「前記評価試験方法が前記基準方法と等価であると判定する」ものであり,「変動のレベル」および「偏り」に基づいて「95%信頼区間」を計算するものではないし,上記ア(イ)に摘記した段落【0005】には「95%信頼区間」についての記載はない。
さらに,第2 2(1)ア(イ)に摘記した段落【0017】の下線部分において説明されている付録Aについては,「ドナー」,「管」,「ナトリウム」,「AST」,「トリグリセリド」という各項目についてのデータのテーブルが記載されており,第2 2(1)ア(オ)の下線部分において説明されている付録BないしCについては,第2 2(2)アで記載内容を説明しているように,それぞれ表が記載されているが,当該表を用いて,「計算された変動のレベル」および「計算された偏り」に基づいて「95%信頼区間」を計算することについては何らも記載されていないから,「計算された変動のレベル」および「計算された偏り」に基づいての「95%信頼区間」の具体的な計算方法が読み取れるものでもない。
してみると,当初明細書等の記載から「95%信頼区間」を「計算された変動のレベル」および「計算された偏り」に基づいて計算することが読み取れないのであるから,発明特定事項2は当初明細書等に記載されているとはいえないし,当初明細書等に記載された事項から自明であるともいえない。

ウ なお,審判請求人は,発明特定事項2の補正の根拠として,平成24年12月5日提出の意見書において,当初明細書等の段落【0005】,【0025】の記載及び付録Dを挙げ,平成26年7月9日付け上申書において,当初明細書等の段落【0033】,(当審注:上申書中に段落【0032】とあるのは,段落【0033】の誤記であるとして記載した。)の記載及び付録A?Dを挙げるが,当該記載から発明特定事項2が読み取れるものではなく,またその記載から発明特定事項2が自明のものでないことは上記イで検討したとおりである。

以上のとおりであるから,発明特定事項2は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において,新たな技術事項を導入しないものでない。

(3) 上記(1)及び(2)で検討したように,発明特定事項1d及び2は,いずれも当初明細書等に記載した事項の範囲内のものとはいえない。
よって,本願補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないので,平成18年法改正前特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

第4 むすび
本願の明細書,特許請求の範囲についてした補正は,平成18年法改正前の特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
したがって,本願は,特許法第49条第1号に該当するものであるから拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-08 
結審通知日 2015-01-13 
審決日 2015-01-27 
出願番号 特願2011-25235(P2011-25235)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (G01N)
P 1 8・ 56- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷 潮  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 信田 昌男
渡戸 正義
発明の名称 試験方法の臨床的等価を判定するためのシステムおよび方法  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  
復代理人 窪田 郁大  
復代理人 濱中 淳宏  

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